The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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The effectiveness of nutritional intervention based on energy sufficiency rate for patients with non-tuberculous mycobacteriosis
Tomomi NomaHideto OshitaAi SakamotoNaoto KandaYosuke SaitoYasuhiko IkegamiNaoki Yamaoka
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2025 Volume 34 Issue 2 Pages 165-170

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要旨

目的:非結核性抗酸菌症(NTM)患者へのエネルギー充足率を指標とした栄養介入の有効性を明らかにする.

方法:管理栄養士による食事調査と栄養指導を実施したNTM外来患者42例を後方視的に検討した.「エネルギー摂取量/総エネルギー消費量」をエネルギー充足率とし,摂取量は管理栄養士による24時間思い出し法を用いて推算した.

結果:42例は年齢中央値71歳,女性が34人(81%)だった.低体重(BMI 18.5 kg/m2未満)の22例ではそれ以外の20例と比べてエネルギー充足率が有意に低かった.エネルギー充足率100%未満の21例中16例について栄養指導の3ヶ月後に再評価したところ,エネルギー充足率の改善を認め,3%以上の体重減少を示した患者はいなかった.

結論:NTM患者において,エネルギー充足率を指標とした早期の栄養指導を行うことにより,エネルギー摂取量が増加する可能性がある.

緒言

我が国では非結核性抗酸菌症(non-tuberculous mycobacteriosis; NTM)の罹患者数,死亡者数が著しく増加しており1,2,日常的に遭遇する重要な呼吸器感染症である.治療としては多剤併用療法が行われるが,その効果はまだ十分なものではなく,呼吸リハビリテーションや栄養管理,心理的・社会的・教育的支援を含む包括的・多面的なアプローチの重要性が指摘されている3

NTM患者は健常者と比べてやせ型で,体格指数(body mass index; BMI)が低く4,5,低体重やアルブミン低値が予後不良と関連することも報告されている6,7.また,低体重は呼吸筋力や活動性の低下をきたすことによって健康関連QOLの悪化を招く.NTM患者に対する栄養介入によって栄養状態を改善させることは,予後や健康関連QOLの改善を目指すうえで極めて重要と考えられる.

栄養評価の指標としては,従来からBMI,体重減少率,%適正体重などの身体測定値が用いられている.一方で栄養介入は,体重減少を来たす前の早期に行うことが求められている.本検討の目的は,NTM診療における栄養評価の指標として,エネルギー充足率の有用性を明らかにすることである.

対象と方法

本研究は単一施設における電子カルテ情報を参照する後方視的観察研究である.2022年6月から2024年8月までに国家公務員共済組合連合会吉島病院のNTM専門外来を受診した患者のうち,担当医師の指示のもと管理栄養士が食事調査と栄養指導を実施したNTM患者42例を対象とした.

エネルギーとたんぱく質の充足率はそれぞれ「エネルギー摂取量/総エネルギー消費量」,「たんぱく質摂取量/たんぱく質必要量」によって求めた.エネルギー摂取量およびたんぱく質摂取量は,面接聞き取りによる24時間思い出し法を用いて推定し,熟練の管理栄養士2名が行った.一昨日に摂取した食品とその量を聞き取り,日本食品成分表8を用いてエネルギー量とたんぱく質摂取量を算出した.総エネルギー消費量はHarris-Benedict式から予測した基礎エネルギー消費量に身体活動係数を乗じて推算した.身体活動係数は一律1.3とした.たんぱく質必要量は患者の標準体重をもとに 1.0 g/kg/dayで推算した.

低体重と関連する因子を明らかにするため,対象症例42例を低体重(BMI<18.5 kg/m2)の有無で分類して基本情報,栄養学的評価,検査所見を比較した.カテゴリー変数はχ2検定あるいはフィッシャーの正確確率検定を,連続変数はMann-WhitneyのU検定を用いて比較した.BMIと他因子との相関性を調べるためにSpearmanの相関係数を求めた.

体重減少を呈する前の早期に,栄養介入をする意義を明らかにするために,エネルギー充足率100%未満の患者に対してエネルギー摂取量を増やす指導を行い,追跡した.なお,追跡期間中に追加の栄養指導は行っていない.エネルギー充足率が100%未満の症例のうち,3ヶ月以降に再評価をすることができた症例について,エネルギー充足率,体重,BMI,各種検査値の変化をWilcoxon符号順位検定で比較した.

すべての統計解析にはEZRを使用した.EZRはRおよびRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアである9.有意水準をp<0.05とした.本研究のプロトコールは当院医業倫理委員会の承認を得た(承認番号00108).

結果

対象患者42例の臨床的特徴を低体重(BMI 18.5 kg/m2未満)の有無別の比較とともに提示する(表1).年齢中央値71歳,女性が34人(81%)だった.36例が多剤併用療法中,6例が経過観察中だった.また,27例が初めての栄養指導であり,15例には過去に栄養指導を受けた既往があった.低体重例22例とそれ以外の20例の比較では,低体重例ではそれ以外の症例と比べて空洞病変を有する頻度が有意に高かった(72.7% vs. 30%,p=0.012).栄養評価の項目では,エネルギー摂取量に有意差はなかったが,エネルギー充足率が低体重例では有意に低かった(91.7% vs 108.5%,p=0.015).検査値の比較では低体重例で血沈が有意に高値であり,アルブミン値が有意に低値であった.

表1 BMI別の非結核性抗酸菌症患者の臨床的特徴

n全体BMI<18.5BMI≥18.5p
422220
女性(%)34(81.0)16(72.7)18(90.0)0.243
年齢,歳71[66, 77]70[66, 77]73[66, 78]0.677
喫煙歴あり(%)9(21.4)6(27.3)3(15.0)0.46
罹病期間 年1.5[1.0, 7.5]2.0[1.0, 11.0]1.0[1.0, 2.3]0.241
空洞あり(%)22(52.4)16(72.7)6(30.0)0.012
菌種(%)
MAC36(85.7)18(81.8)18(90.0)0.544
MAC+MABC4(9.5)2(9.1)2(10.0)
MABC2(4.8)2(9.1)0(0.0)
診療状況(%)
多剤併用療法中36(85.7)20(90.9)16(80.0)0.4
経過観察6(14.3)2(9.1)4(20.0)
栄養評価
身長,cm156.0[150.0, 160.0]157.6[150.7, 163.9]154.5[149.8, 158.0]0.351
体重,kg45.8[40.9, 48.3]41.0[34.5, 45.1]47.9[46.4, 51.3]<0.001
BMI, kg/m218.1[16.2, 20.5]16.2[15.6, 17.2]20.8[19.4, 21.8]<0.001
エネルギー摂取量,kcal/day1,672[1,424, 1,910]1,600[1,406, 1,794]1,760[1,541, 1,940]0.19
エネルギー充足率,%102.4[86.2, 112.8]91.7[84.6, 105.1]108.5[95.0, 121.4]0.015
たんぱく質摂取量,g/day54.8[47.1, 63.6]53.2[45.8, 63.5]58.2[49.4, 64.2]0.399
たんぱく質充足率,%109.8[90.5, 117.7]99.1[75.8, 115.3]115.0[99.1, 121.5]0.092
検査値
白血球,×103/μL5.70[4.62, 6.55]6.25[4.72, 7.05]5.40[4.68, 5.85]0.112
リンパ球数,×103/μL1.30[0.90, 1.58]1.25[0.83, 1.55]1.40[1.00, 1.52]0.342
ヘモグロビン,g/dL12.7[12.3, 14.2]12.7[12.3, 13.9]13.0[12.5, 14.2]0.319
血沈,mm/hr16[12, 33]19[14, 58]12[11, 19]0.043
総蛋白,g/dL7.3[7.0, 7.5]7.3[6.9, 7.9]7.2[7.0, 7.4]0.511
アルブミン,g/dL3.9[3.7, 4.3]3.7[3.6, 4.3]4.2[3.9, 4.3]0.012
CRP, mg/dL0.06[0.03, 0.52]0.20[0.03, 1.27]0.04[0.03, 0.28]0.083

連続変数は中央値[四分位範囲]で提示し,Mann-WhitneyのU検定を行なった.

BMI, body mass index; CRP, C-reactive protein; MAC, Mycobacterium avium complex; MABC, Mycobacterium abscessus complex.

低体重と関連のあったエネルギー充足率,血沈,アルブミンについて,BMIとの相関を検討した(図1).Spearmanの相関解析ではエネルギー充足率がBMIと最も強い相関関係にあった(相関係数 0.41,p=0.008).

図1 BMIと相関する因子の検索

Spearmanの相関解析ではエネルギー充足率がBMIと最も強い相関関係にあった(相関係数 0.41,p=0.008).

初回評価のエネルギー充足率が100%未満であった21例のうち,エネルギー摂取量を増やす栄養指導を実施し,かつ3ヶ月後に再評価できた16例について,初回評価時と3ヶ月後の臨床情報を比較した(表2).初回評価時と比べて再評価時にはエネルギー摂取量が有意に増加し,エネルギー充足率が有意に上昇していた(図2).初回評価時と再評価時で体重,BMI,アルブミンなどの検査所見に有意な変化を認めなかった.3ヶ月間で3%以上の体重増加を認めた症例は3例,3%以上の体重減少を認めた症例はなかった.16例に対して行った具体的な栄養指導の内容を表3に示した.

表2 エネルギー充足率100%未満の肺非結核性抗酸菌症患者に対する栄養指導3ヶ月後の変化

n初回評価再評価p
1616
女性(%)14(87.5)14(87.5)1
年齢,歳72[66, 75]72[66, 75]1
体重,kg41.5[38.4, 46.2]41.0[39.7, 47.5]0.94
BMI, kg/m217.4[15.9, 19.6]17.6[15.9, 19.5]0.94
エネルギー摂取量,kcal/day1,430[1,294, 1,590]1,659[1,439, 1,823]0.042
エネルギー充足率,%86.6[82.2, 91.0]100.1[94.0, 108.7]0.005
たんぱく質摂取量,g/day49.1[46.3, 59.2]58.1[46.2, 69.4]0.327
たんぱく質充足率,%99.1[84.7, 114.0]109.5[90.3, 119.6]0.309
白血球,×103/μL6.10[5.00, 6.75]4.90[4.60, 5.50]0.168
リンパ球数,×103/μL1.35[0.90, 1.60]1.25[0.90, 1.60]0.762
ヘモグロビン,g/dL12.7[12.1, 13.1]12.5[12.2, 13.1]0.664
血沈,mm/hr21[15, 54]28[16, 39]0.885
総蛋白,g/dL7.4[7.0, 7.9]7.6[6.9, 7.9]0.806
アルブミン,g/dL3.8[3.7, 4.2]3.9[3.5, 4.1]0.649
CRP, mg/dL0.38[0.04, 0.84]0.26[0.08, 0.55]0.985

連続変数は中央値[四分位範囲]で提示し,対応のあるWilcoxon符号順位検定を行なった.

図2 栄養指導3ヶ月後のエネルギー摂取量,エネルギー充足率,体重の変化

エネルギー摂取量(p=0.042),エネルギー充足率(p=0.005)の有意な改善を認めた.体重には有意な変化を認めなかった.

表3 エネルギー充足率100%未満の肺非結核性抗酸菌症患者に対する栄養指導内容

栄養指導内容全16例
・中鎖脂肪酸油製品の使用12
・食材の追加11
・栄養補助食品の摂取10
・少量頻回食3
・調理時の油の使用2

考察

本検討ではNTM外来患者において,低体重例ではエネルギー充足率が有意に低く,エネルギー充足率とBMIが相関していた.先行研究としてWakamatsuらは「実際の各栄養素摂取量/国民栄養調査より求めた日本人の平均摂取量 100」を「充足率」と定義し,肺MAC症患者ではエネルギー,たんぱく質,脂質の充足率が一般健康成人と比べていずれも低値であること,BMIと各栄養素の充足率が有意に相関することを報告している10.我々は基礎代謝量に身体活動係数を掛けて算出した総エネルギー消費量を用いてエネルギー充足率を算出し,同様の結果を得た.

本検討では低体重例においてもエネルギー充足率が比較的高値(91.7%)を示したが,NTM患者の基礎代謝量は亢進していると推測され,真のエネルギー充足率はさらに低い可能性がある.最近,TakayamaらはNTM患者の重症度と栄養学的特徴を調査し,重症度が高い患者の方が低い患者に比べて有意に低体重であるにも関わらず,エネルギー摂取量には有意な違いがなかったことを報告している5.興味深いことに,本研究の低体重例では空洞を有する割合,血沈が有意に高く,より重症度が高いことが示唆された.NTMの重症度,体重減少,エネルギー充足率の間の因果関係をより明らかにする必要がある.

慢性閉塞性肺疾患の患者では,呼吸筋の仕事量増加,呼吸苦による経口摂取量の減量などによって高頻度に栄養障害が存在し,呼吸機能,感染防御能,運動耐容能の低下に関与し11,12,さらに予後とも関連している13.NTM患者においても,進行するにつれて慢性的な呼吸不全や高炎症状態によって栄養障害が生じ,さらなる病勢進行を招くため,早期からの栄養介入が重要と考えられる.

エネルギー充足率を算出することによって,管理栄養士にとっても患者にとっても目標設定が明確となり,個別的な栄養指導が可能となる.また,管理栄養士による問診によって算出可能なエネルギー充足率は特別な設備や器具を要することもなく,クリニックを含めた幅広い医療現場で応用可能である.一方で,24時間思い出し法は,思い出しバイアスや過少報告が原因による過少推定も報告されている14ため,評価の際は身体測定値および臨床検査値なども含めた総合的な判定が適切である.

また,本検討ではエネルギー充足率100%未満の症例に対して栄養指導を行い,3ヶ月後の追跡でエネルギー摂取量の増加,エネルギー充足率の上昇を認め,体重減少を抑制することができた.小塚らは胃切除術後患者への外来栄養指導による体重減少予防効果を検討し,術後6ヶ月において,体重減少率5%未満の患者は,5%以上の患者に比して高いエネルギー充足率を示し,さらにエネルギー充足率は体重減少予防を目的とした栄養指導の指標となることを示唆している15.さらに,肺炎および心不全の栄養管理に関する最近の研究は,エネルギー充足率を指標とした栄養管理が患者の体重管理や総合的な予後に適切な結果をもたらす可能性があることを示唆している16,17.本検討の結果からは,NTM患者の体重減少の予防や改善にエネルギー充足率を指標とした栄養指導が有効であることが示唆された.

NTM患者に対する栄養指導のポイントとして,①少量で高エネルギー,高たんぱく質の食品を考慮する,②1回量を減らし分食とする,③腹部膨満感をきたす食品は避ける,④新鮮な食材,旬のものを選び,旨みを工夫し好みでおいしく食べる食品を工夫する,⑤食事の環境を整える,⑥補助食品を利用して必要量を満たす努力をする,などが挙げられている18.患者のエネルギー摂取量を確実に増やすためには,画一的な指導は不適切であり,患者の嗜好や生活環境に合致した内容を考えて指導するべきであろう.ふだん食べているもの(ご飯やサラダなど)に他の食材(卵,しらす,ハム,サツマイモ,チーズなど)を追加することは多くの患者にとって取り組みやすい.また,栄養補助食品と中鎖脂肪酸油製品19は効率的にエネルギー摂取量を増加させることができるため推奨している.病初期から体重減少を回避するための食事を習慣づけることで,疾患進行の抑制につながる可能性がある.栄養障害がNTM患者の予後に与える影響の大きさを考えると,NTM診療において管理栄養士が担う役割は大きい.

最後に本検討の限界について述べる.1点目として単施設の少数例での検討であるため,結果の一般化は困難であり,より多数例での検証が必要であろう.2点目として,栄養指導の長期的影響を検証できていないため,長期経過のフォローは今後の重要な課題と考えている.3点目として,入院患者と比べて外来患者の食事の内容・量には変動が大きいため,推算したエネルギー摂取量の正確性が低い可能性もある.一定期間の食事内容について写真記録法で調査するなど,より正確な評価法を採用すべきかもしれない.以上のような限界はあるものの,NTMにおける栄養介入については未解明の部分が多く,エネルギー充足率を指標とした栄養介入の有効性を示す本検討の意義は大きいと考えられる.NTM診療における栄養介入についての研究が今後さらに発展することを期待したい.

以上,栄養介入を行なったNTM外来患者において,エネルギー充足率は低体重と関連した.NTM患者において,エネルギー充足率を指標とした早期の栄養指導を行うことにより,エネルギー摂取量が増加する可能性がある.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

尾下豪人;講演料(インスメッド合同会社)

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