The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Essential knowledge of pneumonia
Naoki IwanagaHiroshi Mukae
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 19-23

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要旨

近年のCOVID-19の蔓延により,国民の呼吸器感染症に対する注目度はかつてない程に高まっている.また疫学的に肺炎の死亡者の95%以上が65歳以上であることが分かっており,世界的にみても稀有なスピードで高齢化が進む我が国では,高齢者肺炎への対策は国をあげて取り組むべき懸案事項となっている.従って,私たち医療従事者はたとえ非専門家であっても,肺炎に関する基礎知識を習得しておくことは必要不可欠であろう.COVID-19が肺炎診療の在り方を大きく変えつつあり,更に我が国では肺炎診療ガイドラインの改訂中でもあることから,今回改めて肺炎という疾患を基礎から振り返っておくことは,日々の診療においても有益であろうと考えている.本総説は患者さんやその御家族に平易な言葉で説明できるようになるための基礎的な内容になっているが,熟練者にとっても基礎知識の再確認のための資料として使用して頂ければ幸いである.

肺炎は,2020年の厚生労働省の人口動態統計によると日本人の死因の第5位となっているが,2017年からは独立して集計されるようになった誤嚥性肺炎を合わせると第4位の死亡率となり,変わらずに予後不良の重要な疾患といえる.感染症の診断及び治療が進歩した現代においてもなお肺炎の死亡率が上昇の一途を辿っているのは何故であろうか.移植療法の発展や生物学的製剤を中心とした免疫抑制療法の進歩により易感染性の患者が増えたことや,薬剤耐性菌の蔓延は一つの要因と思われるが,主な要因は高齢者肺炎であることに異論はないだろう.2017年の厚生労働省の人口動態統計を見れば一目瞭然であるが,肺炎死亡者の実に98%以上が65歳以上の高齢者なのである.日本は2015年の時点で高齢化率は26.6%と世界的に見ても驚異的なスピードで高齢化が進行しており,世界に先駆けて高齢者医療の最先端を切り開いていく必要がある.従って私たち医療従事者はたとえ非専門家であっても肺炎診療を行わなければならないことも多く,その基本的知識を習得しておくことが求められる.

肺炎とは肺の実質或いは間質の炎症と定義されるだろうが,感染性肺炎であれば微生物が肺実質に感染し,宿主の免疫反応により炎症細胞が集族することにより炎症巣が形成されることで,胸部画像検査で捉えることが可能になる.典型的な症状として,発熱,咳嗽,喀痰,呼吸困難などの呼吸器症状や,食欲不振,全身倦怠感などの全身症状が挙げられ,高齢者は呼吸器症状に乏しいことも多いため,注意深い診察が重要である.理学所見としては,意識レベル低下,頻呼吸,SpO2 低下,頻脈,血圧低下,胸部聴診でcracklesの聴取,脱水の有無などを評価する.患者背景に基づいて肺炎を適切に分類することにより原因菌の推定が可能になり,重症度判定も加味することで,治療の場や抗微生物薬の選択を行うことが基本的アプローチであり,肺炎診療ガイドライン20171を一度通読して頂くことをお勧めする.肺炎の分類について述べると,原因菌はグラム染色可能な細菌性肺炎と染色されない非定型肺炎に大別され,発生場所により市中肺炎(community-acquired pneumonia(CAP);介護が不要な病院外で生活していた人に発症),院内肺炎(hospital-acquired pneumonia(HAP);入院して48時間以降経過した患者に新たに出現した肺炎),医療・介護関連肺炎(nursing healthcare-associated pneumonia(NHCAP);医療ケアや介護を日常的に受けている人に発症する肺炎)に分類される(図1).非定型肺炎の殆どはCAPであり,臨床所見に基づく鑑別が推奨されているが(表1),レジオネラは対象外であること,高齢者では診断精度が落ちることに注意が必要である.レジオネラ肺炎については,本邦からスコアリングの有用性の報告があり(表22,鑑別の一助となり得る可能性がある.非定型病原体はβラクタム系薬が無効であることから,マクロライドやテトラサイクリン,ニューキノロン系薬による治療を検討する必要がある.微生物検査として,喀痰グラム染色・培養(一般細菌),血清学的検査(マイコプラズマ抗体,クラミジア抗体),尿中抗原検査(肺炎球菌,レジオネラ),咽頭拭い液抗原検査(マイコプラズマ,SARS-CoV-2),遺伝子検査(polymerase chain reaction(PCR),loop-mediated isothermal amplification(LAMP);マイコプラズマ,結核,SARS-CoV-2)等が挙げられ,入院治療が必要な症例では,血液培養の2セット以上採取も推奨される.特にグラム染色は短時間で施行可能であり,原因微生物を推定し,適切な抗菌薬治療につなげることができる重要な検査である.後日培養検査で起炎菌が同定されれば,仮に初期治療が奏功していた場合も,薬剤感受性検査の結果に依って抗菌薬を適正化する,de-escalationを積極的に検討していくことは抗菌薬適正使用に不可欠なアプローチである.近年大学病院等では,MALDI-TOF MSが一般化されつつあり,より正確な原因微生物同定が可能になっている.これは,培地上の微生物コロニーを,レーザー光を吸収・励起させるマトリックスと混合した調整試料として分析装置にかけ,分離された構成タンパク質のパターンで菌種を特定するものである3.一方では,COVID-19の蔓延により多くの施設で遺伝子検査が可能になり,医療の在り方を大きく変えつつある.網羅的な遺伝子診断の一つにFilmArray®システムがあるが,核酸抽出から増幅反応・検出まで全自動化されており,呼吸器感染症・血流感染症・腸管感染症・髄膜脳炎における病原微生物や薬剤耐性遺伝子など,多項目の同時検出が可能になっている.検査時間が1時間程度とこれまでの遺伝子検査の中でも迅速性に優れることが大きな特徴である4.また我々は16S rRNA遺伝子をPCR法で増幅後にクローンライブラリーを作成し,無作為に選択した96クローンの塩基配列を検出することで,検体中の優占菌株を評価する網羅的細菌叢解析法を行い,様々な肺炎の原因微生物の同定を試みてきた5.市中肺炎において気管支洗浄液の細菌叢解析を行った64例の検討では,従来の培養法では約1/3が有意菌なしであったが,細菌叢解析により全例で病原微生物の同定が可能であった6.嫌気性菌等の培養困難な原因微生物も含めて検出可能な点が大きな利点であり,口腔内レンサ球菌と偏性嫌気性菌の混合感染が多く存在することも明らかにされ7,今後の研究の発展が期待される.

図1 市中肺炎(CAP),NHCAP(医療・介護関連肺炎),院内肺炎(HAP)の分類

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

表1 市中肺炎における細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別項目

1)年齢60歳未満
2)基礎疾患がない,あるいは軽微
3)頑固な咳がある
4)胸部聴診上所見が乏しい
5)痰がない,あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない
6)末梢白血球数が10,000/μL未満である

肺炎マイコプラズマおよびクラミジア属で検討されたもの

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

4項目以上が該当した場合はマイコプラズマ肺炎またはクラミジア肺炎が疑われる(感度78%,特異度93%)

表2 レジオネラスコア

・男性
・咳嗽なし
・呼吸困難
・CRP≧18 mg/dl
・LDH≧260 U/L
・Na<134 mmol/L

3項目以上合致すると,レジオネラ肺炎の感度93%,特異度75%

J Infect Chemother. 25: 407-412, 2019より作成

抗菌薬治療には,原因微生物が確定していない段階での経験的治療(エンピリック治療)と確定後の標的治療の2種類がある.臨床現場では,培養検査を提出しつつエンピリック治療を必要とする場面が多く,適切な重症度判定と耐性菌リスクを考慮しながらの判断が求められるが,成人肺炎診療ガイドライン2017のフローチャートを参照して頂きたい(図2).重症度判定においては,北米ではpneumonia severity index(PSI)が8,欧州ではCURB-65が推奨される一方で9,本邦のガイドラインでは,CAP/NHCAPにおいてはA-DROPを(表3),HAPにおいてはI-ROADを評価し(図3),さらにquick sequential organ failure assessment(q-SOFA)で敗血症の有無を評価することが推奨されている10.CAPにおいて重症度別に推奨されるエンピリック治療が示されているが(表4),外来治療でレスピラトリーキノロンを選択する際には,肺結核を合併していないか十分に吟味することや,薬剤耐性菌を誘発しないように乱用には注意が必要である.またレジオネラ肺炎は急速に病態の悪化を認めることも多く,経時的に重症度判定を繰りかえし,集中治療のタイミングを逸さないようにすることも重要である.NHCAP/HAPにおいては,重症度分類に加えて,耐性菌リスク因子(表5)も考慮することにより,推奨されるエンピリック治療が示されているが,誤嚥性肺炎を繰り返す症例に容易に広域抗菌薬が選択されうるリスクを孕んでいることに注意を要する.全国73医療機関で入院による注射抗菌薬治療を必要としたNHCAP患者596名を対象とした前方視的観察研究において,耐性菌リスク群において,ガイドラインを遵守した治療選択を行うとむしろ予後が悪化する傾向が示唆されており11,現在改訂中のガイドラインでは,NHCAPのエンピリック治療において,より適切な抗菌薬の選択が可能になるような仕組みが検討されている.HAPにおいては適切なエンピリック治療の投与の有無が死亡率に影響するため,敗血症有り或いは重症度が高い,または耐性菌リスクありの場合は抗緑膿菌作用を有する抗菌薬の投与を,MRSA分離の既往や過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴がある場合は抗MRSA薬の追加を検討するよう推奨されている.これらガイドラインは一般化した情報であるため,上述したようなグラム染色,咽頭拭い液検査,遺伝子検査等も行いながら原因微生物同定を積極的に試みることや,病院のアンチバイオグラムも考慮しつつ抗菌薬選択を行うことの重要性は変わらないことも,あらためて明記しておきたい.

図2 肺炎診療ガイドライン2017のフローチャート

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

表3 A-DROPシステムによる重症度判定

A(Age):男性70歳以上,女性75歳以上
D(Dehydration):BUN 21 mg/dL以上または脱水あり
R(Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60 Torr以下)
O(Orientation):意識変容あり
P(Pressure):血圧(収縮期)90 mmHg以下

軽症 :上記5つの項目いずれも満たさないもの.

中等度:上記項目の1つまたは2つを有するもの.

重症 :上記項目の3つを有するもの.

超重症:上記項目の4つまたは5つを有するもの.

    ただし,ショックがあれば1項目のみでも超重症とする.

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

図3 I-ROADシステムによる重症度判定

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

表4 市中肺炎の経験的治療

外来治療群一般病棟入院群集中治療室入室群
経口薬
β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬
・マクロライド系薬
・レスピラトリーキノロン
注射薬
・スルバクタム・アンピシリン
・セフトリアキソン
・レボフロキサシン
注射薬
・A法:カルバペネム系薬 or タゾバクタム・ピペラシリン
・B法:スルバクタム・アンピシリン or セフトリアキソン or セフォタキシム
・C波:A or B法+アジスロマイシン
・D法:A or B法+レボフロキサシン
・E法:A or B or C or D法+抗MRSA薬
注射薬
・セフトリアキソン
・レボフロキサシン
・アジスロマイシン
非定型肺炎が疑われる場合
・ミノサイクリン
・レボフロキサシン
・アジスロマイシン

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

表5 HAP/NHCAPの耐性菌リスク因子

1.過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴
2.過去90日以内に2日以上の入院歴
3.免疫抑制状態
4.活動性の低下(パフォーマンスステータス≧3,バーセル指数<50,歩行不能,経管栄養/中心静脈栄養)

2項目以上で耐性菌の高リスク群

日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」より一部改変

冒頭で述べたように,高齢者肺炎への対策は最早社会的要請であると言っても過言ではない.高齢者肺炎の殆どが誤嚥性肺炎であることが示されており,その多くが睡眠中に生じる少量の誤嚥を繰り返す不顕性誤嚥であることもあり,一見元気であるため分かりづらい.嚥下機能は一旦低下すると改善が難しいこともあり,誤嚥性肺炎は繰り返すことが多いため,ただ抗菌薬で治療すれば良いわけではないことが明らかである.普段のADLや栄養状態等に予後が大きく依存するため12,適切な抗菌薬治療がなされても病状の改善を認めないことをしばしば経験する.また,肺炎発症後は筋力低下等を背景にADLが悪化するため,肺炎を繰り返すという負の連鎖に陥ってしまう.つまり,高齢者肺炎への対策で重要なことは「如何に治すか」よりむしろ,「如何に発症させないか」に尽きる.本邦の介護老人保健施設において肺炎球菌ワクチンの有効性がRCTで示され13,ガイドラインにおいても,高齢者の肺炎予防に対して,肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンとの同時接種を実施することが強く推奨されている1.誤嚥性肺炎は口腔内細菌の誤嚥により発症することから,口腔ケアが有効であることは想像に難くないが,本邦の11の介護施設で行われたRCTによると,口腔ケアにより肺炎の発症や死亡率及び発熱期間が有意に改善し,ADLや認知機能の改善傾向も報告されている14.また早期リハビリテーションの介入が肺炎予後の改善に寄与した報告もあり15,高齢者は肺炎による入院を契機にADL低下をきたさないように注力することが肝要であろう.一方で,成人肺炎診療ガイドライン2017のフローチャート(図2)においては,NHCAP/HAPと診断後に,患者背景のアセスメントとして疾患終末期や老衰状態の判断を行い,該当した場合には,患者の意思やQOLを考慮した治療・ケアを検討するように推奨されている.近年,終末期肺炎の診療において,本人の意思を基本として家族,医療ケアチームが話し合って事前に決めておく,アドバンスト・ケア・プランニング(ACP)の必要性が認識されるようになってきた.抗菌薬投与にも関わらず肺炎の予後が不良である場合,患者,家族に情報提供を行い,終末期医療に関する家族の意思決定に対する負担を軽減することが目的であるが,近年のCOVID-19の蔓延により,更にその重要性が高まっているように感じている.SARS-CoV-2感染を契機に誤嚥性肺炎が重篤化することも多く,感染対策上,患者・家族・医療者間で合議することが難しい場合,迅速に適切な意思決定を行うことが難しくなるケースも少なくないからである.

日本の高齢化率は上昇の一途であり,我が国からの高齢者肺炎に関するエビデンスの構築を世界が注視している.高齢者において老衰により生理機能が低下し,ストレスに対する脆弱性が高まった状態はフレイルと呼ばれているが,フレイルは運動や栄養状態の改善等で可逆性であると考えられている.フレイル患者が肺炎発症による負の連鎖に入る前に,積極的なリハビリテーションの介入や,ワクチンや口腔ケア等を通して適切に予防策を講じることが高齢者肺炎の予後改善に寄与する可能性があるだろう.またフレイルの出口戦略としてACPを推進していくことで,高齢者肺炎のトータルマネージメントを検討していく時代に直面していると感じている.最後に,網羅的細菌叢解析が解き明かした,口腔内レンサ球菌と偏性嫌気性菌の混合感染のメカニズムの基礎的検討により,病原因子や宿主因子に着目した新しい誤嚥性肺炎の治療法や予防法の発展につながることを期待したい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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