Latin America Report
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2019 Volume 36 Issue 1 Pages 73

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「キューバは不思議な国です」と著者が「はじめに」で述べているように、キューバはラテンアメリカの中でも理解が難しい国である。その理由のひとつは、政治や経済の制度が日本とは大きく異なるからである。1959年の革命から2018年まで、カストロ兄弟が国のトップを務め、現在も一党独裁が続いている。最近は少しずつ自由化を進めているものの、基本的には計画経済を維持している。グローバル化により世界が大きく変わる中、一党独裁や計画経済はどのように機能し、人々はどのように生活しているのだろうか。

理解が難しいふたつ目の理由は、注目する側面によってキューバの評価が大きく異なるからである。米国に敵対する姿勢はさまざまな国で共感を呼び、チェ・ゲバラは今でも若者から英雄視されている。教育や公衆衛生の指標は、ほかのラテンアメリカ諸国と比べて高い水準にある。ジャズやサルサなどの音楽やダンスは世界中に知られ、観光地としての人気も高い。一方で、数多くの人々がキューバを脱出し、現在でも言論や報道の自由が制限されている。国民の大半を占める公務員の給与は月30ドル程度で、それだけでは食べていくだけでも容易ではない。

本書では、2015年から2018年まで駐キューバ大使を務めた著者が、このようなキューバの不思議を、政治、経済、文化と社会、対外関係、あれこれの大きく5つに分けて、ひとつひとつのトピックについて検討している。キューバ憲法に同国は民主主義国家であると書かれていることは、本書を読んで初めて知った。計画経済下でも、さまざまな工夫をしてビジネスを営む自営業者の姿は頼もしい。キューバが国際社会で一定の影響力をもっているのが不思議だったが、国連等の場で積極的に決議案を提出して意見集約に力を入れていることを知って納得した。

本書の魅力のひとつは、著者が生活の中で感じた不思議を解き明かしていく様子である。大使ともなると、現地政府や日本からの来訪者などの要人へのアテンドなどで、現地の庶民の生活にまで気にかける時間は多くないと思われる。しかし著者は、感じた疑問を素直に記して、現地の資料にあたり、それがなければ国際機関のデータなどを確認している。さらに人づてに聞いた話や自らが歩いて集めたリアルなキューバの姿を、ユーモアを交えて解説している。キューバに興味をもった人が、この国に対する理解を一歩進めるのにおすすめしたい一冊である。

 
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