2024 Volume 32 Issue 3 Pages 324-329
【目的と方法】COPD増悪入院後,呼吸リハビリテーションを実施した84例を対象とし,後方視的に退院後1年以内の増悪による再入院に関連する因子について患者特性,肺機能,在宅酸素療法の導入有無,前年のCOPD増悪,退院後の呼吸リハ継続有無を調査し,1年以内の再増悪との関連を検討した.有意であった因子についてはカットオフ値を算出した.
【結果】年齢,性別,%FEV1を調整変数としたCox比例ハザード分析の結果,再増悪は外来・訪問呼吸リハ継続有り(HR, 0.409; 95%CI, 0.191-0.876),CAT得点(HR, 1.071; 95%CI, 1.026-1.118)に有意な関連を認めた.1年以内の再入院を予測するCATのカットオフ値は22.5点(感度=0.44,特異度=0.90,AUC=0.72)であった.
【結語】CATのカットオフ値を用いることで,1年以内の再増悪リスクが高い患者を抽出することが可能となる.また,退院後も呼吸リハを継続することで,再増悪リスクの低下に期待ができることが示唆された.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)は,増悪と回復を繰り返す慢性疾患である1).
増悪により,肺機能や健康関連QOL(health related quality of life; HRQOL)の低下,症状の悪化を来たし2,3),増悪前の状態まで改善しないことが報告されている4).1年以内に増悪を繰り返す例では,肺機能やHRQOLの長期的な悪化4,5),さらには,予後とも関連することが示唆されており6,7),増悪の予防は,COPDの重要な管理目標とされている1).
増悪による再入院のリスクとして,これまで肺機能およびHRQOLの低下,過去の増悪歴などが報告されている8).再増悪リスクの予測には,多面的な評価が重要である.
増悪後に呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)を導入した場合,再入院の減少が期待できる9).一方,呼吸リハを実施したにも関わらず,33.6-47.0%程度が1年以内に再増悪を起こしていたことも報告されている10,11).これまで,増悪後に呼吸リハを実施したもののみを対象に,増悪による再入院に関連する因子を検討した報告は少なく,一定の見解は得られていない.
今回我々は,COPD増悪入院で,入院呼吸リハを実施したもののみを対象として,退院後1年以内の増悪による再入院に関連する因子を調査した.
当院では,COPD急性増悪回復直後から入院での集中的な呼吸リハを4週間実施しており,2016年1月から2020年4月の期間に当該プロトコルを適応した患者を対象とした.COPDは日本呼吸器学会COPDガイドライン1)に準じて診断された.除外基準は,自宅退院でないもの,死亡退院,身体機能の評価に影響を及ぼす脳血管疾患や整形疾患を合併しているもの,根治治療によるコントロールができていない悪性腫瘍の併存,診療録より退院後1年間の追跡ができなかったもの,研究責任者および研究分担者が不適当として判断したものとした.
2. 方法研究デザインは後方視研究とし,対象者の退院時記録を診療録より収集した.COPDの増悪は,日本呼吸器学会COPDガイドライン1)に沿って医師が診断した.
年齢,性別,forced expiratory volume in one second(以下,FEV1),%FEV1を調査した.さらに,既報8,9,12)に基づき,COPDの増悪による再入院との関連が想定される項目として,「在宅酸素療法の導入の有無,前年のCOPD増悪による入院歴,退院後の外来・訪問呼吸リハ継続の有無」および退院後1年以内の再増悪による入院の有無と再入院までの期間を調査した.運動耐容能の指標は6分間歩行距離(six-minute walk distance; 6MWD)13),HRQOLの指標にはCOPD assessment test(以下,CAT: 0-40点)14),呼吸器疾患特異的activities of daily living(ADL)評価表である長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(Nagasaki University respiratory ADL questionnaire; NRADL: 0-100点)15)を用いた.
3. 呼吸リハビリテーション内容呼吸リハビリテーションに関するガイドライン16)に沿って,コンディショニング,ADL練習,レジスタンストレーニング,全身持久力運動を組み合わせて,呼吸リハを実施した.必要に応じて,多職種による吸入指導や栄養指導などの教育を行った.入院翌日より介入開始し,毎日実施した.自宅退院後,主治医の判断に基づき,外来リハビリテーション,もしくは訪問リハビリテーションを導入し,入院時の呼吸リハと同様の内容を1週間あたり1-3回実施した.
4. 統計解析まず正規性の有無をShapiro-Wilk検定およびヒストグラムにて,視覚的に確認した.退院後1年間のCOPD増悪による再入院関連因子を検討するため,従属変数を再入院までの期間,独立変数を過去に増悪による再入院との関連が示唆されている前年の増悪入院の有無,在宅酸素療法の導入の有無,6MWD,CAT,NRADL,退院後の外来・訪問呼吸リハ継続の有無としてステップワイズ法によるCox比例ハザード分析を行った.調整変数は年齢,性別,%FEV1とした.また,Cox比例ハザード分析により抽出された因子について,Receiver Operating Characteristic(ROC)解析を行い,算出されたカットオフ値にて2群に層別化し,再入院までの期間の差をLog-rank検定を用いて検討を行った.統計解析には,ソフトウェアSPSS Statistics Version 28.0(SPSS Japan)を使用し,有意水準は5%とした.
5. 倫理的配慮本研究は後ろ向き観察研究であり,九州栄養福祉大学・東筑紫短期大学倫理委員会(承認番号2201号)の承認を得て,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.
対象者94名のうち,自宅以外への退院9名,診療録より退院後1年間の追跡ができなかったもの1名を除いた84例を解析対象とした(図1).年齢中央値は74歳で,65例(77%)が男性であった.37例(44%)が退院後に外来および訪問リハビリテーションを導入していた.42例(50%)が1年以内にCOPD増悪により再入院していた(表1).
項目 | total(n=84) |
---|---|
年齢,歳 | 74.0[70.0-81.8] |
男性 | 65(77.3) |
FEV1,L | 0.81[0.64-1.25] |
%FEV1,% | 34.2[26.6-58.6] |
COPDの病期分類(I/II/III/IV) | 6/19/28/31 |
入院日数,日 | 42.5[31.0-59.8] |
前年の増悪入院 | 38(45.2) |
在宅酸素療法の導入 | 55(65.5) |
6MWD,m | 303.0[260.0-353.0] |
CAT,点 | 14.0[8.0-23.0] |
NRADL,点 | 66.0[44.0-84.0] |
外来・訪問呼吸リハビリ継続 | 37(44.0) |
外来リハビリ | 29(78.4) |
訪問リハビリ | 8(21.6) |
外来・訪問呼吸リハビリ実施頻度 | |
週1回 | 31(83.7) |
週2回 | 4(10.8) |
週3回 | 2( 5.4) |
外来・訪問呼吸リハビリ継続期間,日 | 127.0[56.0-255.0] |
COPD増悪による再入院あり | 42(50.0) |
中央値[四分位範囲],例(%)
FEV1: forced expiratory volume in one second, 6MWD: six-minute walk distance, CAT: COPD assessment test, NRADL: Nagasaki University respiratory ADL questionnaire.
調整変数にて補正後,ステップワイズ法による多変量解析を行った結果,CAT(HR, 1.071; 95%CI, 1.026-1.118; p=0.002),外来・訪問呼吸リハの継続有り(HR, 0.409; 95%CI, 0.191-0.876; p=0.021)が有意な因子として抽出された(表2).前年の増悪入院の有無,在宅酸素療法の導入の有無,6MWD,NRADLはモデル内に含まれなかった.
ハザード比 | 95% CI | p値 | |
---|---|---|---|
CAT | 1.071 | 1.026-1.118 | 0.002 |
外来・訪問呼吸リハ継続有り | 0.409 | 0.191-0.876 | 0.021 |
CAT: COPD assessment test, CI: confidence interval
COPD増悪による再入院の有無を予測するカットオフ値をROC解析にて算出した結果,カットオフ値は22.5点であった(感度:0.439,特異度:0.902,area under the curve:0.725)(表3,図2).
カットオフ値 | 感度 | 特異度 | AUC(95% CI) | |
---|---|---|---|---|
CAT(点) | 22.5 | 0.439 | 0.902 | 0.725(0.615-0.835) |
CAT: COPD assessment test, AUC: area under the curve, CI: confidence interval
AUC: area under the curve, CI: confidence interval, ROC: receiver operating characteristic
CATのカットオフ値および外来・訪問呼吸リハ継続の有無により,2群へ層別化してCOPD増悪による再入院率を比較した結果を図3に示す.CAT > 22.5点の群(Log-rank test, p<0.001)(図3-A)および,外来・訪問呼吸リハ非継続群(Log-rank test, p=0.041)において有意に再入院までの期間が短い結果となった(図3-B).
A:CATによる層別化,B:外来・訪問呼吸リハ継続有無による層別化
CAT: COPD assessment test
本研究の結果から,CATおよび退院後の外来・訪問呼吸リハ継続(外来および訪問)が,1年以内のCOPD増悪による再入院に関連する因子として抽出された.CATが22.5点を超えるものでは,60%以上が1年以内に再入院を経験していた.CATは再入院リスクの高い患者を予測するツールとして有用である.さらに,退院後に呼吸リハを継続することで,再入院リスクが低減する可能性が示唆された.
COPD増悪に呼吸リハを導入することで,身体活動量の改善,自己管理能力の向上,精神心理状態の改善に期待ができ,再入院リスクの低減にも関連するとの報告がある9).本研究では,外来・訪問呼吸リハ継続群(以下,継続群)は,呼吸リハ非継続群(以下,非継続群)と比較して,1年以内の再増悪が約60%減少しており,退院後の呼吸リハ継続は,1年以内の再入院リスク低減因子であることが示唆された.既報では,6週間を超える呼吸リハ実施で,再入院が減少していた.しかし,より短期間での呼吸リハは,再入院に影響を与えなかった9).呼吸リハ継続の実施期間が再入院リスクの低減に大きく影響していると考えられる.海外の報告10,11)と比較すると,継続群における再増悪率は近似していたが,非継続群は,高い再増悪率を示していた.このことより,再入院予防を目的とした場合,非継続群における入院中の呼吸リハビリテーション実施期間のみでは,不十分であった可能性がある.
一方で,呼吸リハが再入院リスクに影響しないとする報告も散見される17,18).これらの報告では,本研究と比較してプログラム実施期間が短いことや,監視方法において相違があり,この異質性によるアウトカムへの影響が考えられる.呼吸リハ実施時の監視方法として,「対面」と「遠隔」による比較では,再入院と関連するとされるHRQOLの改善効果が「遠隔」でより乏しいことを報告している19).「実施頻度」の相違が再入院に与える影響についても報告があるが,有意な結果は得られていない19).プログラム内容により,効果の出現に相違が生じている可能性は高く,今後,効果的な呼吸リハプログラムについて検討が必要である.
退院時のCATが22.5点以上であった場合,再入院リスクが高くなることが示された.CATは疾患特異的なHRQOLを評価する尺度である.予後予測にも有用なツールであり,増悪による再入院のリスク因子とされている20).海外の報告において,重度の増悪を予測するカットオフ値は14.08点(感度:0.667,特異度:0.667)であった21).本研究のカットオフ値とは差があるが,これは既報の%FEV1が46.7%に対して,本研究では34.2%であり,本研究ではより重症が多いことが影響している可能性がある.COPDの重症度によって,CATのカットオフ値が変動することも報告されており22),個別的な介入を行うためにも適切なカットオフ値については今後も検討が必要である.
再増悪のリスク因子として「増悪歴」が抽出されている報告があるが8),本研究ではされていない.増悪イベントの発生率はランダムであり,特にGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)stage I-IIと比較して,stage III-IVでは一貫性がないことが報告されている23).本研究の対象者は重症なものが多く,観察期間が1年と短期間であることから,再増悪を予測する因子として,「増悪歴」が抽出されなかった可能性がある.
ADLレベルや6MWD,在宅酸素療法の導入の有無については,本研究では予測因子として抽出されなかった.増悪を予測する上では多次元での評価が必要とされており24),今回抽出された因子を含めた包括的なフォローが重要である.
本研究の限界を考察する.単施設にて,COPD増悪により入院した患者を対象としたために,重症度の高いものが多く選択された.これにより選択バイアスが生じている可能性が否定できない.次に,本邦の呼吸リハビリテーションガイドラインに準じて,包括的な呼吸リハ介入を実施しているものの,呼吸リハの実施方法について明確な基準を設定していないことが挙げられる.今後,効果的な呼吸リハプログラムを明らかにするためには,より規模の大きな研究が必要とされる.
COPD増悪後,入院呼吸リハを実施した患者において,退院時のCATが22.5点を超える患者では,60%以上のものが1年以内の再増悪により入院していた.CATは簡便に使用でき,かつ包括的な全身状態の把握に優れている.退院時CATは,1年以内のCOPD増悪による再入院リスクが高い患者を抽出することが可能である.また,退院後の呼吸リハ継続で,COPD増悪による再入院リスクの低下に期待ができることが示された.以上の結果から,再入院予防のためには,CATの利用や退院後も呼吸リハを継続することが有効であると考えられ,これらのアプローチを用いた疾患管理が重要であることが示唆された.
本論文の要旨は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年11月,香川)で発表し,座長推薦を受けた.
津田 徹;講演料(ベーリンガーインゲルハイム,アストラゼネカ)