The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Body surface anatomy
Yohei Oshima
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2024 Volume 32 Issue 3 Pages 293-295

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要旨

呼吸器疾患患者のケアやリハビリテーションを実施するにあたり,肺さらには肺葉がどこに位置するのか,また,呼吸運動の駆動源となる呼吸筋にはどのようなものがあり,どのようにしてその活動を評価するのかを理解しておくことが重要である.本解説では,臨床的に重要な体表の目印(ランドマーク)から肺の位置を推定する手順を理解し,呼吸筋の活動を評価できるようになることで,呼吸器疾患患者の病態の把握や治療介入,効果判定の際に活用できる技術を習得することを目標としている.

緒言

当然ながら体表から直接肺を見ることはできない.しかしながら,我々は呼吸器疾患患者の病態を把握し,ケアやリハビリテーションの実施および効果判定を行うにあたり,患者の呼吸状態を迅速かつ正確に評価する必要がある.そのためには,肺さらには肺葉がどこに位置するのかを推定できることが重要となる.また,呼吸運動は呼吸筋の活動によって行われるため,運動に関与する呼吸筋にはどのようなものがあり,そして,視診や触診によってその活動を評価できる必要がある.

本解説では,臨床的に重要な体表の目印(ランドマーク)や呼吸筋の位置を同定し,体表から見て肺がどの位置にあるのかを推定できるようになること,呼吸筋の筋活動を評価できるようになることを目標としている.

肺および肺葉の位置と同定の手順

体表からみた肺および肺葉の位置を図1に示す.肺および肺葉の位置を推定するにあたり,10個のランドマークの位置(図1のA~J)を同定できるようになる必要がある.胸郭前面においては4つ,背面においては3つ,側面においては3つのランドマークを設定している.10個のランドマークの位置と臨床的意味について表1にまとめる.

図1 体表からみた肺および肺葉の位置と10個のランドマーク(A~J)

表1 10個のランドマークの位置とその臨床的意味についてのまとめ

体表ランドマーク位置臨床的意味
前面A鎖骨内側1/3の2横指上肺の上端(肺尖)
B胸骨角(胸骨柄と胸骨体の接合部)第2肋骨付着部,気管分岐部
C鎖骨中線と第4肋骨の交点水平裂の位置
D鎖骨中線と第6肋骨の交点肺の下端(肺底),前面における斜裂の開始点
背面E第7頸椎棘突起肺の上端(肺尖)
F第2胸椎棘突起背面における斜裂の開始点
G第10胸椎棘突起肺の下端(肺底)
側面H斜裂と水平裂の交点(中腋窩線と第6肋骨の交点)上葉,中葉,下葉の接点
I中腋窩線と第8肋骨の交点肺の下端(肺底)
J前腋窩線と第7肋骨の交点肺の下端(肺底)

体表前面からみた肺の上端(肺尖)の位置は鎖骨内側1/3の2横指上に該当する.続いて,上葉と中葉の境界にあたる水平裂を同定する.水平裂は鎖骨中線と第4肋骨の交点の高さに該当するため第4肋骨を同定する必要がある.そのためには,まず,第2肋骨を同定していく.胸郭前面の正中には胸骨があり,胸骨柄と胸骨体の接合部は胸骨角またはルイ角という.多くの場合,胸骨角は突出していることから体表から触知できる.この胸骨角には第2肋軟骨が結合することから,胸骨角を同定することで第2肋骨の位置が同定可能となる1.もし仮に,胸骨角の同定が困難な場合には鎖骨の直下に大きく触れる肋骨を第2肋骨としてもよい.第2肋骨が同定できれば,順次尾側に肋骨を触知していき,第4肋骨を同定する.肋骨の触知の際には検者の示指~環指の3本を鉤状に屈曲させた状態で肋骨上端に引っ掛けるようにして触知するとよい.また,肥満患者などの場合には胸骨寄りの軟部組織が比較的薄い部位で触知することで同定しやすくなる.第4肋骨が同定できれば鎖骨中線との交点の高さを確認し,その位置が水平裂の高さとして同定される.体表前面における肺の下端(肺底)の位置は,第6肋骨と鎖骨中線の交点に該当する.先の第4肋骨からさらに2つ分尾側に該当する肋骨が第6肋骨である.

体表背面からみた肺の上端(肺尖)の高さは第7頸椎棘突起の位置に該当する.第7頸椎棘突起は頸部を深屈曲させると最も突出する突起に該当する1.第6頸椎棘突起は頸部を伸展させると触知できなくなるのに対し,第7頸椎棘突起は伸展位でも触知が可能である.頸部中間位での第7頸椎棘突起の高さが肺の上端と同じ高さとなる.背面における上葉と下葉を隔てる境界である斜裂を同定する.背面における斜裂の開始点は第2胸椎棘突起の位置に該当する.第2胸椎棘突起は先の第7頸椎棘突起から尾側方向に2つ分,棘突起を触知することで同定が可能である.第2胸椎棘突起から体表前面における第6肋骨と鎖骨中線の交点に向かって引いた線が斜裂に該当する.背面における肺の下端(肺底)は第10胸椎棘突起の高さに該当する.第10胸椎棘突起の同定にはいくつかの方法が存在する.まず,先の第2胸椎棘突起から尾側に向かって順番に触知していく方法であるが,この方法は途中で触知が困難となる場合が多く,時間も要すため推奨されない.より簡便な方法としては,肩甲骨下角が第7胸椎棘突起の高さに該当することを利用する方法がある.肩甲骨下角は肩関節を伸展・内旋させると浮き出てくるため同定しやすい.肩甲骨下角が同定できれば水平に移動して第7胸椎棘突起を触知し,尾側に向かって3つ目の突起が第10胸椎棘突起として同定される.棘突起は体幹を屈曲させることで触知しやすくなる.もう1つの簡便な方法としては,背面における肺の下端の高さは肩甲骨下角から引いた垂線と第10肋骨の交点に該当するため,第10肋骨を同定する方法である.第10肋骨は肋軟骨として全面では胸骨に付着しているが,第11肋骨は浮遊肋骨(浮肋)として胸椎とのみ関節面を持つ.第11肋骨は体側面において断端を触知できることが多いため同定しやすい.第11肋骨から頭側に向かって第10肋骨を同定する.第11肋骨が同定できない場合には肋骨弓(前面の肋骨下縁)を後方に向かって辿ることで第10肋骨を同定することが可能である.

体表側面における斜裂と水平裂の交点において上葉,中葉,下葉が交わり,その点は中腋窩線と第6肋骨の交点に該当する.側面における肺の下端(肺底)は中腋窩線と第8肋骨との交点,さらには前腋窩線と第7肋骨との交点に該当する.

以上より,肺の上端と下端,斜裂と水平裂の位置が同定できるようになれば,肺および肺葉の位置を体表から推定することが可能となる.

気管の位置と同定の手順

気管は呼吸器系の中で唯一体表から触知が可能な器官である.気管は胸骨上切痕よりも頭側で触知できる.甲状腺疾患や腫瘍によって左右のどちらかに偏位することが多いが2,その他にも肺切除後や広範な無気肺によって同側に偏位し,緊張性気胸や大量の胸水貯留では反対側に偏位することがある.

胸骨上切痕から甲状軟骨下縁までの距離は通常3~4横指程度の距離があるが,慢性閉塞性肺疾患などで肺が過膨張している場合にはその距離が短縮する.

呼吸筋の位置と同定の手順

呼吸運動は呼吸筋の活動によって引き起こされる.安静吸気の大部分は横隔膜の活動によって引き起こされ,安静呼気は肺および胸郭の弾性力によって生じる.呼吸器疾患患者においては,安静呼吸時から努力性吸気や努力性呼気が認められる場合があり,呼吸筋の筋活動を評価することは患者の呼吸状態を把握する上で重要である.

努力呼吸時に働く呼吸筋の種類と触知部位を表2にまとめる.努力性吸気では主動作筋である横隔膜や肋間筋に加えて,胸鎖乳突筋,僧帽筋上部線維,斜角筋,脊柱起立筋,大胸筋(肩屈曲位で胸郭を挙上する作用)3,腰方形筋などの呼吸補助筋群の筋活動が呼吸運動に動員される.健常者で筋活動を検出するには鼻をつまみ,閉口した状態で努力性に吸気を行った際に筋収縮を触診する.努力性呼気では,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,広背筋などの筋活動が呼吸運動に動員される.健常者では意図的に咳払いをした際の筋収縮を触知する.

表2 呼吸筋の触知部位と健常者における筋活動の検出方法

作用呼吸筋の種類触知部位筋活動の検出用法
努力性吸気胸鎖乳突筋頸部側面で最も表層に浮き出てくる筋(胸骨頭,鎖骨頭の2筋)を触知する鼻をつまみ,閉口状態で強く息を吸うことで触知される
僧帽筋上部線維鎖骨上窩の後方から頸部の後側方にかけて最も隆起している部位で触知する
中斜角筋胸鎖乳突筋鎖骨頭と僧帽筋上部線維の間で触知する
脊柱起立筋棘突起の側方で触知する
大胸筋胸肋部~腹部線維腋窩前縁で触知する
腰方形筋腸骨稜後側方から頭側で脊柱起立筋の外側にて触知する
努力性呼気腹直筋臍の外側で触知する咳嗽時に触知される
外腹斜筋腹直筋のさらに外側で触知する
内腹斜筋上前腸骨棘から2横指正中寄りで触知する
広背筋肩甲骨下角外側縁で触知する

おわりに

今回,解説したランドマークと実際の肺および肺葉の位置関係は健常者において概ね該当するものであり,特に呼吸器疾患においては必ずしも一致するとは限らない.呼吸器疾患においては,フィジカルアセスメントや画像所見などから実際に評価した肺の境界とランドマークとの乖離から,肺が過膨張しているのか,或いは縮小しているのかを類推する.また,肺葉の位置が同定できるようになることによって,病変部位の特定が可能となり,体位ドレナージや排痰手技などを行う際の一助となる.さらに,呼吸筋の筋活動が評価できることによって,患者の呼吸状態の異変に一早く気づけるようになる可能性があることから,職種を問わず多くの臨床家が技術を習得することが望ましい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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