The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Symposium
Self-management support for exercise tolerance and physical activity in patients with chronic respiratory disease
Chiho Kobayashi
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2024 Volume 32 Issue 2 Pages 116-120

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要旨

慢性呼吸器疾患患者の呼吸困難は,運動耐容能や身体活動性の低下に影響を及ぼすことから,呼吸困難への対処と身体活動性を低下させることなく療養生活を送るために必要なセルフマネジメント支援が求められる.また,セルフモニタリングはセルフマネジメントに不可欠な要素であり,看護師は患者とともに症状の程度や体調の変化を確認すると同時に,情緒面への関わりを行いながら,より良いセルフマネジメントに繋げていくことが重要である.さらに,看護師は患者がどの程度の運動能力をもち活動をしているかを把握する必要性があり,運動能力及び身体活動度が低下している患者に対しては,呼吸困難等の症状に対する支援を優先的に行い,個別の症状や身体機能に応じた介入が求められる.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)患者における身体活動性(physical activity; PA)は,患者のQOLや予後に影響を及ぼす因子であることが知られており1,2,3,COPDの診断と治療のためのガイドライン2018では,PAの向上及び維持が管理目標として示されている4.そのため,COPD患者に対する療養支援では,運動能力の評価と呼吸困難の程度や運動耐容能に応じたPAの評価を行い,PAの向上及び維持を促すための介入が求められる.一方で,COPDは労作時の呼吸困難が特徴的な症状であり,呼吸困難は身体活動量へ影響を及ぼす因子の一つであると報告されている5.そのため,重症COPD患者では,強い呼吸困難により運動耐容能やPAは低下し,その改善に苦慮することが多い.COPD患者への療養支援においては,労作時に生じる呼吸困難への対処や,その時の健康状態に合わせた生活の調整など,セルフマネジメント支援が重要となる.

本稿では,COPD患者の運動能力及び身体活動に対するセルフマネジメント支援における看護師の役割と療養支援について事例を交え説明する.

セルフマネジメントにおける課題

慢性呼吸器疾患患者におけるセルフマネジメントの課題として,健康上の問題に対処するために様々な療養法の実行が求められ,患者は疾患への適応や身体的な制約に対する調整をしなければならない.また,通常の生活を送るために,症状や治療との折り合いや役割の変更等を余儀なくされるほか,セルフケア行動の習慣化といった課題がある.そして,病気がもたらす変化,症状,それに伴う喪失体験などから,感情の調整などを行わなくてはならず,これらの課題は病気とともに生きていく上で生涯にわたって取り組む課題となる6.慢性呼吸器疾患患者の呼吸困難は,日常生活に影響を及ぼすため,呼吸困難に対する対処としてセルフマネジメントを実行し,PAを低下させることなく療養生活を送ることができるよう支援が求められる.

セルフマネジメント支援

セルフマネジメントの主体者となる患者の能力は様々な要因によって影響を受けており,呼吸困難から派生し,身体的要因,社会的要因,心理的要因以外にも生きる目的や意味,価値観,スピリチュアリティーなどの影響を受けると報告されている7.看護師はこれらの影響要因をアセスメントし,身体的要因の一つである呼吸困難に対し優先的な介入を行い,症状を和らげることが重要である.また,患者ととともに体の調子を診たり触ったりしながら,自己の体調に関心をもち取り組んでいただくよう情緒的な介入が求められる.看護師は,患者自らが健康管理を適切に実践し,増悪を招くことなく運動耐容能に応じた生活を送ることができるよう継続的な支援が求められる.

セルフモニタリング

セルフモニタリングについてWildeらは,「自らの健康や疾病を適切に管理するために,病気の症状や身体感覚を定期的に測定したり,記録したり,観察して認識すること」と定義し,セルフマネジメントはより良いセルフモニタリングにより改善する8と述べている.

慢性呼吸器疾患患者のセルフモニタリングに関する先行文献は見当たらず,今後の報告が待たれるところである.そこで,同じ慢性疾患である心不全患者のセルモニタリングの概念について報告があったため紹介する.

心不全患者のセルフモニタリングとは,「身体症状の変化」,「身体活動の変化」,「体調管理の状況」を主観的な「自覚」と客観的な「測定」により把握し,それらの情報から自らの病状を「解釈」することで,慢性経過であるがゆえ,見えにくい心不全の病状変化を,身体症状と身体活動の変化で捉えながら,自らの体調管理の状況を確認することが示されていた9図1).この報告を参考に,慢性呼吸器疾患患者の身体活動に関連したセルフモニタリングを検討する(図2).患者は先行要因として,身体活動や息切れへの対処に関する情報を得ることが大切である.そして,体調管理の状況では歩数計や息切れの程度を測定し客観的に状態を知ることが大切である.身体症状の変化では,活動することによる気づき,起こる症状や,その影響を自覚し,それらの意味を解釈することで,身体活動量の向上と維持につなげ,セルフマネジメントの改善に結びつくと考える.さらには,目標の設定やアクションプランによる対処法を明確にして,成功体験を積み重ね自己効力感を高めることで,よりよいセルフマネジメントにつながると考える.今戸らは,息切れを経験し始めた時期から,継続的に患者が実践していることを医療者が一緒に振り返りつつ,その効果の確認や意味付け,さらなるマネジメント法の調整を行うことが重要であると述べている10.以上のことから,COPD患者に対する療養支援として,歩数計等を用い,COPD患者のPAの実際を知ることは,日常生活における活動を客観的に把握し,患者と共有することで,呼吸困難にともなう日常生活への影響とマネジメントについて話し合う機会を得ることができると考える.そして,セルフモニタリングとして,患者自身がPAを測定することは,具体的数値を持った目標を設定しやすいほか,患者が自らの生活を振り返るきっかけとなる.

図1 心不全患者のセルフモニタリングの概念分析

図2 慢性呼吸器疾患患者の身体活動に関連したセルフモニタリング

*心不全患者のセルフモニタリングの概念分析12)を元に著者改変

看護師の立場から療養支援を考える

運動能力と身体活動度は関連しているものの,異なる身体機能を表しており,疾患の程度や身体機能のほかにも,環境や情緒面等,様々な要因による影響を受けることが知られている.慢性呼吸器疾患患者の運動能力及び身体活動度の向上と維持に向けた療養支援において,看護師は患者がどの程度の運動能力をもち,活動をしているのかその実態を知ることは,療養支援において重要であると考える.COPD患者の運動能力及び身体活動の実態に関する報告では,運動能力をもち運動が「できるorできない」,活動を「するorしない」の4つのタイプについて報告されている11.この4つのタイプに対する療養支援のあり方の一例として,「運動ができ,活動もする」タイプでは,個々の対象に合わせた目標の設定を相談しながら,取り組みやその効果を言語化し伝え,称賛していくことが大切であると考える.次に「運動はできないが,活動する」タイプには,上述の支援に加え,日常生活状況を確認しながら,自覚症状の有無に関わらず酸素飽和度の低下や酸素負債が生じていないかを評価する必要性がある.そして,「運動できるが,活動しない」タイプでは,活動を妨げる要因についてアセスメントし,セルフマネジメントに必要な情報を提供し,結果予期及び効力予期を高める支援が必要となる.最後に,「運動できない,活動しない」タイプでは,症状への対処が最優先されなければならず,呼吸困難等の自覚症状が日常生活にどのような影響を及ぼしているか,また症状に対してどのように対処しているかをアセスメントし,個別の症状や身体機能に応じた支援が求められる.次に示す事例では,COPDの進行による呼吸困難から,運動能力及び身体活動も徐々に低下しているA氏に対する看護介入を紹介する.

事例紹介

呼吸困難が強く身体不活動に陥ったCOPD患者の事例を紹介する.

A氏,80歳代男性,COPD,妻とふたり暮らし,子供は1人で県外在住.

呼吸機能検査は,%VC 67.4%,FEV1/FVC 33.88%,FEV1 0.62 L.在宅酸素療法(home oxygen therapy; HOT)と非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation; NPPV)を行っていた.酸素療法は鼻カニュラ(4 L/分)で吸入しており,入院以前の日常生活動作(activity of daily living; ADL)は自立していたが,入院後は呼吸困難が強く活動意欲は低下し,ベッド上での生活となってしまった.A氏は呼吸困難について,日常生活のあらゆる動作で呼吸困難が生じ,「息が吸えなくなる感覚がある」と認知し,高まる呼吸困難に対して病気の進行を実感していた.呼吸困難に対する反応として,呼吸困難によるパニックを繰り返したことで恐怖を覚え,活動を制限していた.A氏は,日頃から身だしなみに注意をはらっていたが,整髪や髭の手入れも行き届かない状況となり,ベッドから離れることすらできない自分の状態に悲しみ,自尊感情の低下がみられていた.そして,腰の悪い高齢の妻に迷惑をかけることはできず,「もう自宅に帰ることはできない」と思い在宅療養を諦めていた.

看護の実際

はじめに,症状マネジメントが最優先されなければならず,呼吸困難の緩和に焦点を当てた.A氏は口すぼめ呼吸が行えず,常に唸るような呼吸で労作時の呼吸困難を繰り返していた.その結果,症状コントロールができず,活動の幅は徐々に狭まりADLの低下を認めた.カンファレンスでは,リハビリ時に生じる呼吸困難のため,以前できた立位訓練も困難となりどのように介入すべきか検討した.カンファレンスの結果,運動時の呼吸困難を軽減するために,NPPVを装着しながら運動療法を行うこととなり,慢性呼吸器疾患看護認定看護師が協働し支援に当たった.A氏の呼吸困難の軽減と自己効力感を高めることを目的に,運動プログラムはベッド上で簡易エルゴメーターを用い,低強度で息切れが出ない程度の負荷量に変更し運動療法を継続した.リハビリ目標については,当初は「エルゴメーターを1分頑張る」という目標を設定し,看護師はその都度,到達状況を本人と医療チームで共有し,目標やプログラムを調整しながら支援した.

次に,セルフモニタリングでは,息苦しくなりやすい動作や程度を客観的に評価するために,酸素飽和度モニターや修正Borgスケール等を用い,日誌への記録を開始し可視化した.介入の結果,A氏の日誌には呼吸困難の程度以外にも,排泄状況やその日の体調,出来事など様々な内容が記載されるようになった.リハビリ時はA氏の症状の体験と,SpO2や修正Borgスケール,疲労感等,主観的・客観的情報を照らし合わせながら,その都度NPPVの設定を調整したほか,アシストユースとしてβ2刺激薬を使用し,その効果を確認しながら症状緩和と運動の両立を図った.

A氏は,NPPVの効果を体感したことで,ほぼ終日NPPVを装着するようになった.そして,呼吸困難の軽減は不安や恐怖を軽減するとともに,活動への意欲と自信につながった.A氏はリハビリにも積極的に取り組まれるようになり,段階的に歩行練習まで辿り着くことができた.歩行練習では,NPPVを歩行器に固定しリハビリ中のNPPV使用を可能とした.看護師は,A氏や理学療法士とともに,息切れの程度や回復の時間,休息のタイミング,よりよい動き方について検討を重ねた.その過程が,症状の自覚とモニタリングから得た情報を整理,解釈,認識の過程に結びつけることに繋がったと考える.歩行練習の目標として,自宅で生活する上で必要な移動距離として「10 m歩行ができる」ことを目標に訓練し,達成することができ在宅療養へ移行した.

退院後のA氏は,訪問診療に切り替え,訪問看護師や訪問理学療法士の支援を受け,セルフモニタリングを継続しながら療養を行っている.療養環境では,終日NPPVを使用しており活動範囲はベッド周囲であるが,居室のほかに心身の休息の場所や運動の場所を設けた.意図的に居室との距離を設けることで無意識に活動が促されPAの維持に繋がっている.A氏は,退院後2年経過しているが,増悪入院することなく在宅療養を継続されている.

結語

慢性呼吸器疾患患者におけるセルフマネジメント支援として,特徴的な症状である呼吸困難に対して優先的に関わり,症状を緩和できるよう支援が求められる.セルフマネジメント支援において看護師は,歩数計や息切れの程度を数値化しながらセルフモニタリングを高め,患者が体調管理の状況を確認し,対処する力を身につけられるように支援することが大切である.また,療養中の患者の取り組みや良い変化を伝え,自己効力感を高めるための支援が必要であると考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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