The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Clinical practice of designated intractable disease, alveolar hypoventilation syndrome: including the transitional care of congenital central hypoventilation syndrome
Jiro Terada
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2024 Volume 32 Issue 2 Pages 174-179

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要旨

指定難病「肺胞低換気症候群」は,明らかな器質的疾患を認めない中枢性呼吸調節障害/睡眠関連低換気障害を病態とする難治性稀少性疾患であり,睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)「睡眠関連低換気障害」における(1)肥満低換気症候群の一部(覚醒時の肺胞低換気が夜間のCPAP療法でも改善しない場合),(2)先天性中枢性低換気症候群(CCHS),(3)特発性中枢性肺胞低換気の3病態が想定されている.肺胞低換気の発症メカニズムの詳細に関しては,病因遺伝子PHOX2Bが同定されているCCHS以外ほとんど不明である.

本稿では,厚生労働省指定難病としての肺胞低換気症候群の診療について解説する.中でも,CCHSは呼吸管理の進歩に伴い成人に至る患者が増えつつあり,また近年は成人期発症例やPHOX2B遺伝子変異キャリアで未診断成人例の報告もあり,移行期医療の観点も含めて紹介する.

緒言

肺胞低換気症候群は,様々な要因によって引き起こされる低換気(PaCO2上昇)を呈す病態の総称で,睡眠中に増悪することが知られている1,2.睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)では,睡眠中に換気が不十分となりPaCO2が上昇する病態「睡眠関連低換気障害」として睡眠関連呼吸障害群(4群17疾患)のなかの1群に分類されている(表13.この群の中で,明らかな原因が不明で主たる病態として呼吸調節系の異常が疑われる肺胞低換気症候群/睡眠関連低換気障害は厚生労働省指定難病の肺胞低換気症候群4に該当する可能性があり,睡眠-呼吸領域を担当する医療者にとってその理解は重要である.

表1 ICSD-3における睡眠関連呼吸障害群(4群・17種類)3

・閉塞性睡眠時無呼吸
閉塞性睡眠時無呼吸,成人
閉塞性睡眠時無呼吸,小児
・中枢性睡眠時無呼吸
Cheyne-Stokes呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸
Cheyne-Stokes呼吸を伴わない身体障害による中枢性睡眠時無呼吸
高地周期性呼吸による中枢性睡眠時無呼吸
薬剤あるいは物質使用による中枢性睡眠時無呼吸
原発性中枢性睡眠時無呼吸
幼児の原発性中枢性睡眠時無呼吸
未熟児の原発性中枢性睡眠時無呼吸
治療起因性中枢性睡眠時無呼吸
・睡眠関連低換気障害
肥満低換気症候群
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)
視床下部機能障害を伴う遅発性中枢性肺胞低換気
特発性中枢性肺胞低換気
薬剤や物質による睡眠関連低換気
身体障害による睡眠関連低換気
・睡眠関連低酸素血症障害
睡眠関連低酸素症

ICSD-3: International Classification of Sleep Disorders 3rd edition(睡眠障害国際分類第3版)

肺胞低換気症候群と睡眠関連低換気障害

肺胞低換気は PaCO2>45 mmHg(正常値 35-45 mmHg)を呈する病態で,通常はCOPDや肺結核後遺症などの慢性呼吸器疾患や神経筋疾患に伴う換気不全によるものが想起されるが,胸郭系の異常,呼吸筋力低下,呼吸抑制作用を有する鎮静薬や睡眠薬の使用,呼吸調節異常,肥満など様々な要因で生じることが知られている1,2.明らかな器質的疾患のない肺胞低換気(高二酸化炭素血症)を認める場合は,鑑別が容易でないことが多いが,潜在している疾患の検索に加え呼吸調節系の異常を疑うことが重要である.鑑別の最初のステップは,身体所見,胸部画像,呼吸機能検査,神経学的検査を用いて,潜在する肺-胸郭異常,神経筋疾患,使用薬剤,肥満などによる二次性肺胞低換気を除外することであるが,いずれも異常を認めない場合は脳CTやMRIを用いて中枢性疾患の有無を判別することが大切である1,2.いずれの肺胞低換気症候群も,覚醒時より睡眠(特にREM睡眠)中に換気が悪化する場合が多く,また日中眠気,夜間の異常呼吸を伴う場合は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と混同されやすいため注意を要す疾患である.国際的にはICSD-3及び米国医学睡眠医学会で定義される睡眠関連低換気障害(睡眠中にPaCO2またはそれに代用する測定系の値が55 mmHgを10分以上超えるか,覚醒臥位の値に比較して睡眠中に10 mmHg以上上昇し,さらに 50 mmHg以上が10分以上存在する場合とされる.測定機器としては,動脈ライン確保による採血,呼気終末二酸化炭素分圧,経皮二酸化炭素分圧のいずれか)として認知されている2,3.この睡眠関連低換気障害は,以下の6病態 ①肥満低換気症候群,②先天性中枢性低換気症候群(congenital central hypoventilation syndrome: CCHS),③視床下部機能障害を伴う遅発性中枢性低換気,④特発性中枢性肺胞低換気,⑤薬剤や物質による睡眠関連低換気,⑥身体障害による睡眠関連低換気に分類されている(表13

指定難病として肺胞低換気症候群

厚生労働省指定難病としての肺胞低換気症候群4は,上述の肺胞低換気症候群/睡眠関連低換気障害のうち,器質的疾患に伴う二次性のものを除外した例が対象となる.すなわち呼吸器・胸郭・神経・筋肉系などに器質的な異常がなく,呼吸調節異常の関与が大きい例が想定されている.「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究」研究代表者 千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学 巽浩一郎,「先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の診断基準・ガイドライン・重症度分類の確立」研究代表者 東京女子医科大学東医療センター新生児科 長谷川久弥,「難治性呼吸器疾患・肺高血圧に関する調査研究」「肺胞低換気症候群」研究分担者 京都大学大学院医学研究科呼吸管理睡眠制御学講座 陳和夫らが中心となって指定難病「肺胞低換気症候群」(2018年改訂)の枠組みが定められ, ICSD-3「睡眠関連低換気障害」の6病態(上述)のうち①肥満低換気症候群の一部(覚醒時の肺胞低換気がCPAP療法でも改善しない例),②CCHS,④特発性中枢性肺胞低換気の3病態が該当すること,現時点における各診断基準(表2, 3, 4),指定難病の対象(Definite, Probable),共通の重症度などが示されている(表5).

表2 厚労省指定難病における肥満低換気症候群の診断基準4

A.症状/徴候
睡眠低換気に関係する症状/徴候が一つでもある(日中の過眠,覚醒維持障害,一過性でない睡眠時無呼吸).重症化すると浮腫,息切れなどの右心不全症状がでる.
B.検査所見
肺胞低換気の定義はPaCO2値>45 mmHgであるが,測定誤差,日内変動などを考慮し,肥満低換気症候群の認定基準は以下とする.以下の1および2をともに満たすことが必要である.フェノタイプA:低換気型,フェノタイプB:無呼吸型とする.
1.覚醒時の動脈血液ガス; PaCO2値>50 mmHg,BMI≧30 kg/m2
2.終夜睡眠検査(ポリソムノグラフィー:PSG)が診断上必須であり,フェノタイプ Aでは睡眠中に肺胞低換気を認める.フェノタイプ BではPSG検査上睡眠時無呼吸が主であり,治療前およびCPAP治療施行後も覚醒時動脈血液ガスPaCO2値≧50 mmHgであることが診断に必要である.肥満低換気症候群の原因は呼吸中枢機能異常であり,肥満と関係なく肺胞低換気を呈する.CPAP/NPPV治療後でも肺胞低換気を呈する.肥満症の程度が改善しても,明らかな肺胞低換気(覚醒時動脈血液ガスPaCO2値≧50 mmHg)を呈することが肺胞低換気症候群の診断に必要である.
C.鑑別診断
以下の二次性肺胞低換気症候群を呈する疾患を鑑別する.
1.COPD,胸郭拘束性疾患など肺の閉塞性・拘束性換気障害による低換気
但し,軽症~中等症COPD(%FEV1≧50%)でPaCO2>55 mmHgの場合は,肥満低換気症候群の合併を考慮する.%VCが予測値の60%未満の拘束性換気障害を呈する場合,肥満低換気症候群は除外される.
2.睡眠時無呼吸症候群(SAS)
SASで体重減少後およびCPAP治療後も覚醒時PaCO2≧50 mmHgの場合は,肥満低換気症候群の合併を考慮する.通常のSASは体重減少により一時的な肺胞低換気は改善する.
3.神経筋疾患:重症筋無力症
呼吸中枢の異常に関係しうる中枢神経系の器質的病変を有する場合は除外する.
4.薬剤(呼吸中枢抑制,呼吸筋麻痺),代謝性疾患に伴う二次的な肺胞低換気
<診断のカテゴリー>
Definite:Aを満たし+Bの全てを満たし,Cを除外したもの

表3 厚労省指定難病における先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の診断基準4

A.症状/徴候
睡眠低換気に関係する症状/徴候が一つでもある(日中の過眠,覚醒維持障害,一過性でない睡眠時低換気・睡眠時無呼吸).重症化すると浮腫,息切れなどの右心不全症状がでる.
B.検査所見
睡眠時に1)動脈ライン確保による動脈血液ガスPaCO2,2)経皮二酸化炭素分圧(tcpCO2),3)呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)の値を測定する.診断のための検査は,1)~3)の中のどれか一つで良い.睡眠時に動脈血液ガスPCO2値ないしは呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2),経皮二酸化炭素分圧(tcpCO2)の値が10分以上50 mmHgを超える(睡眠中に,動脈血液ガスは10分以上の間隔をあけて2回測定する,EtCO2・tcpCO2は10分以上連続モニタリングを行い,50 mmHgを下回らない).
C.鑑別診断
以下の二次性肺胞低換気症候群を呈する疾患を鑑別する.
1.主たる病態が先天性の呼吸器・胸郭・神経・筋肉系の器質的疾患(新生児肺低形成,先天性肺疾患)
2.肺の閉塞性・拘束性換気障害による低換気
3.睡眠時無呼吸症候群(SAS)
4.薬剤(呼吸中枢抑制,呼吸筋麻痺),代謝性疾患に伴う二次的な肺胞低換気
D.遺伝学的検査
1.PHOX2B遺伝子の変異
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)ではPHOX2B変異(アラニン,非アラニン伸長変異)が報告されている.海外ではCCHSの診断にPHOX2B変異が必須である.
<診断のカテゴリー>
Definite:A,BおよびDを満たし,Cを除外したもの
Probable:AおよびBを満たし,Cを除外したもの
<参考所見>
合併症
・巨大結腸症,神経堤細胞由来の神経芽細胞種,不整脈,食道蠕動異常,体温調節障害,発汗異常などの自律神経異常による合併症の存在は,CCHSの存在を疑う根拠となる.
検査所見
・終夜睡眠検査(ポリソムノグラフィー:PSG)は診断上必須でないが,施行した場合には低呼吸が主である.
・炭酸ガス換気応答試験は,呼吸中枢における炭酸ガスに対する換気応答をみる検査であり,検査が可能な施設において,炭酸ガス換気応答の著明低下を認める場合には,肺胞低換気症候群を疑う強い根拠となる.
治療
・肺胞低換気の程度が軽度な場合は,睡眠時のみの治療でも対処可能である.しかし,重度の場合には,睡眠時・覚醒時共に治療が必要である.

表4 厚労省指定難病における特発性中枢性肺胞低換気症候群の診断基準4

A.症状/徴候
睡眠低換気に関係する症状/徴候が一つでもある(日中の過眠,覚醒維持障害,一過性でない睡眠時低換気・睡眠時無呼吸).重症化すると浮腫,息切れなどの右心不全症状がでる.
B.検査所見
睡眠時に1)動脈ライン確保による動脈血液ガスPaCO2,2)経皮二酸化炭素分圧(tcpCO2),3)呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)の値を測定する.診断のための検査は,1)~3)の中のどれか一つで良い.睡眠時に測定した1)~3)の中のどれか一つの値が以下の①または②を満たす.
①10分以上55 mmHgを超える(睡眠中に,動脈血液ガスは10分以上の間隔をあけて2回測定する,EtCO2・tcpCO2は10分以上連続モニタリングを行い,55 mmHgを下回らない).
②10分以上覚醒仰臥位における値と比較して10 mmHg以上の上昇を認め,その値が 50 mmHgを超える(睡眠中に,動脈血液ガスは10分以上の間隔をあけて2回測定,tcpCO2,EtCO2は最低10分以上モニタリングを行い2回測定する).
診断のための検査は,動脈ライン確保による採血,呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2),経皮二酸化炭素分圧(tcpCO2)の中のどれか一つで良い.
C.鑑別診断
以下の二次性肺胞低換気症候群を呈する疾患を鑑別し,特発性中枢性肺胞低換気症候群の診断とする.
1.COPD,胸郭拘束性疾患など肺の閉塞性・拘束性換気障害による低換気
2.睡眠時無呼吸症候群(SAS)
SASでCPAP治療後も覚醒時PaCO2≧50 mmHgの場合は,特発性中枢性肺胞低換気の合併を考慮する.
3.神経筋疾患:重症筋無力症など
呼吸中枢の異常に関係しうる中枢神経系の器質的病変を有する場合は除外する.
4.主たる病態が先天性の呼吸器・胸郭・神経・筋肉系の器質的疾患(新生児肺低形成,先天性肺疾患)
5.薬剤(呼吸中枢抑制,呼吸筋麻痺),代謝性疾患に伴う二次的な肺胞低換気
<診断のカテゴリー>
Definite:AおよびBを満たし,Cを除外したもの
<参考所見>
治療
・肺胞低換気の程度が軽度な場合は,睡眠時のみの治療でも対処可能である.しかし,重度の場合には,睡眠時・覚醒時共に治療が必要である.

表5 厚労省指定難病における重症度分類4

以下の重症度分類を用いて重症度3以上を対象とする.
重症度自覚症状動脈血液ガス分析治療状況
息切れの程度PaCO2PaO2NPPV/HOT治療
1mMRC≧1PaCO2>45 Torr問わず問わず
2mMRC≧2A:PaCO2>50 Torr,
B:>52.5 Torr
CPAP/NPPV継続治療必要
3PaO2≦70 TorrCPAP/NPPV/HOT継続治療必要
4A, B:PaCO2>55 TorrPaO2≦60 TorrNPPV/HOT継続治療必要
5mMRC≧3A, B:PaCO2>60 Torr
自覚症状,動脈血液ガス分析(PaCO2,かつPaO2),治療状況の項目全てを満たす最も高い重症度を選択,複数の重症度にまたがる項目については他の項目で判定する.
動脈血液ガス分析には,診断基準により覚醒時,睡眠時のいずれかが含まれる.診断基準により,経皮二酸化炭素分圧(tcpCO2),呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)に置き換えが可能である.
HOTに関しては治療後,夜間を含めて改善すれば中止は可能.
PaCO2の項目のA,Bは,肥満低換気症候群のフェノタイプA:低換気型,フェノタイプB:無呼吸型を示す.

mMRC:息切れを評価する修正MRC分類グレード,NPPV:非侵襲的陽圧換気療法,HOT:在宅酸素療法

※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項

1.病名診断に用いる臨床症状,検査所見等に関して,診断基準上に特段の規定がない場合には,いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし,当該疾病の経過を示す臨床症状等であって,確認可能なものに限る.).

2.治療開始後における重症度分類については,適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって,直近6ヵ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする.

3.なお,症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが,高額な医療を継続することが必要なものについては,医療費助成の対象とする.

いずれも難治性稀少性疾患であり,病因遺伝子PHOX2Bが同定されているCCHS以外,呼吸中枢機能異常・呼吸調節異常が生じるメカニズムや分子基盤はほとんど不明であり,今後の解明が待たれる.また治療に関しても根治的治療法は確立されておらず,非侵襲的なマスクないし気管切開を介した適切な呼吸管理が生涯必要となると考えられている.

先天性中枢性低換気症候群(CCHS)

CCHSは,PHOX2B遺伝子変異によって先天的に延髄の呼吸中枢が障害され高炭酸ガス血症や低酸素血症に対する換気応答の低下,睡眠関連低換気をきたす疾患である5,6.本邦では140例前後の患者が想定されている稀な疾患で(国内の罹患率は約15万出生児あたり一人と推定7),典型的には新生児期から乳幼児期に発症し生涯呼吸管理を必要とする.重症例では,覚醒中の呼吸も障害され早期から気管切開下での呼吸管理が行われる.病因遺伝子として,PHOX2B 遺伝子が2003年に同定され8,遺伝子変異型とCCHS の臨床症状には関連があることなど病態の解明が進められている.同遺伝子は,染色体4p12に位置し,3つのエクソンから構成される約 5 Kbの大きさをもつ遺伝子で,9個と20個の2つのポリアラニン鎖およびhomeoboxを有する.呼吸調節に関与する脳幹部ニューロン,一部の脳神経,自律神経系などに発現しており,呼吸中枢を含めた自律神経系の分化・発達において重要な役割をもつ転写調節因子をコードしている5,6.CCHS患者の約90%は,PHOX2B遺伝子の20個のポリアラニン鎖における4-13個のポリアラニン伸長変異(polyalanine repeat mutation: PARM)を認め,アラニン伸長数に比例して重篤であることが知られている.近年は,呼吸管理の進歩に伴い成人に至るCCHS例が増えつつあり9,また乳幼児期以降(稀には成人期以降)に診断される軽症型PARMの遅発性(late onset)-CCHSも散見されるため10,成人診療科の医療者にも注目されている.呼吸中枢の障害に対する有効な根治的治療法はないため,呼吸管理が必須であり,いかに低換気による低酸素血症,高炭酸ガス血症を防ぐかが管理の上で重要である.さらなる詳細は,日本小児科学会発行のCCHS診療の手引き5を参考されたい.

成人発症の先天性中枢性肺胞低換気症候群

乳幼児期以降に診断される軽症型の遅発性(late onset)-CCHSの中でも,成人期以降に発症する例はさらに稀で,詳細は不明な点が多い.過去の症例報告では,呼吸障害(肺胞低換気)以外に明らかな障害を伴わない例,診断医が疑って検査しなければPHOX2B遺伝子変異の有無が判明していない例などが多く,診断されるまでは特発性中枢性肺胞低換気と鑑別困難である可能性が考えられる.我々は,成人期発症CCHS及びPHOX2B遺伝子変異を有する成人キャリア例の臨床特性を明らかにすることを目的に,網羅的に文献検索を行い,①症候性に診断された成人発症CCHS(A群),②小児CCHS診断症例をもとにPHOX2B遺伝子変異が判明した成人家族例(B群)を同定し,臨床経過,診断・発症契機,治療,PHOX2B遺伝子変異パターンなどを評価・解析した10.さらに60歳発症の遅発性CCHSの自験例を,新規成人期発症CCHS例としてA群に含めて追加解析を行った10.その結果,A群は12症例,B群は24家系33例が同定された.A群における疾患発症契機は,全身麻酔または下気道感染症に伴う遷延性の呼吸調節障害が最多であった(表6).A群のPHOX2B変異は,判明している患者では全例20/25ポリアラニン伸長変異(PARM 20/25)であった.治療は,気管切開または非侵襲的陽性気圧換気(NPPV)療法など全例において少なくとも睡眠中の継続的な換気補助が必要であった.B群では,33人中9例がPHOX2B遺伝子変異判明後にCCHSの診断に至っていた.遺伝子変異に関しては,PARM 20/25が最も多かったが,モザイクを含む多様な変異が確認された.B群のうち,CO2評価がなされず通常の睡眠ポリグラフ検査でOSAと診断されている例が3例いた.以上より,原因が明らかなでない肺胞低換気は,稀ではあるが成人の場合でもPHOX2B遺伝子変異によって引き起こされている可能性があると考えられた.またPHOX2B遺伝子変異の同定と睡眠ポリグラフにおけるCO2モニタリングは,原因不明の肺胞低換気または無症候性PHOX2B変異を有する成人症例において重要であることが示唆された.

表6 Group A:成人期発症CCHSの報告のまとめ

  Case  ReferenceReported yearAge of diagnosisSexTriggering factorLethal arrythmiaANS dysfunctionCO2 Monitoring systemVentilatory supportTracheostomyGenetics
#A-1Debra E200535Manesthesia(-)(+)NDunclear(+)PARM 20/25
#A-2Antic NA200622Manesthesia, infection(+)NDTcnocturnal NPPV(-)PARM 20/25
#A-3Antic NA200622Munknown(-)NDTcnocturnal NPPV(-)PARM 20/25
#A-4Antic NA200627Funknown(-)NDNDnocturnal NPPV(-)PARM 20/25
#A-5Barratt S200741Minfection(-)(-)(-)nocturnal
NPPV
(-)PARM 20/25
#A-6Trochet D200825Munknown(-)NDNDventilatory
assistance
unknownPARM 20/25
#A-7Trochet D200855Fanesthesia(-)NDNDunclearunknownPARM 20/25
#A-8Lee P200953Minfection(-)(-)V’Rnocturnal
NPPV
(-)PARM 20/25
#A-9Bittencourt LR201249Munknown(-)NDEtnocturnal
invasive
ventilation
(+)PARM 20/25
#A-10Lamon T201248FanesthesiaNDND(+)unclearunknownPARM 20/25
#A-11Visser WA201355FunknownNDNDV’Rnocturnal
NPPV
(-)Mild PHOX2B mutation
#A-12our case201960Fanesthesia, infection(+)(-)Tcnocturnal
invasive
ventilation
(+)PARM 20/25

(文献10より引用)

Reference: first author’s name of the reference, age of diagnosis: the age at the diagnosis of CCHS with PHOX2B-mutation, anesthesia: a history of general anesthesia, infection: a history of respiratory infection, Lethal arrythmia: history of pause or cardiac arrest, ANS dysfunction: dysfunction of autonomic nervous system, CO2 monitoring system: carbon dioxide monitoring system for diagnosis, Tc: transcutaneous CO2 monitoring system, V’R: ventilatory response test, NPPV: noninvasive positive pressure ventilation, Et: end-tidal CO2 monitoring, therapy: maintenance chronic treatment, genetics: information regarding PHOX2B mutations, PARM: polyalanine repeat expansion mutation, ND: no specific description

小児科~成人呼吸器科移行期医療としてのCCHS

上述した遅発発症のCCHSに加え,乳幼児期発症のCCHS患者で成人に達する例も近年は増加しつつあり,移行期医療の推進のためにもその理解が重要と考えられる9

CCHSの移行期医療を考える場合に,医学的に最も重要な課題は,難治性稀少疾患で,生涯呼吸管理を要すこと,急変や突然死リスクなどがあり,患者・小児科医との間で構築された強固な信頼関係もあることから,患者のほとんどは思春期以降も小児科に通院しており,成人診療科への移行が進んでいない点である.また成人診療科の医療者にも広く認知されていない点も課題である.一方で,成人患者を小児科医が見続けることの弊害が報告されており,成人後も必要な医療等を切れ目なく提供するためには,医療従事者間の連携体制の充実とスムースな移行の仕組みづくりを行うことが重要と考えられている9.現段階では,個々の医師らの努力のみの解決によるところが大きいが,小児科と成人診療科での協力・連携が必須の領域と考えられる.移行における呼吸管理の面では,保護者中心の管理から,成長し自身での管理が中心になっていくため,管理が緩くなりやすいことが挙げられる.また呼吸困難の自覚や他覚所見に乏しい例も多く, 低換気が継続し不可逆的な変化を生じて初めて気付かれる例も散見されるため,厳格な呼吸管理を行うことが重要と考えられている.呼吸管理以外の面では,肺性心や不整脈などの循環器的な問題が顕在化すること,内分泌・消化器系の合併症を有する例もいることなどから,定期的な検査,患者 ・家族と医療者の理解の共有が大切とされる.また,いわゆる自律神経失調に関連する症状は非特異的なため,医療者が気付かないうちに身体的 ・ 精神的に大きな影響を及ぼしていることがあり,患者 ・ 家族の訴えに耳を傾けることも重要とされる.

まとめ

CCHSは,多くの例が新生児ないし乳幼児期発症であるが,近年は成人に達する例も増えつつあり,またPHOX2B遺伝子変異の程度によっては思春期以降に肺胞低換気が顕在化する場合もあることから,移行期医療として成人の睡眠-呼吸領域を担当する医療者にとっても重要な疾患である.またPHOX2B遺伝子変異の同定以外に特発性中枢性肺胞低換気と鑑別は困難である場合もあり,指定難病肺胞低換気症候群全体の病態解明に,CCHSの発生機序の理解が重要である可能性が考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

寺田二郎;研究費・助成金(帝人ファーマ株式会社;千葉大学真菌医学研究センター呼吸器生体制御学共同研究部門との共同研究「難治性呼吸器疾患および肺胞低換気症候群(睡眠時無呼吸症候群を含む)に関する基礎的・臨床的研究を基盤とした治療戦略の構築」について)

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