2024 Volume 32 Issue 3 Pages 274-280
人工呼吸器は肺での換気が不十分な時に,機械的に換気を補助する機械です.その効果としては肺胞換気量の維持や呼吸仕事量の軽減,ガス交換能の改善が得られます.人工呼吸器には肺にガスを送るための方法である換気モードがあります.個々の換気モードには特徴があり,患者さんの状態,肺,胸郭,気道の状態で換気モードの使い分けが必要となります.
人工呼吸器の画面には,換気モードや設定,患者さんの換気状態はセンサーで測定され数値化して表示されています.そして,気道内圧,流量(フロー),換気量の変化を経時的に波形として描き出し,グラフィックモニターとして換気状況を視覚的に把握することができます.人工呼吸中のトラブルは,患者さんの換気を止めてしまうこともあり得るため,早急なトラブル回避が必要となります.グラフィックモニターではトラブル発生時に波形の変化が現れ,アラームメッセージとともにトラブルを回避のヒントになります.
人工呼吸器の役割は,肺での換気が不十分な場合に,機械的に換気を補助し,全身の酸素化を改善させ,組織の虚血の進行を軽減させる生命維持装置です.さて,人工呼吸器が強制的に肺にガスを入れる換気モードには,基本的にはA/C(assist control)とSIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation)があり,双方の換気モードには量を決めて入れる方法の従量式換気(volume control ventilation: VCV)と肺に圧力かけ,決められた時間(吸気時間)を維持する方法の従圧式換気(pressure control ventilation: PCV)があります.従量式換気の場合,換気量を設定して管理をしますので,気道抵抗の上昇,肺・胸郭コンプライアンスの低下により気道内圧が上昇しますので注意が必要となります.逆に従圧式換気では,吸気圧(上限の気道内圧)を設定して換気をしますので,気道抵抗の上昇,肺・胸郭コンプライアンスの低下により換気量が減少しますので注意が必要です.強制的に肺にガスを送る換気モード以外には,強制換気が無いモードとしてCPAP(continuous positive airway pressure)があります.CPAPは強制的に肺にガスを送る事はありませんので,患者さんの自発呼吸を優先するモードです.しかし,呼吸筋の筋力低下などで換気量を稼げない場合には,自発呼吸をトリガして吸気時に圧力を付加するPS(pressure support)を使用することができます.PSが使用できる換気モードはSIMVとCPAPで,SIMVでは強制換気回数以上の自発呼吸が発生した場合とCPAPはすべての自発呼吸にPSが付加されます.また,A/C,SIMV,CPAPには呼気終末時に気道内に陽圧をかけておくPEEP(positive end-expiratory pressure)を同時に使用することができます.PEEPには呼気時に虚脱する肺胞に圧力をかけ,虚脱を防ぐ効果があり酸素能の改善が見込まれます.
A/CとSIMVの違いの理解に苦しみます.A/CとSIMVの設定項目の違いを表1に示します.A/CとSIMVは,自発呼吸がない場合には同じ動作をします.自発呼吸が設定した換気回数より下回っているときには,設定した換気回数で設定した換気量もしくは圧力で換気します.自発呼吸が設定した換気回数より多くなった場合には,A/Cはトリガした全ての呼吸に設定した換気量もしくは設定圧で,SIMVは設定した換気回数は設定した換気量もしくは圧力で換気,設定回数以上はPS(pressure support)で換気サポートを行います(表2).
assist control (A/C) | 量規定方式 (VCV) | FiO2,換気回数,換気量,(吸気時間),PEEP,トリガー |
圧規定方式 (PCV) | FiO2,換気回数,吸気圧,吸気時間,PEEP,トリガー | |
synchronized intermittent mandatory ventilation (SIMV) | 量規定方式 (VCV) | FiO2,換気回数,換気量,(吸気時間),PEEP,トリガー,PS圧,サイクルオフ(フローターミネーション) |
圧規定方式 (PCV) | FiO2,換気回数,吸気圧,吸気時間,PEEP,トリガー,PS圧,サイクルオフ(フローターミネーション) | |
continuous positive airway pressure (CPAP) | ― | FiO2,PEEP,トリガー,PS圧,サイクルオフ(フローターミネーション) |
A/C | SIMV | |
---|---|---|
自発呼吸なし | 設定換気回数の強制換気 | |
設定換気回数以下の自発呼吸あり | 設定換気回数の強制換気(自発呼吸にトリガ) | |
設定換気回数以上の自発呼吸あり | トリガされたすべての呼吸に強制換気 | 設定換気回数は強制換気,設定換気回数以上は,PSVで圧サポート |
PS(pressure support)の作動原理は,トリガに合わせて設定した圧力を気道内にかけ,サイクルOFF,フローターミネーションと言われる最高流速の設定した%まで流速が落ちた時に呼気に転ずる設定で吸気呼気を切り替えています(図1).これまで記載した換気モード以外にも換気モードが存在しますが,時間の都合上,今回のスキルアップセミナーでは講義を行いませんでした.
A/CとSIMVの換気モードにおける肺への送気方法の違いによる長所短所を表3に示します.従量式の場合には,設定した換気量は必ず換気されますが,気道抵抗や肺・胸郭コンプライアンスの低下により気道内圧の上昇があり肺の圧損傷の可能性があります.一方,従圧式の場合には,気道内圧が設定圧より上がらないので,肺に優しく生理的な呼吸に近いと言われています.短所は気道抵抗や肺・胸郭コンプライアンスの低下により換気量が下がり低換気に陥る可能性があります.人工呼吸器の換気モードの使い方としては,基本的には調節(強制)換気であるA/CとSIMVは深鎮静や術後の換気に使用します.また,補助換気が主体となるSIMV+PSやCPAP+PSは人工呼吸器離脱に使用します.
従量式(VCV) | 従圧式(PCV) | |
---|---|---|
長所 | ・決められた1回換気量は保証される ・設定が簡便 | ・設定圧以上に気道内圧は上昇しない ・不均等換気是正に良い ・多少の回路リークは補正できる ・生理的な呼吸に近い |
短所 | ・気道内圧上昇が予見できない ・圧損傷の危険性がある ・不均等換気が多い | ・1回換気量が保証されない (患者の肺・気道の状態によって変化する) ・低換気に陥ることがある ・設定(吸気圧,吸気時間)が難儀 |
人工呼吸器は陽圧換気ですので,肺にかかる圧力により合併症を起こします.肺の圧損傷による合併症では,気胸や皮下気腫,縦隔気腫があります.また,肺加圧による合併症として,胸腔内圧上昇により静脈還流の減少,心拍出量及び血圧低下,脳還流量の低下,うっ血による肝機能障害があります.
最近の人工呼吸器にはグラフィックモニターが搭載され,センサーで測定されたデータにて患者さんの換気状態の把握に有効活用できます.グラフィックモニターから把握できることは,気道内圧波形から肺へのガスの送気方法や気道内圧変化を知ることができます.また,流量(フロー)波形からは換気量,吸気や呼気の流量,呼気の呼出状態を推測することができます.換気量波形は換気量を把握でき,また,吸気時と呼気時の換気量の差が生じると波形に変化が生じ回路等からの漏れを把握することができます.グラフィックモニターから情報を得るためには正常な波形を理解して,正常波形からの波形の変化を捕らえることでトラブル早期に異常に気付くことができます.グラフィックモニターに影響を与える因子としては,気道抵抗(resistance: cmH2O/L/s)として気道,挿管チューブ,呼吸回路,もう一つの因子としてコンプライアンス(compliance: L/cmH2O),肺,胸郭,呼吸回路コンプライアンスがあります.これらの因子がトラブルや病態変化により変化することでグラフィックモニターの波形に変化を生じさせます.
1) 気道内圧波形気道内圧波形は横軸(t)が時間で縦軸が気道内圧(cmH2O又はhPa)を示します.従量式の換気の場合,波のような波形が描写されます.波の最高点が最高気道内圧になり,呼気の終末に描かれる部分の基線からの高さがPEEPの圧力を示しています.一方,従圧式の換気の場合には,吸気時に設定圧まで上昇した気道内圧が吸気時間を維持するため,四角形の波形が描写されます(図2).
流量波形も横軸は時間(t),縦軸が流量(L/min)で0を境にグラフ上部が吸気の流量,グラフ下部が呼気の流量を表しています.従量式の換気の場合,基本的な送気するガスが一定流量で送気する場合には吸気時の波形が四角くなり,従圧式の場合三角形になります.呼気の波形は従量式,従圧式ともに同じ波形で逆三角形のような波形を呈します(図3).また,COPDなどの気道狭窄がある場合は,呼気の波形が正常波形より基線の0に戻る時間が長くなります.さらに,呼気を呼出中に換気が入ってしまうと,呼出できないガスが肺内に貯留して内因性PEEPが発生してしまいます(図4).
換気量波形も横軸は時間(t)縦軸が換気量(ml又はL)を示します.従量式の場合,三角形を呈し基線から頂点までが吸気の換気を意味して,面積が吸気の換気量になります.頂点より基線に戻るまでが呼気の換気を意味して,面積が呼気の換気量になります.従量式のポーズや休止時間を使用した場合や従圧式などで吸気後フローが止まる場合には,波形は台形を呈します(図5).
人工呼吸中にトラブルが発生すると,グラフィックモニターの波形が変化します.トラブルの種類によって波形が特徴的に変化しますので,波形の形を覚えることが重要になります.
1) 気道内圧上昇時の波形変化従量式換気の場合に,気道の閉塞や気道抵抗の上昇,コンプライアンスの低下により気道内圧が上昇して,特にアラーム設定値を超えると気道内圧波形が尖ったような波形になります.そして,アラームが発生時は,設定値を越すと人工呼吸器は内部の安全弁より送気するガスを捨ててしまいますので,人工呼吸器の測定している吸気・呼気の換気量は設定値より少なくなります(図6).また,回路内に結露や気道内に痰が貯留した場合には,量が多くなると気道内圧の上昇を伴います.そして,グラフィックモニターには気道内圧波形や流量波形にギザギザの波を打ったような波形に変化をします(図7).
気道内圧が低下する患者側の原因としては,人工気道(気管チューブ,気管切開カニューレ)のカフ漏れ,人工呼吸器側の原因として回路外れ,ウォータートラップや接続部からの漏れ,回路の破損などがあります.これらの原因で送気ガスの漏れが発生すると,換気量波形の呼気側の波形が基線に戻らないで途中で水平になり次の吸気に移っていきます.そして,その高さが漏れたガスの量を表します.また,F(流量)-V(換気量)ループでは,ループが0に戻らず途中で基線に戻ってしまいます.同じようにP(気道内圧)-V(換気量)ループにおいても,円を描かず呼気の途中で途切れてしまいます(図8).
人工呼吸器の換気モードは,深鎮静~離脱で状態に合った換気モードを使用することで換気トラブルを減らすことができます.また,人工呼吸器離脱に向けた換気モードの変更は多職種で検討しながら選択することが望ましいと考えます.また,グラフィックモニターを克服するには正常な波形を理解して,正常波形からの変化を迅速に判断することでトラブルの早期発見につながると思います.
このたびは第7回呼吸ケアスキルアップセミナーを企画された横山俊樹先生,野口裕幸先生には貴重な経験をさせていただく事ができました.この場をお借りしてお礼申し上げます.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.