The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Dysphagia rehabilitation for pneumonia in older people
Yuichi TawaraSatoshi Hanai
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 36-40

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要旨

摂食嚥下障害は,食物や飲み物を口から胃に運ぶ運動が妨げられる状態を指し,誤嚥性肺炎のリスクを高めることが知られている.特に高齢者は誤嚥性肺炎の発症率が高く,予防とリハビリテーションが重要となる.摂食嚥下リハビリテーションには,呼吸理学療法や嚥下の基礎訓練,運動療法が含まれ,嚥下筋のサルコペニアやオーラルフレイルといった加齢による機能低下への対応も求められる.近年,呼気筋トレーニングは嚥下機能改善に有効と報告されており,さらには咽頭機能の向上も期待されている.また,摂食嚥下リハビリテーションは多職種の連携が重要であるが,その一例として,浜松市リハビリテーション病院ではえんげサポーター養成講座を通じて多職種が統一した知識と技術を習得し,患者ケアに貢献している.今後,呼気筋トレーニングなど新しい治療法の発展により,高齢者肺炎や摂食嚥下障害に対する多角的なアプローチが期待される.

緒言

摂食嚥下とは,外部から水分や食物を口に送り込み,咽頭と食道を経て胃へ送り込む運動を指す.そのため,摂食嚥下障害とはこの摂食嚥下の一連の運動のいずれかに異常が生じた状態のことをいう.摂食嚥下障害患者は,障害が発生すると今まで何の問題も無く行えていた「食べる・飲む」という行為が阻害され,誤嚥のリスクが高まるため場合によっては飲食を止められ,治療を受ける必要がある.患者は「食べる」楽しみを奪われるため,生活の質(quality of life: QOL)が著しく低下することも少なくない.

摂食嚥下障害を発症すると,前述したように誤嚥のリスクが高くなるため,誤嚥性肺炎を発症する可能性がある.特に高齢者の肺炎は誤嚥性肺炎の割合が高いと報告されているため1,高齢者肺炎においては摂食嚥下障害を念頭に置いたリハビリテーションが重要となる.そのため本稿では,高齢者肺炎に対する摂食嚥下リハビリテーションについて,理学療法士の立場から解説する.

高齢者肺炎の摂食嚥下上の問題点

摂食嚥下には一連の流れがあり(表12,それぞれの時期の問題で生じる症状も特徴を認める(表23.この中で最も重大なのは誤嚥であり,誤嚥により窒息や肺炎などの呼吸器合併症を発症し,重症化する可能性がある.その他には,嚥下の問題により水分も含めた摂取量が減るため,栄養不良や脱水のリスクが高くなることや,食べる楽しみの喪失も問題となる.経口摂取が行えないことで生じる弊害としては,唾液分泌量の減少,口腔内の乾燥,口腔内のバイオフィルムの付着,口腔内知覚刺激入力の減少,嚥下筋および口腔周囲筋の機能低下,消化管機能の低下などが挙げられる.

表1 摂食嚥下の5期モデル(臨床モデル)2

ステージ内容
先行期食物を目でみて,鼻でにおいをかぎ,食具で口へと運び捕食するまで
準備期捕食した食物を咀嚼し食塊形成して嚥下しやすい状態にするまで
口腔期嚥下が開始されて食塊を咽頭へと送り込むまで
咽頭期咽頭へと到達した食塊を食道へと送り込むまで
食道期食塊が食道蠕動によって胃へと運ばれるまで

摂食嚥下の動態や障害の病態を説明するために,摂食嚥下モデルが概念として提唱されている.その中でも,臨床的に「飲む」,「食べる」を含めた病態を説明しやすい5期モデルが一般的に用いられている.

表2 摂食嚥下の各期と障害

ステージ代表的な障害・病的状態
先行期意識障害,認知症,拒食など
準備期口からぼろぼろと食物や唾液がこぼれる,偽性球麻痺,顔面神経麻痺(口唇閉鎖不全),三叉神経麻痺(前歯で咬みきれない),舌がん術後など
口腔期口腔内に食物をため込む,嚥下後の口腔内残留,だらだらと食塊が咽頭に流れ込む,舌の運動障害など
咽頭期誤嚥と咽頭残留,通過障害,食塊の鼻腔・口腔への逆流,偽性球麻痺(筋力低下,嚥下反射の遅延,喉頭閉鎖のタイミングのずれ),球麻痺(嚥下反射が誘発されない,輪状咽頭筋が開かない)など
食道期胃・食道逆流,食道内逆流,食道残留,食道の蠕動障害(脳血管障害,神経筋疾患,食道疾患,加齢など)

各ステージにおいて生じる問題や症状には特徴がある.

その他の問題点として,加齢の影響が報告されている.近年,嚥下筋のサルコペニアが注目され,サルコペニアによる摂食嚥下障害という概念が提唱された4.他にもオーラルフレイルという概念も提唱されている5.これらは,身体的フレイル・精神心理的フレイル・社会的フレイルから低栄養や食欲低下を来たし,口腔機能が衰え嚥下筋のサルコペニアにつながり,さらに悪化するとサルコペニアの摂食嚥下障害を発症し,口腔衛生不良状態も重なり誤嚥性肺炎のリスクが高まると言われており4,超高齢社会の本邦において患者数のかなりの増加が懸念される.他にも,加齢が影響する因子として,歯(義歯)の問題による咀嚼力の低下や,喉頭の解剖学的位置の低下,無症候性脳血管障害の存在,注意力や集中力の低下,体力や免疫力の低下,呼吸機能の低下,基礎疾患および内服薬剤の影響などが挙げられる3.ちなみに,喉頭の解剖学的位置の低下について,嚥下の際の喉頭挙上の最高到達点は若年者と比べて有意な差はないと報告されているが,喉頭を挙上させる距離が長くなることでの嚥下のタイミングのズレが問題となる6

高齢者肺炎に対する摂食嚥下リハビリテーション

高齢者肺炎の摂食嚥下リハビリテーションを進めるうえで,まず重要となるのが評価である.評価にはカルテ情報や画像所見などの間接的評価や,セラピストが摂食嚥下機能を含めた心身機能を直接確認する直接的評価がある.摂食嚥下リハビリテーションにおける重要な直接的評価には身体所見,嚥下スクリーニング評価,舌骨上筋群の筋力評価などがある.

身体所見では,バイタルサインやフィジカルアセスメントが主に挙げられる.フィジカルアセスメントでは,呼吸状態を表情や頸部の評価にて確認し,胸鎖乳突筋などの呼吸補助筋の緊張等による努力性呼吸の有無や,咳嗽・喀痰の有無および程度などを視診・触診・聴診等で評価する.さらには,口腔・咽頭粘膜の状態なども観察し,食物残差だけでなく義歯の有無や適合具合,齲歯や歯肉の腫脹,出血なども確認する.嚥下スクリーニング評価には,反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test: RSST)や改訂水飲みテスト(modified water swallowing test: MWST)7,舌骨上筋群の評価などが挙げられる.RSSTは,30秒間で何回唾液を嚥下できるかを,甲状軟骨が十分挙上されるか触診で確認しながら測定する評価法で,2回以下で異常と判断する.MWSTは 3 mlの水分を嚥下した時の反応により5段階で評価する方法で,表3のような内容で判断する7.舌骨上筋群の評価としては,GSグレードが提唱されている8.GSグレードは仰臥位にて頚部最大屈曲位まで頭部を挙上させ,挙上状態をどの程度保持できるかを4段階で評価する方法である(図1表4).

表3 改定水飲みテストの判断基準7

判定
1a:嚥下なし,むせなし,湿性嗄声or呼吸変化あり
b:嚥下なし,むせあり
2嚥下あり,むせなし,呼吸変化あり
3a:嚥下あり,むせなし,湿性嗄声あり
b:嚥下あり,むせあり
4嚥下あり,むせなし,呼吸変化・湿性嗄声なし
54に加えて追加嚥下運動が30秒以内に2回可能

冷水 3 mlを嚥下させたときの反応を観察する.冷水を口から出したり,無反応の場合は判定不能と判断する.

図1 GSグレード(舌骨上筋群の評価)8

背臥位で頸部を他動的に最大前方屈曲位にし,下顎を引いて保持するよう指示してから手を離し,自力で静止保持するまで頭部が落下する程度を評価する.

表4 GSグレードの判定基準8

判定
1:完全落下途中で保持できず床上まで落下するもの
2:重度落下頸部屈曲可動域の2分の1以上落下するが止まるもの
3:軽度落下可動域の2分の1以内で落下が止まるもの
4:静止保持最大屈曲位で落下せずに止まるもの

最大前方屈曲位からの頭部の落下の程度によって4段階で判定する.

摂食嚥下リハビリテーションの実際としては,呼吸理学療法や嚥下の基礎訓練,運動療法を行う9.呼吸理学療法で行うものとしては排痰法,頸部の可動性維持・改善のためのストレッチやマッサージ,誤嚥予防のためのポジショニング,呼吸練習,呼吸筋トレーニングなどがある.嚥下の基礎訓練では,アイスマッサージ,頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ),メンデルソン手技,プッシング・プリング訓練,嚥下おでこ体操,嚥下体操などがある.頭部挙上訓練は原法では負荷が強すぎるため10,国内では負荷を修正した方法で行わることが多い11.メンデルソン手技は,喉頭と舌骨を挙上位に数秒間保つことで,舌骨上筋群や咽頭の収縮を強化し,食道入口部(上部食道括約筋)を開かせる方法で12,慣れるまでは術者が手を添えて喉頭挙上を介助する.運動療法については急性期では離床を進めていき,全身状態が安定してきた筋力強化練習や歩行などの運動を積極的に行う.誤嚥性肺炎患者における早期リハビリテーションの検証では,早期介入群で有意に日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)の改善を認めたという報告や13,誤嚥性肺炎患者の30日以内の死亡率を軽減させると報告されている14.その他には,高齢者肺炎特に寝たきりやADLレベルが低い患者では頸部や体幹の可動性が低下していることが多いため,頸部の可動性を維持・改善する目的でマッサージやストレッチ,関節モビライゼーションなどを行う.

また,近年摂食嚥下障害患者に対し,呼気を強化するアプローチすなわち呼気筋トレーニング(expiratory muscle strength training: EMT)が注目されている15,16,17.負荷をかけるためにバネが内蔵された器具を用いて(図2),最大呼気圧の75%の高負荷で4週間トレーニングを行った結果,最大呼気圧の向上だけでなく摂食嚥下機能の改善を認めたとする報告が散見されている.筆者らも,摂食嚥下障害を認める脳血管障害患者に対し,最大呼気圧の75%の高負荷で4週間トレーニングを行ったところ,呼吸筋力,肺機能,咳嗽時最大呼気流量,RSST,自覚症を評価する摂食嚥下障害の質問紙において,それぞれ改善を認めた17.さらには,EMTが嚥下内視鏡での咽頭部の変化に与える影響を検証したところ,EMTにより咽頭壁の変化が向上し,EMTは舌骨上筋群だけでなく咽頭筋にも何らかの影響を与えることが示唆された18.このことから,EMTは摂食嚥下リハビリテーションの効果的な手段として有用であることが考えられる.なお,EMTは専用の器具を用いる必要があり,費用がかかることと呼吸筋力の評価が必須となるため,条件が揃わないと実施できないというデメリットがある.その代用としては吹き戻しやブローイングが挙げられるが,EMTに比べて負荷がかなり低くなるため,強度を上げる工夫が必要となる.

図2 EMTデバイス

EMTデバイスは複数のメーカーから販売されている.図はGaleMed社製ブレスホームTMで,タイプにより約 60~150 cmH2Oまで負荷をかけることが可能である.

高齢者肺炎へのチームアプローチ

高齢者肺炎に対して,多職種連携によるチームアプローチが有効である.一般的に,チームアプローチとして医師や看護師,言語聴覚士だけでなく,理学療法士,作業療法士,栄養士,歯科医師や歯科衛生士などがチームの一員として専門性を発揮する必要がある.各職種が担う役割については成書に委ねることとして,ここでは浜松市リハビリテーション病院で取り組まれている内容を紹介する.

浜松市リハビリテーション病院では,医療従事者を対象に「えんげサポーター養成講座」を2012年より開催し,院内のみならず院外の医療従事者も対象として,多職種で統一した知識・技術の習得を図っている.講座は摂食嚥下障害に関わる基礎知識,摂食嚥下障害患者の看護,摂食嚥下リハビリの外科的治療,摂食嚥下障害患者の口腔ケア,間接訓練・直接訓練の原理と方法,摂食嚥下障害患者の呼吸訓練,嚥下食と栄養管理・薬剤管理の7つで構成され,講義および演習を織り交ぜながら展開されている(表5図3).全講座を受講したスタッフは,最後に技術確認演習および筆記テストに合格すると,院内認定えんげサポーターと認定され,病棟での口腔ケアや摂食訓練などに関われるようになる.令和5年度末までに261名の方が認定を受け,現在も各職場でその知識や技術を駆使して業務のサポートを行っている.

表5 えんげサポーター養成講座内容

講座名講師
1嚥下障害に関わる基礎知識(講義)リハ医師
2摂食嚥下障害患者の看護(講義・演習)摂食嚥下障害看護認定看護師
3嚥下リハビリの外科的治療(講義)リハ医師
4摂食嚥下患者の口腔ケア(講義・演習)歯科医,歯科衛生士
5間接訓練・直接訓練の原理と方法(講義・演習)言語聴覚士
6摂食嚥下患者の呼吸訓練(講義・演習)理学療法士
7嚥下食と栄養管理・薬剤管理(講義・試食)管理栄養士,薬剤師

受講者は全ての講座を受講し,技術確認演習および筆記テストに合格すると,院内認定えんげサポーターとして活動が可能となる.

図3 えんげサポーター養成講座

リハ医師による嚥下障害に関わる基礎知識の講座および言語聴覚士による間接訓練の演習場面.

まとめ

高齢者の肺炎は誤嚥性肺炎が大部分を占めるが,症状が乏しいことが多く発見が遅れやすい特徴がある.治療としては全身状態の改善が重要なため,口腔ケアなどを日頃から心がける必要がある.また,肺炎が改善しても発症前のADLまで回復しないことが多く,そのため可及的早期より離床を進めていく必要がある.今後,EMTなどの新しい治療戦略の発展が注目され,摂食嚥下障害に対する多角的なアプローチの構築が期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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