The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Society Award-Winning Articles
An effort to propagate pulmonary rehabilitation in patients with chronic pulmonary diseases by the clinic during the past 25 years
Naoto RikitomiSatoshi DegawaJunnosuke InoueChika KitagawaNao KakunoKeiko MoriyamaYayoi Kumamoto
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2024 Volume 33 Issue 1-3 Pages 6-11

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要旨

平成9年(1997年)5月に開院した長崎呼吸器リハビリクリニックは19床の有床診療所で入院,外来,通所リハビリ,訪問にて呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を提供している.当時は呼吸リハの概念さえ一般に普及していなかった時代で,薬物療法や酸素療法だけでは慢性呼吸器疾患患者の廃用性筋萎縮,activities of daily livingやquality of lifeの低下は改善できず,呼吸リハを市中でいわば気軽に受けられる医療機関は存在しなかった.開院当初からの問題として呼吸リハについて,医療関係者や患者・家族の認識不足や無関心,保険診療報酬点数の低さなどに直面した.ただユニークな施設であったためマスコミに取り上げられ,呼吸リハを標榜した当院への関心が高まり,県内外から患者が集まったことで,種々の疾患に対して呼吸リハを実践しその効果を実感できた.診療報酬点数も関係学会の努力により徐々に改定され呼吸リハの環境は整いつつある.しかし全国的には呼吸リハを実施できる医療機関の数や認知度など十分でないため,患者にとってアクセスが悪く,今後改善すべき課題である.

開院の動機(臨床家としての歩みー呼吸リハビリへの道)

筆頭著者(力富直人)は1979年(昭和54年)に臨床医になってから,長崎大学熱研内科に入局,松本慶蔵名誉教授の薫陶をうけ,内科(呼吸器科医)として歩みを始めた.熱研内科では主に呼吸器感染症を診ることになり,肺炎や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD),気管支拡張症,肺結核後遺症など比較的重症の患者さんの治療をすることとなった.当時は静注抗菌剤が次々と開発され,また内服剤でもニューキノロン剤が目覚しく進歩,緑膿菌感染が内服剤で治療が可能になる一方MRSAなどの耐性菌が問題になってきた時代でもあった.

ただ酸素療法は病院の中でしか実施できず,自宅での在宅酸素療法が普及していくのは1980年代後半になってからで,重症の患者さんでも退院すれば自宅では酸素吸入はできず苦しい生活が待っていた.さらに抗菌剤の発展にともない重症感染症患者さんの予後は良くなったものの,身体活動性低下や廃用性筋萎縮,それに伴う日常生活活動(activities of daily living; ADL)や生活の質(quality of life; QOL)の低下がおこることへの認識は乏しかった.まして呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の必要性については私自身も含め当時の医療関係者の関心は低く,それは患者さんも同様で,一般の人たちは言うまでもなかった.このことが後々呼吸リハの啓蒙や普及の妨げとなっていった.

開院当時の呼吸リハビリテーションをとりまく医学的状況

1997年に長崎大学での研究生活に区切りをつけ,さて次はどうしようかと考えたとき,それは今までの臨床研究の延長として開業医として世の中に役立つことであった.

1985年(昭和59年)は在宅酸素療法の保険適用が認められ,慢性呼吸不全を有する患者さんにとっては大きな転換点であった.翌1986年は長崎大学医療技術短期大学(現在長崎大学医学部保健学科)の教授として日本の呼吸リハを引っ張っていく千住秀明先生が赴任され,呼吸リハの実際を自身の患者さんで経験した.

開業を決意した私はこの呼吸リハを軸にしていきたいと思っていたが,問題はこの未だ普及していない治療をどうやって市井のクリニックの中心に据えるか,しかも参考にできる施設や先人も当時の日本にはなく,期待と不安の中の船出であった.

当院のコンセプトは,

①外来にて呼吸リハを気軽に受けられること

②入院による集中的な呼吸リハを行うこと

③呼吸リハがない遠方からの患者の受け入れ

であり,前例のない有床診療所で呼吸リハを受け入れる計画は構想の段階から千住先生や諸施設の関係者の助言を得て始まった.

1997年(平成9年)5月に長崎県諫早市に19床の入院ベッドをもつ内科・呼吸器科の有床診療所として開院,医師は私だけ,理学療法士は4人で入院と外来,訪問にて呼吸リハを行える施設を目指した1,2.翌1998年には高齢者(特に慢性肺疾患をもつ利用者)の通所リハビリも開始した.

開院時の問題点とその後の経過

(1) 呼吸リハの周知

開院後最初の問題点はどうやって医療機関,患者や家族に呼吸リハの有用性を周知できるかであった.呼吸リハに関心を持つ医師,理学療法士,医療関係者などの協力もあり,当院の開院を知った呼吸不全(低肺機能)の患者さんグループが北海道,東北,四国,沖縄などから来院,またマスコミ(新聞,テレビ…当時はSNSを利用できる時代ではなかった)や,メディアに紹介されたこともあって市外,県外からの患者が少なからず来院したことは望外の喜びであった(図1).

図1 当院を受診した患者の分布

(2) 保険(診療報酬)上の問題点

開院後にすぐ起きた問題点として,当時は呼吸リハの診療報酬点数の基準が曖昧で,当時の基準でいうところの「理学療法簡単」として低い診療報酬での請求しかできなかった.運動療法は事前の長崎県の担当部署への確認では認めるとのことであったが結果的に認められず困難に直面した.

呼吸リハの保険点数が低いため経営が成り立たなければ,採算を度外視しても可能な公的機関でしか呼吸リハはできないことになり,その普及は絵にかいた餅にしかすぎない.関係各位や学会(日本呼吸器学会,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会)による厚生労働省への働きかけにより2002年(平成14年)に呼吸リハの項目が「簡単と複雑」から「個別と集団」へと変更され,事実上呼吸リハにも運動療法への道が開けた.2006年には疾患別リハビリテーション科として「呼吸器リハビリテーション料」が設定され,当院設立から9年目にしてやっと「呼吸リハ」が独立した地位を認められた意義は大きく,クリニック経営の安定化にもつながっていった.

(3) 呼吸リハ効果のevidence

開院当初の1990年代はまだ医師をはじめとした医療従事者の間では呼吸リハ効果については,無理解や認識不足のため懐疑的であった.その後国内,国外における研究成果も順調に積み上げられていき,運動耐容能やADL改善からQOL改善へと進展していき,身体活動性の維持・改善は生命予後も延長する可能性があるなど,呼吸リハ(特にCOPD)の効果は確固たるものになっていった.特にCOPDの治療の指針となっている国内外のガイドラインに呼吸リハの項目が取り上げられた影響は大きく,徐々に専門家の間では呼吸リハは必須の治療法として認識されるに至った3,4,5,6

COPD以外の疾患でも呼吸困難に起因する同様の病態が存在し7,8,呼吸リハの効果が認識され適応は広がっているが,間質性肺炎,特に特発性肺線維症の呼吸リハは疾患の進行が速い場合,長期効果に課題が残されている9,10

呼吸リハへのアクセス

科学的根拠が呼吸リハの基礎にありながら3,4,5,6,その普及が医師のみならず,患者や一般の人にまだ普及していないのが実状である.仮に呼吸リハがあることを知っていても,入院・外来で必要に応じ,気軽に呼吸リハを受けられる医療機関はまだ限られており,呼吸リハが必要であっても,それがどこで実施され,どのような方法でアクセスできるか見当がつかず,気軽に受診できない敷居の高さが存在している.

図1は全国から当院を受診した(主に呼吸リハ目的)呼吸器疾患の患者さんの分布を示す.開院から2022年9月までの約25年間に24,998人が当院を受診し,そのうち23,793人(95%)が県内で1,205人(5%)が県外であった.県外では北海道から沖縄に分布しており,それはこれまで呼吸リハを実施できた医療機関の少なさを表している.また長崎県は多数の離島があり,受診者は離島と本土を問わず県内に広く分布している.2022年に日本呼吸ケア・リハビリテーション学会のホームページに示されている呼吸リハ実施可能な施設をみると(図2),全国168施設で呼吸リハが受けられるが,その数は以前から較べると増えてはいるものの,必要とする患者数を考えると,現在もまだ不十分である.

図2 呼吸リハビリテーション実施施設

2022年日本呼吸ケア・リハビリテーション学会ホームページより

(現在,学会のホームページがリニューアルされ,この画面は見ることができなくなっています.)

当院での呼吸リハシステム

当院の場合,入院と外来,通所リハビリ,訪問にて呼吸リハを提供し,他医療機関とも連携している(図3).入院患者の場合は,毎週開かれるカンファランスで医師,看護師,理学療法士,管理栄養士が問題点の共有化をはかり,多職種間で連携しながら,総合的に治療を進めて,外来(在宅)でのリハビリや通所リハビリへスムースな継続を目指している11,12

図3 長崎呼吸器リハビリクリニック

慢性呼吸器疾患は自己管理が重要であり,医師は病態の説明,薬剤や酸素の働き,感染増悪の早期発見と受診のポイントを説明,理学療法士は運動療法,ADLにおける呼吸困難緩和のための方法や酸素機器の使用方法を指導,看護師からは吸入薬指導,感染防止や生活全般の工夫,管理栄養士からは個々の栄養(特に自宅における食事)ついて説明をうけ,退院後の生活に役立てる13.個別の指導とは別に週1回の呼吸器教室において集団指導を各職種から(外来と入院患者共通)行う.

最近11年間に当院で呼吸リハを受けた患者1,595人の疾患割合を示す(図4).COPDが最も多く51%,次いで気管支喘息16%と間質性肺炎14%,肺結核後遺症4%,気管支拡張症4%と続く.開院以来COPDが多いのは変わらないが,最近の傾向は肺結核後遺症の減少,間質性肺炎の増加である.

図4 当院における入院呼吸リハビリテーション対象患者の疾患内訳

特に問題となるのは間質性肺炎の中でも特発性肺線維症で,疾患の進行が早く,最近は線維化防止のための薬剤も開発されているが,その効果は限定的である.特発性肺線維症への呼吸リハ効果は短期的には歩行距離,運動耐容能,呼吸困難感において期待できる.しかし長期的にみると,いまだ充分とは言えず道半ばである8,9,10

忘れられない症例,自宅での呼吸リハ継続の重要性

図5図6は四国の香川県から呼吸リハを目的に当院に年1回入院治療を受けに来た在宅酸素療法中のCOPD患者の7回の入院経過を示す.入院した直後と退院前のデータをみると,体重,呼吸機能,6分間歩行距離,ADLが改善している.いったん良くなって退院したあと自宅へ戻るが,呼吸リハを継続できる環境になく,禁煙も継続できず,残念ながら病態の悪化がおこる.翌年再入院すると禁煙,栄養状態の改善,運動療法などにより再び改善がみられる.この症例から学んだことは,COPDにおける病態は不可逆的なものではなく,禁煙や栄養,呼吸リハを適切に行えば改善が期待できるということであった.

図5 COPD患者の体重と一秒量の経過(約8年間)

図6 COPD患者の6分間歩行距離とADLの経過(約8年間)

開院して間もなく,退院後当院外来に通院できない患者が自宅に帰ったあと1年以内に呼吸リハをどのように継続しているかについて,113人を対象にアンケート形式で調査を行った(図7).呼吸リハの継続率は口すぼめ呼吸90%,腹式呼吸94%,呼吸体操80%,歩行訓練75%以上と高く,筋力訓練51%で約半数,トレッドミル27%,自転車エルゴメータ15%など自宅に機械をおいてリハビリを継続している割合は低かった.呼吸リハがほとんど全国的に普及していない開院当初の状態でもリハビリへのモーチベーションがあれば,歩行トレーニングを含む運動療法が自宅で継続できる可能性が示唆されたといえる.

図7 入院における呼吸リハの実施率と退院後の継続率

当院に近い諫早市在住の患者でも,自力通院困難な患者の呼吸リハを継続するため,1998年より通所リハビリを開始,介護が必要である高齢者の廃用性筋萎縮やADL低下防止,フレイルの防止に努めている.在宅酸素療法試行中の患者を受け入れ可能な通所リハビリ施設は限られ,また施設職員が慢性呼吸不全患者の呼吸リハや介護に習熟していないため,これら医療従事者への啓発活動も大事なポイントである.自宅外に出ることが困難な在宅の慢性呼吸不全患者も存在し,訪問による看護のみならず,訪問呼吸リハが必要な場合には提供している.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

今回の受賞の理由は市井の小さなクリニックでありながら,ささやかでも呼吸リハの普及に貢献できたことがその理由ではないかと思う.学問的に言えば研究環境が整っておらず,実践的な報告が多い.ただどんな素晴らしい研究でも医学では現場での応用・実践が重要であり,呼吸リハが研究機関や大病院にとどまらず,経営的に厳しい環境から立ち上げた小さなクリニックで継続可能であったことが評価されたと考える.

ただ現在でも医療機関をとりまく状況は,診療報酬にかかわる経営問題のみならずコロナ下でのリハビリの難しさをはじめ,患者が容易にアクセスできる環境が整っておらず依然厳しい.呼吸リハがクリニックレベルで普及し,入院だけでなく外来リハビリに容易にアクセスできるようになるためには,呼吸リハが特殊な治療でなくその適応が広いことを知ってもらい,敷居を高く感じずに患者や家族,一般の医師,医療従事者が気軽に実施医療機関に受診・紹介できるように啓発活動を行い普及させていくことが今後の課題と感じる.

最後に当院の開設以来多くの方々から頂いた励まし,ご助言,ご協力に心から感謝いたしますとともに,これまでの当院職員の努力に深甚の謝意を表します.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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