2024 Volume 32 Issue 2 Pages 165-167
先天性中枢性低換気症候群(Congenital central hypoventilation syndrome: CCHS)は,呼吸調節と自律神経系が障害される疾患で,PHOX2B遺伝子バリアントが病因である.これまで山形大学で検査を施行しバリアントを認めた症例での遺伝型と臨床型の比較,さらに呼吸管理法と発達予後の関連について発表してきた.ポリアラニン伸長バリアント(PARM)では伸長数が大きいほど合併症も多く,覚醒時にも人工呼吸が必要な症例も認められた.非ポリアラニン伸長バリアント(NPARM)では人工呼吸器の装着を要しない軽症例から覚醒時にも人工呼吸を必要とする重症例まで存在し,症状の多様性を認めた.日本では精神発達遅滞の合併が欧米と比べると多く認められた.遺伝子診断は早期介入が可能となり,適切な呼吸管理と合併症管理を行う上で有用である.
先天性中枢性低換気症候群(Congenital central hypoventilation syndrome: CCHS)は神経堤由来の前駆細胞の遊走・分化異常により,呼吸調節と自律神経系が障害される疾患である.主症状は睡眠時の無呼吸や低換気であり,多くは新生時期に発症する.頻度は約15~20万人に 一人である1,2).
病態は高炭酸ガス血症及び低酸素血症に対する換気応答反応の欠如または低下である.覚醒時の呼吸は化学調節機構,運動調節機構が働き,延髄の呼吸中枢で情報が統合され,さらに大脳などの上位構造からの制御を受け調節されている.一方,睡眠時には主に化学調節機構で調節される.CCHSは化学受容体の調節機構が先天的な異常により生ずる疾患であることから,主に睡眠時に無呼吸・低換気となる.
軽症例は睡眠時のみに,重症例では覚醒時にも低換気になるため人工呼吸器装着が必要となる.合併症として,Hirschsprung病(約20%),神経堤細胞由来腫瘍(約3-5%)の他, 便秘,胃食道逆流症,徐脈,不整脈,発汗異常,体温調節障害,痛覚異常,内分泌異常(高インスリン血症,低血糖,高血糖),瞳孔異常など多彩な症状を認める.
病因はPHOX2Bバリアントであり,症例はヘテロ接合体であり顕性遺伝を示す.PHOX2Bは染色体4p13に位置し,約 5 kbの大きさであり,3つのエクソンから構成される.この遺伝子はアミノ酸が314個で,9個と20個のアラニンが連なるポリアラニン鎖を,さらにhomeoboxを1つ有する転写因子である.RET,PHOX2A,SOX10,TLX-2などの発現調節を行い,Retrotrapezoid核,頸動脈小体,最後野,孤束核,顔面神経核,膝状・節状・錐体神経路,交感・副交感神経節,副腎髄質などに発現し,神経堤細胞の分化や誘導や,呼吸中枢および自律神経系の形成に重要な役割を持つ.
約90%の症例にはエクソン3に存在する20個のポリアラニン鎖の部分の4~13個のアラニン伸長バリアント(polyalanine repeat expansion mutation: PARM)が検出される.PARMで一番頻度が高いのは20/27PARM,次が20/26PARMである.そのほか,約10%にはミスセンスバリアントやナンセンスバリアント,フレームシフトバリアントなどの非ポリアラニン伸長バリアント(non-polyalanine repeat expansion mutation: NPARM)が検出される.NPARMはどのエクソン部分にも検出されるが特にエクソン3で多く検出される.1%未満にPHOX2B全体または各エクソンのヘテロ欠失が検出される3,4).
PARMにおいて約75%はde novoであり,約25%は,モザイクの親や保因者及び,Late-onset CCHS(LO-CHS)の親からの遺伝である5).NPARMでは以前は突然変異が多いとされていたが,最近,60-70%が遺伝であるとの報告もある6).
遺伝子バリアントと臨床症状は関連性については報告されている.PARMでは伸長数が多いほど重症で合併症も多い.
20/24PARMまたは20/25PARMでは低換気・無呼吸の症状が新生児期から出現する症例から,乳幼児期や成人期に発症するLO-CHSの症例も認められている.さらに不完全浸透であり,バリアントを認めても無症状の症例も報告されている3).20/25PARMでのHirschsprung病の合併は,非常に稀ではあるが最近報告されている7).また,自律神経系の合併症は少ないと言われていたが,加齢とともに不整脈や洞性徐脈が発症する症例も認められる.
LO-CHSは乳児期から成人期に発症する睡眠時の低換気もしくは無呼吸をきたす症候群である.麻酔や感染を契機に発症することがある.PHOX2Bバリアントは50-80%に認められ,不完全浸透を示し無症状で経過することもある.20/25PARMが多く,他,20/24PARMや稀ではあるが20/27PARMやNPARMの一部でも報告されている.
20/26以上のPARM症例では無呼吸・低換気は極一部を除き新生児期から発症し,低換気は睡眠時だけではなく,覚醒時にも人工呼吸器装着が必要な重症例も多く認める.またHirschsprung病や自律神経系の異常,神経堤細胞由来腫瘍の合併も認められ,一般的には重症である.
NPARMの症例では多くは新生時期より低換気症状を認めるが,LO-CHSの症例も認められ,また症状の軽い症例から,覚醒時も人工呼吸器装着が必要な症例まで存在し多様である.Hirschsprung病や自律神経系,神経堤細胞由来腫瘍の合併も多く認められる.
日本の症例では山形大学で遺伝子検査を行ったPHOX2B病因バリアントを有する日本人92症例で遺伝型と臨床的特徴を比較し報告されている1).92例中20/25PARMは19例,20/26以上のPARMは67例,NPARMは6例で検討した.20/25PARMについては,男児に多く認められた.海外の報告と同様に合併症は少なく, LO-CHSの症例も存在した.また,非侵襲的人工呼吸管理を19例中12例で施行されており,そのうち8例で発達遅滞を認めた.覚醒時にも人工呼吸管理が必要な症例やHirschsprung病,徐脈,などの合併症は20/26以上のPARMとNPARMに多く認められた.
徐脈・不整脈については2020年までにバリアントを認めた150例中13例に認められ,20/25PARMにも1例認められた.合併症が少ないと言われている20/25PARMにおいても定期的なホルター心電図検査が必要と考えられた.
さらに,遺伝型と発達予後について83例で比較検討をした8).欧米では認知障害などが報告されている9).また,20/25PARMにおいてはBayley ScaleでMental scoreが100±13.76であり,発達遅滞は認めなかったとの報告があるが10),日本においては20/25PARMでの発達遅滞は42%に認められ,また全体でも29%に認めた.特に20/25PARMでは非侵襲的呼吸管理が63%に施行されており,適切な呼吸管理がなされなかったことが発達遅滞を多く認められた要因と考えられた.
治療は適切な呼吸管理と合併症の治療である.特に呼吸管理については適切に行われないと発達予後に影響を及ぼす.安全な呼吸管理を行う目的から,米国小児科学会では6-8歳までは気管切開を行った上での人工呼吸管理が推奨されている11).さらに,2019年からは国内でも横隔膜ペーシングが保険適応となったため,今後治療を受けることによりQOLが向上することが期待される.
また,合併症の発見及び治療目的に,米国のガイドラインでは遺伝型別に推奨検査項目を挙げており(表1),以下に詳細を記す3,11).
呼吸機能検査 (血ガス検査含) 自律神経系評価 | Hirschsprung病 検査 | 発達検査 | 心臓超音波 ホルター心電図 | 神経堤由来 細胞腫瘍の有無 (画像検査) | |
---|---|---|---|---|---|
24, 25PARM | ○ | △ | ○ | ○ | |
26PARM | ○ | ○ | ○ | ○ | |
27PARM | ○ | ○ | ○ | ○ | |
28-33PARM | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
NPARM | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
11)Weeze-Mayer et al. 2010 一部改編
○印は推奨,△は考慮する項目
3歳までは6か月毎に行う.
画像検査は胸部と腹部を施行する.
腹部画像検査と尿中カテコラミン検査は2歳までは3か月毎,その後は7歳まで6か月毎施行する.
呼吸機能検査,血ガス検査,自律神経系の評価はすべての遺伝型で3歳までは6か月毎,それ以降は年に1回を目安に行うことを推奨されている.
Hirschsprung病の検索は20/26以上のPARMとNPARMで推奨されている.しかし,前述したように少数ではあるが,20/25PARMでHirschsprung病を合併したと報告されているので7),便秘などの症状には注意が必要と考えられる.徐脈・不整脈などは初期に症状がなくても,加齢とともに出現する可能性があるため全遺伝型でホルター心電図検査を,さらに肺高血圧の有無を検索するため,心臓超音波検査も定期的に施行する.
神経堤細胞由来腫瘍の有無は20/28以上のPARMとNPARMで検索する.画像検査と尿中カテコラミン検査を2歳までは3か月毎,その後7歳まで6か月毎に検査することを推奨している.
CCHSは呼吸調節と自律神経の障害を特徴とし,病因はPHOX2Bバリアントである.遺伝子検査により早期診断・早期治療介入が可能になり,遺伝型を知ることにより,適切な呼吸管理と合併症管理を行う上で有用である.
山形大学名誉教授(現みゆき会病院) 早坂清先生を始め,小児科学講座医局員の先生方,岸川由美子技師,埼玉医科大学総合医療センター 金井雅代先生,神奈川県立こども医療センター 下風朋章先生,厚労省研究班の先生方,CCHS親の会の先生方に深謝いたします.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.