Latin America Report
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2021 Volume 38 Issue 1 Pages 60

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本書は、ボリビア革命(1952~64年)の展開と終焉の過程を、米国政権4代にわたる対ボリビア外交・援助政策の視点から分析することに主眼をおきながら、1943年以降を射程に含めて、歴史学の手法にもとづく検証を行っている。革命期のボリビアでは、大地主と錫財閥による寡頭支配からの脱却をめざした民族革命運動(MNR)が政権を担い、その結党の指導者でのちに政治的に分裂するパス=エステンソーロとシレス=スアソの2人が交代で大統領を務めた。

本書の構成は次のとおりである。序論では、まず、米国のナショナリズムと不可分な自由主義概念の多義性を整理する。そして、米国の対外関係――とりわけ第三世界の革命的ナショナリズムへの対応――における自由主義の二面性について、すなわち自由主義が軍事化や経済的保守化をともなって追求され得ることを説明する。その際、著者はR・マクマンのリベラル・プロジェクト論に修正を加えて本書の枠組みとしている。

第1~2章では、MNRの起源と形成過程を辿り、その初期の挫折がボリビア革命に与えた影響に言及する。1943年、MNRはビジャロエル少佐を中心とする軍部改革派の若手将校らとクーデターに成功する。しかし同政権は3年で崩壊し、米ローズヴェルト政権からの強力な外交圧力と寡頭支配勢力の復活という苦い教訓を得たことで、革命指導部に対米関係の良好化を重視する穏健路線が生まれる。

第3章ではトルーマン政権期、第4~7章ではアイゼンハワー政権期、第8~9章ではケネディ政権期、そして第10章ではジョンソン政権期の米国・ボリビア関係が分析される。そこから浮かび上がるのは、米国の対ラテンアメリカ政策におけるボリビアの特殊性である。一例として、共和党のアイゼンハワー政権(1953~61年)がMNR政権に対して行った、錫の買い上げにとどまらない積極的な経済援助が挙げられる。経済的には「援助より貿易」を信条とし、共産主義伸長の脅威に対してはグアテマラやキューバの革命政権を転覆させるべくCIAの秘密工作や軍事介入を行ったことで知られるアイゼンハワー政権の性格を考えると、ボリビアへの対応は異例である。

こうしたボリビアの特殊性を解明すると同時に「ボリビアという特殊な事例の分析を通して、アメリカ外交がもつ普遍的な特質を明らかにする」ことに力点をおく本書は、冷戦史のパズルを埋める重要なピースである。また、錫の国際価格という外部要因の影響も丁寧に分析されており、鉱物資源保有国に対する外交政策と経済援助のあり方を考えるうえでも参考になる。

 
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