The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Chronic obstructive pulmonary disease awareness and survey among participants of “lung age” measurement event
—Comparison between Nagasaki city and Tokyo—
Takako Tanaka Hironori MasakiHideaki SenjyuKosuke MoriRyo Kozu
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 52-56

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要旨

【目的】本研究の目的は,長崎市と東京都の肺年齢測定参加者における慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)認知度ならびに関連する意識について地域間の相違を検討することである.

【対象および方法】2018年度と2019年度に長崎市COPD検診と東京都内の肺年齢測定会参加者を対象に,呼吸機能検査の実施前・後でCOPD認知度ならびに関連する意識についてアンケートを実施し,地域間で比較検討した.

【結果】解析対象は,長崎市445名(平均年齢68歳),東京都2,681名(平均年齢56歳),COPD認知度は長崎,東京の順で57%,45%であった.呼吸機能検査後,「COPDのことを知ることができたか」の問いに,「できた」と回答した者は,長崎76%,東京93%,さらに,「家族や知人に肺年齢測定を伝えようと思うか」の問いに,「思う」と回答した者は長崎84%,東京90%であった.

【結論】肺年齢測定は地域特性に関係なくCOPD認知度の啓発活動の一環として重要であることが示唆された.

緒言

本邦の慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)の罹患率について,2004年のNICE study(Nippon COPD Epidemiological study)では40歳以上の約530万人,70歳以上においては6人に1人の割合で存在すると推測している1.しかし,このうちCOPDと診断され適切な治療を受けている患者は10%未満と,多くが未診断であることが報告されている1.この背景には,COPDは中枢性疾患や運動器疾患と異なり主症状である動作時の呼吸困難が加齢の影響と思い込み,表面化しにくいことに加え,COPDに対する社会的認知度が低いことが問題提起されている2

これを受け厚生労働省は,「健康日本21(第二次)」の中でCOPDは禁煙により予防可能な疾患であるため早期発見が重要であるとし,2022年度までにCOPD認知度80%を目標とし,国を挙げて取り組む方針を示した3.活動として,マスメディアによる普及・啓発活動やたばこのパッケージ表示の修正などが実現された.その効果もあり,GOLD(global initiative for chronic obstructive lung disease)日本委員会によるCOPD認知度把握調査結果では,2016年は25%,2022年は34.6%まで上昇した4が,目標値には達しなかった.

COPD認知度の向上において,安藤ら5は特定健診に呼吸機能検査によるCOPD検診を取り入れることでCOPDの早期発見ならびに認知度が向上すると報告している.さらに,豊田ら6のCOPD認知度の経年変化を調査した報告や,森ら7の一般市民に対する肺年齢測定会がCOPD認知度を向上させることが出来ると報告している.著者らも,COPDの早期発見を目的に呼吸機能検査を用いた肺年齢測定を長崎市は2015年より7年間,東京都は2018年より2年間実施している.しかし,肺年齢測定の実施年数や地域特性に関係なく,COPD認知度や関連する意識に貢献できるか不明である.そこでCOPD認知度向上のために全国での肺年齢測定を推進する一助にするため,本研究では肺年齢測定が参加者のCOPD認知度と呼吸機能検査測定後の結果に対する感想,疾患の理解などCOPDに関する意識において地域間で比較検討することを目的とした.

対象と方法

1. 対象

対象は2018年度と2019年度の長崎市ならびに東京都で開催された肺年齢測定参加者とした.長崎市は,2015年より長崎市臨床内科医会ならびに長崎市健康づくり課と長崎大学が協働で毎月1回開催しているCOPD検診に参加した40歳以上の長崎市民,東京都は,2018年より2か月に1回の頻度で行政や医師会,民間団体(東久留米市,北・文京・大田・豊島区各区役所,駒沢オリンピック公園,味の素スタジアム東京都)が主催または後援するスポーツ・健康づくりイベント内で行われた肺年齢測定会参加者であった.除外基準は,長崎市では40歳未満,東京都は18歳未満と日本語が話せない方とした.肺年齢測定会の案内について,長崎市は市の広報誌,新聞などのメディア,長崎市医師会会報,当日の呼び込み,東京都は各地域の広報誌,チラシの配布,行政のホームページなどを活用した.対象者への研究同意は,長崎市は研究の目的や意義,倫理的配慮について口頭および文書にて説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た.東京都は,研究内容を口頭で説明し,アンケートの回答をもって調査の同意とした.本研究は,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会(許可番号:19041103)ならびに複十字病院倫理審査委員会(承認番号:20007)の承認を受けて実施した.

2. 方法

対象者に,呼吸機能検査測定とその前後において独自で作成したアンケート(表1)調査を行った.

表1 アンケート

<検査測定前>
Q1.COPDについてご存知でしたか.
 知っている・聞いたことはある・知らない
<検査測定後>
Q2.肺年齢測定を行ってみて,いかがでしたか.
 予想通り・思ったより悪い・思ったよりいい・わからない
Q3.肺年齢測定を通じてCOPDという疾患を知ることができましたか.
 できた・できなかった・わからない
Q4.肺年齢測定について,家族や知人に伝えようと思いますか.
 思う・思わない・わからない
Q5.呼吸リハビリテーションについてご存知ですか.
 知っている・聞いたことはある・知らない

最初に,年齢や呼吸器症状の有無などの問診に合わせて,アンケートのQ1でCOPD認知度について聴取した.回答で「知っている」,「聞いたことがある」を認知度ありとした4.その後,身長と体重を計測し呼吸機能検査を実施した.呼吸機能検査は,スパイロメータ(ミナト医科学社製オートスパイロAS507)を用い,日本呼吸器学会「呼吸機能検査ガイドライン」8に準じて,努力性肺活量(forced vital capacity:以下FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second:以下FEV1),1秒率(以下FEV1/FVC)を測定した.また,予測式9【男性:肺年齢=(0.0.36×身長(cm)-1.178-FEV1(L))/0.028,女性:肺年齢=(0.0.22×身長(cm)-0.005-FEV1(L))/0.022】より肺年齢を算出した.閉塞性障害はFEV1/FVC<70%と定義した.さらに,呼吸機能検査実施後,肺年齢の結果やCOPDの疾患について説明し,アンケートのQ2~5を聴取した.疾患に関する説明は,長崎市は呼吸機能検査の結果をもとに口頭で原因や症状について5分~10分程度,東京都は東京都保健医療局が作成したCOPDパンフレットを全員に配布,活用して10分~15分で実施した.

3. 統計学的解析

対象者の結果は平均値±標準偏差ならびに件数および割合として表記した.また長崎市と東京都の地域間の比較については,Mann-Whitney U検定ならびχ2検定を用いて検討した.解析は統計解析ソフトウエアIBM SPSS Statistics® ver. 25.0を使用し,有意水準5%をもって統計学的有意とした.

結果

解析対象者は,長崎市445名,東京都2,681名であった.対象者の基本属性を表2に示す.長崎市と東京都を比較すると,長崎市が平均年齢,肺年齢は有意に高値であり,呼吸器症状を訴える対象者の割合は有意に高く(p<0.01),呼吸機能は有意に低値で(p<0.01),閉塞性障害の割合も高かった(p<0.01).また,肺年齢測定の経験がある人の割合も有意に高かった(それぞれp<0.01).性別や喫煙歴に相違は認められなかった.

表2 対象者の基本属性

全体長崎市東京都p
n=3,126n=445n=2,681
性別(名)男性1,251(40)163(37)1,088(41)0.293
女性1,873(60)280(63)1,593(59)
年齢(歳)66[42-74]69[64-75]57[42-72]0.01
肺年齢(歳)69[45-83]75[55-86]61[44-77]0.01
実年齢との差4[-7-14]6[-9-16]3[-7-13]0.01
身長(cm)158[152-166]157[152-164]160[154-168]0.409
体重(kg)55[46-64]54[48-62]57[50-65]0.386
BMI(kg/m222.0[20.2-23.1]22.2[20.8-22.9]21.9[20.1-24.1]0.501
呼吸器症状有訴者
 息切れ(名)441(14.1)73(16.4)368(13.7)0.05
 咳(名)413(13.2)97(21.8)316(11.8)0.01
 たん(名)475(15.2)102(22.9)373(13.9)0.01
FVC(L)2.8[2.1-3.8]2.6[2.2-3.1]3.0[2.4-3.9]0.05
FEV1(L)2.3[1.7-3.1]2.1[1.7-2.5]2.4[1.9-3.2]0.05
FEV1/FVC(%)97[86-107]98[86-108]97[87-107]0.01
閉塞性障害(名)188(6.0)47(10.6)141(5.3)0.01
喫煙歴(名)現喫煙130(4)62(14)68(3)0.416
過去喫煙880(28)101(23)779(29)
非喫煙2,116(68)282(63)1,834(68)
肺年齢測定の経験(名)あり448(14)185(41)263(10)0.01
なし2,666(85)258(58)2,408(90)
未記入1(1)1(1)0(0)
中央値[四分位範囲],件数(%)

COPD認知度を地域間で比較したところ,「知っている」と「聞いたことがある」を合わせた割合は,長崎市の方が有意に高かった(表3,p<0.05).COPDに関連する意識についてのアンケート結果を図1に示す.「Q2」については,「予想通り」と回答した者の割合は,東京都43%に対し長崎市25%であり,「思ったより悪い」と回答した者が長崎市35%と東京都16%より多く,地域間で相違を認めた(p<0.05).「Q3」については,両地域ともに「出来た」と回答した者が多かったものの,長崎市の方がわからないと回答した者の割合が多かった(p<0.05).「Q4」については,両地域共に「思う」と回答した者の割合が多かった.「Q5」については,「知っている」または「聞いたことある」と回答した者の合計は,両地域とも約20%であった.

表3 COPD認知度

全体2018年2019年
長崎市
n=445
東京都
n=2,681
p長崎市
n=135
東京都
n=1,949
長崎市
n=310
東京都
n=732
知っている113(25%)486(18%)0.0538(28%)354(18%)75(24%)132(18%)
聞いたことがある140(32%)729(27%)35(26%)487(25%)105(34%)242(33%)
知らない192(43%)1,466(55%)62(46%)1,108(57%)130(42%)358(49%)
件数(%)

図1 呼吸機能検査測定後のアンケート結果

考察

本研究は,長崎市と東京都の肺年齢測定に参加した一般市民のCOPD認知度ならびに関連する意識について,地域間で比較検討した.

その結果,COPD認知度は2018年度と2019年度の2年間全体で長崎市57%,東京都45%と両者ともにGOLD日本委員会による認知度調査4の27.8%と比べ高かった.この結果は,呼吸機能検査の実施はCOPD認知度向上に寄与すること5,6,7,健康に対する意識が高い集団のCOPD認知度は高いこと10,肺年齢測定会の際の広報活動2などが関与していると推察する.さらに,長崎市のCOPD認知度は各年度で東京都より高く,その理由として長崎市が肺年齢測定の経験ある対象者の割合が高いことに加え,肺年齢測定の実施年数が長いことが影響していると考える.先行研究6で特定健診に呼吸機能検査によるCOPD検診を実施し,COPD認知度の推移を検討した結果,初年度23.5%が3年後は53.7%と年数を重ねることで上昇している.実際に,東京都においても2018年から2019年で上昇している.長崎市では2015年よりCOPD検診を行っており,長崎市役所が独自で行った市民健康意識調査11では,2015年度27.8%,2016年度27.3%,2017年度52.8%,2018年度52.8%,2019年度55%と上昇していた.これらより,肺年齢測定は地域に関係なくCOPD認知度に寄与していると考えられ,実施年数が長いほどCOPD認知度は向上する可能性が示唆された.しかし,COPD認知度の割合と肺年齢測定の経験者の割合に乖離がある.これは,長崎の方が高齢であることに加え,測定後の疾患についての説明が不足していることが影響しているのではないかと推察する.GOLD日本委員会は認知度向上の取り組みとして世界COPDデーに全国の建造物をライトアップする取り組みを行い,その結果,2022年の認知度は34.6%に留まっている4.このことから,ライトアップのような取り組みのみだけでなく,肺年齢測定会を実施することはCOPD認知度向上に有用であると推察する.

COPDに関連する意識については,Q2で「測定結果が思ったより悪い」と回答した割合は長崎市が高く,実際に呼吸機能検査の結果は低値であった.福田12は,肺は生理学的な加齢変化と恒常的に喫煙や大気汚染などの環境汚染物質からの暴露の累積効果で変化すると述べていることから,年齢が有意に高かったことが関与していると考える.次に,Q3. COPDという疾患について知ることができたかの問いに,「わからない」と回答した割合は長崎市の方が高かった.疾患の理解度について,森ら7は60代以上に「理解なし」が多く,杉山ら13も70歳以上で低かったと報告していることから,これにおいても年齢の影響が考えられた.また,長崎市と東京都のCOPDについて説明内容の相違も考えられる.今後は年齢も考慮した理解しやすい説明を心掛ける必要性が示唆された.さらに,東京都のようにパンフレットなどを用いることも重要であると考えた.Q4. COPDについて,「知人に伝えようと思う」の割合は両地域で高かった.これはCOPDの疾患について説明したことが関係していること推察する.また,長崎市においては肺年齢測定会に参加した知人の薦めで参加といった受診契機の方も一定数存在する.このように「知人に伝える」という行為がCOPD認知度向上にも寄与しているのではないかと推察する.Q5. COPDに治療に有効である呼吸リハビリテーションの認知度は,両地区共に約20%に留まった.サウジアラビアにおける18歳以上の成人を対象に実施された疫学研究で,COPD認知度とCOPDの予防や治療の知識の有無との関連が報告されている14.加えて,肺年齢測定は禁煙の動機づけとなると報告されている7,15ことからも,肺年齢測定はCOPDに対する意識を向ける重要な機会であり,今後は,COPD認知度向上のために,COPD疾患のみならず,禁煙という予防手段と薬物療法や呼吸リハビリテーションという有効な治療があることを含めて積極的に提唱していくことも必要であると考える.

本研究の限界として,2つの地域に限定した,自ら肺年齢測定に参加された方を対象とした偏りが生じている.さらに,両地区で広報手段が異なり,参加者の年齢差がある.そのため,今後は全国の40歳以上の方を対象とした特定健診や職場検診での喫煙経験者を含めた多くの市民を対象とした調査が必要である.このことによって,更なるCOPD認知度や関連する意識向上に繋がることが期待できると考える.

今回,肺年齢測定は地域に関係なく,COPD認知度向上ならびに関連する意識に寄与していることが示唆された.先行研究でGoogleを経由してCOPDに対する国民の関心を検討した報告では,糖尿病が最も高く,COPDは8位であったことを明らかにしており,世界のCOPD有病率は依然として高いことからもCOPDに対する意識を緊急に高める必要性があると述べている16.健康日本21(第三次)では,引き続きCOPD認知度向上に加え,COPD発症予防,早期発見・治療介入,重症化予防など総合的対策を講じる必要性を示している17.以上のことから,今後はCOPD認知度やその意識を高めるためには,全国の多くの地域で肺年齢測定の機会を設けることが重要であると考える.

謝辞

本研究にご協力いただきました長崎市市民健康部健康づくり課,東京都福祉保健局保健政策部健康推進課,東久留米市医師会,そしてアンケートに回答くださりました長崎市民,東京都民の皆様に深謝致します.

備考

本論文の要旨は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年11月,香川)で発表し,優秀演題として表彰された.

著者の COI(conflicts of interest)開示

神津 玲;奨学(奨励)寄付(フィリップス・ジャパン株式会社)

文献
 
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