2024 Volume 32 Issue 2 Pages 191-198
【目的】本研究の目的は,肺炎で一般病棟に入院した症例に対して,多職種連携を行いやすい環境を作るための取り組みを行い,実施前後の比較をして,その効果を検証する事である.
【対象と方法】対象は,2014年と2018年に肺炎で一般病棟に入院し,呼吸リハを実施した患者である.方法は,2年間の患者の属性,併存疾患,入院時状態,経過や転帰に関して2群間比較をした.次に,各アウトカムに対して,取り組みがどの程度の影響を及ぼしたかを重回帰分析を用いて解析した.
【結果】2014年は137例,2018年は137例が解析対象となった.2群間比較では,属性比較,併存疾患等に有意差を認めなかった.治療経過で,2018年では呼吸リハ(p<0.01)や経腸栄養(p<0.01)開始に有意差を認めた.重回帰分析においても,年度別は呼吸リハや栄養療法の早期開始,入院期間に影響を与えていた.
【結論】肺炎患者に対して,一般病棟においても多職種連携による介入の重要性が示唆された.
我が国では急速な超高齢社会を迎え,肺炎患者が急増している.2020年の厚生労働省の死因に関する調査では,肺炎は5位,誤嚥性肺炎は6位となっており1),社会的に大きな問題になっている.肺炎患者に対する呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の目的は,呼吸機能の改善と運動・身体機能の低下等の入院関連機能障害(hospitalization-associated disability; HAD)2)を最低限に食い止め,入院前の日常生活活動(activities of daily living; ADL)を早期に獲得し,元の生活場所に戻れるよう支援を行う事である.近年の肺炎に関するガイドラインでは,薬物療法を中心に口腔ケアや摂食嚥下リハに関してその必要性が記載されているが3),呼吸リハに対してはその記述は皆無である.
当院においても,多くの高齢肺炎患者が入院し,積極的な呼吸リハを実施している.呼吸リハや経腸栄養に関しての先行研究では,重症患者には48時間以内の早期離床4)や経腸栄養開始5)が推奨されているが,2014年に当院で呼吸リハ実施患者に対する検証では,入院後呼吸リハ開始までの日数(呼吸リハ開始日)が平均6.5日,経腸栄養開始までの日数(栄養開始日)が7.0日であった.理学療法士による単職種での呼吸リハ実施のみでは早期離床や経腸栄養の開始日を短縮させる事が困難であり,多職種連携による介入の必要性を感じた.そこで2015年から院内において多職種連携を行いやすい環境を作る取り組みを開始した.
多職種連携に関しての先行研究では,早期栄養療法による効果6)や集中治療室(intensive care unit; ICU)での連携に関する報告7,8)はあるが,一般病棟での報告は数が少ない.そこで,多職種での介入を行った方が,理学療法士による呼吸リハ単独の介入より呼吸リハや経腸栄養が早期に開始でき,入院期間短縮等の効果が大きいと仮設を立てた.本研究の目的は,多職種での包括的呼吸リハの取り組みの前後での効果を検討する事である.
対象は,取り組み前の2014年4月1日から2015年3月31日まで(前期群)と取り組み後の2018年4月1日から2019年3月31日まで(後期群)の2年間で,当院に細菌性肺炎または誤嚥性肺炎の診断で入院し,呼吸リハを実施した65歳以上の患者とした.2015年から開始した後述する多職種連携が行える環境作りの活動により,患者の情報共有や,呼吸リハ実施以外の時間や休日に,理学療法士から看護師に対して,ポジショニングや離床に関する依頼内容が浸透し,実施できるようになった2018年を比較対象の年度とした.除外基準は,ICUでの呼吸・全身管理を要した患者,呼吸リハ実施が1週間未満,非定型肺炎例とした.
倫理的配慮として,本研究は松山市民病院の個人情報基準に則り,倫理委員会の許可を得て実施した(受理番号:2022021601mshe).オプトアウトに関しては,当院ホームページにてその情報を掲載した.
2. 方法研究デザインは単施設後ろ向き観察研究である.以下の評価項目ならびに治療経過の内訳に関して,対象者の観察記録より後方視的に調査した.
1) 評価項目a.対象者背景
年齢,性別,体格指数(body mass index; BMI),診断名[(細菌性肺炎/誤嚥性肺炎)(診療録から担当医の診断より抜粋)],入院前介護保険認定介護度,入院前生活場所(自宅/施設/他院),家族構成(独居/同居),入院時機能的自立度評価(functional independence measure; FIM) 点数,入院時血液および生化学検査所見 [C反応性蛋白,尿素窒素・血清クレアチニン比,推算糸球体濾過値,アルブミン,総蛋白,総コレステロール値],CONUT点数を調査した.
b.肺炎重症度
日本呼吸器学会呼吸器感染症に関する「成人市中肺炎診療ガイドライン」が定めたA-DROPシステム9)を用い,対象者の肺炎重症度を分類した.
c.併存疾患
併存疾患に関しては肺炎,脳血管疾患,循環器疾患,呼吸器疾患,糖尿病の既往の有無と認知症の有無を調査した.
d.治療経過
入院後呼吸リハ開始日,端坐位実施人数,歩行実施人数,呼吸リハ開始後端坐位開始までの日数(端坐位開始日),歩行開始までの日数(歩行開始日),経腸栄養実施人数,入院後経腸栄養開始日(経管栄養も含める),抗生剤使用期間,作業療法および言語聴覚療法の介入有無,一日平均呼吸リハ実施単位数(総取得単位数/総実施日数),肺炎再燃の有無(入院後1週間以上経過後に37.5度以上の発熱および胸部レントゲン上に新たな浸潤陰影の出現)について調査した.
e.転帰
入院期間,転帰(在宅/施設/転院/死亡),在宅から入院し在宅へ退院した人数,退院時FIM点数,入院時と退院時のFIM変化率,入院前に経口摂取が可能で退院時も経口摂取可能であった人数,総医療点数に関して調査した.
2) 呼吸リハプログラム前期と後期では,呼吸リハ担当の理学療法士5名が実施し,1名の入れ替わりがあった.
担当医から呼吸リハの処方が出た当日から介入した.頻度は,1日20~40分で1週間に5日実施した.急性期での実施内容は,早期離床とポジショニングを中心とした介入を展開した.早期離床は,全身状態が安定している事を確認して端坐位から開始し,バイタルサインが安定していれば早期に歩行へと進めた.また,ポジショニングは唾液等の誤嚥予防ならびに酸素化改善,気道分泌物のドレナージ促進を目的に,対象者の呼吸や酸素化の状態に合わせて側臥位,前傾側臥位,頭部挙上位を選択した.また,喀痰量の多い症例に関しては気道クリアランス法を実施した.離床や体位ドレナージに伴う喀痰の移動や肺の拡張状態を評価し,意思疎通の可能な症例はアクティブサイクル呼吸法(active cycle breathing technic; ACBT)を使用した.咳嗽反射が減弱または,自身による喀痰喀出が不十分な症例には吸引操作を実施した.
入院後のADLは理学療法士と看護師により,その安全性や酸素化等を評価し,自立している動作に関してはその活動は制限をせず,カンファレンスや診療録を通して情報の共有を図った.さらに血液検査や胸部画像所見の改善とともに,筋力トレーニングや有酸素運動等の運動療法の負荷量を徐々に増加した.
3) 多職種による呼吸リハの取り組み2014年までの問題は,担当医による呼吸リハや経腸栄養開始の指示の遅延や一人の患者に対して,看護師との情報共有や呼吸リハ介入の重要性の認識不足であると考え,下記の取り組みを実施した.
a.担当医に対して
連携目標は人間関係と信頼関係の構築である.多職種カンファレンス等を通して早期呼吸リハや栄養療法介入の必要性を訴え,看護師からもリハ処方や栄養療法開始の有無の確認や依頼を行ってもらいやすい環境作りを行った.また,一人一人の症例に対して改善結果を共有し,呼吸リハの効果を示した.その際は,共通言語を意識したコミュニケーションを図り,経過で血液や画像検査の評価が必要な時に,依頼しやすい人間関係を構築できるよう努めた.
b.看護師に対して
目標は環境調整である.呼吸リハ実施以外の時間や休日でのポジショニングや離床を依頼しやすい環境作りを行った.また,看護師の呼吸リハやケアに関する意識改革のために,理学療法士による病棟で勉強会を定期的に開催した.その内容は,フィジカルアセスメント,画像所見の見方,ポジショニングや体位ドレナージ等である.勉強会で得た知識をもとに,ただポジショニングや離床を依頼通り行うのではなく,酸素化,喀痰量の増加や変化を意識した介入と,その効果を画像所見等で確認する意識付け,さらに結果の改善情報を共有し喜びを共感する事で呼吸リハの必要性や重要性を再認識する働きかけを行った.また依頼の際は,写真や文章化した内容をベッドサイドに掲載し,より具体的で分かりやすいものになるように配慮した.これらの結果,看護師からポジショニング等の情報を収集しようという姿勢の変化や,画像所見等を診る習慣がついたとの意見があった.
c.リハ職種に対して
病態把握や呼吸リハ実施内容の検討会を継続的に実施した.また,他職種とのコミュニケーションスキルや呼吸リハ実施以外の時間のポジショニングや離床,運動に関してのコーディネート能力が向上する事を重視した.さらに喀痰吸引に関する勉強会を開催し,病院長や病棟看護師長の許可のもと,各担当セラピストが吸引操作を行える環境を整備した.
4) 統計解析方法前期群と後期群において,主要アウトカムを入院期間,副次的アウトカムを呼吸リハ開始日,経腸栄養開始日,総医療点数とし,2群間を比較する事で多職種連携の効果を検討した.
まず,入院時属性,併存疾患,検査データ,治療経過,転帰に関して単変量解析として2群間比較を実施した.次に,目的変数を単変量解析で有意差のあった各アウトカム,説明変数を前期群と後期群 (各年度),またA-DROP重症度分類,年齢,介護度,BMI,診断名を調整因子とし,各年度がアウトカムに与えた影響について重回帰分析を用いて検討した.
カテゴリー変数は対象者数と比率(%)で,連続変数は中央値[四分位範囲]で示した.統計手法として,連続変数はMann-WhitneyのU検定,カテゴリー変数はFisherの正確確率検定(χ二乗検定)を使用した.有意水準は5%とした.統計解析ソフトは,EZR(Version1.54)を使用した.
対象者のフローダイアグラムを図1に示す.対象症例は,前期群は137例,後期群では137例となった.2群間の属性,併存疾患と血液の比較結果をそれぞれ表1,2に示した.いずれの因子にも有意差がなかった.
前期群 (n=137) | 後期群 (n=137) | p-value | |
---|---|---|---|
年齢(歳) | 85.0[79.0-90.0] | 86[82-90] | 0.21 |
性別 男性 | 74(54.0) | 75(45.3) | 1.00 |
BMI(kg/m2) | 19.4[17.6-22.4] | 19.2[16.9-21.7] | 0.51 |
A-DROP重症度分類 | |||
軽症 | 2( 1.5) | 2( 1.5) | 1.00 |
中等症 | 76(55.5) | 85(62.1) | 0.33 |
重症 | 42(30.7) | 31(22.6) | 0.17 |
最重症 | 17(12.3) | 19(13.9) | 0.86 |
診断名 非誤嚥性肺炎 | 44(32.1) | 55(40.1) | 0.21 |
介護保険認定介護度 | |||
自立・支援1・2 | 44(32.1) | 54(39.4) | 0.26 |
要介護1~3 | 48(35.1) | 46(33.6) | 0.26 |
要介護4・5 | 45(32.8) | 37(27.0) | 0.37 |
入院前生活場所 | |||
自宅 | 83(60.6) | 80(58.4) | 0.81 |
施設 | 43(31.4) | 41(29.9) | 0.90 |
他院 | 11( 8.0) | 16(11.7) | 0.42 |
家族構成 独居 | 47(34.3) | 47(34.3) | 1.00 |
入院時FIM | 28.0[22.0-50.0] | 39.0[21.0-67.0] | 0.18 |
中央値[四分位範囲],対象者数(%)
BMI; body mass index, FIM; functional independence measure
前期群 (n=137) | 後期群 (n=137) | p-value | |
---|---|---|---|
肺炎既往 有 | 36(26.3) | 42(30.7) | 0.50 |
呼吸器疾患 有 | 50(36.5) | 45(32.8) | 0.61 |
心疾患 有 | 64(46.7) | 47(34.3) | 0.06 |
脳血管疾患 有 | 67(48.9) | 60(43.8) | 0.48 |
糖尿病 有 | 30(21.9) | 37(27.0) | 0.40 |
認知機能障害 有 | 84(61.3) | 76(55.5) | 0.39 |
CRP(mg/dl) | 6.8[3.5-12.6] | 5.7[2.1-9.9] | 0.07 |
BUN/Cre(mg/dl) | 23.3[18.2-32.2] | 23.4[17.9-32.6] | 0.26 |
eGFR | 53.0[39.5-81.0] | 59.0[41.0-75.0] | 0.69 |
ALB(g/dl) | 3.2[2.8-3.6] | 3.1[2.7-3.5] | 0.37 |
TLC(mm3) | 938.5[696.0-1266.8] | 931.5[633.8-1226.5] | 0.50 |
Tcho(mg/dl) | 157.0[130.5-185.8] | 145.5[129.0-175.5] | 0.36 |
CONUT点数(点) | 5[3-7] | 5[3-7] | 0.96 |
中央値[四分位範囲],対象者数(%)
CRP; c-reactive protein, BUN; blood urea nitrogen, CRE; creatinine,
eGFR; estimated glomerular filtration rate, ALB; albumin,
TLC; total lymphocyte count, Tcho; total cholesterol
後期群では,呼吸リハ開始日[4.0 (2.0-7.0) 日 vs. 2.0 (1.0-5.0) 日,p<0.01],経腸栄養開始日[3.0(1.0-7.0)日 vs. 1.0 (0-4.0) 日,p<0.01]に関して有意に早期開始が出来ていた.また,端坐位開始日[0 (0-1.0) 日 vs. 0 (0-0) 日,p<0.01],歩行開始日 [1.0 (0-4.0)日 vs. 0 (0-2.0) 日,p<0.01] において有意差を認めた.
前期群 (n=137) | 後期群 (n=137) | p-value | |
---|---|---|---|
リハ開始日(日) | 4.0[2.0-7.0] | 2.0 [1.0-5.0] | <0.01 |
端坐位実施可能 | 115(83.9) | 125(91.2) | 0.10 |
リハ開始後端坐位開始日(日) | 0[0-1.0] | 0[0-0] | <0.01 |
歩行実施可能 | 69(50.4) | 85(62.0) | 0.07 |
リハ開始後歩行開始日(日) | 1.0[0-4.0] | 0[0-2.0] | 0.01 |
経腸栄養可能 | 128(93.4) | 125(91.2) | 0.65 |
経腸栄養開始日(日) | 3.0[1.0-7.0] | 1.0[0-4.0] | <0.01 |
抗生剤投与日数(日) | 12.0[8.0-15.0] | 11.0[8.0-17.0] | 0.59 |
OT介入 有 | 39(28.5) | 30(21.9) | 0.27 |
ST介入 有 | 90(65.7) | 83(60.6) | 0.45 |
リハ単位数(総単位数/実施日数) | 1.4[1.0-1.7] | 1.1[1.0-1.3] | <0.01 |
肺炎の再燃有 | 28(20.4) | 27(19.6) | 0.88 |
中央値[四分位範囲],対象者数(%)
OT; occupational therapist, ST; speech-language-hearing therapist
入院期間について,後期群[31.0 (21.0-49.0) 日 vs. 23.0 (14.0-38.0) 日,p<0.01] で有意な短縮効果があった.在宅から入院し在宅へ退院した症例に関して,後期群[41例 (49.4%) vs. 61例 (75.3%),p<0.01] で有意に増加した.また,総医療点数では,[102,777 (77,046-160,113) 点 vs. 94,716 (67,011-150,583) 点,p=0.09]有意差を認めなかった.
前期群 (n=137) | 後期群 (n=137) | p-value | |
---|---|---|---|
入院期間(日) | 31.0[21.0-49.0] | 23.0[14.0-38.0] | <0.01 |
退院時の転帰 | |||
在宅 | 42(30.7) | 66(48.2) | <0.01 |
施設 | 38(27.7) | 33(24.1) | 0.58 |
転院 | 42(30.7) | 24(17.5) | 0.02 |
死亡 | 15(10.9) | 14(10.2) | 1.00 |
在宅から入院し在宅へ退院 | 41(49.4) | 61(75.3) | <0.01 |
退院時FIM(点) | 35.0[25.0-80.0] | 45.5[22.5-90.5] | 0.21 |
評価可能人数(n) | (n=122) | (n=123) | |
入院時-退院時FIM変化率(%) | 7.7[0-29.2] | 7.1[0-23.0] | 0.61 |
入院時-退院時食事摂取方法変化なし | 91(74.6) | 100(81.3) | 0.22 |
総医療点数(点) | 102,777 [77,046-160,113] | 94,716 [67,011-150,583] | 0.09 |
中央値[四分位範囲],対象者数(%)
FIM; functional independence measure
入院期間では,年度別[編回帰係数(B)=-8.90,t統計量(t)=3.20,p<0.01]とBMI[B=-0.89,t=-1.98,p=0.05]の影響が大きく.呼吸リハ開始日は,年度別[B=-2.23,t=-2.53,p<0.01],経腸栄養開始日は,年度別[B=-2.77,t=-3.12,p<0.01],A-DROP重症度分類[B=1.49,t=3.30,p<0.01],診断名[B=2.97,t=2.73,p<0.01],年齢[B=-0.13,t=-2.20,p=0.03]が影響のある因子として抽出された.
Model 1 入院期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|
B | 95%CI | t | VIF | p-value | |
Intercept | 72.26 | 33.67-110.86 | 3.69 | <0.01 | |
年度別 | -8.80 | -15.21--2.59 | -2.78 | 1.03 | <0.01 |
A-DROP | 2.85 | -0.33-6.03 | 1.76 | 1.07 | 0.08 |
BMI | -0.89 | -1.78-0.01 | -1.98 | 1.04 | 0.05 |
介護度 | 0.64 | -0.88-2.16 | 0.82 | 1.63 | 0.41 |
診断名 | -0.83 | -8.78-7.11 | -0.21 | 1.51 | 0.84 |
年齢 | -0.28 | -0.70-0.15 | -1.29 | 1.11 | 0.19 |
Adjusted R-squared=0.47 |
Model 2 入院後呼吸リハ開始までの日数 | |||||
---|---|---|---|---|---|
B | 95%CI | t | VIF | p-value | |
Intercept | 17.39 | 6.76-28.03 | 3.22 | <0.01 | |
年度別 | -2.23 | -3.97--0.49 | -2.53 | 1.02 | 0.01 |
A-DROP | 0.14 | -0.73-1.02 | 0.32 | 1.07 | 0.75 |
BMI | -0.24 | -0.49-0.01 | -1.95 | 1.04 | 0.05 |
介護度 | -0.03 | -0.45-0.39 | -0.12 | 1.63 | 0.90 |
診断名 | -0.38 | -2.57-1.81 | -0.34 | 1.51 | 0.73 |
年齢 | -0.07 | -0.19-0.05 | -1.21 | 1.11 | 0.23 |
Adjusted R-squared=0.23 |
Model 3 入院後経腸栄養開始までの日数 | |||||
---|---|---|---|---|---|
B | 95%CI | t | VIF | p-value | |
Intercept | 12.76 | 2.29-23.22 | 2.4 | 0.02 | |
年度別 | -2.77 | -4.53--1.02 | -3.12 | 1.03 | <0.01 |
A-DROP | 1.49 | 0.60-2.39 | 3.29 | 1.07 | <0.01 |
BMI | -0.08 | -0.33-0.17 | -0.65 | 1.04 | 0.52 |
介護度 | 0.38 | -0.03-0.79 | 1.79 | 1.58 | 0.08 |
診断名 | 2.97 | 0.82-5.11 | 2.73 | 1.46 | <0.01 |
年齢 | -0.13 | -0.25--0.01 | -2.21 | 1.12 | 0.03 |
Adjusted R-squared=0.27 |
B; partial regression coefficient, CI; confidence interval, t; t統計量,VIF; variance inflation factor, BMI; body mass index
本研究は,2014年と2018年に,細菌性肺炎または誤嚥性肺炎の診断で入院し呼吸リハを実施した症例に対して,一般病棟での多職種連携による効果検証を行った報告である.
今回の検討の結果,入院期間の短縮や在宅復帰者数の増加等の改善効果を認めた.また,後期群では前期群と比較して,呼吸リハや経腸栄養の開始が中央値で2.0日間短縮出来ており,重回帰分析で年度別が入院期間短縮に影響を与えていた事からも,担当医の早期介入に対する認識の変化や看護師から担当医への早期開始の依頼等が行えた結果である思われる.
先行研究では,高齢肺炎患者,特に誤嚥性肺炎患者では入院時には脱水や低栄養状態に陥っている事が多いにもかかわらず,入院後1週間程度は末梢点滴から開始液や維持輸液のみで管理される事も一般的で,入院早期のエネルギー摂取量はかなり不足しやすい10).これにより低栄養状態をさらに悪化させ,身体機能の回復に悪影響を及ぼし11,12,13),四肢骨格筋や嚥下関連筋の萎縮14),ADL低下15),入院期間延長16),在宅復帰困難17),死亡率上昇16,18)等の合併症につながる可能性が示されている.今回,FIM変化率は両群とも約7%であり有意差はないが,その原因として,入院時に要介護4・5症例が約30%存在した事や呼吸リハ開始時より安全性を評価し,積極的なADLを継続できた結果であると考えられる.また,HADに関しては70歳以上の高齢者の約3分の1で発症する2)と言われている.入院時と退院時の食事摂取方法の変化の有無では有意差は無かったが,後期群では約80%の症例で変化が無く経口摂取できていたことを考えると,早期介入によりHADを予防でき,入院期間の短縮,在宅復帰率の向上に寄与できた可能性がある.
多職種連携に関する報告では,ICUでのABCDEFバンドル5,6)やプロトコルの使用19)に関するものが多いが,その使用は看護師のやりがいにつながり,離職率の低下20)や入院医療費の削減効果の可能性4)などの報告がある.今回の検討では,入院医療費の有意な減少,バンドルやプロトコルの使用は無いが,一般病棟において意識変化のためのカンファレンスや勉強会の開催により,一人の患者に対して同じ治療ベクトルを向くことが出来ており,また病態の改善効果を共有する事は,働き甲斐や呼吸リハへの協力性向上に繋がった可能性が示唆された.
本研究にはいくつかの課題と限界がある.まず単施設での後方視的検討である事,さらに歴史的対照群であり対象者背景が不一致している事などがある.また,今回の対象者として,呼吸リハや多職種介入による効果を出せる期間の妥当性や短期間介入に軽症例が多く含まれていた可能性を考慮し,1週間以上呼吸リハを実施した者としたが,年度別の症例の選択的バイアスや交絡因子の調整で,これら以外の要因が影響した可能性が否定できない.さらに,当院の取り組みに関して,肺炎,特に誤嚥性肺炎患者の担当医は,多くの診療科にまたがっており,看護師も部署移動等の影響も受けていると思われる.
最後に本研究において,後期群では前期群と比較し,多職種連携の結果,呼吸リハや経腸栄養が早期に開始が出来ており,入院期間の短縮に寄与したと思われる.今後も我が国における超高齢社会は続き,肺炎患者は増加し,医療費の高騰が懸念される中,本研究の結果は一般病棟での多職種連携による呼吸リハ介入の意義向上の一助になる知見であると思われる.
本研究にご協力いただいた医師,看護師,呼吸リハスタッフ,また情報を提供していただいた患者様に心より感謝いたします.また,ご助言を頂いた 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科)の神津玲氏,KKR高松病院,宮崎慎二郎氏に御礼を申し上げます.
本論文の要旨は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年11月,香川)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.