Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Effects of Regulatory Focus on Channel Choice and Recommendation:
Analyzing Multichannel Shopper Behavior
Ryuta IshiiMai Kikumori
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 38 Issue 2 Pages 52-67

Details
Abstract

今日,実店舗とオンライン店舗の両方で買物する消費者,すなわち,マルチ・チャネルショッパーが増加している。既存研究は,マルチ・チャネルショッパーの制御焦点が店舗選択に影響を及ぼすということを示唆してきた。しかし,(1)チャネル属性の知覚水準に影響を及ぼしうるオンライン購買経験を考慮に入れていない点,および,(2)消費者の店舗推奨行動を検討していない点において問題が残されている。これらの問題に対応するために,本論は,マルチ・チャネルショッパーの制御焦点が店舗選択・推奨に及ぼす影響,および,その影響に対するオンライン購買経験の調整効果を検討する。シナリオ法を用いた調査を実施し,241名の参加者からデータを収集した。回帰分析の結果,予防焦点は,オンライン店舗(対実店舗)の選択および推奨行動に負の影響を及ぼす一方,消費者のオンライン購買経験が多い場合,促進焦点は,オンライン店舗(対実店舗)の選択および推奨行動に正の影響を及ぼすということが見出された。こうした知見を提示することで,本論は,消費者のチャネル選択に関する研究,クチコミに関する研究,および,制御焦点理論に関する研究の進展に貢献を成すだろう。

I. はじめに

複数の販売チャネルを通じて製品を提供することは,小売業者にとって今や一般的な戦略になっている(Van Bruggen, Antia, Jap, Reinartz, & Pallas, 2010)。今日の小売業者は,実店舗やカタログなどの従来の販売チャネルに加えて,直営サイトやモバイルアプリなどのオンラインチャネルを設置している。消費者側に目を向けてみると,数多くの消費者は,こうした複数の販売チャネルを利用して買物を行っている(Neslin et al., 2006; Verhoef, Nestlin, & Vroomen, 2007)。我が国でも,特にミレニアル世代と呼ばれる10~20代の消費者は,1日あたり平均で3時間以上をインターネット通信を目的とするスマートフォンの利用に費やしており,製品の購買を実店舗だけではなく,オンラインチャネルでも積極的に行う様子が伺える(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2017, p. 11)。このように複数の販売チャネルを利用して買物を行う消費者は,マルチ・チャネルショッパーと呼ばれている(Kumar & Venkatesan, 2005; Kushwaha & Shankar, 2013)。インターネットやスマートフォンの普及率・使用率はますます高まっており,オンラインショッピング利用経験者も増加していることに鑑みると,マルチ・チャネルショッパーの数は,今後さらに増加していくと予想される。それゆえ,今日の小売業者にとって極めて重要な課題として,マルチ・チャネルショッパーの心理や行動に関する理解を深めるということが挙げられるだろう。

そうした試みの一つとして,マーケティング論ないし消費者行動論においては,マルチ・チャネルショッパーが如何なる時にオンライン店舗を選択して,如何なる時に実店舗を選択するのかというチャネル選択問題が検討されてきた。マルチ・チャネルショッパーのチャネル選択を規定する要因として,チャネル要因(e.g., Huang & Oppewal, 2006; Montoya-Weiss, Voss, & Grewal, 2003; Verhoef et al., 2007; Wang, Lin, Tai, & Fan, 2016; Yu, Niehm, & Russell, 2011),製品要因(e.g., Elliot & Fowell, 2000),状況要因(e.g., Chocarro, Cortiñas, & Villanueva, 2013; Gehrt & Yan, 2004; Hand, Dall’Olmo Riley, Harris, Singh, & Rettie, 2009; Nicholson, Clarke, & Blakemore, 2002),および,個人要因(e.g., Cervellon, Sylvie, & Ngobo, 2015; Dai, Forsythe, & Kwon, 2014)が取り上げられてきた。その中でも,個人要因に着目した研究は,顧客セグメンテーション方法に関する含意を提供しうる点において実務的示唆が豊富であるため,今後ますます取り組む必要があると指摘されている(Cervellon et al., 2015)。したがって,個人要因,特に消費者の制御焦点が,マルチ・チャネルショッパーのチャネル選択を規定する要因になりうると示唆したKushwaha and Shankar(2013)は注目に値するだろう。彼らは,促進焦点の消費者は,不確実性や新規性の高いオンライン店舗やマルチ・チャネルを好み,そこで快楽的ないし高リスクの製品を購買する一方,予防焦点の消費者は,馴染み深くて安心感の高い実店舗を好み,そこで実用的ないし低リスクの製品を購買するという興味深い主張を展開している。

しかしながら,Kushwaha and Shankar(2013)は,全ての消費者が実店舗とオンライン店舗のそれぞれに対して同一水準のチャネル属性を知覚するということを,暗黙裡のうちに仮定してしまっている。消費者のチャネル選択に関する既存研究においては,オンライン購買経験の多寡が,実店舗やオンライン店舗が有するチャネル属性の知覚水準に大きな影響を及ぼすということが見出されている(e.g., Dai et al., 2014; Yang, 2012)。具体的には,オンライン購買経験が多い消費者は,オンライン店舗で購買するリスクを低く知覚する一方,そこで購買する快楽感を高く知覚するという。オンライン購買経験によって,チャネル属性の知覚水準が変化するということを考慮に入れると,制御焦点がチャネル選択に及ぼす影響の大小は,オンライン購買経験の多寡に左右されると考えられるだろう。

また,大半の既存研究は,マルチ・チャネルショッパーのチャネル選択行動に焦点を合わせてきたが,マルチ・チャネルショッパーが選択したチャネルについて他者に推奨するのか否かという研究課題は,未探究のまま残されている。他者への推奨やクチコミの発信は,製品や店舗の売上に極めて大きな影響を及ぼすため,そうしたクチコミの発生メカニズムを検討する研究が盛んに行われている(e.g., Godes et al., 2005; Ono & Kikumori, 2017)ということを考慮に入れると,チャネル選択行動だけではなく,チャネル推奨行動もまた研究対象に設定する必要があろう。

既存研究が残した問題点に対応するために,本論は,マルチ・チャネルショッパーの制御焦点がオンライン店舗(対実店舗)の選択・推奨行動に及ぼす影響,および,その影響に対するオンライン購買経験の調整効果を検討することを試みる。本論の取り組みは,消費者のチャネル選択に関する研究,クチコミに関する研究,および,制御焦点理論に関する研究の進展に一定の貢献を成すだろう。

II.既存研究レビュー

1. 消費者のチャネル選択に関する既存研究

マーケティング論において,チャネル選択に関する研究は,企業のチャネル選択に関する研究群,すなわち,企業が自社製品を流通させるために如何なるチャネルを選択するのかという問題を取り扱った研究群(e.g., Anderson, 1985; Weiss, Anderson, & MacInnis, 1999)と,消費者のチャネル選択に関する研究群,すなわち,消費者が製品を購買するために如何なるチャネルを選択するのかという問題を取り扱った研究群(e.g., Bell & Lattin, 1998; Oppewal, Timmermans, & Louviere, 1997)に大別される。両者の研究群に共通する近年の傾向として,マルチ・チャネルに焦点を合わせた研究が盛んに展開されているということが挙げられる。

一方で,企業のチャネル選択に関する研究は,どのような時に,企業が複数種類のチャネルを選択するのかというテーマを取り扱ってきた(e.g., Ishii, 2018; Jindal, Reinartz, Krafft, & Hoyer, 2007; Sa Vinhas & Anderson, 2005)。換言すると,これらの研究は,企業のマルチ・チャネル化を規定する要因を検討してきた。例えば,Sa Vinhas and Anderson(2005)は,直接チャネルと間接チャネルの間でコンフリクトが生じないような時には,B2Bメーカーは双方のチャネルを選択すると主張した。また,Jindal et al.(2007)は,企業の顧客志向や標的顧客の専門性が高い時には,B2Cメーカーは多様なチャネルを選択するということを見出した。

他方で,消費者のチャネル選択に関する研究は,企業によって設置された複数種類のチャネルのうち,どのような時に,消費者はそれらを組み合わせて選択するのかというテーマ(e.g., Gensler, Verhoef, & Böhm, 2012; Oppewal, Tojib, & Louvieris, 2013)や,どのような時に,それらのチャネルのうちの特定のチャネルを選択するのかというテーマ(e.g., Neslin et al., 2006)を取り扱ってきた。その中でも,オンライン店舗と実店舗のうち,消費者は,どのような時にいずれを選択するのかというテーマは,現実世界においてマルチ・チャネルショッパーが頻繁に直面する意思決定問題であるため,最も重要な研究課題の一つとして位置づけられてきた(Chocarro et al., 2013; Monsuwé, Dellaert, & De Ruyter, 2004)。

この研究課題を取り扱った既存研究は,オンライン店舗(対実店舗)の選択を規定する要因を探究してきた。これまでに見出されてきた規定要因は,主として次の4つのカテゴリーに分類しうる。第一は,チャネル要因である。チャネル要因に着目した既存研究は,購買を行うチャネルの属性水準が,チャネル選択に及ぼす影響を探究してきた(e.g., Huang & Oppewal, 2006; Montoya-Weiss et al., 2003; Verhoef et al., 2007; Wang et al., 2016; Yu et al., 2011)。例えば,Huang and Oppewal(2006)は,オンライン店舗(対実店舗)の選択を規定する要因として,店舗での購買に伴う金銭的・心理的費用,店舗での購買過程で得られる快楽感,店舗での購買に伴うリスクに着目した。彼らは,生鮮食品についてシナリオ実験を行ってデータを収集し,分析を行った結果,オンライン店舗の選択に対して,店舗での購買過程で得られる快楽感は正の影響を及ぼす一方,店舗での購買に伴う心理的費用とリスクは負の影響を及ぼすということを見出した。

第二は,製品要因である。製品要因に着目した既存研究は,購買対象製品の特性が,チャネル選択に及ぼす影響を探究してきた(e.g., Elliot & Fowell, 2000)。例えば,Elliot and Fowell(2000)は,35人の学生から107のオンライン店舗における買物データを収集して,オンライン店舗で購買されやすい製品の特性を探索的に識別した。その結果,書籍や音楽CDのように,規格品で,消費者が精通している製品は,実店舗ではなくオンライン店舗で購買されやすい一方,ボディローションや衣服のように,非規格品で,店員によるサービスが必要な製品は,オンライン店舗ではなく実店舗で購買されやすいということを見出した。

第三は,状況要因である。状況要因に着目した既存研究は,消費者を取り巻く時間や場所といった環境が,チャネル選択に及ぼす影響を探究してきた(e.g., Chocarro et al., 2013; Gehrt & Yan, 2004; Hand et al., 2009; Nicholson et al., 2002)。例えば,Chocarro et al.(2013)は,3つの状況要因,すなわち,実店舗までの距離のような物理的要因,購買までの猶予の無さのような時間的要因,および,他者の存在のような社会的要因が,オンライン店舗(対実店舗)の選択に及ぼす影響を探究した。彼らは,多様なカテゴリーの製品についてシナリオ実験を行ってデータを収集し,分析を行った結果,物理的要因と時間的要因が,オンライン店舗の選択に正の影響を及ぼすということを見出した。

第四は,個人要因である。個人要因に着目した既存研究は,知識・経験・志向といった個々の消費者が有する特性が,チャネル選択に及ぼす影響を探究してきた(e.g., Cervellon et al., 2015; Dai et al., 2014)。例えば,Dai et al.(2014)は,オンライン購買経験がオンライン店舗(対実店舗)の選択に及ぼす影響を探究した。彼らは,デニムジャケットとMP3ファイルに関する大規模なオンライン調査を行ってデータを収集し,分析を行った結果,オンライン購買経験が,製品,決済情報,および,個人情報に関する知覚リスクを低減させることを通じて,オンライン店舗の選択に正の影響を及ぼすということを見出した。

以上のように,既存研究は,オンライン店舗と実店舗の選択に関する数々の規定要因を検討してきた。Cervellon et al.(2015)は,大半の既存研究は,第一の要因であるチャネル属性に着目しており,第四の要因である個人要因に着目した研究は希少であると指摘している。彼らによると,オンライン店舗や実店舗の選択に影響を及ぼす個人要因を同定することは,マーケティング戦略に対する示唆を与える上で非常に重要な試みであるという。なぜなら,個人要因は,企業が顧客セグメンテーションを行うための有用な基準になりうるからである(Montoya-Weiss et al., 2003)。特に近年では,デモグラフィック要因ではなく,消費者の心理的要因によって,セグメンテーションを実施することが有効であると示唆されている(Cervellon et al., 2015)。そうした個人要因の一つとして,消費者の制御焦点が挙げられるだろう。次節においては,制御焦点理論に依拠して,消費者の制御焦点と買物行動の関係を検討した研究を概観したい。

2. 制御焦点理論に関する研究

制御焦点理論(Higgins, 1997, 1998)は,人間の動機づけを制御する様式として,促進焦点と予防焦点の2種類の制御焦点を識別し,それらが人間の感情・思考・行動に異なる影響を及ぼすと主張する。この理論によると,促進焦点の個人は,達成・願望・熱望に注目しているため,肯定的な結果の有無からの影響を受けやすい一方,予防焦点の個人は,安全・責任・義務に注目しているため,否定的な結果の有無からの影響を受けやすいという(Higgins, 1997)。Higgins(1998)は,個人の促進焦点や予防焦点の強弱は,幼少期に面倒を見てくれた人との関わり方によって異なると述べている。彼によると,偉業を達成したり願望を叶えたりすることを強調するような向上的様式(bolster mode)で関わると,促進焦点が強化される一方,危険に注意したり自身の振る舞いに気を付けたりすることを強調するような堅実的様式(prudent mode)で関わると,予防焦点が強化されるという。こうして形成された促進焦点や予防焦点の強弱は,個人の意思決定に影響を及ぼし,自身の制御焦点に適合した意思決定を行えれば,その状態を心地よく感じるため,その意思決定を高く評価する(Avnet & Higgins, 2006)。

制御焦点の概念を取り扱う際には,次の2点に注意するべきだろう。1点目は,促進焦点と予防焦点は,別次元の概念であるということである。Higgins(1998)が,「一人の個人について,強い促進焦点が獲得されることも,強い予防焦点が獲得されることも,あるいは,それらの両方が獲得されることもある」(p. 16)と述べていることから明らかなように,促進焦点と予防焦点は,制御焦点という一次元で捉えられる概念ではなく,それぞれは,独立した概念である(Haws, Dholakia, & Bearden, 2010)。実際,既存の実証研究は,個人の促進焦点と予防焦点を別々に測定しており,また,両者の相関は極めて小さく,なおかつ,統計的に非有意であるということを見出している(e.g., Gorman et al., 2012; Summerville & Roese, 2008)。2点目は,人間の制御焦点は,慢性的な特性である一方,一時的な状況でもあるということである。すなわち,個人ごとに,促進焦点や予防焦点の強弱は異なりうるし,同一の個人でも,状況によってそれらの強弱は異なりうる。したがって,実証分析に際して,制御焦点を個人要因として捉えた上で,その実態を測定する研究もあれば(e.g., Avnet & Higgins, 2006),それを状況要因として捉えた上で,個人に刺激を与えて操作する研究もある(e.g., Wang & Lee, 2006)。

制御焦点は,消費者の動機要因の一つとして見なすことができ,それは,消費者が追い求める目標,達成しようとするニーズ,あるいは,形成する思考に多大な影響を及ぼす(Pham & Higgins, 2005)。それゆえ,2000年以降,マーケティング論や消費者行動論の研究者たちは,制御焦点理論を,広告,セールスプロモーション,あるいは,買物行動といった多様な文脈で援用してきた(cf. Ishii, 2009)。制御焦点理論を買物行動の文脈に援用した研究として,Arnold and Reynolds(2009)Kushwaha and Shankar(2013),および,Das(2016)が挙げられる。これらのうち,Arnold and Reynolds(2009),および,Das(2016)は,特定の単一種類の店舗における消費者の買物行動を研究対象に設定しているため,シングル・チャネルに関する研究に位置付けられる一方,Kushwaha and Shankar(2013)は,複数種類の店舗における消費者の買物行動を考慮に入れているため,マルチ・チャネルに関する研究に位置付けられるだろう。

Arnold and Reynolds(2009)は,消費者の制御焦点が,消費者の気分(ムード)や買物価値に及ぼす影響を探究した。彼らは,オンライン・サーベイを行って消費者データを収集し,分析を行った結果,促進焦点の消費者は,自身の気分を向上させ,買物の快楽的価値を高く知覚する一方,予防焦点の消費者は,自身の気分を正確に把握して,買物の実用的価値を高く知覚するということを見出した。加えて,消費者は,快楽的価値や実用的価値を高く知覚すると,当該店舗に関する正のクチコミを発信する傾向にあるということを見出した。

Das(2016)は,消費者の制御焦点が,買物時の多様な行動,すなわち,買物価値の知覚,衝動購買,再購買,正のクチコミの発信,および,買物時間に及ぼす影響を探究した。ショッピング・モールにおいて店頭出口調査を行って消費者データを収集し,分析を行った結果,促進焦点の消費者は,予防焦点の消費者に比して,買物の快楽的価値を高く知覚し,衝動購買を行い,再購買や正のクチコミの発信を行わず,買物時間が短い傾向にあるということを見出した。

制御焦点理論を,マルチ・チャネルに関する研究に援用したのが,Kushwaha and Shankar(2013)である。彼らは,マルチ・チャネルショッパーが金銭的価値に及ぼす影響を,製品カテゴリーが如何に調整するのかということを検討するのに際して,消費者の制御焦点に着目した。彼らによると,制御焦点,店舗種類,および,製品カテゴリーには,適合性が存在するという。具体的には,促進焦点の消費者は,革新的で不確実性の高いオンライン店舗やマルチ・チャネルでの購買,および,快楽的ないし高リスクの製品カテゴリーでの購買に適合感を抱くという。他方,予防焦点の消費者は,馴染み深くて安心感の高い実店舗での購買,および,実用的ないし低リスクの製品カテゴリーでの購買に適合感を抱くという。彼らの研究は,購買店舗の種類と購買製品カテゴリーの交互効果を検討するのに際して,制御焦点理論が有用であるということを示した点において,制御焦点理論に関する研究に大きな貢献を成したと評価することができる。

3. 問題の所在

Kushwaha and Shankar(2013)は,制御焦点が店舗選択に及ぼす影響を明示的に検討したわけではないが,彼らの主張は,制御焦点と店舗選択の関係について,次のように示唆していると考えられるだろう。すなわち,促進焦点の消費者は,不確実性や新規性の高いオンライン店舗を選択する一方,予防焦点の消費者は,馴染み深さや安心感の高い実店舗を選択するということである。しかしながら,彼らは,オンライン購買経験を考慮に入れていないという問題を抱えている。既存研究において見出されてきたように,オンライン購買経験は,チャネル属性の知覚水準に多大な影響を及ぼす。すなわち,オンライン購買経験の多い消費者は,オンライン店舗のリスクを低く知覚する一方,そこで購買する快楽感を高く知覚する(e.g., Dai et al., 2014; Yang, 2012)。したがって,制御焦点がチャネル選択に及ぼす影響の大小は,オンライン購買経験の多寡に依存すると考えられるだろう。加えて,Kushwaha and Shankar(2013)を含む大半の既存研究は,マルチ・チャネルショッパーの店舗選択行動に焦点を合わせてきたが,マルチ・チャネルショッパーの店舗推奨行動には焦点を合わせてこなかった。しかしながら,他者への推奨やクチコミの発信は,製品や店舗の売上に極めて大きな影響を及ぼすため,そうしたクチコミの発生メカニズムを検討する研究が盛んに行われている(e.g., Godes et al., 2005; Ono & Kikumori, 2017)ということを考慮に入れると,チャネルの選択だけではなく,チャネルの推奨もまた研究対象に設定する必要があろう。これらの問題を踏まえて,制御焦点が店舗選択・推奨に如何なる影響を及ぼすのかということ,および,その影響をオンライン購買経験が如何に調整するのかということを検討することが急務だろう。

III. 仮説提唱

1. 促進焦点が店舗選択・推奨に及ぼす影響に関する仮説

制御焦点理論によると,促進焦点の個人は,達成・願望・熱望に注目しているため,肯定的な結果の有無からの影響を受けやすいという(Higgins, 1997, 1998)。これを踏まえると,促進焦点の消費者は,購買店舗を選択するのに際して,ある店舗での購買によって得られる便益に注目するだろう。消費者のチャネル選択に関する数多くの既存研究(Huang & Oppewal, 2006; Verhoef et al., 2007; Wang et al., 2016; Yu et al., 2011)が主張してきたように,消費者の店舗選択を駆動する便益は,店舗で購買する快楽感である。快楽感とは,買物の過程で得られる喜びと定義される(Beatty & Ferrell, 1998)。促進焦点の消費者は,購買店舗の選択に際して,ある店舗で購買する快楽感を高いと知覚すれば,当該店舗を選択するだろう。また,ある店舗を選択する意図が高い消費者は,当該店舗での購買を他者に勧める傾向にある(Hahn & Kim, 2009)。それゆえ,促進焦点の消費者は,快楽感を高いと知覚した店舗での購買を他者に推奨するだろう。

オンライン店舗と実店舗のうち,どちらの店舗で購買する快楽感を,消費者が高いと知覚するかは,オンライン購買経験の多寡によって左右されるだろう。一方で,オンライン購買経験が多い消費者は,オンライン店舗で頻繁に購買を行っているため,オンライン店舗での購買を,快適で楽しいと知覚する(e.g., Pappas, Pateli, Giannakos, & Chrissikopoulos, 2014; Yang, 2012)。それゆえ,オンライン購買経験が多い場合,促進焦点の消費者は,購買に際して,オンライン店舗を選択し,オンライン店舗での購買を他者に推奨するだろう。他方で,オンライン購買経験の少ない消費者は,オンライン店舗での購買経験がほとんど無いため,実店舗での購買を,快適で楽しいと知覚する。それゆえ,オンライン購買経験が少ない場合,促進焦点の消費者は,購買に際して,実店舗を選択し,実店舗での購買を他者に推奨するだろう。以上より,次の仮説を提唱する。

仮説1 オンライン購買経験が多い場合,促進焦点は,(a)オンライン店舗(対実店舗)の選択に正の影響を及ぼし,(b)オンライン店舗(対実店舗)の推奨に正の影響を及ぼす。

仮説2 オンライン購買経験が少ない場合,促進焦点は,(a)オンライン店舗(対実店舗)の選択に負の影響を及ぼし,(b)オンライン店舗(対実店舗)の推奨に負の影響を及ぼす。

2. 予防焦点が店舗選択・推奨に及ぼす影響に関する仮説

制御焦点理論によると,予防焦点の個人は,安全・責任・義務に注目しているため,否定的な結果の有無からの影響を受けやすいという(Higgins, 1997, 1998)。これを踏まえると,予防焦点の消費者は,購買店舗の選択に際して,店舗で購買するリスクに注目し,知覚リスクの低い店舗を選択するだろうし,また,そうした店舗での購買を他者に推奨するだろう。

オンライン購買経験の多寡にかかわらず,消費者は,オンライン店舗での購買の方が,実店舗での購買に比して,リスクを高く知覚するだろう。なぜなら,オンライン店舗で購買するのに際しては,実物を見て品質を判断することができないし,個人情報や決済情報が漏洩する恐れがあるからである(Dai et al., 2014)。そのため,予防焦点が強いほど,その消費者が実店舗を選択・推奨する傾向は高いだろう。

しかしながら,オンライン購買経験が多い消費者は,オンライン購買経験が少ない消費者に比して,オンラインで頻繁に購買を行っているため,オンライン店舗で購買することに対して,それほどリスクを高く感じないだろう。したがって,オンライン購買経験が多い場合,予防焦点が強くても,その消費者が実店舗を選択・推奨する傾向は,それほど高くはないだろう。以上より,次の仮説を提唱する。

仮説3 予防焦点は,(a)オンライン店舗(対実店舗)の選択に負の影響を及ぼし,(b)オンライン店舗(対実店舗)の推奨に負の影響を及ぼす。

仮説4 オンライン購買経験は,予防焦点が(a)オンライン店舗(対実店舗)の選択に及ぼす負の影響を抑制し,(b)オンライン店舗(対実店舗)の推奨に及ぼす負の影響を抑制する。

IV. 調査方法

1. データの収集

前章において提唱された仮説を経験的にテストするために,消費者データを収集して実証分析を行った。調査回答者は,関西圏の大学生241名であった。回答者の性別は,男性が62.3%,女性が37.7%であり,回答者の年齢は,20歳~21歳が80.1%,22歳~23歳が17.3%,24歳~26歳が2.6%であった。

消費者のチャネル選択に関する既存研究(e.g., Chocarro et al., 2013; Huang & Oppewal, 2006)の調査方法に準拠して,本論はシナリオ法を採用した。チャネル選択という意思決定について,シナリオ間で同一の状況を回答者に提示することによって,製品要因や状況要因を統制することができる一方,重要な変数については,シナリオ間で異なる状況を提示することによって操作することができる。かくして,図1に示されるように,回答者には,海水浴のための衣類を購買するという仮想の状況を描写したシナリオを読んでもらった。既存研究(e.g., Chocarro et al., 2013; Hand et al., 2009)において特に重要視されてきた状況要因,すなわち,物理的要因と時間的要因を統制するために,2(実店舗までの距離:近い/遠い)×2(時間制限:緩い/厳しい)の4つのシナリオを作成した。なお,回答者には,これらのシナリオのうち1つのシナリオが無作為に割り当てられた。

図1

シナリオ

2. 測定方法

本論において用いられた構成概念と質問項目は,表1に示されるとおりであった。従属変数は,実店舗に比してオンライン店舗を選択する意図,および,実店舗に比してオンライン店舗を推奨する意図である。これらの変数を測定するために,回答者には,各自に割り当てられたシナリオを読んでもらった後に,オンライン店舗選択意図,実店舗選択意図,オンライン店舗推奨意図,および,実店舗推奨意図の4つの質問項目に回答してもらった。次に,実店舗に比してオンライン店舗を選択する意図については,オンライン店舗選択意図から実店舗選択意図を減じた値を算出して用いた。同様に,実店舗に比してオンライン店舗を推奨する意図については,オンライン店舗推奨意図から実店舗推奨意図を減じた値を算出して用いた(cf. Huang & Oppewal, 2006)。なお,店舗選択意図については,Huang and Oppewal(2006)の質問項目を,店舗推奨意図については,Arnold and Reynolds(2009)の質問項目を用いた。

表1

構成概念と質問項目

ただし,a…7点リカート尺度(1:全くそう思わない~7:非常にそう思う)。

b…分析に際して除外された質問項目。

独立変数は,制御焦点とオンライン購買経験である。制御焦点については,既存研究において最も頻繁に採用されているLockwood, Jordan, and Kunda(2002)の測定尺度を用いた(cf. Gorman et al., 2012)。そのため,促進焦点と予防焦点を測定するために,それぞれ9つの質問項目を設定した。これらのうち,促進焦点に関する3つの質問項目,および,予防焦点に関する4つの質問項目は,他の質問項目との相関が低かったため,分析に際しては除外した。なお,促進焦点と予防焦点の相関係数は,0.03(p>0.10)という値であり,促進焦点と予防焦点を一次元ではなく,二次元で捉えることが適しているということが示唆された。こうした結果は,Lockwood et al.(2002)Haws et al.(2010)の分析結果と整合的である。オンライン購買経験については,Dai et al.(2014)を参考に,2つの質問項目を用いた。

統制変数は,実店舗までの距離,時間制限,および,性別の3つの変数である。具体的には,実店舗までの距離について,自宅から実店舗に行くまでにかかる時間が1時間というシナリオを読んだ場合には1,その時間が30分というシナリオを読んだ場合には0とコード化した。他方,時間制限について,海水浴に出掛ける予定日が1週間後というシナリオを読んだ場合には1,3週間後というシナリオを読んだ場合には0とコード化した。また,性別については,回答者が女性であれば1,男性であれば0をとる女性ダミーを作成した。

Haws et al.(2010)の手続きに従って,概念の妥当性をテストするために,促進焦点,予防焦点,および,オンライン購買経験の測定尺度を用いて,探索的因子分析,および,確認的因子分析を行った。探索的因子分析の結果,明確な3因子構造が見出され,各質問項目の因子負荷量は,0.40以上という充分に大きな値であった。また,確認的因子分析の結果,モデル全体の適合度は,満足のいく値を示した(χ2 (d.f.=60)=97.6, p<0.01, IFI=0.94, TLI=0.92, CFI=0.94, RMSEA=0.052, SRMR=0.069)。したがって,概念の妥当性は,充分に高いと結論づけられるだろう。

V. 分析結果

1. 店舗選択に関する分析結果

仮説a群,すなわち,店舗選択に関する仮説1a~仮説4aをテストするために,オンライン店舗(対実店舗)選択意図を従属変数に設定した回帰分析を行った。分析の結果は,表2に示されるとおりであった。Model A1は,統制変数のみを組み込んだモデル,Model A2は,制御焦点およびオンライン購買経験の主効果を追加したモデル,および,Model A3は,制御焦点とオンライン購買経験の交互効果を追加したモデルである。自由度調整済R2値は,Model A1に比して,Model A2の方が有意に高く(ΔR2=0.22, p<0.01),Model A2に比してModel A3の方が有意に高かった(ΔR2=0.02, p<0.05)。したがって,制御焦点とオンライン購買経験の主効果,および,両者の交互効果は,モデル全体の説明力を高めることに貢献していると結論づけられるだろう。

表2

回帰分析の結果I:オンライン店舗選択意図

ただし,各セルの左側には標準化係数を,右側(括弧内)にはt値を示している。

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.10(両側検定)。

Model A3に着目すると,促進焦点とオンライン購買経験の交差項の係数は,正かつ有意であった(β4=0.12, p<0.05)。交互効果の下位検定として,オンライン購買経験の多寡(平均値±1.5×標準偏差)における促進焦点の単純主効果を検定した。その結果,図2の左側のグラフが描かれて,オンライン購買経験が多い場合,促進焦点の係数は,正かつ有意であった(β=0.25, p<0.01)。したがって,仮説1aは支持されたと結論づけられる。他方,オンライン購買経験が少ない場合,促進焦点の係数の符号は負であったものの,非有意であった(β=–0.10, p>0.10)。したがって,仮説2aは支持されなかったと結論づけられる。

図2

交互効果の下位検定の結果

また,Model A3における予防焦点の係数は,負かつ有意であった(β2=–0.16, p<0.01)。したがって,仮説3aは支持されたと結論づけられる。他方,予防焦点とオンライン購買経験の交差項の係数は,非有意であった(β5=–0.08, p>0.10)。したがって,仮説4aは支持されなかったと結論づけられる。なお,統制変数の影響については,女性ダミーの係数は,負かつ有意であった(β8=–0.15, p<0.05)。これは,女性の方が,男性に比して,実店舗での購買を行う傾向にあるということを示唆している。

2. 店舗推奨に関する分析結果

仮説b群,すなわち,店舗推奨に関する仮説1b~仮説4bをテストするために,オンライン店舗(対実店舗)推奨意図を従属変数に設定した回帰分析を行った。分析の結果は,表3に示されるとおりであった。Model B1は,統制変数のみを組み込んだモデル,Model B2は,制御焦点およびオンライン購買経験の主効果を追加したモデル,および,Model B3は,制御焦点とオンライン購買経験の交互効果を追加したモデルである。自由度調整済R2値は,Model B1に比して,Model B2の方が有意に高く(ΔR2=0.06, p<0.01),Model B2に比してModel B3の方が有意に高かった(ΔR2=0.01, p<0.10)。したがって,制御焦点とオンライン購買経験の主効果,および,両者の交互効果は,モデル全体の説明力を高めることに貢献していると結論づけられるだろう。

表3

回帰分析の結果II:オンライン店舗推奨意図

ただし,各セルの左側には標準化係数を,右側(括弧内)にはt値を示している。

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.10(両側検定)。

Model B3に着目すると,促進焦点とオンライン購買経験の交差項の係数は,正かつ有意であった(β4=0.13, p<0.05)。交互効果の下位検定として,オンライン購買経験の多寡(平均値±1.5×標準偏差)における促進焦点の単純主効果を検定した。その結果,先掲の図2の右側のグラフが描かれて,オンライン購買経験が多い場合,促進焦点の係数は,正かつ有意であった(β=0.19, p<0.10)。したがって,仮説1bは支持されたと結論づけられる。また,オンライン購買経験が少ない場合,促進焦点の係数は,負かつ有意であった(β=–0.21, p<0.10)。したがって,仮説2bも支持されたと結論づけられる。

また,Model B3における予防焦点の係数は,負かつ有意であった(β2=–0.14, p<0.05)。したがって,仮説3bは支持されたと結論づけられる。他方,予防焦点とオンライン購買経験の交差項の係数は,非有意であった(β5=–0.08, p>0.10)。したがって,仮説4bは支持されなかったと結論づけられる。なお,統制変数の影響については,時間制限の係数は,正かつ有意であった(β7=0.11, p<0.10)。これは,目的までの時間的猶予が無い時には,オンライン店舗についての推奨を行う傾向にあるということを示唆している。また,女性ダミーの係数は,負かつ有意であった(β8=–0.16, p<0.05)。これは,女性の方が,男性に比して,実店舗についての推奨を行う傾向にあるということを示唆している。

3. 考察

仮説の支持・不支持に関する検討結果は,表4に要約されるとおりであった。分析の結果,まず,仮説1群は支持された。すなわち,オンライン購買経験が多く,制御焦点が促進焦点である消費者は,オンライン店舗を選択かつ推奨しようとする意図が高いということが示唆された。彼らは,実店舗よりオンライン店舗で購買する快楽感を高く知覚するため,オンライン店舗を選択すると考えられる。さらに,オンライン店舗を選択しようとするだけではなく,他の消費者に対して当該店舗の利用を勧めようとすると結論づけられる。

表4

仮説の支持・不支持に関する検討結果

次に,仮説2群は部分的に支持された。オンライン購買経験が少ない場合,促進焦点が実店舗の選択に正の影響を及ぼすという仮説2aは支持されなかったものの,先掲の図2に示されているように,オンライン購買経験が少なく,制御焦点が促進焦点である消費者は,オンライン店舗より実店舗で購買を行おうとする傾向が見られた。他方,オンライン購買経験が少ない場合,促進焦点が実店舗の推奨に正の影響を及ぼすという仮説2bは支持された。オンライン購買経験が少なく,制御焦点が促進焦点である消費者は,オンライン店舗より実店舗で購買する快楽感を高く知覚するため,他の消費者に対して実店舗の利用を勧めようとすると考えられる。

さらに,仮説3群は支持された一方,仮説4群は支持されなかった。すなわち,オンライン購買経験の多寡とは関係なく,予防焦点の消費者は,実店舗を選択・推奨しようとする意図が高いということが示唆された。彼らは,過去のオンライン購買経験にかかわらず,一様にオンライン店舗での購買に対するリスクを高く知覚するため,実店舗を選択すると考えられる。そして,実店舗を選択しようとする消費者は,他の消費者に対しても実店舗の利用を勧めようとすると結論づけられる。

VI. おわりに

1. 学術的示唆

本論は,次の4点において,消費者のチャネル選択に関する研究,クチコミに関する研究,および,制御焦点理論に関する研究の進展に一定の貢献を成したと言いうるだろう。第一に,本論は,消費者の制御焦点がチャネル選択の規定要因となりうるということを示すことに成功した。確かに,Kushwaha and Shankar(2013)は,消費者の制御焦点がチャネル選択の規定要因であると主張したものの,彼らは,購買店舗の種類と購買カテゴリー間の適合性を議論する上で制御焦点に着目しただけであり,制御焦点がチャネル選択に及ぼす影響については,仮説として明文化しなかったし,経験的なテストも行わなかった。本論は,制御焦点がチャネル選択に及ぼす影響に焦点を合わせて,仮説の導出と経験的なテストを行った結果,予防焦点の消費者は,オンライン店舗ではなく実店舗を選択するという知見を提示した。この点において,消費者のチャネル選択に関する研究の進展に貢献したと言いうるだろう。

第二に,本論は,オンライン購買経験が促進焦点の効果を調整するということを示すことに成功した。すなわち,オンライン購買経験が多い場合,促進焦点の消費者は,実店舗ではなくオンライン店舗を選択するということを見出した。これは,促進焦点の消費者は,より大きな快楽感を得られる店舗を選択するということ,そして,オンライン購買経験が多ければ,オンライン店舗での購買によって大きな快楽感を得ることを期待するということを示唆している。店舗選択に対して大きな影響を及ぼすと指摘されている快楽感に着目して,促進焦点の消費者の店舗選択行動を検討した点,および,オンライン購買経験によって店舗に対する知覚快楽感が異なるということを示唆した点においても,消費者のチャネル選択に関する研究の進展に貢献したと言いうるだろう。

第三に,本論は,制御焦点がマルチ・チャネルショッパーによるオンライン店舗(対実店舗)の選択行動のみならず,推奨行動にも影響を及ぼすということを示すことに成功した。制御焦点が店舗推奨行動に及ぼす影響は,シングル・チャネルの文脈において探究されてきたものの(Das, 2016),マルチ・チャネルの文脈においては探究されてこなかった。その点,本論は,予防焦点が実店舗推奨意図に直接的に正の影響を及ぼすということ,および,促進焦点が店舗推奨意図に及ぼす影響がオンライン購買経験によって調整されるということを見出した。制御焦点とマルチ・チャネルショッパーの推奨行動に関する新たな知見を提示したという点において,本論は,クチコミ研究の進展に貢献したと言いうるだろう。

第四に,本論は,制御焦点理論が,消費者の買物行動を探究する上で有用であるということを示すことに成功した。1997年にHigginsによって提唱された制御焦点理論は,近年,マーケティング研究および消費者行動研究において盛んに援用されているものの,その領域は主として,広告やセールスプロモーションのような,マーケティング・コミュニケーションの研究分野であり,小売や買物行動の研究分野において,制御焦点理論を援用した研究はそれほど多くない。したがって,既存研究は,制御焦点と消費者の買物行動の関係を探究する必要性を主張してきた(Arnold & Reynolds, 2009; Das, 2016)。本論は,こうした研究要請に応じて,制御焦点と店舗選択・推奨の関係を探究したという点において,制御焦点理論に関する研究の進展に貢献したと言いうるだろう。

2. 実務的示唆

本論は,実店舗とオンライン店舗の両方を有している,すなわちマルチ・チャネル戦略を採用している小売業者に対して,次のような実務的含意を提供しうる。本論の仮説1群および仮説2群に関する分析の結果,オンライン購買経験が多く,制御焦点が促進焦点である消費者は,オンライン店舗を選択かつ推奨しようとする意図が高いということが示された。これは,第一に,促進焦点の消費者は買物過程で得られる快楽感を重視しているということを示唆している。したがって,小売業者は,促進焦点の消費者が,店舗で購買する快楽感を高く感じられるように店舗設計・運営を行う必要があろう。快楽感を高く知覚してもらうための具体的な方法として,オンライン店舗のサイトデザインの視覚的魅力を高めたり,ポジティブな感情を喚起するようなBGMを活用したりすることが考えられる(cf. Baker, Parasuraman, Grewal, & Voss, 2002; Turley & Milliman, 2000)。第二に,本論の分析結果は,消費者は,オンライン購買経験が多ければ,オンライン店舗での購買によって大きな快楽感を得られると知覚するということを示唆している。したがって,オンライン店舗により注力する小売業者は,消費者のオンライン購買経験を増やすべく,オンライン購買が増えると割引を行うなどのプロモーションを行う一方,実店舗により注力する小売業者は,オンライン購買経験を増やさないよう,実店舗での購買頻度に応じたプロモーションを行う必要があろう。以上のような施策によって,店舗での購買によって大きな快楽感を得ることを期待して,各店舗を選択しようとする促進焦点の消費者は,当該店舗を利用することを他者に積極的に推奨すると考えられる。小売業者は,顧客が自社の店舗を他者に勧めるような肯定的なクチコミを発信してくれるのを歓迎すべきである。なぜなら,肯定的なクチコミは,消費者間の当該店舗に対する評価を高め,既存顧客の再訪や新規顧客の訪問という好ましい帰結をもたらすからである。

加えて,本論の仮説3群に関する分析の結果,予防焦点の消費者は,実店舗を選択かつ推奨しようとする意図が高いということが示された。これは,彼らが,購買に伴うリスクに注目しており,かつ,オンライン店舗ではなく実店舗で購買するリスクを低く知覚しているということを示唆している。したがって,小売業者は,彼らが,店舗で購買するリスクを低く感じられるように店舗設計・運営を行う必要があろう。彼らにリスクを低く知覚してもらうための具体的な方法として,接客員が製品情報や使用方法などを丁寧に説明して,消費者の製品選択を綿密にサポートしたり,返品や保証,修理サービスの情報を的確に訴求したり,製品を実際に触って試用できるようにサンプルを店頭に配置したりすることが挙げられる(cf. Dai et al., 2014)。特に,オンライン店舗により注力する小売業者は,オンライン店舗で購買するリスクを,できる限り低く知覚してもらうために,上述したような施策を行うことが重要だろう。そして,こうした施策によって,予防焦点の消費者に,店舗で購買するリスクを感じることなく製品を購買させることができれば,その店舗の利用を他者に推奨すると期待しうるだろう。

3. 限界と課題

本論は,次の2点において限界を有しており,それゆえ,今後の研究に課題を残している。第一に,本論は,状況要因を統制するために,仮想の購買状況に関する調査を行った。しかしながら,実際の購買経験に関する調査を行えば,店舗属性に関する知覚水準のデータを収集することができる。したがって,今後の研究には,実際の購買経験に関する調査を行って消費者データを収集し,オンライン購買経験,店舗に関する知覚属性水準,および,制御焦点の構造的な関係を経験的に検討することが望まれるだろう。

第二に,本論は,オンライン購買経験が,オンライン店舗で購買する快楽感に正の影響を与えるということを想定して仮説を提唱した。既存研究によると,オンライン購買経験が多いと,ネットショッピングを行うスキルが向上し,快適に購買することができるようになり,それゆえ,オンライン店舗で購買する快楽感を高く知覚するようになるという(Yang, 2012)。しかしながら,オンライン購買経験が多くなったとしても,必ずしも,快楽感を高く知覚しない消費者も存在すると考えられる。今後の研究には,両者の因果関係を入念に検討することが望まれるだろう。

第三に,本論は,調査対象財として,単一の製品カテゴリー,具体的にはアパレル商品を用いた。アパレル商品は,快楽財かつ非規格品に分類される財である。今後の研究には,パソコンやデジタルカメラのような実用財や,CDや本などの規格品を対象として,消費者データを収集し,分析を行うことが望まれるだろう。

謝辞

拙稿の刊行に際して,慶應義塾大学の小野晃典先生に心からの謝意を表したい。拙稿の投稿をお勧めくださっただけでなく,投稿に至るまでに多くの貴重なご助言を頂戴した。なお,拙稿は,2017 Korean Scholars of Marketing Science International Conferenceにて報告したIshii, R., and Kikumori, M. (2017, November). Which Do Multichannel Shoppers Choose and Recommend: Online or Offline Stores?(Best Conference Paper Award)に基づき,改訂を重ねて執筆されたものである。また,本研究は,JSPS科研費JP17J03156,および,JP18K12883の助成を受けた研究成果の一部である。

石井 隆太(いしい りゅうた)

日本学術振興会特別研究員(DC1)。2015年 慶應義塾大学商学部卒業。2017年 慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了,博士課程入学(在学中),同年より現職。専攻は,流通論・マーケティング論。

菊盛 真衣(きくもり まい)

立命館大学経営学部准教授。2011年 慶應義塾大学商学部卒業。同大学商学研究科修士課程・博士課程修了。博士(商学)。東洋大学経営学部助教を経て2017年より現職。専攻は,消費者行動論・マーケティング論。

References
 
© 2018 The Author(s).
feedback
Top