Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Editorial Note
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Satoru Shibuya
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2020 Volume 39 Issue 3 Pages 143

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今回の特集テーマである「デジタル・マーケティングとブランド」を設定した当初の問題意識は2つあった。1つめは「デジタルだけで強いブランドは創れないのではないか」というものであった。この背景には,現在世の中で強いブランドとして存在しているものは全てマスメディアの時代にブランドとしての地位を確立したものばかりであり,デジタルの時代になってから強いブランドはまだ生まれていないのではないか,という素朴な問いがあった。しかしデジタル社会において求められるマーケティングが,常にデジタル・マーケティングだけとは限らないから,「デジタルだけ」(でブランドを創れるか)を問うことにあまり意味はないと考え直すに至った。

2つめの問題意識は,消費者同士のクチコミがソーシャルメディア等を介して未曾有の規模で取り交わされるようになった今日,消費者は製品やサービスの購買前にほぼ完璧な品質判断を行うことが可能であり,もはや購買意思決定においてブランドの必要性は消滅しつつあるのではないか,という問いであった。しかしペンシルバニア大学のAmericus Reed教授も述べるように,今日ブランドが果たしている役割の大部分は消費者が自己あるいは周囲に向けて自らが何者であるかを定位することにあり,購買前の品質判断基準としての役割ばかりではない。さらに昨今はインターネット上でやりとりされるクチコミを企業がマーケティングに利用する動きが盛んになった結果,いわゆるヤラセのクチコミが増え,クチコミの信用性が著しく低下している。したがってクチコミによってブランドの存在価値が無になる時代は,いまのところまだやってこないようである。

特集テーマの設定から約1年が経過する中で,人知れず上記のような葛藤を心の中で繰り返した結果,当初のテーマをやや広く解釈し,「デジタル社会において,ブランドのあり方はどのようなものか」という問題意識に応える特集論文を集めた号として,最終的に本号は刊行されることになった。このテーマの下で特集論文の執筆者の4名の先生には,たいへん素晴らしい論文を執筆していただいた。特に久保田先生には2編の論文をご執筆いただいた。特集論文の執筆者の先生方に,心から謝意を表したい。

本号には,他に鷲田先生によるニトリのケース,河股先生によるリコーのケース,遠藤先生による日本料理の普及に関するレビュー論文,岩本先生による価格変更に関する投稿論文,麻里先生によるソーシャルメディアとブランドに関する投稿論文,さらに鎌田先生,関沢先生による2編の書評も掲載している。これらのいずれも今後のマーケティングやブランドの行方を占う上で貴重な論考となっている。これらの執筆者の先生方にも,心からお礼を申し上げたい。最後に,本誌の読者の皆さま方のお仕事や研究に,本号もまた少しでもお役に立てることがあれば編者として幸いである。

 
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