The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Symposium
Evidence of self-management support
Takashi Motegi
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 34-37

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要旨

セルフマネジメント(SM)支援のエビデンスについて近年のメタ解析では,エビデンスレベルは低いが入院減少とQOL改善が示されている.アクションプラン使用による入院減少,QOLの改善効果,あるいはコーチングによる同様の効果なども報告はある.しかしSMプログラム毎の内容や介入期間のばらつきが大きく,最も有効な介入が何であるのかは依然として不明である.現状のSMプログラムの問題として,介入内容が標準化されていないことが指摘されている.これに対し行動科学の視点から介入内容を標準化・構造化し分類する試みがある.さらに解析内容を入院や死亡,QOLなど最終的アウトカムだけで評価するのではなく,その過程に発生する中間的アウトカム(自己効力感,変容ステージ,アドヒアランスなど)の評価も必要である.これらを踏まえ一定の分類法に沿ったSMプログラム内容の標準化,さらに中間的プロセスの評価が今後のエビデンス作りのカギである.

緒言

近年,医療サービスの提供において「患者中心のケア」が意識されるようになるとともに,患者はケアの単なる受け手ではなく,患者自身が積極的な役割を担うことも期待されている.患者が自己評価し対処する技能を獲得し,管理の自信を高め,医療者と効果的なコミュニケーションをとる支援的介入がセルフマネジメント(SM)支援であり,これにより長期に渡る健康状態の維持,増悪の低減,医療資源利用の減少などが望めると考えられてきた.しかし,一般的な薬物療法と違いSM支援の介入方法,報告内容には大きなばらつきがある.例えば,アクションプランでは対象者の選択,自己評価の内容,治療内容,病院か診療所か医療施設の違い,指示への順守具合などで結果も変化することが容易に予測される.またSM支援を実際に受ける患者側の反応についても,予後や増悪頻度,救急受診頻度なのか,あるいはQOLや自己効力感の向上なのか様々なアウトカムが考えられる.本稿ではこれらSM支援の実際の効果についてのエビデンスと問題点,今後の方向性について解説する.

SM支援の一般的効果について

2002年にコクランレビューはCOPDの自己管理教育(self-management education)としてメタ解析の報告を開始し,以後2007,2014年と論文数を増やして報告を重ねてきた.ちなみに2014年からは“education”との表記が表題から消え本文内では“intervention”と表現されるようになった1.最新のコクランレビューではより厳格な論文の選定基準を採用し,SM支援介入と通常ケアを比較したランダム化比較試験(RCT)とクラスター無作為化試験の論文のみを対象とし,介入内容には少なくとも2つの介入要素を含み,参加者と医療提供者の間で目標が策定され,参加者による自己管理行動に対するフィードバックが行われる反復プロセスを含むものを組み入れている2.これによりCOPD患者6,008人を対象とした27件の研究が含まれ,追跡期間は2.5~24か月で,介入内容は幅広いものであった.結果として健康関連QOLの指標であるSGRQ総点が-2.86(95%CI[-4.87, -0.85])(エビデンス低)改善であったが,SGRQの臨床的に重要な最小差(MCID)である-4ポイントには到達していなかった.さらに呼吸器関連入院は介入群で25%減少していた(オッズ比0.75[0.57, 0.98])(エビデンス非常に低).また2014年の報告1で一時懸念されていた介入群における死亡率の増加は今回認められず,SM介入が害を及ぼす可能性は低いとの見解が確認された.しかし,メタ解析されたSMプログラムの内容,期間,報告内容のばらつき(異質性)は大きく何が最も有効であるかは依然として不明であった.

増悪時アクションプランの効果について

アクションプラン(AP)によるCOPD増悪の介入効果をみたレビューではRCT 22編,計3,854人を対象とし,書面によるAP介入によりSGRQは-2.69[-4.49, -0.90]の改善(エビデンス高),呼吸器関連の入院が31%減少していた.(オッズ比0.69[0.51, 0.94])(エビデンス中).この他,入院期間,救急受診,息切れ,増悪頻度については有意差を認めず,また具体的にどのようなAPの内容が有効なのかは不明であった.一方,自己対処する患者の安全性を担保するため,APには合併症に関する指示も入れるべきであると提言された3

同じ著者がCOPD以外に心不全,虚血性心疾患,不安・うつなどにも対応したAPを使用した研究では,AP群と通常ケア群で増悪患者の割合や発生頻度に差は認めなかったが,COPD増悪1回あたりの期間と追跡期間中に呼吸器関連の入院を少なくとも1回行うリスクは減少し,全死因死亡率は過剰ではなかったと報告している4

どのような介入が入院を減らしたのか?

前述のようにSM支援により入院を減らす効果は以前から報告されてきたが,具体的にどのような介入策が必要なのかについての検討が必要であった.これに対しRCT14編,3,282人の患者によるSM支援のメタ解析により,5 具体的な介入内容を11項目(医療者との接触頻度,介入期間,指導者のトレーニング方法,介入者のタイプ(単独/多職種),患者同士の交流の有無,日誌記録,目標設定スキル,問題解決スキル,医療者支援を得るスキル,医療者への電話相談,アクションプラン)に分類して検討した結果,唯一,入院減少に関係したのは指導期間であり,1か月指導期間が増えるごとに半年後の入院危険率が4%減少していた.しかし本邦の医療制度では,在宅酸素療法患者は毎月受診が求められることが多い事実を踏まえると,このような医療制度の異なる欧米のデータだけではあまり参考にならないかもしれない.

上記メタ解析の介入内容には含まれなかったコーチングの効果について別の研究では,目標設定,動機付け面接,COPD関連の健康教育の3つを含むRCT 10編を解析している.その結果,健康関連QOLの改善,COPD関連入院の55%減少が認められた.さらにコーチングに関する個別報告では薬物療法のアドヒアランス向上,抑うつへの効果などが報告されていた6

ここまで紹介してきた報告は,SM支援内容を各研究者の個別の考えに基づき選択され,解析している点に注意しなければならない.

行動変容研究の問題点と解決に向けた提案

SM支援においては様々な介入方法があるが,その内容の多くは構成概念を共有もしくは重複していることがある.行動変容の技術が標準化されていないため,実は同じ概念でありながら表現が異なる場合や,その介入内容の適性,介入プロセスの評価などは不十分と指摘されている7.これらの影響により,SM介入の再現性がない,現場における適用性が乏しい,さらにはシステマティックレビューによる統合困難となり,最適な指導内容が不明,効果に一貫性がないという事態が続いていると考えられている.

原因の一つとして,行動変容に対する介入内容が標準化されていないことが指摘されており,行動変容の研究者は行動科学の観点から介入内容を標準化,構造化することを提案している8,9.Theoretical Domains Framework(TDF)は行動と行動変容に関する33の理論を統合し,14項目に再構成して分類したもので,認知,感情,社会,環境による行動への影響を見るため幅広い医療分野で利用されるようになった.TDFの分類内容と各定義を表1に示す10.呼吸器の領域でもTDFを利用してSMプログラムの個々の共通点,相違点を見出し,より効果的な介入方法を模索する動きがある.

表1 行動科学研究者が提案している行動変容理論の分類とその定義

理論領域定 義
1.スキル練習によって身につく能力・習熟度
2.行動規制客観的に観察された行動を管理または変更することを目的とした活動または支援(例:セルフモニタリング,行動計画など)
3.知識何かの存在を認識すること(条件知識,手続き知識を含む)
4.目標個人が達成したい最終状態や成果(例:目標設定,行動計画,優先順位など)
5.強化刺激と反応の間に依存関係を導入することで,望ましい行動の確率を高める(例:インセンティブ,報酬,懲罰)
6.意思ある方法で行動する,またはある行動を行うことを決意する
7.環境的背景と影響スキルや自立,その他の適応行動の発達を促したり,妨げたりする環境のあらゆる状況(例:資源,組織文化,環境ストレッサーなど)
8.記憶・注意・意思決定プロセス情報を保持する能力,選択的に集中する能力,選択肢の中から選択する能力
9.社会的影響個人の思考,感情,行動を変化させることができる対人関係プロセス(例:社会的圧力や規範,権力,社会的支援など)
10.感情重要な事柄や出来事に対する経験的,行動的,生理的反応のパターン(例:恐怖,不安,抑うつ,ストレス)
11.能力に関する信念真の能力,才能,または設備を受け入れる(例:自己効力感,知覚的行動制御,自尊心,エンパワーメント)
12.結果についての信念ある状況における行動の真の結果を受け入れる(予想される結果,予想される後悔,行動の結果)
13.社会的・職業的役割と個人資質社会または仕事の場で発揮される一貫した一連の個人的資質
14.楽観論目標達成への確信

(文献10より引用し著者和訳)

行動科学の分類手法によるCOPD患者介入への応用

SmalleyらはCOPDにおけるSM支援研究の26報告19のSMプログラムから,その介入内容をTDFに照らし合わせて分類・評価した.アウトカムとして入院,救急受診を指標とした研究が最多であり,SM介入内容は「スキル」と「行動規制」の2つが全プログラムに含まれ,全てのプログラムには最低5つのTDFの理論領域が含まれていた.しかし介入項目が多く含まれるほど医療資源利用が減るという直接的な関連性は認められなかった.研究デザイン,アウトカム選択,報告方法の不均一性がこのような結果をもたらしたと考えられているが,今後はSMプログラムの作成や評価の指標としてTDFは利用できるのではないかと結論づけている11

一方,欧州が資金提供するSM支援に関するCOMPAR-EUプロジェクトでは,TDFとは異なる分類法を開発している.TDFが主に行動変容の手法のみに焦点を当てているのに対し,COMPAR-EUではSM支援の設計,実装,報告に関連する様々な背景因子を含めた分類方法を考案している12.欧州で優先度の高い4つの疾患である糖尿病,心不全,COPD,肥満を基に開発されており,今後の続報が待たれる.

今後の研究の方向性

今後SMプログラム研究において検討すべきこととして,アウトカムに入院・死亡など最終像のみを求めるのではなく,その過程に発生する中間的アウトカム(自己効力感や変容ステージ,アドヒアランスなど)についての評価が必要と指摘している11.患者へのSM介入がプログラム通りに実施できたという仮定の下に研究が進められるが,リアルワールドでは患者行動に影響する因子が複雑かつ膨大である.この点を踏まえ,意図したとおりの結果にはならない場合プログラムのどこに問題があるのか振り返るために,その中身を丁寧に精査することが次のエビデンスを作るために必要である.新たなSM支援のエビデンスを作るためのプログラム設計のポイントを表2にまとめておく.

表2 SM支援プログラム設計におけるポイント

・介入により達成したい目標は何かを慎重に考える
・確立された行動理論とフレームワークに基づいて,この目的に密接に関連するプログラムを選択,設計する
・十分なサンプル数で調べ,介入と非介入の内容を明確にする
・プログラムが意図したとおりに機能していることを明確に示す,行動変容の中間的アウトカムを測定・収集する(知識や技術の評価,理解度,アドヒアランスなど)
・これら中間的アウトカムの結果から,プログラムに問題がないか,あるいは別の要因かを検証する

(文献11より引用し著者改変)

現状ではSM支援介入における中間的アウトカムを網羅的に検討した臨床研究は多くない.COPD患者に対しLAMA/LABAとLAMAの比較試験にSM支援を併用したPHYSACT®試験では,メインアウトカムである身体活動性にSM支援がどのくらいその結果に関与したかを定量化している13,14.Bourbeauらの開発したLiving Well with COPDプログラムを基に教育し,動機づけ面接の手法を用いてSM支援が実施された.中間アウトカムとして,変化の準備状態(行動変容ステージ),動機の種類(内因性/外因性)とレベル,身体活動の結果期待度,行動への自信などを計測した.その結果SM介入により身体活動性の指標である歩行数の改善量は,23%が行動変容ステージ,12%が自己効力感,5%が内因性動機づけにより説明されていた.大規模研究でありながら非常に綿密なSM介入効果の測定系を採用しており,追試が容易ではない点でも貴重な研究である.

おわりに

SM支援は薬物療法に比べて一般に取り組みにくいが,実臨床であえてこれを行うことは魅力的に思えるかもしれない.しかしながら現状ではその有効性は限定的としか言えない.これはSM支援プログラムの目的,成果,測定方法や分析方法に一貫性がないことが原因とされている.一つの解決策として一定の分類法に沿った介入内容の標準化,さらに中間的プロセスの評価が今後のエビデンス作りのカギとなりそうである.さらに医療者がアドバイスを提供するコミュニケーション・スタイルは重要な臨床スキルであり,実臨床では動機づけ面接法に代表される手法を習得することも心掛けておきたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

茂木 孝;講演料(アストラゼネカ)

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