2025 Volume 34 Issue 2 Pages 101-106
2018年にCPAP療法の遠隔モニタリング加算が健康保険適用を受けたが,施設基準が付加され,診療の場では混乱が生じ,疑義解釈がなされ,普及は遅れていた.令和2年度改定において施設基準は大きく緩和されたが,診療報酬の問題もあり,普及は依然遅れている.新型コロナウィルス蔓延下では,「新型コロナウィルスの感染拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱い」にて電話やオンライン診療が健康保険適用下で可能になっていたが,新型コロナウィルスの5類移行後の令和6年改訂においては,電話診療は認められず,実証研究が行われていないにも拘わらず,『情報通信機器を用いて指導管理を行った場合は指導管理料2に変えて218点が算定可能となる』と改訂された.CPAPの資料はクラウド化され,各施設で閲覧可能であり,エビデンスもあり,災害時の事を考えても電話診療の拡充を行われる施策が必要である.
一定期間に,一定以上の持続陽圧(continuous positive airway pressure: CPAP)使用が行われないと,診療報酬が支払われないなどの海外事情なども影響して,CPAPのアドヒアランス資料のクラウド化は進展し,CPAP機器の諸種パラメータ:使用日数,使用時間,4時間以上の使用の割合,機器判定の使用1時間当たりの無呼吸・低呼吸数,設定圧力およびその変化,回路,マスクからのリーク量などの資料が機器からクラウド上に送られ,機器各社のソフト介して,外来のPC,患者のスマートフォンなどに表示される(図1).従って,現在,本邦の診療報酬下で行われている他の領域の遠隔医療(オンライン診療,遠隔モニタリング)に比較して,CPAPのアドヒアランスに関連する資料をほぼ全ての医療機関で把握できる環境にある.
(A)CPAP使用時間.一本一本のバーが日毎のCPAP使用時間を示している.
(B)ある1晩におけるCPAPの使用状況.
上段:CPAPの圧の推移.この患者はAuto-CPAPモードで設定されており,睡眠中の患者の呼吸イベントの発生に合わせて自動でCPAP圧が変化している(黒矢頭).
中段:CPAP装着中の睡眠呼吸障害のイベント発生の分布を表している.CPAP装着下での無呼吸低呼吸(Apnea hypopnea index: AHI)も算出されている(黒矢印).
下段:CPAP装着中のマスクからのエアリークの推移を表している(赤矢頭).
既述の海外の医療事情もあり,在宅持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure: CPAP)機器のパラメータのクラウド化は行われており,本邦での実証研究がエビデンスの一つとなり1),2018年に在宅持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure: CPAP)療法の遠隔モニタリング加算が健康保険適用を受けたが,CPAP遠隔モニタリング加算には,施設基準が付加され,実際の診療の場では混乱が生じ,様々な疑義解釈がなされ,その普及は遅れていた.令和2年度診療報酬改定において施設基準は大きく緩和されたが2),診療報酬費を含めた種々要因のためか,その普及は依然遅れている.
平成28,29年度に厚生労働科学研究補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)にて,「有効性と安全性を維持した在宅呼吸管理の対面診療間隔決定と機器使用のアドヒランスの向上を目指した遠隔モニタリングモデル構築を目指す検討」が行われた3).実証研究では毎月受診,3カ月間隔遠隔なし,3カ月間隔遠隔モニタリングあり,3群のランダム化比較試験が行われ,アドヒアランスの変化の比較において3カ月間隔遠隔モニタリングありは毎月受診に対して非劣勢が証明され1,3)(図2),これらの資料が一部参照され,情報通信機能を備えた機器を用いて患者情報の遠隔モニタリングを行うものの診療形態として在宅患者持続陽圧呼吸療法遠隔モニタリング加算が診療報酬として認められた.なお,本実証研究では,患者満足度も調査したが,患者サイドでは3カ月間隔受診が毎月受診に比較して,圧倒的に満足度が高かった1)(図2).
(左)介入前と比較した各群でのCPAPアドヒアランスの変化.観察期間中において,4時間以上CPAP機器を使用した日数の割合が介入前と比較して5%以上上昇・低下した場合を,それぞれアドヒアランス改善・悪化と,それ以外は不変と定義した.結果として各群約160名の参加者が割付され,アドヒアランスが悪化した参加者の割合は,遠隔モニタリング群 25.5%・3カ月受診群 33.1%・毎月受診群 22.4%であり,遠隔モニタリング群の毎月受診群に対する非劣性を立証することができた.
(右)各群において,介入内容に「満足している」と回答した患者の割合.
(文献1より引用)
診療報酬がついたことによりCPAP遠隔モニタリングが健康保険上も行われるようになったが,CPAP遠隔加算導入後のある月のCPAP遠隔加算受診件数は2018年2,309件,2019年8,538件,2020年16,111件,2021年30,573件,2022年39,092件,2023年46,003件に過ぎず4),70万人以上存在すると考えられるCPAP患者数に比較して如何にも少数である.しかも,3カ月間隔受診は800名程度に過ぎない4).令和2年度の診療報酬改定により遠隔モニタリング患者数の増加はある程度は期待されたが,現状制度では遠隔モニタリング月の診療報酬は150点であり,受診時は250点+再診料となる.また,現在は3カ月限度とされており, もし,患者が3カ月目に来院せずその後の来院となれば,3カ月以降のCPAPの機器代の請求は不可能になる.CPAP使用患者の50%以上は60歳未満の方で就業者も多くおられ,本邦の実証研究からもみると,アドヒアランス的に6カ月の間に,患者指導が必要であった患者は3割程度なので1),医師の働き方改革の面からも,本医療制度が広く使用されるような診療報酬面からの後押しも必要かと考えられる.
3. 実臨床での活用法CPAP機器の諸種パラメータ:使用日数,使用時間,4時間以上の使用の割合,機器判定の使用1時間当たりの無呼吸・低呼吸数,設定圧力およびその変化,回路,マスクからのリーク量などの資料が機器からクラウド上に送られ,機器各社のソフト介して,外来のPC,患者のスマートフォンなどに表示される(図1).ガイドライン的にはクリニカルクエッション「遠隔モニタリング指導はCPAPアドヒアランスを改善しますか?」に対して,「1)遠隔モニタリング指導によりCPAPアドヒアランスの改善が期待できる」「2)遠隔モニタリング指導は医療者側の負担軽減や患者側の利便性向上も期待できる」となっているが,「エビデンスレベルはC(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」なっており5),今後の資料の蓄積も期待される.
2018年の当初のCPAP遠隔モニタリング加算では,約1カ月間のCPAPの使用日数,使用時間,4時間以上の使用率,無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index: AHI)などを確認して,オンラインまたは,電話等を利用して患者に毎月報告しなければ保険診療上の加算は認められなかった.従来,2~3カ月間隔以上の患者であっても,遠隔モニタリング加算患者には毎月の連絡になり,診療時間はかえって延長する状態になり,本来の遠隔モニタリングの目的である患者の利便性は増しているが,医師の診療時間の増加を招いており,改善が必要と考えられていた.令和2年度の改訂で先の厚労科研の実証研究も参考にされ1,6),「情報通信機器を用いて行う遠隔モニタリングについて,有効性・安全性に係るエビデンス等を踏まえ,実施方法に係る要件を見直す」という基本的な考え方をもとに,「在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料の遠隔モニタリング加算について,モニタリングを行った上で,療養上必要な指導を行った場合又は患者の状態等を踏まえた医学的判断について診療録に記載した場合に算定できるよう見直す」,すなわち,旧来の「定期的なモニタリングを行った上で適切な指導・管理を行い,状況に応じ,療養上必要な指導を行った場合に,2月を限度として来院時に算定することができる」が「定期的なモニタリングを行った上で,状況に応じ,療養上必要な指導を行った場合又は患者の状態等を踏まえた判断の内容について診療録に記載した場合に,2月限度として来院時に算定することができる」に改定された3).この改訂により,例えば表1に示されているようなパラメータが一定基準を満たしている患者には,その資料を確認後,カルテに記載すれば,当該月に関して,直接連絡する必要がなくなり,厚労科研の実証研究から推定すると,全体の約3割の患者のみに直接連絡する必要が生じると思われ8),医師の働き方改革の面からもCPAP遠隔モニタリング医療が一歩進んだと考えられた.
・1カ月の使用日数または割合(%) ・4時間以上の使用日数または割合(%) ・1カ月の平均使用時間 ・使用日の平均使用時間 ・機器が測定する使用1時間当たりの異常呼吸数 ・リーク量,ラージリークの割合(%) ・CPAP圧およびその変動 |
但し,もし,患者が3カ月目に来院せずその後の来院となれば,3カ月以降のCPAPの機器代の請求は不可能になる.CPAP使用患者の50%以上は60歳未満の方で就業者も多くおられ,本邦の実証研究からもみると,アドヒアランス的に6カ月の間に,患者指導が必要であった患者は3割程度なので1),医師の働き方改革の面からも,本医療制度が広く使用されるような診療報酬面からの後押しも必要かと考えられるが,呼吸器学会から申請され,呼吸ケア・リハビリテーション学会からも共同提案されている期間の延長,モニタリング加算点の増点は令和6年度診療報酬改訂では認められていない.
4. CPAP遠隔モニタリング医療の有効な利用法既述したようにアドヒアランスがよい患者は遠隔モニタリングを行い,指導を行わなくてもCPAP治療上重要な一定以上のアドヒアランスが維持する確率が高い.英国のNICEガイドラインでもCPAP使用患者の治療経過が安定すれば,遠隔モニタリングを行いながら,1年に1回の受診でよいとされている7).従って,遠隔モニタリングを行い,治療開始当初に丁寧な指導を行い,アドヒアランスが不良の原因をみつけ,改善できる点を改善すれば,改善できた患者の受診間隔は延長することは可能で,その後の医療機関の負担は軽減できると考えられる.
5. 新型コロナウィルス蔓延とその後の変化新型コロナウィルス蔓延下では,「新型コロナウィルスの感染拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱い」にて電話やオンライン診療が健康保険適用下で可能になっていたが,新型コロナウィルスの5類移行後の令和6年改訂においては,電話診療は認められず,実証研究が行われていないが『情報通信機器を用いて指導管理を行った場合は指導管理料2に変えて218点が算定可能となる』と改訂された.この情報通信機器はオンライン診療を指しており,CPAP遠隔モニタリングを利用しての電話指導は認められていない.CPAP遠隔モニタリングを利用しての電話指導の有効性は本邦からのrandomized control study(RCT)で示されたが1,6),オンライン診療が有効であるとの実証研究は少なくとも本邦では行われていない.日本医学連合の「オンライン診療による継続診療可能な疾患/病態」の中で,身体合併症のモニタリングに留意することの条件付きで,病状が安定している「睡眠時無呼吸症候群」が提案されている8).このオンライン診療とは遠隔医療(遠隔モニタリングとオンライン診療)を指していると筆者は考えている.また,CPAPに関してはモニタリングシステムが他の領域に比較して,圧倒的に進んでおり,最近のreviewにおいても,CPAP遠隔医療は有効と評価され,Type of Telemedicineとして,Call based, Web based,Device to CPAPが挙げられ,方法論にオーバーラップがあるにしても,Call basedの資料が最もよい評価を得ている9).医療DX(Digital Transformation)化の名のもとに様々な変化が生じつつあるが,実証研究無しでの進行は,限られた医療資源の元では慎重であるべきかと思われる.CPAPの様に遠隔モニタリングがほぼ確立した領域においては,その資料を基にした電話指導は近年,頻繁に起こっている災害時などにも情報通信機器無しでも対応出来,有効であると考えられる.本邦の最近の実証研究から,CPAP患者にCPAPと共にテレモニタリング可能な体重計,血圧計および活動計を持たせ,CPAPアドヒアランスと共に体重,血圧などを定期的に指導することによって,指導された群は指導無し(CPAPアド日アラン指導のみ)群に比して有意に体重を一定以上減量出来た人が多かった事が示された(図3)6).本論文も電話指導で行われいる.また,新型コロナウィルス蔓延下のもと,リアルワールドで行われた臨床研究でCPAP遠隔モニタリングを利用した6カ月間の電話診療は毎月受診と非劣性であったと報告された10).本報告により,前報告やNICEのガイドラインも参考にして,CPAP遠隔モニタリングを利用した電話指導は6カ月間隔でも可能と示されたと考えられる.そもそも論として,「新型コロナウィルスの感染拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱い」中に,どの程度,電話が使用されたか,あるいは他の情報通信機器が使用されたのが明らかでないにもかかわらず,実証研究がある電話指導が否定され,少なくとも本邦で実証研究がない情報通信機器を用いた診療に診療報酬がついたことには科学的根拠はないと考えられる.本邦で求められている臨床研究発展のためにも,エビデンスに基づく評価が必要であると考えられる.
A)6カ月経過した時点で,Usual CPAP群に比しMutimodal群の比較では3%の有意の体重減を認めた患者数はMutimodal群に有意に多く,B)減量した体重量も大きいが,CPAPのみを指導した群でも有意な体重減少を確認できた.
(文献6より引用)
外国で開発・発展した,企業主体のCPAP遠隔モニタリングシステムであるが,CPAP患者の頻度は極めて高く,さらに肥満が主要要因で,生活習慣病の合併も多いことから,遠隔医療(遠隔モニタリングと電話指導・オンライン診療)を利用して,日本の健康保険制度の下で,健康寿命延伸のひとつの鍵にもなれる領域と考えられる.睡眠障害は健康寿命延伸のために必須領域であるとの,認識が高まっているが,睡眠時無呼吸は不眠症と共に睡眠障害の最も頻度の高い病態であり,その管理・治療は健康寿命延伸に有効であるあることは明白である.従って,遠隔医療も含めたこの領域の科学的な根拠に基づいたマクロ的で長期的な施策が必要と考えられる.
陳 和夫;研究費・助成金(アキュリスファーマ,エーザイ),寄付講座(フィリップス,レスメド,フクダライフテック東京,フクダ電子)