2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 45-47
本邦では人口構造の変化に伴う新たな課題へ対応するためエビデンスに基づいて自立支援・重度化防止等を推進する循環を創出する仕組みの形成が進められている.我々は長野県北信地方において在宅呼吸リハビリテーションを実践するなかで多施設連携体制を活かして基幹病院で定期的な呼吸機能,運動能力,ADL,健康関連QOLの測定からエビデンスの構築に取り組んできた.近年ではプログラムに継続に欠かせないデイサービスやホームヘルパーとの連携にも注力しており,非医療職を含む多職種を対象とした講習会の開催やICTの活用を通じて医療・介護連携による効果的な患者への関わりを模索している.高齢患者では長期経過のなかで運動機能やADLの低下が避けられないが,地域連携体制のもと多職種が連携して関わることで健康関連QOLを維持できる可能性があり,すべての人が共通認識をもって患者を支える体制の構築が求められる.
本邦における要介護・要支援認定者数は666万人に達しており,介護保険が始まった2000年と比較するとその数は約3倍に増加している1).2025年以降には人口構造が高齢者の急増から現役世代の急減へ変化するとされており,新たな課題への対応の必要性が指摘されている2).このような状況のなかで国は介護制度の持続可能性を確保できる働き方改革と利用者に対するサービスの質の向上を両立する新たな介護のあり方を検討しており,その一環としてエビデンスに基づいて自立支援・重度化防止等を推進するための循環を創出する仕組みの形成が進められている2).令和3年度介護報酬改定では介護サービスの質の評価と科学的介護の推進を図るため通所・訪問リハビリテーションデータ収集システム(VISIT)と高齢者の状態やケアの内容等データ収集システム(CHASE)情報の収集・活用とPDCAサイクルの推進が図られており3),今年4月から厚生労働省はこれらシステムを統合した科学的介護情報システム(LIFE)の運用を開始している.本稿ではこのような背景を踏まえて,我々が長野県北信地方で20年にわたって実践してきた在宅呼吸リハビリテーションに関わる活動から多施設・多職種連携によるエビデンス構築のためのさまざまな取り組みや課題について述べたい.
地域連携による包括的呼吸リハビリテーションでは基幹病院で2週間の入院呼吸リハビリテーション後に訪問看護ステーションがプログラムを引き継ぐことで継続した支援を実施している4,5).訪問看護によるフォローアップでは呼吸ケアの継続を行うとともに状況に応じて介護サービス導入などの環境整備,プログラムに沿った運動実施の支援,在宅での患者情報の入院時の連携施設への提供などを行っている.プログラムを導入し1年以上の経過観察が可能であったCOPD患者109名(平均年齢 76.5±6.5歳,男性103名,女性6名)の分析では6か月後の6分間歩行距離(6MWD),疾患特異的健康関連QOL尺度であるCRQに有意な改善を認めており,CRQの改善は1年後も有意なままであった.また,医療費・入院日数に関する検討では呼吸リハ導入1年目,2年目に外来受診回数,訪問回数は増加したが,入院回数,入院日数は経年的に減少し,プログラム導入前後で医療費に大きな変化を認めないことを報告している6).
今回,プログラム導入患者の長期経過を調査するため5年以上にわたりプログラムを継続している患者43名を抽出してその分析を試みた.図1にプログラム開始から5年間の呼吸機能,運動能力,ADL,健康関連QOLの推移を示す.
図中の縦軸は各測定項目の平均値,横軸はプログラム継続年数を表す.†*‡§はプログラム開始時と比較して有意な差を認めた項目を示す(†:6MWD,*:FEV1/FVC,‡:CRQ,§:NRADL).
一秒率(FEV1/FVC)は3年半後から有意な低下となり,入院プログラムで改善した6MWDも1年後から次第に低下して2年半でプログラム開始時と同程度となり,4年を過ぎて有意な低下を示した.また,疾患特異的ADL尺度であるNRADLもプログラム開始時から徐々に低下し,1年半後から有意な低下となったが,入院プログラムによって改善したCRQは4年後まで有意なまま維持されていた.高齢患者では長期経過のなかで運動能力やADLの低下が避けられない問題であるが,そのような状況下でも多職種連携によるフォローアップの継続によって健康関連QOLが維持されている状況が示された.
これまでにプログラムを導入した慢性呼吸不全患者は221名(平均年齢77.0±8.5歳)で,最長で17年のフォローアップを継続している.ここでは13年の長期の経過観察が可能であった78歳の男性COPD患者の例を紹介する.同症例は週1回の訪問看護に加えて週2~3回の訪問介護,週2回の運動重視デイサービス(84歳から),週1回の訪問服薬指導,配食サービスを利用することで93歳となった現在も独居で生活されている.13年におよぶ経過のなかで介護度は要支援1から要介護3に変化し,プログラム開始時には 282 mであった6MWDは 40 mにまで減少した.ただ,BMIはプログラム開始時の 25.9 kg/m2 から 25.1 kg/m2 と僅かな減少にとどまっており,多職種連携による患者への関わりがモチベーションの維持につながることで,自宅の風呂に毎日入ったり,ゴミ出しをしたりするなどの日常生活を続けておられる様子が窺える.
在宅呼吸リハビリテーションの継続にはそれを支援するケアマネージャー,訪問看護師,薬剤師,ヘルパー,デイサービス等の理解と協力が大きな影響を与える.我々は2015年から多施設連携体制を軸としてプログラムに継続に欠かせないデイサービスやホームヘルパーとの連携を進めており7),地域の非医療職を含む多職種を対象としてCOPDや誤嚥性肺炎についての講習会を開催している.ただ,現場ではリハビリテーションに対する職種間での理解が十分に図られていない事態に遭遇することも多く,個人の研鑚に頼るだけでは解決が難しい課題が存在することも事実である.このような問題を解決する手段として国は情報通信技術(ICT)の利活用を推進しており,我々も2018年から医療職・非医療職の連携の手段としてICTの活用に取り組んでいる8).多職種が連携して重症化予防,介護予防,ADLの維持,社会交流などの活動範囲の拡大を進めるには地域を含めそこに関わる全ての人が共通認識を持って患者を支えることができる連携体制が必要であり,それらを活かすことで有益かつ効率的な支援・サービスを提供できる可能性がある.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.