LET Kanto Journal
Online ISSN : 2432-3071
Print ISSN : 2432-3063
Articles
Effects of Explicit Instruction of Loanwords on Vocabulary Learning: Focusing on Learners’ Receptive Word Knowledge
[in Japanese]
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 5 Pages 58-72

Details
Abstract

This research examines the effects of the explicit instruction of English loanwords in vocabulary learning on 74 junior college students who were divided into two groups (a treatment group and a contrast group) according to their English proficiency. Explicit instruction of loanwords along with regular vocabulary instruction was provided to learners in the experimental group in the L1 (Japanese) while the control group was provided with only regular vocabulary instruction. This study investigates whether explicit instruction in the L1 enhances the learners’ lexical understanding of loanwords as well as their receptive vocabulary. Two explicit instruction sessions were given during regular class periods. The results of a vocabulary post-test given one week later and a delayed test eight weeks later indicated that the treatment group outperformed the control group on the post-test but showed a decline in mean score on the delayed post-test and that both English learners of higher and lower proficiency levels in the treatment group produced great learning gains on the post-test but showed no statistically significant difference detected eight weeks after learning. The initial conclusions of this study suggest that explicit instruction in the L1 of English loanwords suggests a positive correlation in the retention of lexical knowledge with relatively short period of time despite learners’ English proficiency.

1. 問題の所在

1.1 日本人学習者の語彙力不足

英語の4技能を通じた言語活動における語彙の果たす重要性は,多くの研究者が語彙力を英語力の基本と捉えていることから明らかであり(Schmitt, 2000; Nation, 2005),また学習者側も語彙学習が英語学習において最も重要な要素であると認識しており(Horwitz, 1988) 語彙力を向上させたいという意識も高い。

しかしながら,日本人英語学習者の英語力の問題点として語彙力の不足は深刻であり,大学新入生が実質的に獲得している語彙数は約2,000語という推定や,高校3年の段階で約60%の被験者が2,000語,あるいはそれ未満の語彙レベルにあるという報告もある。

これらの知見と併せ指導要領で提唱されてきた中学校1,200語,高等学校1,800語,合計3,000語のうち,大学・短大入学時点で全学習者に対し共通して提示された語彙は中学校・高等学校の英語教科書の採択語彙のばらつきの問題で合計およそ1,200語に満たないことも明らかになっている。結果,短大・大学入学時点で新入生の既知の単語には大きな個人差があり,入学後の学習者の語彙力の差を増幅させている可能性があると考えられる。

1.2 語彙指導の問題点

語彙学習には語彙の学習を直接目的として行う意図的学習と,語彙学習以外を目的としながら付随的に語彙を学習する偶発的学習があるが(Schmitt, 2000),日常生活の中で英語に触れる機会の少ない日本の環境では,偶発的学習によって付随的に語彙を学んでいくことは困難であり,語彙知識の少ない英語熟達度の低い学生が効率的に語彙を学習しようとすれば,意図的学習が必要である。しかし日本のEFL学習環境下においては,語彙の意図的学習の指導は系統的に行われているとは言い難く,教師の裁量と学習者の自己努力にまかせるという状況が多くみられる。

語彙学習の意図的学習の指導において,教師が学習者の語彙力を把握し,そのレベルに合わせた指導法を取り入れていくことは重要である。特に,大学・短大に入学したばかりの1年生に対しては,どのような語彙をどのように提示していくかという語彙選定の問題があり,語彙属性における学習促進要因を検証する必要がある。

Readingにおいては高・中頻度4~5,000語でカバー率が95% (Nation, 2005),Listeningでは特に高頻度2~3,000語のword familyの語彙知識が必要という主張(van Zeeland & Schmitt, 2013)があるように,語彙の出現頻度順位は学習語彙選定の重要な指標のひとつではある。しかし頻度順位が,学習者が遭遇する頻度順位と必ずしも一致しているとは限らず,英語熟達度の高くない日本人EFL学習者にとっては完全に未知の語彙が高頻度語彙に含まれる可能性も指摘されている(Schmitt & Meara, 1997)。頻度順位以外の語彙習得を促す別の手がかりや促進要因の検証も,英語熟達度の高くない学習者を念頭に置いた語彙指導においては必要となる。

2. 語彙習得と借用語

Nation (2005)はL1語彙にL2語彙のオーバーラップがある場合,学習の負荷を軽減することができ,学習を促進すると述べている。語彙親密度に近い属性としての借用語は語彙の学習促進要因のひとつとして捉えることができる。

英語語彙学習を念頭においた借用語の特性について概観する。Daulton (2008)は高頻度英語語彙2,000語の38.0%,3,000語の45.5%が借用語だと主張している。南部・鈴木 (2020)Nation (2017)が作成したThe BNC/COCA Level 6 word family listsの10,000語からの借用語抽出作業を通じて,高・中頻度語彙(5,000語)においても約半数(2,241語),10,000語レンジでも3割弱(2,863語)の語彙が借用語を通じて学習できることを明らかにした。

このように,高・中頻度語彙に広く分布する借用語であるが,語彙指導における活用の是非についてはその有効性と併せて弊害も指摘されている。Simon-Maeda (1995)は,借用語と実際の英単語の原義との乖離や発音との相違,短縮形,和製英語との混在,等の可能性を学習者にとっての混乱要因として報告している。

しかし,極端な語義変化や発音の乖離はごく例外的であり,80%以上の借用語の英単語の原義はL2に転移可能で理解に混乱をきたさない(Ishikawa & Rubrecht, 2008)という指摘もある。また,中・高の英語教科書の問題点として,生活語彙が不足することがこれまで繰り返し指摘されており,実際に教科書語彙がどれだけ生活用語をカバーしているかという「カバー率」を調査した結果においても,その低さが確認されている(長谷川・中條, 2004)。

高・中頻度語彙レンジに分布する借用語の多くは日常生活に密着した語彙が多いことから,学習者は生活に密着した英単語を借用語を通じて学べるという付随的学習効果も期待できる。こうした理由から本稿では,日本のEFL環境下において借用語を活用して英語の語彙を学ぶことは,弊害よりも有効性が高いとの見地を取る。

3. 先行研究

Inagawa (2007)は,86名の高校生と34名の大学生に対し,それぞれ1つの借用語を含んだ70項目の英文の中の当該語が英語の原義と同一か判断する正誤テストを行い,借用語の受容語彙としての理解度は英語学習歴で有意な差があること,また英語学習歴に関わらず,借用語の理解度は借用語の類型によって一定の傾向があることを明らかにした。

Kawauchi (2014)は借用語の音節数の違いによる習得度を,学習者の産出語彙力と受容語彙力を測定するテストによって調査した。英語語彙力の異なる3グループの大学英語学習者を対象にした実験の結果,全ての学習者において産出語彙よりも受容語彙の結果が高く,語彙力の高いグループは低いグループに対して,受容,産出語彙両方の結果に関して高かった。また,音節数の違いによる学習効果として,1音節の借用語が最も難易度が高い傾向があることも明らかにした。

Rogers, Webb & Nakata (2015)は30名の大学英語学習者を対象に,借用語・非借用語各11語を調査対象語彙として,語の綴りによる学習語彙の産出・受容語彙能力の推移を測定する実験を行った。結果,指導直後に実施した事後テストの結果は借用語の結果が顕著に有意に高かったが,指導一週間後の事後テストの結果は借用語・非借用語の定着率に有意な差がなかった,と報告している。

以上3つの先行研究から,借用語の語彙指導における活用は有効である可能性が高いが,その効果は借用語の類型や語長などの語彙属性や,学習者の学習歴や熟達度によってもその表れ方に差があることが示唆された。しかし,このような語彙指導を教育現場にさらに導入することを検討する場合,先行研究において以下の3つの問題点が指摘できる。

1点目は,長期的な語彙学習の効果という視点である。先行研究では,借用語の語彙指導の直接的効果は検討されてきたが,それらの多くは1~2週間の短期的な語彙力保持効果を見るにとどまった側面が強く,第二言語の語彙習得には長期間要するとの指摘(Nation, 2005; Schmitt, 2000)からも,先行研究の実験で得られた借用語の指導の効果は被験者のサンプル数の問題も含め,一時的であった可能性は否めない。

2点目は,実験被験者の英語熟達度の違いと指導の効果検証の問題が挙げられる。明示的指導の効果は学生の習熟度と関係が深く,習熟度の高い学習者に一般的に効果的という主張(白畑, 2015)があるが,先行研究では実験参加者の英語熟達度が学習者の一部の語彙力もしくは英語学習歴のみで指標化されており,学習者のより現実的な習熟度に合わせた意図的学習法としての借用語の指導が,語彙の定着度の効果に有効かという検証はなされていない。

また,学習者の語彙サイズが5,000語以下の場合,個々の語の知識の深さはそれほど重要ではなく,意味だけでもより多くの単語を知っている方が重要である(Meara, 1995)という見地からは,先行研究で扱われている借用語としての調査対象語彙は英語熟達度の高くない学習者に語彙サイズ8,000語以上の語彙をランダムに採択しているものも散見され,語の難易度の影響要因(生起頻度,語彙親密度,語長,音節数など)が十分に統制されておらず,学習者の熟達度に適した学習対象語彙から導かれた結果とは言えない部分がある。

4. 本調査

4.1 調査目的

以上から,本研究の研究課題を以下のように設定した。

  • (1) 出現頻度3,000位までの高頻度基礎語彙における借用語の明示的語彙指導の有無は短期 
  • および長期の受容語彙の記憶保持へ影響を及ぼすか。
  • (2) 英語熟達度の差によって借用語の明示的受容語彙指導の効果に違いはあるのか。
  • (3) 語彙学習において,借用語の明示的指導は学習者に好意的に受け入れられるか。

4.2 調査参加者

本実験の参加者は英語を学ぶA短期大学の1年生の2クラスに属する(各40名と34名)計74名であり,入学時に受験したTOEIC Bridge IPテストの結果(M=118.17, SD=12.21)から,英語の習熟度は初・中級レベルと判断された。2クラスを,それぞれ明示的指導を受ける処置群と,明示的指導を受けない対照群とした。前述のテスト結果のt検定(両側)の結果,2クラスの得点の平均値の差は統計的に有意ではなかった(t(72)=0.49, p=.621, d=.01)ことから,両群は英語力において同質であり,比較が可能な2群であると言える。

4.3 学習対象語彙

学習対象語彙は,以下の手順で語彙難易度を統制して抽出した。本実験の学習者の英語熟達度は高くないことを考慮して,語彙親密度コーパスの『教育・研究のための第二言語データベース 日本人英語学習者の英単語親密度 文字編』(横川他, 2006)の出現頻度順位1,000~3,000位までの語彙かつBritish National Corpus/Corpus of Contemporary American English(BNC/COCA; Nation, 2017)の3,000位レンジまでに属する語彙の中で,(1)借用語としての使用が広辞苑で認められ,かつ(2)Daulton (2008)及び南部・鈴木 (2020)の借用語リストに共通して記載されており,(3)5名の日本人英語専任教員全員が借用語としての語義が英単語の原義と乖離がないと確認を行った語彙から,計40語の英単語を親密度評定値と平均音節数の偏りが生じないように抽出を行った(表1)。また,語彙学習およびテストに用いた例文の作成に関しては,COCA corpus (Davies, 2008)から本研究の学習者に適したレベルの例文を抽出し,例文を構成する語彙の中で低出現頻度語彙がある場合は上記(1)の基準を満たす語彙に置き換えたのち,3名の英語母語話者教員によって各例文の難易度を平準化した。

表1 本実験の学習対象語彙(借用語)
親密度評定5.0~7.0 priority, trend, impact, import, protect, vision, escape, package, crash, outline, steady, discovery, inspire, sensitive, gesture, guideline, promotion, personality
親密度評定4.99~3.0 conservative, finance, assessment, phase, reject, reasonable, initiative, strategy, commitment, consumer, recommend, alliance, circuit, framework, competitive, peak, reputation, conflict

4.4 本調査で実施した明示的指導法

英語の語彙や文法知識は,インプット(input),気づき(noticing),理解(comprehension),内在化(intake),統合(integration),アウトプット(output),のプロセスを経て,言語運用能力が形成される(Ellis, 1994; Gass, 1988)。本研究における明示的語彙指導とは,この一連のプロセスにおける語彙の知識の明示化の「気づき」から「理解」への橋渡しのステージにおいて,英単語の借用語としてのL1における役割を明示的に説明し,用例からその共通点や共通概念を見つけ出すことにより新出語の習得における語彙の記憶への負担を軽減させ,知識の定着を促進するきっかけとなることを目指した。

語彙指導は,2週間にわたり2回の授業時間を使用して実施された(表2)。指導の導入部では,授業開始時に配布されたワーク(図1)の上部の英文の用例スライドと画像イメージを通じて,英単語としてのコアミーニングを和文および英文の双方の用例で把握させるための説明を行った。ここでのコアミーニングとは,語彙の文脈に依存しない最大公約数的な意味であり,個々の用例から抽出された類似性から生成されるその語の核となる意味体系をさす(田中, 1990; Morimoto & Loewen, 2007; Mitsugi, 2013)。

ワークの日本語の例文作成に関しては,学習者は短期大学1年生で就職活動が目前であるという背景もあり,就活生としての日本語能力向上の必要性も鑑み,リクナビ等の就活サイトに掲載されている借用語の用例を参考に作成した。

指導の「導入・理解」のステージにおける英文の用例観察,および用例の和訳作業に関しても処置群・対照群ともに配布ワークを用いて共通のアクティビティを行った。理解をさらに促進させる段階としての協同学習においては,処置群は用例文の和訳をペアワークにて相互に確認し合い意見交換を行い,机間巡視している指導者はペアごとにコアミーニングの観点から助言を与えた。処置群においては,借用語が日本語環境で各例文中の借用語に関する個々の学習者が持つ日本語としてのイメージを話し合う作業を行ったのち,当該語彙が用例文以外でどのように使用されうるのかをスマートフォンで検索させ,その日本語用例をワークに記述させてペア間でシェアを行った。

処置群・対照群における協同学習の共通点は,お互い語彙に関するイメージが異なる場合その差異を相手に説明しなくてはならないため,その過程で様々な気づきが得られ,教師主導の演繹的な手法での語彙指導では気づけない語彙の側面を知ることができる効果を期待した。なお,両群とも指導者は同じで,協同学習のステップ以外はできるだけ同一の指導となるようにした。

表2

処置群・対照群の指導手順と指導内容の概要

図1 語彙指導のために作成・使用したワークの抜粋

4.5 評価の方法

指導実践効果の検証は両群に語彙指導を行った語彙を扱った受容語彙テストで行った。語彙テストは,処置群・対照群ともに,明示的指導直前の事前テスト,3回の指導終了1週間後の事後テスト,指導8週間後に行った遅延テストの3種類を実施した。テストはワークブックで扱った借用語の受容語彙としての知識を問うもので,問題文中の英単語を見てそれに対応する日本語訳を選択させる多肢選択式テスト(計50問, 15分)を採用した。繰り返し効果を避けるために,問題文と選択肢の順序はテスト毎に入れ替えた(図2)。

図2 多肢選択式テストの例

5. 実験結果と分析

受容語彙テストの結果の基本統計量を表 3 に示し,事前,事後,遅延テストの平均値の推移を図 3 に示した。また,分散分析のための内的整合性の確認のため,クロンバックのα係数より各テストの信頼性を検証した。

表3

受容語彙測定テスト(事前・事後・遅延)の記述統計

図3 処置群・対照群の平均得点の推移

借用語の明示的指導の効果を処置群と対照群に対して繰り返しのある2要因混合計画の二元配置分散分析を行った(表4)。まず,指導法の主効果は有意傾向にあり(F(1,72)=8.08, p<.0.01, η2=.05),テスト回要因の主効果は有意であった(F(2,144)=130.65, p<.0.01, η2=.29)。さらに指導法×テスト回の交互作用が有意傾向(F(2,144)=5.51, p<.0.01, η2=.06)であったため,単純主効果の検定を行った。

テスト回要因の各水準(事前テスト・事後テスト・遅延テスト)における指導法の単純主効果の検定の結果,事後テスト(F(1,123)=13.34, p<.0.01)および遅延テスト(F(1,123)=8.24, p<.0.01)では1%水準で有意であったが,事前テスト(F(1,123)=0.68, p=.40)における両群の差は認められなかった。指導法要因の各水準(処置群・対照群)におけるテスト回の単純主効果は処置群(F(2,144)=103.24, p<.0.001)と対照群(F(2,144)=38.20, p<.0.001)の両群ともに0.1%水準で有意であることが確認された。

Bonferroni法による多重比較を行った結果,対照群は事前テストに対し,事後テスト,遅延テストでは1%水準の有意差で得点の上昇が見られたが,事後テストと遅延テストには有意差が見られなかった。処置群においては事前テストに対し,事後テスト,遅延テストでは1%水準の有意差で平均値の上昇が見られ,また事後テストと遅延テストの間にも有意差が見られた。

これらの結果から,処置群の学習者に対しての借用語の明示的語彙指導は,明示的な説明を受けなかった対照群の結果と比べて指導直後では効果があるが,指導後8週間を経過すると明示的指導を通じて獲得した語彙知識は忘却が早く,L1知識を介した気づきの促進が語彙の記憶定着には効果が限定的な可能性が明らかになった。

表4

語彙の明示的指導の有無に関する二元配置分散分析の結果

次に,明示的指導は習熟度の高い学習者に総じて効果的であるという主張(白畑, 2015)が借用語の明示的語彙指導にも該当するか検証するために,処置群を英語習熟度の上位・下位群で分けて調査した結果を示す。表5に処置群の上位・下位群の各テストにおける正答の平均値と標準偏差を,図4に処置群の上位・下位群の平均得点の推移を示した。

表5

処置群(上位・下位)受容語彙測定テスト(事前・事後・遅延)の記述統計

図4 処置群の上位・下位群の平均得点の推移

借用語の明示的指導の効果を英語熟達度の違いで検証するために,処置群の上位群と下位群に対して繰り返しのある2要因混合計画の二元配置分散分析を行った(表6)。その結果,テスト回の主効果(F(2,76)=109.09, p<.0.01, η2= .42)とグループの主効果(F(1,38)=61.24, p<.0.01, η2= .26)が有意であったが,交互作用(F(2,76)=0.81, p=.44, η2= .003)は有意でなかった。

主効果が有意であったため多重比較を行った結果,事前と事後,事前と遅延テストの間に有意な差があり(p=.00),2群においてスコアの平均値を向上させていた。しかし,どちらの処遇もスコアを向上させる効果を示したが,交互作用が有意でないため,処遇の効果の差は見いだせなかった。

表6

処置群のスコア上位・下位群に関する二元配置分散分析の結果

6. 質問紙調査結果

研究課題における借用語の明示的指導は学習者に好意的に受け入れられるかを検証するために本実践の2019年度の終了時に処置群の学生40名を対象に質問紙調査を行った。調査項目は,本研究の目的に照らし,借用語語彙指導を受けた学習者に対する調査(Daulton, 2011; Kurahashi, 2011)の項目を参考に作成した(表7)。

5つの質問文「1. 中学・高校の先生は英語授業で借用語に触れていた」(学習者の経験),「2. 借用語が商品やマスメディアで多用されていることは許容できる」(生活での許容度),「3. 借用語の和訳と英訳にズレがなければ,借用語を使って話したい」(使用の積極度),「4. 英語の勉強をひとりでするとき借用語は邪魔になる」(学習阻害要因),「5. 借用語の和訳が英語の意味と同じであれば,授業で扱ってほしい」(学習促進要因),に対して「全くそう思う」,「そう思う」,「どちらとも言えない」,「そう思わない」,「全くそう思わない」の5つの選択肢から1つを選ぶ5件法を用いた。

項目1の中学高校での借用語授業経験に関しては,「全くそう思う」もしくは「そう思う」と回答した学生は7名(約17%)であり,大部分の学生が短大入学前の借用語の学習経験は少ないことが明らかになった。次に,項目2で借用語の商品やマスメディアでの多用の許容度を尋ねたところ,「全くそう思う」または「そう思う」と答えた学生は35名(約88%)に達し,社会生活を通じた学習者の借用語の許容度は非常に高いことが確認された。項目3の日常生活での使用に関しては,20名(50%)の学生が積極的であるが,同様に「どちらとも言えない」と回答した学生が一定数(約40%)存在することは特徴的である。次に,借用語の英語学習における活用の是非を尋ねた項目4,5を通じて,過半数の学生(約52%)が英語学習において借用語を阻害要因としてはみなしておらず,またほとんどの学習者(約93%)が借用語の語義がL1とL2で乖離がない場合は積極的な使用に好意的であることが明らかになった。

表7 処置群(n=40)の借用語に対する質問紙調査結果
No 質問事項 1 2 3 4 5 M SD
1. 中学高校の先生は英語授業で借用語に触れていた 14 8 11 6 1 2.33 1.18
2. 借用語が商品やマスメディアで多用されていることは許容できる 0 2 3 25 10 3.80 0.74
3. 借用語の和訳と英訳にズレがなければ,借用語を使って話したい 1 3 16 15 5 3.50 0.90
4. 英語の勉強をひとりでするとき借用語は邪魔になる。 0 21 11 7 1 2.63 0.94
5. 借用語の和訳が英語の意味と同じであれば,授業で扱ってほしい 0 1 2 20 17 4.24 0.81

5「全くそう思う」,4「そう思う」,3「どちらとも言えない」,2「そう思わない」,1「全くそう思わない」

以上をまとめると,大多数の学生は中学高校の授業を通じては借用語との接点に乏しいが,日常生活で借用語を受容することにほとんどの学生は抵抗がなく,またL1の産出語彙として借用語を日常生活で使用することに対する是非については,借用語のL1とL2の語義の乖離の有無によって学生によって違いがあることが分かった。

そして英語学習面においては,借用語のL2としての用法に語義的な混乱要因が存在しない場合は,借用語を通じた語彙指導に学習者のほとんどは好意的であることが明らかになった。

7. 考察と課題

本研究では,短期大学英語学習者に,未知語の基礎語彙について借用語としての用法についての明示的な語彙指導を日本語で施し,指導直後の1週間後の効果と指導終了から8週間後の効果の両方を調べた。その結果,明示的指導の有効性がいくつかの点で明らかになった。

一つ目は被験者全体の傾向として,借用語の概念や用法に関する意味説明を伴う明示的語彙指導は受容知識としての語彙力向上に効果的であった点である。この結果から,語彙的意味の伝達が主となる学習項目は明示的指導の効果が期待されうる(白畑, 2015)という主張において,借用語の明示的指導も一程度有効な学習項目であることが本研究によって示された。しかし,処置群全体では8週間後の記憶定着は十分ではなかったことから,明示的指導の協同学習におけるあり方や,教材作成者が意図した気づきの創出が不十分であった可能性などを今後検証し授業実践に反映していく必要がある。

二つ目に,処置群の学習者を英語習熟度の上位・下位群に分類して分析を行ったところ,実験結果では指導直後の1週間後と8週間後の双方において明示指導の効果が見られた。しかし,両群における定着の効果の差は見られなかった。このことから,借用語の明示的指導は,英語熟達度の高低にかかわらず語彙の学習効果がある程度有効であり,同一指導者からの同一語彙項目に関する明示的説明であっても,学習者の習熟度によって定着の効果にあまり差が生じない可能性が示された。反復が語彙学習にとって必要不可欠である(Nation, 2013)という側面において,学習者の習熟度に合わせて語彙反復学習の機会を中長期的視点でどのタイミングで設けるかということを考えた場合,本研究の結果は有効な示唆になり得るが,今回の研究においては両群のサンプル数が十分でないという側面もあり,英語熟達度と明示的指導の効果の関係に関しては今後,より検証が必要である。

最後に,本実験と質問紙調査の結果を併せた知見として,学習者は中学高校レベルの基礎語彙のおよそ半数が借用語である(Daulton, 2008)にも関わらず,その語彙特性を考慮した英語授業を過去に受けた経験は乏しいが,借用語の日本語としての用法に英語原義との乖離がない,もしくは少ない場合は借用語の学習に好意的であり,借用語の明示的指導が学生の語彙学習動機向上の一助となる可能性も明らかになった。

本研究において,上記のようにいくつかの点で借用語の明示的指導の有効性を明らかにすることができた。しかしながら,借用語の明示的指導のさらなる有効性を検証するためには,処置群と対照群の結果の違いが指導方法もしくは指導時間の長さのどちらで顕著にもたらされたのかということ,また語彙記憶の忘却という視点では,8週間以上のより長期的な記憶保持の調査を行い有効な語彙反復指導の方法を検証することが必要である。

語彙能力の拡張という視点では,本研究では学習者の英語熟達度を考慮し,学習対象語彙を出現頻度レベル3,000語の範囲で選定したが,指導環境の学習者の英語習熟度の幅を考慮して,頻度5,000語レベル以上の語彙も調査対象語彙とした効果検証も必要であろう。

また本研究では,語彙難易度の影響要因(生起頻度,親密度,語長,音節数など)の一つである品詞の違いによる効果に関しては厳密な検証を行っていない。出現頻度10,000語レベルでの借用語として使用される英語語彙の品詞出現度は一般的な英語の品詞の出現割合とされている,動詞:名詞:形容詞=3:2:1とは大きく異なり名詞が突出して出現度が高く(総語数の75%),次に形容詞と動詞(それぞれ総語数の12%,10%)となる(南部・鈴木,2019)。このことから,借用語の語彙指導にあたっては一般的な語彙習得と異なり,名詞由来の借用語が多くを占めることを学習者に理解させ,また動詞・形容詞由来の借用語の指導効果を検証して品詞別の語彙定着を検証していくことも今後重要であろう。さらには語彙知識の運用要素をより多角的に拡張し,受容語彙能力だけではなく産出語彙能力を向上させる明示的指導の検証,そして4技能の育成も視座に入れた実証研究も今後実施の必要があると考えられる。

謝辞

本稿の完成にあたり,有益な御助言を下さいました査読委員の方々に厚く御礼申し上げます。また,本研究は科学研究費補助金(17K02896)の支援を受けて行われました。ここに感謝申し上げます。

引用文献
 
© 2021 The Japan Association for Language Education and Technology, Kanto Chapter
feedback
Top