The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Behavioral science that medical professionals should know
Shigeki Suwa
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2026 Volume 35 Issue 2 Pages 97-101

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要旨

人は身体的存在であると同時に,心理的,社会的,実存的存在である.そのために行動が実行されるには原動力となる動機が必要となり,その行動は社会規範に則して実行されることとなり,さらにその行動は様々に意味づけられることで促進される.行動科学とは人間の行動を総合的・学際的に解明し,行動変容などを支援する実証科学である.第2次世界大戦後に生まれたこの新しい科学は,北米で医療行為を行うための資格審査の際,履修済みであることが求められる.わが国でも1986年に日本保健医療行動科学会が設立されたが,特定保健指導への取り組みは行動科学が本格的に注目されるきっかけとなった.生活習慣病を予防するためには生活習慣を変えなければならず,そこで行動変容の支援技術が注目されたのである.支援技術には様々なものがあるが,相手にとって効果的な支援技術を見極めて使い分けていくという,理論的で体系的なメソッドが医療職には求められる.

第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナー 座学1

行動科学とは

骨と筋肉と神経さえ備わっていれば,人の行動が実行されるわけではない.人は身体的存在であると同時に,心理的,社会的,実存的存在である.そのために,行動が実行されるにはその原動力となる動機も必要であり,その行動は社会規範(ルール)に則して実行されることになり,さらにその行動は様々に意味づけられることで促進される.

日本保健医療行動科学会が編纂した『保健医療行動科学事典』1にて,筆者は行動科学を「人間の行動を総合的に解明し,予測・統御しようとする実証的経験科学」であると説明した.「総合的に解明」するとは,生物学,生理学,心理学,社会学,文化人類学など,様々な学問分野の研究者が学際的に研究するということであり,「予測・統御」するとは行動の実行,不実行,変容などを支援するということであり,「実証的経験科学」とは科学的エビデンスに基づくということである.

行動科学という言葉を最初に用いたのは,シカゴ大学の心理学者であったミラー(Miller, J. G.)だと言われている.彼はフォード財団に研究助成を申請する際に,人の行動を解明するためには生物科学と社会科学とを統合しなければならないとして,1946年に行動科学研究の助成を申請したのである.その後,ミラーらは人の行動を説明する諸概念を整理し,行動科学に関する初めての本格的な論文2を発表することになった.

行動科学の必修化

北米では医療職の養成課程でも,行動科学が早くから取り入れられることになった.世界医学教育連盟(WFME)による国際認証評価項目3でも,教育プログラムにおいて社会医学,医療倫理学,医療法学とともに,行動科学が並べられている.

わが国では1986年に日本保健医療行動科学会が設立されて,保健医療にまつわる行動変容を支援する研究と教育に取り組んできた4.そして,2024年から北米で医療行為を行うための資格審査において,国際認証評価を受けた医科大学の卒業生であることが条件となると,日本でも行動科学の履修は実質的に必修になり,医療職養成校において行動科学教育が一挙に広がった.

ただし,医療職の養成課程では以前から,自然科学の履修が基礎教育として必修であった.そのために,心理学,社会学,文化人類学などの社会科学が,行動科学の中心となっていることに留意しなければならない.養成校によっては,自然科学系や臨床医学系の教員が行動科学教育を担当することもあるが,そうすると従来からの教育内容と重複することになってしまう.

保健医療行動

1. 動機

これまでに研究されてきた行動の諸要因を,ここで簡単に紹介しておく.

行動の原動力となるのは動機であり,行動に伴う負担が行動を抑制する.そして,動機が負担を上回るとき,行動は実行されることになる(図15

図1 動機づけモデル

保健医療行動の動機となるのは保健欲求であり,それは「健やかに暮らしたい」「病気を治したい」「死を避けたい」「安らかな死をむかえたい」などの言葉で表される.さらに「仕事を続けたい」「愛する人と暮らしたい」「豊かになりたい」などの他の欲求と,保健欲求は結びついている.

2. 負担

それに対して,保健医療行動に伴う負担としては,①痛みや疲れなどの身体的負担,②恐れや不安などの心理的負担,③治療費や交通費などの経済的負担,④社会的な役割の制限もしくは喪失などの社会的負担,⑤生きがいの喪失などの実存的負担などがある.

これらの負担が動機よりも重くなり,行動が実行されないときには,負担を軽減するか,動機を強化するか,あるいは両方を同時に試みる援助が必要となる.

3. 目標

動機と負担の他に,保健医療行動を左右する要因として,保健目標,保健感覚,保健規範,保健信念などがある.

保健目標とは,保健欲求を満たすことを目的として設定された到達目標である.目標は検査結果などから数値で表されることが多く,一般には,近づこうとする正の目標が正常値となり,遠ざかろうとする負の目標が異常値となる.ただし,人により,ときには正の目標と負の目標が逆転することも,医療職は知っておかなければならない.

4. 感覚

保健感覚とは,痛み,かゆみ,疲れ,悪臭など,病気やケガにつながる刺激を感じ取る感覚である.感じ取ることができる最小刺激(閾値)が低くて敏感な人もいれば,逆に高くて鈍感な人もいる.また,同じ強さの刺激を感じていても,それを重大なこととして認知する人もいれば,たいしたことではないと過少に認知する人もいる.感覚が鈍感な人や過少に認知しがちな人ほど,保健医療行動は実行され難くなるため,他の人に比べて注意を要する.

5. 規範

保健医療行動に関する社会的ルールを保健規範という.入院や届出など,どうするべきかが法律や条例で定められているもの(成文法)と,口に手をあてて咳をするなど,常識やマナーとして多くの人が守っているもの(不文法)とがある.規範は学習することによって個人に内面化されて,個人の行動に影響を及ぼす.規範から逸脱する行動には罰則が適用されたり,周りからの同調圧力が働いたりするが,逸脱がめずらしくなくなると規範は修正もしくは廃止される可能性が高まる.

6. 信念

「こうすれば健康になれる」とか「こうすれば病気になる」と,ひごろから人々は健康や治療についての考えを持っており,それに従って実際の保健医療行動は実行される.健康や治療に関する人々の考えを保健信念と言い,それは①西洋近代医療への信念,②東洋医療(漢方医療)への信念,③呪術医療への信念,④民間療法への信念などに,大きく分類することができる.保健信念は文化や信仰と深く結びついていることから,頭ごなしに否定すると信頼関係の形成・維持が難しくなる.

7. 動機づけの強化

動機が人を行動に駆り立てる過程を動機づけいう.動機づけを強化するためには,既に述べた通り,負担を軽減するか,動機をさらに強化するか,あるいは両方に取り組まなければならない.また,その他の要因も必要に応じて,うまくコントロールしなければならない.

動機づけを強化する具体例として,たとえば次のような方法をあげることができる.

1)行動の目的を再確認し,その意義について理解する.

2)難し過ぎも優し過ぎもしない,適切な目標を設定する.

3)遠い目標よりも近い目標(中間目標)を立てる.

4)目標達成した際のご褒美を用意する.

5)目的と目標を忘れないよう,掲示などでつねに意識する.

6)負担の少ない,確実に実行できる方法を選ぶ.

7)自ら成功体験を重ねることで,自信を持つ(直接的達成経験).

8)他者の成功体験に触れる(代理的経験).

9)周りの人から励ましてもらったり,応援してもらったりする(言語的説得).

10)ストレスの解消に努め,前向きな気持ちの維持に心がける(生理的・情緒的喚起).

行動変容ステージと支援技術

1. 7つの支援技術

生活習慣病に焦点を当てた特定保健指導の取り組みは,わが国の医療職の間で行動科学が本格的に注目されるきっかけとなった.生活習慣病を予防するためには生活習慣を変えなければならず,そこで行動変容の支援技術が注目されたのである.

特定保健指導の開始に先立ち,厚生労働省は2007年に「標準的な健診・保健指導プログラム 確定版」を発表し,保健指導に必要な6つの技術をあげた.さらに2018年には,6つの技術の他にコミュニケ―ション技術を加えて,7つの技術の利用を推奨した(表16

表1 保健指導に必要な支援技術

コミュニケーション技術メッセージをやり取りして共有する技術
カウンセリング技術傾聴することで受容的,共感的に接し,信頼関係を築く技術
アセスメント技術健康レベルとその背景,行動変容ステージなどを見極める技術
コーチング技術質問をして答えを考えてもらい,自己決定や自己解決を支援する技術
ティーチング技術情報提供や指示・助言により,答えを教える技術
自己効力感を高める技術自信を与え,やる気を引き出す技術
グループワークを支援する技術当事者グループを運営し,グループならではの効果を引き出す技術

※各支援技術の具体的な中身を厚生労働省は明示しておらず,表の右側の説明文は筆者によるもの.

これらの支援技術のうち,最も基礎となるのは①コミュニケーション技術である.メッセージをやり取りして共有するコミュニケ―ション技術を基礎にして,②カウンセリング技術,③アセスメント技術,④コーチング技術,⑤ティーチング技術,⑥自己効力感を高める技術などを使いこなすことができる.そして,これらの技術をグループ活動にも応用すると,⑦グループワークを支援する技術へとつながって行く.

2. 行動変容ステージによる支援技術の使い分け

「健診・保健指導プログラム」では支援技術をあげたうえで,行動変容ステージを「行動変容に対する準備段階である」とし,①無関心期,②関心期,③準備期,④実行期,⑤維持期の5つに分けた.そのうえで,「ステージごとに支援方法を変え,ステージが改善していけるように支援する」ことを求めている6.ところが,どのステージでどの支援方法(支援技術)を使えばよいのかが必ずしも明確ではなく,そのために,すべてのステージにおいてコーチングを試すなど,誤解や混乱もみられる.

そこで,筆者らは各ステージにおいて求められる支援内容を次のように整理することにより,ステージごとに有用となる支援技術を分類してみた(図27

図2 行動変容ステージと支援技術

1) 無関心期:関心を持ってもらうための支援

この時期の人とは,会って双方向コミュニケーションをはかることは難しい.そのためにカウンセリング,コーチング,グループワークなど,双方向コミュニケーションを前提とした支援技術は役に立たない.また,指示や助言によるティーチングも,当事者に関心がないならば,空振りに終わるであろう.

この時期には,行動変容の必要性を正しく理解してもらい,関心を持ってもらう援助が,まずは必要となる.そのためには,たとえ一方通行になったとしても,パンフレットや広報誌などを使った情報提供としてのティーチングを,根気強く繰り返すしかない.

2) 関心期:実行したいと思ってもらうための支援

ようやく,面接などによる双方向コミュニケーションに,効果が期待できる時期となる.そこで,傾聴しながら受容的・共感的に接して,信頼関係を築いていくことがまずは必要となり,そのためにはカウンセリングの技術が役に立つ.

この時期は,関心はあるものの行動を起こす意思のない段階であり,その背景として行動変容の方法や過程に不安を抱いている人も少なくない.したがって,行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい,「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらえるよう,情報提供を行う必要がある.

また,時間に余裕がある人で,しかも誰かと一緒であればやる気の出る人には,皆で支えあいながらゴールを目指すグループワークを紹介し,見学してもらうのも効果的であろう.

なお,特定保健指導の準備段階には間に合わなかったことから,必要な支援技術にはあげられていないが,後に日本でも紹介されるようになった動機づけ面接(Motivational Interviewing)8,9は,関心期の人に対して特に効果的な支援技術と言えよう.また,無関心期の人でも会うことが可能であれば,動機づけ面接を試みることができる.

3) 準備期:実行してもらうための支援

この時期には,適切な目標と方法を決めて,行動計画を立ててもらうことになる.そうすることにより,自己効力感を高めてもらいながら,確実に実行に移してもらう援助が必要となる.

本人に目標と方法を決めてもらい,行動計画を立ててもらうためには,質問をすることで答えを考えてもらうコーチング10,11が役立つ.ただし,よりよい自己決定をしてもらうためには,必要な情報を提供するティーチングも不可欠となる.また,本人には答えが分からず,答えを尋ねられた際には,指示や助言によるティーチングも試すとよい.

4) 実行期:持続してもらうための支援

行動を開始して間もないこの時期には,持続に必要な情報を提供するティーチングを行い,自己効力感を高めてもらう必要がある.

また,持続への不安について,その背景と克服法を考えてもらうために,やはり質問をして答えを引き出すコーチングが役に立つ.ただし,準備期と同様,本人には答えが分からず,答えを尋ねられた際には,ここでも指示や助言によるティーチングも試すとよい.

5) 維持期:支援の終了

本人は持続に自信があっても,実際には長続きしないこともあり得る.そこで,この時期にあると判断するためには,本人の意識だけではなく,やはり行動変容の持続期間についても,考慮に入れる必要がある.たとえ本人が「持続に自信がある」と答えたとしても,実行して間もない場合には,維持期ではなく実行期であると判断した方がよい.

間違いなく維持期にあると思われる人には,これまでの努力を賞賛するとともに,今後の持続を奨励するだけでよい.それ以上に継続的な支援を必要としないが,当事者による行動の持続をより確かなものにする目的で,最後に情報提供を行うのもよい.

おわりに

すべての行動変容ステージにおいて,すべての人に効く万能の支援技術はない.「こうすれば上手く行く」という短絡的なハウツーではなく,つねに相手の意識と行動を評価しながら,効果的な支援技術を見極めて使い分け,もしくは併用していくという,理論的で体系的なメソッドが,専門家である医療職には求められると言える.

謝辞

第9回呼吸ケア指導スキルアップセミナーにおいて,このような講義の機会を与えていただいた実行委員長の桂 秀樹教授および実行委員の先生方に,心より感謝いたします.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  諏訪茂樹:行動科学.日本保健医療行動科学会編:保健医療行動科学事典.メヂカルフレンド社,東京,1999,105-106.
  • 2)   Miller  JG: Toward a general theory for the behavioral sciences. American Psychologist, 10: 513-531, 1955.
  • 3)  日本医学教育評価機構:医学教育分野別評価基準日本語版 ver. 2.1,2016.
  • 4)  日本保健医療行動科学会編:講義と演習で学ぶ保健医療行動科学 第2版,日本保健医療行動科学会,2022.
  • 5)  宗像恒次:最新 行動科学からみた健康と病気.メヂカルフレンド社,東京,1996,93.
  • 6)  厚生労働省健康局:標準的な健診・保健指導プログラム 平成30年度版,2018,3-2,3-3.
  • 7)  諏訪茂樹,酒井幸子:行動変容と保健医療技術.日保健医療行動会誌,34: 1-6, 2019.
  • 8)   Miller  WR,  Rollnick  S: Motivational interviewing (Third edition) Helping people change. The Guilford Press, New York, 2013.
  • 9)  ウイリアム・R・ミラー,ステファン・ロルニック(松島義博,後藤 恵訳):動機づけ面接〈第3版〉上・下.星和書店,東京,2019.
  • 10)   Whitmore  J: Coaching for Performance (Third Edition). Nicholas Brealey, London, 2002.
  • 11)  諏訪茂樹:対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート.中央法規出版,東京,2007.
 
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