2020 Volume 4 Pages 21-37
The exiting type of katakana alongside the English lyrics for Karaoke is fardifferent from its phonetic realization of the original song phrase. Under these circumstances, we proposed a new katakana system which approaches the real rhythm and phonetic realization of the original English songs. In so doing, we attempted to reconcile the trade-offs among the phonetic reproducibility, visibility, and affinity so that Japanese learners or singers may have less cognitive load and entertain themselves to have a feeling of self-efficacy. We also report an experiment to verify the effects of our new katakana system on the improvement of pronunciation through singing exercise. The results of the evaluations by five raters in terms of six phonetic evaluation items show that singing the target song along with the new katakana five times leads to better phonetic performance in most of the evaluation items. The results of the questionnaire also support the effectiveness and validity of our new katakana system, suggesting that it may help learners sing or read aloud English phrases and sentences more fluently with greater confidence and motivation
我々は2012 年から, 産学連携でカタカナを利用した英語発音表記の研究を続けてきた。その背景として,自身の音声指導実践から,フォニックス指導やネイティブ音声のListen & Repeat による英語音声の習得は,調音フィードバック機構の適応柔軟性が衰える思春期以降では効果の期待できる人の割合は徐々に減少するという傾向があった。よって思春期以降の大多数の学習者には,聞いた音声を繰り返す際に,正しい発音のための視覚的補助があると便利であると考える。
しかし,従来のIPA(International Phonetic Alphabet)による発音記号による体系的な指導は中学・高校ではさして行われておらず,大学生の多くがIPA が読めない状況である。このような状況で,日本人に馴染みのあるカタカナを用いた発音表記の取り組みも行われているが(e.g. 池谷, 2008; 島岡・島岡, 2013; 田尻,2012; 矢野, 2000),個々の単語やフレーズに対してカタカナで近似した表記が与えられるに留まり,IPA に代わる「表記システム」ではなく,また表記法においても,カタカナの中に平仮名を挿入したり,文字以外の記号を使用するなど,発音実行可能性,即効性,視認性,親和性等において問題点が多い。
湯舟他(2014)では,英語と日本語の文字と音構造の違いに着目させ,日本語の音を子音と母音に分けた音素文字としてのカナ記号を利用した英語発音表記システム「Nipponglish」(特許申請番号:特願2013-10097)を提案した。その後,この表記の発音実行可能性と音像再現性をさらに改善したシステム「Academic 版」と,典型的な英語音声変化を含む「チャンクの発音」を実現できるよう視認性を改善した「POP 版」を開発した。「POP 版」は「Academic 版」において音素表記したために子音部と母音部に別れて表記されていた部分を,できるだけ日本語カナと同数の文字数になるように配慮したものである。
湯舟他(2015)では,上記のAcademic 版を利用して,日本人の発音の苦手な母音と子音を含む単語15 個と,POP 版を利用したチャンク音読評価実験を行った。この実験では,短縮形,音連結,無開放破裂音,融合同化,機能語の弱形等の音声変化を含むチャンク15 個を,Nipponglish カナ表記の無い場合とある場合で,日本人英語学習者の大学生33名の音読発音に違いがあるか調べた。評価には,HOYA サービスのGlobalVoiceCALL 2 の自動音声認識システムを用いた。さらに,実験後に5 件法のアンケートを行い,カナ表記の有用性について尋ねた。実験に使用した単語とチャンクは以下で,チャンクのターゲット部分に下線を引いた:
GlobalVoiceCall 2 による音声データ評価(100点満点)の結果,15のチャンクのうち12において発音評価が向上し,うち6つは統計的有意な改善が見られた(“a cup of coffee” +6.18, t(32)=2.61, p<.05; “he must’ve eaten an apple” +7.17, t(32)=3.78, p<.001; she’ll “come in a minute” +6, t(32)=6.98, p<.01; “a web page” +3.81, t(32)=2.28, p<.05; “it’s inside your bag” +3.70, t(32)=2.48, p<.05; “I won’t need it” +6.42, t(32)=2.26, p<.05)。
一方,単語発音では,15 語のうち,7 つにおいてNipponglish カナ表記があることで発音評価が向上したものの,統計的有意に発音の改善が見られたものは3 単語であった(rod +8.57, t(31)=3.13, p<.01; lack +3.67, t(31)=2.442, p<.05, milk +7.34, t(31)=2.39, p<.05)。
さらに,アンケートの結果,事前に十分なカナ記号の説明をしないで実験を行ったにもかかわらず,「カナ記号は読みやすかったですか?」の質問に対し「そう思う」+「多少そう思う」の合計が 76.92 %であったことから,カナ記号は被験者にとってストレスを与える表記でないといえる。また,「カナ記号で正しい英語の発音を覚えられると思いますか?」の質問に対し,「そう思う」+「多少そう思う」の合計が76% であった。
これまでの研究開発と音声評価実験で明らかになったことは,「カタカナは単語の発音よりも, チャンクや文を英語のリズムで発音し, その中で自然な音声変化を実現させたり習得させるのにより効果がある」ということである(湯舟他, 2015)。我々は上記の成果を英語のカラオケ・テロップの表記に応用する試行錯誤を2016 年初頭から行ってきた。カラオケは歌に合わせてテロップ(字幕)の色が変わっていく(ワイプする)ことで, 歌の英語リズムを視覚的に認識できる利点がある。これは, パラレルリーディングによる音読練習を, カラオケというマルチメディアツールで支援していると見ることもできる。
従来の英語カラオケに振られているルビは, 各単語の上に文字通りのカタカナ英語である。例えば, Let it go には「レット イット ゴー」と振られている。上手に歌うためにリズムが重要なカラオケでは, 従来の振り方では音楽の尺に収まらず, また元歌の音声実現とも全く異なるものとなる。我々の開発したカタカナ・システムでは, 「レリゴー」のような実際の音声実現に近づけ, かつ音楽の時間的尺に収まって歌唱できるようにカタカナのルビを工夫した(湯舟他, 2017)。その際, 3 つのトレードオフと考えられる要素, 「視認性」「音再現性」「親和性」の折り合いを着けることが最大の難関であった。図1 はその概念図である。以下,各要素での開発面の工夫について論じる。
図1. カラオケのルビにおける3 つのトレードオフ課題
カラオケでは,曲に合わせてテロップがワイプ(色変わり)する。速い歌い回しの曲やラップでは,歌のリズムに合わせて表示時間内に読める文字数でなければならない。さらに,強く長く歌われる音節は一目でそのように視認される必要がある。これらの点に関して,我々は,歌手の発音をできるだけ再現しつつ,カナルビ文字数を最小限に抑える工夫を行った。また,プロソディー面において,強く歌われる音節の文字を一回り大きくし,長く強調される音節はできる限り長音記号「-」を利用し視認性を高めた(図3)。
図2. 従来のカタカナ・ルビ
図3. Nipponglish カナ・システム
カタカナはr/l, b/v, th など単語内の精密な発音表記には向いていないが,音声変化後のチャンク発音を表記するのに向いている。以下の例では高い音像再現性を実現できる:
これらの音声変化を含むチャンク発音において,従来のカタカナ・ルビでは音節が増えてしまうが(図2),音声変化をカナで表現することで英語本来の音節数とリズムを体感できる(図3)。
Nipponglish は,米発音を基本としながらも,World Englishes におけるLingua Franca Core (Jenkins, 2000) を意識し,英米母語話者に特徴的な子音の区別よりも,歌唱に重要なリズムやストレス等のプロソディーを優先し,学習課題を最小限にした「引き算の音声学」を実現している。すなわち,我々は音声実現のすべてを完璧に表記するのではなく,実現させた音声項目を厳選して実行可能性や学習継続性に配慮した実践を行っている。
2.3 親和性ここで言う親和性とは,日本人にとって馴染みがある,あるいは見覚えのあるカナの並びかどうか,馴染みのない記号などを使っていないか,ということに関係する。Nipponglish システムは「カタカナしか使用していない」。これは当然のことのようだが,実は容易なことではない。事実,過去のカタカナによる英語表記の試みの多くで,日本語にない音素の表記に,平仮名,英字,記号などが利用されてきたが,それらに慣れるには学習が必要であり,唐突感は否めない。また,見覚えのないカナの並びを見ると我々は「読む」ことを始めるが,見覚えのあるカナの並びは「見る」だけで認識できる。この差は非常に大きい。例えば,以下の例では,徐々に親和性が増し,3. では「見る」認識レベルで一定の音再現性を担保した音韻符号化ができると考えられる:
具体的には,1. は音再現性は一番高いが,カタカナの並びは見覚えのないものであり(親和性が低い),かつ,カナの連続数が10 個であるため視認性も低い。一方,3. は,「ディズ」と「イズ」が離れており,一見音再現性が低そうだが,日本人とりわけ関東人は語尾の「ス」の母音は発音しない,あるいは無声化するため,次の「イズ」と自然に連結し,結果として,2. の「ディスィズ」と同様の音実現が可能である。この音実現に関しては,実験データは取っていないが,著者が複数の人に音読してもらう中で確認されている傾向である。また,all I を「オーライ」と記述しているが,日本語の「オーライ」は all right よりも all I のチャンク発音の方に音像は似ていることが多い。よって,意味は違っても,親和性と音再現性に優れた「オーライ」というカナ4 文字を独立させることで,親和性,視認性,音再現性を実現している。
さらに,以下の例を見てみたい。日本語の「タ行」と「ダ行」は英語音の t と d と親和性が低い。上記の語尾の「ス」のように,母音が無声化したり脱落した後,後続母音と容易に連結しない。よって,2. のように連結後の音声(ザット イズ → ザリズ; バッド アバウト → バーダバウ)や,融合同化後の音声(アバウト ユー → アバウチュ)のように表記することで,文字数を減らし(視認性向上)かつ同時に音再現性も向上できる。
なお,Nipponglish はカタカナ・システムではあるが,特定の単語やチャンクの発音に対して,固定された定常的なカナを当てはめるのではなく,歌手の歌い方や個人的発音の特徴や方言などを考慮して,その歌ごとに異なるカナ表記が実現されている。表記に揺れが生じる単語の例として,baby は「ベイビー」「「ベイビ」「ベイベ」「ベビ」「ベーイベ」など,原曲のリズム,メロディーや歌手のクセや方言によって様々である。また,音素ごとの例としては,例えば子音では,/th/ はサ行・ザ行を使うことが多く,/v/ は強勢のある音節では「ヴ行」を使い,強勢のない音声では「バ行」を使うことが多く,語頭の/l. r/ は共通して「ラ行」を使うことが多い。母音では,hot, God などの母音は「ア段」か「オ段」,sad, bad などの母音は「エ段」か「ア段」を用いるが,いずれになるかは曲ごと,さらに言えば同曲内でも歌い方によって変わる場合もある。
以上の理由で,カタカナ表記システムの全容を本誌面で記述することはほぼ不可能である。また,本論の目的も,英語カラオケのカナの試行錯誤による改善の取り組みとその効果を歌唱実験で検証することであるため,カナの振り方のノウハウについては別の紙面で試みたいと考える。
2.4 英語カラオケ用カタカナを援用した音読評価実験湯舟他(2018)では, 埼玉の私立大学生79 名と東京の一般企業社員49 名,計123 名を対象に, 以下の実験を行った。Nipponglish のカナを付与した英文とカナのない英文をネイティブの教師音声に続いて音読してもらい, 4 名のTESOL の資格を持つ英語ネイティブスピーカーのレイターによる評価と,株式会社English Central の音声認識による音読評価とで比較する実験を行った。評価項目は以下の5 要素で,それぞれ6 段階で評価してもらった。信頼性係数Cronbach’s αは0.90 であり,高い一貫性があると判断できる。実際に使用したRubric は巻末の資料2 に掲載した。
4 名のレイターによる評価の結果,123 名中,83%の参加者において「英文のみ」を見ながら音読したときに対し,「カナが付いた英文」を見ながら音読したときの発音評価の平均点が向上した。具体的には,「12 センテンス×6 点評価×5 項目=360 点満点」中,平均で一人当たり17.7 点向上した(df=122, t=9.01, p<0.001, 効果量r=0.63)。カナがあることで,ないときに比べ「1.音素(7.57%),2.リズム・ストレス(8.00%),3.イントネーション(8.66%),4.流暢性(7.77%),5.理解度(8.01%)」と,すべての下位要素において発音評価の平均点が向上した。
図4. English Central による音読実験画面
一方,English Central の自動音声認識による評価では, PC やスマートフォンで録音された発話に対し, C, C+, B, B+, A, A+ の6 段階でフィードバックを行うシステムを採用しており, 「流暢性」, 「中断認識」, 「正確さ」の3 つのパラメータで評価している。上記の評価をC=1 点, A+=6 点に換算した評価の結果, 事前の平均は2.82, 事後の平均は3.30であり(df=149, t=-7.49, p<0.001, 効果量r=0.52), Nipponglish のカナを音読の助けにすることで, 大幅に評価が上がった。なお, C~A+ の6 段階に分類の他,100 点法による評価でも8 割程度の参加者の得点が上昇していた。
以上のように,カタカナは,適切な文字数,馴染み深く親和性の高い文字の並びに注意して工夫することで,チャンク発音において高い音再現性を実現できるため,自然で流暢な発音が苦手な日本人にとって心強い発音支援ツールになると考えられる。
我々は,これまで上記のような試行錯誤を重ねて開発してきた Nipponglish カタカナを2017 年10 月より商業向けカラオケソフトに導入してきたが,音読評価だけでなく,実際に英語カラオケを歌唱することで,発音評価が向上するのかを検証するには至っていなかった。もし,英語カラオケを歌うことで,英語発音評価が向上するのであれば,カラオケの学校教育への応用や,逆に商業カラオケというプラットフォームで英語学習にこう如何あるとなれば,英語発音指導の新たな方法として社会的なインパクトにつながると考える。勿論,このような英語カラオケ歌唱による発音向上の検証を行った先行研究は国内外でも皆無である。
単語単位でカナルビを付した通常の洋楽カラオケと Nipponglish Version のカタカナ表記を付与した英語カラオケで歌唱練習をした場合で,練習の前後でその楽曲の英語発音が向上するのか,また向上の度合いは異なるのか検証する。
なお、本実践研究では、適切なカタカナを見ながら、モデルとなる英語音声(この場合、歌手によるオリジナル歌唱音声)を真似ることで、より流暢で自然な流れの英語音声になることを実証することを目的としており、直ちに英語発音全般の向上を目指したり、検証するものではない。しかしながら、このような英語カラオケ歌唱練習は、楽しみながら、自らが学習しているという意識なく、歌詞の意味や音声に注意を向けながら継続的に行えることから、長期間で考えれば、英語発音全般の向上も十分に期待できると考える。
123 名(学生74 名・社会人49 名)を,巻末の資料3 にある12 種類の音声変化要素を配置した12 の英語センテンスの音読パイロット実験(湯舟他, 2018,実験協力 (有)ビッグアップルカンパニー,(株)第一興商,(株)English Central)の結果から,音読力が同等になるように2 グループ,つまり通常Ver.のカラオケで歌唱するグループ61 名とNipponglish Ver. で歌うグループ62 名に分け,課題曲 All I Want For Christmas Is You(Mariah Carey)を業務用カラオケ機LIVEDAM STADIUM(第一興商)を利用して5 回通しで練習してもらった(実験協力,SHIDAX 鶴ヶ島駅前クラブ店)。参加者は「DAM★とも」というオンラインシステムを通して歌唱ファイルをアップロードし,練習前と後の歌唱発音評価点を繰り返しのある(重複測定)2 元配置の分散分析にて比較した。
調査参加者に対しては,事前に研究内容・参加方法・結果の公表などについて必要な説明を行ない,彼らの同意を得た。課題曲の選曲理由は,誰でもメロディーを知っており,かつ評価項目の英語音声変化を全て含んでおり頑健な発音評価に適していると想定したためである。また,練習回数を5 回にした理由は,プレ実験において,10 名の参加者(男5人,女5 人)に課題曲の通常バージョンの全歌詞のうち「0:57~2:26」の部分の歌唱を10回繰り返し歌ってもらった後,「およそ何回目の歌唱で上達を感じることができましたか?」の設問に回答してもらった際,その平均回数が5.4 回だったため,5 回に決定した。
評価においては,2 種類のカナでの練習前と後の歌唱ファイルをランダマイズし,どのファイルが通常カナかNipponglish カナか,練習前か後か分からないようにした上で,英語母語話者のTESOL 資格保持者4名のレイターと日本人音声学専門家1 名による評価の平均で検証した。評価項目は「音素,リズム・ストレス,表現力,流暢性,理解しやすさ,および,印象評価」の6 要素に関して6 件法リッカート尺度(6が最も評価が高い)のRubric(English Central のオンライン英会話で採用)で評価した(内的整合性係数Cronback’s α: 0.93)。さらに,歌唱実験後,カタカナの印象を聞くアンケートを実施した。
5 名のレイターによる6 点満点の評価において,練習前と後の平均点に対し,繰り返しのある(重複測定)2 元配置の分散分析を行った。結果は以下の通りである。
実験の結果,通常カナとNipponglishカナ,ともに0.5ポイント以上の向上が見られたが(F(1, 121)=108.14, p<0.001, 効果量r=1.00),交互作用すなわち向上率の差に関しては有意差が認められなかった(F(1, 121)=0.08, p=0.77, 効果量r=0.28)(表1, 図5)。一方,音声学の専門家による評価では,Nipponglishカナで歌ったグループの方が従来カナで歌ったグループよりも向上率が交互作用有意水準5%で高くなった(F(1, 121)=6.12, p<0.05, 効果量r=0.93)(表2, 図6)。
一方,評価項目別に見ると,「音素,リズム・ストレス,表現力,流暢性,理解度,印象評価」のうち,5 名のレイターの平均では「3. 表現力」以外のすべての項目において,Nipponglish Ver. の評価点が通常Ver. を上回った。また,音声学の専門家による評価では,「表現力」以外のすべての項目で交互作用の有意水準 p<0.05 あるいは p<0.01 レベルでNipponglish Ver.の評価点の向上率が有意であった。特に「4.流暢性」の向上率は通常 Ver.より約18%多く上昇した(図7,図8)。
図5. 5 人のレイターによる評価
図6. 音声学の専門家による評価
図7. 通常カナ歌唱群の要素別評価
図8. Nipponglish カナ歌唱群の要素別評価
歌唱実験の直後,Nipponglish バージョンで歌唱したグループ62 名のうち,52 名からアンケートの回答を得た(リッカート6 件法)。各質問項目と結果は以下の通り:
図9. Nipponglish カナに関する歌唱後アンケート結果
以上の結果から,カナの種類に関わらず,123 名中106 名(87%)の参加者が,「英語カラオケを 5 回 練習すると課題曲の英語発音評価が向上する」ことが判った。また,Nipponglish Ver. で歌ったグループの方が,表現力以外の各発音項目で発音得点上昇率は高かった。とりわけ,音声学の専門家による評価では統計的に有意な差が認められた。さらに,流暢性の向上率において,チャンク発音の音実現性に優れたNipponglish カナで歌唱したグループが従来のカナルビで歌ったグループを大きく上回ったことは,カタカナの振り方によっては,流暢な英語発音に誘導できることを実証したと言える。
Nipponglish システムは,2017 年10 月5 日より,㈱第一興商のLIVEDAM STADIUMシリーズで配信されている洋楽カラオケのうち,歌唱頻度の高い上位曲を中心に現在600曲以上に採用されており(2019 年5 月現在),今後も順次増える予定である。我々は,それらの曲すべてに★1~★5まで英語発音の難易度レベルを設定した。採録曲と英語発音難易度はホームページ(http://nipponglish.com/dam/nipponglish_song_list)で公開している。これにより,自分の発音レベルを客観的に評価でき,自分のレベルに合った練習曲を選ぶ手掛かりにもなる。
また, 著者の勤務校では, 大学の英語授業の一環でカラオケを利用するために,(株)第一興商の最新機LIVEDAM STADIUM が設置されており,授業の補習や課題に利用したり,一般貸出も行い,学生からも好評を得ている。2017 年12 月には, 同大学にて第1回の英語カラオケ・コンテストが開催され, 13 名が決勝大会に進出し, 上位3 位の学生が表彰されるなど, 大学教育における先進的なカラオケ利用の試みを行っている。
今後の課題としては,今回のカラオケ歌唱実験のTESOL 資格保持者英語母語話者による評価では,従来カナと新しいカナで発音評価の向上率において統計的有意な差は見いだせなかった。その大きな理由として,5 回歌唱練習を行う際,元歌の英語発音を聞いていないことが考えられる。すなわち,教師音声に続いてそれを真似て音読することが,シャドーイングに近い認知負荷を与え,音韻符号化の学習が起こりやすいと考えられるが,今回はカラオケソフトの都合上,カタカナのみを見ながらの音読となった。もし,ガイドボーカル付きのカラオケソフトを利用して5 回の歌唱練習がなされれば,先に実施した音読実験の結果から推論するに,Nipponglish カナで歌ったグループの発音向上率はさらに上がった可能性がある。こうした追実験は,今後直ちに行う予定である。
また,今回の実験では,英語母語話者と音声学専門家による評価結果が異なった。英語母語話者のTESOL 資格保持者であっても,必ずしも音声の専門家ではない。よって,日本人英語学習者の英語音声実現の客観的評価に関する分解能には限界がある。今後,頑健な評価を担保するにはこの問題を改善し,音声の専門家による評価割合を増やした上での追実験が必要であると考える。
All I Want for Christmas Is You / Mariah Carey
1)英文のみを見て復唱するグループ用
短縮形
01. There’re two people that know a lot about computers.
02. OK. That’ll be fifteen dollars in total.
03. We should’ve done more advertising on buses.
連結
04. What’s happening? We should check it out.
05. I’m always so happy when I hear her sing.
06. It looks as if it’s really popular.
無開放破裂音
07. You’d better watch your step.
08. I’d like to talk to you about some important points.
tの弾音化
09. I’m a little out of shape, but I’ll try my best.
融合同化
10. I just called you to let you know something.
11. I’m sorry, but it was your own fault.
/n+t/同化
12. The training seminar was held on the twentieth floor.
2)カナ付き英文を見て復唱するグループ用
短縮形
01. There’re piles of documents on the desk.
02. That’ll be 19 dollars in total.
03. You should’ve prepared the sales figures by now.
連結
04. That will make it easier to create jobs.
05. The exhibition at the museum is the same old stuff.
06. It looks as if it’s going down.
無開放破裂音
07. Can you help me out? I can't use my laptop.
08. Look at that line at the checkout counter.
tの弾音化
09.What is the title of the symposium?
融合同化
10. I made your reservation and printed your boarding pass.
11.Has your new job been decided yet?
/n+t/ 同化
12. In that case, there’s plenty of space.