2025 Volume 34 Issue 1 Pages 57-63
目的:特発性肺線維症(IPF)患者における呼吸筋力指標の有用性を調査する.
対象:2014年7月から2019年3月に当院リハ科を受診したIPF患者90名(年齢:74.5±8.2歳,性別(男/女):74/16)とした.
調査方法:初診評価の基本情報,重症度(GAP Index),修正MRC息切れスケール,肺機能検査,膝関節伸展筋力(QF),握力,6分間歩行距離(6MWD),SGRQを診療録より後方視的に調査した.呼吸筋力(PImax,PEmax)は,重症度別に比較し,各指標との関連性を検討した.統計解析は,重症度別の比較に一元配置の分散分析および多重比較検定,呼吸筋力と各指標との関連にPearson の相関係数を用い,有意水準を5%とした.
結果:PImaxは,重症度での有意差を認めず,PEmaxは,GAP Index Stage IIIでStage I・IIと比べ有意に低値を示した.また,呼吸筋力は,修正MRC息切れスケール,QF,握力,6MWD,SGRQと有意な相関を認めた.
結論:IPF患者において呼吸筋力は各指標と関連しており,身体機能を表す有用な評価指標であることが示唆された.
間質性肺疾患(interstitial lung disease: ILD)の中の一つである特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis: IPF)は,高分解能CT(high-resolution computed tomography: HRCT)で蜂巣肺の形成を特徴とし,平均生存期間が3-5年と予後不良な疾患である1).線維化の進行とともに肺容量が減少し,肺活量の低下,肺拡散能の障害をきたし,運動耐容能や生活の質(quality of life: QOL)の低下を引き起こす2).
呼吸筋には,横隔膜や外肋間筋,傍胸骨肋間筋などの吸気筋と,腹壁筋群や内肋間筋などの呼気筋が存在し,胸郭を拡張・縮小させ,肺の換気を行わせる役割を担う筋肉である3).呼吸筋力の指標には,呼吸運動により胸腔や口腔で発生する陽圧および陰圧の最大値が用いられる.口腔における吸気時の最大発生陰圧は,最大吸気圧(maximum inspiratory pressure: PImax),呼気時の最大発生陽圧は最大呼気圧(maximum expiratory pressure: PEmax)と定義される.呼吸筋力の指標は,呼吸筋の機能障害や呼吸筋疲労の評価に用いられる4).呼吸筋力は加齢に伴い低下し,高齢者における呼吸筋力の低下は,日常生活活動(activities of daily living: ADL)障害の増加や施設入所率の増加,QOLの低下と関連している5,6).慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者において,呼吸筋力は,重症例ほど吸気筋力は低下する傾向がある.また,COPD患者の呼吸筋力は運動耐容能や四肢筋力との相関が報告されている7,8).
ILD患者の呼吸筋力に関する先行研究で,Goriniら9)は,ILD患者の呼吸筋力が健常者に比べ有意に低下していると報告している.一方でMendozaら10)は,ILD患者と健常者の呼吸筋力を比較し,有意な差を認めなかったと報告している.このようにILD患者の呼吸筋力では,統一した見解が得られていない11).また,ILD患者では,呼吸筋力と運動耐容能や肺機能との関連性についても見解に差がある11,12,13).その要因として,ILDは多様な病型が存在し,それぞれの病型で経過や特性が異なるためと考えられる.また,先行研究の対象患者の重症度も様々であったことが影響していると思われる.
さらに,呼吸筋機能障害は,単に換気機能障害と関連するだけではなく重要な身体機能規定因子であり,別個に評価検討することが望ましい14)とされており,IPFにおいても身体機能との関連性を明確にしておくことは臨床上意義があると考えられる.
このため本研究の目的は,ILDの中でも半数以上を占める頻度の高い疾患であるIPFに限定し,IPF患者の呼吸筋力指標の有用性を調査するため,IPFの重症度別の呼吸筋力を調査すること,および呼吸筋力と身体機能,健康関連QOLとの関連性を明らかにすることとした.
2014年7月から2019年3月までの期間に当院リハビリテーション(リハ)科を受診したIPF患者90例を対象に調査した.歩行困難や肺機能検査・呼吸筋力の測定が困難な症例,認知症患者は除外した.
【調査項目および測定方法】リハ科初診時の基本情報および以下の項目について,後方視的に診療録より収集した.
1) 基本情報診療記録より年齢,性別,body mass index(BMI),服薬,在宅酸素導入の有無,喫煙歴,併存症,重症度,呼吸困難,肺機能検査,安静時の動脈血ガス分析より動脈血酸素分圧(arterial oxygen partial pressure: PaO2)を調査した.
重症度は,GAP Index15)(Stage I・II・III)を使用した.GAP Indexは,性別,年齢,肺機能(対標準努力性肺活量(forced vital capacity: %FVC),および対標準一酸化炭素肺拡散能(diffusing capacity of the lung carbon monoxide: %DLco))の各項目をスコアリングし,総得点によってStage I~IIIの3段階で分類する指標である.GAP Indexは,有用な予後予測モデルとして海外のレジストリーなどにも使用され,国際的な基準となりつつある重症度分類である.
呼吸困難は,自覚的な息切れの指標であるmodified Medical Research Council dyspnea scale(修正MRC息切れスケール)16)を用い0-4のグレードに分けた.
肺機能検査として,%FVC,%DLcoを測定した17,18).
2) 呼吸筋力口腔内圧計を用いて,米国胸部学会/欧州呼吸器学会(American Thoracic Society: ATS/European Respiratory Society: ERS)Statement19)に準拠し,PImaxは残気量位レベル,PEmaxは全肺気量位レベルで,1秒間持続した平均圧力をそれぞれPImax,PEmaxとした(電子スパイロメータHI-801(CHEST社製)).また,鈴木ら5)の予測式から予測値を算出し,予測値で除した値を%PImax,%PEmaxとした.なお,鈴木らの予測式は有用性が報告されている20).
3) 身体機能(握力,下肢筋力,運動耐容能)握力は,デジタル式握力計(酒井医療製)を使用し,立位で測定した.左右2回ずつ測定し,左右それぞれの最大値を平均化した値を測定値とした.
下肢筋力測定は,Hand-held dynamometer(モービィMT-150,酒井医療製)を用いて,Dowmanら21)の方法に準じて端坐位で等尺性膝関節伸展筋力(Quadriceps force: QF)を測定した.左右2回ずつ測定し,左右それぞれの最大値を平均化した値をQFとし,体重で補正した値を採用した.
運動耐容能として,6分間歩行試験(six-minute walk test: 6MWT)で歩行距離(six-minute walk distance: 6MWD)を測定した.6MWTの測定方法は,米国胸部学会のガイドライン22)に準じて実施した.ただし,施設の都合上,1周 60 mのコースを使用した.
4) 健康関連QOL(health related quality of life: HRQOL)HRQOLは,St. George’s respiratory questionnaire(SGRQ)23)を用いて自己記入式で調査した.SGRQは72問の質問から構成され,Symptoms,Activity,Impacts,Totalの4つの領域で各得点が算出される.最高点は100で得点が高いほどQOLが低下しており,得点が低いほどQOLが高いとされている.COPD 患者に対し開発されたが,IPF患者にも有効性が示されている24).
【統計解析】対象者は,GAP Indexを用いて,Stage I・II・IIIの3群に分類し,3群間の比較には,一元配置分散分析ならびに多重比較検定(Tukey検定)および名義変数の検定についてはχ二乗検定を用いた.また,呼吸筋力(PImax,PEmax)と各パラメーターの関連には,Pearsonの相関係数を用い,有意水準は,5%とした(SPSS statistics 24 for Windows OS,Chicago Inc. USA).
【倫理的配慮】本研究は,東邦大学医療センター大森病院倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号 M23110)
全対象者の基本情報およびGAP Indexによる重症度別の結果を表1に示す.全対象者の平均年齢は74.5±8.2歳,性別は男性が81.3%であった.PImax,PEmaxの平均値はそれぞれ 78.3±27.7 cmH2O,86.6±27.9 cmH2Oで,%PImax,%PEmaxは,117.7±38.9%,89.7±26.2%であった(表2).
Overall (n=90) | GAP Index | ||||
---|---|---|---|---|---|
Stage I (n=34) | Stage II (n=42) | Stage III (n=14) | P値 | ||
年齢 | 74.5±8.2 | 73.1±9.2 | 75.0±8.5 | 76.6±3.5 | n.s. |
性別(M/F) | 75/15 | 27/7 | 37/5 | 11/3 | n.s. |
BMI(kg/m2) | 23.7±3.4 | 24.1±3.2 | 24.0±3.2 | 22.0±4.3 | n.s. |
在宅酸素の導入,n | 25 | 2 | 14 | 9 | P<0.01 |
喫煙歴,n | 74 | 30 | 35 | 9 | n.s. |
服薬,n | |||||
ピルフェニドン | 22 | 2 | 14 | 6 | P<0.05 |
ニンテタニブ | 15 | 4 | 10 | 1 | P<0.01 |
ステロイド | 19 | 4 | 8 | 7 | P<0.01 |
併存症,n | |||||
IP急性増悪歴 | 2 | 0 | 0 | 2 | P<0.01 |
高血圧症 | 38 | 15 | 19 | 4 | n.s. |
糖尿病 | 16 | 4 | 10 | 2 | n.s. |
慢性腎臓病 | 7 | 1 | 6 | 0 | n.s. |
修正MRC息切れスケール (0/1/2/3/4) | 1.5±1.1 15/35/21/12/6 | 1.1±1.0 9/18/5/2/1 | 1.5±1.0 6/15/12/8/1 | 2.6±1.2*# 0/3/4/2/5 | P<0.05 |
肺機能検査 | |||||
%FVC(%) | 75.9±19.7 | 90.5±15.1 | 72.1±15.6* | 52.5±10.9*# | P<0.01 |
%DLco(%) | 57.8±19.5 | 70.9±16.2 | 51.5±13.8* | 26.1±9.9*# | P<0.01 |
安静時動脈血液ガス | |||||
PaO2(Torr) | 82.2±14.6 | 87.9±11.9 | 81.3±14.4 | 70.5±14.2* | P<0.01 |
身体機能 | |||||
膝関節伸展筋力(Nm/kg) | 1.3±0.4 | 1.4±0.5 | 1.3±0.4 | 0.9±0.3* | P<0.01 |
握力(kg) | 27.0±7.2 | 27.9±6.3 | 27.5±7.6 | 22.0±8.0* | P<0.01 |
6MWD(m) | 368.1±116.8 | 423.0±104.2 | 360.2±103.1* | 245.0±91.8*# | P<0.01 |
HRQOL | |||||
SGRQ(Total) | 39.0±21.3 | 30.3±17.8 | 41.3±21.0 | 64.4±13.8 *# | P<0.01 |
平均±標準偏差,*:vs. Stage I,#: vs. Stage II
GAP Index: Gender-Age-Physiology Index Stage, BMI: body mass index,修正MRC息切れスケール:modified Medical Research Council dyspnea scale, FVC: forced vital capacity, DLco: diffusing capacity of the lung carbon monoxide, PaO2: arterial oxygen partial pressure, 6MWD: six-minute walk distance, HRQOL: health related quality of life, SGRQ: St. George’s respiratory questionnaire
Overall(n=90) | |
---|---|
PImax(cmH2O) | 78.3±27.7 |
PEmax(cmH2O) | 86.5±27.9 |
%PImax(%) | 117.6±38.8 |
%PEmax(%) | 89.7±26.2 |
平均±標準偏差,PImax: maximum inspiratory pressure, PEmax: maximum expiratory pressure
次に,重症度別の呼吸筋力の結果を図1に示す.PImax,%PImaxは,各重症度で有意な差を認めなかった.PEmaxでは,Stage IIIでStage I・IIと比べ有意に低値を示した.%PEmaxでは各重症度において有意な差を認めなかった.
A:重症度別の吸気筋力(PImax: maximum inspiratory pressure),B:重症度別の呼気筋力(PEmax: maximum expiratory pressure),C:重症度別の予測値に対する吸気筋力(%PImax),D:重症度別の予測値に対する呼気筋力(%PEmax),*:p<0.05,n.s.: not significant
呼吸筋力と各パラメーターとの相関については表3に示す.PImax,PEmaxともに,修正MRC息切れスケール,QF,握力,6MWD,SGRQと有意な相関を認めた.
PImax | PEmax | ||||
---|---|---|---|---|---|
相関係数 | P値 | 相関係数 | P値 | ||
呼吸困難 | 修正MRC息切れスケール | -0.347 | 0.001 | -0.275 | 0.009 |
身体機能 | QF | 0.405 | <0.001 | 0.328 | 0.002 |
握力 | 0.555 | <0.001 | 0.582 | <0.001 | |
6MWD | 0.267 | 0.012 | 0.373 | <0.001 | |
QOL | SGRQ(Total) | -0.318 | 0.005 | -0.237 | 0.041 |
PImax: maximum inspiratory pressure, PEmax: maximum expiratory pressure,修正MRC息切れスケール: modified Medical Research Council dyspnea scale, QF: Quadriceps force, 6MWD: six-minute walk distance, SGRQ: St. George’s respiratory questionnaire
本研究は,IPF患者における呼吸筋力を調査し,身体機能やQOLとの関連性を検討した.
本研究の全症例の平均値はPImaxが 78.3±27.7 cmH2O,PEmaxが 86.5±27.9 cmH2Oであった.ILD患者の呼吸筋力に関する先行研究で,PImaxは 72.6~101.6 cmH2O,PEmaxは 75.3~161.8 cmH2Oと報告されており,本研究の結果は,先行研究と同程度の値であった.全症例の平均%PImaxは,117.6±38.8%,%PEmaxは89.7±26.2%であり,%PImaxは高値を示し,%PEmaxは100%を下回ったが,明らかな低下を認めなかった.
1) 吸気筋力について本研究でPImaxは,重症例ほど低下する傾向を示したが統計学的な有意な差を認めなかった.また,%PImaxでは重症度に関わらず低下がみられず,各群間に有意な差を認めなかった.
IPF患者を対象にした先行研究においても,軽度から中等度(%VC: 76.6±16.8%)でPImax: 101.7±33.9 cmH2O(99.9±24.2%)12),中等度から重度(%VC: 69.8±17.9%)でPImax: 96±26 cmH2O(94±24%)13)と低下を認めておらず,本研究と同様の結果であった.Nishimuraらは13)IPF患者15名を対象に,肺機能およびPImaxを調査し,%VCは%PImaxと有意な逆相関を示したと報告している.また,IPFは肺底部が線維化を来たし,肺実質が縮小する.そのため横隔膜の曲率半径(r)が低下し,理論上,ラプラスの法則(transdiaphragmatic pressure: Pdi=2T/r)により経横隔膜圧(Pdi)が向上し,PImaxが低下しない可能性があると述べている.Walterspacherら25)は,ILD患者25名と健常者24名のPImaxを比較し,同等であるだけでなく,亢進している可能性を示唆している.これは,横隔膜の機械的拘束(すなわち肺の弾性低下)による呼吸仕事量の増加が,呼吸筋を鍛えるか,慢性的な過負荷を引き起こしている可能性があると述べている.したがって,IPFは疾患特性のためPImaxおよび%PImaxは重症度によらず保たれると考えられる.本研究においても全症例の平均%PImaxは予測値に比べ高値を示したが,重症例ほどPImaxは低下する傾向が認められたため,今後は肺機能の低下が,吸気筋力に及ぼす潜在的な影響を調査する必要がある.
2) 呼気筋力について本研究では,PEmaxは,Stage I・IIと比べStage IIIで有意な低下を認めた.また,%PEmaxは重症例で低下を示す傾向にあったが,各群間で有意な差を認めず,これらに加え,各重症度で100%を下回る結果であった.
先行研究でも,軽度から中等度IPF患者(%VC: 76.6±16.8%)のPEmaxは 131±37 cmH2O(68±17%)12),中等度から重症IPF患者(%VC: 69.8±17.9%)のPEmaxは 107.5±39.2 cmH2O(57.1±11.2%)13)と,本研究結果と同様に,PEmaxは低値を示すと報告されている.
今回使用した重症度のGAP Indexは,性別,年齢,肺機能でスコアリングされ,男性,高齢,低肺機能でそれぞれスコアが高値(重度)となる.一般に呼吸筋力は男性で高値,加齢とともに低値を示すため5),GAP Indexによる分類では,性別や年齢の影響を受けた可能性があるが,本研究の性別,年齢は重症度別で有意差を認めなかった.加えて,本研究の%FVC,%DLcoは重症度別で有意な差を認めたため,本研究のGAP Indexの重症度分類は,肺機能の影響を強く受けたと考えられる.また,本研究では,PEmaxは重症群で有意な低下を認めた.肺活量の減少により呼気筋長の短縮を来し,張力が減少することから,呼気筋により生成される圧であるPEmaxが,重症例でより低値を示した理由として肺機能の低下が考えられる11,13,19).
また,呼気負荷は,腹横筋,腹斜筋群,腹直筋などの体幹筋を活動させるため,本研究におけるGAP Index Stage IIIでのPEmaxの有意な低下は,体幹筋が関与していると考えられる.体幹筋は姿勢制御筋として重要であり,歩行能力や四肢の筋力との関連性が報告されている26).同様に本研究のStage IIIでは握力やQF,6MWDで有意に低下しており,呼気筋力の低下と関係していると考えられる.
3) 呼吸筋力と身体機能,QOLとの関連性呼吸筋力(PImaxおよびPEmax)は,ともに修正MRC息切れスケール,QF,握力,6MWD,SGRQと有意な相関を認めた.
Roら27)は,健常者を対象とした調査で呼吸筋力が握力,四肢骨格筋量と関連があると報告している.Intensive Care Unitにおける重症患者やCOPD患者においても呼吸筋力と四肢筋力との関連が報告されている8,28).本研究におけるIPF患者でも,呼吸筋力は握力およびQFといった四肢筋力との関連性を認め,先行研究同様の結果であった.
今回の調査では,呼吸筋力は6MWDとも有意な相関関係を認めた.Mendozaら10)は,ILD患者において,PImaxと6MWDの相関を報告している.IPF患者においても呼吸筋力は6MWDと関連することが示された.今回,呼吸困難の程度を修正MRC息切れスケールで評価し,呼吸筋力との関連を認めた.呼吸困難は6MWDの規定因子とされている29).また,山口ら26は,地域高齢者を対象にした呼吸筋力の調査で,呼気筋力と歩行能力の関連性を体幹機能の観点から述べている.これらの点から呼吸筋力と6MWD,修正MRC息切れスケールの関連を支持する結果が得られたと考えられる.
以上より,IPF患者における呼吸筋力の評価の有用性が示唆された.また,IPF患者は,呼吸筋力の有意な低下を認めないものの,息切れや運動耐容能との関連を認めたため,IPFに対する呼吸リハとして,呼吸筋トレーニングを加えることにより,息切れの軽減,運動耐容能,QOLの改善効果が期待できる可能性がある.
本研究には,いくつかの研究限界がある.本研究は後方視であり,単一施設での検討であるため,様々なバイアスが除外しきれていない.また,重症度ごとの症例数に偏りがみられるため各重症度の特性を反映しきれているかは明らかではない.さらに,今回使用した重症度であるGAP Indexは,性別や年齢といった筋力に影響を大きく与える因子が含まれているため,今回の結果に影響を与えた可能性も否定しきれない.
呼吸筋力の低下はADL障害との関連が報告されているが,今回検討項目へ含めなかった.対象患者が,外来通院患者であり,ADLは自立レベルであるため検討項目から除外した.今後はADL動作時の息切れや動作速度,ADL動作の困難感などとの関連を検討する必要がある.
また,ステロイド使用者が各群に一定数含まれており,重症な程割合の増加傾向であった.ILDにおけるステロイドと身体機能の関連性に関して先行研究30)で報告されているが,今回,ステロイドの使用との関連は検討していないため,今後ステロイドの使用期間や用量も考慮し検討する必要がある.
IPF患者における呼吸筋力は重症例でも有意な低下を認めない症例もある.また,各種臨床指標と有意な相関関係を示し,呼吸筋力は重要な評価指標であることが示唆された.今後の研究では,肺機能の低下が,呼吸筋力に及ぼす潜在的な影響を調査する必要がある.
本論文の要旨は,第30回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2020年3月,京都)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.