The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Current status and issues of congenital central hypoventilation syndrome (CCHS) in Japan
Hisaya Hasegawa
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2024 Volume 32 Issue 2 Pages 162-164

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要旨

先天性中枢性低換気症候群(CCHS)は,呼吸中枢の先天的な障害により,典型例では新生児期に発症し主に睡眠時に,重症例では覚醒時にも低換気をきたす疾患である.発生率は欧米の報告では,5-20万人に1人とされている.日本では少なくとも15万人に1人以上はいるものと推察され,百数十名の存在が確認されている.CCHSは1970年に初めて報告された比較的新しい疾患である.2003年にはCCHSの病因遺伝子として,自律神経の分化・誘導に重要な役割を果たしているPHOX2B遺伝子が特定された.治療は人工呼吸を中心とした呼吸管理が主体となる.CCHSの低換気は生涯にわたり続くため,患者の成長に合わせ,気管切開管理,マスクによる呼吸管理などを選択していく.最近では横隔膜ペーシングが保険適応となり,呼吸管理の選択肢が拡がっている.CCHSの自律神経障害に伴う様々な合併症の管理も重要で,複数科によるサポートが必要となる.また,成人に達する患者も増えてきており,成人診療科への移行も新たな問題として起こってきている.

はじめに

先天性中枢性低換気症候群(Congenital Central Hypoventilation Syndrome: CCHS)は,比較的最近に認知された稀な疾患で,臨床的報告から約50年,責任遺伝子の確定から約20年である.主たる症状である中枢性低換気以外にも様々な症状を呈し,多くの分野の医療支援を必要とする疾患である.

1. CCHSの概要

CCHSは,呼吸中枢の先天的な障害により,典型例では新生児期に発症し主に睡眠時に,重症例では覚醒時にも低換気をきたす疾患である.CCHSは,1970年にMellinsらによってはじめて報告され1,呼吸の化学的調節機構の遺伝的な障害により肺胞低換気を呈する疾患である.睡眠時の低換気もしくは無呼吸を特徴とし,循環・呼吸器疾患,神経筋疾患,代謝性疾患,先天奇形などが除外される.多くは新生児期に発症するが,乳児期~成人期に発症する遅発性(later-onset CCHS: LO-CCHS)の症例も存在する2,3,4.呼吸中枢の障害に対する有効な治療はないため,人工呼吸管理が必須である.神経堤細胞の分化異常からHirschsprung病,神経芽細胞腫,自律神経系の異常などの合併症を伴う場合があり,自律神経系の異常としては,心拍の呼吸性変動低下,洞結節不全,房室ブロック等の不整脈,便秘,胃食道逆流症,低体温,発汗異常,体温調節障害,痛覚異常,瞳孔異常,涙液分泌異常などがある2,3,4.2003年にはCCHSの病因遺伝子として,自律神経の分化・誘導に重要な役割を果たしているPHOX2B遺伝子が特定された5.この発見以降,CCHSの自律神経障害という側面にも注目が集まっている.

CCHSの正確な症例数,発症頻度は明らかになっていないが,欧米の報告によると,罹患率は約5~20万出生児当たり一人と推定されている1.日本における罹患率は少なくとも約15万出生児当たり一人と推定される2.現在,日本には約150例のCCHS患者が存在すると推定されている.しかし,CCHSの病態の重症さ,複雑さから症例数,発生頻度ともに過小評価されている可能性が高いと考えられている.

2. 日本におけるCCHSの歴史

日本におけるCCHSの歴史を図1に示す.1980年代前半より,CCHSの症例報告がなされるようになり,2003年,Sasakiら6がCCHS症例におけるPHOX2B遺伝子の変異を報告し,国内で遺伝子診断が可能になったことにより,報告数が増加した.2008年には,CCHSの患者会であるCCHSファミリー会が設立され,患者,患者家族,医療者間の連携が図られるようになった.2011年,Hasegawaら7による初めてのCCHS全国調査が行われ,日本におけるCCHSの実態が明らかになった.2013年,東京女子医科大学東医療センターで包括的呼吸評価法としてCCHS呼吸ドックが開始され,病態,症状の把握,適切な呼吸管理の決定などに役立っている.2016年,厚労省CCHS研究班によるCCHS診療手引きが作成され,その後,改訂がなされている.2017年,NeuRX横隔膜ペーシング装置が承認され,2019年,保険適応後本邦初の横隔膜ペーシング施行され成功した.

図1 日本におけるCCHSの歴史

3. 日本におけるCCHS診断,管理の現状

CCHSの診断は,低換気などの症状からCCHSが疑われた場合,担当医から山形大学小児科へPHOX2B遺伝子検査の依頼がなされる.遺伝子検査でCCHSの診断がなされると,呼吸生理学的診断として,炭酸ガス換気応答試験などが行われれる.また,より詳しい呼吸生理学的検査,管理のために,東京女子医科大学東医療センターで包括的呼吸評価法としてCCHS呼吸ドックが行われる(図2).CCHS呼吸ドックは,呼吸中枢の評価,気道・肺の評価,換気状態の評価(睡眠時,覚醒時,人工呼吸時など)を併せて行い,数年おきに行うことにより,成長に合わせた病状の評価,適切な管理法選択が可能となる.PHOX2B遺伝子検査は,現段階では保険適応となっておらず,山形大学小児科の研究費でまかなわれている.現在,PHOX2B遺伝子検査の保険適応を目指し,申請中である.また,CCHS呼吸ドックも通常の保険診療の範囲で行っているため,ドック施行のための医療資源量とのバランスがとれていない.継続的なCCHS呼吸ドック施行のためには,この点の解消も必要になるものと思われる.

図2 日本におけるCCHSの診断

4. 成人診療科への移行(トランジッション)

呼吸管理などの進歩により,CCHS症例が長期生存し,成人となる例も多くなってきている.これまで,小児科を中心にCCHS患者診療にあたっている場合が多いが,将来へ向け成人診療科への移行(トランジッション)が大きな課題となっている.希少疾患であるため,小児科医でも実際に診療した経験のある医師は限られており,成人診療科の医師ではなおさらである.知らない疾患の患者を引き継ぐことに関しては,これまでも大きな壁があり,成人期以降も小児科医が継続して診療を行っているケースもみられた.このため,CCHSの啓蒙,スムースな成人診療科への移行を行うために,小児科だけでなく,呼吸器内科など成人診療科を含めたシンポジウムなどを行ってきた.

主なものは以下の通りである.

・第120回日本小児科学会学術集会(2017.4)

シンポジウム:CCHS最近の知見~診断と治療を考える

・5th International CCHS Conference(2018.6)

・18th International Congress On Pediatric Pulmonology(2019.6)

CCHS: Family and Physicians Perspective

・第30回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021.3)

共同企画:CCHSと指定難病肺胞低換気症候群~移行期医療の推進・確立に向けて

また,2020年12月には,日本小児呼吸器学会でCCHS移行支援ガイドが作成され,スムースなトランジッションへの一助となっている.

これらのことや患者家族会を中心とした様々な活動を通じて少しずつ啓蒙が進み,実際に小児科から成人診療科(呼吸器内科)への移行がなされた例が出てきている.今後もこうした啓蒙活動を続けることにより,幅広い移行先の確保,スムースな移行手続きがなされていくことが期待される.

おわりに

CCHSは医療の進歩により,成人期以降まで到達する長期生存例が増加している.様々な病態を呈するため,多職種による長期的な医療支援が必要となる.CCHS患者を長期にわたり支援する医療的,社会的体制の構築が必要と思われる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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