The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Fundamentals and clinical practice of high flow nasal canula
Takuya Ishitaka
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 41-45

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要旨

High flow nasal canula(高流量酸素カニュラ,以下:HFNC)は酸素療法の一つとして位置づけられているが,鼻腔からの高流量供給により様々な生理学的効果を得る事ができ,多くの症例に使用されています.その効果はダイナミック気道陽圧や死腔量の洗出しによって,一般的な酸素療法に比べて呼吸仕事量を軽減につながります.また高流量供給によって安定した酸素吸入が可能でありHFNC使用におけるメリットは多いと感じます.HFNCを有効に使用するためにはHFNC装置のメカニズムや生理学的効果の機序など,幅広く理解しておく必要があります.また,HFNC装着時の管理プロトコールを準備しておくことで患者病態に応じたアセスメントを的確に行うことができるため,より質の高い医療の提供のためにも各施設における呼吸管理体制の構築が重要となります.

緒言

HFNCとは

high flow nasal canula(HFNC)は酸素療法の一つであり,加温加湿された高流量のガスを専用カニュラより患者の鼻腔に供給する方法です.病態に応じて吸入酸素濃度や供給流量を細かく調整でき,導入や管理が容易に行えるなど,使用におけるメリットも多く,その汎用性の高さから様々な症例に使用されています.

HFNCの基本構成は専用カニュラ,高流量ガス供給源,加温加湿器システムであり,これらが一つでも欠けてしまうとHFNCを施行できません.正しく安全に使用するためにはそれぞれの重要性を認識し,理解しておくことが重要です.

専用カニュラ

HFNCの専用カニュラは低流量酸素療法のカニュラと異なり高流量ガスを供給できるようにプロング孔や回路径が大きく設計されています.また,患者の快適性向上のために患者との接触部において皮膚へのストレスが軽減されるよう固定バンドや蛇腹の材質,プロング形状などメーカ毎に工夫が施されています.

専用カニュラを装着している患者は会話や飲食が容易であり,睡眠時も快適に過ごすことができます.また,柔らかい素材によって装着による皮膚へのストレスが抑えられ,日常的な動作や睡眠に影響が少なく,患者快適性やQOLの向上が期待できます.また,カニュラ形状は口腔ケアを行いやすく,non invasive positive pressure ventilation(NPPV)と比較してマスクによる圧迫感や閉塞感がなく1,リハビリテーションを行う際にも視認性がよく動作を行いやすいなどの多くのメリットを有します.

酸素供給源

HFNCを施行するには吸入酸素濃度や供給流量調整が可能な装置が必須です.HFNCが使用され始めた当初はブレンダー装置のように吸入酸素濃度と供給流量をそれぞれのダイアルで調整するだけの簡易的な装置が使用されていました.

現在では汎用人工呼吸器やNPPV装置の機能の一つとしてHFNCが施行でき,また専用機も多く販売されており様々な方法でHFNCを使用することができるため,対応できる症例の幅も広がっています.しかし,各装置によって設定可能な吸入酸素濃度や供給流量は異なるため,使用する際は装置の性能を十分理解しておく必要があります.

加温加湿システム

院内のアウトレットや高圧ボンベより供給される医療ガスは水分が含まれない乾燥したガスであり,加温加湿せずに吸入すると鼻腔や口腔内の乾燥が助長されます.さらに使用し続けると患者不快感や痛みの増加,治療に対する忍容性の低下,鼻出血,鼻粘膜の炎症による鼻閉,結膜充血などの原因となり,HFNCの継続が困難となるため,酸素療法に応じた適切な加温加湿管理が必要となります2

HFNCでの適切な加温加湿管理とは供給されるガスの温度37°C,相対湿度100%となるように水蒸気を含んだ状態を指します.その温湿度ガスによって末梢気道の乾燥を防ぎ,粘膜絨毛運動によるクリアランス効果を維持でき3,さらには鼻腔や口腔内の潤いを保つことで自浄作用や創傷治癒を促すことも可能です.

使用症例について

HFNCは酸素療法の一つであるが,様々な生理学的効果(図1)により急性期から慢性期までの様々な症例や生理検査中の呼吸管理,NPPVの忍容性が低下している症例など幅広く使用されています.近年ではCOPDが在宅HFNCの保険適応となり,在宅で使用されるケースも増えています.しかし,現時点ではHFNCの明確な適応基準は設けられていないため,HFNCの性能を十分理解しつつ呼吸管理を行っていく必要があります.

図1 HFNCによる生理学的特徴

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会酸素療法マニュアル作成委員会,酸素療法マニュアル(酸素療法ガイドライン改訂版),第IV章高流量鼻カニュラ,58-62より一部改変

HFNCの効果と特徴

HFNCの特徴である「高流量」,「死腔量軽減」,「ダイナミック気道陽圧」について説明していきます.

高流量

酸素療法

酸素療法には鼻カニュラや酸素マスクが含まれる低流量酸素療法とベンチュリマスクやネブライザ式酸素マスクを含む高流量酸素療法に分けることができ,HFNCは後者の高流量酸素療法に分類されます.高流量とは患者へ供給される酸素と空気の混合ガスを 30 L/min以上の流量で供給可能なものを指します.高流量酸素療法は高濃度酸素投与であるといったイメージを持たれることが多いですが,実際の使用では低濃度から高濃度まで幅広く吸入酸素濃度の設定が可能です.

低流量酸素療法

低流量酸素療法では患者の吸気に取り込まれた酸素と室内気の比率によって吸入酸素濃度が決まります.低流量酸素療法での酸素供給量は患者の吸気流量よりも少ないため,患者の呼吸パターンによって酸素と室内空気の混合比率が変化しやすく,それに伴い吸入酸素濃度も大きく変動します.

特に呼吸補助筋を使用した努力呼吸の場合,患者の吸気流速が増しているため,室内気が多く取り込まれやすく吸入酸素濃度が低下する要因になります.また,患者の呼吸が浅く,一回換気量が減少している場合では,想定している吸入酸素濃度よりも高濃度となっている可能性もあるため,CO2ナルコーシスのリスクのある症例には注意が必要です.

低流量酸素療法では使用デバイス毎の吸入酸素濃度目安表がありますが,提示されている目安値は患者の呼吸状態が一定の条件であることを前提で提示されています.そのため患者の状態がその条件を満たしていない場合には,再度呼吸状態を評価し,適した酸素療法への切り替えがとても重要となります.

高流量酸素療法

高流量酸素療法はあらかじめ調整された酸素と空気の混合ガスを患者の一回換気量以上に供給することで,患者の呼吸状態に左右されずに安定した酸素濃度で吸入できる特徴を有しています.患者の吸気流量以上に高流量酸素デバイスから流量が供給されていれば,呼吸パターンに変動が生じたとしても基本的には外気は取り込まれずに調整されたガスを吸入することが可能です.このように吸入酸素濃度の安定化を図れるため高濃度酸素投与によるCO2ナルコーシスのリスクを低減できます.

ベンチュリマスクの欠点

これまで使用されてきた高流量酸素療法はベンチュリマスクが代表的です.このデバイスはベンチュリ効果を利用して高流量の供給ガスを生み出していますが,使用上の様々な制限があり,使用するうえでは理解を深める必要がありました.例えば,構造上の問題で上限の吸入酸素濃度は50%程度であり,それ以上に吸入酸素濃度を上げようとすると供給流量が低下してしまい高流量酸素療法として施行することが困難となります.

また,ダイリュータを装着し正しく使用することで目的とする酸素濃度の混合ガスを高流量で供給可能ですが,供給流量や吸入酸素濃度の微調整はできないため,症例に応じたフレキシブルな使用は行えませんでした.

しかし,高流量ガスの供給可能なHFNC専用機を使用する事で低流量酸素療法やベンチュリ効果を利用したデバイスのデメリットを払拭し,患者の病態に応じた細かな設定が可能となりました.そのため,酸素療法の一種ではあるがより幅広い症例に対応できる汎用性の高さがHFNCの特徴の一つとなっています.

ダイナミック気道陽圧

高流量供給による陽圧効果の発生

供給される高流量ガスと患者の呼気がぶつかることで,鼻咽頭内では陽圧が発生します.この陽圧は人工呼吸器のPEEPの様な一定の圧力が持続するということではなく,呼気時の一時的な圧力上昇として発生します(図2).

図2 呼吸による陽圧の変動

文献4)より引用.

圧力の程度は口の開閉具合や性別によっても異なることが報告されています.さらにはカニュラサイズ,使用時の流量などによっても鼻咽頭内に発生する圧力は異なります.

気道陽圧の利点・注意点

気道陽圧は酸素化の改善や換気血流比均等,さらには呼吸仕事量軽減を含む複数の臨床的利点を有しています4

しかし,intermittent positive pressure ventilation(IPPV)やNPPVの様に一定の圧力を任意でコントロールできません.そのためII型呼吸不全患者の急性増悪時の様な場合にはNPPVのような換気補助が可能な方法を優先し,HFNCの適応としては比較的軽症例で安定した酸素投与を目的に使用する場合やNIV拒否時など,病態に適したデバイスの選択を行いましょう.

解剖学的死腔量の洗い出し(ウォッシュアウト効果)

死腔量軽減

呼気終末において解剖学的に上気道の呼気は排出されず,次の吸気時に再び肺に取り込まれます.この部分を解剖学的死腔といい,成人でおよそ 150 mlあります(図3).

図3 解剖学的死腔

https://ikiiki.genkipolitan.com/cell/を元に作成.

HFNCによる高流量のガス供給によって主に鼻腔,口腔内の呼気を体外に洗い出し,解剖学的死腔の約1/3を新鮮なガスに置き換えることができます(図4).

図4 ウォッシュアウト効果

高流量によって鼻咽頭腔内のCO2を洗い出し,新鮮ガスに置換される.

資料提供:Fisher & Paykel

新鮮なガスに置き換えることで患者の換気効率が上昇し,呼吸ドライブの抑制により患者の呼吸仕事量が軽減されます5

HFNC導入の流れ

HFNCの基本構成は専用カニュラ,酸素供給源,加温加湿システムであり,組み立てる前に使用物品や機材が揃っていることを確認してください.各装置によって操作性や使用する回路,電源や配管等の接続が異なるため,事前に電源や医療ガス配管等の周辺環境を確認しておく必要があります.また,システムの組み立て後は開始前点検が済んでいるか確認を行いましょう.

導入前の流れとして装置側の準備と患者側の準備の一例を記載します.

【装置側の準備】

①回路等のセッティングが終了し,開始前点検が済である

②AC電源,医療ガス配管を接続する

③滅菌蒸留水へ接続され,チャンバー内に水が貯留している

④装置の電源を入れ,30 L/min以上でウォームアップさせる

⑤加温加湿器の温度が設定温度付近になったことを確認

【患者側の準備】

①担当医よりインフォームドコンセントを行う

②改善しない場合の対応等の説明を行う

③HFNCの具体的方法や効果,カニュラ装着等について説明する

④可能であれば供給流量について説明,体験してもらう

⑤専用カニュラ装着し,HFNC使用開始

装置のウォームアップについて

HFNCを導入する際には加温加湿器の温度が設定温度まで十分に温まっているかを確認してから導入してください.加温加湿器の温度が低い状態で患者へ装着してしまうと,乾燥した空気が患者に供給され,患者の不快感が増加します.病態によって時間的猶予がある場合には,しっかりウォームアップさせることがHFNC導入を成功させるためにも必要となってきます.

また,供給されるガスがどの程度の温度と風量であるかを患者の頬等にあてて実感してもらうことで,よりスムーズな導入が可能です.

専用カニュラの装着

専用カニュラのサイズは患者の鼻腔に応じて選択してください.サイズ選択の目安としてはカニュラ装着時に鼻腔に対してカニュラのプロング径が1/2程度になるものを選択します.サイズが大きすぎると鼻腔の閉塞率が高くなり陽圧がかかりやすくはなるが,鼻腔から呼気がしづらくなってしまい患者不快感や呼吸困難感が増強するため,適切なサイズを選択してください.

専用カニュラと患者の接触部において,摩擦や圧迫によって皮膚障害が起きることがあります.皮膚障害を防止するためにもトラブルが起きやすいポイントを押さえ,装着時のみだけではなく呼吸管理中にも継続的に皮膚の観察を行い,トラブル防止に努めていく必要があります(図5).

図5 皮膚トラブルの起きやすい箇所(赤エリア)

圧迫の強さ,患者の皮膚状態によって短時間の装着でもトラブルが発生する場合もあるため,HFNC装着開始時より皮膚保護材やドレッシング材の使用も効果的です.

HFNC導入時の設定

供給流量の増加は酸素化改善や呼吸仕事量の軽減につながるが,時には供給ガスの勢いが不快感や呼吸困難感を増強させてしまう場合もあるため,設定が高いほど患者への効果が得られるものではありません.また患者の負担を軽減する目的で供給流量を少なくしてしまうと,患者の呼吸変動に対応できなくなってしまいます.病態に応じた設定だけではなく患者の訴えも取り入れ,装着している患者本人が許容できる最大限の供給流量を維持しつつ,酸素化が改善できる十分な吸入酸素濃度から開始することが重要です6

HFNC導入後の呼吸管理は各医療機関での管理体制に基づいたプロトコールの作成や管理における目標値などをあらかじめ確認しておくことで,病態改善または悪化した際に円滑な対応が可能です.

供給流量の評価

HFNCの供給流量を設定する際には患者の不快感を考慮しつつ,供給流量が患者の吸気流量に対して不足していないかアセスメントが必要です.

供給流量は吸気時にも鼻孔脇や口元から供給ガスが漏れるように設定しておきます.供給流量が不足しているようであれば,吸気時のガスの流れが止まり,室内気を多く吸入している可能性が高く,設定した吸入酸素濃度よりも低濃度になっていることが考えられます.実際に呼吸促拍時では安静時に比べて FIO2 よりも20%低下するとされているため,高く設定していたとしても安心はできません7

高流量供給でも呼吸状態によってはHFNCでは対応できないケースもあるため,適切な供給流量であるかを適宜アセスメントし,呼吸状態の変化に応じた呼吸管理デバイスへの切り替えが必要となります.

HFNC使用中のアセスメント

導入後は呼吸数,呼吸困難感,呼吸補助筋の使用,呼吸様式,酸素化能などの評価を行い,その他のバイタルサインを含めた総合的な評価が必要です.

HFNCは人工呼吸器のように機械的に呼吸補助は行えないため,HFNCで対応できる範囲にも限界があります.悪化時の対応の遅れが患者予後に影響するため,導入後もHFNCで対応できる病態であるかをアセスメントしていく必要があります.

暑い場合の対処

HFNC使用時に加温加湿管理のための温湿度設定では患者が暑く感じ,不快感の増加につながることがあります.患者の快適性を優先した場合,設定温度37°Cよりも低い31°C設定の条件が患者の快適性は高いとの報告があります8

しかし,供給ガスの温度を下げてしまうと含まれる水蒸気量が減少してしまうため,なるべく温度を下げない対策が必要となります.対策の一つとしては鼻中隔と専用カニュラの接触部を少し離す事で暑さを和らげることができます.また,また顔周りのクーリングを行うことでも患者快適性を維持しつつ,温湿度レベルを維持することが可能です.それでも暑く感じてしまう場合は設定温度を変更する場合もありますが,その際は加湿不足によって起こるリスクに注意しながら呼吸管理を行いましょう.

さいごに

HFNCは様々な生理学的効果を有しているため使用するメリットは多く,急性期から慢性期,さらには在宅など,これからも様々な場面で使用が期待される酸素療法の一種です.

呼吸管理の質を高め,患者に有益な医療を提供するためにもHFNCについてのメカニズムや正しい知識と技術を習得し,臨床で活かしてください.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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