2025 Volume 34 Issue 2 Pages 129-135
間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)診療において6分間歩行試験(6-minute walk test: 6MWT)は,重症度決定を大きく担っているが,スペースや検査時間を要することから全施設にて実施することが困難である.そのため,より簡便に実施出来る検査として30秒間椅子立ち上がり検査(30-sec chair stand test: CS-30)を実施し,6MWTと比較検討した.最低SpO2値(ρ=0.81),SpO2減少量(ρ=0.74),最大脈拍数(ρ=0.74)に強い有意な相関を認め,歩行距離と起立回数(ρ=0.50),修正Borgスケール-呼吸困難-(ρ=0.58)に有意な相関を認めた.そのため,IP患者においてCS-30は6MWTと比べ負荷量の軽減を図ることが可能であり,労作時の desaturationの有無を発見する指標となる可能性があると考えられる.
特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonias: IIPs)の重症度の決定には動脈血酸素分圧(arterial oxygen partial pressure: PaO2)と6分間歩行試験(6-minute walk test: 6MWT)は,重症度決定の役割を担っている.しかし,6MWTは検査時間に一定の時間を要すること,歩行可能なスペースを要することから,全施設にて実施することは困難である.また,6MWTは原則,努力歩行で行うが,被験者の強い疲労感や自覚症状が生じてしまうことや,著しい経皮的酸素飽和度(saturation of percutaneous oxygen: SpO2)の低下生じることが多い.大石ら3)は,6MWTの代替検査として1分間立ち上がり検査(1-minute sit-up-stand test: 1STST)の有用性を報告している他,6MWTと30秒間椅子立ち上がり検査(30-sec chair stand test: CS-30)と比較した先行研究として,軽度間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)患者1)や,慢性閉塞性肺疾患患者2)を対象に実施された場合の報告はあるが,実施件数は少なく,報告数も少ない.そこで,今回我々は,より簡便に実施出来る検査としてCS-30を実施し,6MWTの代替検査となり得るかを検討した.
2022年5月から2023年3月までに6MWTを実施したIP患者を対象に,検査を実施した.本研究は前向き観察にて行い,研究方法は,6MWT実施後に十分休憩を取り,本人の検査前の自覚症状を修正Borgスケールにて聴取した後に実施した.CS-30は,中谷ら4)の方法に準じて実施,椅子の高さを 40 cmに設定し,上肢は体幹前面にクロスした状態で30秒間起立動作を繰り返し,その回数を測定した.自覚症状は修正Borgスケールにて呼吸困難と下肢疲労を評価し,SpO2と脈拍数はフクダライフテック社のパルスオキシメータエニィパルウォーク ATP-W03®を使用し測定した.除外患者は,6MWTの検査困難患者や,腰痛・膝痛などの整形外科疾患を有し,検査実施困難と判断された患者,説明をした際に検査実施に対して同意を得られなかった患者とした.また,検査中に自覚症状の出現が生じた場合には6MWT同様,休憩をとるよう説明を行った.6MWTは,当院の構造上1周 48 mの周回コースにて検査を実施した.また,呼吸器内科医と至急連絡を取れる状態かつ緊急コールが出来る状況でのみ実施し,原則室内気で測定した.検査中止基準は設けず,本人自覚症状の出現や休憩の希望のあったときのみ休憩及び検査を中止とした.評価項目は,6分間歩行距離(6- minute walk distance: 6MWD)とCS-30 の起立回数,両検査での安静時・最低SpO2値とSpO2減少量,安静時脈拍数(Pulse rate: PR)・最大PRと増加量,自覚症状は修正Borgスケールを用いて呼吸困難と下肢疲労感を確認した.また,重症度判定は特定疾患治療研究事業の新重症度分類に準じ5),安静時のPaO2測定は室内気下で行い,6MWTの結果と合わせて重症度決定をした.解析方法は,全例における6MWT結果とCS-30結果にSmirnov-Grubbs検定を行い,外れ値の除外を行った.両検査の関係にはSpearmanの順位相関検定にて相関分析を行い,Wilcoxonの符号順位検定を用いて2群間の差を解析した.また解析ソフトウェアにはEZR®を使用し,有意水準5%をもって統計学的有意差とした.各検査の一致度に関しては,Bland-Altman分析を行い,解析ソフトウェアJMP®を用いて解析を行った.
検査にあたり当院倫理委員会の承認を得て検査実施し(慈山倫理4-第4号),インフォームドコンセントには口頭にて説明し,患者本人の同意を得て実施した.
全患者において,検査時の緊急コール及び重篤な容体の変化や合併症は見られなかった.また,6MWT実施時に酸素投与をした患者は見られなかった.患者背景を表1に示す.対象患者は男性164例,女性59例,年齢は72±7.65歳(中央値),疾患別は特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)が最も多く,全体の約半数(49%)を占めていた.次いで,特発性分類不能型間質性肺炎(16%),膠原病性間質性肺炎(14%),慢性過敏性肺炎(7%)であった.重症度は,III度が最も多く,144例で48.9%を占めており,次いでI度 87例(29.5%),IV度 42例(14.2%),II度 22例(7.4%)であった.薬物内容は抗線維化薬が86例で全体の約38.5%,ステロイド薬は72例32.3%,免疫抑制剤は35例15.7%,気管支拡張薬は5例2.2%投与されており,全体の55.2%に前記の何らかの内服治療を行っていた.肺機能においては,%VC<80%が110例,FEV1/FVC<70%が36例,%VC<80かつFEV1/FVC<70%が1例であった.また,検査実施時点での在宅酸素療法導入患者は71例であり,酸素流量は 1 L/min-6 L/minであった.また,在宅での補助換気療法導入患者はみられなかった.
n=295 | |||
---|---|---|---|
項目 | 数値 | ||
性別 (男/女) | 199/96 | ||
年齢[歳] | 72(67-76) | ||
IPF/分類不能型間質性肺炎/膠原病性間質性肺炎/ 過敏性肺炎/PPFE/NSIP/その他 | 146/48/43/23/18/8/9 | ||
-重症度分類 I/II/III/IV | 87/22/144/42 | ||
生化学検査-KL-6[U/ml] | 635(398-1,069) | ||
-SP-D[ng/ml] | 193.7(128.2-292.0) | ||
血液ガス分析-PaO2[mmHg] | 82.4(75.3-90.9) | ||
肺機能検査-%VC[%] | 87.0(72.9-99.5) | ||
-FEV1/FVC(G)[%] | 79.8(74.5-85.6) | ||
-%DLco[%] | 75.9(59.1-94.2) | ||
服薬状況[件数]-抗線維化薬/ステロイド薬(最小-最大[mg])/免疫抑制剤/気管支拡張薬 | 91/118(2-30 mg)/82/17 | ||
心エコー検査-SV [ml] | 58(48-68) | ||
- EF(T)/EF(S)[%] | 67.0(62.0-71.0)/66.0(62.0-69.0) | ||
-E/e’比 | 8.0(7.0-10.0) | ||
-TRPG 35未満/35以上[件数] | 281/14 |
中央値(25%-75%)
IPF:特発性肺線維症,PPFE:上葉優位型肺線維症,NSIP:非特異性間質性肺炎,PaO2:動脈血酸素分圧,%VC: %肺活量,FEV1/FVC:一秒率,%DLco:%肺拡散能,SV:一回拍出量,EF:駆出率,E/e’:左室拡張機能,TRPG:三尖弁逆流圧較差,予測肺活量は日本呼吸器学会のガイドラインの式を使用し,一秒率はGaenslerの一秒率を使用
全体の検査結果(表2)では,最低SpO2値(図1左),SpO2減少量(図1右),最大PR(図3)に強い有意な相関がみられ(最低SpO2値:ρ=0.81,p<0.01 ,SpO2減少量:ρ=0.74,p<0.01,最大PR:ρ=0.74,p<0.01),6MWD と起立回数(図4左),修正Borgスケール-呼吸困難-(図4左)において有意な相関がみられた(6MWDと起立回数:ρ=0.50,P<0.01,修正Borgスケール-呼吸困難-: ρ=0.58,p<0.01).6MWDが 350 m以下だった患者の平均起立回数は12回であった. また,6MWTのカットオフ値をSpO2 90%とした際のCS-30でのSpO2値のカットオフ値としてROC曲線を作成してみるとSpO2 92.3%(AUC:0.896,特異度:0.898,感度:0.774)であった(図2).また,陽性的中率91.9%,陰性的中率72.6%であった.
6MWT | CS-30 | 相関係数(ρ) | p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
全体 n=295 | 歩行距離/回数[m/回] | 475.0(408.5-543.5) | 15.0(13.0-18.0) | 0.50 | <0.01 |
開始時 SpO2値[%] | 97.6(97.0-98.3) | 97.5(96.6-98.2) | 0.87 | <0.01 | |
最低 SpO2値[%] | 88.2(82.3-92.4) | 92.3(88.8-94.7) | 0.81 | <0.01 | |
SpO2 減少量[%] | 9.5(5.6-14.7) | 5.1(3.2-7.8) | 0.74 | <0.01 | |
開始時PR[拍] | 77.0(68.0-87.0) | 84.0(75.0-94.0) | 0.83 | <0.01 | |
最大 PR[拍] | 126.0(112.0-140.0) | 112.0(101.0-125.0) | 0.74 | <0.01 | |
PR増加量[拍] | 45.0(34.5-61.0) | 27.0(21.0-35.0) | 0.45 | <0.01 | |
修正Borgスケール-呼吸困難 | 4.0(1.5-5.0) | 2.0(1.0-4.0) | 0.58 | <0.01 | |
-下肢疲労 | 2.0(0.5-4.0) | 2.0(0.5-4.0) | 0.43 | 0.61 | |
1度 n=87 | 歩行距離/回数[m/回] | 506.0(448.5-561.0) | 16.0(14.5-19.0) | 0.60 | <0.01 |
開始時 SpO2値[%] | 98.1(97.6-98.5) | 98.0(97.6-98.4) | 0.74 | 0.04 | |
最低SpO2値[%] | 93.1(91.8-94.2) | 95.1(94.0-96.1) | 0.51 | <0.01 | |
SpO2減少量[%] | 4.8(3.8-6.2) | 2.7(2.1-3.9) | 0.41 | <0.01 | |
開始時PR[拍] | 75.0(66.0-81.0) | 82.0(71.5-91.5) | 0.80 | <0.01 | |
最大PR[拍] | 119.0(107.0-138.5) | 111.0(100.0-123.5) | 0.86 | <0.01 | |
PR増加量[拍] | 43.0(33.0-57.5) | 26.0(21.0-34.5) | 0.61 | <0.01 | |
修正Borgスケール-呼吸困難 | 2.0(1.0-4.0) | 2.0(0.5-3.0) | 0.67 | <0.01 | |
-下肢疲労 | 2.0(0.5-4.0) | 2.0(1.0-4.0) | 0.51 | 0.30 | |
II度 n=22 | 歩行距離/回数[m/回] | 489.0(417.0-546.0) | 15.0(13.5-20.0) | 0.58 | <0.01 |
開始時 SpO2値[%] | 98.1(97.9-98.5) | 97.9(97.6-98.4) | 0.76 | <0.01 | |
最低SpO2値[%] | 92.3(90.4-93.6) | 94.2(92.5-95.0) | 0.58 | <0.01 | |
SpO2減少量[%] | 5.5(4.3-8.0) | 3.9(2.7-5.4) | 0.47 | <0.01 | |
開始時 PR[拍] | 74.0(62.5-89.5) | 81.0(70.5-93.5) | 0.95 | <0.01 | |
最大 PR[拍] | 121.0(106.0-130.0) | 116.0(96.0-119.5) | 0.84 | <0.01 | |
PR増加量[拍] | 45.0(34.5-53.0) | 26.0(22.0-29.5) | 0.68 | <0.01 | |
修正Borgスケール-呼吸困難 | 4.0(1.5-4.0) | 2.0(1.0-3.5) | 0.50 | 0.03 | |
-下肢疲労 | 1.0(0.3-3.5) | 2.0(0.8-3.5) | -0.01 | 0.32 | |
III度 n=144 | 歩行距離/回数[m/回] | 470.0(404.0-549.0) | 15.0(13.0-18.0) | 0.42 | <0.01 |
開始時 SpO2値[%] | 97.5(96.7-97.9) | 97.4(96.5-97.7) | 0.84 | <0.01 | |
最低SpO2値[%] | 85.5(81.3-88.2) | 90.8(88.2-93.2) | 0.66 | <0.01 | |
SpO2減少量[%] | 11.9(9.6-16.2) | 6.4(4.6-8.4) | 0.57 | <0.01 | |
開始時 PR[拍] | 77.0(69.0-87.0) | 86.0(77.5-95.0) | 0.83 | <0.01 | |
最大 PR[拍] | 127.0(116.0-139.0) | 115.0(101.0-125.0) | 0.62 | <0.01 | |
PR増加量[拍] | 46.0(35.0-61.0) | 27.0(21.0-34.0) | 0.35 | <0.01 | |
修正Borgスケール-呼吸困難 | 4.0(2.0-5.0) | 2.0(1.0-4.0) | 0.54 | <0.01 | |
-下肢疲労 | 2.0(0.5-4.0) | 2.0(0.5-4.0) | 0.43 | 0.92 | |
IV度 n=42 | 歩行距離/回数[m/回] | 433.5(337.3-482.5) | 13.0(12.0-16.0) | 0.41 | <0.01 |
開始時 SpO2値[%] | 96.6(95.1-97.6) | 95.7(94.3-97.5) | 0.83 | <0.01 | |
最低SpO2値[%] | 79.7(73.4-85.4) | 86.2(82.7-90.4) | 0.81 | <0.01 | |
SpO2減少量[%] | 16.3(12.2-22.2) | 8.7(6.7-12.2) | 0.71 | <0.01 | |
開始時 PR[拍] | 80.5(71.0-90.8) | 84.0(78.3-101.3) | 0.85 | <0.01 | |
最大 PR[拍] | 129.0(116.3-145.0) | 111.5(103.0-129.5) | 0.77 | <0.01 | |
PR増加量[拍] | 45.5(35.3-60.8) | 24.0(19.3-33.0) | 0.40 | <0.01 | |
修正Borgスケール-呼吸困難 | 4.0(2.0-5.0) | 2.5(1.3-4.0) | 0.53 | <0.01 | |
-下肢疲労 | 2.0(0.5-4.0) | 2.0(1.0-4.0) | 0.40 | 0.60 |
中央値(25%-75%)
項目(6MWDと起立回数,最低SpO2値,SpO2減少量,最大PR,修正Borgスケール-呼吸困難-)に相関を見られた.6MWT:6分間歩行試験,CS-30:30秒間椅子立ち上がり検査,SpO2:経皮的動脈血酸素飽和度,PR:脈拍数
最低SpO2値:ρ=0.87,p<0.01 SpO2減少量:ρ=0.74,p<0.01,6MWT:6分間歩行試験,CS-30:30秒間椅子立ち上がり検査,SpO2:経皮的動脈血酸素飽和度
CS-30カットオフ値92.3% 6MWT:6分間歩行試験,CS-30:30秒間椅子立ち上がり検査
ρ=0.74,p<0.01,6MWT:6分間歩行試験,CS-30:30秒間椅子立ち上がり検査,PR:脈拍数
ρ=0.50,p<0.01,6MWD:6分間歩行距離,CS-30:30秒間椅子立ち上がり検査
重症度別(表2)に比較しても全体同様に相関がみられた.
また,6MWDが 250 m以下で抽出すると8例に該当し,起立回数が中央値9.5±3.7回であった.ROC曲線を作成すると,カットオフ値10.0回(AUC:0.864,特異度:0.937,感度:0.750)であり,陽性的中率は96.0%,陰性的中率65.2%であった.
一致度を検討したBland-Altman分析においては,各項目に固定誤差がみられた.
IP患者において6MWDは有意な予後予測因子4,6)であり,IPF患者において6MWTにおける呼吸困難は6MWDとともに有意な予後予測因子7)であるとされている.大石ら3)の報告では,6MWTと1分間の立ち上がり検査(1STST)の相関関係を示す報告もされており,代替検査として有効であるとされている.
対して,CS-30は下肢筋力の簡便な評価法とされており8),慢性呼吸器疾患患者において起立回数と歩行距離との相関を認めたとの報告がされている9).また,石原ら1)の研究において,室内気下で6MWTとCS-30双方を評価しえた軽度から中等度のIP患者19例において,6MWDと起立回数,最大呼吸数,最低SpO2値に有意な相関関係を認めたとの報告がある.しかし重症例におけるCS-30の意義は不透明であった.我々の検討では重症度にかかわらず6MWDと起立回数,最低SpO2値,SpO2減少量,最大PR,修正Borgスケール-呼吸困難-との間に有意な相関関係を認めており,さらに中止例もなく安全に施行することが可能であった.
CS-30では起立回数が男性で17回,女性で15回以下であればサルコペニアの可能性が示唆される10).また,高齢者を対象とした転倒予測テストとしての研究では,カットオフ値14.5回以下が転倒のリスクが高いと言われている11).また6MWDが 250 m以下である場合は予後不良12)とされており,今回の結果で6MWDが 250 m以下であった症例は,全体の8例該当し,起立回数も中央値で9.5回,カットオフ値が10回であった.このことからIP患者においてCS-30の起立回数が10回以下の場合,予後不良の予測因子や転倒のリスク因子の可能性がある.
運動耐容能は,エネルギー産生や酸素輸送などに強く影響され,骨格筋や呼吸器系,心血管系など各機能が密接に関係し維持される13).慢性呼吸器疾患患者では呼吸器系の機能低下のみならず,骨格筋や心血管系の機能低下が運動耐容能の低下に影響を及ぼす14)とされている.IP患者の場合,運動時の換気障害や換気血流不均等分布,拡散障害などにより,労作時の低酸素血症や呼吸困難感を来すとされる.そのため,本研究において繰り返し立ち上がり動作を行うCS-30は,6MWTと同様に低酸素血症を生じ,最低SpO2値,SpO2減少量,修正Borgスケール-呼吸困難-とに有意な相関が生じた可能性がある.また,低酸素血症を代償するために脈拍数が増加するため,最大PRにおいても有意な相関を認めたと思われる.CS-30は,相関を認めた項目のいずれも6MWTと比較し,数値の変動が軽度であった.大きな筋群を動かすほど酸素需要は高まり,心拍数は増大するが,小さい筋群の運動では心拍出量や心拍数増加は少ない15)とされる.6MWTはCS-30と比べ全身性の運動のため多くの筋群が導入された可能性があること,CS-30は6MWTと比べ息こらえは多くなるが,運動時間が30秒間と非常に短いこと,これらの要因によって最低SpO2値,SpO2減少量,修正Borgスケール-呼吸困難-,最大PR数の変動がCS-30で少なかったと思われる.
本研究の限界を考察する.6MWTと心肺運動負荷試験(最大酸素摂取量)との比較検討は行われているものの,今回検討を行ったCS-30は,心肺運動負荷試験との比較検討が行われていない.本研究においてもCS-30は6MWTに対して各項目の相関関係は認めたものの,Bland-Altman分析において固定誤差が生じており,6MWTと比べ負荷量が軽く,それによるSpO2の低下が軽微であったことは否定できず,CS-30を代替検査としての有用性は証明されなかった.また,代替検査として報告の挙げられている1STST検査との関係性においても比較検討する必要がある.6MWTの検査方法においても,ガイドラインでは 30 mの直線を折り返して行いことが求められているが,本研究においてスペースの兼ね合いから 48 mの周回コースにて実施しているため,6MWTの標準的な条件で行った結果と同様であることは断言できない.また本研究の測定において6MWTとCS-30は同日に行っており,両検査との検査の間には十分な休憩を行ったものの安静時のSpO2値やPRに有意差が生じている.そのため,両検査間で休憩は行ったものの,検査結果に影響を及ぼした可能性は否定できない.
CS-30は最低SpO2値の陽性的中率は91.9%と非常に高く,陰性的中率も72.6%高い数値となっていることから労作時のdesaturationのスクリーニング検査として有用ではないかと考える.
既報では,重症度I度であってもSpO2 90%以下となる症例は重症度II度よりも予後が悪いと報告されている16).2024年4月より重症度分類が改訂され,現行の重症度分類がI度であっても6MWTでのSpO2値が90%未満であれば重症度IIIへ変更となった.そのため,安静時にSpO2値が保たれているIP患者においても労作時のdesaturationを早期に発見することは非常に重要である.
今回CS-30が間質性肺炎の重症度によらず安全に施行でき,6MWTの複数の項目において有意な相関関係が認められたことは,労作時のdesaturationの有無を発見する指標となる可能性があると考えられる.
本論文の要旨は,第33回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2023年12月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.