The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Key points in the techniques to manually assist breathing
Yuko Sano
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2024 Volume 32 Issue 3 Pages 296-300

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要旨

コンディショニングとして位置づけられている呼吸介助(法)は,理学療法士や看護師らによって多くの臨床場面で実施されている.対象者の胸郭を呼気時に直接介助するこの手技は,換気の改善,呼吸仕事量の軽減,気道内分泌物の移動,呼吸困難の緩和,胸郭の運動性改善・維持などの効果が期待される.排痰目的のスクイージングとは一線を画す.適応はCOPDなど慢性呼吸器疾患の急性増悪時や安定期,周術期や神経筋疾患など多岐にわたる.呼吸介助を効果的に実施するためには対象者の呼吸パターン,胸郭柔軟性などの評価を行い,胸郭の生理的運動に一致する方向に介助を加えることや,呼吸パターンに合わせるタイミング,疼痛や不快感を与えない介助の強さ(圧)など,いくつかの押さえるべきポイントがある.胸郭の柔軟性を活かして実施する本手技は,肋骨骨折などのリスク管理と併せて,スタッフ間で繰り返し練習し,技術の向上に努めることが肝要である.

はじめに―呼吸介助はいつから実施されていたのか―

呼吸介助(法)(呼吸介助もしくは呼吸介助法:以下呼吸介助)はコンディショニングの一手段として位置づけられ1,理学療法士や看護師を中心に多用されている.

胸郭に直接アプローチを行うこの手技は,1977年に呼吸介助という表現を用いてはいないが,外科・ICUの呼吸器疾患に対する理学療法手技であるchest careとして解説している2.その後1983年に,呼吸介助という名称で,高齢者肺がん患者に対するICUにおける理学療法手技として紹介されている3.40年前の報告であるが,術後第1病日目より介入し,胸郭運動の減退を改善させたと報告している点は注目すべきところである.この手技はこれら論文の著者である伊藤直栄氏がカナダ留学中にDr. Kolaczkowskiと共同で開発したとされている4

多職種により支持されているこの手技は,どのような場面で,どのような効果をねらい実施するのか,適応や禁忌も含め解説する.

呼吸介助の定義―呼吸介助とスクイージングはどう違うのか―

呼吸介助とは,呼吸理学療法標準手技では「徒手的に胸郭運動を他動的に介助すること.患者の胸郭に手掌面を当てて,呼気に合わせて胸郭を生理的な運動方向に合わせて圧迫し,次の吸気時には圧迫を解放することを繰り返すもの」と定義づけられている4.また,理学療法学事典では「胸郭の拡大,縮小によって行われる呼吸運動を用手的に介助し,換気を促進する手技.人工呼吸法の呼気吹き込み法は胸郭の弾性により呼気が自然に行われるが,本法では呼気時の胸郭の圧迫後,弾性により吸気が受動的に行われる」としている5.いずれにしても徒手的に呼気時に自発呼吸を介助する手技のことを示している.介助を加える部位は基本的には病巣部位であり,上部胸郭,下部胸郭,左右胸郭,背面など部位別に実施する場合や,側臥位,前傾側臥位,坐位,仰臥位など姿勢によって手技を選択する.

同様に患者の胸郭に直接触って行う手技に「スクイージング」がある.これは「排痰体位をとり気道内分泌物の貯留する胸郭を呼気時に圧迫し,吸気時に圧迫を開放する手技であり,通常は体位ドレナージと併用するため,徒手的な排痰手技に位置づけられる」と定義づけられている.気道内分泌物が貯留している肺葉,あるいは肺区域に相当する胸壁上に限定して行うこと,さらには気道内分泌物が貯留していない場合は適応ではないと明記されている4

これらの徒手的な手技は,目的によって選択し,正しく実施する必要がある.

呼吸理学療法における呼吸介助の位置づけ

呼吸介助は,呼吸リハビリテーションにおける介入のプログラム構成では,コンディショニングに位置づけられている1.コンディショニングとは,対象者のディコンディショニングの状態を改善し,運動療法を効果的に行うために身体の状態を整え,運動へのアドヒアランスを高めるための介入である6.また,身体活動性向上・維持をめざした支援としても活用される7

コンディショニングには,口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法,リラクセーション,胸郭関節可動域の維持・改善,頚部の呼吸補助筋群などのストレッチング,排痰法など,その手法は多岐にわたり,呼吸介助もその中のひとつとして広く実施されている(表1).

表1 コンディショニングにおける呼吸介助の介入方法

コンディショニングプログラム呼吸介助の介入方法
①呼吸練習口すぼめ呼吸,横隔膜呼吸(腹式呼吸)など腹部を介助し腹式呼吸練習,呼吸コントロールの際に併用
②リラクセーション呼吸筋ストレッチング,呼吸補助筋ストレッチイング,安楽なポジショニング,マッサージ安楽なポジショニングと併用
③胸郭可動域の拡張・全身ストレッチング胸郭可動域練習(ROM-ex.),関節モビライゼーション,徒手胸郭伸張法,呼吸筋・呼吸補助筋ストレッチング,四肢ストレッチング胸郭の可動性・柔軟性の改善・維持のためにルーティンに実施
⑤排痰自力で行うもの(咳嗽・ハフィング・アクティブサイクル呼吸法など)
他動で行うもの(スクイージング・咳嗽介助など),体位ドレナージ
体位ドレナージと併用

文献68より著者作成

呼吸介助の目的と期待される効果4,8

1. 換気の改善

呼吸介助の主たる目的は換気の改善である.胸郭の柔軟性を利用し,胸郭の生理的運動に一致する方向に呼気時に介助を加える.呼気を介助することで呼気量を増やし,その後の1回換気量を増やす.低酸素血症や高二酸化炭素血症などの病態に実施するため,急性あるいは慢性を問わず適応となる.胸部・腹部手術患者の術後無気肺の予防や改善を期待して実施する場合は,ベッドサイドにて早期から開始する.

2. 気道内分泌物の移動

気管支拡張症,慢性気管支炎など痰の多い病態,また肺炎,COPDなどの急性増悪時に,ドレナージポジションと併用し呼吸介助を加えることで,気道内分泌の移動を促進し,効果的な排痰を行う.外科術後に排痰困難が予想される場合は,術前からドレナージポジションや咳嗽の仕方などを指導すると共に呼吸介助を体験してもらう.術後は可及的早期から介入する.最終的に気管吸引を実施する場合は,気管吸引が可能なところまで痰を移動させる必要があり,可能な限りドレナージポジションを併用し呼吸介助を行う.

3. 呼吸仕事量の軽減

浅く,早い呼吸パターンや努力性呼吸を呈している場合は,安楽肢位やパニックコントロールのポジションをとり,他動的に介助することによって呼吸数を減少させ呼吸仕事量を軽減させる.呼吸数が多く,呼気のタイミングに介助を合わせることが困難な場合は,2呼吸か3呼吸に1回の介助を加えるなど,対象の呼吸パターンによって調整する.

4. 呼吸困難の緩和

安静時や労作時の呼吸困難の際に呼吸介助をすることで,呼吸困難の軽減をめざす.たとえば,歩行直後に安楽肢位を取り呼吸介助を実施することで,息切れだけでなく低酸素血症からのリカバリータイムを短縮することができることは経験的に知るところである.

COPD患者に対して,平均20分前後複数のテクニックを組み合わせて本手技を実施した前後の呼吸感覚について,実施後,明らかに改善がみられることがVASスケールによって確かめられたことを報告している9.さらに呼吸介助後に全肺気量(TLC),機能的残気量(FRC),残気量(RV)のすべての肺気量は有意に減少している.COPDの症状を悪化させる重要な因子である肺過膨張を,呼吸介助によって緩和する効果が得られたことは非常に意義があると考える.

5. 胸郭の運動性改善・維持

この手技の特徴は,対象の胸郭を呼気時の胸郭運動と一致する方向に介助を加えることである.他動的に胸郭を動かすことで呼吸補助筋群のストレッチング効果と同様,胸郭の可動性・柔軟性の改善・維持が期待できる.

6. 呼吸介助の主な適応(表2

上記1から5の複合的な効果を期待し,安定期COPDなど,ルーティンで実施したり,周術期・急性期では可及的早期からベッドサイドより介入したりする.主な適応は表2を参照されたい.

表2 呼吸介助の主な適応

慢性期換気補助,胸郭の柔軟性維持・改善,排痰,呼吸パターンの指導・コントロール
例)COPDなど慢性呼吸器疾患においてルーチンに実施
  気管支拡張症,慢性気管支炎など痰の多い病態での排痰
急性・救急時
周術期
労作時低酸素血症,低換気,呼吸困難,パニック時
例)喘息発作,CO2 ナルコーシス,COPDなどの急性増悪期
  労作・運動中の急激な低酸素血症,人工呼吸器管理中抜管時のサポート
  手術前後,肺炎・誤嚥性肺炎
その他の病態例)神経筋疾患(ALS,パーキンソン,その他),
  脊髄損傷,脳血管障害および併発する誤嚥性肺炎
  脳性麻痺など小児疾患

文献468より著者作成

呼吸介助の禁忌および注意点4,8(表3)

呼吸介助の禁忌について表3に示す.熱傷による植皮術後や多発肋骨骨折など,胸郭を触ることができない,動かすことができない状況は禁忌である.骨粗鬆症の場合は肋骨骨折などを生じないように留意する.また,わずかな体位変換でも血圧低下などを生じるような循環動態の不安定な場合,実施は困難であり禁忌となる.呼吸介助を実施しても換気の改善が得られない場合,実施部位や肢位を変えるなどの調整をする.酸素飽和度や血圧,脈拍などのバイタルサインをモニタリングしながら,効果が期待できない場合は躊躇なく中断する.効果を期待して必要以上に継続しない.また胸腹部手術後,安静時でも痛みがある場合は局所の疼痛コントロールを実施したうえで行う.

表3 呼吸介助の禁忌と注意点

病 態
絶対的禁忌胸郭の広範な熱傷による植皮術後
相対的禁忌循環動態の不安定な患者
(フレイルチェストを伴った)多発肋骨骨折
離開した術創の存在
脆弱化した皮膚・骨粗鬆症の合併
注意点換気の改善が期待できない場合は適応外
同一患者であっても適応の時期と禁忌の時期がある場合もある
疼痛のある場合は疼痛コントロールを行い実施

文献48より著者作成

呼吸介助を正しく実施するために8,11

1. 介助の方向が適切か

介助する方向は,胸郭の呼気時の生理的運動に一致した方向に加える.対象者の呼吸の運動要素である,上部・下部胸郭,腹部(横隔膜),必要に応じて胸郭背面から腰部の拡張性と柔軟性を評価し開始する.

上部胸郭の動きは,ポンプハンドルモーションと言われ,吸気時に肋椎関節を中心にして胸骨が前上方向へ動き呼気時にはもとに戻る.下部胸郭の動きはバケットハンドルモーションと言われ,下部肋骨がバケツの取っ手のように動き,吸気時には外側方向にも広がり,呼気時に骨盤方向に引き下がる.呼吸介助は呼気時にその運動方向に胸郭を動かす手技であり,吸気の運動方向だけでなく,呼気時の運動方向を確認することが重要である.胸郭の可動性が著しく低下している場合や胸郭変形がある場合などは,けっして無理をせず,その可動範囲内で介助を行う.

2. 介助のタイミングが適切か

呼吸介助のタイミングは,対象の呼吸パターンに一致させることである.胸郭に手掌面全面を密着させて触診し,呼吸数,呼吸のリズム,吸気時間と呼気時間の比(inspiratory-expiratory ratio(I:E))など,呼吸運動の時間要素を評価する.

介助の開始のタイミングは,吸気が終わり呼気に移行したのを確認してから始める.安静呼気位を超えて,胸郭の動きが自然に止まるところまで介助を継続し,吸気に変わるタイミングですみやかに介助を解放する.吸気の開始を妨げないように留意し,吸気時の胸郭の拡張を手掌面で触知しながら次の呼気のタイミングを図る.実施中,手掌面は胸壁に密着させたまま離さず,目的が達成されるように呼吸介助を継続する.うまくタイミングが合っていると,介助による十分な呼気のあと1回換気量が増加する.

3. 介助の強さ(圧)が適切か

呼吸介助は胸郭の柔軟性を活かした手技であり,強さ(圧)を判断するためには対象の胸郭柔軟性を評価する.柔軟性の評価は,胸郭を呼気時の生理的運動に一致した方向に他動的に動かすが,対象の呼吸パターンに合わせる必要はなく数回行う.母指球・小指球で圧迫したり,指尖で胸郭を把持したりせずに,手掌全面で胸郭をとらえる.手だけで胸郭を動かそうとせず,呼吸介助の部位にかかわらずすべての手技は実施者の重心移動で行う.呼吸介助の強さについては標準的な方法は確立されていないが,疼痛や不快感を与えるほどの圧は加えない.呼気時に介助しながら重心を実施者の前足にかけていき,吸気に移るタイミングで重心を後ろ足に移動する.小児や新生児などの場合も,できるだけ手指の接触面積を多くとり,胸郭柔軟性を評価したうえで実施する.コミュニケーションが取れる場合は圧迫感や不快感の有無などを確認しながら安全に実施する.呼吸介助を実施することで疼痛や不快感が出現した場合,直ちに中断する.わずかでも換気量が増えれば良いので,少しずつ調整し,最適な強さで実施する.

おわりに

対象者の呼吸に合わせて呼気時に介助を加えるこの手技は,特別な機器の必要がなく,急性・慢性を問わず多くの臨床場面で活用することができる.効果的に実施するためには呼吸介助実施前に,胸郭の拡張性・柔軟性,呼吸パターンなどを十分に評価することが重要である.肩関節周囲炎や腰痛など運動器疾患による疼痛など,全身の疼痛の有無を確認し,術後,創部の痛みや不快感などがある場合は局所の疼痛対策を行ったうえで実施する.

COPDなどでは口すぼめ呼吸と併用しながら,呼吸パターンに合わせて呼気時間をしっかり確保するなど,病態にあわせた手技の選択と方法を考慮する.効果判定は,パルスオキシメーターで実施前後の数値を確認することや,聴診所見で判定する.

肋骨骨折などのリスク管理は肝要であり,技術向上のため日々のブラッシュアップの必然性は言うまでもない.田中らは呼吸介助習熟度が1回換気量に影響する要素について,接触部位の適否と介助のタイミングであると報告している10.スタッフ間で繰り返し練習をし,技術の向上に努める.

当学会ホームぺージに掲載の会員向けe-learning「呼吸介助」11をぜひご視聴いただき,手技習得の一助になれば幸いである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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