The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Society Award-Winning Articles
Clinically applicable approach to maintain physical activity in COPD patients
—Focusing on a new evaluation of dynamic lung hyperinflation and pulmonary rehabilitation maintenance program—
Yutaka Furukawa
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 12-17

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要旨

COPD患者において身体活動量(physical activity: PA)は死亡率のみならず増悪,健康関連QOL,呼吸困難,運動耐容能など多岐に影響を及ぼしていることが示され,その維持向上は重要な管理目標とされている.我々はPAを低下させる要因の一つである動的肺過膨張の測定を,従来よりも簡易的な方法(metronome-paced incremental hyperventilation: MPIH)を用いて測定し,PAが低下している群は,維持群と比較して動的肺過膨張が重度であったことを明らかにした.さらに,PAの維持改善のために呼吸リハビリテーション終了後の効果の持続に対する取り組みとして,PAカウンセリングと在宅トレーニングからなるメンテナンスプログラムを2年間行ったCOPD患者ではPAが維持されることを明らかにした.今回用いたそれぞれの方法において,安価かつ簡便に実施できる点から実際の臨床場面においても導入が期待される.今後の効果的な呼吸リハビリテーションプログラムの評価,立案および普及の一助になると考えられる.

はじめに

身体活動量(physical activity: PA)は,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者において最大の生命予後規定因子であることが知られている1.さらに,ベースラインのPAレベルが中等度~高度を示していたとしても,追跡調査時(中央値:17.1年)に低いPAを報告したCOPD患者の死亡率ハザード比が高いことも明らかになった(それぞれ1.73と2.35,ともにp<0.001)2.これらの報告は,COPDが軽度の段階から可能な限り高いPAを維持するために,PAを評価および奨励することが重要であり,それがより良い生命予後に関連していることを示唆している.さらには,PAは死亡率のみならず,増悪,健康関連QOLなど多岐に影響を及ぼしている3ことが示され,国内のガイドライン4においてもPAの向上および維持がCOPD患者の管理目標であることが明記されている.

COPD患者における動的肺過膨張新しい指標と身体活動量の関連

Gimeno-Santosらのシステマティックレビュー3において,COPD患者におけるPAの決定要因との関連性および因果関係の方向性に関する概念モデルが開発されている.臨床的および機能的な決定要因のうちのほとんどが,研究デザインや交絡因子の調整不十分などでlow qualityと評価された一方,動的肺過膨張(dynamic lung hyperinflation: DLH)のみ一貫性のある関連が認められたとしている.COPD患者において,労作時呼吸困難の原因となる基本的病態は,気流閉塞とDLHであることが知られている4.COPD患者では,呼気時の気道抵抗の増加および肺の弾性収縮力の減少により,安静時でもair trappingが生じて肺が過膨張になる(静的肺過膨張).特に労作時は,呼気終末肺気量位(end expiratory lung volume: EELV)を増加させて最大吸気量(inspiratory capacity: IC)を減少させる5,6ため,労作時呼吸困難が増強し6,運動耐容能低下の原因となる5.DLHは有用な指標であるが,臨床場面において評価が広く行われてこなかった要因として測定の困難さが挙げられる.これまでのところ,動的肺過膨張はトレッドミルやエルゴメータに呼気ガス分析を併用した心肺運動負荷試験中および6分間歩行試験(6-minute walk test: 6MWT)中のICの減少によって評価されてきた7.この評価法では,呼気ガス分析装置のような専門的な機器やフィールド歩行試験のための広いスペースが必要である.また,この方法では,運動中に患者が最大限の吸気努力を定期的に行う協力が必要となる8.この最大吸気は,特に重症COPD患者では呼吸困難を悪化させる可能性があり,リスク管理の観点からも採用し難い方法であった.

我々は従来,測定が難しいDLHをMPIH(metronome-paced incremental hyperventilation)という呼吸機能検査の応用として簡便で,測定環境の制約が少ない方法を用いて測定する機会を得た.この方法は,COPDにおいて運動負荷時にEELVが運動継続とともに次第に増加し,その裏返しとしてICが減少する点に着目し,呼吸数の変化によるIC減少の程度をDLHの指標として測定することものである.測定には,電子式診断用スパイロメータ(SP-370 COPD肺Perプラス,フクダ電子社製)を用いた(図1).この機器には,機器本体に内蔵されている電子メトロノームとLEDランプに従って,吸息,呼気速度およびタイミングを調節することが可能である利点がある.対象者には,呼吸数を30回/分に規定した呼吸を30秒間行わせた直後に最大吸気を命じた(図29.これによって測定されたIC(IC30)およびそれを全肺気量(total lung capacity: TLC)で補正したIC30/TLCの2つをDLHの指標として用いた.身体活動量および強度の観点からその特性を比較するために,1日の平均歩数(steps)が5,000歩未満および中強度以上の平均活動時間(moderate to vigorous intensity physical activity: MVPA)が150分/週(1日あたりに換算し21.4分/日)未満の者を低下と定義10,11し,低下群と維持群の2群での比較を行った.

図1 電子式診断用スパイロメータSP-370 COPD肺Perプラス(Fukuda Denshi Co., Ltd., Tokyo, Japan)

内蔵されたMPIH機能により動的肺過膨張を測定することが可能なスパイロメーター.

図2 メトロノームペース漸増的過換気による動的肺過膨張の測定手順(文献9より引用)

呼吸数を30回/分に規定した呼吸を30秒間行わせた直後の最大吸気で測定されたIC(IC30)を動的肺過膨張の指標として用いた.

その結果,歩数低下群(3,013±1,591歩)は13名,維持群(9,488±2,231歩)は7名であった.IC30(1.52±0.59 vs 2.20±0.52 L,p=0.005),IC30/TLC(26.0±6.9 vs 34.9±9.3%,p=0.022)であり,PAが低い群においてDLHが重度であることが明らかになった.COPD患者においてMPIHを用いて測定されたDLHはPAと関連する可能性を報告した(表1および図3).この結果は,DLHの抑制を目的とした指導法の有用な根拠であり,PA増加を目的とした治療的介入の一助となると考えられる.吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training: IMT)は,呼吸リハビリテーションプログラムの一つに位置付けられており,その有用性も数多く報告されている.実際に,8週間のIMT介入により定常運動負荷試験中のDLH(論文中で用いられた指標はinspiratory fraction=IC/TLC)が改善することが明らかになっている12.さらには,邦国の多施設無作為化比較対照試験13においてIMT介入によってCOPD患者のPAの向上が得られることも報告された.これらの研究を読み解いていくと,IMTによる労作時呼吸困難の改善はDLHの減少よるものが大きく,PAの向上は労作時の呼吸困難の改善からもたらされているものであることが考えられる.

表1 歩数(5,000歩)を基準とした比較

<5,000 steps/day
(n=13)
≧5,000 steps/day
(n=7)
mean difference95%CIp-value
Age, yr76(6) 70(5)6-0.15, 11.30.056
BMI, kg/m220.6(2.6)*24.0(2.3)-3.6-6.0, -1.10.007
FVC, L3.17(0.70)3.82(0.69)-0.65-1.37, 0.040.063
FEV1, L1.40(0.62)1.99(0.82)-0.59-1.27, 0.090.086
IC, L1.73(0.50)2.16(0.52)-0.43-0.93, 0.660.085
IC30, L1.52(0.39)*2.20(0.54)-0.68-1.13, -0.230.005
FEV1/FVC, ratio43.9(15.9)50.9(14.9)-7.0-22.3, 8.40.356
FEV1, %pred54.1(22.1)69.8(22.8)-15.7-38.8, 7.20.161
TLC, %pred112.8(22.2)113.6(19.2)-0.8-21.7, 20.10.936
FRC, %pred117.2(30.0)117.3(25.9)-0.1-27.6, 27.50.997
RV, %pred148.4(53.2)122.6(44.8)25.8-22.2, 73.90.290
RV/TLC46.7(9.6)38.7(9.3)8.0-1.3, 17.40.088
IC/TLC29.2(11.3)34.8(10.3)-5.5-16.3, 5.30.295
IC30/TLC26.0(6.9)*34.9(9.3)-8.9-17.2, -15.20.022
DLco, %pred95.9(36.3)107.5(34.5)-11.6-46.8, 23.60.497
GOLD stage,I/II/III/IV2/4/5/23/3/1/0
mMRC grade2(0.5, 3)1(0, 1)0.183
CAT, points10(5, 15.5)12(7, 19)0.351
MVPA, min/day7.8(7.2)*45.4(18.5)-37.6-49.7, -25.7<0.001
6MWD, m436(136)*556(65)-120-236, -3<0.001

All measures are mean(SD)or median(25 percentile, 75 percentile); * differences are significant; BMI, body mass index; FVC, forced vital capacity; FEV1, forced expiratory volume in 1 second; IC, inspiratory capacity; IC30, inspiratory capacity after 30 bpm rates; TLC, total lung capacity; FRC, functional residual capacity; RV, residual volume; DLco, carbon monoxide diffusing capacity; GOLD, Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease; mMRC, modified-medical research council; CAT, COPD assessment test; MVPA, time spent in moderate-to-vigorous physical activity per day; 6MWD, 6-minute walk distance; CI, confidence interval; SD, standard deviation.

図3 身体活動量(歩数とMVPA)を基準としたIC30およびIC30/TLCの比較

* differences are significant. a)shows the difference in IC30 between participants with reduced daily steps(<5,000 steps/day)and preserved daily steps(≧5,000 steps/day)and b)low MVPA group(<21.4 min/day)and preserved MVPA group(≧21.4 min/day). c)shows the difference in IC30/TLC between participants with reduced daily steps group(<5,000 steps/day)and preserved daily steps group(≧5,000 steps/day)and d)low MVPA(<21.4 min/day)and preserved MVPA group(≧21.4 min/day).

IC30, inspiratory capacity after 30 bpm rates; MVPA, time spent in moderate-to-vigorous physical activity per day.

今後の検証課題として,治療的介入によるDLHの改善が,直接的にPA増加に繋がるかどうかを確かめる必要が挙げられる.

在宅トレーニングと身体活動カウンセリングを中心としたメンテナンスプログラムによる身体活動維持の取り組み

COPD患者に対する呼吸リハビリテーションは,呼吸困難,健康関連QOL,運動耐容能,不安・抑うつ,入院回数および入院日数の減少に有効な治療介入であるとされており,エビデンスが確立されている14,15.しかしながら,呼吸リハビリテーションで得られた効果は1年~2年程度かけて徐々に減衰することが知られている16.2015年のCochrane Review14において,現状の確立された利点には十分なエビデンスがあり,呼吸リハビリテーションの臨床的有効性を証明するためにさらなる研究は必要ないと述べられた17.同時に,呼吸リハビリテーション終了後の効果の持続に対する取り組みが,新しい研究課題になり得ると提言された.メンテナンスプログラムは,短期的な呼吸リハビリテーションの効果を維持するために,初期の呼吸リハビリテーションプログラムよりも低い頻度かつ継続的に監督下で行われる運動と定義されている18.しかし,呼吸リハビリテーションで得られた利益を長期的に持続させる最適なアプローチについては,現在のところ明らかになっておらず,さらには,PAはCOPD管理における重要な要因であるにも関わらず,メンテナンスプログラムが結果に及ぼす影響については,現在のところ注目されていない.運動における監督頻度は,重要な要因であるようで,現在の知見では毎週1回以上の監督セッションが必要であることが示唆されている18.しかし,監視下のトレーニングを長期に渡って継続して行うことは人員やアクセスなどの問題から困難であり,持続可能な方法である新しいメンテナンスモデル(遠隔および在宅ベース)が登場している.また,最近のsystematic review19において呼吸リハビリテーションに追加されたPAカウンセリングは,呼吸リハビリテーション単独と比較してPA向上に効果的であると報告された.安価かつ簡便に実施できる点においても,実際の臨床場面においても普及が容易な方法であると考えられる.そこで我々は,在宅トレーニングを中心とした運動とPAカウンセリングを中心とした教育からなる呼吸リハビリテーション維持プログラムを2年間継続したCOPD患者におけるPAの変化について検証するため後ろ向きコホート研究を実施した.

本研究での採用したメンテナンスプログラムの特徴を示す.監視下プログラムの頻度は月2回,在宅トレーニングは特別な機器・用具を用いない自重負荷でのスクワットや座位運動が指導された.コンプライアンスが通院時に毎回確認され,実施状況に応じて運動強度や内容の見直しを行った.PAカウンセリング介入の焦点は以下の3点に当てられた.①動機付け:基本的な疾患概念やセルフマネジメントに加えて,身体活動を向上させる必要性や効果,具体的な方法などについて資料を用いて指導が行われた.②目標設定:歩数での目標設定がされ,活動量計の貸与や記録日誌を活用した自己管理が行われた.対象者は前回の歩数から10%増加させるように指導され,外来通院時に理学療法士によって実施状況が確認された.③市街地の散歩コースの設定:目標歩数が達成されるような自宅周辺の周回コースを,地図アプリを用いて対象と相談しながら設定した.

結果として,2年間のメンテナンスプログラム終了後,PAの指標である歩数(3,954±3,204 vs 3,773±3,758歩/日,p=0.490),MVPA(中央値7.2 vs 4.7分/日,p=0.053)はそれぞれ有意な変化が認められず,自然経過と下回る維持結果であり維持されていたと解釈された.6MWDにて測定された運動耐容能は有意な減少が認められた(417±161 vs 363±141,p=0.003)(表2).呼吸リハビリテーション維持プログラム完了後に,歩数の減少量が臨床的に意義のある最小差(minimally clinically important difference: MCID)を上回った群(n=10)は,MVPAが有意に高く(中央値15.7 vs 4.7分/日,p=0.034),updated BODE indexの重症度が低い結果(1.9±0.9 vs 4.7±4.6点,p=0.025)となった(図4).

表2 呼吸リハビリテーション維持プログラム初回評価時と2年間のプログラム完了後の比較

baseline2 yearmean difference95% CIp-value
BMI, kg/m222.5(3.1)22.2(3.3)-0.3-0.1, 0.70.143
FFMI, kg/m217.4(2.0)17.4(2.3)-0.02-0.35, 0.380.923
VC, L3.16(1.04)2.94(0.96)-0.230.03, 0.430.029
FVC, L3.08(1.08)2.90(1.13)-0.180.00, 0.350.046
FEV1, L1.57(0.77)1.47(0.79)-0.100.02, 0.180.020
QMVC-BW58.4(19.2)60.2(16.8)1.8-7.9, 4.20.538
PImax, cmH2O71.8(29.2)68.8(29.0)-3.0-3.5, 9.50.353
Step counts, step/day3,954(3,204)3,773(3,758)-180-346, 7060.490
MVPA, min/day7.2(2.1, 26.1)4,7(1.3, 19.3)0.053
6MWD, m417(161)363(141)-5520, 890.003
Gait speed, m/s1.12(0.19)1.04(0.24)-0.080.01, 0.160.028
mMRC grade2(1,3)2(1, 2.5)0.430
CAT, points12.6(8.7)13.8(8.7)1.3-4.2, 1.70.402
update BODE index3.5(3.9)4.0(4.4)0.4-1.3, 0.40.316

All measures are mean(SD)or median(25th, 75th percentile); BMI, body mass index; FFMI, fat free mass index; VC, vital capacity; FVC, forced vital capacity; FEV1, forced expiratory volume in 1 second; QMVC, quadriceps isometric maximum voluntary contraction; BW, body weight; PImax, maximum inspiratory pressure; MVPA, time spent in moderate-to-vigorous physical activity per day; 6MWD, 6-minute walk distance; mMRC, modified-medical research council; CAT, COPD assessment test; update BODE index, update BMI-airflow obstruction- dyspnea-exercise capacity index; SD, standard deviation.

図4 歩数のMCID(600歩/日)を基準にした比較

呼吸リハビリテーション維持プログラム完了後に,歩数の減少量がMCID(600歩/日)回った群(n=10)は,MVPAが有意に高くupdated BODEが低い結果となった.

MVPA, time spent in moderate-to-vigorous physical activity per day; update BODE index, update BMI-airflow obstruction- dyspnea-exercise capacity index.

これらから,本研究で採用したメンテナンスプログラム実施したCOPD患者のPAが自然経過を下回る減少に留まり,PA維持に寄与する可能性が示唆された.現在のところ,試験および介入デザインの異質性が解釈の課題となっているメンテナンスプログラムの確立の一助になると考えられた.また,反応性を示さなかった活動性が高く,重症度が低い対象者に対する有効的なメンテナンスプログラムの立案も今後の検討課題として残された.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

この度は,第11回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞という大変栄誉ある賞をいただきまして,誠にありがとうございます.受賞にあたり,日頃より大変多くのご指導をいただいております秋田大学名誉教授/医療法人久幸会ニコニコ苑の塩谷隆信教授,秋田大学大学院医学系研究科呼吸器内科学講座の中山勝敏教授,菅原慶勇先生をはじめとする市立秋田総合病院のスタッフの皆様,呼吸リハビリテーションチームの川越厚良先生,研究にご協力いただきました患者様,いつも私を支えてくれている家族ならびに学会関係の方々のご尽力の賜物のおかげであると存じております.この場をお借りして,心より感謝申し上げます.今回の一連の研究の成果は非常に多くの方々に支えられで達成できたものであります.今後もCOPD患者様の予後改善のため,本学会および呼吸リハビリテーションの更なる発展に少しでも貢献するために尽力してまいりたい所存でございます.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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