The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Congenital central alveolar hypoventilation syndrome (CCHS) and hypoventilation syndromes in Japan intractable diseases~To develop the transitional care medicine in CCHS~
Kazuo ChinHisaya Hasegawa
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2024 Volume 32 Issue 2 Pages 159-161

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はじめに

肺胞低換気症候群(alveolar hypoventilation syndrome: AHS)には多くの病態が含まれる1.指定難病230肺胞低換気症候群には先天性中枢性肺胞低換気症候群(congenital central alveolar hypoventilation syndrome: CCHS),特発性中枢性肺胞低換気(idiopathic central alveolar hypoventilation: ICAH)と肥満低換気症候群(obesity hypoventilation syndrome: OHS)の一部が含まれる2.これら3病態は睡眠障害国際分類第3版,Text Revisionではいずれも睡眠関連低換気障害群に入っている3.これらの病態は睡眠中の低換気の呼吸管理が予後に重要であり,合併症の管理とともに呼吸管理がよければ,症状が改善し,呼吸管理が適切でなければ,日中,夜間の高二酸化炭素血症が悪化して結果として低酸素血症も招き,臨床症状,予後の悪化を招く.CCHSはまれに成人以降にも発見されるが,主には新生児,乳幼児期に発見されることが多く,重症例では当初は気管切開下人工呼吸,その後,非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)に移行することが多い.ICAHもNPPVで管理されることが多い.指定難病OHSにおいては,持続性陽圧気道圧(continuous positive airway pressure: CPAP)療法にて多くは管理され,管理困難例はNPPVで治療される.呼吸管理の発展によりCCHS患者が成人に成長し,呼吸器領域における小児から成人への移行期医療の重要な領域のひとつになっている.本共同企画を通して,指定難病230肺胞低換気症候群の理解を深め,乳幼児から大人までの肺胞低換気症候群の呼吸管理の進歩と発展が期待される.

1. 睡眠関連低換気障害群

指定難病230肺胞低換気症候群(AHS)は全て,睡眠呼吸障害中の睡眠関連低換気障害(sleep related hypoventilation disorders: SRHD)を伴う.SRHDには以下の6病態が含まれる.6病態とは①肥満低換気症候群(OHS),②先天性中枢性低換気症候群(CCHS),③視床下部機能障害を伴う遅発性中枢性低換気,④特発性中枢性肺胞低換気(ICAH),⑤薬剤や物質による睡眠関連低換気,⑥身体障害による睡眠関連低換気である.

睡眠中の低換気とは,下記のaまたはbの状態を示す4

a.動脈血PCO2(代替PCO2:呼気終末二酸化炭素分圧または経皮二酸化炭素分圧)が 55 mmHgを超えて10分以上持続する.

b.動脈血PCO2(代替PCO2)が覚醒時仰臥位と比較して睡眠中に 10 mmHg以上上昇し,50 mmHgを超える値が10分以上持続する.

小児の場合は「総睡眠時間の25%超において,動脈血PCO2(代替PCO2)が 50 mmHgより高い場合に低換気と判定する」とされている.PaCO2の代替えとして呼気終末二酸化炭素分圧と経皮的二酸化炭素分圧測定がある.

2. 指定難病肺胞低換気症候群の3病態2,3

CCHS, ICAHとも高二酸化炭素に対する換気応答が減弱欠如しており,低酸素に対する反応も同様に低下しており,特に睡眠中のその反応はさらに低下するので,低換気が高度となる.OHSも高二酸化炭素,低酸素に対する反応は減弱しており,指定難病のOHSは指定難病でないOHSよりも換気応答減弱の程度は大きい.

1) 先天性中枢性低換気症候群(CCHS)

CCHSは睡眠関連低換気が存在し,ほとんどの症例で,PHOX2B遺伝子変異が病態に関与する3,5PHOX2Bは染色体4p12に位置する.PHOX2B遺伝子は自律神経の分化・誘導に重要な役割を果たしているとされ,ヒルシュスプリング病を含む自律神経異常,神経腫瘍の合併などが多いとされる.認知機能は患者の大部分で正常であるが,低換気の呼吸管理が十分に行われていない群では,発達の遅れを示すことがあるとされる.患者管理に当たっては,患者を如何に早期に発見して,合併症の管理とともに,生命の維持は当然ながらも,呼吸管理の不備による血液ガス悪化に伴う障害を未然に防ぐことが重要である.呼吸障害は睡眠時に特に悪化し,重症患者は新生児,乳幼児は気管切開下人工呼吸,小児,成人から NPPV療法に移行可能な症例群も多くみられる.患者の早期発見と呼吸管理法の発展によりCCHSの患者の成人への移行例が増加しており,呼吸器領域における移行期医療が重要な領域である.また,近年,治療法として,横隔膜ペーシングも行われるようになった.成人になり,飲酒時,睡眠剤・鎮静剤服用時,手術麻酔時などに,顕著な低換気,低酸素血症となり,PHOX2B遺伝子変異が明らかになる晩発性のCCHSの報告もみられている6.なお,CCHSオンディーンの呪いと呼ばれることもあったが,ネガティブな意味合いも持ち現状では使用されるべきではないとされている3

2) 特発性中枢性肺胞低換気(ICAH)

ICAHの基本的な病態は睡眠関連低換気があり,低換気の主な原因が,肺実質や気道疾患,肺血管病変,胸壁疾患,薬物使用,神経疾患,筋力低下,肥満,あるいはCCHSによるものでないことである.睡眠中に閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)が認められることもあるが,主な呼吸パターンは1回換気量の減少,あるいは動脈血酸素飽和度の低下を伴う失調性呼吸である.睡眠関連低換気とOSAの合併についての考慮は必要である.

3) 肥満低換気症候群(OHS)

OHSの国際的な一般的診断基準はBMIが 30 kg/m2以上で,且つ,覚醒中の動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が 45 Torr以上であり,低換気の主な原因が,肺実質や気道疾患,肺血管病変,胸壁疾患,薬物使用,神経疾患,筋力低下,肥満,CCHSあるいはICAHによるものでないことである.

3. 指定難病「肺胞低換気症候群」の課題と展望

指定難病の要件である難病は,1)発病の機構が明らかでなく,2)治療方法が確立していない,3)希少な疾患であって,4)長期の療養を必要とするもの,という4つの条件を必要としているが,指定難病にはさらに,5)患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しないこと,6)客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立していることとされている.

呼吸調節系の異常病態と睡眠関連低換気障害が共通病態である指定難病「肺胞低換気症候群」のうちCCHSとICAHはほぼ上記条件を満たしている.PHOX2B以外の呼吸調節かかわる遺伝子異常もすでに数個以上解明されているが,今後も新たな原因・関連遺伝子の発見が十分に起こりえる領域である.また,ICAHでは通常のII型呼吸不全と同様にREM睡眠期に低換気が顕著になるが,CCHSではNREM睡眠期に低換気が強度になるとされるが,その病態生理は明らかになっていない5.OHSに関しては,CPAP治療後の患者においては睡眠呼吸障害患者の90%以上が保持しているOSAが基本的にはコントロールされている事になるので,その状態で,PaCO2値は 45 Torr 以上の患者は呼吸調節系の異常の程度が大きく永続的な治療が必要な群と考えられる.さらに,OHSの中でも重症OHSの基準が患者の呼吸管理の安全性を確保しつつ可能であれば,重症OHSは指定難病の要件を全て満たすことが出来るので,「6」客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立」が期待される.また,現状ですべての疾患を含めた,NPPV患者は12,000人弱なので,重症OHSにてNPPVが必要となる患者数は限定されると考えられる7

指定難病「肺胞低換気症候群」の呼吸管理は生命予後とQOLを維持,高めるために極めて重要であるが,現状の呼吸管理は機器に依存することが多いので,発症機構を明らかにして,対応できる薬剤の開発などが望まれる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

長谷川久弥;講演料(アストラゼネカ),陳 和夫;研究費・助成金(アキュリスファーマー),寄附講座(フィリップス・ジャパン,フクダ電子,フクダライフテック東京,同京滋,レスメド)

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