Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Optimum Amount of Information on a Package:
Effects of Regulatory Focus and Perceived Information Excess on the Consumer Response
Hiroaki Ishii
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 38 Issue 2 Pages 21-38

Details
Abstract

店頭におけるパッケージのコミュニケーション効果には古くから期待が寄せられてきた。しかしながら,先行研究を概観すると,パッケージに掲載すべき情報量に関する議論はそれほど進められていないことが分かる。そこで本研究では,情報量の異なるパッケージへの消費者反応を検討した。その際,制御焦点による調整効果に注目し,消費者の個人特性や製品特徴によって生じる違いについても議論した。アイ・トラッキングによって視線を測定した実験1では,予防焦点の消費者においてパッケージに対する注視回数が多いことを確認した。実験2と実験3では,情報量の増加によって生起する情報過剰感が促進焦点の消費者において製品理解や製品評価に負の影響を及ぼすことを指摘した。実験4では,促進焦点に基づく訴求内容の広告にパッケージが掲載された場合,情報過剰感の高いパッケージへの評価が高認知欲求の消費者において低下することを示した。

I. はじめに

近年,消費者は多くの情報に囲まれている。博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所が実施したメディア定点調査2017では,「世の中の情報量は多すぎる」と感じている消費者が52%にも上ると指摘されている(Institute of Media Environment, 2017)。また,野村総合研究所の調査においては,約7割の消費者が「商品やサービスに関する情報が多すぎて,困ることがある」と回答したという(Matsushita & Hayashi, 2015)。いずれの調査からも,情報技術の発達に伴い,増大する情報量に戸惑っている消費者の姿を類推することが出来る。

野村総合研究所の調査では,商品を購入する際に「お店(店頭・店員)」からの情報を重視する人が最も多いことも指摘されている(Matsushita & Hayashi, 2015)。様々なメディアから情報を取得できるようになった今日においても,消費者が店頭からの情報を重視しているという指摘は興味深い。消費者が店頭で購買意思決定を下す傾向は古くから指摘されてきたが(Otsuki, 1982),最近の調査でも複数の製品カテゴリーで高い非計画購買率が指摘されている(Nakamura, 2018)。店頭で効果的かつ効率的に情報を提供する重要性は,依然として高いのである。

店頭での情報提供の重要性を踏まえると,パッケージに注目するのは意義がある。パッケージは,しばしば「棚の上のセールスマン」「物言わぬ販売員」などとも称され,店頭でのマーケティング・コミュニケーション要因として大きな期待が寄せられてきたからである。購買場面において効果的で効率的な情報提供を実現するパッケージには,大きな価値が認められるだろう(Ishii & Onzo, 2010)。しかしながら,企業でパッケージ制作に携わっている実務家と意見交換をしてみると,「パッケージで言いたいことがたくさんある際に,どの程度掲載できるのか」「サイズ,表現が限られている中で,どれだけ伝えられるか」など,パッケージに掲載すべき情報量に関する問題意識が存在していることが分かる1)。上述した情報量の多さに対する消費者の戸惑いを考えると,パッケージにおける適切な情報量は従来以上に重要な論点となっている可能性がある。

そこで本研究においては,パッケージの情報量の影響を検討する。特に,制御焦点理論による調整効果を考慮し,消費者の個人特性や製品の訴求内容によって,パッケージに掲載すべき適切な情報量が異なることを明らかにしていく。

II. 先行研究と仮説の設定

1. パッケージとは

パッケージは「製品を保護し,プロモートし,輸送し,識別するために用いられる容器のこと」(Bennett, 1995, p. 201)と定義される。その重要性は古くから指摘されてきており,「5つ目のP」と指摘する論者もいる(Kotler & Keller, 2006; Onzo, 2002)。マーケティング関連の文献においては,1990年代後半から本格的な実証研究が試みられてきており(Togawa, 2010),購買場面における注意の獲得(Schoormans & Robben, 1997),選好や購買意図の形成(Raghubir & Greenleaf, 2006),内容量の知覚(Raghubir & Krishna, 1999; Wansink & van Ittersum, 2003),消費量(Wansink, 1996)など,様々な消費者反応とパッケージの結びつきが確認されてきた。かつては我が国におけるパッケージの重要性に関する認識は欧米に比べて低いと指摘されていたものの(Sera, 1999),近年では複数の実証研究が進められてきている(Ishii, 2010; Kozuka, 2017; Ookaze & Takeuchi, 2008; Togawa, Ishii, & Onzo, 2016)。

2. パッケージに掲載される情報

パッケージに関わる研究潮流の一つに視覚的な影響に注目した議論がある(Ookaze, 2011; Togawa, 2010)。代表的な論点の一つは,レイアウトなど,効果的な情報の掲載方法の解明を試みるものである。たとえば,脳の右半球が視空間的処理,左半球が言語的処理に優れているという脳の機能差に関わる議論と,瞬間的な接触において右視野の画像が左脳,左視野の画像が右脳に送られるという視野に関する議論から,Rettie and Brewer(2000)は,瞬間的接触において,右側に言語的情報,左側に非言語的情報が掲載されたパッケージ・デザインの情報が再生されやすいと指摘している。左右のレイアウトに関する類似した効果は,日本の消費者においても確認されている(Ishii, 2010; Ishii, Onzo, & Terao, 2008)。

レイアウトは情報の記憶だけでなく,特定の概念を伝達することもある。Deng and Kahn(2009)は,視覚的な重量感に注目し,パッケージの下部にレイアウトされた製品イメージが,上部にレイアウトされた製品イメージよりも重さを感じさせると指摘している。Sundar and Noseworthy(2014)も類似した視点から議論を進めており,上下のレイアウトとパワー概念との結びつきを示している。同研究によると,上への配置はパワーを表すため,パッケージ上部へのロゴの配置が強いブランドへの選好を高める一方で,パッケージ下部へのロゴの配置が弱いブランドへの選好を向上させるという。

レイアウトに関わる議論においては,同一の情報をどのように掲載すべきかが明らかにされてきたが,個別の視覚的要素の影響に注目した議論も進められている。Bone and France(2001)は,赤と黄色の背景でフットボール選手が走っている写真と青色の背景で男性がヤシの木の下で眠っている写真を取り上げ,パッケージに後者が掲載されている場合よりも前者が掲載されている場合の方がコーラに多くのカフェインが含まれていると知覚されることを指摘している。また,パッケージに掲載されるキャラクターと製品カテゴリーとの関係を取り上げたGarretson and Burton(2005)によると,チーズのキャラクターとして筋肉質のネズミを採用したり,洗剤のキャラクターとしてふさふさの毛をした羊を採用したりすることによって,ブランドが伝えているメッセージの再認率やブランド態度が向上するという。Hagtvedt and Patrick(2008)は,芸術作品のパッケージへの掲載が高級感に結びつくことを指摘している。たとえば,ゴッホ作の「夜のカフェテラス」を掲載した場合とそれと同じような夜のカフェの写真を掲載した場合では,前者の方が好ましい製品評価に結びついていた。

本研究で取り上げるパッケージの情報量に関わる議論においては,画像の有無の影響が検討されている。Underwood, Klein, and Burke(2001)は,パッケージに製品内容の写真を掲載する効果について,バーチャル・リアリティ技術を用いた実験によって検討した。同研究では,パッケージに掲載される写真やイラストが製品を選択する際の「外部手がかり」として機能しやすいことから,親しみのないブランドにおいては製品写真の掲載によって消費者の注意を高められることが確かめられている。

Togawa et al.(2016)においては,解釈レベル理論との結びつきからパッケージへの画像の掲載効果について議論が進められている。同研究によると,心理的距離が近い低次の解釈レベルにおいては,画像を掲載した具体的なパッケージが好ましく評価されるのに対して,心理的距離が遠い高次の解釈レベルにおいては,画像を掲載していない抽象的なパッケージが好ましく評価されるという。

言語的情報の量については,ほとんど議論が進められていないが,数少ない議論であるDean, Engel, and Talazyk(1972)では,パッケージに掲載される「New!」や「Improved!」といったコピーの効果が見られなかったと報告されている。

以上の議論を踏まえると,パッケージに関する先行研究においては,特定の情報の有無による影響が議論されてきたことが分かる。しかしながら,次節で確認する情報過負荷など,情報量に関する注目の高まりに鑑みると(Nagai, 2013; Sunaga, 2010),パッケージに記載される情報量を複数の水準から捉えた議論には一定の価値があると考えられる。本研究では,先行研究でそれほど取り上げられていない言語的な情報に注目しながら,パッケージの情報量に関する議論を進める。

3. 情報量と評価

消費者が接触する情報量が増大したことを受け,情報量と消費者の情報処理の関係に注目した議論が進められている。それらから明らかになってきているのは,個人が獲得する情報量は,一定の水準まで意思決定パフォーマンスにポジティブな影響を及ぼすものの,当該水準を超えるとネガティブな影響をもたらすという関係である(Eppler & Mengis, 2004; Nagai, 2013; Sunaga, 2010)。たとえば,代表的な研究であるIyengar and Lepper(2000)によるジャムの実験においては,選択肢が過剰になると購買が抑制されてしまうことが指摘されている。こうした情報過負荷によるネガティブな影響は,特に意思決定の正確性の低下において確かめられてきた。

その一方,対象に対する評価においては,情報過負荷が必ずしもネガティブな影響を及ぼすとは限らない。たとえば,ウェブサイトに掲載されている情報の量を操作したSicilia and Ruiz(2010)は,情報過負荷の状況において,情報処理水準が低下しながらも,ウェブサイトに対する好ましい態度が維持されることを示している。

情報過負荷に陥った消費者がヒューリスティックを用いるという指摘を踏まえれば(Nagai, 2013; Swait & Adamowicz, 2001),情報過負荷時の評価は,どのような手がかりに基づいてヒューリスティックが進められるかによって左右されるだろう。過剰な情報がネガティブなヒューリスティックの手がかりとして用いられる場合には,ネガティブな評価が導かれると考えられる一方,過剰な情報がネガティブに捉えられない場合には,ネガティブな評価が下される可能性が低くなる。こうした反応の違いは,消費者の個人特性,消費者を取り巻く状況要因,当該製品の特徴などによって生じると予想される。そこで本研究では,消費者の個人特性や状況要因,製品特徴などによる違いを明らかにしてきた制御焦点理論に注目し,その調整効果を検討する。

4. 制御焦点理論

制御焦点理論においては,目標の焦点状態(focus)の違いが人々の行動制御に影響を与えると考えられており,ポジティブな結果の有無に注目する促進焦点とネガティブな結果の有無に注目する予防焦点から捉えられている(Higgins, 1997; Pham & Higgins, 2005)。また,制御焦点は,消費者の個人特性としてだけでなく,状況依存的にも形成される特性として位置付けられることから(Schwarz, 2006; Zhu & Meyers-Levy, 2007),実験的手法によって操作されたり(e.g. Keller, 2006; Pham & Avnet, 2004),製品カテゴリーや製品特徴との結びつきを前提とした実験が行われたり(e.g. Hagtvedt, 2011; Mourali, Böckenhalt, & Laroche, 2007),制御焦点に基づく広告コピーの影響が検討されたりするなど(e.g. Aaker & Lee, 2001; Mogilner, Aaker, & Pennington, 2008),マーケティング研究や消費者行動研究において幅広く応用されてきている(Ishii, 2009)。

さまざまな議論が進められてきた制御焦点理論研究の中でも,本研究では,判断や評価における影響要因を検討したPham and Avnet(2004)に注目する。Pham and Avnet(2004)では,訴求内容の主張の強弱と魅力度の高低を操作した架空の広告による実験が実施され,促進焦点の消費者が魅力度の高い広告から好ましい製品評価を下し,予防焦点の消費者が主張内容の強い広告から好ましい製品評価を下すことが示されている2)。こうした結果から,同研究は,促進焦点の消費者が感情的判断を重視し,予防焦点の消費者が主張内容を重視すると結論付けている。促進焦点と快楽的ベネフィット,予防焦点と実用的ベネフィットの結びつきを明らかにしたChitturi, Raghunathan, and Mahajan(2008)や,促進焦点の消費者が想像を掻き立てる様な(imagery)広告,予防焦点の消費者が分析的な広告に対して好ましい態度を形成することを指摘したRoy and Phau(2014)などからもPham and Avnet(2004)と共通した傾向を確認することが出来る。

Pham and Avnet(2004)による知見と関連して,制御焦点と情報処理方略の結びつきも議論されてきている。例えば,Zhu and Meyers-Levy(2007)では,好ましい結果の有無に注目する促進焦点の消費者は,特定の問題を意識しにくく,探索的に行動しやすいことから,概念や事項を結びつけるように情報を処理するのに対し,好ましくない結果の有無に注目する予防焦点の消費者は,問題を解決しようと情報を注意深く見るため,概念や事項の情報を個別に処理すると主張されている。また,Lee, Keller, and Sternthal(2010)においては,促進焦点の消費者は,包括的で抽象的な表象と結びつく広告内容を高く評価する一方,予防焦点の消費者は,個別的で具体的な表象と結びつく広告内容を高く評価していた。これらの先行研究を取り上げながら,Weaver, Garcia, and Schwarz(2012)は,促進焦点の消費者が包括的な情報処理を進める一方で,予防焦点の消費者がピースミール型の詳細な情報処理を進めると指摘している。

5. 制御焦点理論と視線

判断や評価の形成における重視点や情報処理方略が制御焦点によって異なるのであれば,消費者が情報を取得する際のパッケージの見方も異なる可能性がある。アイ・トラッキングによって測定された視線の動きと制御焦点を直接的に結びつけた議論はほとんど進められてこなかったが(Hüttermann & Memmert, 2015),予防焦点の消費者が主張内容を重視し,詳細な情報まで処理しようとする一方,促進焦点の消費者が魅力度を重視し,包括的に処理しようとするのであれば,予防焦点の消費者の方が促進焦点の消費者に比べて,パッケージの様々な要素を丹念に見ようとすると考えられる。したがって,パッケージの提示を一定の時間に統制した場合には,詳細な情報まで取得しようとする予防焦点の消費者は,包括的な評価を下そうとする促進焦点の消費者に比べて,パッケージ上での注視回数が多いものと予想される。こうした予想は,人々の促進焦点的な側面が対象に対する注視時間に負の影響を及ぼすことを指摘したSassenrath, Sassenberg, Ray, Scheiter, and Jarodzka(2014)の指摘とも矛盾しない。また,情報処理に対する動機が高い場合には,ピースミール型の詳細な情報処理が進められると考えられるが(e.g. Shimizu, 1999),情報処理の動機付けを高める実験的操作がなされた場合や,情報処理の動機に関連する自己関連性が高い状況において,対象への注視時間や注視回数が増えるとの知見も(Asakawa & Okano, 2016; Pieters & Warlop, 1999; Rayner, Rotello, Stewart, Keir, & Duffy, 2001),ピースミール型の詳細な情報処理を進める予防焦点の消費者において,パッケージ上での注視回数が多いという本研究の予想を補強するものと考えられる。したがって,以下の仮説が導出される。

仮説1:パッケージの提示を一定の時間に限定した場合,パッケージ上の注視回数は,促進焦点の消費者よりも予防焦点の消費者の方が多い。

6. 制御焦点とデザインにおける「情報過剰感」

パッケージにおける情報量は,デザインとしての側面もある。広告研究において,Pieters, Wedel, and Batra(2010)は,特徴的複雑性(Feature Complexity)とデザイン的複雑性(Design Complexity)から広告評価への影響を検討している。同研究は,JPEGなどのファイル形式で画像を圧縮できる程度によって測定される特徴的複雑性と,装飾の有無や要素の数などによって規定されるデザイン的複雑性に注目し,前者が広告評価に対してネガティブな影響を及ぼす一方で,後者が広告評価や広告理解に対してポジティブな影響を及ぼすことを示している。情報量の視点から考えると,掲載される情報量の増加は,画像を圧縮できる程度が小さくなるという点で特徴的複雑性を高め,規定要因の一つとなっている要素の数を増加させるという点でデザイン的複雑性も高める。したがって,Pieters et al.(2010)の知見からは,パッケージ上の情報量の増加にはポジティブな影響もネガティブな影響も予想される。

本研究においては,Pieters et al.(2010)が示した特徴的複雑性によるネガティブな影響を参考に,情報量の増加によって生じるデザインに対するネガティブな反応を「情報過剰感」という視点から議論することとする。具体的には,掲載される情報の増加によってもたらされるパッケージの「ごちゃごちゃした」印象を情報過剰感として捉え,こうした印象がその後の情報処理や評価形成に影響を及ぼすものと考える。

情報過剰感は,パッケージに掲載される情報量の増加によって,上昇していくものと予想されるが,本研究では,全ての消費者において情報過剰感がその後の評価や処理にネガティブな影響を及ぼすわけではないと考えている。仮説1で想定していた通り,予防焦点の消費者が促進焦点の消費者に比べ,パッケージの様々な部分を見るのであれば,彼ら/彼女らは,掲載された情報量が多い場合にも,それぞれの掲載情報を確認しようとするだろう。その結果,情報過剰感が高かったとしても,製品理解が阻害されることはないと考えられる。さらに,上述したPham and Avnet(2004)の知見を参考にすれば,強い主張内容によって説得されやすい予防焦点の消費者においては,デザインに対する評価の一部である情報過剰感が製品評価に大きな影響を及ぼすわけではないだろう。

その一方,広告の魅力度などを重視して判断や評価を下す促進焦点の消費者は,パッケージ・デザインに強く影響されるだろう。したがって,彼ら/彼女らにおいては,情報過剰感によるパッケージ・デザインに対するネガティブな評価が製品に対する評価に強く影響すると考えられる。また,包括的な情報処理を進めるとも考えられている促進焦点の消費者は,パッケージに掲載されている情報の一つ一つを丹念に見るわけではないだろう。その結果,促進焦点の消費者は,パッケージ・デザインの全体的な印象の一つである情報過剰感から,パッケージに掲載されている情報の理解のしやすさを判断する可能性がある。そこで,以下の仮説を設定する。

仮説2:パッケージの情報量は,パッケージ・デザインの情報過剰感に正の影響を及ぼす。

仮説3a:促進焦点の消費者において,パッケージ・デザインの情報過剰感は製品理解の容易性に負の影響を及ぼす。

仮説3b:促進焦点の消費者において,パッケージ・デザインの情報過剰感は製品評価に負の影響を及ぼす。

なお,本研究では,パッケージにおける情報量の増加が直接的に負の影響を及ぼすと考えているわけではない。むしろ,本章第3節での議論を念頭に,情報量と評価は逆U字に近い関係にあると想定しており,促進焦点の消費者における情報過剰感の影響を示すことで,情報量と評価の詳細な関係を明らかにできると考えている。

以下では4つの実験を実施し,上記の仮説を検討していく。

III. 実験1

1. 実験1の方法

(1) 目的および概要

実験1は,パッケージの提示時間が一定の場合,予防焦点の消費者は促進焦点の消費者よりもパッケージ上での注視回数が多いと想定した仮説1を検証するため,2012年9月に実施された。実験参加者は,首都圏の大学に通う大学生35名であった(男性22名,女性13名)。

(2) 刺激の制作

パッケージ研究においては,しばしば実際に市場で流通しているパッケージが用いられるが,実験参加者における事前の情報接触の可能性を考慮すると,本実験においては適切ではない。また,実験実施者によりオリジナルのパッケージが作成されることもあるが,市場に展開されているパッケージに比べ,著しくクオリティの低いパッケージでは,実験参加者の自然な視線の動きを測定することは難しい。そこで本研究においては,情報量の異なる5つのパッケージ・デザインの制作をパッケージ・デザイン企業に依頼した。対象となる製品カテゴリーは当該企業の担当者と議論し,パッケージ上の情報量を操作しても違和感のない製品カテゴリーとして,コーンフレーク,カレールー,ノンアルコールビール,冷凍ピザ,グレープジュースを採用した。その上で,実際に市場で展開されている製品の記載情報を参考に,4つの情報を選定し,それぞれが段階的に掲載された5つのパッケージを制作した(図1)。

図1

制作したパッケージ

(3) 実験手続き

実験における視線の測定には,Tobii T60 & T120アイトラッカーを用いた。実験参加者は同装置のディスプレイの正面に,顔が50 cmほど離れた位置になるように座り,実験者から簡単に実験概要の説明を受けた。キャリブレーション(視線の調整作業)完了後,ディスプレイには「あなたが食料品の買い物にいった場面を想像してください。これからコーンフレーク,カレールー,ノンアルコールビール,ピザ,グレープジュースの製品パッケージを少しの時間お見せします。それぞれのパッケージの製品についてどう思ったか後ほどお聞きしますので,普段の買い物場面をイメージしながら製品パッケージを見るようにしてください。」と表示された。その後,ディスプレイ上の特定の位置に表示された「+」を見るよう指示した画面を3秒提示し,視線を統制したうえで,対象のパッケージを提示し,視線の動きを記録した。画像の提示時間は7秒間であった。

パッケージ画像は,5つの製品カテゴリーから一枚ずつ提示した。その際,それぞれのパッケージに掲載されている情報量が異なるように組み合わせた。つまり,実験参加者に提示された5つのパッケージは製品カテゴリーが異なるだけでなく,それぞれに掲載されている情報量も異なる水準のものである。なお,ディスプレイ上に掲載されたパッケージの大きさは,実際に市場で展開されている商品と比較して違和感のない大きさとなるよう留意した。画像の提示や視線の記録が終了した後,それぞれのパッケージに対する評価を尋ねた。制御焦点に関する質問については,本実験の前に尋ねた3)

(4) 変数

従属変数であるパッケージ上での注視回数は,製品カテゴリーも情報量も異なる5つのパッケージにおける注視回数の平均値とした。そうすることで,製品カテゴリーに対する関与やパッケージの情報量の影響を低減させ,制御焦点によって注視回数が異なるという仮説1を正確に検討できると考えた。

消費者の制御焦点は,Haws, Dholakia, and Bearden(2010)Ozaki and Karasawa(2011)を参考に,それらの一部を用いることで測定した。具体的には,「自分が望むようなチャンスに遭遇すると,わくわくする」「どうやったら自分の目標や希望をかなえられるか,よく想像することがある」「私は“自分の理想”を最優先し,自分の希望や願い・大志をかなえようと努力するタイプだと思う」の3項目で促進焦点を,「間違いを犯さないか不安である」「どうやったら失敗を防げるかについて,よく考える」「私は“自分の義務”を最優先し,自分に与えられた責務や責任を果たそうと努力するタイプだと思う」の3項目で予防焦点を測定し,促進焦点3項目の合計値から予防焦点3項目の合計値を減じた値を制御焦点の値とした(M=.60, SD=4.33)。中央値が0だったため,中央値折半法で実験参加者を分割し,0未満を予防焦点,0以上を促進焦点とした。また,それぞれのパッケージに対する評価を把握するため,「魅力的なデザインだと思う」という項目についても尋ねた。全ての質問に対して,「1:全くそう思わない」から「7:おおいにそう思う」の7段階のリッカート法で回答してもらった。

2. 実験1の結果

(1) 注視回数に関する分析

アイ・トラッキングによって取得されたデータを確認し,視線の動きをうまく測定できなかった参加者のデータを分析の対象から除外した4)。その結果,分析の対象者は30名となった(予防焦点15名,促進焦点15名;男性19名,女性11名)。

制御焦点によるパッケージ上での注視回数の違いを比較したところ,予防焦点の消費者の方が促進焦点の消費者よりもパッケージ上での注視回数が多かった(M促進焦点=19.29, SD=2.83 vs. M予防焦点=21.56, SD=3.90, t(28)=1.823, p=.079)。したがって,仮説1は支持された。

(2) 評価に関する分析

仮説には直接かかわらないが,それぞれの制御焦点の消費者が情報量の異なるパッケージに対して,どのような評価を下しているのかを議論するため,「魅力的なデザインだと思う」を従属変数として分析も行った。本分析においては,各回答者が1つのパッケージに下した評価を分析単位とし,35名の実験参加者(予防焦点15名,促進焦点20名)が5つのパッケージに下した合計175の評価のそれぞれを分析対象とした。

2(制御焦点:促進/予防)×5(パッケージの情報量:水準0/水準1/水準2/水準3/水準4)の二元配置分散分析を実施したところ(図2),制御焦点とパッケージの情報量の交互作用効果のみが有意傾向であった(F(4, 165)=2.321, p=.059, η2p=.053)。そこで,単純主効果について分析したところ,促進焦点の参加者におけるパッケージの情報量の単純主効果が有意であり(F(4, 165)=3.561, p=.008, η2p=.079),水準3のパッケージに対する評価は(M=5.25, SD=1.48),水準0に対する評価や(M=3.35, SD=1.84, p=.007),水準4に対する評価よりも高かった(M=3.65, SD=1.95, p=.039)。それ以外の組み合わせでは有意な差が得られなかった(ps>.1)。また,予防焦点の参加者におけるパッケージの情報量の単純主効果は有意ではなかった(p>.6)。

図2

実験1の結果(デザイン評価)

※図中のエラーバーは標準誤差(±1 SE)を表す。

3. 実験1のまとめと課題

実験1では,制御焦点とパッケージ上の視線の動きの関係について,アイ・トラッキングを用いて検討を進めた。その結果,予防焦点の消費者の方が促進焦点の消費者に比べ,パッケージへの注視回数が多いことが確認され,パッケージの様々な要素を丹念に見ることが示唆された。また,各パッケージに対するデザイン評価においては,予防焦点の消費者では情報量による違いが見られなかった一方で,促進焦点の消費者では,情報量と評価との間に逆U字の関係が確認された。これは促進焦点の消費者において,情報が過剰になると評価が低下することを示唆しており,本研究の仮説3とも矛盾しない。

ただし,実験1における評価の測定は,それぞれの水準において異なる製品カテゴリーのパッケージを提示するなど,厳密さに欠ける部分がある。そこで,実験2と実験3では,特定の製品カテゴリーを取り上げ,より正確に情報量と評価の結びつきを検討していく。

IV. 実験2

1. 実験2の方法

(1) 目的と概要

実験2はパッケージの情報量がパッケージ・デザインの情報過剰感に正の影響を及ぼすという仮説2,促進焦点の消費者においては,パッケージ・デザインの情報過剰感が製品理解の容易性に負の影響を及ぼすという仮説3aを検証するために計画された。実験参加者は,首都圏の2つの大学に通う大学生180名(男性62名,女性118名)であり,実験時期は2014年7月である。

(2) 実験手続き

パッケージ画像には,実験1で用いたコーンフレークの画像を用いた。「このコーンフレークは,あるメーカーから発売予定の商品(価格未定)です。パッケージを見て,あなたが感じた印象をお答えください。」と伝えたうえで,情報量の異なる5つのパッケージのうち1つを提示し,パッケージに対する印象や制御焦点に関する質問について回答してもらった。

(3) 変数

パッケージの情報過剰感については,「ごちゃごちゃした印象を受けるパッケージである」,製品理解の容易性については,「商品の特徴が分かりやすいパッケージである」という項目を用いて測定した。消費者の制御焦点は,Ozaki and Karasawa(2011)が作成した邦訳版を参考に,Haws et al.(2010)の尺度を邦訳し,促進焦点を測定する5項目の合計値から予防焦点を測定する5項目の合計値を減じた値を制御焦点の値とした(M=–.59, SD=5.31)。全ての項目に,「1:全くそう思わない」から「7:おおいにそう思う」の7段階のリッカート法で回答してもらっている。

なお,追加的な情報が掲載されていない水準0のパッケージを0とし,水準1のパッケージは1,水準4のパッケージは4など,追加的な情報の数をパッケージの情報量の代替的な変数とした。

2. 実験2の結果

パッケージの情報量が情報過剰感に及ぼす影響を明らかにするため,パッケージの情報量を独立変数,情報過剰感を従属変数とする回帰分析を行ったところ,パッケージの情報量が増加すると情報過剰感が高まるという正の関係が確認された(R2=.033, β=.195, p=.009)。したがって,仮説2は支持された。

さらに,情報過剰感と制御焦点が製品理解の容易性に及ぼす影響を明らかにするため,情報過剰感,制御焦点,情報過剰感と制御焦点の交互作用項を独立変数とする重回帰分析を行ったところ(R2=.025, p=.060),情報過剰感と制御焦点の主効果は有意でなかったものの(ps>.2),両者の交互作用効果が有意であった(β=–.181, p=.019)5)

制御焦点による調整効果を詳細に探るため,制御焦点のスコアの平均±1SDを基準に,単純傾斜分析による下位検定を実施した結果,パッケージ・デザインの情報過剰感は,平均+1SDの消費者における製品理解の容易性を低下させていた一方(β=–.263, p=.021),平均-1SDの消費者における製品理解の容易性に影響を及ぼしていなかった(p>.4)。数値が高い参加者が促進焦点となるよう,制御焦点の値を作成していたことを踏まえると,予防焦点の参加者は情報過剰感による製品評価の容易性への影響を受けていない一方,促進焦点の参加者は情報過剰感により製品理解の容易性が低下してしまうという負の影響を受けていた。したがって,仮説3aは支持された。

さらに,SPSS PROCESS macroを用いて(Hayes, 2013),パッケージ上の情報量が情報過剰感を媒介して製品理解に影響を及ぼす媒介効果と制御焦点の調整効果を検討したところ(model 14;ブートストラップ法,リサンプリング数5000),調整媒介効果が有意であった(95% CI: –.0293, –.0018)。したがって,パッケージ上の情報量が増加すると,情報過剰感が高まり,情報過剰感は促進焦点の参加者においてのみ製品理解の容易性を低下させるという関係が示唆されている(図36)

図3

実験2の結果

3. 実験2のまとめ

実験2においては,パッケージの情報量と情報過剰感,製品理解の容易性の関係性を検討した。パッケージの情報量が情報過剰感に正の影響を及ぼすという仮説2が支持されたことに加えて,促進焦点の消費者において情報過剰感が製品理解の容易性に負の影響を及ぼすという仮説3aが支持された。

その一方で,実験2では大学生を調査対象としたにも関わらず,実験対象製品カテゴリーをコーンフレークとしていた。大学生が自らコーンフレークを購入する機会が限られている可能性を踏まえると,実験2の結果は,実際の市場における購買者を反映できていないかもしれない。また,製品理解の容易性を従属変数とすることで仮説3aを検討したものの,消費者の購買行動を予測するという点においては,製品評価を従属変数とした仮説3bを検討する必要もあるだろう。実験3は,こうした課題を克服すべく計画された。

V. 実験3

1. 実験3の方法

(1) 実験3の目的と概要

実験3は,実験2とほぼ同一の実験が計画された。ただし,対象製品カテゴリーは大学生でも自ら購入する可能性の高いグレープジュースに,従属変数は製品評価に変更した。実験は2016年7月,都内の私立大学に通う大学生290名(男性145名,女性145名)に実施した。

(2) 実験手続き

パッケージ画像には,実験1で用いたグレープジュースの画像を用いた。実験参加者には,「左の画像は,あるメーカーから発売予定のグレープジュースのパッケージです。パッケージを見て,あなたが感じた印象をお答えください。」と伝えた上で,5つのパッケージ画像のうち,1つが提示された。その後,パッケージに対する印象や制御焦点について回答してもらった。

(3) 変数

製品評価には,Dodds, Monroe, and Grewal(1991)を参考に「信頼できそうな商品である」「品質が高そうな商品である」「優れていそうな商品である」の3項目で測定した知覚品質を採用した(α=.90)。パッケージに対する情報過剰感や制御焦点については,実験2同様の尺度を用いた。全ての質問に対して,「1:全くそう思わない」から「7:おおいにそう思う」の7段階のリッカート法で回答してもらった。

2. 実験3の結果

実験2同様,パッケージの情報量を独立変数,パッケージに対する情報過剰感を従属変数とする回帰分析を行ったところ,パッケージの情報量が情報過剰感に正の影響を及ぼすという関係が確認された(R2=.075, β=.273, p<.001)。したがって,仮説2は再び支持された。

さらに,情報過剰感が製品評価に及ぼす影響を制御焦点が調整することを検討するため,情報過剰感,制御焦点,情報過剰感と制御焦点の交互作用項を独立変数とする重回帰分析を行った(R2=.079, p<.001)。その結果,情報過剰感の主効果(β=–.240, p<.001),情報過剰感と制御焦点の交互作用効果が有意となっており(β=–.161, p=.006),制御焦点が情報過剰感と製品評価との関係を調整していることが確認された7)

制御焦点による調整効果を詳細に探るため,制御焦点のスコアの平均±1SDを基準に,単純傾斜分析による下位検定を実施したところ,パッケージ・デザインの情報過剰感は,平均+1SDの参加者における製品評価を低下させていた一方(β=–.375, p<.001),平均-1SDの参加者における製品評価に影響を及ぼしていなかった(β=–.105, p>.14)。数値が高い参加者が促進焦点となるよう,制御焦点の値を作成していたことを踏まえると,予防焦点の参加者は情報過剰感による製品評価への影響を受けていない一方,促進焦点の参加者は情報過剰感により製品評価が低下するという負の影響を受けていた。したがって,仮説3bは支持された。

さらに,SPSS PROCESS macroを用いて(Hayes, 2013),パッケージ上の情報量が情報過剰感を媒介して製品評価に影響を及ぼす媒介効果と制御焦点の調整効果を検討したところ(model 14;ブートストラップ法,リサンプリング数5000),調整媒介効果が有意であった(95% CI: –.0299, –.0025)。したがって,パッケージの情報量が増加すると,情報過剰感が高まり,情報過剰感は促進焦点の参加者においてのみ製品評価を低下させるという関係が示唆された(図48)

図4

実験3の結果

3. 実験3のまとめ

実験3でも実験2と同様,パッケージに記載される情報量がパッケージ・デザインの情報過剰感に正の影響を及ぼすという仮説2が支持された。また,促進焦点の消費者において情報過剰感が製品評価に負の影響を及ぼすという仮説3bも支持された。

実験1から実験3では,仮説を支持する結果が得られたが,制御焦点が状況依存的にも形成されるとの指摘があるにもかかわらず(Schwarz, 2006; Zhu & Meyers-Levy, 2007),個人特性として捉えて実験が進められた点は,実務への応用性が低いという点で限界を抱えている。また,実験の対象者が大学生に限られている点は結果の一般化を議論する上で課題となる。特に,実験が大学において実施したことを踏まえると,義務や責任を重視する予防焦点の大学生は,大学で行われる実験に対して強い義務感をもって臨んだかもしれない。その結果,促進焦点の大学生に比べて,実験への動機付けが高水準であった可能性も排除できない。実験4は,これらの課題や限界に対応すべく計画された。

VI. 実験4

1. 実験4の方法

(1) 目的と概要

実験4は2018年5月に実施された。前節で指摘した実験1から実験3の課題や限界に対応すべく,実験4では,制御焦点に基づく製品特徴や訴求内容を採用した場合においても(e.g. Zhu & Meyers-Levy, 2007),制御焦点を個人特性として取り上げた場合と類似したパッケージの情報量による製品評価への影響が得られるのかを検討することとした。また,実験参加者を一般消費者とするため,インターネット調査会社のモニタ441名(男性285名,女性156名)を対象に実験を進めた。

さらに,前節で指摘した動機づけの影響を考慮するため,情報過負荷の先行研究において情報処理への動機づけの代替変数として用いられている認知欲求の影響を考慮することとした(e.g. Sicilia & Ruiz, 2010)。

(2) 予備調査

実験の対象となる製品カテゴリーとそれらの製品カテゴリーにおける制御焦点に基づく広告内容を選定するため,一般消費者223名を対象に予備調査を行った。実験1で用いたパッケージの製品カテゴリーのうち,コーンフレーク,グレープジュース,ノンアルコールビールに注目し,促進焦点と予防焦点に結びつく訴求内容を作成したうえで,それぞれについて「ポジティブな結果に結びつきそうだ」「成功を後押ししてくれそうだ」「喜びが生まれそうだ」の3項目で促進焦点的側面を,「ネガティブな結果を回避できそうだ」「失敗を予防してくれそうだ」「安心が生まれそうだ」の3項目で予防焦点的側面を測定することとした。促進焦点的側面3項目の合計値から予防焦点的側面3項目の合計値を減じた値を訴求内容の制御焦点の代替的な指標としたうえで,それぞれの製品カテゴリーの促進焦点に基づく訴求内容と予防焦点に基づく訴求内容を比較した。その結果,コーンフレークの訴求内容では促進焦点に基づく訴求内容の方が予防焦点に基づく訴求内容よりも値が大きく,その差は有意傾向であった(M促進焦点=.22, SD=1.16 vs. M予防焦点=.05, SD=1.14, t(222)=1.833, p=.068)。値が大きい方が促進焦点的側面の強い訴求内容であると考えられるため,想定していた制御焦点に結びついた違いが確認できたと考え,コーンフレークの訴求内容を本実験の刺激として採用することとした(図5)。

図5

制作した広告

(3) 実験手続き

パッケージ画像には,実験1と実験2で用いたコーンフレークの画像を用いた。その際,実験1から実験3までの結果を参考に,情報量が最も多い4つの情報が掲載された画像を情報過剰感の強いパッケージ,中間的な情報量である2つの情報が掲載された画像を情報過剰感の低いパッケージとし,両者の比較によって情報過剰感が製品評価に及ぼす影響を検討することとした。したがって,実験は2(パッケージの情報量:水準2/水準4)×2(広告の訴求内容:促進/予防)×2(認知欲求:高/低)の被験者間計画となっている。

実験参加者には,「ある企業が「ヘルシーフレーク」という商品の発売を検討している状況を想定してお答えください。その企業では以下の広告を準備しています。」と伝えた後,制作された4つの架空広告のうち,1つが提示された。その後,製品に対する評価や認知欲求などの質問に回答してもらった。

(3) 変数

製品評価は,「品質が高そうな商品である」「優れていそうな商品である」「良い製品である」の3項目で測定した(α=.925)。パッケージの情報過剰感の違いを確認するため,実験2や実験3と同様,「ごちゃごちゃした印象を受けるパッケージである」についても回答してもらった。

認知欲求は,Wood and Swait(2002)によって採用された5項目で測定した(M=20.37, SD=3.82)。中央値が20だったことから,中央値折半法で実験参加者を分割し,20以下を低認知欲求群,21以上を高認知欲求群とした。

全ての質問に対して,「1:全くそう思わない」から「7:おおいにそう思う」の7段階のリッカート法で回答してもらった。

2. 実験4の結果

(1) マニピュレーションチェック

分析に先立ち,それぞれのパッケージに対する情報過剰感を比較したところ,情報量の多い水準4のパッケージが情報量の中間的な水準2のパッケージよりも情報過剰感が強いことが確認された(M水準2=3.52, SD=1.16 vs. M水準4=3.83, SD=1.31, t(439)=2.569, p=.011)。したがって,水準2を情報過剰感の低いパッケージ,水準4を情報過剰感の高いパッケージとして議論を進める。

(2) 製品評価

パッケージの情報量,広告の訴求内容,認知欲求が製品評価に及ぼす影響を検討するため,2(パッケージの情報量:水準2/水準4)×2(広告の訴求内容:促進/予防)×2(認知欲求:高/低)の三元配置分散分析を実施した。その結果,認知欲求の主効果が有意傾向であるだけでなく(F(1, 433)=3.492, p=.062, η2p=.008),二次の交互作用効果が有意であった(F(1, 433)=4.341, p=.038, η2p=.010)。

そこで,実験参加者を高認知欲求群と低認知欲求群に分割し,2(パッケージの情報量:水準2/水準4)×2(広告の訴求内容:促進/予防)の二元配置分散分析を実施したところ(図6),高認知欲求群において,パッケージの情報量と訴求内容の制御焦点の単純交互作用効果が有意傾向であった(F(1, 178)=3.250, p=.073, η2p=.018)。そこで,単純・単純主効果を検討したところ,予防焦点に基づく訴求内容に触れた群におけるパッケージの情報量の単純・単純主効果は有意でなかったものの(p>.4),促進焦点に基づく訴求内容に触れた群におけるパッケージの情報量の単純・単純主効果は有意傾向であり(F(1, 178)=3.194, p=.076, η2p=.018),情報過剰感の低い水準2のパッケージは(M=13.11, SD=2.15),情報過剰感の高い水準4のパッケージよりも(M=11.93, SD=4.23),知覚品質が高かった。なお,低認知欲求群では,いずれの効果も有意でなかった(ps>.2)。

図6

実験4の結果

    ※図中のエラーバーは標準誤差(±1 SE)を表す。    ※図中のエラーバーは標準誤差(±1 SE)を表す。

水準4のパッケージが水準2のパッケージよりも情報過剰感が高かったことを踏まえると,上述した結果は,認知欲求の高い参加者が促進焦点に基づく訴求内容に接した状況において,パッケージ・デザインの情報過剰感がネガティブな製品評価に結びつくことを示唆している。したがって,実験4の結果は,仮説3bと部分的に一致すると考えられる。

3. 実験4のまとめ

実験4では,実験1から実験3が消費者の個人特性として制御焦点を議論してきた点を問題意識とし,制御焦点に基づく広告の訴求内容の影響に注目した実験を進めた。その結果,認知欲求の高い参加者が促進焦点に基づく訴求内容に触れた場合において,情報過剰感の低いパッケージよりも情報過剰感の高いパッケージの製品評価が低くなっていた。

VII. 議論

1. 全体のまとめ

本研究では,パッケージに掲載される情報量に注目し,制御焦点の影響を考慮しながら議論を進めてきた。実験1では,促進焦点の消費者よりも予防焦点の消費者がパッケージを丹念に見る傾向を確認し,実験2と実験3では,パッケージの情報量が情報過剰感に正の影響を及ぼすこと,促進焦点の消費者において情報過剰感が製品理解や製品評価に負の影響を及ぼすことを明らかにした。実験4においては,認知欲求の高い消費者が促進焦点に基づく訴求内容に接した場合,情報過剰感の高いパッケージの評価が低くなることを指摘した。

2. 本研究の示唆

パッケージの重要性は古くから指摘されてきた一方,パッケージに掲載すべき情報量に関する議論はほとんど進められてこなかった。本研究では,制御焦点と情報過剰感に注目し,促進焦点の消費者において情報過剰感が製品理解の容易性や製品評価に負の影響を及ぼすことを明らかにした。こうした知見は,パッケージ研究に一定の示唆をもたらすものと考えられる。また,制御焦点に関わる先行研究において,視線との結びつきを取り上げた議論はそれほど多くない。提示時間を一定にした場合,促進焦点の消費者に比べ,予防焦点の消費者の注視回数が多いことを明らかにした本研究の結果は,パッケージ研究だけでなく,制御焦点理論研究にも示唆をもたらすと考えている。

実務的には,パッケージに記載すべき適切な情報量が製品特徴や訴求内容に左右されることが示された。特に,制御焦点に基づく訴求内容と情報量との結びつきを取り上げた実験4の結果は,促進焦点に結びつきやすい製品特徴を訴求すると,予防焦点に結びつきやすい製品特徴を訴求した場合に比べ,パッケージの情報量の増加がネガティブな反応を引き起こす可能性が高いことを示している。したがって,促進焦点に結びつきやすい製品においては,パッケージに記載する情報量を一定水準に限定することで,消費者によるネガティブな反応が生まれる可能性を低減できるだろう。また,パッケージに多くの情報を掲載しなくてはならない製品カテゴリーにおいては,促進焦点に結びつく訴求ではなく,予防焦点に結びつく訴求を行うことにより,情報過剰感によるネガティブな影響を抑制できるかもしれない。

なお,促進焦点と予防焦点に分割して情報量とデザイン評価の関係を分析した実験1のデータを用いて,両者を統合した消費者全体の結果を確認してみると,水準3において評価が向上する傾向がみられる(図7)。こうした傾向は,実験3の知覚品質の評価においても確認することができる。本研究の実験で用いたパッケージ・デザインのみで断定することは難しいが,ブランドネームや他の必要事項に加えて,3つほどの情報量の追加がパッケージの適切な情報量の目安となるかもしれない。

図7

実験1の結果(消費者全体)

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究には残念ながら限界もある。一つは,パッケージに掲載される情報に関わる点である。本研究では,市場で展開されている実際の商品の情報を参考に,パッケージに掲載する情報を選定したが,それぞれの情報の魅力度や必要度については,詳細な議論を加えていない。また,図1の通り,情報が追加される順序はランダムではない。したがって,特定の情報が掲載されたことで評価が向上したり,低下したりした可能性を排除できていない。

実験4においては,情報量と制御焦点の交互作用効果を認知欲求が調整していることが示唆されたものの,本研究では詳細な議論をしていない。情報処理を積極的に進める高認知欲求の消費者は,低認知欲求の消費者にくらべ,訴求内容を積極的に処理するため,制御焦点による訴求内容の違いの影響をより強く受けやすい可能性がある。こうした可能性については,より精緻な検討を進めなくてはならないだろう。

パッケージに掲載すべき情報量に関する議論は,様々な視点から進められるはずである。本研究で得られた知見は,今後の議論の礎の一つとなるであろう。

謝辞

本研究の実験1は,2011年11月から2012年9月にかけて行われた日本マーケティング協会パッケージ・デザイン研究会における研究成果の一部であり,アイ・トラッキング装置の利用はトビー・テクノロジー株式会社,パッケージ・デザインの制作は株式会社PLUGに多大なるご協力をいただいた。また,実験2と実験3はJSPS科研費(26380568)の助成を受けて進められた。本研究の掲載にあたっては,編集担当の小野晃典先生(慶應義塾大学)と小野先生から依頼を受けたコメンテーターの方々から大変貴重な示唆をいただいた。ここに記して厚く感謝申し上げる。

1)  2011年11月から2012年9月にかけて行われた日本マーケティング協会パッケージ・デザイン研究会内でのディスカッションによる。

2)  制御焦点理論においては,一人の消費者が促進焦点と予防焦点の両者を併せ持ちながらも,いずれの焦点が優勢であるのかという視点から議論が進められてきた。こうした視点に基づくと,個人特性として測定された場合には「促進(予防)焦点的傾向の強い消費者」,実験的手法により操作された場合には「促進(予防)焦点群の消費者」などと言及する方がより正確な表現であると考えられる。しかしながら,本研究では,個人特性で制御焦点を分類した実験と実験的手法で制御焦点を操作した実験において一致した結果が得られていることを重視し,便宜的に「促進焦点の消費者」「予防焦点の消費者」という表現を用いて議論を進めることとした。

3)  本実験に制御焦点の質問が影響を及ぼさないよう,制御焦点の質問と本実験の実施との間には一定の時間的間隔を置くように留意した。

4)  直接的な原因は特定できなかったものの,実験参加者の瞼の形状や,対象を見る際の癖などによって視線の取得率が著しく低下してしまった可能性がある。

5)  交互作用項は,情報過剰感と制御焦点の値を中心化したうえで作成した。

6)  図3に掲載された分析結果においては,パッケージの情報量による製品理解の容易性への直接効果が想定されているため,本文中に記載されている重回帰分析の結果の値とは若干の不一致が生まれている。

7)  交互作用項は,情報過剰感と制御焦点の値を中心化したうえで作成した。

8)  図4に掲載された分析結果においては,パッケージの情報量による製品理解の容易性への直接効果が想定されているため,本文中に記載されている重回帰分析の結果の値とは若干の不一致が生まれている。

石井 裕明(いしい ひろあき)

成蹊大学経済学部准教授。早稲田大学商学部を卒業後,同大大学院商学研究科修士課程および博士後期課程へ進学。博士(商学)。千葉商科大学サービス創造学部専任講師,准教授を経て,2015年より現職。専門は,消費者行動,マーケティング。

References
 
© 2018 The Author(s).
feedback
Top