The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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ISSN-L : 1881-7319
Original Articles
Impact of early pulmonary rehabilitation including early nutritional therapy on return to home for elderly pneumonia patients
Yuichi Murakawa Akira TamakiRyota MatsuzawaShinjiro MiyazakiTatsuma HoriMiki NaideKenichiro Sakai
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 81-88

Details
要旨

高齢肺炎患者における早期栄養療法を含む早期呼吸リハビリテーションが在宅復帰に及ぼす影響について傾向スコアマッチングを用いて検討した.65歳以上で肺炎にて入院となり,選択基準を満たした149名を対象とした.入院後2日以内に呼吸リハビリテーションおよび経口摂取または経腸栄養の栄養療法を開始できた早期介入群と対照群の2群を傾向スコアマッチングにより交絡因子を調整した.結果,早期介入群46名と対照群46名に分類された.対照群と比較して早期介入群では,在宅復帰率が有意に高かった(早期介入群100.0% vs 対照群84.8%,p=0.018).高齢肺炎患者における早期からの非薬物療法介入は,在宅復帰率を高める可能性がある.今後,高齢肺炎患者における早期からの非薬物療法介入の有効性だけでなく安全性も含めて多施設共同で前向きに検証していく必要がある.

緒言

近年,本邦においては諸外国と比較して高齢化が急速に進行している.高齢化と肺炎発症に関しては密接な関係性があり1,今後も肺炎患者は増加することが予想される.

本邦における市中肺炎と医療・介護関連肺炎を対象に日常生活動作(activities of daily living, ADL)能力と転帰先について検討した報告によると,市中肺炎患者と比較して医療・介護関連肺炎患者ではADL能力の低下が顕著であり,退院後に元の居住先に戻れた割合も有意に低かったとされている2.本邦においては,以前より地域包括ケアシステムが推進されており,患者がいかに住み慣れた地域で生活できるかを支援することが重要であるとされていることからも,高齢肺炎患者における入院中のADL能力低下を抑制し,在宅復帰を促進することは重要であると考える.

高齢肺炎患者に対する早期からの呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の効果としては,死亡率の低下3,4やADL能力の維持・向上5,6に寄与することが報告されている.また,早期からの呼吸リハ介入が退院先に影響するかどうかに関しては,高齢者肺炎患者194名を対象に入院後48時間以内の離床がADL能力などのアウトカムに与える影響を調査した研究によると,傾向スコアマッチング後の退院先を比較した結果,もとの居住先へ復帰した症例数が離床遅延群で37例(67%)であったのに対し,早期離床群で53例(96%)と有意に高値であったと報告している7.この結果から早期呼吸リハの介入が転帰先にも影響することが予想される.しかしながら,これらの報告の多くは経口摂取や経腸栄養といった栄養療法介入も含めた検討はされていない.近年,早期からの経口摂取を促すことによって嚥下機能低下の抑制8,9や治療期間・在院日数の短縮8,9,10に寄与することが報告されており,高齢肺炎患者において早期からの栄養療法介入は重要な視点であり,特に在宅復帰を検討する上では必要不可欠な項目であると考える.

そこで本研究では,高齢肺炎患者における早期栄養療法を含む早期呼吸リハが在宅復帰に影響を及ぼすかを明らかにすることを目的に,傾向スコアマッチングを用いて検討を行った.

対象と方法

1. 対象

研究デザインは,後方視的観察研究である.2018年3月から2021年3月までにさぬき市民病院(当院)へ肺炎にて入院となり,入院中に呼吸リハを実施した577名の内,65歳未満の者,入院前より施設入所者,入院前から歩行および経口摂取が困難な者,入院中に死亡またはリハビリテーション継続や他疾患の治療のために転院となった者,データ欠損例を除いた149名を対象とした(図1).尚,本研究では退院後に肺炎を再発した場合にも自宅から入院となった症例は研究対象者とした.

図1 研究対象者のflow diagram

本研究のデータ抽出に際し,患者個人が特定できないようにデータは匿名化し,個人情報保護に留意して実施した.また本研究は,さぬき市民病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:20220323-11).

2. 方法

調査項目は,年齢,性別,Body mass index(BMI),世帯同居人数,Charlson comorbidity index(CCI)11,入院前介護保険の有無および要介護度,A-DROP score,albumin(Alb),C-reactive protein(CRP),white blood cell(WBC),人工呼吸管理の有無,抗生剤総投与日数,入院前および退院時functional oral intake scale(FOIS)9,12,呼吸リハ開始日,経口・経腸栄養開始日,呼吸リハ開始時functional independence measure(FIM),退院時FIM,在院日数,転帰先を診療録より後方視的に抽出した.世帯同居人数は,本人以外に自宅内で同居している人数とした.A-DROP scoreは,「成人市中肺炎診療ガイドライン」13を参考にスコアリングを行った.CRPは入院時からの最大値,AlbとWBCは入院時の値を採用した.抗生剤総投与日数は,入院中に静脈注射にて抗生剤投与を行った日数とした.呼吸リハ開始日は,入院日から理学療法士または作業療法士による介入が開始となった日とした.経口・経腸栄養開始日は,入院日から経口摂取または経腸栄養を開始した日とした.FIMは,運動FIM 13項目と認知FIM 5項目を介助量に応じて各1~7点で評価し,FIM運動項目合計点およびFIM認知項目合計点,さらに計18項目のFIM合計点を呼吸リハ開始時および退院時に採点した.転帰先は,退院先が自宅か自宅以外かで分類し,全症例数に対する退院先が自宅であった症例数の割合を在宅復帰率として算出した.

当院における呼吸リハ介入は,入院後に各主治医からリハビリテーション科医師へ依頼後に介入開始となる.各療法士は主治医へ安静度の確認を行った後,バイタルサインを確認しながら可能な限り早期に離床を進めていき,ADL能力の向上を図る.その際,「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」14の中止基準を参考に進め,離床が困難と判断された場合にはベッド上にてコンディショニングを中心に介入する.離床を進めていく中で炎症反応の鎮静化や摂取・消費エネルギー量のバランスを考慮しながらレジスタンストレーニングを併用していき,可能な限り入院前のADL能力を目標としていく流れとなっている.

3. 統計解析

早期呼吸リハおよび早期栄養療法介入の定義については,先行研究15,16を参考に呼吸リハ開始日および経口・経腸栄養開始日が入院後2日以内とした.本定義を満たしたものを早期介入群,どちらか一方が遅延したものを単独遅延群,両者が遅延したものを両遅延群の3群に分類し,Kruskal-Wallis検定,χ2 検定を用いて患者特性を比較した.

次に,早期介入群および単独遅延群と両遅延群を対照群とした後に患者背景因子の調整を目的として年齢,性別,BMI,CCI,入院前介護保険,A-DROP,CRP,人工呼吸管理,抗生剤総投与日数,入院前FOIS,呼吸リハ開始時FIM運動項目合計点およびFIM認知項目合計点を用いて傾向スコアマッチングを実施した.マッチングの許容幅は標準的な値である±20%に設定した.傾向スコアマッチング前後における交絡因子および退院時FIM,退院時FOIS,在院日数,転帰先の比較には,Mann-Whitney U検定およびχ2 検定を実施した.

最後に傾向スコアマッチング前後における早期介入群と対照群の在宅復帰と観察期間の関係性についてはGrayらの競合イベントの累積発症率を用いて検討した.

解析には,「EZR」version 1.4017および「R」version 2.8.1を使用し,いずれの解析においても有意水準は5%とした.

結果

1. 早期呼吸リハと早期栄養療法の介入割合

早期呼吸リハと早期栄養療法の介入割合を図2に示す.早期呼吸リハは50.3%と約半数であったのに対し,早期栄養療法は90.6%とほとんどの症例に実施できていた.早期呼吸リハと早期栄養療法を組み合わせると47.0%と半数を下回る結果となった.

図2 早期呼吸リハビリテーションと早期栄養療法の介入割合

2. 研究対象者の患者特性

本研究における研究対象者の患者特性を表1に示す.研究対象者149名の内,早期介入群の基準を満たした者は70名であった.早期介入群では,呼吸リハ開始日が1.0日,経口・経腸栄養開始日が0.0日であったのに対して両遅延群では呼吸リハ開始日および経口・経腸栄養開始日が6.0日と大きく遅延する結果であった.両遅延群と比較して早期介入群では年齢が若く,重症度が低かった.それに伴い抗生剤総投与日数も有意に短くなった.ADL能力に関しては,呼吸リハ開始時FIMの認知項目合計点のみに有意差が認められたが,退院時FIMは全ての項目で早期介入群が有意に高値を示した.さらに早期介入群では有意に在院日数が短く,転帰先が自宅となった症例が多かった.

表1 研究対象者の患者特性

項目両遅延群単独遅延群早期介入群p-value
n=9(6.0%)n=70(47.0%)n=70(47.0%)
年齢(歳)90.00[85.00, 92.00]83.00[77.00, 88.00]79.00[73.00, 86.75]0.001
性別,男性/女性7/245/2538/320.263
BMI(kg/m219.20[17.61, 22.68]21.72[19.18, 24.82]19.88[18.34, 23.14]0.071
世帯同居人数(人)1.00[1.00, 3.00]1.00[1.00, 2.00]1.00[1.00, 3.00]0.483
CCI ≧3,no(%)2(22.2)15(21.4)14(20.0)0.973
入院前介護保険,有(%)6(66.7)34(48.6)24(34.3)0.078
無,no(%)3(33.3)36(51.4)46(65.7)0.423
要支援1,no(%)1(11.1)2(2.9)0(0.0)
要支援2,no(%)2(22.2)11(15.7)8(11.4)
要介護1,no(%)1(11.1)8(11.4)7(10.0)
要介護2,no(%)1(11.1)9(12.9)8(11.4)
要介護3,no(%)1(11.1)3(4.3)1(1.4)
要介護4,no(%)0(0.0)1(1.4)0(0.0)
要介護5,no(%)0(0.0)0(0.0)0(0.0)
A-DROP score2.00[2.00, 3.00]2.00[1.00, 2.00]1.00[1.00, 2.00]0.004
軽 症,no(%)0(0.0)4(5.7)12(17.1)<0.001
中等症,no(%)5(55.6)58(82.9)51(72.9)
重 症,no(%)3(33.3)8(11.4)7(10.0)
超重症,no(%)1(11.1)0(0.0)0(0.0)
Alb(g/dL)3.59[3.19, 3.82]3.34[2.98, 3.70]3.42[3.12, 3.73]0.411
CRP(mg/dL)13.99[8.78, 15.79]10.60[5.34, 17.05]6.53[4.00, 14.62]0.099
WBC(×102/μL)72.00[44.00, 128.00]96.00[63.00, 129.00]86.00[68.00, 121.75]0.755
人工呼吸管理,有(%)1(11.1)1(1.4)1(1.4)0.134
抗生剤総投与日数(日)12.00[10.00, 16.00]9.00[7.00, 12.00]8.00[5.00, 10.00]0.004
入院前FOIS(Level)7.00[7.00, 7.00]7.00[7.00, 7.00]7.00[7.00, 7.00]0.285
退院時FOIS(Level)5.00[4.00, 5.00]6.00[5.00, 6.00]6.00[5.00, 7.00]0.013
呼吸リハビリテーション開始日(日)6.00[4.00, 6.00]4.00[3.00, 5.75]1.00[1.00, 2.00]<0.001
経口・経腸栄養開始日(日)6.00[5.00, 6.00]1.00[0.00, 1.00]0.00[0.00, 1.00]<0.001
呼吸リハビリテーション開始時FIM
合計点(点)67.00[36.00, 90.00]83.00[60.25, 102.75]89.00[76.00, 102.00]0.124
運動項目合計点(点)47.00[18.00, 63.00]52.50[32.25, 67.75]56.00[46.00, 67.00]0.312
認知項目合計点(点)23.00[13.00, 29.00]33.00[28.00, 35.00]35.00[30.00, 35.00]0.001
退院時FIM
合計点(点)68.00[65.00, 86.00]102.00[88.25, 116.00]107.00[91.75, 119.50]0.003
運動項目合計点(点)51.00[50.00, 57.00]71.50[57.75, 81.00]73.00[59.25, 85.75]0.009
認知項目合計点(点)26.00[14.00, 29.00]33.00[28.00, 35.00]35.00[31.25, 35.00]<0.001
在院日数(日)42.00[30.00, 61.00]19.00[12.00, 32.75]15.00[9.25, 23.75]<0.001
転帰先(自宅/施設・療養型病院)6/357/1369/10.001

Data are presented as median(25th and 75th percentiles)or the numbers.

Statistical analysis: Kruskal-Wallis test, χ2 test

BMI: body mass index, CCI: charlson comorbidity index, Alb: albumin, CRP: C-reactive protein, WBC: white blood cell, FOIS: functional oral intake scale, FIM: functional independence measure

3. 傾向スコアマッチング前後における交絡因子の比較

早期呼吸リハ介入および栄養療法介入における交絡と成り得る因子を調整する目的で,傾向スコアマッチングを実施した結果を表2に示す.傾向スコアマッチング後,早期介入群46名,対照群46名が割り付けされた.傾向スコアマッチング後における各交絡因子のstandardized mean differenceは,年齢,性別,BMI,CCI,CRP,人工呼吸管理,抗生剤総投与日数,呼吸リハ開始時FIM運動項目合計点およびFIM認知項目合計点で0.1を下回った.しかしながら,入院前介護保険,A-DROP score,入院前FOISに関しては0.1を上回る結果となった.

表2 傾向スコアマッチング前後における交絡因子の比較

項目傾向スコアマッチング前傾向スコアマッチング後
早期介入群対照群p-valueSMD早期介入群対照群p-valueSMD
n=70n=79n=46n=46
年齢(歳)79.00
[73.00, 86.75]
84.00
[77.50, 89.00]
0.0040.49279.50
[74.25, 86.50]
82.00
[75.00, 85.00]
0.6990.081
性別(男性/女性)38/3252/270.2040.23726/2025/211.0000.044
BMI(kg/m219.88
[18.34, 23.14]
21.05
[18.96, 24.29]
0.0790.30319.99
[18.87, 23.13]
20.49
[18.21, 23.83]
0.8270.056
CCI(≧3),no(%)14(20.0)17(21.5)0.9790.0377(15.2)7(15.2)1.000<0.001
入院前介護保険,有(%)24(34.3)40(50.6)0.0650.33519(41.3)16(34.8)0.6680.135
無,no(%)46(65.7)39(49.4)27(58.7)30(65.2)
要支援1,no(%)0(0.0)3(3.8)0(0.0)1(2.2)
要支援2,no(%)8(11.4)13(16.5)6(13.0)5(10.9)
要介護1,no(%)7(10.0)9(11.4)6(13.0)5(10.9)
要介護2,no(%)8(11.4)10(12.7)6(13.0)3(6.5)
要介護3,no(%)1(1.4)4(5.1)1(2.2)1(2.2)
要介護4,no(%)0(0.0)1(1.3)0(0.0)1(2.2)
要介護5,no(%)0(0.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)
A-DROP score1.00
[1.00, 2.00]
2.00
[1.00, 2.00]
0.0370.3661.00
[1.00, 2.00]
1.00
[1.00, 2.00]
0.7750.118
軽 症,no(%)12(17.1)4(5.1)8(17.4)4(8.7)
中等症,no(%)51(72.9)63(79.7)33(71.7)34(73.9)
重 症,no(%)7(10.0)11(13.9)5(10.9)7(15.2)
超重症,no(%)0(0.0)1(1.3)0(0.0)1(2.2)
CRP(mg/dL)6.53
[4.01, 14.62]
10.79
[5.46, 16.37]
0.0350.3976.53
[4.00, 14.62]
8.46
[3.82, 14.65]
0.9190.040
人工呼吸管理,有(%)1(1.4)2(2.5)1.0000.0791(2.2)1(2.2)1.000<0.001
抗生剤総投与日数(日)8.00
[5.00, 10.00]
9.00
[7.00, 12.00]
0.0180.3468.50
[6.00, 13.00]
8.00
[6.00, 10.00]
0.9220.021
入院前FOIS(Level)7.00
[7.00, 7.00]
7.00
[7.00, 7.00]
0.1920.1797.00
[7.00, 7.00]
7.00
[7.00, 7.00]
0.9490.115
呼吸リハビリテーション開始時FIM運動項目合計点(点)56.00
[46.00, 67.00]
52.00
[31.50, 67.50]
0.2040.27253.50
[44.00, 67.00]
54.50
[33.00, 70.75]
0.6250.034
呼吸リハビリテーション開始時FIM認知項目合計点(点)35.00
[30.00, 35.00]
31.00
[26.00, 35.00]
0.0060.45034.50
[27.25, 35.00]
34.50
[29.25, 35.00]
0.7320.060

Data are presented as median(25th and 75th percentiles)or the numbers.

Statistical analysis: Propensity score matching, Mann-Whitney U test, χ2 test

SMD: standardized mean difference, BMI: body mass index, CCI: charlson comorbidity index, CRP: C-reactive protein, FOIS: functional oral intake scale, FIM: functional independence measure

4. 傾向スコアマッチング前後における退院時FIMと退院時FOIS,在院日数,転帰先の比較(表3

傾向スコアマッチング後では,早期介入群と対照群で退院時のFIM合計点,FIM運動項目合計点,FIM認知項目合計点に有意差は認められなかった.さらに,退院時FOISおよび在院日数に有意差は認められなかった.転帰先に関しては,傾向スコアマッチング前後ともに早期介入群で有意に自宅へ退院される症例が多い結果となったが,effect sizeは傾向スコアマッチング前の方が高値を示した.

表3 傾向スコアマッチング前後における退院時FIMと在院日数,転帰先の比較

項目傾向スコアマッチング前傾向スコアマッチング後
早期介入群対照群p-value
(ES)
早期介入群対照群p-value
(ES)
n=70n=79n=46n=46
退院時FIM(点)
合計点(点)107.00
[91.75, 119.50]
100.00
[80.00, 115.50]
0.026
(0.182)
106.50
[85.00, 114.00]
106.50
[85.00, 118.00]
0.941
(0.007)
運動項目合計点(点)73.00
[59.25, 85.75]
69.00
[54.00, 80.50]
0.057
(0.156)
72.50
[58.00, 82.00]
73.00
[56.25, 84.75]
0.891
(0.013)
認知項目合計点(点)35.00
[31.25, 35.00]
31.00
[27.00, 35.00]
0.001
(0.260)
35.00
[28.25, 35.00]
35.00
[29.25, 35.00]
0.820
(0.023)
退院時FOIS(Level)6.00
[5.00, 7.00]
5.00
[5.00, 6.00]
0.013
(0.204)
6.00
[5.00, 7.00]
6.00
[5.00, 6.00]
0.171
(0.142)
在院日数(日)15.00
[9.25, 23.75]
21.00
[12.00, 40.50]
0.003
(0.244)
16.00
[11.00, 26.00]
17.00
[11.25, 28.25]
0.379
(0.091)
転帰先,no(%)自宅69
(98.6)
63
(79.7)
0.001
(0.296)
46
(100.0)
39
(84.8)
0.018
(0.287)
施設・療養型病院1
(1.4)
16
(20.3)
0
(0.0)
7
(15.2)

Data are presented as median(25th and 75th percentiles)or the numbers. The effect size is indicated by r or φ.

Statistical analysis: Propensity score matching, Mann-Whitney U test, χ2 test

FIM: functional independence measure, FOIS: functional oral intake scale, ES: effect size

5. 傾向スコアマッチング前後における早期介入群と対照群の在宅復帰と観察期間の関係性(図3

傾向スコアマッチング前では,対照群と比較して早期介入群で観察期間中の在宅復帰症例が有意に多いという結果であった(図3a).しかしながら,交絡因子を調整した傾向スコアマッチング後では,両群間に有意な差は認められなかった(図3b).

図3 傾向スコアマッチング前後における早期介入群と対照群の在宅復帰と観察期間の関係性

考察

本研究では,高齢肺炎患者における早期栄養療法を含む早期呼吸リハが転帰先に及ぼす影響について傾向スコアマッチングを用いて検証した.結果,早期に呼吸リハと栄養療法による介入を行った早期介入群において在宅復帰となった症例が有意に多かった.

高齢者肺炎患者のADL能力に影響を及ぼす因子については,不活動期間18,19や栄養関連因子18,19が報告されており,早期から呼吸リハや栄養療法などの非薬物療法介入が機能予後の改善に重要であると考えられる.

近年,誤嚥性肺炎が多くを占める高齢肺炎患者においてリハビリテーション介入と栄養療法介入の両介入が推奨されている20.また,リハビリテーション介入と栄養療法介入は,筋肉量21,22やADL能力22に寄与すると報告されている.

しかしながら,本研究では早期介入群と対照群において交絡因子を傾向スコアマッチングで調整した後では,退院時FIMに有意な差は認められなかった.本研究の対象者では約90%の症例に早期栄養療法が開始されていた.3群で比較した結果をみてみると経口・経腸栄養開始日は単独遅延群で1.0日,早期介入群で0.0日と大きな差がなく,呼吸リハ開始日が単独遅延群で4.0日,早期介入群で1.0日と差がある中で呼吸リハ開始時および退院時FIMに大きな差がないことを考えると呼吸リハと同時に早期栄養療法が開始されていることが重要である可能性がある.肺炎発症に伴う炎症反応上昇で異化が亢進し,筋萎縮が促進されてしまう23.その中で,エネルギー投与量が過度に少ない状況では筋萎縮がさらに助長されるといった悪循環に陥ることが予想される.その為,有効的な早期呼吸リハを実践していく為には,早期栄養療法が開始されていることが重要な要素となると考える.

さらに,本研究においてADL能力や在院日数に両群間で有意差は認められなかったものの,在宅復帰に差が認められた要因に関しては社会的背景の関与が考えられる.先行研究においてリハビリテーションに対する家族の参加が重要であるとされていること24や退院先の決定には機能的自立度に加えて世帯同居人数が強力な予測因子であること25が報告されている.本研究においても世帯同居人数に各群間で有意差は認められなかったものの,早期から多職種にて介入していくことによって対象患者の予後予測が可能となり,退院後の生活を見据えた家族指導や介護サービス導入などに関する検討が行えることが在宅復帰率の向上に寄与したものと考えられた.その為,早期介入を行うことによる身体機能やADL能力の回復のみに着目するのではなく,長期的な展開も視野に入れた包括的介入を実施できる体制作りが重要となると考える.

本研究には,いくつかの限界がある.まず,単施設研究でありサンプルサイズが小さいことが挙げられる.次に,傾向スコアマッチングを用いて早期介入群と対照群に分類したが,後方視的な検討であったことから本研究で使用した交絡因子以外の影響因子まで考慮できていない.さらに,早期呼吸リハまたは早期栄養療法の両方が遅延した場合との比較が行えておらず,真に早期からの呼吸リハと栄養療法の併用による効果かどうかを明らかにできていない.最後に退院先に影響する社会的背景因子について十分な検討を行えていない.同居家族の人数だけでなく,家族の介護力や在宅介護サービスの種類などより詳細な検討を行うことで在宅復帰に影響する因子を明らかにできるものと考える.以上の点について今後,高齢肺炎患者における早期からの非薬物療法介入の有効性だけでなく安全性も含めて単施設だけでなく多施設共同で前向きに検証していきたいと考える.

備考

本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2024 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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