The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Physical activity and the determinants in patients with COPD: from Ishinomaki COPD Network (ICON) registry
Fumi Chiba Seiichi KobayashiNatsumi KagabuMasaru Yanai
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2025 Volume 34 Issue 2 Pages 136-143

Details
要旨

身体活動性の維持・向上はCOPDの重要な管理目標であるが,どのような要因が身体活動性に影響を及ぼしているかは十分明らかにされてはいない.本研究では「石巻地域COPDネットワーク」に登録された安定期COPD患者309人(男性294人,女性15人;年齢中央値75歳)を対象に身体活動性に関連する因子を前向きに検討した.身体活動性は3軸加速度センサー式活動量計で評価した.身体活動性は病期が進行すると低下したが,軽症患者では健常人と同程度であった.身体活動性の高い患者は,若年で,病期が軽く,肺機能と運動耐容能が良好で,息切れが少なく,健康状態が良好で,ADLが高く,抑うつ傾向がなく,増悪歴が少なく,LINQスコアが低かった.COPD患者の身体活動性には,自覚症状・肺機能・運動耐容能とともに,患者の疾患理解度・生活背景・精神状態が関連していることが示唆された.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,主に喫煙によって生じた肺の炎症性疾患であり,労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰などの呼吸器症状と持続的な気流閉塞が特徴である1.COPD患者は呼吸機能低下によって労作時の息切れが生じるが,しだいに息切れを避けるために日常生活であまり体を動かさなくなり,徐々に運動耐容能や筋力が低下し,抑うつ症状や不安も出現して,ますます身体活動性が低下する,という悪循環に陥る2.実際,COPD患者は健常者に比べて身体活動性が低く,身体活動レベルは生命予後と強い関連があることが報告されている3.したがって,身体活動性の維持と向上はCOPDの重要な管理目標の一つとされている1

身体活動性は呼吸機能や息切れと関連しているが,それ以外にもさまざまな要因によって影響を受けることが知られている4.これまで,日本人COPD患者では,身体活動性は呼吸機能5,6,7,息切れ6,7,運動耐容能7,抑うつ7,就労6などと関連していることが報告されているが,データは十分ではない.また,身体活動性は患者個々人の生活習慣を反映しており,身体活動性の維持と向上のためには,患者自身が自分自身の病気を理解し,病態や病期に応じて疾患を自己管理(セルフマネジメント)して,健康を増進・維持するような生活習慣を身につけることが必要であるとされている8.しかしながら,患者の疾患理解度やライフスタイルと身体活動性の関連は十分明らかにされていない.

そこで,本研究では日本人COPD患者の身体活動性に関連する因子を明らかにすることを目的として,宮城県石巻市およびその周辺地域の80の医療機関が加盟する地域完結型・循環型COPD地域医療連携システムである「石巻地域COPDネットワーク(ICON)」9,10の登録患者データを用いて,患者の精神状態やライフスタイルなどの呼吸機能とは直接関係しない因子を含めた様々な臨床指標と身体活動性との関連を検討した.

ICONでは,地域基幹病院である石巻赤十字病院がCOPDの診断,薬物治療導入,多職種チームによる包括的な呼吸リハビリテーションプログラムと患者教育11,増悪時の対応などを行い,安定期治療はかかりつけ医が担っている.ICON登録患者は半年から1年毎に基幹病院の専門外来(ICON外来)を受診し,治療内容の再評価や患者教育などが行われ,かかりつけ医にもフィードバックされている(表1).患者教育は看護師が中心になって行われ,各種アセスメントツールを使用して,息切れの程度,認知機能,不安や抑うつなどの精神状態, ADLなどの包括的な評価を実施し,さらに患者自身の疾患理解度を評価して疾患をセルフマネジメントするために必要な知識を習得してもらうように指導している.患者の病期・症状,認知機能,ADL,生活習慣などを踏まえて,長期目標や短期目標を患者と協働して立案し,安定期のアクションプラン(行動計画)を作成している12.さらに患者には自己管理手帳(ICON手帳)を配布して,日々の症状などを記載してもらい,適切な自己管理行動が維持できるように支援する.また,患者には,ICON手帳で自分の症状をモニタリングし,増悪時のアクションプランに基づいて早期発見と適切な対応ができるように指導している13

表1 ICON基幹病院パス

①呼吸器内科外来②看護外来③ICON外来
(②から2週間後)
通常診療(新患紹介・再来受診)に準じる1回(月曜または金曜)
1人あたり60分~90分
1回(月曜または金曜)
1人あたり30分~60分
評価呼吸機能検査(スパイログラム,拡散能,モストグラフ,呼気NO)
胸部X線・胸部CT
動脈血ガス
心電図
血液検査・尿検査
骨密度検査
各種質問票(LINQ,mMRC,CAT,ADL,HADS,MMSEなど)
6分間歩行試験
呼吸機能検査
自己管理手帳のチェック
身体活動性(歩数計)
診察
(医師)
問診,身体診察
検査および結果説明
COPDの診断および治療方針の決定
併存症の評価
処方
ICON登録(同意書)
診察治療全体の評価
かかりつけ医への診療情報提供書を作成
総合アセスメント
日常生活指導
セルフマネジメント教育
(看護師)
各種質問票の配布
看護外来の受診案内
ICONシステムの説明
問診
質問票の確認・追記入
データベースの作成
患者教育(病気について,禁煙,増悪,ワクチン接種,自己管理,自己管理手帳の活用,服薬・吸入の確認,呼吸法,日常生活の工夫,継続して行える運動,酸素療法,福祉サービスの活用,心理面への援助)
アクションプラン(体調が良い日)の作成
患者教育全体のアセスメント,問題の抽出および追加指導
アクションプラン(体調が悪い日)の作成およびアクションプラン全体の確認・修正
ICONシステムと受診方法の確認
次回の予約確認
薬剤指導
(薬剤師)
吸入手技・服薬指導吸入手技の確認・指導
リハビリテーション
(理学療法士・作業療法士)
フィジカルアセスメント
運動療法
栄養指導
(栄養士)
栄養指導

一方で,以上のような専門家による包括的な呼吸リハビリテーションプログラムと患者教育が行われているにもかかわらず,身体活動性の維持・向上に対して期待する効果が得られない症例が一定数存在している.身体活動性の維持・向上に対するより効果的な介入方法を検討するための資料となることを期待して,本研究では特に,身体活動性とセルフマネジメントに関連する諸因子との関連について注目した.

対象と方法

1. 研究デザイン

前方視的観察研究.

2. セッティング

実施場所は石巻赤十字病院外来.

研究期間は2018年4月から2019年6月まで.

3. 対象

3. 1.組み入れ基準

ICON登録されて1年以上が経過し,研究期間内に石巻赤十字病院のICON外来を受診した患者をスクリーニングし,1)40歳以上,2)10 pack-years以上の喫煙歴がある,3)独歩可能な安定期COPD患者を対象とした.COPDの診断はガイドラインの診断基準1にしたがった.

3. 2.除外基準

1)気流閉塞のない慢性気管支炎および肺気腫,2)活動性肺結核,3)肺切除術の既往,4)過去4週間以内の増悪歴,5)神経筋疾患,悪性腫瘍・関節リウマチ・整形外科疾患などによってADLが低下しているものは対象から除外した.

4. 評価方法

組み入れ時に患者の基礎情報の取得および包括的な患者評価を行い,活動量計を配布した.2週間後に活動量計を回収し,身体活動性を評価した.

4. 1.基礎情報

問診および医療記録に基づき,対象患者の年齢,性別,body mass index(BMI),喫煙歴,併存症,治療内容(吸入薬および在宅酸素療法)を記録した.併存症は,心血管系疾患(心不全,虚血性心疾患,不整脈,末梢血管疾患),脳血管疾患,糖尿病,消化性潰瘍・GERD,骨粗鬆症,がんについて記録した.過去1年間の増悪歴は問診,ICON手帳の記録,かかりつけ医からの診療情報提供書および医療記録に基づいて評価した.

4. 2.呼吸機能検査および運動耐容能評価

スパイログラムはガイドライン14にしたがって実施し,気流閉塞の程度を評価した1

運動耐容能は6分間歩行試験を行い,歩行距離で評価した.6分間歩行試験は米国胸部学会(ATS)のガイドライン15の手順にしたがって実施した.検査中にSpO2連続モニタリングを行い,SpO2<85%になった場合は中断とした.

4. 3.症状

日常生活に対する呼吸困難(息切れ)の影響は修正MRC息切れスケール(mMRC)1を用いて評価した.

患者の健康状態はCOPDアセスメントテスト(CAT)16を用いて評価した.CATは8項目の質問票で,スコア範囲は0~40点である.CATスコアは息切れのみならず包括的な症状を反映し,疾患特異的QOLとも相関することが報告されている.

4. 4.心理・認知

不安と抑うつはHADS17を用いて評価した.HADSは,不安と抑うつについて,それぞれ7項目の設問からなる質問票であり,合計点が高いほど不安や抑うつが強いことを示す.0から7点が不安・抑うつなし,8から10点が疑いあり,11点以上が不安・抑うつあり,と判断される.

認知機能はミニメンタルステート検査(MMSE)18を用いて評価した.MMSEは時間の見当識,場所の見当識,3単語の即時再生と遅延再生,計算,物品呼称,文章復唱,3段階の口頭命令,書字命令,文章書字,図形模写の計11項目から構成される30点満点の認知機能検査であり,23点以下が認知症疑いとされる.

4. 5.ADL

ADLは長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(NRADL)19を用いて評価した.NRADLは,食事,排泄,整容,入浴,更衣,移動などの項目について,動作速度・息切れ・酸素流量のそれぞれに着目してスコアリングし,それに連続歩行距離の得点を加えて評価する.満点は100点で,スコアが低いほどADLが低いと判断される.

4. 6.ライフスタイルおよびセルフマネジメント

患者のライフスタイルに関連する因子として,仕事・支援者(同居家族や友人など)・趣味・運動習慣の有無について問診し,「はい」または「いいえ」で回答を収集した.

セルフマネジメントに関連する因子として,ICON手帳の活用状況,吸入アドヒアランスおよび手技,Lung Information Needs Questionnaire(LINQ)20,21を評価した.LINQ はCOPD患者が評価を行った時点で必要としている情報を定量的に測定する自己記入式の質問票で,「病気の理解」「薬」「自己管理」「禁煙」「運動」「栄養」の6つのドメインから成る質問票である.各ドメインおよび合計のスコア(25点満点)で評価され,臨床的に意義のある最小変化量は1である21.スコアが高いほど,患者が持つ情報量が不足していることになり,医療者から多くの情報提供が必要になることを示す.

4. 7.身体活動性

身体活動性の測定は3軸加速度センサー式活動量計(メディウィークMT-KT02DZ,テルモ)を用いた.患者には活動量計を2週間装着してもらい,荒天日を除いて,終日計測可能であった5日間以上の歩数の平均値を1日歩数とした.また 3 METs以上の運動強度があった時間を中高強度運動時間とした.5日以上のデータが収集できなかった者,普段よりも過剰に運動していたと判断された者は解析から除外した.

5. 統計解析

COPD患者の重症度と身体活動性の関係を検討するために,全体および65歳以上の患者で,病期毎に身体活動性(1日歩数と中高強度運動時間)を比較した.

次に,身体活動性と臨床指標との関連を明らかにするために,身体活動性にもとづいて,対象者を低活動群,中活動群,高活動群の3群にわけ,各群間で身体活動性に影響をおよぼす因子を比較検討した.厚生労働省「健康づくりの身体活動・運動ガイド2023」22で示されている「家事などの生活活動に相当する」とされる「2,000歩」と高齢者で推奨されている「6,000歩」を基準として,2,000歩未満を低活動群,2,000歩以上6,000歩未満を中活動群,6,000歩以上を高活動群とした.

男女比・現喫煙の有無・増悪歴の有無・病期・安定期処方・在宅酸素療法の有無・併存症・ライフスタイル・自己管理手帳の活用状況・吸入アドヒアランス・吸入手技の各項目の比較はFisher検定を用いた.年齢・BMI・喫煙歴・FEV1・%FEV1・FVC・使用薬剤数・6分間歩行距離・1日歩数・中高強度運動時間の各項目は,Kolmogorov-Smirnov検定で正規性の検定を行った後に,正規分布に従うときは一元配置分散分析,従わないときはKruskal-Wallis検定を行った.mMRC・CAT・HAD・MMSE・ADL・LINQの各項目はKruskal-Wallis検定を行った.これらの検定の後, Tukey-Kramerの方法またはSteel-Dwassの方法を用いて多重比較検定した.

統計解析ソフトウェアはEZRを使用した23.有意水準はP<0.05とした.

6. 倫理的配慮

本研究は,世界医師会による「ヘルシンキ宣言」にもとづく倫理的原則を順守し,石巻赤十字病院倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号:12-14-1,17-44).また,全ての患者から文書で研究参加の同意を得た.

結果

318人の安定期COPD患者が登録された.そのうち,研究参加の同意を撤回した1人,活動量計の故障でデータが収集できなかった3人,5日以上のデータが収集できなかった4人,ICON手帳から収集されたベースラインの歩数と比較して活動量計による歩数が大幅に多かった1人の計9人を除外した309人(男性294人,女性15人;年齢中央値75歳)のデータを解析した(表2).

表2 身体活動性と関連因子

低活動群
(n=81)
中活動群
(n=138)
高活動群
(n=90)
全体
(n=309)
P値
年齢,歳78.3±6.575.3±6.9**72.3±7.2***75.2±7.2 <0.001***
性別 0.49
男性(%)75(92.6)132(95.7)87(96.7)294(95.1)
女性(%)6(7.4)6(4.3)3(3.3)15(4.9)
BMI, kg/m222.3±4.124.4±3.5***23.8±3.1**23.7±3.7 <0.001***
喫煙歴,pack-years54.8±27.659.5±26.052.9±23.756.4±25.9 0.12
現喫煙(%)2(2.5)5(3.6)6(6.7)13(4.2) 0.39
FEV1, L1.07±0.451.60±0.52***1.90±0.58***1.55±0.61 <0.001***
%FEV1, %46.0±20.463.8±18.9***70.7±17.9***61.1±21.2 <0.001***
FVC, L2.52±0.663.11±0.68***3.49±0.76***3.06±0.79 <0.001***
病期 <0.001***
I期(%)5(6.2)28(20.3)33(36.7)66(21.3)
II期(%)29(35.8)79(57.3)43(47.8)151(48.9)
III期(%)24(29.6)26(18.8)12(13.3)62(20.1)
IV期(%)23(28.4)5(3.6)2(2.2)30(9.7)
過去1年間の増悪歴(%)22(43.1)18(13.0)6(6.7)46(14.9) <0.001***
mMRC,中央値(IQR)2(1-3)0(0-1)***0(0-0)***0(0-1) <0.001***
CAT,中央値(IQR)8(4-12)3(2-6)***2(1-4)***4(2-8) <0.001***
安定期処方
LAMA(%)71(87.7)111(80.4)73(81.1)255(82.5) 0.37
LABA(%)63(77.8)92(66.7)47(52.2)202(65.4) 0.020*
ICS(%)30(37)30(21.7)25(27.8)85(27.5) 0.053
使用薬剤数2.0±0.81.7±0.8***1.6±0.9***1.8±0.9 0.0018**
在宅酸素療法(%)26(32.1)6(4.3)2(2.2)34(11.0) <0.001***
併存症
心血管疾患(%)30(37.0)48(34.8)19(21.1)97(31.4) 0.039*
脳血管疾患(%)4(4.9)7(5.1)8(8.9)19(6.1) 0.47
糖尿病(%)9(11.1)23(16.7)14(15.6)46(14.9) 0.53
消化性潰瘍・GERD(%)8(9.9)16(11.6)14(15.6)38(12.3) 0.73
骨粗鬆症(%)11(13.6)15(10.9)10(11.1)36(11.7) 0.48
がん(%)4(4.9)6(4.3)8(8.9)18(5.8) 0.37
うつ,中央値(IQR)6(3-9)4(1-7)***3(1-6)***4(2-7) <0.001***
不安,中央値(IQR)3.5(2-6)3(1-6)3(1-6)3(1.5-6) 0.38
MMSE,中央値(IQR)§27.5(24-29)28.0(26-30)*29.0(27-30)***28(26-30) <0.001***
ADL,中央値(IQR)74(53-89)96(89-99)***98(96-100)***96(83-99) <0.001***
6分間歩行距離,m226±112||366±91***408±76***343±117 <0.001***
ライフスタイル
仕事(%)11(13.6)51(37)48(53.3)110(35.6) <0.001***
支援者(%)78(96.3)129(94.2)85(94.4)292(94.5) 0.85
趣味(%)52(64.2)104(75.4)67(74.4)223(72.2) 0.19
運動習慣(%)48(60.0)89(64.5)59(66.3)196(63.4) 0.68
自己管理手帳の活用(%)63(77.8)106(76.8)78(86.7)247(79.9) 0.16
吸入アドヒアランス不良(%)3(3.8)9(7.1)8(9.1)20(6.8) 0.14
吸入手技不良(%)8(10.0)11(8.7)1(1.1)20(6.8) 0.022*
LINQ,中央値(IQR)5(3-8)5(3-7)3(2.25-6)***4(3-7) 0.0039**
1日歩数,歩1,176±5313,994±1,110***9,070±2,786***4,734±3,454 <0.001***
中高強度運動時間,分/日1.8±8.84.4±4.9***16.4±15.7***7.2±11.7 <0.001***

データは平均±標準偏差,中央値(IQR),または数(%)で示した.*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001. †単剤または合剤.‡長時間作用型気管支拡張薬または吸入ステロイドの薬剤数.§10人の患者が検査を受けなかった(低活動群,1人;中活動群,3人;高活動群,6人).|| 3人の患者が息切れを理由に検査を受けなかった.¶吸入薬を処方されている患者に対する割合.

1日歩数中央値は4,023歩(四分位範囲 [IQR] 1,922-6,670,範囲 182-20,777)(図1)で,1日当たりの中高強度運動時間中央値は2.9分(IQR 0.3-9.0,範囲 0-98.9)(図2)であった.

図1 1日歩数と患者数

図2 中高強度運動時間と患者数

1日歩数中央値は,I期が6,008歩(IQR 3,334-7,867),II期が4,296歩(IQR 2,782-6,289),III期が2,865歩(IQR 1,249-5,356),IV期が1,488歩(IQR 618-1,978)で,病期が進行するとともに1日歩数は減少していた(P<0.001)(図3).中高強度運動時間中央値は,I期が4.8分(IQR 1.5-10.1),II期が4.0分(IQR 0.7-10.6),III期0.55分(IQR 0-6.2),IV期0分(IQR 0-0.38)で,病期が進行するとともに中高強度運動時間も減少していた(P<0.001).65歳以上の高齢者では,1日歩数と中高強度時間の中央値はそれぞれ,I期が5,842歩と4.4分,II期が4,443歩と3.9分,III期が2,753歩と0.5分,IV期が1,488歩と0分であった.

図3 病期毎の(a)1日歩数と(b)中高強度運動時間

次に,1日歩数にもとづいて対象患者を3群にわけ,低活動群(2,000歩未満)・中活動群(2,000歩以上6,000歩未満)・高活動群(6,000歩以上)のそれぞれを比較した.3群間における身体活動性と関連因子の結果を表2に示す.低活動群の患者は,高齢で,BMIが低く,肺機能(1秒量・1秒量%予測値・努力肺活量)が低く,6分間歩行距離が短く,病期が進行しており,増悪歴が多く,使用薬剤数が多かった.また,息切れが強く,CATスコアが高く,抑うつ傾向で,ADLも低かった.患者のライフスタイルに関連する因子としては,高活動群では低活動群と比べて仕事をしている者が多かったが,支援者・趣味・運動習慣の有無は各群間で差はなかった.セルフマネジメントに関連する因子としては,高活動群では低活動群と比べてLINQスコアが低く,吸入手技が良好であったが,現喫煙の割合,ICON手帳の活用状況,吸入アドヒアランスは各群間で差はなかった.

考察

本研究の結果から,COPD患者の身体活動性は,年齢・BMI・肺機能・運動耐容能・息切れと関連しており,身体活動性の低い患者は病期が進行しており,増悪歴が多く,使用薬剤数が多いことが示された.これらの結果は,海外からのシステマティックレビュー4および日本人COPD患者の横断研究の結果5,6,7と一致していた.また,身体活動性はCOPD患者のQOLやADLにも影響していることが明らかとなった.COPDでは呼吸機能障害のために身体活動性が低下し,さらに筋肉の機能低下・ディコンディショニングをきたし,呼吸困難や不安感を来し,ますます症状を悪化させ,QOLを低下させると悪循環をきたすと言われているが2,本研究の結果はそれを支持するものである.

本研究では患者の精神状態やライフスタイルなどの呼吸機能と直接関連しない因子と身体活動性の関連についても検討した.本研究結果では,抑うつ症状のスコアは,いずれの群も抑うつと判断される基準には達していなかったが,低活動群では中活動群・高活動群と比較して有意に高かった.海外の先行研究4および日本人COPD患者の横断研究7では抑うつが身体活動性と関連していることが報告されており,それらを支持する結果であった.また,認知機能検査のスコアは,いずれの群も認知症と判断される基準には達していなかったが,低活動群では中活動群・高活動群と比較して低かった.高齢COPD患者では認知機能低下が見られることが報告されており24,25,低活動群は高齢者が多いためと推測されるが,認知機能は運動耐容能と相関しているという報告26もあり,身体活動性と認知機能が相互に関連している可能性が示唆される.患者のライフスタイルに関連する因子としては,高活動群では低活動群と比べて仕事をしている者が多く,これは海外4および日本6の先行研究の結果と一致していた.仕事で体を動かすことが身体活動性の維持につながっている可能性が示唆される.

本研究ではセルフマネジメントに関連する因子として,情報ニーズの充足度の指標であるLINQを用いて評価した.高活動群のLINQ総スコアは低活動群と比べて低かった.LINQはCOPD患者がセルフマネジメントに必要な情報をどのくらい理解しているかを測定するための質問票であり,点数が低いほど自分でどのように行動したらいいかを理解していることを示している20.この結果からは,セルフマネジメントに必要な情報が多いことがCOPD患者の身体活動性の高さと関連していることが示唆される.一方,禁煙やICON手帳の活用状況,吸入アドヒアランスなどの自己管理行動は各群間で差はみられなかった.我々は以前に重症COPD患者に対するセルフマネジメント支援が良好な自己管理行動につながり身体活動性の維持にも有用であったことを報告した12.これを本研究の結果とあわせて考えると,良好な自己管理行動は身体活動レベルそのものよりも,日常生活の中で身体活動性を維持することと関連している可能性が考えられる.患者の情報量,生活背景や精神状態などを含めた包括的な評価に基づいたセルフマネジメント支援が身体活動性の維持・向上に有用であることが期待される.

これまでCOPD患者では早期から身体活動性が低下していると報告されていたが,本研究では早期の患者では中高強度運動時間は減少しているものの,1日歩数は比較的保たれていた.65歳以上の一般高齢男性の1日平均歩数は5,396歩と報告されているが27,本研究におけるI期COPD患者の歩数は5,842歩でむしろ多かった.本研究では先行研究6と比較すると重症患者が多く含まれており,中高強度運動時間は短かったものの,1日平均歩数は保たれていた.本研究の対象患者はもともと呼吸法や労作時の身体の動かし方などを指導されており,息切れの少ない軽症患者では,散歩などで日常の身体活動性を維持するようなライフスタイルが実践されていたためと推測される.

本研究の限界は,第一に,活動量計をつけること自体が身体活動性を促し,結果に影響した可能性があげられる.先行研究では,歩数計が身体活動性を維持・向上させるツールとして有用であることが示されている28,29.本研究の患者の半数以上が普段から個人の歩数計を使っていたことから,大きな影響はなかったと考えられる.

第二に,本研究の対象患者集団の特性による選択バイアスが生じている可能性があげられる.本研究の対象患者は普段はかかりつけ医に通院しているが,専門家によって高い水準で介入が行われている.本研究の対象患者のトータルLINQスコア中央値は7点であったが,これは専門施設に通院している患者の平均値と同程度30であった.本研究の対象患者は情報ニーズが低い集団であり,セルフマネジメントに関連する因子と身体活動性の関係を明らかにするためには,未介入の患者を対象とした前向きな縦断研究が必要と思われた.

第三に,本研究の対象患者の大半は男性であり,女性COPD患者にこのデータをこのままあてはめることはできないという点があげられる.性別は身体活動性に大きな影響を与えていることが報告されており4,男性患者とは別個の検討が必要であると思われた.

結論として,COPD患者の身体活動性は,年齢・BMI・肺機能・運動耐容能・息切れ・健康状態・抑うつ・ADLと関連しており,身体活動性の低い患者は病期が進行しており,増悪歴が多く,使用薬剤数が多かった.また,高活動群では仕事をしている者が多く,LINQスコアが低かった.COPD患者の身体活動性には,自覚症状・肺機能・運動耐容能とともに,患者の疾患理解度・生活背景・精神状態が関連していることが示唆された.

謝辞

ご協力いただいたICON外来担当看護師の皆様,呼吸器内科の先生方に感謝します.統計解析に助言をいただき,予備的解析を行っていただいた松本裕樹さんに深謝します.

備考

本論文の要旨は第30回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年3月,京都市)で発表した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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