Latin America Report
Online ISSN : 2434-0812
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2021 Volume 38 Issue 1 Pages 64

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ラテンアメリカといえば、政情不安、経済的混乱、暴力・無秩序といった否定的・負の側面ばかりが想起される。実際にこの地域の諸国が対応を迫られている問題は多岐にわたり、アマゾンの森林伐採をはじめ、深刻さを増しているものも多い。しかし、同地域が今日「地球規模課題」と称される諸問題に真摯に向き合い、先駆的な挑戦を試みてきたことはあまり知られていない。その果敢な取り組みとダイナミズムを知ることは、日本に暮らす私たちが示唆的な何かに気づき、自らのあり方を振り返るきっかけになるのではないか。本書の根幹には、ラテンアメリカがもつ肯定的な側面を日本社会に発信するのだという強い志がある。

本書の問題意識に答えるために、まず序章においてラテンアメリカ地域の概念、現代ラテンアメリカの政治・経済・社会の状況、地球規模課題とは何かを概観している。そのうえで核軍縮・核兵器廃絶(第1章)、環境保全・エネルギー(第2章)、市民社会・社会運動(第3章)、LGBTの権利保障(第4章)、先住民の取り組み(第5章)、教育開発(第6章)、貧困削減と社会保障(第7章)、宗教と社会活動(第8章)、真実・正義・記憶・和解(第9章)、紛争と平和(第10章)、被害者家族の連帯(第11章)、国際的な地域間協力(第12章)、政治体制と経済発展(第13章)を取り上げている。地域的な実践を紹介しているものの、コラムで取り上げた感染症、ジェンダー平等、移民を含めて、すべてが21世紀のグローバル社会にかかわるテーマである。

本書は期せずして、コロナ禍のまっただ中で出版された。本書の冒頭で編者も指摘するように、コロナ禍は否応なく「グローバル化された世界」の現実を私たちに突き付けている。特殊な歴史と空間のなかで発生する固有の問題を探索する地域研究の意義は、均一化を迫るグローバル化という新しい概念が出現してから、常に議論の的であった。網の目のようにつながる世界では、ラテンアメリカ地域で起きる問題もまた、地域の特異な文化に基づくものだと完結させることができなくなったためである。このように国際社会では、否応なしに地球規模課題が異なる地域間と人びとの間で共有されるようになった。だからこそ、共通の課題をてがかりに、異なる国や人びとをつなげ、ラテンアメリカの経験を世界に発信しようとする本書のねらいも生まれたといえる。本書はまた、持続可能な開発目標(SDGs)が世界の合言葉となったコロナ後の世界を、私たちがいかに構築していくかを考えるうえでも意義深い貢献を果たしている。2020年代の日本のラテンアメリカ地域研究を代表する1冊として、長く読み継がれる文献となるだろう。

 
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