The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Workshop
Activities and results by chronic respiratory certified nurses
Takeshi IshizakiMegumi Sawamura
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2025 Volume 34 Issue 2 Pages 125-128

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要旨

当学会が呼吸器疾患ケアチーム医療のコーディネーター・ファシリテーターの役割を担う呼吸ケア認定看護師制度認定を日本看護協会に強く要望した結果,2010年度に日本看護協会から「慢性呼吸器疾患看護認定看護師(CRN-CN)」が分野認定を受けた.以来,当学会でのCRN-CNの活動も活発化してきた.呼吸器疾患看護ケアの科学的レベルアップにつながり,多くの同僚者の知的探求心を刺激することになろう.

CRN-CN有資格者の増加に伴い,所属する病院内での呼吸器疾患ケア実践の主体となり,看護外来開設をし,また,地域での啓発事業を企画,在宅ケアを実銭,あるいは,教育職に従事し後進を育成するなどCRN-CNの活躍がめざましい.

課題として,CRN-CN人数の増加と地域偏在の解消,そして対応疾病(非結核性抗酸菌症など)の拡大が望まれる.もちろん,CRN-CN個々人が孤立することなく,連携し,焦らず,目的をもって邁進されることを願ってやまない.

緒言

慢性呼吸器疾患看護分野は日本看護協会の認定看護師制度の20番目として,2010年2月に認可を受け,翌年から教育が開始された.それ以前から,人口の高齢化に伴う慢性疾患の増加と医療過疎(医師不在)地区の増加や医療資源の窮乏が懸念されていた.呼吸器疾患についても同様で,さらに呼吸器専門医の都市偏在も顕著であった.これらの諸問題を解決するには最新の呼吸器ケアの知識と手技を取得した医療者によるチーム医療の実践,すなわち,均てん化された医療を提供する必要性が認識され始めた時代背景でもあった.そのためには等質化された医療者の養成が求められたという事情もある.多種の医療職が会員である当学会はその期待に添える受け皿に最適として,当時の学会理事長,木田厚瑞先生はじめ理事会メンバーがこの制度の必要性を看護協会に働きかけられたと側聞している.

そして,本学会学術集会で呼吸器疾患看護認定看護師制度が取り上げられたのは2009年の第19回学術集会であった.もっとも,2009年以前から準備・調整をして,基準カリキュラムや機関申請を日本看護協会に申請したが,看護協会との折衝,教育受け入れ機関としてのF大学内での調整意見統一など,様々な苦労を共にした長谷川智子先生始め関係者の方々の努力を忘れてはならない.当時のこの呼吸器認定看護師制度への期待は「呼吸障害を持つ人々と家族のQOLの維持・向上をめざして,専門性の高い看護実践・相談・指導のできる能力を養い,看護の質向上に寄与する能力を養う」であった.すなわち,呼吸器ケアを必要とする人々に,最新の医療情報と知識に基づいたスキルを実践して,呼吸器ケアを全国的に展開し,等質の医療を担保することに尽きる.現在でもこの期待は変わりない.

呼吸器疾患看護認定看護師の活躍

以後,この認定看護師をCRN-CN(Chronic Respiratory Nursing-Certified Nurse)とここでは略称する.CRN-CN制度がスタートすると当学会は学術集会プログラムに毎年のようにCRN-CN制度への継続的な支援プログラムをとりあげて関心を公開してきた.CRN-CN自身による演題発表も年々増えて,中には,シンポジウムやワークショップ,教育講演の演者になるCRN-CNも出現してきた.CRN-CNの所属する職域・地域での呼吸ケア活動,地域連携,呼吸ケア啓発事業,看護外来等の成果と問題点の発表はCRN-CN自身の自律性を意味している1,2,3,4.現在では,学会活動の拡大に大きく寄与しており,学会の存続には欠かせないメンバーである.F大教育コース入1期生のモチベーションの高さに驚くばかりで,2期生が卒業したころ,雑誌社の好意を得て,座談会「慢性呼吸器疾患看護認定看護師の活動と呼吸器内科医のサポート」5を開くことができた.(呼吸器疾患)認定看護師制度の目的と期待,教育コースたちあげにあたっての苦労,(呼吸器疾患)認定看護師を目指した理由,チーム医療の工夫などをテーマに1期生のCRN-CNや看護協会メンバー,看護学科教員,呼吸器専門医も加わっていただき討論した.教育コースを飛び立ったCRNは所属施設内での看護師教育はいうまでもなく,看護外来を立ち上げ,地域での呼吸療法研究会,呼吸ケアセミナー,在宅療法講習会などなどにファシリテーターとして,参加,または,立ち上げをして,啓発活動を活発に行っている.中には大学・教育機関のスタッフとなり後進の育成・指導をおこなっているものも出現している.元来,看護系教育機関の教員の中で呼吸器疾患に詳しい人は非常に少なかったので,呼吸ケアカリキュラムのup to dateにも繋がる6.石川県でもCRN-CN主体の研究会・検討会活動が活発に行われている(図1).また,2015年にはF大教育コース卒業の30数名のCRN-CNの分担執筆による「呼吸器ケアの疾患・検査・治療」7を世に問うことができた.まさに,日々呼吸器疾患看護ケアに悩む看護師へのCRNによる呼吸器疾患ケア実践の案内書であり,CRN-CNの呼吸器ケア実践施行能力に疑いはない.

図1 石川CRN-CN症例検討会のポスター

第3回まで開催されたが,新型コロナ過に遭遇して,その後中止状態.活躍中の講師を招いて特別講演も開催している.

私は大学を辞して,2015年から呼吸器医師不在の能登北部3病院で呼吸器診療を開始した.そこでの3年8か月の経験をもとに,高齢化の進む能登北部地域(65歳以上人口48.7% 全国平均28.0% 2020年国勢調査),での呼吸ケア展開を雑誌「呼吸」8に取り上げていただいた.独居老人の多い能登北部医療圏では呼吸器訪問診療・訪問看護・訪問リハビリテーションなどの在宅ケアが大きな課題であり,呼吸器科医師不在の地域医療ではCRN-CNの役割がとてつもなく大きいと痛感した.このことは全国の医療過疎地区・人口過疎地区にあてはまると思われる.

CRN-CNの偏在

2021年12月現在のCRN-CN数は,従来のA 過程修了者が312名,新しくスタートしたB過程すなわち特定行為の出きるCRN-CNが38名である(図2).この数は他の20の認定看護師分野の修了者と比較すると,少ないと言わざるを得ない.しかも,不十分な人数の分布は大都市に偏り,これは呼吸器専門医の分布とまったく同様である.石川県を例に示すと,CRN-CNは2つの大学病院と金沢市や七尾市など都市部の中核病院に偏在している(図3).全国的に俯瞰すると有資格者不在県が未だに3県存在している.偏在解消は簡単なことではなく,CRN-CNが主導する研修会・症例検討会に関心のある看護師さんを積極的に参加してもらえる工夫をこらし,呼吸器疾患看護レベルの向上と均霑化が少しでも周囲に拡大するよう期待する.未だ,呼吸器疾患看護認定看護師数が少ないことが国民や医療関係者間の認知度の低さも示唆する.CRN-CN育成の努力と啓発活動を我々はいうまでもなく,当学会やCRN-CN自身も継続しなければならない.

図2 (慢性)呼吸器疾患看護認定看護師数(2021年12月現在)

日本看護協会認定部資料

図3 石川県の(慢性)呼吸器疾患看護認定看護師数と所在分布(2021年12月31日現在)日本看護協会認定部資料を基に作図 K市とT町にそれぞれ大学病院所在.

CRN-CNの役割拡大

さて,代表的な呼吸器疾患であるCOPD/喘息/間質性肺炎/肺癌にはそれぞれ診断・診療(指針)ガイドラインがわが国でも出版され,当該疾患への標準対応が可能となっており(表1),CRN-CNの介入支援も当該患者には大きな安心を提供していると思われる.実際,能登北部地区での呼吸器疾患外来診療のうちS病院ではCOPD/喘息/間質性肺炎患者の薬物療法や生活指導などの面でCRN-CNに大いに助けられていると実感している.しかしながら,近年増加が目立つ慢性呼吸器感染症の非結核性抗酸菌症(NTM)9への対応はどうであろうか?肺NTM症の診断基準も欧米やわが国でも設定されている.が,高齢者NTM症疑い例での細菌学的証明に困難を伴う場合がしばしばである.能登北部地区の診療では,問診での呼吸器症状とその持続する長さ,そして,特徴的な胸部画像と補助診断法の抗MAC抗体陽性を総合して,臨床的に肺NTM症と診断している.結果は,能登北部地区で肺NTM症を疑った症例は68例で,これを人口10万人あたりの罹患率でみると117.1人と驚くべき数字になる.最も,過剰診断のきらいがあるかもしれない.が,なぜ,こんなに多いのか?全世界的には宿主側要因として免疫抑制剤使用,併存症,遺伝的素因,また,環境要因として土壌,高い湿度,温かい気温,などが注目10されている.例えば,金沢市と能登北部地区との年齢・産業構成などを比較すると後者には高齢者が多く,一次産業従事者が多いという違いが明らかである(図4).さらに,我が国での肺結核罹患率の減少が集団としての抗酸菌感染免疫力低下を招き,弱毒菌の抗酸菌であるNTM感染を容易にさせたのであろうか?疑問が続く.

表1 代表的な(慢性)呼吸器疾患への(慢性)呼吸器疾患看護認定看護師介入支援

疾患診断/診療ガイドライン薬物治療効果CRN-CNの介入
COPD
喘息
間質性肺炎
肺癌〇?#
肺NTM症有??##

CRN-CN=312名(2022年12月現在),#がん化学療法・癌性疼痛看護CN=2,413名(2022年12月現在)が対応,##感染管理CN2,930名(2022年12月現在)積極的な介入をしているかは不明なので?をつけた.抗酸菌症エキスパート258名(日本結核・非結核性抗酸菌症学会認定制度 2022年5月現在)が対応

図4 石川県都市部と能登北部地区の産業構成比(平成27年国勢調査資料から作成)

県庁所在のK市と能登北部地区のS市の産業構成比を示した.

肺NTM症の多くは経過が長く,長期薬物治療介入しても,再発例もしばしばで,また,併存症などで途中脱落例も多い高齢者では,ケースバイケースの治療方針となることが多い.チーム医療が求められる好個の疾病である.抗酸菌症エキスパート11の活躍にも期待が寄せられるが,未だ人数が少なく,CRN-CNの応援による肺NTM症の生活支援とADL維持改善をさらに期待したい.ちなみに当学術集会での肺NTM症関連演題は未だ少なく,ほとんどが理学療法士や薬剤師サイドからの発表である.

終わりに

さて,CRN-CN制度ができて10年を過ぎようとしている.社会構造・人口高齢化が進みCRN-CNの役割がますます拡大・変容していくことであろう.ここでは,肺NTMへの対応を取り上げたがCRN-CNが地域で取り組む課題は様々であろう.CRN-CN間での横断的な種々の研究テーマをためらうことなく推進し,その成果を国内のみならず国外でも発信し,論文・著作にまとめて継承していただきたい.豊かな研究の世界も拡がっている.いうまでもなく,施設・職域責任者や当学会などからの継続的支援が必要であるのは自明ではあるが,CRN-CN自身が切磋琢磨し,CRN-CNの地位の確立と役割拡大を行っていただきたい.また,CRN-CN数を増やし,認知度向上をはかり,より高い活動への切符となる裁量権取得を期待する.新たな疾患への対応や活動を通して,最適呼吸ケアを全国均一に提供でき,医療看護領域での評価向上と社会での認知度上昇,所属施設の信頼度向上,そして,CRN-CN自身の自己肯定感の高まりにつながるであろう.CRN-CNの数多の可能性を自ら開拓していただきたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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