Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Potential for the Development of User Innovation by Salespersons in Stores
Nobutoshi Shimizu
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2019 Volume 39 Issue 2 Pages 49-60

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Abstract

小売企業間の競争において,製品差別化を実現できるようなPBや独自商品の開発が重要となっている。生産設備や開発力などの点でメーカーに劣る小売企業が魅力的な製品開発を行うためには,大きな販売力を持ち消費者に関する情報の源でもある店舗の存在がその源泉とであると考えられてきた。加えて,そこで働く従業員の中には店舗で扱う製品についてのリードユーザーが存在しており,製品開発活動にそうした店舗従業員が関与することによって独自性の高い製品が生み出される可能性がある。スポーツ用品販売チェーンと食品スーパーに関する事例研究を行った結果,ユーザーイノベーションの代表的なマネジメント手法であるリードユーザー法とクラウドソーシングが実践され成果を挙げていることが確認された。

Translated Abstract

Many Japanese retailers consider that the development of unique own-brand products is important in the current fierce competition between retailers. In previous research, the volume of sales and consumer information generated at each store have become the main sources of attractive product development by retailers, which tend to be inferior to manufacturers with respect to the capacity for product development. In addition, this article discusses the potential of user innovation developed by salespersons in stores. On the assumption that many lead users are embedded among the retailers as salespersons, two case studies were conducted focusing on the chain store retailers of sports gear and grocery supermarkets. We showed that the existence of new product development outcomes can be obtained through lead users (i.e., salespersons), and also that there is effective activity of user innovation through another type of management, crowdsourcing from salesperson at stores. This article suggests that utilization of user innovation contributes to effective product development outcomes for many retailers.

I. はじめに

近年その重要性が増していると考えられている,小売企業におけるPBや独自商品の開発活動について,本稿では「ユーザーイノベーション」研究の知見にもとづき理解を深めるための事例分析を行う1)

以下の節では,まず小売企業が「なぜ」製品開発を自ら行うのかという点について既存研究をレビューし,次に小売企業が「どのようにして」製品開発を自ら行うのかということについて考察する。この点について本稿では,店舗従業員が小売企業における製品開発活動で重要な役割を果たすということを想定しており,その考えの根拠となるユーザーイノベーション研究に関するレビューと事例分析とを通じて最後に考察を行う。

II. 製品差別化の源泉としての小売店舗

日本国内でチェーン・ストアを展開する小売企業が,プライベート・ブランド(PB)のようなチェーン独自の商品を開発することに注力する動きが,現在も続いている。

小売企業がPB開発を行うことの動機としては,寡占的製造企業への対抗力の源泉とするためのPB開発,景気後退局面における消費者の低価格志向への対応,ストア・ロイヤルティを獲得することを目的とした製品差別化,といったことが指摘されてきた(Kakeda, 2013; Ohno, 2010)。このうち,製品差別化のためのPB,とりわけ価格訴求ではなく高付加価値の商品であることをコンセプトとした事例が増えているということ(Mizuno, 2016; Osaki, 2014; Taguchi, 2016; Takashima, 2015; Yahagi, 2014)が,過去とは異なる近年の特徴的な動向と言えるだろう。

Takashima(2015)は,コスト削減に関して同等のことが出来るようになった大手小売企業間での価格競争が激化する状況下では,競合他社にはない独自のPBで品揃え面での差別化を図ることが重要になると指摘する。Kakeda(2013)は,大手小売企業がそうした商品を開発できるようになったことの源泉として,長年にわたってPOSシステムを用い小売店頭情報をもとにした顧客のニーズや行動の予測をする能力を蓄積したこと,素材メーカーや加工メーカー等とのプロジェクト方式で商品開発を積み重ねて開発能力が高まったこと,EDIのような取引先との販売・在庫情報の共有により適切な物流機能の発揮が可能になったこと,を挙げている。

その代表的な事例が,セブン-イレブン・ジャパンだろう。Minami(2011)は,同社の強い事業基盤である情報システムや物流システムと,商品カテゴリーごとにメーカー各社の参画を求めそのノウハウを活かしながら独自商品を開発する集団的商品開発方式「チームマーチャンダイジング」について,米飯商品,アイスクリーム,パン,チルドビールの分野で具体的な新商品開発が行われている事例を紹介している。さらに,2006年11月から展開されているセブン&アイグループの高品質商品ラインのPB「セブンプレミアム」でも,同社がこれまで積み上げてきたメーカー各社と協働した商品開発のノウハウが活用されていることを示している。

生産設備を持たず,商品の開発力や消費者情報の利用能力の点でメーカーに劣る小売企業が,魅力的なPBや独自商品を展開するためには,メーカーをはじめとする他企業との関係を持つことが不可欠である(Kato & Choi, 2009; Uehara, 1999)。一方で,有力なメーカーが特定の小売企業との間でそうした協力関係を持つのは,消費者が商品を実際に手に取り,貴重な購買情報が生み出される店頭という場があるからである。Ogawa(2006a)は,特定コンビニ・チェーンの専用商品開発を受け入れるNBメーカーが,大きな販売量の実現や店頭の棚の確保といった点だけでなく,コンビニ側からもたらされる商品の販売情報を自社NBの開発や新規ニーズの発見に活用したり,全販路での取り扱いを前提としたNBでは展開しにくいような新規性の高い仕様の製品開発にチャレンジできたり,ということを意図しているということを明らかにしている。

このように考えると,店舗の「売場」を有しているということが小売企業にとって,製品差別化を実現できるようなPBや独自商品を開発するための源泉であると言えるだろう(Yahagi, 2014)。チェーン店舗の数で実現される大きな販売力や,その店頭で直に消費者へ商品の魅力を訴求できるといったことが,優れた製品開発力を持つ有力メーカーの協力を得るための武器となる。そうした商品が売場でどのように選ばれ購入されるのか,ということについての情報(購買情報や店舗内での行動に関する情報など)は,消費者ニーズをふまえた製品開発にとっての重要なデータとなる。消費者と直に接する小売業の,本来持っていた強みがいま改めて重要性を増しているのだと言えるだろう2)

III. 新商品の開発に関与する店舗従業員

そうした小売企業による製品開発の源泉としての売場に関して,本稿での関心は,そこで働く店舗従業員にある。

チェーンストアを経営する小売企業において,近年は「脱チェーンストア」と呼ばれるような動きが目立つ。具体的には,店舗ごとに個々の商圏の特性に沿った品揃えや販促を行なうこと,その判断や実行を店長やスタッフが主体となって行なうこと,そうした活動の基盤として顧客と店舗スタッフとの接点を充実させること,といったように,「チェーン本部が定めた計画のもとで標準化された販売業務に専念するチェーン店舗」というチェーン・ストア経営の原則とは異なるオペレーション事例のことである(Shimizu, 2016)。

こうした点に関連して,既存研究ではたとえば「価値共創」の観点から,小売店舗において従業員と消費者との間で創造される価値(質の高い買い物経験や消費経験など)について議論が展開されてきた(Kikuchi, 2017; Kondo, 2013; Zhang, 2016)。そうした点に加えて,(従来はチェーン店舗の役割とは考えられてこなかった)製品開発活動についても店舗従業員が貢献する潜在的な力を有しているのではないか,というのが本稿における関心である。実際に,PBや独自商品の企画プロセスに店舗従業員が参画するという事例が,近年いくつも現れてきている。

たとえば,株式会社マツモトキヨシホールディングスの「商品開発応援プロジェクト」である3)。同社では,2015年に刷新した新しいブランド「matsukiyo」を中心として,小売事業の売上高5,300億円強のおよそ1割をPBが占めており,ドラッグストア・チェーンの中で最も高い比率に達しているという。matsukiyoブランドの商品は,「品質の良さ」「価格以上の価値」を前提として商品開発部門が考案するもので,2017年に発売されたトイレットペーパーが広告やデザインに関する世界的な賞をいくつも受賞するなど評判になった。

その姉妹ブランドで,特定機能食品などのラインである「matsukiyo LAB」から2018年12月に発売された「チョコレート風キャロブミルク」が,マツモトキヨシグループの店舗で働くスタッフによる「商品開発応援プロジェクト」から生み出された独自商品だった。同社のプレスリリースによると,このプロジェクトは「店頭で働くスタッフから,社内公募で厳正に選任されたメンバーが一丸となり,これまでになかった新しいアイデアを考案・検討し,当社独自のプライベートブランド商品の開発支援を行うことを目標に立ち上がった」ものだという4)

ホームセンターを展開する株式会社カインズでも,パートタイマーを含めた店舗従業員の意見を独自商品の開発に活用する取り組みをしている5)。同社は2007年に「SPA企業宣言」を発表し,商品企画・製品設計から生産,物流,プロモーション,販売までを一貫して行う体制を整えてきた。2015年には商品企画室を発足させ,そこが設定したテーマに沿って商品カテゴリー共通のデザインを展開したり,「ナチュラル」「シック」など5種類のスタイルを反映させた商品提案をしたりしている。そうして開発された商品群は「グッドデザイン賞」を2012年から18年まで連続で受賞したりするなどの高い評価を得ており,販売面でも好調なものが多いという。

そうした商品を開発する際に店舗従業員が関わるのは,年に数回行われる「社内商品展示会」においてである6)。これは,新作の自社開発商品について理解を深め店舗での販売活動に反映させる目的で全国の店舗従業員を集めて行われるイベントで,商品開発担当者が店舗従業員と直にコミュニケーションでき,より消費者に近い目線からの意見に触れることができるという。最近の展示会では,商品開発担当者が設定したテーマ(たとえば,室内干しの選択で困ることは,など)について5~6名の店舗従業員と話し合う「ミーティング」と呼ばれる場も設けられており,開発中の新商品についての方向性を確認したり,既存商品に対する意見が寄せられてブラッシュアップにつながったりすることもあるという。

以上のような取り組みには,店舗において消費者と接する身近な存在としての従業員が関与した商品である,ということを打ち出す広報面での効果も期待されていると考えられるが,それだけでなく製品差別化を実現できるような優れたPBや独自商品を企画すること自体に店舗従業員の積極的な関与が期待されている事例でもあると言えるだろう。

IV. 企業内リードユーザーとしての店舗従業員

なぜ,製品開発の専門家ではない店舗従業員が,魅力的な商品の開発にも貢献できるポテンシャルがあると考えられるのだろうか。

Yokoyama(2019)は,店舗従業員が創造的活動に貢献するプロセスをNonaka and Takeuchi(1995)の「知識創造モデル(SECI)」を援用して説明している。そこでは,小売店舗のパートやアルバイトなどの従業員が,チェーン・オペレーションでのマニュアルや業務経験を通じた知識を有することに加え,消費者としての小売店舗の利用経験から得られた暗黙知を持っているということが議論の前提とされている。また,Kishimoto(2013)は食品スーパーを類型化したうえで,基本的な商品を低価格で提供する「競争的価格志向」が高く,かつ各店舗の商圏に合わせた品揃え提案を行う売り場づくりに力を入れている「品揃え提案思考」が高いという,「アソートメント型」の食品スーパー4社に対するインタビュー調査を行った。その結果,4社すべてで各店舗での売場づくりにパートタイマーの意見を積極的に取り入れていることが明らかにされた。正社員や店長は定期的な人事異動で店舗間を異動する一方,基本的にパートタイマーは店舗間異動が無く,その地域で長く暮らしており生活シーンや食習慣について熟知しているため,品揃え提案を志向する「アソートメント型」ではパートタイマーの意見を積極的に活用しているのだという。

これらは,「買い物客としての側面も持つ店舗従業員」という捉え方によって,魅力的な売場づくりに店舗従業員の関与が有効であることの理由を説明しているものと言えるだろう。店舗が立地する商圏の買い物客が有する代表的なニーズや店舗周辺の様々な情報源として,小売企業が店舗従業員の知識や意見を活用するという理解である。

それに加えて,店舗従業員はそこで販売されている商品を使う立場,つまり「ユーザーとしての側面も持つ店舗従業員」という見方もできるのではないか。このような捉え方をすると,なぜ店舗従業員が製品開発に貢献できるのかという点について,近年のユーザーイノベーション研究の知見にもとづいた議論を展開することが可能となる。

ユーザーイノベーション研究は,マサチューセッツ工科大学のEric von Hippel教授による1970年代の研究を嚆矢として,これまで多くの研究蓄積がなされてきた(Bogers, Afuah, & Bastian, 2010; von Hippel, 2005)。「ユーザーイノベーション」とは,製品やサービスを提供(販売)する側の企業ではなく,それを使用する側であるユーザーが新しい製品・サービスの創出や改良,用途開発などで重要な役割を果たすという事象を指す。

ここで言うユーザーとは,産業財の場合のように製品を購買する側の企業における技術者や専門家のことを指すだけでなく,消費者も含まれている。von Hippel, Ogawa, and de Jong(2011)によれば,2,000人の消費者を対象にした日本でのアンケート調査において3.7%の消費者がユーザーイノベーションの経験があるということが示された。この値はとても小さいと思われるかもしれない7)が,それを18歳以上の人口数にかけあわせると390万人となり,これは日本企業で働く係長・主任レベルの会社員の数に匹敵する(Ogawa, 2013)。また,そうした例は趣味性の高いマニアックな分野だけでなく,住居関連や乗り物関連など多様な商品カテゴリーにわたっていることも明らかとなった。

そうしたユーザーの中でも,特に「リードユーザー」と呼ばれる特定のユーザーは,多くのユーザーに先立って先進的なニーズを感じており,そのニーズを満たすことができた場合に高い便益を得るという期待を持っている,という特徴を持つ存在である(von Hippel, 1986)。リードユーザーが創出するアイデアやそれにもとづき開発された製品が,優れたものであり好ましい市場成果をもたらしているということが,これまで多くの研究における事例分析や定量分析によって示されており,そうしたユーザーが備える特徴である「リードユーザーネス」についても分析が進んでいる(Honjo, 2016)。

小売企業の店舗従業員の中にもそうしたリードユーザーが存在しており,属する小売企業におけるPBや独自商品の開発において貢献するのではないか,ということが本稿で導出したい仮説である。この考えは,「企業内リードユーザー」(Honjo, 2018)に関する研究にもとづいている。Schweisfurth and Raasch(2015)は,企業内部に「埋め込まれたリードユーザー」(embedded lead users, ELUs)に関する定量的調査を実施し,一般的な従業員との比較を行った。その結果,ELUsは顧客満足や顧客ニーズ把握の実現に努める傾向や,そこから得られた情報やアイデアを組織内部のメンバーに伝え,創造的な活動につなげる傾向が一般的な従業員よりも高いということが示された。Schweisfurth(2017)による調査では,企業内リードユーザーの生み出すアイデアは企業外のリードユーザーによるアイデアよりも独創性や顧客にとっての価値といった点で劣るという結果がもたらされたものの,情報漏えいのリスクやリードユーザー特定に要するコストが低いという点で,企業内リードユーザーを活用することの意義が主張されている。

Schweisfurth and Raasch(2015)Schweisfurth(2017)の研究では,いずれも製造企業の従業員を対象として調査が行われていたが,小売企業の店舗従業員においても企業内リードユーザーが存在していると想定することは可能だろう。とりわけ,日本のチェーンストア企業では,店舗従業員におけるパートタイマーが人数の面だけでなく仕事内容や能力の面で正社員の補完的役割にとどまらない重要な存在となっており,製造業と比べると判断業務を含む非定型業務を担当するパートタイマーの比率が高いということが明らかにされている(Honda, 2007)。正社員に加えてパートタイマーまで含めると,様々な製品に関してそれぞれの店舗従業員が持つ使用経験や知識はさらに多様となり,それにもとづくユニークな提案や製品開発活動につながることが期待できるのではないだろうか。

V. 事例分析の対象企業

以上の議論にもとづき,「小売企業の店舗従業員の中に存在するリードユーザーが,属する小売企業におけるPBや独自商品の開発において貢献する」という仮説を導出することを目的として,事例分析を行った。

分析対象の企業は,次のような基準で選択を行った。第一に,複数店舗から成るチェーンストアを運営する企業であること,第二に,製品開発に関して店舗従業員が創造的活動に何らかの形で関与していること,そして第三に,そうした創造的活動をチェーン本部が活用するための何らかの組織上の仕組みを持っていること,である。メディアの記事等で紹介されている企業事例を探索したうえで,上記の条件に適う分析対象の企業としてゼビオ株式会社と株式会社ハローデイの2社を選択した。それぞれの事例について,次節以降で分析を行う。

チェーンストアにおいて店舗従業員が関わる製品開発活動は,メディア等で紹介される事例が存在するとはいえ数はまだ多くない。しかし,先述のようにPBや独自商品の充実による店舗差別化の重要性が今後ますます高くなると想定した場合,今回の分析対象である2社は,店舗従業員が関わった独創性の高い製品開発活動という取り組みについて現時点ですでに経験を蓄積しており,将来の代表的な事例になることが期待できる「先端事例」(Tamura, 2006)であると言えるだろう。

両社とも,こうした店舗従業員による取り組みが単なる偶発的な出来事として扱われるのではなく,企業として継続的に成果がもたらされるような仕組みを有しているという共通点がある。本稿での事例分析を通じて,「チェーンストアの店舗従業員の中に企業内リードユーザーが存在するのかどうか」および「そうした企業内リードユーザーが当該小売企業の製品開発に貢献するユーザーイノベーションの仕組みはどのようなものか」ということを確認したい。

VI. ゼビオ株式会社の事例

ゼビオ株式会社は,1973年に福島県いわき市で設立された株式会社サンスーツを前身とするゼビオホールディングス株式会社の連結子会社で,主にスポーツ用品・用具を取り扱う小売企業である。店舗は,主力である大型総合スポーツ専門店「SUPER SPORTS XEBIO」を中心に北海道から沖縄県まで国内174店舗(2019年3月31日現在)を運営している8)

同社は,「チェーンストア経営でありながらセントラルバイイング,センターコントロールだけではなく,個店経営を標榜」(加藤智治社長)9)しており,各店舗の販売スタッフが売場づくりや商品構成の改革を担うという組織を目指している。店舗の販売スタッフについて,同社では店長を含めたナショナル社員(正社員),契約社員,パートナー社員(パートタイマー)のすべてを職制にかかわらず「スポーツナビゲーター」と呼んでいる。

スポーツやアウトドアに関する商品を取り扱う小売店舗においては,その機能性を説明したり来店客の相談に応じたりするという接客販売が重要になるが,その際には販売スタッフ自身が持つ商品知識やその競技・アクティビティの経験の有無が重要な関わりを持つことになる10)。以前から同社では,とくに社会経験の豊かな契約社員や地域のニーズに通じたパートナー社員による売場での接客によって,競合店舗との差別化を図ってきたという。すべての職制の者が「同じ土俵に上ることを異議なしとする風土が店舗に定着」11)しており,2003年には正社員と契約社員の賃金制度を一本化したり,店舗の役職者をすべての職制から公募する「出る杭」公募制を導入したりして,意欲のある販売スタッフを評価・積極活用する制度を導入した。

現在,同社ではスポーツナビゲーターのうち契約社員については,ゼビオホールディングスの連結子会社で販売業務請負や人材派遣を事業とするゼビオナビゲーターズネットワーク株式会社から各店舗に派遣されている(その他に,各店舗で採用する契約社員もいる)12)。正社員数がおよそ700人であるのに対して,契約社員の数はおよそ1,500人である。契約社員の中には,スポーツ競技やアウトドア活動の愛好者も多く含まれ,審判員やガイドなどの資格を持つ者も多いという。契約社員は同社での仕事以外に,各競技のコーチやガイドなどの仕事を継続して行うことも認められている。

同社では半年に一度,「商品構成会議」が開かれる。これは,独自商品の開発も含めた商品構成全般の課題や,売場での陳列や接客などの改善について,野球やサッカーといった競技ごと,ならびにトレッキングやキャンプといったアウトドア活動ごとに開かれる会議である。そこには,本社の担当バイヤーと役員に加え,全国の店舗から選ばれたスポーツナビゲーター達も出席する13)。そうしたスポーツナビゲーターは,普段の業務において各店舗から本社スタッフに対して各種の提案や情報を積極的に発信してくる者や店長から推薦された者の中から,全国のエリアごとに選ばれる。そして,この商品構成会議においては主要メンバーの一員として製品や売場に関する意見を述べることが求められており,その中には独自商品の企画やデザインにつながる提案も含まれるという。

ゼビオの取引先メーカーが主催する商品展示会にも,そうして選出されるスポーツナビゲーター達が本社スタッフに同行し,その会場で得た情報をもとに品揃えや新商品企画に関する議論が行われる14)。また,同社で週一回行われる,本社の商品部スタッフと各店舗とをつないでのテレビ電話会議においても,上記のようなスポーツナビゲーターからは製品についての新しい提案や専門性の高い情報がもたらされることが多いという。同社プロダクトマネジメント部MDの吉野亨氏は,そうしたスポーツナビゲーターは自身が続けているスポーツ競技やアウトドア活動において「実現したら役立つような商品」が欲しくて提案をしてくるという側面がある,と考えている。

各エリアを代表しているという位置づけであるこのようなスポーツナビゲーターは,本社が行うスポーツ競技やアウトドア活動に関連した社内研修会に参加してさらに知識や技術を身につけ,そこで得たことを各エリアに戻って他のスポーツナビゲーター達に伝授する(各エリアごとで行われる研修会で講師を務める)という役割も担っている。こういった役割を果たすスポーツナビゲーターは,社内での等級が上がり待遇面での評価もなされるという。

VII. 株式会社ハローデイの事例

株式会社ハローデイは,福岡県北九州市に本社を置き福岡・熊本・山口の各県で食品スーパー54店舗を運営する,売上高833億7,400万円(2019年3月末現在)の小売企業である。現在社長を務める加治敬通氏の父である加治久典氏が,1958年に設立した有限会社かじやが前身である。

ハローデイは,各店舗の「パートナー」(パートタイマー)が積極的に魅力ある店舗づくりに関与し,そこから生み出されるユニークな売場や取り扱われている製品が来店客にも高く評価されていることで知られ,業界誌やテレビなどのメディアでたびたび取り上げられている15)。同社の正社員数は1,020人,パートナーとアルバイトの数が2,864人(1日8時間換算/月平均人数)という構成である(2019年3月15日現在)。

同社において,店舗従業員が関わる商品開発というのは「店舗の売場を任された担当者が,既存商品や新規採用された商品を活用した料理提案や食材の組み合わせ紹介,食事シーンの提案など情報発信を行うための取り組みが主な内容」となる16)。「寝ても覚めても新たな試みの深化」を信条とするハローデイの各店舗では,青果・デリカといった各部門の売場やクッキングサポートコーナーにおいて日ごろから新しい商品提案が店舗従業員によって行われているが,そうした取り組みを全社的な評価や情報共有につなげるために行われているのが「ハロリンピック」(ハローデイ・オリンピックを略した名称)という社内コンクールである。

2010年3月から始められたハロリンピックは,社長をはじめとする社員が1ヶ月から1ヶ月半に1回の頻度で一度に5~6店舗を巡回し,各店舗にある7~8部門で取り組まれている商品提案や売場づくりなどを評価して表彰するものである17)。同社の店舗数が全部で50店舗強なので,それぞれの店舗が年に一回ほど参加するという計算になる。一度のハロリンピックで,合計40部門ほど(5店舗×8部門とした場合)が評価対象となる18)。対象店舗には2ヶ月ほど前に巡回日程が知らされ,各部門の売場単位(例えば日配部門の中でも和日配・洋日配などの単位)で一つ以上の提案を行うことが検討される。

各部門の提案を評価する際,その採点基準は「水平展開したい度」を5点満点で評価する,という方法である。単なる良し悪しの評価ではなく「水平展開」,つまり優れた取り組みを他の店舗でも実践して成果が挙がり会社全体がより良くなることを目指す,という考えにもとづいている19)。巡回するメンバーによる採点結果をもとに,評価が高かった取り組みに対してユニークな名前が付けられた多くの賞が与えられる(表1を参照)。毎回のハロリンピックにおける表彰結果はイントラネットで全社に知らされ,商品部主導で実際に水平展開されるものもある。また,提案されたもののうち新商品やレシピ提案の優れたものについては,それらをまとめて紹介する『スーパーマーケットを10倍楽しむ本』が出版され,ハローデイ各店舗で販売されている20)

表1

ハローデイ「ハロリンピック」で与えられる賞の例

※ 「ハロシュラン賞」は,優れた味の提案に与えられる賞の部門。

※ 表彰の部門は,2017年3月時点で20存在する(当表はそのうちの5つを例示している)。

出所:株式会社ハローデイ社内資料を参照して作成。

同社総務部係長・河原修氏によると,料理や食材に関する知識は社員よりも売場の担当者の方が豊富に持っており,発想力が高い。そこから提案されるものをハロリンピックなどの機会に店舗で実践することによって,いくつもの好ましい成果が期待される。まず,店舗従業員が自分自身の知識を来店客に直接伝えることによって,説得力のある提案ができる。また,陳列技術や色彩感覚などが優れたパートナーも多く存在し,そのことを活かした仕事を任せることによって働き甲斐につながる。それぞれ異なる興味や趣味,知識や経験,中には特殊な技能を持つというパートナーもおり,そうしたことを掘り起こすことで会社としての財産が増えることにもつながる。

ただし,同社ではそうしたパートナーの中から特に優れた提案をする者を選び出して何か特別な創造的活動にあたらせる,といったことは考えていないという。ハロリンピックは,そういった人材を探し出すための仕組みという位置づけではなく,新しいことへ挑もうと意識するのを全社的に促進することや,従業員がそれぞれの仕事に楽しんであたることでハローデイを「働きたい会社日本一」にするための取り組みという意味が大きいと考えられる。

VIII. 考察

2社の事例では,いずれも店舗従業員のユーザーとしての側面が新商品の提案や商品改善に活用されているということが確認できた。

ゼビオの事例においては,「商品構成会議」に出席が求められるような選ばれたスポーツナビゲーター達が,企業内リードユーザーにあたると考えられるだろう。von Hippel(1986)によるリードユーザーの定義は,関連分野におけるトレンドの最先端のニーズを持っているという「先進性」と,そのニーズが解決されることで自身に高い便益がもたらされることを期待しているという「高便益期待」を備えた者のことである。上記のようなスポーツナビゲーターは,ゼビオの契約社員であると同時にそうした競技や活動における用具の現役ユーザーでもあり,当該競技や活動を長い期間にわたって継続していることから他の一般的な競技者達と比べてもその経験の豊富さや技術力が高いと想定される。つまり,リードユーザーの要件である「先進性」を有している可能性が高いと考えてよいだろう。また,自身の提案を独自商品や商品改良の形で実現させ競技や活動で用いたいという動機,つまり「高便益期待」も有していると考えられる。

そうしたリードユーザーを,日常の店頭業務や本社スタッフとのコミュニケーションを通じて多くのスポーツナビゲーターの中から選出し,製品開発につながる提案や情報提供がもたらされるような仕組みとして,商品構成会議やメーカー商品展示会における会議などが設けられている。また,貢献度の高いスポーツナビゲーターに報いるために,等級昇格といった待遇面での評価,ならびにエリアごとの研修会での講師を任せるといったモチベーションを高めるような評価を示す仕組みがあることも事例から確認された。

一方,ハローデイの事例においては,食品スーパーで扱われている製品(食材や惣菜)のユーザーとしての側面を持つ多くのパートナー達が,製品開発に関連した創造的活動に積極的に関与しているものの,そうしたパートナーが企業内リードユーザーとしての活動をしていることは確認できなかった。もちろん,先述のvon Hippel(1986)による定義における「先進性」と「高便益期待」を有するユーザーがその中に含まれている可能性はあるが,少なくとも企業側がそれを探索したり活用したりすることは行っていなかった。

むしろ,ハローデイの事例はユーザーイノベーションのマネジメントのうち「クラウドソーシング」に近いものであると考えられる。特定のリードユーザーを活用したイノベーションを目指すマネジメントが「リードユーザー法」と呼ばれるのに対し,不特定多数の消費者の中から創造的ユーザーによるアイデアや提案を探索するというマネジメントがクラウドソーシングであり,この2つがユーザーイノベーションの代表的なマネジメント手法であると考えられている。クラウドソーシングでユーザーからもたらされるアイデアは,企業内部の製品開発の専門家によるものと比べて新奇性や顧客便益が高いということが示されている(Poetz & Schreier, 2012)。

Ogawa(2013)は,リードユーザー法や伝統的なマーケティング調査の手法と比べたクラウドソーシングの特徴として4点を挙げている。第一に,製品のアイデア創造段階にユーザーを組み込み,ニーズ情報にとどまらずそのソリューションまでユーザーから収集するということである(この点はリードユーザー法にもあてはまる)。第二に,インターネットを通じて多様・多数のユーザーが自らニーズ情報や製品案を企業側に送ってくるということである。第三に,開発過程がオープンであり多様なユーザーが関与できるという点である。第四に,そうして関与する多様なユーザー同士による投票で最終製品案が決定されるということである。ハローデイの事例は,企業外部の消費者に参加を求めているわけではない,いわば「企業内クラウドソーシング」なので,上記のうち第二の点,すなわちインターネットを通じて多数のユーザーから多様なアイデアを集めるという点には合致しない。また,提案を評価するのも社長を含めた企業内メンバーであるため,第四の点でも異なる。しかし,不特定多数とは呼べないまでも,数千人のパートタイマーが能動的に提案を寄せるハロリンピックのような取り組みは,こうしたクラウドソーシングのマネジメント手法を通じたユーザーイノベーションの活用と捉えることができるのではないだろうか21)

以上のように,小売企業における企業内リードユーザーの存在とそれを活用する仕組みをゼビオの事例で確認できたことに加え,ハローデイの事例では小売企業内でクラウドソーシングに取り組むことの成果とそれを支える仕組みの存在を確認できたことが,本稿での発見物である。

IX. 小売企業におけるユーザーイノベーション活用

限られた数の分析対象ではあるが,本稿では小売企業において店舗従業員によるユーザーイノベーションを活用する取り組みが行われていることが確認できた。それらは,企業内部で活用することの有効性が既存研究で示されていたリードユーザー法の事例だけでなく,ユーザーイノベーションのもう一つの代表的なマネジメント手法であるクラウドソーシングの手法と考えられる形で店舗従業員が製品開発に貢献することの有効性を示す事例も含まれていた。

いくつかの既存研究では,店舗を持つ小売企業にとってユーザーイノベーションを活用することに有利な側面があることが示されている。

Ogawa(2006b)は,株式会社良品計画におけるクラウドソーシングの事例を分析したうえで,そこからヒット商品を生み出すために必要な補完的資源の一つとして「開発された商品を販売する巨大な実店舗網」を挙げている。先述のようにクラウドソーシングではインターネットを用いて多数の消費者が関与することが特徴であるが,そこから生み出された製品の販路までインターネットに限定してしまっては,生産ロットの問題で単価がどうしても高くなり販売の支障となる。ネットに加えて多くの店舗でも扱うことを前提とした場合には,そのぶん生産ロットを大きく設定して単価を下げることができ,それが販売数の増加につながる可能性が高くなるのである。Arai et al.(2015)は,ユーザーイノベーションに取り組んだ複数の企業事例を分析した結果,そうした活動が継続されることの要因の一つとして,開発された製品を販売できる自社チャネルを持っているということを確認し,Ogawa(2006b)の主張を補完している。また,Nishikawa, Schreier, Fuchs, and Ogawa(2017)はユーザーが発案した製品であることを店頭で表示した場合に売上が高くなる,ということを定量分析で明らかにしている。

以上のような,店舗・売場を持っていること自体によってユーザーイノベーションの成果につながるという可能性に加えて,そこで働く店舗従業員が製品開発活動に貢献する可能性とその具体的な仕組みについて,本稿における二つの事例分析で確認することができた。とくに,両事例ともに契約社員やパートタイマーの店舗従業員が,自身の製品ユーザーとしての知識や経験にもとづく提案や商品企画を行っていた。おそらく,そうした店舗従業員による創意工夫の取り組みは,現実には両社以外の多くの小売店舗の販売現場でも生まれているものと思われる。それらを,偶発的にもたらされた単発の成功事例として終わらせるのではなく,小売企業としての継続的な成果として創出するためには,ユーザーイノベーション研究の知見にもとづく仕組み・制度の導入が有効ではないかと考える。

X. おわりに

製造企業だけでなく,小売企業にとってユーザーイノベーションを活用した製品開発に取り組むことの意義は大きいと考える。本稿は少数の事例分析にとどまっているという点で限界があるが,企業事例と研究蓄積がともに今後増えてゆくことが期待される。

謝辞

※本稿は,文部科学省科学研究費助成事業(基盤研B)「小売企業の仕入活動におけるプロセス革新の組織的条件に関する研究」(課題番号:17H02574)の成果の一部に基づいている。記して謝意を表したい。

1)  ユーザーイノベーション研究の知見を用いれば,小売店舗における接客サービスや店頭業務プロセスに関する創造的活動についても議論が展開できる可能性があるが,本稿では店舗従業員による製品開発活動ということに焦点を絞っている。

2)  このことは,日本に限ったことではなく欧州でも同様のことが言える。PBが広く普及しているとされる欧州市場だが,それは欧州の小売企業がPBの開発を得意とする要素をもともと持っていた,あるいは欧州の消費者が小売企業のブランドを好む生来の性向があった,ということではないようだ。Dawson(2013)は,欧州の多くの小売企業が,販売時点で得られる購買情報などにもとづき顧客の需要を正確に理解するよう努め,それを魅力的な商品の企画やブランド構築,店頭での棚割りやプロモーションなどに反映させるといった経験を蓄積してきた結果,1980年代半ばごろから多くの消費者がメーカーのブランド品と同等のものとして受容するようになった,ということを示している。

3)  matsukiyoブランドに関する当段落の記述は,Nikkei Business(2018)ならびにNikkei X Trend(2018)を参照した。

5)  株式会社カインズに関する当段落の記述は,DIAMOND Home Center(2019)を参照した。

6)  同社の「社内商品展示会」に関する当段落での記述は,同社広報室・鈴木ゆう子氏へのメールを通じたヒアリング(2019年3月5日,同5月23日)にもとづく。

7)  同様の調査を各国で実施した既存研究では,最も高い値がイギリスの6.1%,低い値が韓国の1.5%だった(Nishi, 2019)。

8)  XEBIO Holdings Co., Ltd.(2019a, 2019b, 2019c)を参照した。

9)  Hanbai Kakushin(2018),62頁より引用。

10)  当段落における記述は,Kigyou to jinzai(2003)を参照した。

11)  同上,23頁より引用。

12)  当段落以降の同社に関する記述は,同社プロダクトマネジメント部MD・吉野亨氏へのインタビューにもとづくものである。インタビューは,同社東京オフィスにおいて2019年4月19日午前11時~12時に行われた。

13)  一例として,2019年2月に行われた商品構成会議(トレッキング)への出席者は,役員級の正社員2人,バイヤー2人,商品部スタッフ1人,スポーツナビゲーター7人という構成だった(書記のスタッフを除く)。

14)  展示会場近くにミーティングできる場所を確保し,本社スタッフとスポーツナビゲーターとで会議を行うことにしているという。

15)  同社における店舗従業員による取り組み事例やそれを支える仕組み,その背景にある加治敬通社長の考えや経営理念については,Kamada(2010)Fujita(2012)を参照されたい。

16)  株式会社ハローデイ総務部係長・河原修氏が作成した,筆者からの質問に対する回答メール(2019年4月19日)に添付された資料より引用。ハローデイに関する当段落以降の記述は,この河原氏作成の資料ならびに同氏と同社執行役員の徳留基雅管理・開発本部長へのインタビューにもとづくものである。インタビューは,北九州市の同社本社において2019年5月30日午前9時30分~10時30分に行われた。

17)  ハローデイでは2006年から「社長フレンドリー」と呼ばれる巡回活動を行っていたが,それが問題点の指摘といったネガティブな評価も含まれるものだったのに対し,「ハロリンピック」では「褒める」というポジティブな評価をすることに重点を置いている。なお,ハロリンピックで店舗を巡回するメンバーは,毎回参加する社長と店舗運営部長のほか,スーパーバイザー1人,バイヤー1人,巡回対象とは異なるエリアの店長1~2名である(商品部長が加わる場合もある)。社長と店舗運営部長以外のメンバーは,毎回異なる社員が担当する。

18)  ハロリンピックに加え,2018年秋からは「キラリンピック」も同程度の頻度で行われている。来店客と接する売場が評価対象であるのがハロリンピックであるのに対し,キラリンピックは店舗のバックヤードが対象である。各店舗にとっては,この2つのコンクールを合わせて年二回ほど参加することになる。

19)  河原氏によると,加治社長は日ごろから「働く一人ひとりが行なった良い取り組みを仕組みにすれば,会社全体が良くなる」ということを周囲に伝えているという。

20)  販売価格は本体500円(税別)である。初版は2018年4月1日に発行され300レシピが掲載されているが,紹介する候補は他にも多くあるため続編の出版も検討されているという。

21)  ただしOgawa(2013)は,クラウドソーシングを行った結果として市場に投入される製品を提案したようなユーザーも,実はリードユーザーの特徴を有しているという考えを示している。その点で,ハローデイでは企業内リードユーザーの特定を目的とはしていないが,その提案を活用しているという意味では企業内リードユーザーを活用した取り組みであると捉えることも可能だろう。

清水 信年(しみず のぶとし)

1972年生まれ。

神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。

奈良大学社会学部専任講師,流通科学大学商学部専任講師・准教授を経て2011年より同教授。

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