The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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The development of an innovative mobile tele-spirometry system: a feasibility study
Miki MatsukiJun Ueki Natsumi NomuraHajime KurosawaShigeaki Suga
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 100-105

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要旨

スパイロメトリーは呼吸機能のスクリーニング,呼吸器・呼吸器関連疾患の診断,治療,管理において必須の検査である.一方で,被験者の最大努力を得るための様々なスキルや検査中の妥当性,再現性の評価が検査者に求められ,環境面では掛け声が大きな騒音となる.施設規模や対面検査者のスキルに依存せずにサイレントに実施可能なフローセンサを接続したノートPCを遠隔から操作するモバイル検査システムを開発し実行可能性を検討した.検査者(n=5)のSystem Usability Scaleは平均65.0,ユーザーインターフェース評価 4.2±0.6(SD),検査者,被験者と同席するファシリテータの検査環境評価は全体で4.6±0.4とそれぞれ良好で,騒音レベルも日常会話レベルに止まった.測定結果(肺活量・努力性肺活量)の妥当性,再現性も良好であった.検査中のタイムラグの指摘もなく,遠隔医療や防音設備のない施設,COVID-19病棟等,様々な臨床の場で活用できる可能性が示唆された.

緒言

スパイロメトリーは呼吸機能の異常があるかどうかのスクリーニング,喘息,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD),間質性肺疾患をはじめとする呼吸器疾患の診断,呼吸機能障害の重症度,薬物療法や疾患進行の評価,管理において重要な検査である1.特に2021年度「厚生労働省人口動態調査」の男性死因順位で第8位,第9位のCOPD,間質性肺疾患の診断,治療,管理において不可欠な検査として位置づけられる2.さらには,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS),筋ジストロフィーなどの神経筋疾患の管理においても果たす役割は大きい.一方で,スパイロメトリーによる呼吸機能のスクリーニングの機会を得ることは必ずしも多くないのが現状である.スパイロメトリーを用いた大規模疫学調査NICE(NIPPON COPD Epidemiology)studyでは,40歳以上の10.9%に気流閉塞が認められた.喘息による気流閉塞を除いたCOPDの有病率は8.6%と推測されたが,調査時にCOPDを指摘されたが実際に診断されていたのは9.4%に止まり,COPDの過小診断が明らかとなった3.喘息,COPDを対象としたカナダの検討では,特にプライマリーケアの場において呼吸機能を評価せずに臨床所見のみで診断される場合が多く,過剰診断により本来必要でない治療がしばしば行われ,医療コストの増大や薬物療法の有害事象の発生,正しい診断の遅れにつながることが指摘されている4.客観的評価に基づく呼吸器・呼吸器関連疾患の診断,治療,管理が求められる.

スパイロメトリーの普及や実施を妨げる様々なバリアが複雑に存在する4.スパイロメトリーは非侵襲的な検査であるが,被験者の自己努力を引き出す必要があり,検査者には結果の妥当性と再現性,採択基準に対する知識も含めたスキルが求められる.良好な再現性を得るには実践的なトレーニングを受けることが重要であり,マニュアルどおりに機械的に測定するだけでは患者の状態を反映した信頼性の高い検査結果を得ることは難しい5.わが国では,情報通信技術(information and communication technology: ICT)の健康・医療分野における活用の促進が国策として進められている.ICT活用の利点である医療へのアクセスの向上,標準化された医療や支援の提供6を生かしたスパイロメトリーのスキルを有する検査者が,遠隔からスパイロメーターを操作しながら実施する検査システムは,検査者に求められるスキル,被験者へのかけ声の騒音などのバリアを排除できる可能性がある.また,スパイロメトリーを含む呼吸機能検査は,深呼吸や強制呼気などの手技を必要としてエアロゾルの拡散を生じるため,COVID-19パンデミック下において,国内では感染拡大リスクの高い検査との認識から,不急な場合の呼吸機能検査実施は中止・延期などの対応がとられた.2020年度は前年度比で70%以上減少した地域もあり,検査件数の減少,中止を余儀なくされた医療施設が多く存在した7.COVID-19パンデミックは医療へのICT導入を加速させたが,対面で実施する必要のない遠隔スパイロメトリーのニーズは感染対策上も高く,新たな検査システムの開発が望まれる.

対象と方法

1) 遠隔スパイロメトリーシステムの開発

順天堂大学大学院医療看護学研究科臨床病態学分野,東北大学大学院医学系研究科産業医学分野,チェスト株式会社技術部からなる産学共同研究チームを編成して,モバイル遠隔スパイロメトリーシステムを開発した.USB端子を介してPCに接続可能な小型フローセンサと呼吸曲線をグラフィック表示するスパイロメトリー用アプリケーションソフトウェアSpiroMaster PC-10(チェスト株式会社)を用いた.遠隔スパイロメトリーの概要を図1に示す.被験者と検査者側のノートPCをリモート接続ソフトウェア(Team Viewer)により,インターネットを経由して通信,検査者がSpiroMaster PC-10の開始,終了操作,検査情報の入力等を遠隔操作できるシステムを開発した.検査者はスパイロメトリーの声掛けが可能な場所から,別施設の被験者へスパイロメトリーを実施するが,PCカメラにより検査者,被験者が共有する画面,両者が呼吸曲線をリアルタイムに閲覧できる画面をPC上に配置した.被験者側には,被験者の状態観察に加えて検査者との連絡,機器の準備を実施するファシリテータを同席させ,被験者・ファシリテータはイヤホンを装着して,検査者の音声を聞きながら検査を実施することとした.

図1 遠隔スパイロメトリーシステムの概要

2) フィージビリティ試験

開発した遠隔スパイロメトリーシステムの実行可能性を評価した.検査者はスパイロメトリーに6か月以上の経験を有する臨床検査技師,被験者は20歳以上の健常成人,ファシリテータは医師,看護師,臨床検査技師の有資格者として公募,ファシリテータにはスパイロメトリーのスキルは求めなかった.実施場所はA:東京都・千葉県の2施設間/施設間距離 15.5 km,B:東京都内の2施設間/施設間距離 3.5 kmの2パターンで実施した.A,Bともインターネットスピード回線テスト8を実施し,通信速度の指標であるPing値(データ応答のタイムラグ),Jitter値(Ping値安定性の指標)を確認後に実施した.実施に際しては,検査者は被験者・ファシリテータにイヤホンを介した音声確認を取り,オンラインで自己紹介を行った.遠隔操作により被験者サイドのノートPCに予め準備した約3分の検査動画を視聴してもらった後に検査の説明を行い,スパイロメトリーを実施した.ファシリテータには,被験者用ノートPCへの小型フローセンサの接続とフィルター装着,PCの起動,検査中の被験者の確認,機器の消毒・後片付け等を依頼した.

測定項目は肺活量(vital capacity: VC),努力性肺活量(forced vital capacity: FVC)とした.検査回数は日本呼吸器学会呼吸機能検査ガイドラインに準じてVC測定は2回以上,FVC測定は3回以上実施し,測定結果の妥当性・再現性を確認した1,9.評価項目として,検査者のユーザビリティ,ユーザーインターフェース,検査環境を評価した.ユーザビリティ評価はSystem Usability Scale(SUS)を使用した.SUSは,1996年に Brookeによって発表された10項目5段階からなる質問票である10.SUSは50未満の場合は,ユーザビリティの修正が必要となる11,12.ユーザーインターフェースは,機器の使いやすさの指標であるISO9241-11,ISO 9241-210を元に質問票を作成し評価した.質問票は1から5の5段階リッカート尺度を使用した.1は不満を意味し,5は満足を意味する.具体的な選択肢は次の通りである:1=不満,2=やや不満,3=どちらともいえない,4=やや満足,5=満足.検査環境の評価は,検査者・被験者・ファシリテータを対象に遠隔医療に関する先行研究13,14を元にユーザーインターフェースの質問票と同じ選択肢を用いた5段階リッカート尺度による質問票を作成し評価した.また,騒音計(デジタル騒音計 SL-4023SD)を使用して検査者側・被験者側の騒音レベルを測定した.

本研究は順天堂大学大学院医療看護学研究科研究等倫理委員会の審査の承認(順看倫第2021-89号)を得て実施した.

結果

5名の検査者(20歳台2名,50歳台1名,60歳台2名)が遠隔スパイロメトリーを実施した.表1に検査者のユーザビリティの結果を示した.検査者には書面での資料等を予め提供せずに当日詳細を説明した.5名のSUS全体の平均値は65.0で,スコアは47.5~80に分布した.「この機器を頻繁に利用したいと思う」「この機器は不必要に複雑だと思った」「この機器は使いやすいと思った」の項目で一定の傾向で評価が分かれた.検査者のユーザーインターフェースの結果を表2に示した.「操作のわかりやすさ」,「画面構成のわかりやすさ」,「画面の見やすさについて」の3ドメインの平均はそれぞれ4.0±0.6(SD),4.1±0.7,4.4±0.6で全体では4.2±0.6であった.検査環境の評価を表3に示した.検査者(n=5),被験者(n=4,平均年齢36.2±9歳,1名に2名の検査者がスパイロメトリーを行い評価は初回時に実施),ファシリテータ(n=4,被験者に同じ,20歳台1名,40歳台1名,50歳台1名,60歳台1名)の評価はそれぞれ4.1±0.7,5.0±0.1,4.8±0.4で,特に被験者,ファシリテータからは高い評価を得た.全体では4.6±0.4であった.通信環境については,PING値20 ms以下(被験者側:5.2±0.6,検査者側:12.5±1.4),JITTER値 5 ms以下(被験者側:2.0±0.3,検査者側:3.8±2.2)と良好であり,検査中に音声の途切れ等はなかった.測定中の騒音レベルを表4に示した.検査者側の騒音レベルは68.8±5.7 dBで最大80.1 dBに達した.一方で,被験者・ファシリテータ側の騒音レベルは45.1±4.9 dBに止まった.

表1 遠隔スパイロメトリーシステムを使用した検査者によるシステムユーザビリティ評価結果

iiiiiiivv平均±標準偏差
1.この機器を頻繁に利用したいと思う.324543.6±1.4
2.この機器は不必要に複雑だと思った.341112.0±1.4
3.この機器は使いやすいと思った.334543.8±0.7
4.この機器を利用するには,技術者のサポートが必要だ.344533.8±0.6
5.この機器のさまざまな機能はうまく統合されている.344443.8±1.3
6.この機器には一貫性がなさすぎると思った.211411.8±1.5
7.ほとんどの人(スパイロメトリー経験者)はすぐにこの機器を使いこなせるようになると思う.434554.2±1.5
8.この機器を使うのは非常に面倒だと思った.221111.4±0.7
9.私はこの機器を使うことに自信があった.223132.2±1.0
10.この機器を使いこなすためには,多くのことを学ぶ必要がある.244122.6±1.2
System Usability Scale(SUS) score*57.547.570.070.080.065.0±11.3
*  スコアの算出には,各項目の評点をXとし,奇数番目の質問にはX-1,偶数番目の質問には 5-Xとした.スコアの総計に2.5をかけて100点満点のスコアとした.

表2 遠隔スパイロメトリーシステムを使用した検査者による機器のユーザーインターフェース評価結果

検査者iiiiiiivv平均±標準偏差
【操作のわかりやすさ】
操作手順がシンプルでわかりやすい.444544.2±0.4
次の操作に迷わない.444544.2±0.4
操作内容がすぐに理解できる.434554.2±0.7
エラー内容が容易に理解できる.333533.4±0.8
平均4.0±0.6
【画面構成のわかりやすさ】
難しい専門用語や略語を使用してない.334554.0±0.9
重要な情報が強調されている.344544.0±0.6
用語やアイコンに統一感がある.444554.4±0.5
平均4.1±0.7
【画面の見やすさについて】
表示の明るさが適切である.345544.2±0.7
文字の大きさは適切である.445544.4±0.5
色が適切でメリハリがある.445544.4±0.5
表示される情報が多すぎない.345554.4±0.8
平均4.4±0.6
全体(平均)3.5±0.53.7±0.44.3±0.65.0±0.04.3±0.64.2±0.6

表3 検査者,被験者,ファシリテータによる検査環境評価結果

検査者
(n=5)
被験者*
(n=4)
ファシリテータ*
(n=4)
平均±標準偏差
【検査者・実験者・ファシリテータ共通項目】
音声は聞こえましたか.4.2±0.44.8±0.44.3±0.84.4±0.5
検査時間は適切でしたか.4.2±0.75.0±0.04.8±0.44.7±0.4
遠隔スパイロメトリーを今後も利用したいですか.4.2±0.75.0±0.04.8±0.44.7±0.4
対面のスパイロメトリーの代用になると思いますか.4.2±1.05.0±0.05.0±0.04.7±0.3
平均4.2±0.75.0±0.14.7±0.44.6±0.4
【遠隔でのコミュニケーション:2者間】
声掛けのタイミングは適切でしたか.4.2±0.75.0±0.04.6±0.4
被験者-検査者間 コミュニケーション3.8±0.75.0±0.04.4±0.4
検査者-ファシリテータ間 コミュニケーション4.0±0.64.8±0.44.5±0.3
被験者-ファシリテータ間 コミュニケーション5.0±0.05.0±0.04.9±0.2
平均4.0±0.75.0±0.04.9±0.24.6±0.3
【遠隔検査に関連する役割など】
被験者へ検査の説明は問題なくできましたか.4.6±0.54.6±0.5
検査の説明は理解できましたか.5.0±0.05.0±0.0
被験者の状態は確認できましたか.3.4±1.23.4±1.2
機器の準備は問題なくできましたか.4.8±0.44.8±0.4
平均4.0±0.95.0±0.04.8±0.44.5±0.5
全体(平均)4.1±0.75.0±0.14.8±0.44.6±0.4
*  1名に2名の検査者がスパイロメトリーを実施,評価は初回時に実施

表4 検査中の騒音レベル測定結果

検査者側被験者側
騒音レベル平均(dB)*68.8±5.745.1±4.9
等価騒音レベル平均(dB)**71.549.0
最大騒音レベル(dB)80.159.3
最小騒音レベル(dB)53.440.7
*  平均±標準偏差

**  等価騒音レベル:ある時間範囲Tについて,変動する騒音レベルをエネルギー的な平均値として表したもの

各検査値(n=5)は,VC(%VC)3.39±0.6 L(96.0±7.3%),FVC(%FVC)3.29±0.6 L(96.6±9.1%),1秒量(forced expiratory volume in one second: FEV1)(%FEV1)2.94±0.4 L(89.6±3.1%),1秒率(forced expiratory volume % in one second: FEV1/FVC)89.6±3.1%であった.VC・FVCの妥当性,再現性達成率は100%であった.測定中の有害事象は観察されなかった.

考察

1) 開発した遠隔スパイロメトリーシステムのフィージビリティについて

本システムのユーザビリティはSUS全体で平均値65.0で47.5~80に分布した.検査者i,iiは「この機器を頻繁に利用したいと思う」「この機器は不必要に複雑だと思った」「この機器は使いやすいと思った」の項目で低評価であった.同2名が実施した際に被験者用に用意した部屋の照度が十分ではなく,被験者の動作や口元の空気漏れの視認性の改善などの指摘があった.必要に応じてオンライン会議用のPCライトを被験者側に設置をする,被験者の口元が見えるように画面に対して斜めに座るなどの修正の必要性が示唆された.検査者1名のICTとの低親和性も影響した可能性もあり,検査者のICT親和性評価も臨床導入に際して必要であると思われる.また,当システムは,現段階では検査実施指示のメッセージが全て英語表記であることも影響した可能性がある.「私はこの機器を使うことに自信があった」が平均2.2であったが,過去にないシステムの初回使用であることの影響が推測される.

ユーザーインターフェースでは.「操作のわかりやすさ」,「画面構成のわかりやすさ」,「画面の見やすさについて」の3ドメインの平均はすべて4.0以上で全体では4.2であった.操作性で「エラー内容が容易に理解できる」のみ平均3.4であったが,英語表記のメッセージが影響したと推測される.検査環境調査では,特に被験者,ファシリテータは,それぞれ平均5.0,4.8と高評価で,「対面のスパイロメトリーの代用になると思いますか」の評価では,被験者は平均5.0であった.将来,遠隔スパイロメトリーは抵抗なく被験者に受け入れられる可能性が示唆された.「機器の準備は問題なくできましたか」のファシリテータによる評価は平均4.8で,専門性のないファシリテータにも負担が少ないことが示唆された.「被験者の状態が確認できましたか」の評点が平均3.4となったことは,SUS同様に検査者i,ii実施時の不十分な室内照度が影響したと推測される.検査者が画面越しに話しかける際は,被験者・ファシリテータの名前を呼び,誰に話しかけているか混乱しないようにするなどの配慮も必要であることが挙げられた.通信環境は,PING値,JITTER値ともに良好で,インターネットを経由しての機器の音声,声掛けのタイミングも検査者・被験者ともにオンラインによるタイムラグを感じることなく,快適な検査が実現できた.

今回,スパイロメトリーのバリアに関する研究で過去には着目されなかった検査中の騒音に関して検討した.被験者側の騒音レベルの平均は 45.1 dB の「静か~普通」であった.検査者側の最大騒音の 80 dB は救急車のサイレンの音を近くで聞いた音に相当するレベルだが,被験者側の最大騒音は通常の会話レベルの 60 dB 以下であった.防音設備のない施設やクリニック,処置室などの共有スペースにおいても本検査が実施可能であることが示唆された.

測定値については,VC,FVCの妥当性,再現性達成率は100%と良好であった.

2) 遠隔スパイロメトリーの最近のグローバルな動向

医療用スパイロメーターを用いた2011年のスペインで行われた検討では,測定装置が大型で,実際に遠隔診療で用いることは困難であった15.2018年に米国から遠隔会議システムと遠隔スパイロメトリーを用いて,遠隔地から声かけを行う小児の気道可逆性試験が検討された.主に使用報告であるが,医療過疎地域における喘息管理の向上に寄与することが示唆された16

家庭用簡易型呼吸機能測定装置を用いた検討では,COVID-19パンデミック下における疾患管理が主な目的となった.小児喘息・嚢胞性線維症を対象に2020年にオランダ行われた検討では,家庭で簡易型装置を用いて測定したFEV1 は医療施設の測定値に比較して有意に低下した.一方で保護者の励ましにより測定値が上昇した17.同様にCOVID-19パンデミック下におけるCOPD,ALS,喘息,嚢胞性肺線維症などの疾患管理を目的に,米国心臓肺血液研究所による中小企業技術革新研究プログラムの一環としてスマートフォン・タブレットPCと簡易型呼吸機能測定装置をブルートゥースで接続する機器が2021年に開発された18.ポーランドでは,2022年にデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者を対象に3か月間の簡易型呼吸機能測定装置を用いた毎日の遠隔モニタリングを実施された.毎日の呼吸機能測定によりFVCが増加しテレモニタリングの平均満足度も高かったことが報告されている19

COVID-19パンデミックの影響もあり,主に家庭用簡易型呼吸機能測定装置を用いた報告が注目される一方で,正確な呼吸機能の評価にはスパイロメトリーを用いた遠隔検査システムの開発が求められる.

3) 遠隔スパイロメトリーの革新性と今後の展望

今回開発した遠隔スパイロメトリーの特徴として,①USB接続の小型フローセンサを活用したモバイル性とシステム構築の簡易性,②防音設備等の十分なスペースのない医療施設において騒音のない検査を可能とする,③スパイロメトリーに熟練した検査技師による遠隔からの検査を構築できる,④グローバル遠隔医療のツールとしての側面を持つ,などが挙げられる.また,今後の活用として,①国内外の医療過疎地域における呼吸器疾患の早期発見,疾患管理における活用,②国内外の疫学調査における活用,③感染症のパンデミック時(COVID-19病棟など)における対面検査の代替,④遠隔からのスパイロメトリー実体験を加えた医療スタッフの研修用ツールとしての応用などが示唆される.

本研究の限界として,被験者の平均年齢が30歳台で高齢者が含まれなかったこと,COVID-19蔓延下のため公募が困難で被験者,ファシリテータに重複が生じたこと,関東圏内で試験が行われたことがある.今後,当試験に基づく修正を行い,ランダム化クロスオーバー試験で臨床試験を実施し,エビデンス構築をめざす.

備考

本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,第5回医療の質特別賞受賞,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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