The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Society Award-Winning Articles
The approach to physical activity based on clinical features in patients with COPD
Atsuyoshi Kawagoshi
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 1-5

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要旨

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において,生存率といった予後に関与する身体活動量(PA)についての報告は,この十数年で数多く確認されている.健常者よりも減少しているPAに対し,近年,歩数計を利用したフィードバック介入を行う事で増加が見込めるとされている.しかし,低体重を呈した比較的高齢のCOPD患者においては,PAの増加を実現しにくい現状がある.また,筋肉量が減少している臨床像を呈する患者の高い活動性は,炎症性サイトカインの高さと関連することも伺える.超高齢化社会にある本邦の患者の臨床像を勘案し,PAの増加には低体重や低運動耐容能を改善するアプローチを優先する道筋が重要であることを提示した.機能面の制限が強い重症例にとっては低強度の活動を中心とした適切,かつ実現可能な活動性向上のアプローチを確立することも課題である.

はじめに

生存率といった予後に関与する身体活動量(physical activity; PA)の重要性は国際的に認知され,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)患者においても例外ではない.本邦の指針においても,全身性炎症の原因として低身体活動の関与が支持されていることを報告しており1,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)のステートメントにおいても,予後予測因子としての必須の評価項目の一つと示されている2.PAの評価はPittaら3の報告を皮切りに,加速度計による評価が主流となり,歩数を中心とした指標において,COPD患者ではPAが低下している現状がある.それに対し,PAの増加を目的とした直接的介入の報告も散見され,GOLDのガイドラインにおいても具体的な戦略について確立されるべきと推奨されている4.我々はCOPD患者のPAに関する臨床研究を通じ,一定の知見からPA増加を導く道筋の一端を提言した.重症な機能面を有する患者も含め,個々の臨床像に即した適切な活動性を実現する手法も検討したので,以下に報告する.

COPD患者における身体活動量

PAは加速度計によって,歩数を中心とした活動時間,エネルギー消費量,あるいは活動強度といった,より詳細な解析が進み,様々な側面からの知見が報告されている.我々は,本邦で開発された3軸加速度計activity monitoring and evaluation system(A-MESTM)を用いた調査にて,COPD患者の1日の歩行時間が,同年代の健常高齢者と比較して約40%有意に減少しており,座位時間は約30%有意に増加していたことを報告した5.歩行速度別に評価した歩行時間を比較しても,COPD患者は健常者よりも低い歩行速度で歩行している割合が高いことも示唆された(図1).さらに,本検討結果において,歩行時間は6分間歩行距離(six-minutes walking distance; 6MWD)と正相関(r=0.520, p=0.007)を示していた.Furlanettoら6は,活動的な時間とは対照的な 1.5 METs未満の不活動な時間(sedentary behavior; SB)も予後に影響すると報告していることから,追跡検討として,座位と臥位を併せた時間(座位行動時間)をSBとして,運動耐容能との関連性を検討した.結果,6MWDが 357 m未満の群では座位行動時間が延長し,座位行動時間と6MWDには負の相関関係(r=-0.451, p<.05)もみられた7.加えて,長期経過を追い,平均6年後の生存転帰に関連するPAのcut off値を検討したところ,歩行時間では167分/日,起立回数では30回/日未満では生存率低下に影響することも示唆された(図28

図1 COPD患者と健常対照群の歩行速度別に比較した1日の平均歩行時間(文献5を参考に改変)

Paired or non-paired t-test; *p<0.05,**p<0.01

図2 生存転帰に関連する基準値を基にした生存曲線(a; 歩行時間,b; 起立回数)

以上のように,COPD患者のPAを活動時間として捉え,量と質の面から調査し,関連する因子の検討においても,SBと運動耐容能との関連性も確認された.さらに予後に関連しうる活動性の一端を示し,PAの評価や指導の参考値に加え,運動処方の目標値にも活用できる可能性も示唆している.

PA増加の直接的介入とその実態

ガイドラインにてPAの増加を図る介入を推奨することに先んじて,我々は,欧米諸国に比べ超高齢化社会の本邦におけるCOPD患者の現状に留意した低強度運動療法による呼吸リハに,PAを増加させるための歩数計を利用したフィードバック介入を加え,長期的に施行した効果をランダム化比較試験で検証した9.結果,呼吸リハ単独の効果としては,介入前と比べ,1年後の1日の歩行時間が45%有意に増加し,臥位時間は33%有意に減少した.また,歩数計によるフィードバックを加えた群(歩数計群)では,歩行時間が121%の有意な増加,臥位時間は44%の有意な減少がみられた.呼吸リハのみを施行した群を対照として,変化量を比較した結果では,歩行時間の変化量は有意に歩数計群で高値を示した(図3).Armstrongら10による,歩数計をフィードバックツールとした介入効果をレビューした報告においても,筆者らの検討も含まれたメタ解析の結果では有意に改善する結果であった.しかし,PAに対する呼吸リハの効果を検証した報告のほとんどは海外で検証されている報告がほとんどであり,塩谷ら11のレビューした報告の多くは,参加者のほとんどが50~60歳台で,body mass index(BMI)>25 kg/m2 の対象者であった.さらに,平均年齢が70歳以上かつ,重症例を含む低体重の対象者で検証した報告12,13においては,PAの有意な改善が得られていない現状であった.ガイドラインにおいても,PAに対する直接的介入の具体的な方法については未だ明記されておらず,呼吸リハを処方された患者に対して,どのような時期,あるいは状態から開始すべきかを検討することが重要と考えられた.

図3 歩行時間の変化量の比較(文献9より引用)

対照群;呼吸リハのみを施行した群

歩数計群;呼吸リハに加え,歩数計による歩数のフィードバック介入を施行した群

本邦の臨床像に即したPA増加への道筋

臨床症状に即したPA増加を図るアプローチ方法として,筆者らの検討結果も踏まえ,運動耐容能の評価が重要であると考えられた.Blondeelら14は,ベースラインの6MWDが高い患者を対象とした研究では,6MWDが比較的低い患者を対象とした研究と比較して,行動変容の介入による歩数の改善が良好であることを報告している.PAの増加が期待できる6MWDの基準として,Osadnikら15の報告では,少なくとも 350 mがカットオフ値となり得る.さらにKoolenら16は,活動できる運動能力の基準は予測6MWD>70%と示している.筆者ら9の検討においても,ベースライン時の平均6MWDが 350 m以上であったことも,PAの改善に寄与する要因の1つであったと考えられる.

また,高齢COPD患者の高い罹患率と関連しているサルコペニアの病態も考慮する必要がある17.除脂肪量指数(fat free mass index; FFMI)が低いCOPD患者の場合(FFMI<16 kg/m2 [男性] および FFMI<15 kg/m2 [女性]),炎症マーカーの指標は最大負荷運動時に増加するとの報告があり18,筆者らの報告でも,%標準体重が 90%未満の体重減少をきたすCOPD患者においては,炎症マーカーの増加は,日常生活における PA の増加に関連していることも示唆された(表119

表1 一日の活動時間と体組成,炎症マーカーとの相関係数(Pearson’s correlation coefficient)

歩行時間p-value立位時間p-value座位時間p-value臥位時間p-value
BMI0.5600.0920.0320.9310.1940.591-0.4550.186
%IBW0.5700.0860.0560.8770.1870.605-0.4790.161
FFM0.641*0.046-0.2290.5250.0210.9550.0260.944
FFMI#0.758*0.018-0.0180.8500.1150.956-0.1760.301
CRP0.5620.1160.797*0.018-0.6450.084-0.4240.296
IL-6-0.0650.8680.742*0.035-0.5790.133-0.2890.488
IL-80.758*0.0180.1200.777-0.0660.877-0.3060.461
TNF-α#-0.1360.439-0.0430.7300.1730.435-0.0740.909

#; Spearman’s rank correlation coefficient, *p<0.05,

BMI, body mass index; %IBW, %ideal body weight; FFMI, fat-free mass index; CRP, C-reactive protein; IL, Interleukin; TNF, Tumor necrosis factor

文献19より改変引用

したがって,PAの増加を図るには運動能力,筋肉量あるいは体重に目を向ける意識が求められ,低運動耐容能(%6MWD<70%,あるいは6MWD<350 m),あるいは低体重(%標準体重<90%),低筋肉量を呈する患者の場合は,栄養療法を積極的に併用した呼吸リハによる機能的な改善を優先しながら,PAにアプローチしていく戦略を提唱した(図420.しかし,呼吸リハによる改善にも限界があり,機能面の制限が強く,十分な活動量が得られない重症例も想定される.歩行運動以外の動作による参考値の提示も,より明確な目標設定として有用であろうと考え,獲得しうる1日の低強度(METs: 1.8-2.3)の活動時間(low-intensity physical activity; LPA)を算出する予測式:予測LPA=歩行速度(m/s)×31.9+最大吸気呼吸内圧 [PImax(cmH2O)]×0.2-20.553を構築し,その妥当性も検証した(図521.LPAの予測値を目標値として提示することで,座位行動時間の減少に寄与することも期待できるのではないかと考える.

図4 PAの増加を図るアプローチを開始するための臨床指標と道筋(文献20より引用)

運動耐容能,体組成の基準値を満たしている場合はPA増加のアプローチを開始することを考慮する.低運動耐容能,あるいは低体重,低筋肉量を呈する場合は,栄養療法を含めた呼吸リハによる機能的な改善を優先する.

図5 予測LPAと実測LPAの妥当性を示した散布図(文献21より改変引用)

LPA; low-intensity physical activity

PAに対するアプローチは,疾患の個別性だけでなく,各国・地域性といった社会背景因子に応じて,様々な手法が存在すると推察される.本邦におけるアプローチ方法についても,引き続き臨床現場における検討が必要であり,臨床像に即した適切な道筋を確立させていくことが課題となる.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は,2022年度日本呼吸ケア・リハビリテーション学会賞という非常に栄誉ある賞を賜り,大変嬉しく思うとともに,大きな励みに感じております.

秋田大学名誉教授であられる塩谷隆信先生のご指導の下,身体活動量というテーマについての臨床研究を始め,エビデンスの構築に少しでも貢献できるよう,検討・報告を続けて参りました.受賞できたことにあたり,研究活動を続ける上で多大なるご支援・ご協力を賜りました市立秋田総合病院リハビリテーション科のスタッフの方々をはじめ,研究報告・学会発表等に多くのご指導を賜りました塩谷先生,秋田大学大学院医学系研究科呼吸器内科学講座の中山勝敏先生に,謹んで深謝申し上げます.

この度の賞を励みに,引き続き身体活動量も含めた呼吸リハビリテーションの更なる発展を目指して,研究に邁進していく所存であります.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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