The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Educational Lecture
Skeletal muscle dysfunction in chronic respiratory disease
Tomoko Kutsuzawa
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2025 Volume 34 Issue 1 Pages 46-51

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要旨

COPD患者には,全身併存症の1つとして,筋萎縮や筋力・持久力低下といった骨格筋機能障害が認められる.肺線維症患者でも,筋量減少,大腿四頭筋の筋力低下を認めるが,COPD患者より罹患期間が短く,骨格筋の変化は時間とともに進行するため,対照群との間に差を認めないことがある.この骨格筋機能障害は,運動耐容能の低下,身体活動性の低下をもたらし,サルコペニアやフレイルの有病率を高め,生命予後に関係する.このような骨格筋の萎縮・質的変化をもたらす因子として,慢性低酸素血症,炎症性ストレス,酸化ストレス,コルチコステロイドの使用,運動不足,栄養不良など,いくつかの確立された筋機能障害の促進因子が報告されている.この中から,炎症性ストレスをもたらすタバコ煙暴露と腸内細菌叢の乱れの筋肉への影響を検討した研究を紹介する.

慢性閉塞性肺疾患(COPD),特発性肺線維症(IPF)および他の間質性肺疾患などの安定した慢性呼吸器疾患では,骨格筋機能障害を認めることが知られており,患者の生活の質の低下や予後の悪化をもたらす.American Thoracic Society(ATS)とEuropean Respiratory Society(ERS)は,この骨格筋機能障害の重要性に注目し,1999年にCOPD患者の骨格筋障害に関するステートメントを共同で発表した1.さらに2014年にCOPD患者の骨格筋障害に関するステートメント2を更新し,COPD患者の四肢筋の評価を奨励している.なお,骨格筋機能障害は呼吸器疾患だけではなく,心不全3や腎不全患者4でも認められている.本稿では,COPDやIPFといった慢性呼吸器疾患における骨格筋機能障害につき概説し,筋萎縮をもたらす原因のなかで,喫煙と腸内細菌について最近の知見を紹介する.

骨格筋機能障害の概要とその評価

最も研究されているCOPDでは,筋萎縮がおこり,それが筋力低下や運動耐容能の低下と関係することから,本稿では,骨格筋機能障害の中に,筋肉の構造・代謝の変化を含めることとする.

骨格筋機能障害の概要とその評価を,表1に示した.筋肉には,筋萎縮・筋線維の変化・代謝の変化といった構造・代謝の変化がおこってくる.筋萎縮については,COPDでは,局所の筋肉としては,大腿四頭筋がもっとも研究されている.全身の筋量の評価には,四肢筋量(ASM)や除脂肪量(FFMI)が用いられている.また,間質性肺疾患(ILD)では,CTを用いて脊柱起立筋や大胸筋の筋断面積が筋量の評価として用いられている.筋線維に関しては,I型筋線維とII型筋線維の構成比の変化が指摘されているが,筋生検が必要である.代謝に関しては,筋生検による好気的代謝や嫌気的代謝にかかわる酵素活性の測定や31P核磁気共鳴スペクトロスコピーを用いた高エネルギー燐酸化合物の変化などが報告されている.筋力に関しては,握力や大腿四頭筋力で,運動耐容能は多段階運動負荷試験や6分間歩行試験で評価されている.身体活動は,歩数計を用いた1日の歩数で評価されることが多い.

表1 骨格筋機能障害

・骨格筋機能障害
 ・筋:構造・代謝の変化
  ・筋萎縮 ………大腿四頭筋,四肢筋量
          脊柱起立筋・大胸筋
  ・筋線維の変化 …I型筋線維・II型筋線維の構成比
  ・代謝の変化 ……oxidative capacity,エネルギー代謝
 ・筋力低下 …………握力・大腿四頭筋力
 ・運動耐容能低下 …6分間歩行テスト
           多段階運動負荷試験
・身体活動低下 ……歩数

COPD患者の骨格筋機能障害

COPD患者には,筋萎縮が認められることは,良く知られている.Bernardらは,大腿の筋断面積をCT画像から測定し,COPD患者が健常人に比べ,有意に筋断面積が小さいことを報告した5.COPDの筋萎縮は,下肢筋,特に大腿四頭筋,で認められることが多く,上肢筋では,比較的保たれているとされている.

COPD患者では,I型筋線維の減少とII型筋線維の増加が起こっていることが,報告されている.Goskerらは,COPD患者の大腿四頭筋の筋線維に関する系統レビューを行い,22件の研究から,重症COPD患者では,年齢を一致させた健常人に比べ,I型筋線維の減少とIIx型筋線維の増加が認められると述べいる6.またI型筋線維筋線維の比率は,FEV1/FEV1predと正の相関を認め,気流閉塞が強い患者ではI型筋線維が減少していることが示された6

筋線維のタイプの変化は,代謝の変化と関係する.I型筋線維は,好気性代謝に関する酵素が多く,ミトコンドリアの容量も多い.大腿四頭筋の筋生検から,COPD患者において,ミトコンドリアに含まれている好気性代謝に関係するクエン酸シンターゼ(CS),3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(HADH),チトクロームオキシダーゼの酵素活性の低下が報告されている7.この結果は,ATP産生が,酸素を用いる好気性代謝から用いない解糖系へシフトしている可能性を示唆している.

筋肉内の高エネルギー燐酸化合物については,筋生検を用いた研究では,ATPやクレアチンリン酸(PCr)が患者群で低値であった8.非侵襲的な31P核磁気共鳴スペクトロスコピーを用いた運動中の筋肉pHと高エネルギー代謝産物の測定では,運動筋の筋肉pHの低下と運動中のPCrの低下が患者群で認められ,嫌気的解糖の関与が推測された9.これらの変化も,筋線維がI型からIIx型へシフトしていることを示唆している.

筋力は,下肢筋,特に大腿四頭筋力で多く検討されている.イギリスおよびオランダのCOPD患者の大腿四頭筋の筋力を調べた報告10では,GOLD 1+2期の軽症から中等症の患者の26%に,GOLD 4 期の最重症患者の38%に筋力低下を認めている.これは,GOLD 4 期でも,半分以上の患者には筋力低下が認められず,COPD患者には,筋力低下が発症しやすいタイプの人がいる,筋力低下からみたpheotypeの違いがあると推測されている.この大腿四頭筋の筋力低下は,筋量の低下を反映しているとの報告がいくつかある5,10

このような筋萎縮,筋代謝の変化は,COPD患者に運動耐容能の低下をもたらす.Pepinらは,COPD患者において,自転車エルゴメータの運動中止理由が,呼吸困難41%,下肢筋の疲労35%,呼吸困難と下肢筋の疲労24%であったと報告している11.6分間歩行試験では,歩行距離の低下が報告され,歩行距離の低下は,生存率の低下と関係することが示されている12

以上から,COPD患者が歩行で下肢がだるくなると訴えると,骨格筋機能障害を疑うが,心血管系の併存症が原因のことがある.中でも閉塞性動脈硬化症は,間欠性跛行を特徴とし,COPD患者の8.5~81.4%に合併するとの報告13もあり,注意が必要である.

特発性肺線維症(IPF)および他の間質性肺疾患における骨格筋機能障害

間質性肺疾患はCOPDより進行が速い場合が多く,罹病期間も短い.骨格筋の変化は時間とともに進行するため,対照群との間に差を認めないことがある.筋萎縮については,大腿四頭筋のほかに脊柱起立筋,胸筋で研究されているが,筋線維の変化や代謝についての研究は少ない.

IPFをはじめとした間質性肺疾患(ILD)患者で,大腿四頭筋の筋断面積を検討した研究のいくつかを紹介する.Mendesらは,肺移植の候補者となっているILD群と対照群の大腿直筋をエコーで測定し,ILD群の大腿直筋の断面積低下を報告している14.Labrecqueらは,ILDでフレイルと診断される患者群ではCTで計測された大腿中央部の筋断面積が有意に小さく,筋のHounsfield unit(HU)が小さかったことを報告している15.HUの低下は,筋の脂肪が多いことを示し,筋の質的変化が生じていることを示唆している.

CTやMRI,エコーを用いた下肢筋の評価は,実臨床では症状等がないと施行しないことが多い.それに対して,胸部CTは間質性肺疾患では必須の検査であるので,CT画像から,脊柱起立筋や胸筋の断面積を計測して,筋量の指標としている16,17.これらの筋断面積の減少がIPFやILDで認められ16,17,生存率の低下に関係していると報告されている17

筋力・運動耐容能に関しても,COPD患者同様に大腿四頭筋力の低下,最大酸素摂取量の低下,6分間歩行距離の低下が報告されている.Nishiyamaらは,IPFでは,最大酸素摂取量が予測の46%,大腿四頭筋力が予測の65%に低下しており,最大酸素摂取量の低下には,大腿四頭筋力低下と肺活量低下が独立した因子として関係していたと報告している18.6分間歩行試験では,歩行距離の低下が認められ,歩行距離が 250 m以下では死亡のリスクが2倍になると報告されている19

間質性肺疾患の場合,ステロイド剤を長期に服用することが多い.ステロイドは,ミオパチーを生ずることが知られており,II型筋線維の萎縮が生ずる.Hanadaらは,ステロイドを長期服用している間質性肺疾患患者では,非使用の患者に対し,筋力の低下(大腿四頭筋力,握力)を認めたが,歩行距離には差がなかったと報告している20.この大腿四頭筋力・握力とステロイドの総投与量,投与期間との関係は,両者ともに総投与量と負の相関を認めたが,投与期間は,大腿四頭筋力と負の相関を認め,握力とは関連を認めていない19

呼吸器疾患とサルコペニア

サルコペニアは,sarco(筋肉)とpenia(減少)を組み合わせた造語で,筋量の低下を意味するが,筋量が減少すると,筋力,パフォーマンスの低下をもたらすことから,筋量の低下に筋力の低下および/または身体機能の低下がみられる状態と定義されている21.加齢による1次性サルコペニアは,日本の疫学的調査では,60歳以上の8.2%に認められ,年齢とともに高くなり,75歳以上で男女とも10%を超え,80歳以上で25%前後であったことが報告されている22.1次性サルコペニアの骨格筋は,筋断面積の低下,II型筋線維の萎縮が優勢で,COPD患者群にみられるII型筋線維の優勢とは異なる21

COPD患者や間質性肺疾患患者では,骨格筋機能障害を認めることから,サルコペニアの頻度が高くなることが予測される.COPD患者のサルコペニア合併率を調査したmeta-analysisでは,27%のCOPD患者にサルコペニアを認めている23.IPFでは,診断時のサルコペニアの合併率は22.9%で,IPFが重症で座位の生活を送っている人に多かったとの報告がある24.日本からの報告ではIPF患者の39%にサルコペニアを認めている25

筋萎縮をもたらす因子

筋量低下は,筋タンパク質合成より分解が進むことによる.筋タンパク質合成には運動,IGF-1,インスリン,栄養特にアミノ酸などが,筋タンパク質の分解は,不活動,炎症,酸化ストレス,低酸素血症,高二酸化炭素血症,ステロイドホルモン,飢餓・低栄養などが関係する.様々な因子の中で,全身の炎症をもたらす2つの因子,喫煙と腸内細菌叢の筋肉への影響について紹介する.

1. 喫煙

タバコの煙に含まれる多くの有害物質(特にアルデヒド類)およびインターロイキン(IL)-6や腫瘍壊死因子(TNF)-αといった炎症メディエーターは,筋タンパク質の分解を促進する26.また,タバコ煙の曝露により,ミオスタチンの合成が増え,蛋白質合成の阻害も生じ,筋量が低下する.筋機能に関しては,一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)が増え,酸素運搬量が低下し,ATP産生の低下をもたらし,筋収縮能が低下する26.また,フリーラジカルや活性酸素による酸化ストレスも増加すると考えられている.

ラットやマウスを,タバコ煙に暴露させた喫煙誘発COPDモデルにおいて,骨格筋の収縮能の低下や筋萎縮が生じ,IL-6やIL-8などの炎症性因子や筋タンパク分解因子の発現が増加すること27,7日間の急性喫煙が骨格筋の解糖系筋線維へのシフトを引き起す28などの報告がある.ヒトでの喫煙の運動器系への影響を調査したシステマティクレビューでは,喫煙者でI型筋線維とIIa型筋線維の減少,大腿直筋の体積減少,握力・膝筋力の低下が示されている26,29

このような喫煙による骨格筋機能障害に対する禁煙の効果については,短期の禁煙(2週間)により,上昇していた血中のCOHbや炎症性サイトカインが低下し,疲労抵抗指数が改善した30との報告がある.長期の禁煙が四肢筋量や握力にどのような影響があるかを調査した日本の疫学的研究31では,筋量や握力は喫煙量が増えると低下し,過去喫煙者の禁煙後年数が長くなるほど,四肢筋量指数や握力が高値を示したと報告している.以上から,喫煙は骨格筋機能障害をもたらすが,長期の禁煙により骨格筋機能障害は回復する可能性がある.

2. 腸内細菌叢

ヒトの大腸内には,約1,000種類,100兆個の微生物が存在し,腸内細菌叢を構成している.近年,メガゲノム解析などによって腸内細菌叢の構成を把握することが可能になり,様々な疾患や病態と腸内細菌叢との関連が研究されてきている.腸内細菌叢は,宿主の消化酵素では分解できない食物繊維や難消化性でんぷんなどを発酵分解し,多種多様な低分子化合物,たとえば短鎖脂肪酸(酢酸,酪酸,プロピオン酸),などを産生する.腸内細菌叢は,肥満,糖尿病,大腸がん,動脈硬化症,炎症性腸疾患などの疾患と密接な関係があり,これらの患者の腸内細菌は健常者と比べて著しく変化していることが明らかになってきている.

高齢者に認められるサルコペニアやフレイルに,腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が関係しているとの報告がいくつかなされている.2022年の総説32によれば,フレイルでは,腸内細菌叢の多様性が小さく,短鎖脂肪酸(酢酸,酪酸など)を産生する菌量が低下していること,炎症性サイトカイン及び腸管透過性亢進の指標である血清ゾヌリンが増加していることが報告されている.日本有数の健康長寿地域である京丹後地方におけるコホート研究では,健康長寿者は,都市部の高齢者に比し,酪酸産生菌が多く,男性で酪酸産生菌と歩行速度や握力と関連が認められている33

腸内細菌叢と筋萎縮との関連を図1に示した.腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)がおこると,短鎖脂肪酸の産生が低下し,有害代謝産物が増加する.この有害代謝産物が,腸管粘膜の接着機構を傷害し,腸管透過性が亢進(leaky gut)した状態を惹起する.ゾヌリンは,この腸管透過性亢進のバイオマーカーである.Leaky gutが起こると腸管内の有害物質が組織内に入り炎症を惹起し,TNF-αや炎症性サイトカインが上昇する.それにより筋タンパク質合成低下がもたらされ筋萎縮がおこると考えられている.

図1 腸内細菌と筋萎縮の関連

喫煙の腸内細菌叢に及ぼす影響については,研究方法や,対象者の違いなどにより,様々な報告がなされている.Leeらの研究では,758名の男性を非喫煙・過去喫煙・現喫煙に分け,腸内細菌叢を調査した結果,現喫煙者は非喫煙・過去喫煙に比べ,Firmicutes門(短鎖脂肪酸産生菌が多い)とProteobacteria門の相対的存在量の減少,Bacteroidetes門の相対的存在量の増加を認めている34.重症COPD患者と無症状の喫煙者(軽度の閉塞性換気障害を含む)の腸内細菌叢を調査したところ,両群間に非類似性があり,無症状喫煙者は,COPD群よりも,酢酸およびプロピオン酸に関連する種の数が多く,便中の酢酸濃度は無症状喫煙者ではCOPD患者よりも有意に高かったと報告している35.Karimらは,血清ゾヌリンが,COPD群で健常人より22.8%高値であったと報告し36,leaky gutがCOPD患者の筋萎縮に関係していると推測している.

Dysbiosisは,呼吸器疾患のみならず,心不全患者37や腎不全患者38でも指摘されている.心不全3や腎不全4でも骨格筋機能障害が生じることから,様々な疾患の骨格筋機能障害に関係している可能性もある.このdysbiosisを改善する試みとして,プレバイオティクス(腸内細菌が代謝する材料を届ける)やプロバイオティクス(乳酸菌などを腸管に届ける)があり,フレイルや呼吸器疾患で報告がされ始めている.

まとめ

筋萎縮,筋力低下,運動耐容能の低下は,COPDだけではなく,間質性肺疾患においても認められ,サルコペニアの状態となる.運動機能の低下は身体活動の低下をもたらし,生命予後とも関係する.原疾患のみならず,骨格筋にも注目し,骨格筋機能障害の改善を目指していくことが,必要である.筋萎縮には,多くの因子が関係するが,喫煙,腸内細菌の乱れも筋肉に影響を及ぼす.今後研究が進み,骨格筋機能障害の予防・治療に結び付くことを期待したい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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