LET Kanto Journal
Online ISSN : 2432-3071
Print ISSN : 2432-3063
Class Report
Effects of an eTandem Video Chat Exchange:
A Practice Between a Japanese Public Elementary School and an Australian Public P-12 School
Masae Konishi
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2024 Volume 9 Pages 1-27

Details
Abstract

An eTandem video chat exchange project was conducted in a public elementary school in Tokyo, Japan. Forty sixth-graders participated in the exchange with a gross number of 37 Year 8 students at a P-12 public school in Melbourne, Australia. The pupils in Tokyo were learning English at school, and the students in Australia were learning Japanese. They shared the two languages in the video chat and used them interchangeably to negotiate the meanings in their collaborative interaction. 97% of the Japanese pupils felt the exchange was enjoyable, and 97% wanted to talk with their partners again. 91% said they became more eager to learn English than before experiencing the exchange. The eTandem language exchange condition allowed them to be autonomous in communicating with their partners because they had no detailed control from their instructor about the content or language choice during the exchange. The video chat situation increased the communication clues for the pupils on the video chat screen. The elementary school principal and the teacher in charge of their English classes felt satisfied with the exchange’s success. They were willing to create another chance for the pupils to meet each other on the video chat screen.

1. はじめに

文部科学省は2014年にグローバル化に対応した英語教育改革の提言を出し(文部科学省,2014),英語でのコミュニケーション機会の充実を図るよう通達を出している。英語を教室内での机上の学習に留めず,実際に海外の人々と交流のできるコミュニケーション能力を育成することを,全学校種における英語教育の中心的な目標として掲げている。その目標達成に向けて,教室に居ながらにして,外国で暮らす同年代の児童と親しく言葉を交わす経験を,学校教育における外国語学習の一環として提供できれば,コミュニケーション能力養成にも肯定的な影響をもたらすであろう。情報通信技術(Information Communication Technology: ICT)の活用が遅れていると言われていた日本の英語教育界(Pelgrum & Voogt, 2009)においても,文部科学省が強力に推進しているGIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想によって整備された各学校のインターネット環境を利用して,ビデオチャットを用いた国際交流活動を実践すれば,文部科学省の掲げるコミュニケーション機会の充実を図るという目標を達成できると考えられる。GIGAスクール構想では,「海外とつながる「本物のコミュニケーション」により,発信力を高める」という目標が,外国語教育の目標として掲げられている。一人一人の児童生徒が海外の子供とつながり,英語で交流を行うことが,一人一台の端末利用により実現できると示されている(文部科学省,n.d.)。

交流相手同士が互いの母語を学んでおり,言語交換状況が成立する,イータンデムという条件でのビデオチャットを用いた国際交流活動は,高等教育においては,国内外において先行事例が蓄積されてきている(Appel & Mullen, 2000; Cziko, 2004; 林他, 2013; Kato et al., 2016; Konishi, 2017; Lewis & Qian, 2021; McCarthy & Armstrong, 2021; Mullen et al., 2009; Resnik & Schallmoser, 2019; 脇坂, 2012; Zhou, 2023)。しかしながら,日本語学習者を交流相手に選び,英語と日本語の言語交換状況が生み出す,イータンデムの利点を明確に意識した,初等中等教育での交流実践事例の報告は少ない。著者の大学でのイータンデム・ビデオチャット交流の取り組み(Konishi, 2017)を知り,英語担当教諭が著者にコーディネートを依頼し,交流を実施することになった神奈川県の公立小学校での実践事例(小山・小西, 2024)と京都府の小中一貫校での実践事例(Konishi, in press)に続いて,本実践報告論文では,東京都の公立小学校がオーストラリアの公立小中高一貫校との間で実践したイータンデムでのビデオチャットを用いた国際交流活動での児童の反応を分析し,公立小学校でのこうした交流の取り組みの利点や問題点を整理することを目的とする。

2. 理論的背景

2.1 イータンデム・ビデオチャット交流の特徴

本実践事例で取り上げたイータンデムという交流は,学習者が互いに交流相手の学習言語母語話者であり,自身の母語を学習する児童,生徒,学生とペアを組んで国際交流を図る活動と定義される。参加者は,互いの外国語学習に貢献するだけでなく,文化の共有も可能となる(Thorne, 2003; 2006)。タンデム言語学習はヨーロッパで広く用いられ,インターネットが発達する以前から対面式でも行われてきた(脇坂,2012)。その後,インターネットの発達に伴い,電子的なツールを活用することにより,タンデム言語学習はイータンデム(eTandem)と呼ばれるようになったという経緯がある(Appel & Mullen, 2000; Brammert, 1996, 2003; Cziko, 2004)。

イータンデムの特徴として,相互利益性と自律性という2つが挙げられる。ペアを組んだ学習者が言語交換状況において,母語話者として互いに相手の外国語学習を手助けできるため,協働学習を通じて,互いの母語に関する言語知識や母文化の情報を共有することができ,相互に利益を享受できるとされている(Miyake & Kirschner, 2014)。イータンデムでは,ペアでの活動の際に,学習の進め方に教師の調整が入らず,学習目標言語と母語を互いに共有する個々のペアが,活動内容や互いの目標達成方法などを学習者自らで話し合って決めることが認められる。これにより,参加者は自己の学習を自律性をもって決定できる(Belz, 2003; Benson, 2011; Brammerts, 2003; Murray, 2014)。

イータンデムの中でも,ビデオチャットを用いた交流の特徴としては,同時性と双方向性が挙げられる。ビデオチャットでは,交流参加者がビデオチャットのミーティング・ルームに同時に入室し,その場で言葉を交わし,メッセージのやり取りをすることにより,即時性と双方向性のあるコミュニケーションを経験できる。Daft and Lengel(1986)によるメディア・リッチネス理論(media richness theory)では,ビデオチャットは対面でのコミュニケーションと同様に,豊かなコミュニケーション・モードであるとされている。音声だけでなく,映像を伴ったコミュニケーションが可能となるため,相手の声の調子に加えて,表情や背景に映る相手が置かれている環境に関する情報を,映像を通して確認できる。ビデオ映像から得られる情報により,コミュニケーションのための手掛かりが多く,Walther(1992)の提唱する社会的存在理論(social presence theory)では,それらの手掛かりやチャンネルの多さにより,愛情や温かみを生み出すこともできるとされている。このような映像から得られる情報により状況性を確保でき,Brown, et al.(1989)Lave and Wenger(1991)の提唱する学習理論である,状況に埋め込まれた学習(situated learning)により学習が促進されると考えられる。

本実践事例で取り組んだイータンデム・ビデオチャット交流は,小学校での実践であるという条件により,1対1のペアを組むことはできず,4-5名で1グループを構成し,少人数でのグループ・ワークとして実践した。英語学習者である日本人児童と日本語学習者であるオーストラリアの生徒との間で行われたイータンデムは,母語と学習目標言語を併用でき,話題や二言語の使用割合を,グループ内で相談しながら,児童・生徒自らで,その場のコミュニケーションの流れに応じて決定できる環境で実施した。教師が過度に交流内容を統制しないという合意のもとで,相互利益性と自律性を保った活動を体験できる環境であった。

2.2 外国語学習の楽しさ

外国語学習に影響を及ぼす要因として「不安」を取り上げる研究は,古くから行われてきていたが(Horwitz, 2001, 2010; MacIntyre & Gardner, 1991; Scovel, 1978),2000年以降,肯定的感情に注目する研究が増えてきた。2000年にはAmerican Psychologistという心理学分野の学術雑誌が,肯定的心理学(positive psychology)の特集を組んだ(Seligman & Csikszentmihalyi, 2000)。Fredrickson(2001)は,肯定的感情は単にその場で心地よさを感じるだけでなく,身体的・知的資源や,社会的・心理的資源に至るまで,個人の資質を構築し,幸福に寄与するとして,肯定的感情の拡大・構築理論(the broden-and-build theory of positive emotions)を提唱した。肯定的感情は心を広げ(broaden),探索行動を促すことにより,新しい経験をする機会を得ることへとつながるとし,それにより,社会的資源を人が構築する(build)のを手助けすることになると論じている。さらに,Fredrickson(2003)では,肯定的感情は時間をかけて心を広げ,人々が先の人生において生き残る機会を増やす可能性のある,新しい知識を発見する鍵を握ると論じている。

第二言語習得研究分野に肯定的感情の概念を導入したのは,MacIntyre and Gregersen(2012)であったと言われている。その後,外国語の楽しさ(foreign language enjoyment: FLE)として,Dewaele and MacIntyre(2014)らが注目している。Dewaele and MacIntrye(2014)では,従来研究対象とされてきた「外国語教室不安(Foreign Langauge Classroom Axiety: FLCA)」とFLEを研究参加者に対して同時に質問紙調査をすることにより,2つは互いに独立した感情であり,同一尺度上の対極に位置するものではないことを明らかにした。「楽しさ」は馴染みのない言語的,文化的世界を探索するための心理的な安全基地を提供し,言語学習の潜在的可能性を解き放つ感情的な鍵を握ると考察している。

Dewaele and Alfawzan(2018)では,ロンドンで外国語を学ぶ中等教育学校の生徒を対象とした研究と,サウジアラビアで英語を外国語として学んだり使ったりする大学生を対象とした研究を報告している。サウジアラビアでは,医療やビジネスなどで英語が使われており,公立学校で教えられている唯一の外国語が英語であるという社会的環境にある。しかしながら,英語の授業内では,学習者の不安が強く,英語習熟度は低い傾向にある。そのため学習者は受動的態度をとり,競争や失敗に対する恐れが不安の重要な要因となっていると説明されている。英語が社会で用いられているという社会的環境は異なるものの,教室内の学習者の様子は日本の英語学習者に通じるものがあると受け止められ,サウジアラビアの研究結果は,日本の学校英語教育にも参考になる点が多いのではないかと考えられる。サウジアラビアの研究結果として,FLEの高い学習者は,有意に英語熟達度テストの点数が高く,英語教育の現場で学習者が体験したことは,卒業後にも長期にわたってFLCAやFLEの主な原因となっていることが報告された。英語授業での経験が,その後の英語学習を継続するかどうかの判断にも重大な影響を及ぼし,ひいては英語の最終到達度にまで寄与することとなると考察している。

Resnik and Schallmoser(2019)では,イータンデムでの言語学習場面におけるFLEを調査している。オーストリアで英語を学ぶ大学生が,イギリスとアメリカでドイツ語を学ぶ大学生とペアを組み,6か月間のプロジェクトに取り組んだ。プロジェクト参加者のうち,研究協力に同意した19名に対してインタビューを実施し,その内容を詳細に質的に分析した結果,参加者たちが認識していたFLEとイータンデム・プロジェクトには肯定的なつながりがあることが提示された。相手と個人的な関係を構築できたことによりFLEが促進され,真正性のあるコミュニケーションを経験できたことにより達成感が得られた。参加者が互いに相手を学習言語の持つ文化を伝えてくれる存在であると認識し,自分が学ぶ言語だけでなく,その言語の持つ文化的背景にも関心を持つようになった。一対一での相手とのやりとりにおいて気楽さを感じ,友情が育まれたことにより幸福感が増し,社会的絆の持つ利点にも関心が向けられるようになったと報告されている。

2.3 コミュニケーション意欲

自ら意思疎通を図りたいと求めるコミュニケーション意欲(willingness to communicate: WTC)が言語使用を促進するという考え方が広がっている。MacIntyre et al.(1998)はWTCを「特定の時間に特定の人物(達)と第二言語を用いて対話に入る準備が整っていること(p.547)」と定義し,WTCに影響を及ぼす要因の発見的モデルを提示した。そのモデルは6層からなるピラミッド型をなしており,最下層から3層分には「社会的・個人的文脈」,「情意的・認知的文脈」,「動機傾向」といった特質レベル(trait-level)の要因を置き,その上の3層分に「状況的要因」,「行動の意図」,「コミュニケーション行動」といった状態(state)要因を配置している。最上部の第1層にある「第二言語使用」に直下で影響を及ぼすのが,第2層に置かれているWTCであり,第3層の「特定の人物と意思疎通を図りたい願望」と「コミュニケーションに関する自信」とともに,WTCは特質なのではなく,その場で生じるコミュニケーションに対する心的準備状態であると説明されている。このようにWTCを概念化することによって,コミュニケーションを始めることは選択の問題であり,特定の瞬間に行われる決断だと示唆している(MacIntyre, 2007)。つまり,第二言語でコミュニケーションを取りたいと思うかどうかは,その人物の持つ安定的特質による傾向ではなく,コミュニケーション場面での決断次第だと解釈できる。

Yashima(2002)では,二言語併用国家であり,第二言語話者が身近に存在するカナダでの研究をもとにしたMacIntyreらの理論では,英語を外国語として学ぶ(English as a foreign language: EFL)環境にある日本人英語学習者のWTCを論じるにはそぐわない面があるとして,国際的指向性(international posture)という考え方を提示した。日本と同様にEFL環境にあるトルコでの研究をもとにしたDörnyei(1990)も指摘しているように,日常的に英語母語話者との接触がない環境では,学習者は特定の第二言語グループに対して明確な情意的反応が持てない傾向にあるとし,日本の若い英語学習者は,漠然とした日本を取り巻く世界を象徴するものとして英語を捉えているとした(Yashima, 2002)。

日本人児童は日本を出たことがないというケースが多いと考えられるが,ビデオチャットというICTを活用して,海外在住の同年代の児童・生徒とスクリーン上で顔を合わせて,自由な話題でコミュニケーションを楽しむ経験は,Yashima(2002)の言う,漠然とした「国際的指向性」ではなく,MacIntyre(2007)の指摘する,意思の力による選択を行ってWTCを働かせる機会を提供することになると考えられる。具体的に気持ちを寄せることができる人物と顔を見合わせて英語でのコミュニケーションを行った経験を楽しいと感じることができれば(FLE),言語学習に対する不安が軽減し,MacIntyre et al.(1998)で提唱されている発見的モデルで,WTCに影響を及ぼす要因の第3層に置かれている「特定の人物と意思疎通を図りたい願望」や「コミュニケーションに関する自信」が増えることにつながると解釈できる。

2.4 英語学習への意欲

Ushioda(2013)では,初期のカナダでの研究から始めて,現代のグローバル化した世界の中での英語の位置づけを考慮した研究動向に至るまで,英語学習に関する動機づけ研究の発展をまとめている。1959年にGardner and Lambertによって発表された論文を出発点として,英語学習の動機づけとして,統合的・道具的動機づけという2分類をもとにした研究が盛んに行われ,社会教育的モデル(socioeducational model)(Gardner, 1985)といった動機づけの理論も提唱された。その後,グローバル化の拡大に伴って,英語学習者や使用者の多様性が増し,Kachru(1985)で提唱されたように,第一言語(inner circle),第二言語(outer circle),外国語(exapanding circle)環境のように,英語環境を単純に分類して論じることが難しくなった。世界的に英語習得の重要性が増す中で,2000年頃には,英語能力は母語での読み書きや計算,ICT活用能力と同列に扱われる基礎的な学問的技能とみなされるようになった(Graddol, 2006)。このような傾向の中,Woodrow(2013)は,教育心理学分野で提唱されている内発的・外発的動機づけという2分類を基盤とする自己決定理論(Deci & Ryan, 1985; Ryan & Deci, 2000)などの理論的枠組みを取り入れて,学問を目的とした英語学習(Enlgish for academic purpose: EAP)の動機づけの有用性を提唱している。

Schug and Torea(2023)では,フランスとアメリカ合衆国の大学生が経験したイータンデム・ビデオチャット交流における動機づけの効果を論じている。彼らは,参加者の動機づけを調べる指標として自己効力感(self-efficacy),第二言語での理想の自己(L2 Ideal Self: L2IS),交流に費やした努力量に関する質問項目を設けた。理想の自己については,Dörnyei(2009)で提唱されたL2 Motivational Self System(L2MSS)の枠組みを用いて,第二言語技能を習得することが将来の自己像に含まれるために第二言語学習を希望する,L2ISを想定した質問項目であった。2か月間で少なくとも3回のビデオチャットを経験するプログラムにおいて,参加者たちは交流期間の前後で,L2ISをより強く発達させ,第二言語に向けた高度な努力を行ったことが示された。一対一でのビデオチャット交流により,教員から指定された活動項目があったにもかかわらず,リラックスした雰囲気の中で,交流内容は回を重ねるごとにより自由なものとなり,真正性のある状況下で,学習言語の技能練習だけでなく,新しい文化を学ぶ機会が得られたことを高く評価した。

本実践報告論文では,参加者が小学生であることもあり,ビデオチャット交流を経験して,英語を学びたい意欲が増したかどうかという広義の問いかけをしている。回答に対する理由を尋ねることにより,その記述から児童の捉えている英語に対する学習意欲の内容を考察することとした。英語学習の動機づけ研究分野が緻密に発展していることは承知しているが,あえてどれかの理論的枠組みに依拠せず,参加者の小学生が捉える英語の学びに対する意欲について一般的な表現を用いて問いかけ,実態を把握することとした。質的研究手法における構成主義(constructivist)アプローチ(Creswell & Creswell, 2024)が踏まえる標準的な手順に則り,児童の質問紙に対する反応や交流場面の観察データをまずは丹念に分析し,考察の際にここで準備した動機づけ理論を用いて,本実践における児童の持つ英語学習への意欲の実態を把握することとする。

3. 実践課題

本実践報告論文では,下記の3つの課題を設定し,ビデオチャットを経験した後に,参加者たちに質問紙で自分たちの思いを申告してもらうことで,ビデオチャット交流の経験が,参加者たちにどのような影響をもたらすかを調べることとした。

  • 1)参加児童たちは,イータンデム・ビデオチャット交流の楽しさをどのように受け止めたか。
  • 2)参加児童たちは,イータンデム・ビデオチャット交流活動を通じて,交流相手ともっと話したいという意欲が湧いたか。
  • 3)参加児童たちは,イータンデム・ビデオチャット交流の活動を通じて,英語を学びたい気持ちが増したか。

4. プロジェクト概要

4.1 参加者

日本人児童の参加者は,東京都西部多摩地区にある公立小学校6年生40名である。1学年2クラスで構成される小規模校の第6学年に在籍する児童42名のうち,ビデオチャット交流当日に参加できたのは40名であった。彼らは3年次から領域としての外国語活動及び教科としての外国語の授業を受けて英語学習を積み重ね,第6学年に入ってからも,ビデオチャット交流を1学期の総仕上げとして位置づけ,6月初旬から外国語の授業内で第二単元の授業として7時間分の準備を重ねて,7月初旬に実施した計1回のビデオチャット交流に臨んだ。

オーストラリアの交流相手校は,メルボルンにある小中高一貫(P-12)の公立校である。メルボルンの中心部から離れた郊外に位置し,アフガニスタン系移民が多く居住する地域に立地しているため,そのような背景を持つ生徒が多く在籍している。PrepからYear 12までの全学年の生徒が同じ敷地内で学び,約2,600名が在籍する大規模校となっている。外国語科目として,インドネシア語と日本語の2つの選択肢から日本語を選択した生徒たちが,第6学年で日本語学習を開始し,第10学年まで日本語カリキュラムが組まれている。交流相手には同学年の6年生を希望していたが,互いの学校の授業時間内での交流を行うために,授業時間を合わせることができるクラスを優先して計画を立てた結果,今回のビデオチャット交流の相手は8年生18名となった。東京の小学校は1学年2クラス構成であるが,どちらのクラスの交流にも相手校は同じクラスの8年生が参加した。2クラス目のセッションには,7年生1名が特別に希望して参加したため,メルボルンの生徒の延べ参加人数は37名となった。

4.2 交流実施準備

交流実施校の外国語担当教諭からコーディネートの依頼を受けて,外国語担当教諭と著者が3月に打ち合わせを行った。イータンデムという,互いの母語と学習言語が交換状況になる条件において,ビデオチャットを用いた交流を実施する利点について,著者から説明を受けた外国語担当教諭がその説明に同意し,ビデオチャットを用いたイータンデム・オンライン国際交流を実施する準備を始めることになった。授業時間内での交流を実現するために,時差が少ない国を対象に交流相手校探しをすることとし,日本語学習人口も多く,4月から9月は時差が1時間であるオーストラリアの学校で教鞭を執る日本語教師を探し,オーストラリアで日本語を学ぶ生徒たちを相手に交流を計画することとした。外国語担当教諭が勤務校の管理職に交流実施計画を相談し,許可を得た後,コーディネーター役の著者が,オーストラリア・ビクトリア州の日本語教師協会に交流相手探しのための連絡を取った。同協会に所属する日本語教師全員に通知が届くように,掲示板に募集広告を掲載してもらうことにより,5月中に交流相手校の日本語担当教員を決定することができた。コーディネーター役の著者も同席した状況で,5月末に,相手校の日本語担当教員と日本側の外国語担当教諭がオンライン・ミーティングを実施し,顔合わせを行った。その後,6月中に,交流形態の決定,交流日程の確定,使用するビデオチャット・ツールの選定を,メールのやり取りおよびオンライン・ミーティングを再度実施することにより行った。相手校の教員の希望により,交流にはGoogle Meetを使用することになり,7月に入り,交流当日2日前に,実際に両校の学内からGoogle Meetで接続可能であることを確認する機会を持った。その際に,相手校の日本語担当教員とコーディネーター役の著者が画面上に現れたのを日本側の児童が見て,交流本番に向けての期待を高めていた。

交流形態は,クラス全体での交流ではなく,参加者を4-5名の小グループに分けて行うこととした。小グループに分けるほうが,個々の児童の発言の機会を確保しやすいという理由からの決定であった。交流日程は,相手校がTerm 2後の休暇明け直後ではあるが,日本側の夏休み前ぎりぎりのタイミングで,何とか日程を合わせられると判断し,7月初旬に2日に分けて,1日に1クラスずつ実施することを決定した。ビデオチャット・ツールは,交流相手校教員の希望もありGoogle Meetを使うことになった。日本側の小学校でも児童がGoogleアカウントを保持しており,外国語担当教員もGoogle ClassroomやGoogle Meetの操作に慣れていたので,問題なく合意できた。ただし,児童一人一人が保持するGoogleアカウントは,学外のネットワークに接続できないようセキュリティ上のブロックがかかっているため,教員用のアカウントを用いて,小グループ1つにつき1つの会議室リンクを作成し,交流当日も児童が保持するタブレットに教員用アカウントでログインして,作成した会議室を開く操作を行うことにより,セキュリティ対策による問題点を回避して,交流実施にこぎつけた。

4.3 交流実施形態

東京の小学6年生は,6月初旬から7回分の授業を割り当てて,ビデオチャット交流時に紹介する予定の日本の季節ごとの行事について,英語での表現を学び,スピーチ原稿を作成し,それらをクラスメイトに向けて発表する練習を重ねた。必要に応じて,行事をわかりやすく提示するための写真やイラストも準備した。さらに,外国語指導助手(Assistant Language Teacher: ALT)とのティームティーチングにより,ALTと外国語担当教諭を交流相手の生徒に見立てて,英語のみで応対する教師たちに対して対面での発表練習をするだけでなく,ALTが別室に移動して,本番と同様にGoogle Meetを用いて,ALTが話す出身国の行事についての発表を聞いたり,聞いた発表について質問したりする練習や,自分たちの準備した日本の季節ごとの行事を発表する練習も行うことにより,ビデオチャットというコミュニケーション・モードに慣れる機会も設けた。

第二単元の8時間分の指導計画の総仕上げとして,7月初旬にビデオチャットでの交流を各クラス1回実施した。ビデオチャット交流当日は,1クラス21名の児童を4グループに分け,各グループが独立した空間で交流ができるように,ホームルーム教室以外に,ランチルーム,算数ルーム,旧パソコンルーム(現女子更衣室)を利用できるように手配した。ビデオチャットにはGoogle Meetを用い,各グループに1台のタブレット端末を用いて接続し,グループのメンバーが共有する形で交流を実施した。児童用のタブレット端末に学外への接続が許可されている教員用アカウントでログインをして,Google Meetを利用した。音声はタブレット端末のスピーカーとマイクを使い,ヘッドセットやイヤホンは利用しなかった。4教室のうち,1教室は施設の条件により不可能であったが,3教室では大画面のスクリーンにも接続できるように手配し,タブレット端末と合わせて相手の様子を見るために利用した。

相手校の生徒たちも4グループに分かれて,グループで1台のタブレット端末を用いてビデオチャットに接続した。相手校は,広めではあるが1つの教室の中で,4グループすべてが接続を始めたため,ビデオチャットを実施している途中で,他のグループの音声が邪魔をして,日本の児童の発言が聞き取りづらい状況となった。そのため,生徒が自発的に日本語担当教員に交渉して別室に移動する許可をもらうグループもあった。

4.4 交流実施内容

相手校と時間割の切れ目が一致しないため,日本側は時間割変更を行い,2時間連続の授業としたり,昼休みを早めに切り上げて時間調整を行った。交流を実施した7月にはオーストラリア・メルボルンとの時差は1時間であるため,1つのクラスでは日本の小学校の3,4時間目を割り当て,もう1つのクラスでは昼休みを30分早めに切り上げてビデオチャットを開始し,5時間目も交流のための授業に割り当てて交流を実施することができた。実際にビデオチャットに接続していたのは相手校の1クラス分の時間である60分弱であった。日本側では,ビデオチャットの接続を切った後の授業時間は,クラス全体での振り返りの時間に充てた。

ビデオチャット交流開始時からグループに分かれて,まずは準備してきた日本の季節ごとの行事について英語で紹介を行い,それらの発表を一通り終えた後には,相手側から出されるさまざまな質問に答えるなどして,日本語と英語を交えて即興的なやり取りを行い,相互に信頼関係の構築を図った。例えば,趣味や好きな教科,得意なスポーツなどについて,相手側が日本語で質問を試みたり,日本側が英語で質問を試みたりした。返答の際に音声だけではうまく通じない場合には,日本側の児童が手元に用意した小さなホワイトボードなどに平仮名やカタカナを書いた文字をビデオチャット画面に向けて提示して,コミュニケーションを補助するといった機転を利かせて,コミュニケーションを成立させられるように努力していた。それを見て,オーストラリア側の生徒たちも,手元にある紙やタブレット端末に,アルファベットを書いたり,平仮名やカタカナを書いて提示するグループもあった。また,ビデオチャットの接続用以外に児童が保持しているタブレット端末を用いて,画像検索をした画面をスクリーンに向けて提示して,理解を助けたりもしていた。

4.5 データ収集

交流実施後に日本側の児童にアンケートを実施した。ビデオチャットに参加できた40名のうち,アンケートを提出したのは34名であった(回収率85%)。10項目の質問を用意し,2クラス目のビデオチャット交流が終了した翌日の授業日に,児童が保持するタブレット端末から各自Google Formsに記入する形式で,2クラスともにアンケートへの回答を求めた。アンケートは匿名で,学校の成績には影響がないことを説明したうえで実施した。研究への参加同意については,研究内容・参加方法・結果の公表などについて必要な説明を行ない,当該小学校で行われる活動に関する責任者としての学校長の判断に基づき,学校管理者として学校長が代表して同意書への署名をすることにより,研究参加者の同意を確認した。質問紙に用意した10項目の質問項目のうち,3項目はリカート・スケールを用いて回答を選択する形式とした。3項目それぞれにその理由を記述式で回答するように求めた。英語を使って話した内容や日本語を使って話した内容を尋ねる3項目と自由記述欄では,記述式での回答を求めた。アンケートの内容は付録に提示している。

アンケート・データに加えて,著者は2クラスのうち1クラスのビデオチャット交流当日に会場に出向き,観察を行った。また,交流実施後に学校長と外国語担当教諭にインタビューを行った。これらのデータに基づいて,分析および考察を行う。

5. データ分析

5.1 参加者を対象とした質問紙データ

質問紙に用意した10項目の質問項目のうち,リカート・スケールを用いて,回答を選択する形式とした。3項目それぞれにその理由を記述式で回答するように求めた。

交流を楽しいと感じたかどうかに関する質問の4件法でのリカート・スケールに対する回答割合は,図1に示すとおりである。「とても楽しかった」と回答した児童が25名(73%),「楽しかった」と回答した児童が8名(24%)あり,合わせて97%の児童が肯定的回答をした。「あまり楽しくなかった」を選択した児童はおらず,「全く楽しくなかった」を選んだ児童が1名(3%)であった。

図1 ビデオチャット交流を楽しいと感じたかに関する質問項目への回答数と回答割合

ビデオチャット交流を楽しい,あるいは楽しくないと感じた理由を尋ねた質問に対する記述式の回答を帰納的コーディング手法(Creswell & Poth, 2024)を用いて分類したところ,1)英語で意思疎通できたことに対する達成感,2)日本語を使っての交流,3)海外の生徒との会話,4)オーストラリアの文化や暮らしに触れる機会,5)日本文化の発表,6)個人的な話題の6項目にまとめられた。小学校で3年生から学び続けてきた英語を実際に英語母語話者の前で使ってみたところ,自分たちの英語が通じたことが大きな喜びや自信となったようである。イータンデムという条件下で日本語学習者を交流相手に選んだことにより,相手が学習目標言語として学んでいる日本語を使って会話をする場面があり,海外に住む生徒が日本語を話せることに驚きを感じるとともに嬉しくもあったようである。何より,異文化の雰囲気を身にまとった年代の近い生徒がビデオチャット画面に現れ,目の前にいるかのように親しく言葉を交わせたことが楽しかったようである。また,オーストラリアという国をよく知らない児童もおり,オーストラリアの生徒たちがどのような学校生活を送っているのかなどについて,質問に答えてもらえたことが楽しかったと述べていた。この交流を体験した小学6年生は,日本の四季とそれぞれの季節に典型的な行事を紹介する資料作成を交流の準備として授業内で行い,発表練習も積み重ねていたため,日本文化に関する発表ができたことが楽しいと記述したと考えられる。授業での練習成果を発揮するために,どのグループもまずは日本の四季それぞれの季節の行事の発表から交流を始めたが,用意した発表を一通り終えた後にまだ交流時間があることが分かった段階で,好きな色や食べ物,スポーツなどを質問して,回答が得られたことが楽しかったとも記述していた。

今回の交流相手ともう一度話したいかどうかに関する質問の4件法でのリカート・スケールに対する回答割合は図2に示す通りである。「とても話したい」と回答した児童が24名(71%),「話したい」と回答した児童が9名(26%)あり,合わせて97%の児童が肯定的回答をした。「あまり話したくない」を選択した児童はおらず,「全く話したくない」を選んだ児童が1名(3%)であった。

図2 もう一度同じ交流相手と話したいかどうかに関する質問項目への回答数と回答割合

交流相手ともう一度話したいか,話したくないかの理由を尋ねた質問に対する記述式回答を帰納的コーディング手法(Creswell & Poth, 2024)を用いて分類したところ,1)交流の楽しさ,2)相手とのさらなる交流,3)再挑戦,4)英語での会話の4項目にまとめられた。今回の交流が楽しかったことを理由に挙げている児童が多く,交流相手ともっと仲良くなりたいという思いを表明している児童も多くいた。今回の交流に後悔の念を抱いている児童が,次に期待する気持ちを表している例もあった。日本の季節ごとの行事について発表する際や即興的な会話において,うまく伝えられなかったことがあるため,次はもっと上手に伝えたいという記述が多く見られた。英語母語話者と英語を使う機会を持ちたいという思いを述べている回答も見られた。今回の交流相手に限定せず,英語母語話者と英語を話す機会があると,英語が上手くなるという一般論を理由として挙げている児童もいた。

ビデオチャットでの交流経験を踏まえて,英語を勉強したい気持ちが増えたかどうかに関する5件法でのリカート・スケールに対する回答割合は図3に示す通りである。「大きく増えた」と回答した児童が17名(50%),「少し増えた」と回答した児童が14名(41%)あり,合わせて91%の児童が肯定的回答をした。「変わらない」を選択した児童が3名(9%)あり,「少し減った」「大きく減った」の否定的回答を選んだ児童はいなかった。

図3 英語を勉強したい気持ちが増えたかどうかに関する質問項目への回答数と回答割合

英語を勉強したい気持ちが増えたか,減ったかに関する理由を尋ねた質問に対する記述式回答を帰納的コーディング手法(Creswell & Poth, 2024)を用いて分類したところ,1)楽しさ,2)さらなるコミュニケーションの機会,3)英語の実用性の3項目にまとめられた。これらは肯定的回答をした31名分の理由を分類したものであり,「変わらない」と回答した3名の児童は,理由欄に具体的な理由を書いていなかったため,変化が起きなかった理由は不明である。肯定的回答をした理由については,今回の交流が楽しく,自分の話す英語が通じることがわかって嬉しかったので,次の機会に備えて英語力を伸ばしたいと考えたとまとめられる。少数ではあるが,海外旅行やビデオゲームを行う際に,英語を活用できると回答した児童もいた。

記述回答のみの3項目は,英語を使って話した内容や日本語を使って話した内容を尋ねるものと自由記述欄であった。

英語を使ってどんな話をしたかについては,1)自己紹介,2)挨拶などの日常会話,3)日本文化の紹介,4)好きなもの,5)オーストラリアの情報に分類できた。初対面の人との会話ではよく取り上げられる話題として,名前,年齢,誕生日,家族構成などを述べて自己紹介をし,挨拶,天気,気温などの日常会話も行ったが,授業で準備した季節ごとの日本の行事について紹介する話題が,英語を使って話したことの中心となった。授業で準備した発表を一通り終えた後に,時間の余裕があるグループは,映画,動物,食べ物,アニメなど,自分たちの好きなものについて質問を受けて,英語で答えたりしたようである。オーストラリアに関する情報は,日本の児童から英語で質問をして,回答を得たりした話題であったようである。

日本語で話したのは,1)挨拶,2)自己紹介,3)天気,4)好きなことに分類された。1名は無回答であったが,33名中7名が日本語は使っていないと回答した。相手から尋ねられた話題として,スポーツが取り上げられていた。

自由記述欄では,今回の交流を楽しいと感じたことや,自分の話す英語が相手に通じて嬉しかったことが再度述べられていたり,交流相手が優しく応対してくれたので,もう一度交流したいという思いも述べられていた。海外に住む同年代の生徒たちが日本語を話す姿に驚いたというコメントもあった。残念なことがらとして,音声が聞こえづらかったことに触れるコメントが4件あった。日本側はグループごとに独立した教室を用意して,音声の聞こえを確保したが,交流相手は大きな教室ではあったが,同じ空間で複数のグループが,ヘッドセットやイヤホンも使用せずに会話をする環境であったため,他のグループの音声と混じってしまい,相手の音声が聞き取りづらかった点を指摘するコメントが見られた。この点については,交流相手校の条件であるため,教員同士が打ち合わせの際に改善努力を話し合う必要のあることがらと言える。

5.2 研究者の観察データ

著者は研究者として,1クラス目の交流場面を観察する機会を得た。交流場面を見てまず目に留まったのは,児童の英語力が想像していたより高いということであった。授業で時間をかけて準備したとはいえ,日本の四季の行事についての発表は,一方的に話すだけでなく,相手に質問があるかを確認したりしており,落ち着いたやり取りができていた。自由な会話の場面でも,意思疎通が十分でないと感じ取ると,小さめのホワイトボードを持ち出して,平仮名やカタカナを書いて提示し,理解を助ける機転を利かせたり,英語母語話者を相手にしているからと言って過度に緊張せず,コミュニケーションの成立のために,積極的に取り組めている姿にたくましさを感じた。

以下に実際の会話例を提示する。「花見」や「だんご」を英単語ではなく,日本語のままで四季の行事に関する発表に盛り込んでいても,絵やひらがなを提示することで相互理解ができていた点は,まさに交流相手が日本語学習者であるイータンデムという条件であるがゆえの利点であり,楽しさであったと考えられる。

  • 日本の児童(JP):“What seasons do you like?”
  • オーストラリアの生徒(AS):“Winter. I like winter.”
  • JP: “Ah, that’s nice.”
  • AS: “What about you?”
  • JP: “I like spring.”
  • AS: “Sing’s nice. Why do you like spring?”
  • JP: “In spring, we have Hanami.”
  • AS: “Hanami? The tree?”
  • JP: “Yes, a cherry blossom tree.”
  • JPが花見の絵を見せる。
  • AS: “Oh, it’s so pretty.”
  • JP: “You can eat dango.”
  • 日本の別の児童が小さめのホワイトボードに「だんご」とひらがなを書き,カメラの前に提示し,オーストラリアの生徒がその文字を読んで,“Dango”の意味を理解する。
  • AS: “Dango!!”
  • 日本の同じグループの他の児童から笑いが漏れる。
  • JP: “It’s sweet.”

日本側の児童の英語力に比して,オーストラリアの生徒たちは,6年次から日本語学習を始めた生徒がいる一方で,7年次や8年次になって初めて日本語を選択する生徒もいるとのことであり,日本語力があまり高くないグループもあった。児童の質問紙にも書かれていた通り,オーストラリアの生徒の日本語力があまり高くないグループの場合は,日本語を全く使わずに,60分間を英語のみで交流を終えたグループもあったようである。今回のイータンデムでの交流の条件設定として,言語能力に差があっても,二言語を臨機応変に使用してよいとしたため,両グループの言語能力に不均衡が生まれていても,互いに不満を感じることなく,その場で適切な言語選択を行って,どちらのグループにとっても楽しいと感じられる時間を過ごせていたように見受けられた。オーストラリアの交流相手にとっても,自信がないと感じる外国語としての日本語を必ず使わなくてはいけないという状況に追い込まれずに,関心を持っている日本という国にいる同年代の児童と,日本についての話題など,内容に焦点を当てて話す機会が持てたことは,文化に触れるという意味においても,刺激を得られるよい機会となったように見受けられた。

本交流を指導した外国語担当教諭の指導が行き届いたものであったことも観察できた。ビデオチャットという対面とは異なるコミュニケーション・モードでは,音の遅れがあったりして,大人でも初めて経験すると,会話のターンの受け渡しのタイミングが難しい場面もあるが,本交流に参加した児童は,ALTが校内の離れた場所からビデオチャットをつないで,発表を聞いたり,質疑応答をする練習を事前に行っていたため,慣れないオンライン・コミュニケーション・モードでも不必要に戸惑う様子は見られなかった。この点については,交流当日までの入念な事前準備が効果的に働いていたと観察できた。

指導が行き届いていたために,マイナスに働いた点も観察できた。交流相手は8年生であり,日本側の小学6年生より,2学年上であることもあり,生真面目な発表が続くうちに,相槌がなおざりになっていると感じられる面もあった。即興的なやり取りではなく,入念に準備して,日本側が一方的に学習成果を発表する時間を取ったことが,聞く側にとっては飽きをもたらした様子が観察できた。日本側児童が発表する形式を取ったのは,きちんと準備をし,その成果を出したいと日本人児童が自ら発案したためであるとのことだが,それにより即興的なやり取りに充てられる時間が短くなってしまったのは残念な点と言えるだろう。

声の聞こえは,日本側では1グループに1会場を準備していたため,個々の児童がヘッドセットやイヤホンを使ってビデオチャットの会議室に入室しない条件であっても,他のグループの交流音声が邪魔になることもなく,よい条件で交流できたと見受けられた。オーストラリア側では,大きめの部屋に4グループすべてが入って交流を始めたため,音声が重なり合って聞こえづらくなっていた。オーストラリアの生徒たちの中で,自発的に別の教室に移動したいと日本語担当教員に申し出る機転を利かせたグループもあったが,交流の音声が聞こえづらい環境にあることについて,日本側の教諭が相手校の教員に対して対策をするよう,交流最中であっても臨機応変に声をかけて依頼していた姿は印象に残った。

5.3 管理職,外国語担当教諭のインタビュー・データ

5.3.1 学校長へのインタビュー

1クラス目の交流実施後に,校長室において,インタビューの時間を取っていただくことができた。学校長によると,本交流を実施した小学校では前年度からビデオチャットを用いた国際交流を実現できないかと模索していたとのことであった。前年度は,知人の伝手をたどって,アメリカなど時差の大きい国の児童・生徒を対象とする計画を立てようとして,時差のハードルが越えられずに断念したとのことであった。本国際交流実現のために,オーストラリアを相手国として選ぶことで時差の問題を克服できることに気づいただけでなく,イータンデムという日本語学習者を相手に選ぶことも,自分たちでは思いつかない条件であったとのことである。今回の交流では日本語と英語を混在させて児童が交流している姿を,学校長自らも観察し,イータンデムの利点を理解できたとのことであった。何より,英語でのコミュニケーションに臆することなく取り組めただけでなく,児童が生き生きと日本語を教える立場に立っている姿も印象的であり,イータンデムの可能性を感じられたとのことであった。今年度中にも同じ6学年の児童を対象とした二度目の交流計画を推進したいとともに,次年度以降,他学年でも実施できるように検討したいとのことであった。

5.3.2 外国語担当教諭のインタビュー

外国語担当教諭へのインタビューは,夏休みに入ってからビデオチャットを用いて実施した。まず,児童のグループ分けについては,生活班をそのままビデオチャットのグループとしたため,外国語の授業のために特別な条件を加味してグループ分けを行ってはいないとのことであった。生活班は1ヶ月に1回組み直しをするため,児童たちは交流実施月であった7月の生活班でビデオチャット交流に臨んだ。英語力などを加味してグループ編成を実施することも可能性としては考えられたが,学級担任教諭とも協議のうえ,あえて毎日学級内で活動をしている生活班の仲間と交流に臨む方が自然だという判断を優先したとのことであった。児童はグループ内でも協力して,交流相手とのコミュニケーションに積極的になりづらい内気な性格の仲間には,発言の機会を譲るなどの配慮ができていた。

研究者による観察の節でも述べたが,日本の小学校の夏休み前ぎりぎりのタイミングであったこともあり,授業時間内で交流ができる日程を選ぶ際に,オーストラリア側は2クラスの交流回ともに,8年生の1クラスが参加することになった。2クラス目のセッションでは,春は花見,夏は花火,秋は紅葉やお月見,冬は雪祭りといった,季節ごとに特徴のある行事の紹介という,日本側の児童が事前に準備した英語での発表が,1クラス目の交流時に聞いた内容とほぼ同じであったため,オーストラリア側の生徒は飽きてしまったのか,相槌がおろそかになってしまい,交流態度が悪いと感じられた点が残念だったとのことであった。この点は,交流の計画段階で,同じクラスが連続して参加するようなスケジュールにしないといった注意を払う必要性を感じただけでなく,発表を準備したいと児童から申し出があったとはいえ,準備をしすぎずに,即興的なコミュニケーションにより多くの時間を割く交流内容にできる指導も必要であるように感じられた。

外国語担当教諭は児童の変化について言及した。交流実施に向けて,準備の授業を進めていく中で,最終ゴールが交流本番であることを常に意識して学習ができたため,目的を持った学習態度となり,児童の生き生きとした変化を実感したとのコメントが出された。発表については,児童自らがきちんとした発表をしたいと考えて選んだ内容であったとのことであった。教諭としてはあいさつ程度の交流ができればよいというつもりで計画を立てたが,児童は意欲的に発表準備に取り組んでいた。2クラス目の相手の飽きたような態度は,大人としては気になったが,児童たちはあまり気になっていなかったのか,交流相手の顔が見られてよかった,もっと仲良くなりたいというコメントを交流直後の教室でのクラス全体の振り返りの場で述べていたとのことであった。

イータンデムという条件については,児童は交流相手の日本語力があまり高くなかったため,自分たちがもっと英語力をつけて,英語で十分に意思疎通できるようになりたいと,2学期以降の英語学習に意欲が高まったと,外国語担当教諭は報告した。とはいえ,イータンデムのよさも実感したとのことであった。日本語が使えることが心理的支えになった児童もおり,交流相手が日本語学習者であることにより,日本に興味関心を持っているからこそ,日本のことを話題にしても通じ合える点は,この先も今回の交流相手と会う機会を持ち,もっと仲良くなりたいという思いを児童たちが抱いたことに貢献していると,交流の際の受け答えの様子や交流後の振り返りの機会での児童による発言から感じ取れると,外国語担当教諭はコメントした。

6. 考察

6.1 交流の楽しさ

本実践報告論文で設定した3つの実践課題のうち,1つ目の「参加児童たちが,イータンデムでの日本語学習者とのビデオチャット交流の楽しさをどのように受け止めたか」に関して,質問紙には1名を除いて,回答者全員が肯定的に受け止めていたことが表わされていた。回答理由を分類した項目を見ても,自分たちが学んできた英語が相手に通じた喜びや,相手が日本語学習者であったために,自分たちの母語である日本語で会話できたことも新しい発見となり,楽しさを生む要因となったと解釈できる。また,イータンデムでは,言語技能の練習だけでなく,文化の共有も可能となる点が特徴として言及されており(Thorne, 2003; 2006),オーストラリアの学校の様子を映像で確認できたり,交流相手との自由な会話の中で,オーストラリアの生徒たちの学校生活や日常生活について知ることができたことも,楽しいという気持ちを生むことにつながった点は注目すべきだと考察できる。

日本人児童にとって外国語である英語を使った交流となると,緊張したり不安を感じる児童もいると思われるが,普段の学校生活で協力し合っている生活班でのグループ分けに従って,内気な性格の仲間にはうまく会話の機会を譲ったり促したりして,仲間同士で協力しあっている様子が見受けられた。気心の知れた仲間と一緒に,母語である日本語も使える環境で,年齢の近い子供相手の交流という条件が揃っていたため,97%が交流を楽しいと感じたと報告したと考えられる。Fredrickson(2001)の言うように,肯定的感情は新しい知識を発見する鍵を握るものであり,教師は楽しさという肯定的感情を引き出すことを前面に押し出した活動を推進すべきだと考えられる。Resnik and Shallmoser(2019)でも報告されているように,イータンデムでの交流では,交流相手の持つ文化的背景にも関心を持つようになり,言語訓練だけにとどまらず,世界に目を向ける機会をも提供できると考察される。小グループでの交流計画としたことにより,両国それぞれで4-5名ほどのメンバーで1グループを構成し,少人数で交流するという条件が可能となり,交流相手との個人的なつながりを感じられるような会話を,英語と日本語を織り交ぜながら行える機会によって,海外に暮らす同年代の生徒と意思疎通ができる楽しさが実感され,達成感も感じられたと考えられる。

6.2 コミュニケーション意欲

実践課題の2つ目である「参加児童たちは,イータンデムでのビデオチャット交流を通じて,交流相手ともっと話したいという意欲が湧いたか」に関しては,質問紙には1名を除いて回答者全員が,今回の交流相手ともう一度話したいと考えたことが表わされていた。回答理由を分類した項目には,1つ目の実践課題に取り上げた「楽しさ」が含まれており,活動そのものに対する「楽しい」という肯定的感情が,外国語教育活動においては,学んだ英語を使って相手と意思疎通を図りたいというコミュニケーション意欲へとつながっていることがわかる。また,今回は英語で自分の思いをうまく伝えきれなかったと感じた児童も,次の機会を求めていることがわかる。自分の意思がうまく通じなかった場合に,その経験がトラウマになってしまう可能性があるとして,国際交流活動を体験させることに否定的な英語教師の意見を聞く機会もあるが,本実践に参加した児童たちはMacIntyre(2007)の指摘する,意思の力による選択を行ってコミュニケーション意欲を高めたと考察できる。

ビデオチャットという,双方向で同時性のある映像を伴ったコミュニケーション・モードを用いたがゆえに,状況性(Brown et al., 1989; Lave & Wenger, 1991)が大いに利点として働き,交流相手の暮らす環境への関心を高めることに役立ち,彼らともっと分かりあいたい,もっと話したいという意欲を高めたと考察できる。コミュニケーションの手掛かりが多く,豊かなコミュニケーション・モードであると分類される(Daft & Lengel, 1986)ビデオチャットの持つ特徴により,交流相手に対して温かみや親近感(Walther, 1992)を持つことが可能となったとも解釈できる。このように,身近に言葉を交わした交流相手について,もっと知りたい,もっと分かりあいたいという思いを抱けるビデオチャット交流では,日常的に英語母語話者との接触がないEFL環境に置かれている日本人英語学習者が持つとされる,漠然とした世界を象徴するものとして英語をとらえる国際志向性(Yashima, 2002)ではなく,MacIntryre et al.(1998)の定義する「特定の時間に特定の人物と第二言語を用いて対話に入る準備」を整え,意思疎通を図りたいという願いと自信を伴ったコミュニケーション意欲を高めることができると解釈できる。

6.3 英語学習への意欲

3つ目の実践課題である,「イータンデムでのビデオチャット交流を通して,参加児童たちの英語を学びたい気持ちは増したか」に関しては,質問紙には91%の児童が増えたと回答し,9%が変わらないと回答しており,減ったと回答した者は一人もいなかった。変わらないと回答した児童3名は,理由欄への記述を行っておらず,その理由を考察することができない一方で,増えたという回答の理由には,1つ目の実践課題とつながる「楽しさ」に言及する者も多く,2つ目の実践課題とつながる「コミュニケーションの機会」を求めていることも示されていた。「英語の実用性」と命名した項目では,海外旅行やビデオゲームといった,将来自分が英語を活用する機会を思い浮かべて,学校以外でも英語を活用する可能性に言及していた。これら3項目を総合すると,参加した児童たちは英語学習を,Graddol(2006)の言う基礎的な学問的技能の1つ,つまり学校での教科としての英語という位置づけで捉えてはおらず,同年代の英語母語話者の子供たちとの会話を通して,相手のことをもっと知りたい,相手ともっと分かりあいたいという,古典的な言語学習動機づけの分類である統合的動機づけ(Gardner & Lambert, 1972; Gardner, 1985)を働かせていると考察できる。同時に,91%の児童が,英語を学ぶ意欲が増したと回答していることから,自らの意思で学びを求めていると解釈でき,Deci and Ryan(1985)の提唱する自己決定理論における2分類の1つである,内発的動機づけも発動していると解釈できる。「英語の実用性」に言及した児童は2名であり,少数派と言わざるを得ないが,Dörnyei(2009)の提唱した第二言語での理想の自己に通じるような,英語を使用する将来の自己像を思い描いた意見も,英語を学びたい思いが増えた理由として記されていたことは,注目すべき点であろう。

授業で準備した日本の四季折々の行事に関する発表を終えた後に,自由な話題でやりとりをする際に,日本に住む自分たちと変わらずに,交流相手が子供らしいことがらに関心を持っていることを知り,交流相手に対してより親しみを増したのは,イータンデムという,教師が管理しすぎず,その場のコミュニケーションの流れに沿って,臨機応変に二言語を活用して会話を継続する主導権が,各グループに与えられていたことにより,自律性が担保でき(Benson, 2007; 2011; Brammerts, 2003; Murray, 2014),コミュニケーション意欲を増すことにつながったと解釈できる。今回の交流中にも,コミュニケーションが十分に成立していないと感じると,小さなホワイトボードに文字を書いて提示する工夫をしたりと,教師からの指図があったわけではなくても,相手ともっとわかり合えるためにはどうすればよいかを考え,自発的に工夫できた児童の行動を観察できた。これも自律性が担保できる条件が与えられていたがゆえに出現した行動とみなせ,児童たちの内面から自発的に湧き出す,わかり合いたいという統合的動機づけを,楽しいという肯定的感情から引き出される内発的動機づけ(Deci & Ryan, 1985; Ryan & Deci, 2000)が刺激したものと解釈できる。交流相手ともっと仲良くなりたいから,今回の交流相手とさらなるビデオチャットの交流機会を持ちたいと考えている児童もおり,机上の学習で遠い国の知識を得るのとは全く異なる,具体的な人物との交流を念頭に,相手のことをもっと知りたい,相手ともっと親しくなりたいという気持ちが生まれていることが読み取れる。これこそがまさにMacIntyre et al.(1998)による,親しくなった具体的な人物と楽しく意思疎通を図りたい思いという,コミュニケーション意欲の定義を反映した心の動きであると言える。このようなコミュニケーション意欲の高まりが,英語学習意欲を高めることにつながり,イータンデムでのビデオチャット交流は,楽しさからコミュニケーション意欲へ,そして英語学習意欲へとつながる正の循環を生み出していると考察できる。

7. まとめ

本実践報告論文では,東京にある公立小学校に在籍する6年生児童が,メルボルンの小中高校一貫校に通う8年生の生徒と,ビデオチャットを使って,イータンデムという,日本語と英語の二言語を互いに母語と学習言語として共有できる条件下で,英語を用いて日本の四季の行事紹介を行ったり,互いが興味関心を持っている事柄について,二言語を臨機応変に使いこなして即興的に質問をしたり,その返答をもらったりする中で,相手に対する親近感を増していった実態を詳しく描写した。質問紙への回答を通して,日本側児童がこの交流に対してどのような思いを抱いたかを確認した。楽しさ,コミュニケーション意欲,英語学習に対する意欲の3点について,参加児童の85%から回答が得られ,回答者のうち90%を超える児童がどの質問項目に対しても肯定的に捉えている実態が捉えられた。

今回の実践報告論文は,参加児童にとって初めての取り組みを詳述するものであり,今回の参加児童たちが,同じ交流相手と継続してコミュニケーションをとる機会を,この先も継続して生み出せることを願っている。たとえ同じ交流相手ではなくても,ビデオチャットを用いた海外在住の生徒との交流を経験する機会を重ねられることにより,参加児童たちの異文化に対する態度の変容や,英語を用いたコミュニケーションに対する意欲,英語学習に対する意欲の変化を追跡できるような実践例の蓄積ができることも期待して,小学校,中学校,高等学校において英語教育を担当する教諭たちと,さらなる連携を続けていきたいと考えている。

本実践報告論文は,小規模校での実践であることもあり,参加児童数も少なく,即座に他のケースに応用可能であるとは言い切れないだろう。しかしながら,1つの実践例の詳細な報告が目に留まることにより,日本全国の小学校,中学校,高等学校において,イータンデムという,日本語と英語の二言語併用環境により相互利益を生み出せる条件下で,海外在住の児童・生徒たちを相手とする,自律的で協働的なビデオチャットを用いた交流を,授業の一環として実施してみようと考える外国語担当教諭や英語担当教諭が増えることを期待したい。

参考文献
付録

ビデオチャット交流に関するアンケート(東京都〇〇小学校6年生)

 
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