2024 Volume 32 Issue 3 Pages 330-335
胸膜肺実質線維弾性症(pleuroparenchymal fibroelastosis; PPFE)及び特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)患者の身体機能,health related quality of life(HRQOL)の相違点を知る目的で,当院に入院したPPFE 19例,IPF 211例を対象に比較検討した.PPFE患者では,頻脈,six-minute walk distance(6MWD)の短縮,身体機能及びHRQOLの低下を有意に認め,最低SpO2値は有意に高かった.重症例の比較では,PPFE患者において修正Borg スケールが有意に高く,6MWDが有意に短縮した.そのため,PPFE患者はIPF患者よりも身体機能やHRQOLの悪化が示唆されるため,コンディショニングや低負荷からの運動療法の必要性が示唆された.
間質性肺炎(interstitial pneumonia; IP)の原因は様々であり,原因不明のものを特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias; IIPs)と総称され,現在は病理組織パターンに基づき9つに分類され,IIPsの中に胸膜肺実質線維弾性症(pleuroparenchymal fibroelastosis; PPFE)や特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)が含まれている1).IPは,拘束性障害と肺拡散能障害が呼吸機能上の特徴であり,重症化に伴い低酸素血症が問題となる.そのため運動中のSpO2や脈拍数の評価は,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行う上でも重要である2).PPFEはIPFと同様に慢性進行性の線維化型のIPであるが,IPFとは異なり,臨床上著明なるい痩や扁平胸郭が著明である.また,IPFよりも換気機能を維持し運動時の低酸素に傾く症例が少ないが,歩行距離が比較的短い事も特徴的とされる.IPFに対しての呼吸リハの報告は散見される3,4)が,PPFEとIPFの疾患別の身体機能について比較検討されているものは少ない.今回我々は,身体機能を評価する方法として,6 分間歩行試験(six-min walk test; 6MWT)5,6)を行い,PPFE及びIPF患者の6MWT中のSpO2値と脈拍数,6MWT終了後のSpO2値と脈拍数の変動について,health related quality of life(HRQOL)も含めて両疾患を比較検討したので報告する.
2017年4月から2021年10月までに当院呼吸器内科に精査入院し,6MWTを完遂したPPFE患者19例とIPF患者211例を対象とした.重症度判定は日本呼吸器学会の重症度分類に準じた1).内訳は,PPFEは重症度1/2/3/4度=14/0/3/2例,男性/女性=13/6例,平均年齢71.8±9.6歳.IPFは重症度1/2/3/4度=117/22/34/38例,男性/女性=181/30例,平均年齢77.1±10.1歳.なお,重症度1・2度を軽症例,重症度3・4度を重症例として分類表記した.また,本論文のPPFEの定義2)は以下の①,②,③をすべて満たす場合とした.①緩徐に発症し,乾性咳嗽又は息切れがある,②胸部CTで上肺野に優位な線維化があり,かつPPFEパターン(subpleural airspace consolidation with traction bronchiectasis)がある,③線維化をきたす他疾患を否定できる,とした.
<方法>1)患者情報
年齢,性別,血清マーカーなどは診療記録より抜粋し後方視的に調査した.肺機能検査として,肺活量(vital capacity: VC),%肺活量(% vital capacity: %VC),努力性肺活量(forced vital capacity: FVC),%努力性肺活量(% forced vital capacity: %FVC),一秒量(forced expiratory volume in one second: FEV1),一秒率(forced expiratory volume % in one second: FEV1/FVC),%肺拡散能(% diffusing capacity for carbon monoxide: %DLco)を測定した.日常生活活動(activities of daily living; ADL)の評価は,Nagasaki University respiratory ADL questionnaire(NRADL)7),自覚的な呼吸困難の指標をmodified Medical Research Council dyspnea scale(mMRC)で0-4のグレードに分け評価した.
2)身体機能
6MWTは,パルスオキシメータを用いて6MWT中及び6MWT終了後3分間中のSpO2値と脈拍数の変動,終了直後に修正Borgスケールを聴取し測定した.6MWTは,呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法―第2版6)に準じて測定したが,以下の①,②,③,④を加えて測定した.①施設の都合上 48 mの周回コースにて実施,②理学療法士が全て実施,③室内気下で実施,④最低SpO2値における中止基準を設けない事,とした.なお安全面を考え,医師の許可を得ている事,院内に必ず呼吸器内科医が在籍している時に行う事,すぐに連絡が取れるよう院内携帯を持参,又は場合によっては2人体制で行う事,とした.6MWTの結果からsix-minute walk distance(6MWD)に加え,図1の通り各種項目を抽出した(表1).6MWT中は,6分間歩行テストリアルタイム解析システム WristOx2TM フィリップス社製を使用し,試験中6分間,終了後3分,合計9分間を1秒毎のサンプリングタイムでSpO2値と脈拍数を測定した.筋力測定は,上肢筋力は握力,下肢筋力は膝関節伸展筋力を検討した.握力測定は,DYNAMO METER(株式会社 ツツミ社製)を使用し立位にて行い,膝関節伸展筋力は最大の等尺性収縮にて行い,hand held dynamometer(HHD)(モービィMT-10 酒井医療社製)を使用して,左右各2回の計測結果の最大筋力を採用6)した.body mass index(BMI)は,タニタマルチ周波数体組成計(タニタ社製)にて測定した.
抽出項目 |
---|
①歩行開始時SpO2(%) |
②歩行中最低SpO2(%) |
③歩行中最低SpO2までの時間(秒) |
④低下速度(%/秒) |
⑤終了直後のSpO2(%) |
⑥終了後3分間中の最大SpO2(%) |
⑦終了後3分間中の最大SpO2までの時間(秒) |
⑧上昇速度(%/秒) |
⑨歩行開始時脈拍数(bpm) |
⑩歩行中最大脈拍数(bpm) |
⑪歩行中最大脈拍数までの時間(秒) |
⑫上昇速度(bpm/秒) |
⑬終了直後の脈拍数(bpm) |
⑭終了後3分間中の最低脈拍数(bpm) |
⑮終了後3分間中の最低脈拍数までの時間(秒) |
⑯低下速度(bpm/秒) |
⑰修正Borg スケール |
歩行距離(m) |
3)HRQOL
HRQOLは,St. George’s respiratory questionnaire(SGRQ)を用いて自己記入式に調査した.
4)不安・抑うつ
不安・抑うつの評価は,hospital anxiety and depression scale(HADS)を用いて自己記入式に調査した.
5)除外基準
本論文の除外基準は,①6MWTを完遂できなかった患者,②重度の合併症を有し,医師が本試験の対象として不適切であると判断した患者,③明らかな肺高血圧症,気胸を有する患者とした.
6)解析方法
全例・軽症例・重症例におけるPPFE及びIPF患者において,身体機能・HRQOL・不安・抑うつについて,疾患別ごとにt検定あるいはWilcoxon順位和検定を用いて比較検討した.また解析ソフトウェアはJMP®を使用し,有意水準5%をもって統計学的有意差とした.
以下の結果をPPFE/IPFと表示する.軽症例はBMI(19.3/24.3 kg/m2),6MWT中の脈拍数上昇速度(0.12/0.16 bpm/秒)のみPPFEが有意に低下していた.6MWT実施総件数は367件,うち未完遂群が127例のため,症例数は230例(完遂率はPPFEが45.2%,IPFが64.5%,全体は62.3%)となった.また本研究において,重症度1に該当するPPFE及びIPF患者において,6MWTで酸素飽和度が90%未満に低下した症例数は,4/53例であった.
1)患者背景
PPFEは,年齢(71.8/77.1歳),BMI(18.5/24.5 kg/m2),VC(2.1/2.7 L),%VC(67.6/83.6%),FVC(2.0/3.2 L),%FVC(62.0/85.7%)が有意に低下を認めた(表2).
検査項目 | PPFE(n=19) | IPF(n=211) | p値 |
---|---|---|---|
年齢(歳) | 71.8±9.6 | 77.1±10.1 | 0.033 |
BMI(kg/m2) | 18.5±3.8 | 24.5±5.1 | <0.0001 |
VC(L) | 2.1±1.1 | 2.7±0.7 | 0.037 |
%VC(%) | 67.6±24.7 | 83.6±18.0 | 0.012 |
FVC(L) | 2.0±1.1 | 3.2±7.3 | 0.048 |
%FVC(%) | 62.0±20.4 | 85.7±20.3 | 0.005 |
FEV1(L) | 1.8±0.9 | 2.6±6.8 | 0.123 |
FEV1/FVC(%) | 84.3±21.9 | 80.9±11.7 | 0.525 |
%DLco(%) | 89.1±38.6 | 78.4±27.7 | 0.281 |
KL-6(U/ml) | 616.9±356.2 | 956.7±721.6 | 0.001 |
SP-D(ng/ml) | 236.8±101.0 | 264.9±179.3 | 0.297 |
平均値±標準偏差,BMI: body mass index,VC: vital capacity,%VC: % vital capacity,FVC: forced vital capacity,%FVC: % forced vital capacity,FEV1: forced expiratory volume in one second,FEV1/FVC: forced expiratory volume % in one second,%DLco: % diffusing capacity for carbon monoxide
2)全体における6MWTの比較
PPFEは,6MWT中の脈拍数上昇速度(0.11/0.16 bpm/秒),6MWD(365.5/447.5 m)が有意に低値で,6MWT中のSpO2最低値(90.3/87.3%)のみ有意に高値であった(表3).6MWT開始から終了後3分間までを1秒ごとに解析・抽出し,疾患ごとにグラフ化すると,SpO2値と脈拍数は,PPFEが高値を示している事が多かった.SpO2値に関しては90%以上維持することを可能とし,IPFよりも変動が少ない結果であった(図2,3).
検査項目 | 全体の比較 | p値 | 軽症例の比較 | p値 | 重症例の比較 | p値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
PPFE(n=19) | IPF(n=211) | PPFE(n=14) | IPF(n=139) | PPFE(n=5) | IPF(n=72) | |||||
SpO2値 | ②歩行中最低値(%) | 90.3±4.7 | 87.3±5.6 | 0.037 | 91.4±4.9 | 89.7±4.3 | 0.208 | 87.0±2.0 | 82.7±5.2 | 0.041 |
④低下速度(%/秒) | -0.03±0.02 | -0.04±0.02 | 0.059 | -0.03±0.02 | -0.04±0.02 | 0.358 | -0.03±0.01 | -0.05±0.02 | 0.032 | |
⑧上昇速度(%/秒) | 0.19±0.36 | 0.06±0.03 | 0.118 | 0.25±0.41 | 0.57±1.7 | 0.076 | 0.04±0.02 | 0.19±0.25 | 0.00001 | |
脈拍数 | ⑨歩行開始時の値(bpm) | 85.8±13.4 | 79.4±13.1 | 0.058 | 84.5±15.1 | 79.0±12.9 | 0.212 | 89.4±6.7 | 80.0±13.5 | 0.029 |
⑫上昇速度(bpm/秒) | 0.11±0.06 | 0.16±0.16 | 0.008 | 0.12±0.05 | 0.16±0.16 | 0.025 | 0.1±0.1 | 0.16±0.16 | 0.208 | |
⑰修正Borg スケール | 3.4±2.0 | 2.5±2.0 | 0.074 | 2.8±1.7 | 2.2±2.0 | 0.258 | 5.2±1.6 | 3.1±1.9 | 0.044 | |
⑱歩行距離(m) | 365.5±141.3 | 447.5±103.3 | 0.023 | 415.9±123.3 | 460.2±104.2 | 0.214 | 224.4±81.3 | 423.3±97.8 | 0.004 | |
SGRQ(点) | 合計 | 45.9±22.0 | 29.5±19.2 | 0.011 | 37.1±17.9 | 26.0±17.9 | 0.076 | 65.2±18.1 | 39.3±19.8 | 0.028 |
mMRC | 1.9±1.4 | 0.8±0.9 | 0.009 | 1.2±1.0 | 0.6±0.8 | 0.109 | 3.4±0.9 | 1.3±1.1 | 0.002 | |
NRADL(点) | 合計 | 79.4±22.1 | 93.2±13.5 | 0.031 | 89.5±13.4 | 96.2±7.4 | 0.133 | 51.8±17.1 | 84.0±22.1 | 0.022 |
握力(kg) | 22.3±8.9 | 34.0±8.7 | 0.005 | 28.4±8.0 | 33.9±8.8 | 0.062 | 16.1±3.1 | 34.2±8.6 | 0.0003 | |
膝関節伸展筋力(kgf) | 20.8±12.1 | 36.3±11.5 | 0.028 | 30.6±10.3 | 36.6±11.8 | 0.112 | 12.8±2.7 | 35.6±10.8 | 0.001 |
平均値±標準偏差,有意差が認められた項目のみ表示
3)重症例における6MWTの比較
PPFEは,6MWT終了後3分間中のSpO2値の上昇速度(0.04/0.19 bpm/秒),歩行開始時の脈拍数(89.4/80.0 bpm),6MWD(224.4/423.3 m)が有意に低下し,6MWT中のSpO2最低値(87.0/82.7%),修正Borgスケール(5.2/3.1)のみ有意に高値であった(表3).重症例に限ると,SpO2値が両疾患ともに著明な低下が認められ,労作時は90%を維持することが困難であった(図2,3).
4)全体におけるHRQOL・不安・抑うつ・ADL面・筋力の比較
PPFEは,NRADL(79.4/93.2点),握力(22.3/34.0 kg),膝関節伸展筋力(20.8/36.3 kgf)が有意に低下し,SGRQ(45.9/29.5点),mMRC(1.9/0.8)は有意に高値であった(表3).
5)重症例におけるHRQOL・不安・抑うつ・ADL面・筋力の比較
PPFEは,NRADL(51.8/84.0点),握力(16.1/34.2 kg),膝関節伸展筋力(10.9/35.6 kgf)が有意に低下し,SGRQ(65.2/39.3点),mMRC(3.4/1.3)は有意に高値であった(表3).
慢性呼吸器疾患における6MWTの報告は多数存在し,特に6MWD8)や最低SpO2値9)は生命予後との関連が示されている.IPにおいても労作時の呼吸困難や低酸素血症が運動耐容能やHRQOLの低下に繋がる10).PPFEは慢性線維化型のIPであり,上部胸郭の扁平化や全身の筋緊張亢進,労作時の呼吸困難,不安感の出現,両側上葉が進行性に縮小,反復性気胸を高度に合併するなどが挙げられ,有効な治療方法は無く,予後不良な疾患の1つである11).本検討でのPPFE患者も同様に,扁平胸郭と痩せが著明で,上部胸郭の線維化の進行により努力性の呼吸が困難で,IPF患者に比べて拘束性換気障害が強かった.また上下肢の筋力やBMIも有意に低下し,体力の低下に伴い,強い呼吸困難の出現,SpO2値の回復の遅延,修正Borgスケールの高値及び6MWDの短縮とNRADLの低下に至ったと考える.不安・抑うつにおいては,両疾患共に低下は見られるものの有意な差は認められなかった.以上の事から,PPFEはIPFよりも身体機能・ADL・HRQOLの低下が考えられ,更に重症度が増すことでより一層その傾向が強くなると考えられる.そのため,2疾患は全く別の疾患であり,それぞれの対応策が必要になると推測される.現段階ではIPの呼吸リハの効果は低く12),また,IPFを含むIPにおけるその効果の持続は,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)よりも短期間である事13)が報告されているが,近年IPに対する呼吸リハの短期効果として,呼吸困難の軽減,運動耐容能の向上,HRQOLを改善するとの報告14,15)に加え.最近では長期呼吸リハと抗線維化薬であるニンテダニブの併用が,52週後持久時間(エルゴメトリー使用)の改善を認めた16).従って呼吸リハの短期及び長期的な有効性が今後も期待できる.最後に我々が推奨する呼吸リハとは,PPFE患者においては,呼吸困難が強く痩せが著明であるため,休憩を挟みながらの動作を基本とし,低負荷から毎日続けられる運動療法が必要である.一方でIPF患者においては,労作時に低酸素血症をきたしやすく呼吸困難が乏しいため,連続動作ではなく,休憩を挟むといった動作指導を行ったうえで,身体機能に合わせ運動負荷量を調節していく必要があると考える.
<結論>本検討で述べた2疾患は全く別の疾患であること,そしてPPFE患者はIPF患者に比べ呼吸困難の程度が強く,6MD,筋力,BMIが低値な症例が多いため,休憩を挟む動作指導を行いながら低負荷の運動療法を続けていく必要がある.
当院倫理委員会の規定により承認を受けた(慈山倫理 5-第6号).
本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.