2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 18-22
集中治療領域のリハビリテーションは,重症患者に関わることが多く,様々な専門職種の協力が必要である.2018年度の診療報酬改定によって,ICUのリハビリテーションを推進すべく「早期離床・リハビリテーション加算」が新設された.この加算は多職種連携を前提としたものであるが,この連携にはリハビリテーション専門職としての深い関わりが求められる.しかし,リハビリテーションスタッフによる関わりの深度には,施設間によりバラツキがあり,未だ充実しているとは言いがたい現状にある.
当院では2007年よりICUに専属理学療法士を配置し早期離床や呼吸理学療法を実施している.また,専属理学療法士の役割は,単にリハビリテーションの実施のみに限らず,抜管前の各種評価の実施等多岐にわたることが可能である.本稿では,当院で実施しているリハビリテーション手法や注意点などについて紹介すると共に,当院ICU内での理学療法士の関わりについて紹介する.
集中治療領域のリハビリテーションは,重症患者に関わることが多く,様々な専門職種の協力が必要である.2018年度の診療報酬改定によって,ICUのリハビリテーションを推進すべく「早期離床・リハビリテーション加算」が新設された.この加算は「ICUにおける多職種による早期離床・リハビリテーションの取組に係る評価」と銘打つことからも,多職種連携を前提としたものであることは明らかである.ICUにおける早期離床の有用性については,2009年にSchweickertらによって報告されたRCT(ICUせん妄期間の短縮,人工呼吸器装着期間の短縮,退院時ADLの向上)1)が火付け役となり徐々に周知されるようになった.現在でも幾ばくかの議論はあるものの,一定の効果は認められている2).また,ガイドラインとしても痛み,不穏,せん妄,不動,不眠のガイドラインであるPADISガイドラインにも条件付き推奨としてエビデンスが掲載されている3).しかし,ICUに入室している重症患者のリハビリテーションを実施するには,当然,有害事象発生に対するリスクを念頭に置かなければならない.Baileyらは,多職種チームで介入した場合,早期リハビリテーションによる転倒や呼吸・循環動態の変動などの有害事象は1%以下であったと報告している4).また,本邦のエキスパートコンセンサスにおいて,安全かつ効果的に進めるためには多職種によるチームアプローチが必要不可欠であることが記されている5).ICUにおける多職種連携には様々な形があるが,早期離床・リハビリテーションへの取り組みに対する連携には,リハビリテーション専門職としての深い関わりが求められる.しかし,各施設間でICUにおけるリハビリテーションスタッフの関わりの深度にはバラツキがあり,未だ充実しているとは言いがたい現状にある.ICUスタッフとの関わりがより深まることで,リハビリテーションに直結したもの以外でも貢献できる部分が見つかることもある.本稿では,当院における早期離床・リハビリテーションの実施方法とICU内での理学療法士の関わりについて紹介する.
当院は各科主治医制をとるOpenスタイルのICUであり,数年前に麻酔科医師が集中治療に関わるようになるまでは,各科毎の治療方針のバラつきから呼吸管理や集中治療管理において統一された治療戦略がとられることが難しい時代があった.そのため,2007年からICUに専属の理学療法士を配置し,呼吸リハビリテーションという立場からサポートを行うべく,呼吸器内科医師と毎朝夕にICUに入室している全患者に対する回診とカンファレンスを行ってきた.現在,早期離床・リハビリテーション加算体制に変わってからも,これらの取り組みは継続しており,加算取得に必要な早期リハビリテーション計画書の作成も,それまでの流れを汲んでこの回診中に作成している.さらに麻酔科医師を中心としたICUに関わるスタッフによる多職種カンファレンスにも参加し,治療方針とリハビリテーション計画におけるすり合わせ,情報共有を行っている.このカンファレンスには,麻酔科医師の他に,主治医,薬剤師,臨床工学技士,ICU看護師,言語聴覚士,管理栄養士,そして理学療法士が参加しており,様々な角度から治療方針を話し合い,必要があれば主治医の意向をもとに治療の変更を行っている.離床や呼吸管理に関しても,呼吸器内科医師と勘案したリハビリテーション計画をその他の職種とも共有し方向性をすり合わせている.OpenスタイルのICUでは主治医毎に方向性がぶれないよう,特にこのディスカッションの場が重要であると感じている.
このように当院では毎朝2つのカンファレンスが行われており,その情報をもとにその日の離床目標を決定している.離床目標は,ステップ1からステップ6の6段階に分け,多職種間で共有できるように離床カードを作成した(図1).現在達成できている離床進行度をNowカードとして掲示,その日の離床目標をNextカードに掲示し,すべてのベッドサイドに設置した(図2).理学療法士は毎朝のカンファレンス後にNextカードをその日の目標ステップに差し替え,他の職種にも目につきやすいように工夫した.また,離床実施の度,Nowカードを,それにあったステップ番号に差し替え,離床の進行状況が可視化できるようにした.電子カルテ内のみでの表記ではなく病室内に設置することで,医療スタッフのみならず面会に来た家族の閲覧が可能となるよう考慮した.Step1は指示の入らない深鎮静の場合に該当し,ベッドの頭部挙上や他動的に動かすROMエクササイズなど患者本人の協力を必要とせずに行えるもので対応する.当院には電気的筋刺激装置(EMS)やチルト台などの導入がないため,基本的にはこの時期は後述する呼吸理学療法を主体とした関わりを行っている.RASS-2~+1程度の鎮静深度となれば,自動介助運動やレジスタンストレーニング,または必要に応じてベッドサイドエルゴメーターを使用した自転車エクササイズを行う(Step 2).離床が可能となれば端座位練習から開始する(Step 3).人工呼吸器装着中であればカニューレの逸脱トラブルなどのリスクが伴う.実施には細心の注意を払うが,カニューレ部位を必ず把持することや,カニューレ部分にテンションがかからないよう人工呼吸器のアームによる回路固定位置を,患者側の呼吸器回路にゆとりができるように固定するなど工夫をしている.人工呼吸器回路以外にも各種ルート類が,基本的には患者側にテンションがかからないようたわませて固定することを心掛けている.動脈ラインは手関節可動部に留置されることがしばしばみられるが,端座位中に患者自身が上肢を身体の支えに使用することで,手関節の過度な背屈から針が逸脱したり屈曲したりすることがある.端座位以上を行なう時はソフトシーネなどの手関節固定装具を装着し逸脱トラブルを未然に防ぐようにしている.Step4は立位,Step5は車椅子乗車である.長時間の座位姿勢がとりたい時,著明な筋力低下にて歩行練習に移れない場合にベッドサイドから離れ精神面,認知面のアプローチを行うことに有用である.Step6は歩行練習である.当院では人工呼吸器を移動時に使用することは実際にはそれほど多くはない.例えば人工呼吸器使用中は立位足踏みエクササイズを行うことで代用し,円滑な早期抜管に繋げ,抜管後には速やかに歩行練習に繋げるようにしている.また,歩行練習時には,洗面台に移動し手洗い,歯磨きを行うなど目的を持った離床を心掛けている.
当院ICUにおける理学療法士と他職種との関わりを図に示す(図3).医師とは離床や理学療法施行時の身体変化についての情報を速やかに共有する必要がある.鎮静鎮痛コントロールや水分調節,それに関わる薬剤について指示を仰ぎ,また議論し合える関係性を持つことが大切である.早期離床や呼吸状態の改善を目的とした体位管理も,人工呼吸器を適した設定に連動することでより効果を発揮することもある.また,当院のようなOpen制ICUでは離床に対する安静度変更が後手になってしまうこともあるため,医師とのコミュニケーション不足は1日2日と離床機会を遅らせてしまうことになり兼ねない.
看護師とは,離床前の患者情報や身体所見の共有が重要である.看護ケアの最中に起こったvitalサインの乱れや鎮痛程度など得られる情報が多い.また,前日とは異なる担当看護師に対して看護師間の申し送りでは伝えきれない,些細であるけれども必要な情報を理学療法士から共有できることもある.離床中にシーツ交換やベッド交換,端座位姿勢中に背面の皮膚観察など,互いが個別で実施するより効率の良い連携ができることも多い.そのため,朝の始まりにスケジュールを共有することを心掛けている.
当院では抜管失敗を防ぐための抜管前の評価を理学療法士が担当しチェックリストを用いて実施している(図4).48時間以上の挿管症例には全例対応することにしており,抜管の目処がたったら予定日の前日程度で実施する.各種リスク因子を拾い上げ,鎮静やせん妄の評価,spontaneous breathing trial: SBTの結果やrapid shallow breathing index: RSBIを指標に自発呼吸の評価を行う.また咳嗽力の評価としてpeak cough flow: PCFの測定を行う.さらに上気道の評価としてカフリークテストを実施し,カフリークテスト陽性であれば医師に連絡しステロイドの事前投与や抜管時期の再検討を提案する.
また,抜管時の立ち会いも必要である.抜管は直後に注意すべきことが多く,同時進行で多くの観察や評価をしなければ対処に出遅れてしまうことがある.前述の抜管前評価やそれまでの理学療法施行時の情報を元に,これらの対応優先度もある程度考えながら動くことができる.
ICUリハビリテーションにおける多職種チームの関係性について高橋らは,多くの学問分野が互いに影響しあう学問分野超越的なチームである超学際的チーム(transdisciplinary team)を適したチームモデルとして挙げ,専門家がただ集まり,各専門性を主張するだけではなく,「自立と協働」,「専門性と共通性」を包含した関係性が必要であることを述べている6)(図5).前述した通り,理学療法業務はリハビリテーションを行うのみではない.おむつ交換やベッド交換を手伝うだけでも様々な情報を得ることがある.急性期をのりこえた後や,回復期,維持期医療など,より大きなフィールドであれば患者の周りを取り囲む各関係職種がそれぞれの力を発揮し患者の治療やケアにあたる.しかし,集中治療においては,狭いフィールドの中で,お互いの職域をより深く理解し合あい,尊重した上で各職域をオーバーラップさせることが必要と思われる.
ICUにおける早期離床・リハビリテーションはプロトコルに沿って実施する.これによって多職種での取り組みが可能となる.しかし,安全かつ有効に行うためには,カンファレンスの充実が大切である.ICUの中では,目まぐるしく起こる病態の変化や,治療介入の適切なタイミングがタイトであることから,それらへの対応にもスピーディーさが求められる.特に当院のような各科主治医制のOpen制ICUをもつ施設では,頻回な情報共有やディスカッションをし合える関係性を持てるようにすることが望まれる.そのためには,リハビリテーション専門職においても,職域を超えた幅広いICU知識や経験を必要とし,ICUに特化したスペシャリティーを持ったセラピストの育成が必要である.そして,そのセラピストが活躍できる場を得るには,何よりも医師を中心とした多職種からの理解が必須であると思われる.
本稿は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会シンポジウム3「スペシャリストの技と多職種連携」において発表した「集中治療領域での多職種連携における理学療法士の役割」を要約したものである.執筆の機会を与えて下さった関係諸氏に深謝申し上げる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.