2023 Volume 32 Issue 1 Pages 45-49
間質性肺炎診療において,薬物療法に加えて非薬物療法である酸素療法や呼吸リハビリテーション,栄養療法,口腔ケア,緩和ケア,医療ソーシャルワーカーなどの介入が求められる.これらを包括的にまとめていくためには,多職種連携が必要不可欠であり,定期的なミーティングを行うことにより様々な情報を共有し,急性期から慢性期(緩和期)まで時期を問わず,個々の患者に最適な診療介入を行うことが可能になる.このような多職種連携を成功させるためには,1)情報共有,2)タスクシフト・シェアリング,3)包括的ケアシステムの構築,などがあげられる.
そこで今回,間質性肺炎診療における多職種連携の意義と無駄のない円滑な医療提供について述べたい.
間質性肺炎(interstitial pneumonia; IP)は,一般に慢性かつ進行性に線維化病変が悪化していく疾患で,原因不明の特発性から100種類以上の原因から生じるものまで多種多様な病態が存在する.経過は様々だが根治,完治が難しいことが多く,その場合,進行を遅らせる事が治療目標となる1).
IPの診療において,医師のほか,看護師,理学療法士,作業療法士,栄養士,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー(medical social worker; MSW)らとの多職種連携が必要不可欠である.多職種での定期的なミーティングを行うことにより,IPの病態や病状,患者の性格,生活環境,家族構成などを共有することができる.急性期および慢性期を問わず,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を導入し,口腔ケアや栄養療法を併用すること,さらに終末期の患者においては,緩和ケアを提供することにより,無理のない患者に優しい介入が行われている.このようにIP診療においては,IPの種類,重症度,介入時期,治療内容,合併症などに合わせた最適で個別化された診療プログラムの普及が求められる.
IP診療において,最も大きな課題は,迅速な診断プロセスの確立である2).わが国だけでなく諸外国においても同様の課題があげられており3),診断の遅延が予後も悪くしている4,5).我が国においては,健診で撮影される胸部レントゲン写真で注視される疾患は肺癌などの悪性疾患であり,肺気腫やIPなどの既存肺の変化が指摘されない場合も見受けられる.たとえ患者に息切れや咳嗽などの呼吸器症状がみられても,患者自身が自分の年齢のせいや喫煙しているからと決めつけてしまい,医療機関に受診しない場合や,主治医がIPを鑑別疾患にあげない場合などによって診断遅延が生じてしまう.さらに,地域の基幹病院に受診できてもIPの専門医が不在などの理由で適切な判断が下されず,専門病院や大学病院に紹介されるまでに,症状出現からかなりの年数が経過し,最重症例として紹介されるケースも散見されるのが実情である(図1).したがって,我々のようなIP診療を専門とする施設がリードを取って,地域におけるIP診療の啓蒙活動を強化し,密な医療連携を図ることによって,IPの早期診断および早期治療につながるものと考える.
当院でのIP診療は,大きく精査入院と治療目的での入院に分けられる.具体的な精査入院の流れは図2に示すが,IP診療に必要不可欠な検査項目を網羅していると思われる.当院では6分間歩行試験,筋力測定やQOL(quality of life)などはリハビリテーション科の理学療法士,作業療法士らが担当している.また,該当患者においては,気管支肺胞洗浄検査や胸腔鏡下肺生検を積極的に行っている.さらに,初診外来では限られた時間内での患者及び家族への説明も,精査入院中であればしっかりと時間を確保して,十分に理解してもらうことが可能であり,我々臨床医が最も力を注がなければならない場面と考える.また,診断過程でIPに精通した臨床医,放射線画像診断医,病理医による集学的協議(multidisciplinary discussion; MDD)が重要とされている1).しかしながら,このMDDを自施設内のみで行うことは一般的に困難であり,施設外の各専門医との協力によって,対面あるいはオンライン上で行うことが必要となる.
DLco; diffusing capacity of lung for carbon monoxide, HRCT; high-resolution computed tomography, SpO2; saturation of percutaneous oxygen, QOL; quality of life, SGRQ; St. George’s respiratory questionnaire, HAD; hospital anxiety and depression, IC; informed consent, VATS; video-assisted thoracic surgery
一方で,薬物治療,在宅酸素療法や呼吸リハ導入,緩和ケアなどの目的で入院する場合には,後述するように当院では各医療スタッフが医師の指示のもと,情報共有,業務の移管・共同実施(タスクシフト・シェアリング)しながら目的を達成するようにしている.これらの取り組みの結果,各医療スタッフの能動的な役割実施と患者のトリアージが徹底され,少人数のスタッフでも業務の最大限の効率化を図ることができ,円滑で無駄のないIP診療を可能にしている.
2. IP診療を支える多職種連携2010年厚生労働省におけるチーム医療の推進に関する検討会報告書には,『チーム医療とは,医療に従事する多種多様な医療スタッフが,各々の高い専門性を前提に,目的と情報を共有し,業務を分担しつつも互いに連携・補充し合い,患者の状況に的確に対応した医療を提供すること』と明記されている6).当院では2018年以降,IP診療におけるチーム医療の必要性について各部署での検討・調整が行われ,間質性肺炎・肺線維症センターを中心とした多職種連携の構築に着手するに至った.現在,当院におけるIP診療の具体的な多職種業務とは,リハビリテーション科と連携した理学療法士ならびに作業療法士による呼吸リハ,管理栄養士や栄養サポートチームによる栄養指導,歯科衛生士による口腔ケア,緩和ケア内科と連携した緩和ケア,主に看護師および薬剤師によるタスクシフト・シェアリング,MSWによる社会福祉的な患者・家族へのサポートなどがあげられる.図3に急性増悪を合併したIP患者の入院から退院までの我々の連携を図示したが,このようなプロセスが軸となって,日々の臨床を行うことにより,医師だけでなくその他の医療スタッフの医療人としての意識付けや責任感が生まれてくるものと感じている.
急性増悪時から介入する急性期の呼吸リハ,慢性期から介入する呼吸リハと,いずれもIP患者にとっては必要な介入タイミングである7).自宅退院が可能な患者に対しては,看護師やMSWらと連携して生活環境や家族の協力などの詳細な情報を共有し,コロナ禍のために以前よりも外来リハビリテーションの介入が減少したものの,自宅で施行可能な自主トレーニング(図4)を作成し継続してもらっている.内容としては,コンディショニング調整(リラクセーション,呼吸練習),呼吸体操,上下肢筋力増強運動(自重力又は重錘を使用),身体活動量の評価(歩数)などであり,このようなセルフマネジメントが継続的に行えるように患者教育を行う事が重要な点である.
IPは,咳嗽,労作時の息切れ,易疲労などによりエネルギー量の需要が増大しているため,体重減少や筋力低下を招きやすい状態にある.そのため十分な栄養が必要となるが,一部のIP患者は食事摂取量の確保が難しく,低体重やサルコペニアの悪化を招く8).
そこで,食事量は変えずエネルギー量を増加させる事,呼吸リハによる運動療法と併用して食事からの筋力維持・増強を目的に,当院オリジナルの食事(IP食)の導入を開始している.食事内容としては,主食にはMCT(medium chain triglycerides)オイル・MCTパウダーを混ぜてエネルギー付加,補助食品はBCAA(branched chain amino acid)が強化された物を使用し,リハビリ後の栄養補給とした(図5).導入基準は①BMI(body mass index) 22 kg/m2以下,②血中アルブミン値3.5 g/dL以下,③体重減少率を(通常体重-現体重)/通常体重×100で試算し,1週間で2%≧,1ヶ月で5%≧,3ヶ月で7.5%≧,6ヶ月で10%≧とし,上記①②③の項目いずれか1つが該当する場合とした.提供時および退院時には患者への栄養指導を行い,栄養強化についての理解を深めることで,呼吸リハ同様に患者のセルフマネジメントを重視している.運動療法にIP食による栄養強化を行った結果,導入症例の多くが,BMI,血中アルブミン値,血中ヘモグロビン値,骨格筋量の改善を認めており,IP患者における運動療法と栄養療法の併用効果を実感している.
IPに対する薬物治療では,ステロイドや免疫抑制薬を使用する場合が多く,口腔カンジダ症の合併が多い.歯科衛生士は入院後3日以内に介入しており,当院のこれまでのデータでは,口腔カンジダ症を疑う合併症を発症した患者は35%,発症しなかった患者は65%であった.発症要因は口腔乾燥85%で最も多く,ステロイド大量療法後が68%,口腔清掃不良が46%であった.口腔環境の悪化が多く見られていたため,現在ではアズレンスルホン酸ナトリウム水和物の処方を入院初日から導入しており,口腔環境の意識づけのためのパンフレットを用いて,患者のセルフマネジメントを繰り返し継続して指導することにより,セルフケアが困難であった患者も,自身で口腔の保清を行えるようになっている.その結果,口腔カンジダ症の合併および再発率は明らかに低下している.
4) 緩和ケア2020年10月より,非がん患者にも提供できる緩和医療をコンセプトに,当院では非がん緩和ケア病床を開設し,非がん緩和ケアのチームを立ち上げて緩和ケア内科と連携した.がん患者の緩和医療のノウハウをベースに慢性進行性に悪化して強い息切れ等で日常生活が大きく障害されているIP患者に対しても,積極的にモルヒネや向精神薬等の導入を行っている7).なお,「非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021」において,オピオイドは,適切な標準治療を実施しても十分に緩和できない呼吸困難に対する治療の選択肢として言及されている9).また,終末期の呼吸リハは,コンディションの調整,残存機能でのADL(activities of daily living)改善,家族指導が中心であり,QOLの維持向上を図った.このように間質性肺炎・肺線維症センターと緩和ケア内科との連携することにより,終末期のIP患者を最期までケアすることを可能にした.
5) 看護師および薬剤師によるタスクシフト・シェアリング当院では看護師外来を積極的に導入しており,我々医師の診察前に患者あるいは家族の訴えに耳を傾けて,以下の点に関して細やかに対応してもらえることは,外来診察の質を上げる点においても大変有用であると考える.
① 疾患や治療理解の支援
② 検査の理解や不安への支援
③ 多職種介入の検討および調整
④ 在宅酸素療法の療養生活支援
⑤ 意思決定支援
⑥ 呼吸困難などの身体的苦痛緩和の評価
⑦ 終末期への不安や恐怖への心理的支援など
このように看護師外来の役割りは多岐に及んでおり,そのため担当看護師の育成は容易ではない.
一方で,薬剤師外来も重要であり,進行期のIP患者においては,多種多様な薬剤が導入されており,薬剤の副作用だけでなく,相互作用にも注意を払わなければならない.服薬状況や他院処方薬の確認,副作用対策の薬剤提案,保険薬局への情報提供書作成などを行う.さらに,ステロイドや免疫抑制薬を服用している患者においては,口腔カンジダ症の合併もチェックしており,疑いがあれば歯科衛生士,薬剤師と共同作成した口腔カンジダ症薬物治療プロトコール(図6)に従って,主治医に薬剤提案をしている.また,病棟薬剤師においては,処方支援入力(代行入力),服薬管理,服薬・吸入指導などに力を入れて入院診療のサポートを積極的に行っている.
このように,看護師および薬剤師外来に支えられて,我々医師は効率かつ安心して外来および入院診療を行うことができる.
6) MSWによる患者・家族へのサポートMSWは患者が抱える問題を解決するために,様々な支援に関与している.患者や家族の相談業務に加え,関係機関との調整や連携,経済面では公的支援制度(難病医療費助成制度,身体障害者手帳,介護保険制度)などの紹介や手続きのサポートを行う.これはIP診療における全人的医療,院内および地域での包括的ケアシステムの構築において,中心的役割を果たすといっても過言ではない.当院では彼らの働きと周囲との連携によって生活環境,社会的・経済的問題を可能な限り解決するようにし,患者のあらゆる負担に対応するように心がけている.
IP診療を支えるのは多職種の円滑な連携であり,包括的にまとめていく作業が必要不可欠である.多職種のスタッフたちが,様々な情報を共有し,タスクシフト・シェアリングにより最大限の効率化を図ることにより,急性期から慢性期(緩和期)まで時期を問わず,個々の患者に最適な診療介入を行うことが可能になると考える.
杉野圭史;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム社)