2022 Volume 39 Issue 1 Pages 76
ラテンアメリカ諸国のなかでもブラジル経済に対する世界の注目度は抜きんでている。域内最大の面積と人口を抱え、豊富な天然資源と広大な農業用地に恵まれている。2000年代後半からの資源ブーム期の高成長時には、BRICSの一員として新興国の代表格となった。そのなかで個々の企業も大きく成長し、そのいくつかは多国籍企業となっている。それまでのラテンアメリカの多国籍企業は、おもに近隣諸国に進出するなどラテンアメリカ域内での活動にとどまっていた。しかしこの時期に成長したブラジルの企業は、域内にとどまらず先進国にも積極的に進出し、各分野でのグローバルプレーヤーとなった。本書はこのようなブラジル企業に注目し、多国籍企業として成長した要因を分析している。
分析にあたって本書がよりどころとするのが、多国籍企業による外国市場への進出の要因を分析したジョン・ダニングによるOLIパラダイムである。何らかの優位性を持つ(Ownership)企業は、その優位性をいかすような資源がある場所(Location)へ進出する。現地企業をとおして進出すると取引費用が高い場合には、自らが外国において企業を設立したり、既存企業を買収したりする内部化(Internalization)によって直接外国市場へ進出する。ブラジル企業の多国籍化を分析するために著者は、このOLIパラダイムにふたつの視点を加えた。エヴァンスが注目した国家が産業振興に果たす役割と、ブレッセルーペレイラが新開発主義で主張した為替レート管理の重視性である。産業振興や為替管理を通じた国家の関与が、企業のOLIによる優位性にどのような影響を与え多国籍化を促したのかが、著者が設定した課題である。
分析対象は、世界最大の食肉生産企業であるJBS、中型の旅客ジェット機では高いシェアをもつエンブラエル、鉄鉱石の採掘で世界のビック3の一角を占めるヴァーレの3社である。各社の沿革や事業内容を概観し、どのように優位性を確立し劣位性を克服したかを指摘した。そして国家とのかかわりや為替相場が多国籍化をいかに促し、それがどのように変化したのかを考察した。
企業の成長や国家のかかわりについて先行研究に幅広く目をとおしたうえで、有価証券報告書をはじめとする資料から詳細な事実を丁寧に取り上げて細かく分析している。研究者はもちろん、近年成長がめざましいラテンアメリカの企業に関心をもつビジネスマンにとっても、その競争力を理解するうえで有用な一冊である。