2025 Volume 35 Issue 1 Pages 39-42
本稿では,呼吸リハビリテーションのステートメントにおける「スタッフの質向上の取り組み」に焦点を当て,教育制度,e-learningの活用,実地研修,制度的支援の側面から現状と課題を検討した.認定制度や動画コンテンツによる学習機会の充実により,個々の専門職が知識・技術を高める環境は整いつつある.一方で,得られた学びをチーム医療として活かすための組織的支援や,職種間での役割理解・知識共有を促す仕組みにはさらなる工夫が求められる.また,診療報酬制度における有資格者の評価は十分とは言えず,教育と制度の接続が今後の課題となる.今後は,学会と臨床現場が協調しながら,実践に根差した教育支援体制と持続可能な制度整備を進めていくことが,スタッフ個々の成長をチームの力に変える鍵となる.
呼吸リハビリテーションは,慢性呼吸器疾患患者の生活の質(quality of life: QOL)を高め,入院予防や身体機能の改善を図るための包括的な医療介入であり,その実践には多職種によるチーム医療が不可欠である.この概念は,欧米におけるエビデンス構築とガイドライン整備を背景に,わが国でも徐々に浸透してきた.日本では,2001年に当学会ならびに日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会の3学会によって初のステートメントが発表され1),それを契機に呼吸リハビリテーションの普及活動が本格化した.2018年には,より包括的な視点に基づいて再定義された改訂ステートメントが発表され2),呼吸リハビリテーションの定義や構成要素,実施体制,さらには臨床的有益性が多角的に示された.
本ステートメントでは「スタッフの質向上の取り組み」として,スタッフ教育の必要性を明確に指摘している.またその課題としては,呼吸器関連学会による統一された教育システムの構築や,有資格者の実施に対する保険点数のインセンティブの付加,などが挙げられている2).
本稿では,「スタッフの質向上の取り組み」について,スタッフ教育や制度整備の現状,e-learningを中心とした取り組み,実地研修の意義,チーム全体への知識の昇華の困難性について考察し,今後の改善策を提言する.
呼吸リハビリテーションに関わるスタッフの継続的な教育と専門性の向上を目的として,現在複数の認定制度が導入されている.代表的な制度としては,3学会合同呼吸療法認定士に加え,看護師を対象とする呼吸器疾患看護認定看護師および慢性疾患看護専門看護師,理学療法士に対しては認定理学療法士(呼吸)および専門理学療法士(内部障害)などが存在し,それぞれの職種に応じた学習機会が整備されている.
また,当学会では2013年より「呼吸ケア指導士」制度が創設された.これは呼吸障害を有する人々に対する継続的ケアをチーム医療の中で実践するために,呼吸ケアに関する最新の基礎知識と臨床技術を習得した人材を認定し,地域において指導的役割を担う専門職を育成・支援することを目的とした制度である.認定の対象は,医師・歯科医師・看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士・栄養士・管理栄養士・薬剤師・放射線技師・言語聴覚士・臨床工学技士・臨床検査技師・介護福祉士,その他呼吸ケア領域で専門職として活動可能な者である.呼吸ケア指導士として認定されるには,3年以上継続して当学会の会員であり(会費納入が継続していることが条件),所定の研修単位(50単位以上)を取得し,認定委員会の審査を経て資格が付与される.さらに,会員歴が5年以上かつ研修単位取得要件を満たす者には「上級呼吸ケア指導士」の認定が与えられる3).いずれの資格も任期は5年であり,継続的な学習と資格更新が求められる.これらの認定制度は,各職種の専門性向上に寄与し,個人にとっては学習の動機づけとなる有意義な仕組みであると考えられる.一方で,資格更新率が必ずしも高いとは言えず(表1),制度がチーム全体の質向上に直結しているとは言いがたい.教育制度の普及・定着に加え,組織的な連携体制の整備が不可欠である.
| 認定年 | 2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 初級 | 118 | 61 | 110 | 196 | 268 | 99 | 852 |
| 上級 | 9 | 4 | 2 | 4 | 0 | 1 | 20 |
2022.8.12現在 2022年代議員総会資料より
呼吸リハビリテーションに関する教育体制の整備において,呼吸器関連学会による統一教育システムの構築が重要な一歩となっている.具体的には,日本呼吸器学会と当学会が合同で作成したe-learning動画コンテンツが,両学会の公式ホームページに掲載されており,専門職種に対する体系的な学習機会の提供を目的とする.このプログラムは,教育の初期段階として位置づけられ,現場のニーズに応じた多様な内容が網羅されている.各コンテンツは以下の5つのカテゴリで構成され,合計254タイトルに及ぶ.
①呼吸器病学基礎知識(CT1):132タイトル
②呼吸器病学応用知識(CT2):112タイトル
③メディカルスタッフ向け(CT3):7タイトル
④多分野連携(MDD)討議用(CT4):2タイトル
⑤男女共同参画推進用(CT5):1タイトル
これらの動画コンテンツは,多職種がそれぞれの役割に応じて柔軟に学習できるよう設計されており,学際的教育の基盤を形成している.とりわけ注目すべきは,新型コロナウイルス感染症の流行により対面研修の機会が制限された状況下において,このe-learningの活用が急速に進展した点である.再生回数はコロナ禍を中心に顕著な増加を示しており(図1),学会による教育資源の提供として高く評価されるべき取り組みである.しかしながら,これらのコンテンツによって知識や技術の向上が図られたとしても,その成果はあくまでも個人レベルにとどまる場合が多い.獲得された知識をチーム全体に還元し,職種間で共有・連携することで医療組織としての質向上へと昇華させるためには,さらなる仕組みづくりが不可欠である.教育成果の共有化や現場での展開支援といった,組織的取り組みを伴う次段階の整備が求められる.

2018.4~2022.10.11 総視聴回数;10,804回
CT3(メディカルスタッフ向けのコンテンツ7タイトル);2,427回
呼吸リハビリテーションに関する教育においては,e-learningなどの個別学習に加え,実地研修の場で多職種がともに学ぶ体験こそが,チーム医療の質向上において不可欠である.当学会が主催する呼吸リハビリテーション研修会や呼吸ケア指導スキルアップセミナーなどの実技研修会において,筆者は講師として,呼吸介助や関連手技に関する指導を多数実施してきた.職種別参加者は,理学療法士が多数を占める一方で,看護師や作業療法士,言語聴覚士も一定数参加しており,単一職種での参加に偏らない構成となっていた.このような多職種参加は,研修を通じて共通認識を形成するだけでなく,それぞれが所属部署へ知識や意識を持ち帰った際に,職種間の連携を促す契機となる.特筆すべきは,研修後に各職種が自らの臨床現場において実践展開する際,単なる技術の実装だけでなく「職種間の役割理解そのもの」を伝達する可能性があるという点である.例えば,理学療法士が獲得した呼吸介助の知識を看護師と共有する中で,互いの臨床判断や対応の優先順位について理解が深まり,それが結果的にチームとしての対応力を高める.つまり,スタッフの質向上の取り組みは,個々の知識や技術の習得にとどまらず,それがチーム内で共有・連携されることによってはじめて,医療組織としての質の底上げにつながる.教育機会の設計においては,こうした「多職種の同時参加と合同学習」を促進する仕組みを意識的に取り入れることが,呼吸リハビリテーションのさらなる実践力向上に資すると考えられる.
呼吸リハビリテーションの普及と質向上を図る上で,制度的支援の整備は欠かせない要素である.特に,有資格者による介入に対する診療報酬上の評価は,現場の実践を持続可能なものとするための重要な基盤である.
ステートメントでは,「有資格者が介入しやすい環境づくり」とともに,「保険点数の加算が可能になるよう学会が働きかける必要がある」と明記されており,制度的支援の必要性が明確に示されている2).具体的には,「有資格者の介入に対する保険点数のインセンティブの付加」が取り組みの一例として挙げられており,教育制度と臨床実践の接続を促す視点が共有されている.しかしながら,現状の診療報酬体系においては,呼吸リハビリテーション料が他の疾患別リハビリテーション区分と比較して相対的に低い水準にあることが指摘されており2),呼吸ケアチーム加算などチーム医療そのものに対する評価制度も整備途上である.呼吸器疾患に対するリハビリテーションの対象疾患の拡充や急性期加算の見直し,多職種連携や専門性の高い介入に対する包括的な評価体系の構築には,なお課題が残されている.こうした状況を踏まえ,学会としては,現場の声を丁寧に拾い上げながら,制度設計に向けた対話を継続的に行う姿勢が求められる.診療報酬の改定は多くの要素が絡む複雑なプロセスであり,短期的な成果を求めるのではなく,専門職の介入が患者アウトカムに与える影響や,チーム医療の質向上に資する実践の蓄積を,エビデンスとして丁寧に提示していくことが重要である.そのためにも,教育制度・認定制度・実地研修などの取り組みと診療報酬制度との接続を意識しながら,「現場で機能する制度設計」への橋渡しを担う存在として,学会が着実に働きかけていくことが望まれる.
教育制度の整備,認定制度の運用,e-learningの活用といった取り組みにより,個人の専門性向上を支援する環境は徐々に整いつつある.しかしながら,学習成果を個人の成長にとどめず,チーム医療の中で効果的に活かす仕組みが十分に機能しているとは言えない.特に,多職種間で役割理解や連携を促進するための組織的な展開や,施設内での知識共有の体制づくりは,スタッフ個々の学習成果を医療チーム全体の質向上へと昇華させる上で不可欠である.また,教育制度の更新や資格制度の維持には継続的な努力が求められる一方で,現場の忙しさや制度的障壁により更新率の低さが課題となっている点も無視できない.
これらの状況を踏まえ,今後は学会主導のもと,教育成果の臨床展開を促す支援体制の構築や,職種横断的に機能する研修設計への転換,加えて持続的なモチベーション維持につながる仕組みづくりが求められる.スタッフの質向上は,個人の努力と組織の支援が相互に補完し合うことで初めて実現するものであり,臨床現場と学会との協働的な取り組みによる基盤整備が今後の鍵となる.
以上の考察を通じて,スタッフの質向上には個と組織の両面からの支援が不可欠である.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.