2024 Volume 32 Issue 2 Pages 205-211
【目的】非侵襲的陽圧換気(NPPV)を受けている慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムの効果を,介入前後のセルフケア能力の比較で検討した.
【方法】総合病院呼吸器内科外来のNPPV患者を対象に,遠隔看護プログラムを3カ月間実施した.低セルフケア能力群と非低セルフケア能力群に分けて,介入前後のSelf-Care Agency Questionnaire(SCAQ)得点を比較した.また,介入前後の変化量を計算して群間比較を行った.
【結果】対象は15名(男性9名,女性6名)であった.低セルフケア能力群7名のSCAQ総得点(中央値)は,介入前117.0,介入後123.0,非低セルフケア能力群8名の総得点は介入前136.0,介入後134.5で有意差がなかった.変化量の群間比較の結果,低セルフケア能力群は非低セルフケア能力群と比較して総得点および下位尺度得点が有意に高かった(p<0.05).
【結論】NPPV慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムを,介入前のセルフケア能力が低い者に対して実施することにより,セルフケア能力を向上させる可能性が示唆された.
COPD患者に対してセルフマネジメント教育を行うことで,健康関連QOLの向上,呼吸器関連の入院回数や救急外来の受診回数を減少することが報告されている1).セルフマネジメントとは,患者が健康障害に対する日々のマネジメントを自分自身で行い,できるだけ日常生活やQOLを維持し,疾患の重症化を予防することである2).一方,セルフケアは,患者自身の機能と発達を調整するために,自分自身や自分の環境に向けた活動を自発的に開始し実践する概念であり3),セルフマネジメントを包含する概念として考えられる.これまでに非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation; NPPV)を受けている慢性呼吸不全患者の急性増悪の経験とセルフケア能力との関連が報告されている4).慢性呼吸不全において,患者自身が主体的にセルフマネジメントやセルフケアを実践し日常生活を営むことで,急性増悪の症状を早期発見,早期対応することができ,QOLの維持が期待される.そのため,慢性呼吸不全患者のセルフケア能力を高めることは重要な看護支援の一つである.これまでに療養日誌を用いた看護援助が実践されているが,より効果的にセルフケア能力を高めるための援助方法を構築することが必要である.
以前より,情報通信技術(information and communication technology; ICT)を活用した遠隔医療は新たな富の創出や生産活動の効率化に大きく貢献するとされ,政府は超高齢社会に向けた政策としてICTを活用することを公表している5).近年,COVID-19感染拡大を背景に遠隔医療の需要は高まっており,2018年診療報酬改定に伴うオンライン診療の制度化やテレナーシング(遠隔看護)ガイドラインが刊行されている6,7,8).これまでに国内外において,看護師による呼吸リハビリテーションやアクションプランの導入に関する実践報告9,10,11),COPD患者を対象としたテレナーシングが急性増悪防止や身体活動量の向上に効果的であるという報告がある12).一方で,より医療依存度の高いNPPVを受ける慢性呼吸不全患者を対象とした遠隔看護プログラムを作成し,その効果を検証した報告は少ない13).
そこで,本研究はNPPVを受けている慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムの効果を,介入前後のセルフケア能力の比較で検討する.
対象は東北地方の総合病院呼吸器内科外来に通院中のNPPVを受けている慢性呼吸不全患者とした.適格基準は呼吸器疾患が原疾患であること,対象者がタブレット端末を扱えることとした.除外基準は認知機能障害によりコミュニケーションがとれないこととした.
2. 調査期間期間は2017年10月から2018年9月までであった.
3. 研究方法 1) データ収集方法医師が適格基準を基に対象を選択し,外来受診時に調査説明書を配布した.対象が自由意思により,研究者との初回面接を行った.初回面接で口頭と書面を用いて説明を行い,参加同意書を提出した後に調査を開始した.調査開始時に電子カルテの閲覧で基本属性を収集した.また,遠隔看護プログラムの介入前後にセルフケア能力尺度(Self-Care Agency Questionnaire; SCAQ)を用いて,セルフケア能力を測定した.
2) NPPVを受けている慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムNPPVを受けている慢性呼吸不全患者に対する遠隔看護プログラムは,研究者が開発した遠隔看護システム(COMPAS)を用いて,NPPVを受けている慢性呼吸不全患者が個々の心身の状態に応じて,主体的にセルフモニタリングや症状への対処行動などを実施できるように計画した.実施期間は3カ月とした.本プログラムは,主に遠隔看護システムを用いた遠隔モニタリング,テレビ電話等を用いた健康相談および情報提供から成り立つ(図1).対象は1日1回,タブレット端末に表示される質問項目に対して,10分程度の作業時間で選択肢の中から回答し,身体状況に関するデータをタブレット端末よりサーバーへ送信した.質問内容はバイタルサイン,療養生活上の呼吸器症状,食事摂取状況,排泄状況,服薬状況,呼吸器以外の身体症状,医療者への質問内容であった.送信されたデータに基づき,事前に医師と取り決めた各質問項目のトリガー値によって看護支援を決定した.状態の変化がみられた場合,テレビ電話や電話,メールなどを用いて情報収集を行い,呼吸リハビリテーションマニュアルに基づき看護支援を行った14).例えば,SpO2の場合,SpO2 89%をトリガー値とし,それ以下であれば患者に電話で緊急連絡を行い,会話が可能な状態であればテレビ電話を用いた原因検索と状態確認を行った.
データ収集項目は,基本属性(年齢,性別,疾患名,NPPV継続年数,HOTの有無,HOT継続年数,喫煙経験の有無,同居家族の有無,ADL,肺機能検査値),SCAQとした.
ADLの評価尺度はPulmonary ADL(P-ADL)を用いた.P-ADLは,呼吸器疾患特異的なADL尺度として開発され,総得点208点で信頼性・妥当性が検証されている15).SCAQは慢性疾患患者のセルフケア能力を評価する尺度であり,Cronbachのα係数はα=0.91,信頼性・妥当性が検証されている16,17,18).“健康管理法の獲得と継続”,“体調の調整”,“健康管理への関心”,“有効な支援の獲得”の4下位尺度で構成される.5段階リッカート尺度の自記式質問紙で,総得点および各下位尺度得点を算出し,得点が高いほどセルフケア能力が高いことを示す(145点満点).
4) 分析方法対象を介入前のSCAQ総得点50パーセンタイル値でセセルフケア能力が低い者(以下,低セルフケア能力群)と非低セルフケア能力群に分けた.各群で介入前後のSCAQを,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較検討した.さらに,対象のセルフケア能力による介入効果の違いを検証するため,各群で介入前後のSCAQから変化量(介入後-介入前)を算出し,Mann-WhitneyのU検定を用いて,低セルフケア能力群と非低セルフケア能力群の得点を比較した.
4. 倫理的配慮本研究は,東北大学大学院医学系研究科の研究倫理委員会の承認を得た上で実施した(承認番号:2017-1-400).本調査は,世界医師会が制定する「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則を遵守し,「東北大学における人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則って実施した.
調査協力施設から紹介を受け,参加協力の説明を行った対象は15名(男性9名,女性6名)であった.対象の年齢は71.0歳,BMIは24.8,NPPV実施年数は2.0年であった(中央値).原疾患はCOPDと肺胞低換気症候群が7割以上であった.HOT実施者は8名で,実施年数は1.3年であった(中央値).P-ADL得点168.0点,%肺活量62.7%,1秒率73.1%であった(中央値).喫煙経験者10名(66.7%),家族と同居する者13名(86.7%)であった.介入前のSCAQ総得点の中央値127.0で,四分位範囲(interquartile range; IQR)は117.0-136.0であった.介入前のセルフケア能力が低い者とそれ以外の者との介入前後のセルフケア能力を比較するため,介入前のSCAQ総得点の50パーセンタイル値(127点)未満を低セルフケア能力群,127点以上を非低セルフケア能力群に分けた(表1).
項目 | 全体 | 低セルフケア能力群 | 非低セルフケア能力群 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
n=15 | n=7 | n=8 | |||||
n | % | n | % | n | % | ||
性別 | |||||||
男性 | 9 | 60.0 | 4 | 57.1 | 5 | 62.5 | |
女性 | 6 | 40.0 | 3 | 42.9 | 3 | 37.5 | |
疾患 | |||||||
COPD | 6 | 40.0 | 5 | 71.4 | 1 | 25.0 | |
肺胞低換気症候群 | 5 | 33.3 | 2 | 28.6 | 3 | 12.5 | |
肺結核後遺症 | 2 | 13.3 | 2 | 37.5 | |||
脊椎カリエス | 1 | 6.7 | 1 | 12.5 | |||
側弯症 | 1 | 6.7 | 1 | 12.5 | |||
HOT | |||||||
有 | 8 | 53.3 | 5 | 71.4 | 3 | 37.5 | |
無 | 7 | 46.7 | 2 | 28.6 | 5 | 62.5 | |
以前の喫煙 | |||||||
有 | 10 | 66.7 | 5 | 71.4 | 5 | 62.5 | |
無 | 4 | 33.3 | 2 | 28.6 | 3 | 37.5 | |
同居家族 | |||||||
有 | 13 | 86.7 | 6 | 85.7 | 7 | 87.5 | |
無 | 2 | 13.3 | 1 | 14.3 | 1 | 12.5 | |
中央値 | IQR | 中央値 | IQR | 中央値 | IQR | ||
年齢 | 71.0 | 68.0-80.0 | 71.0 | 68.0-80.0 | 70.5 | 66.5-86.3 | |
BMI | 24.8 | 20.0-29.2 | 24.6 | 18.0-36.4 | 24.8 | 23.6-26.7 | |
NPPV実施年数(年) | 2.0 | 0.5- 4.1 | 2.0 | 0.3- 2.3 | 4.0 | 1.0- 5.0 | |
HOT 実施年数(年) | 1.3 | 0.4- 3.5 | 0.5 | 0.3- 3.0 | 2.0 | 0.5- 2.0 | |
ADL | |||||||
P-ADL(点) | 168.0 | 154.0-187.0 | 162.0 | 139.0-175.0 | 183.5 | 168.0-188.8 | |
肺機能 | |||||||
%肺活量 | 62.7 | 45.0-77.9 | 74.0 | 51.3-80.1 | 62.0 | 34.1-69.6 | |
1秒率 | 73.1 | 50.0-78.1 | 62.9 | 42.3-92.2 | 73.1 | 50.0-78.1 |
IQR: Interquartile Range
低セルフケア能力群7名の介入前後のSCAQの比較検討を行った(表2).総得点の中央値(IQR)は,介入前が117.0(108.0-120.0),介入後が123.0(121.0-128.0)であった.介入前と介入後を比較すると,総得点に有意差はなかった.下位尺度は,“健康管理法の獲得と継続”は37.0(33.0-39.0)から40.0(37.0-45.0),“体調の調整”は29.0(27.0-29.0)から29.0(27.0-32.0),“健康管理への関心”は29.0(29.0-32.0)から32.0(32.0-33.0),“有効な支援の獲得”は19.0(17.0-22.0)から23.0(22.0-25.0)であった.介入前と介入後を比較すると,介入後の“健康管理への関心”と“有効な支援の獲得”得点が有意に高くなった(p<0.05).
n=7 | |||||
---|---|---|---|---|---|
項目 | 介入前 | 介入後 | P | ||
中央値 | IQR | 中央値 | IQR | ||
セルフケア能力尺度(SCAQ) | |||||
健康管理法の獲得と継続 | 37.0 | 33.0- 39.0 | 40.0 | 37.0- 45.0 | 0.233 |
体調の調整 | 29.0 | 27.0- 29.0 | 29.0 | 27.0- 32.0 | 0.528 |
健康管理への関心 | 29.0 | 29.0- 32.0 | 32.0 | 32.0- 33.0 | 0.027 |
有効な支援の獲得 | 19.0 | 17.0- 22.0 | 23.0 | 22.0- 25.0 | 0.042 |
総得点 | 117.0 | 108.0-120.0 | 123.0 | 121.0-128.0 | 0.063 |
P<0.05 |
Wilcoxon の符号付き順位検定
非低セルフケア能力群8名の介入前後のSCAQの比較検討を行った(表3).総得点の中央値(IQR)は,介入前が136.0(133.0-137.0),介入後が134.5(129.3-134.5)で,介入前後に有意差がなかった.下位尺度にも有意差がなかった.
n=8 | |||||
---|---|---|---|---|---|
項目 | 介入前 | 介入後 | P | ||
中央値 | IQR | 中央値 | IQR | ||
セルフケア能力尺度(SCAQ) | |||||
健康管理法の獲得と継続 | 46.5 | 42.3- 49.5 | 45.5 | 44.0- 48.0 | 0.445 |
体調の調整 | 32.5 | 31.3- 34.8 | 34.0 | 33.0- 34.8 | 0.288 |
健康管理への関心 | 35.0 | 33.5- 35.0 | 34.0 | 33.3- 35.0 | 0.059 |
有効な支援の獲得 | 23.5 | 17.5- 24.0 | 21.0 | 18.0- 25.0 | 0.864 |
総得点 | 136.0 | 133.0-137.0 | 134.5 | 129.3-134.5 | 0.725 |
P<0.05 |
Wilcoxon の符号付き順位検定
低セルフケア能力群と非低セルフケア能力群それぞれに介入によるSCAQ変化量を算出し,群間比較を行った(表4).総得点の変化量の中央値(IQR)は低セルフケア能力群8.0(-1.0- 21.0),非低セルフケア能力群0.0(-5.3- 4.0)であり,低セルフケア能力群は非低セルフケア能力群に比べて有意に高かった(p<0.05).“健康管理への関心”下位尺度の変化量は低セルフケア能力群3.0(1.0- 4.0),非低セルフケア能力群-0.5(-1.0- 1.0)であり,低セルフケア能力群は非低セルフケア能力群に比べて有意に高かった(p<0.05).
n=15 | |||||
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項目 | 低セルフケア能力群 (n=7) | 非低セルフケア能力群 (n=8) | P | ||
中央値 | IQR | 中央値 | IQR | ||
セルフケア能力尺度(SCAQ) | |||||
健康管理法の獲得と継続 | 2.0 | -2.0- 8.0 | -2.0 | -4.5-3.0 | 0.115 |
体調の調整 | 0.0 | -2.0- 5.0 | 1.5 | 0.0-2.0 | 0.815 |
健康管理への関心 | 3.0 | 1.0- 4.0 | -0.5 | -1.0-0.0 | 0.002 |
有効な支援の獲得 | 5.0 | 1.0- 6.0 | 0.5 | -1.8-1.8 | 0.071 |
総得点 | 8.0 | -1.0-21.0 | 0.0 | -5.3-4.0 | 0.048 |
P<0.05 |
Mann-WhitneyのU検定
本研究は,NPPVを受けている慢性呼吸不全患者に実施した遠隔看護プログラムの効果を介入前後のセルフケア能力の比較で検討した.介入前のセルフケア能力が低い者とそれ以外の者の介入効果の違いを明らかにするため,介入前のSCAQ総得点によって2群に分けて分析を行った.その結果,本遠隔看護プログラム介入は,セルフケア能力が低い者において,セルフケア能力の向上が見られた.
対象であるNPPVを受けている慢性呼吸不全患者は,日頃より労作時の息切れ,咳嗽などの呼吸器症状に加え,高二酸化炭素血症のため,頭がぼんやりすることやマスクの圧迫感などの症状を自覚して療養生活を送っている19).II型慢性呼吸不全患者は病態が複雑で,より早急に的確な医療的介入が必要となる.そのため,自らの呼吸器症状や呼吸状態の観察を続けることは重要なセルフケアである.これまでに療養日誌やタブレット端末を用いた介入効果が複数示され,ツールを用いて自身の平常時の状況を知ること,症状の気づきを促せることが報告されている20,21,22).本遠隔看護プログラムは,患者がバイタルサイン測定や症状の観察を毎日行い,その結果をタブレット端末で遠隔看護システム(COMPAS)を用いて,医療者に報告した.COMPASを用いることで,患者は自身のバイタルサインや体調をタブレット端末に回答すると,タブレット端末画面に当日または過去1カ月間の身体状態をグラフや表で表示することができた.そのため,患者自身が体調の変化を容易に確認することができたと考えられる.したがって,患者はセルフモニタリングが効果的に行えたことによって,“健康管理への関心”の向上につながった可能性があると考えた.SCAQにおける“健康管理への関心”は,健康管理への意思をもち検査結果や健康に関する話題に関心を向ける能力を示す16).すなわち,患者は本遠隔看護プログラムに参加することによって,セルフモニタリングを促進することができ,健康管理の意思が高まり,体調の変化に関心を示した可能性がある.
さらに,患者がCOMPASに入力した身体情報は,遠隔モニタリングで遠隔地の医療者に共有された.これまでに慢性呼吸不全患者を対象とした定期的な電話介入が行われることにより,動機づけや自己効力感,対処行動の改善が示されている1,23).電子ツールを用いて,医療専門職が患者の身体情報をタイムリーに確認することが,セルフケアの動機づけとなった可能性がある.慢性呼吸不全患者は入院中の教育内容を自己解釈しながら療養生活を送っており,疑問や悩みを抱えたままセルフケア行動の選択を迫られる24).本遠隔看護プログラムに参加することによって,患者は容易に医療者への連絡が行うことができた.そのため,医療者は患者が健康相談を必要とするタイミングを察知することができた.また,患者に生じた身体症状に関する疑問や悩みに対して,テレビ電話等を用いることで,医療者との健康相談や情報提供が速やかに行われ,新たな知識や技術を獲得できていたと考えられる.効果的にセルフマネジメント支援を行うためには,行動変容理論が用いられ,対象の意識が向いた際にタイミングよく教育や説明を行うことが重要である14,25).本庄は,入院中にセルフケアが実施できていても,退院後の日常生活でセルフケアの実施が困難になる者もいるため,継続的な対象に合わせたセルフケア支援の必要性を説明している26).本遠隔看護プログラムでは予め時期を決めず,対象が必要とした時期に合わせてテレビ電話等による健康相談や情報提供を行った.患者が必要とした時期に介入を行ったことによって,より円滑に患者の行動変容を促し,健康管理への意欲や健康に関心を向けることができ,セルフケア能力を向上できた可能性がある.以上のことより,本遠隔看護プログラムのセルフケア能力が低い患者への介入効果として,セルフケア能力を向上させる可能性が示唆された.
一方,低セルフケア能力群の基本属性を確認すると,COPDの割合とHOT実施率が7割以上であり,HOT実施年数は半年程度であった.これらのことから,低セルフケア能力群にはHOTを導入して間もないCOPD患者が多く含まれていた可能性がある.HOTを導入することにより,様々なセルフケアを習得しながらの生活となる.今回,本遠隔看護プログラムに参加したことで,効果的にセルフケア能力を高めることができた可能性が考えられる.また,低セルフケア能力群はP-ADLが低い集団でもあった.P-ADLが低いことは,呼吸器症状が生活動作に強い影響を与えていることを示す.すなわち,このような呼吸器症状の管理が必要な患者においても,本遠隔看護プログラムは効果的である可能性が示唆された.
研究の限界と課題は,プログラム効果の検証期間や一般化が挙げられる.本プログラムの介入期間は3カ月であったが,高齢者の行動変容には6カ月以上を要することが報告されている24).今後は長期的な効果の検証が必要である.また,本プログラムは呼吸リハビリテーションマニュアルに沿って計画されたが,自由度の高い包括的な介入であった可能性は否めない.本研究において介入頻度を示すことができていないため,今後は誰が実践しても同様の効果が得られるように再現性の検証が必要である.さらに,本研究では対象者数が限られていたこと,研究デザインに前後比較試験を用いたことから,母集団にバイアスが生じた可能性は否定できない.そのため,本研究結果の一般化は困難であると考えられる.今後,対象者数を拡大した上で無作為化比較試験を用いた効果検証を行うことが課題と言える.
本研究の実施にあたり,ご協力いただきました対象者の皆様,医療機関のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます.なお,本研究はJSPS科研費JP16K20757,JP19K10853の助成を受けたものです.
本研究は第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年10月,名古屋)で発表し,医療の質特別賞を受けました.東北大学大学院博士後期課程の学位論文の一部に加筆修正を加えたものであることを記します.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.