2020 Volume 40 Issue 1 Pages 19-30
企業は,サービス・エンカウンターにおいて,しばしば,個々の消費者の好みを察知し,その好みに合わせて自身が提供する財の中から幾つかをピックアップしてみせるというオススメのパーソナライゼーションを行う。一般に,サービスにおけるパーソナライゼーションは,好ましい結果に帰着すると主張されているが,他方,オススメという従業員サービスに限るとき,それは一部の消費者に対して好ましくないと主張する研究もある。本論は,消費者の専門性およびパーソナライズされたオススメを構成する財の種類を,オススメのパーソナライゼーションに対する評価を決定する要因として仮説化し,それらの仮説に対して実証分析を行う。分析の結果に基づいて,本論は,消費者の専門性が高い場合と低い場合それぞれにおいて,いかなる財の種類をオススメすることが有効であるかを示唆する。
Personalized recommendation service, or service personalization, is a tactic executed by many firms for service encounters. Personalized services generally have a positive effect, while recommendation services by service personnel can have both positive and negative effects. This study focuses on consumer expertise and relationships among goods in personalized recommendations and hypothesizes the conditions under which evaluation of personalized recommendation are determined. This study implies effective approaches to personalized recommendation in the circumstances of expert and novice consumers, respectively, based on the results of an empirical analysis.
有形の製品を供給する製造業者も流通業者も,無形のサービスを供給するサービス業者も,ある意味において典型的には,ひとつの財を供給しているというよりも,むしろ,多数の財を取り揃えて供給している。このとき,消費者は,どの財を自分が購買するべきであるかを選択するという面倒なタスクに直面することになる。売手の側は,このタスクに伴う消費者の負担を軽減するために,多数の財の中から少数の財をピックアップして消費者に提示してみせるという「オススメ」を行うことがある。このオススメというサービスに際して,売手は,消費者に提示してみせる財をランダムにピックアップすることもできるし,売手の都合に合わせてピックアップする(たとえば,利益率の高い財を提示したり,早く売り捌きたい財を提示したりする)こともできる。しかし,顧客志向の観点から効果的であろうと直観しうるのは,従業員を使ったり,AIを使ったりすることによって,消費者の好みを察知し,その好みに合わせて「オススメ」する財をピックアップすることであろう。本論においては,このような売手の行動のことを「オススメのパーソナライゼーション」と呼び,その結果としてピックアップされた財の集合のことを「パーソナライズされたオススメ」と呼びたい。
さて,ここで疑問として浮上するのは,オススメのパーソナライゼーションは,いかにして行われるのが消費者にとって望ましいかということである。サービス研究の分野において,従業員が提供するサービスは,一般的に言って,個々の消費者に合わせてパーソナライズしたほうが,望ましい結果に帰着すると主張されてきた(Arora et al., 2008; Ball, Coelho, & Vilares, 2006)。他方,オススメという従業員サービスに限ったとき,その提供は一部の消費者にとって好ましくないと主張されてきた。そのような主張を展開してきた代表的な研究は,Goodman, Broniarczyk, Griffin, and McAlister(2013)である。彼らは,オススメは選択の楽しみを促進してくれるが,他方,専門性の高い消費者の場合には,選択困難性を助長してしまうと主張した。さらに,厳密に言えばオススメ研究というより広告研究ではあるが,Goodman et al.(2013)と同じく専門性の調整効果に着目した,Clarkson, Janiszewski, and Cinelli(2013)の研究も注目に値する。彼らは,単一のカテゴリー内において,売手が提示する製品が,消費者が経験したことのある製品から離れた製品であったとき,専門性の低い消費者の場合には,それを高く評価するものの,他方,専門性の高い消費者の場合には,それを低くしか評価しないと主張した。
このことを踏まえると,単一のカテゴリー内において,パーソナライズされたオススメを構成する財どうしが離れているかどうか,という変数に注目することが必要であると考えられる。パーソナライズされたオススメを構成する財どうしが離れている(遠い)という状態は,それらの財が同一の属性を互いに少なくしか有していないという意味において,パーソナライズされたオススメを構成する財の間で「共有属性が少ない」状態であろう。他方,パーソナライズされたオススメを構成する財どうしが離れていない(近い)という状態は,それらの財が同一の属性を互いに多く有しているという意味において,パーソナライズされたオススメを構成する財の間で「共有属性が多い」状態であろう。Clarkson et al.(2013)の主張を踏まえると,パーソナライズされたオススメを構成する財の間の共有属性の多少に応じて,専門性の高い消費者と低い消費者で,オススメのパーソナライゼーションに対する評価が異なると考えることができるであろう。たとえば,洋服店でパンツ(ズボン)を選んでいる消費者に対して,彼が履いているパンツに近いパンツを従業員がオススメすることもあれば,その消費者が履いているパンツとは遠いものの彼が好みそうなパンツを従業員がオススメすることもあるであろう。これらのオススメに対する消費者の評価は,消費者が洋服そのものや自分の洋服の好みに詳しい場合とそうでない場合とでは,異なっていると考えられる。
オススメを構成する財が単一のカテゴリーに属する以上のような場合に加えて,オススメを構成する財が複数のカテゴリーに属する場合があると考えられる。ここにおいても,パーソナライズされたオススメを構成する財が属するカテゴリー数に応じて,専門性の高い消費者と低い消費者で,オススメのパーソナライゼーションに対する評価が異なると考えられるであろう。たとえば,洋服店でパンツを選んでいる消費者に対して,彼が好みそうなパンツだけでなく,そのパンツにフィットするシャツやジャケットを従業員がオススメすることがあるであろう。こうしたオススメに対する消費者の評価もまた,消費者が洋服そのものや自分の洋服の好みに詳しい場合とそうでない場合とでは,異なっていると考えられる。
本論は,消費者の専門性(Clarkson et al., 2013; Goodman et al., 2013),パーソナライズされたオススメを構成する財の間の共有属性の多少,およびパーソナライズされたオススメを構成する財の属するカテゴリーを考慮に入れることによって,オススメのパーソナライゼーションに対する評価が決定される条件を特定化することを目的とする。それらの条件を仮説化したのちに実証分析を行い,分析の結果に基づいて,消費者の専門性が高い場合と低い場合それぞれにおいて,いかなるオススメのパーソナライゼーションが有効であるかを示唆する。
サービスにおけるパーソナライゼーションは,概念が登場してきた当初,無機質でないぬくもりあるサービスを提供することであったり,従業員ではなくひとりの人間として顧客あるいは消費者に接することであったりを意味していた(Mittal & Lassar, 1996; Surprenant & Solomon, 1987)。よって,機械のように無機質で従業員らしくビジネスライクにふるまったならば,個々の消費者が持つ互いに異なるニーズに対応したサービスを提供したとしても,従業員によるパーソナライゼーションの度合いは低い,と捉えられていた。その後,情報通信技術の発展に伴って,企業は,消費者に提供される財や情報を,個々の消費者のニーズに合わせてその都度調整することが可能になった(Vesanen, 2007)。ここに至って,パーソナライゼーションは,ニーズの個別化への対応という意味合いを持つように次第に変化していき,サービスにおけるパーソナライゼーションは,「顧客による個々の要求に適合するようにサービスを創ったり調整したりすること」(Ball et al., 2006, p. 391)として捉えられるようになった。
従業員が提供するサービスは,個々の消費者に合わせてパーソナライズしたほうが,顧客満足の達成や利益の獲得といった好ましい結果に帰着するという(Arora et al., 2008)。Ball et al.(2006)は,コミュニケーション水準が顧客満足を規定し,かつ顧客満足が信頼およびロイヤルティを規定するというモデルを構築した。そして,このモデルに対して,コミュニケーション水準と顧客満足の媒介変数としてパーソナライゼーションを導入した対抗モデルをも構築し,銀行でのパーソナライゼーション経験を対象とした実証分析を通じて,前者より後者のほうが相対的に妥当なモデルであると主張した。消費者の満足や再購買を達成するためには,従業員は,会話の量や時間を増やすだけでなく,そこから察知できる個々の消費者の嗜好に基づいてパーソナライゼーションを行う必要があるというわけである。
2. オススメの効果サービスにおけるパーソナライゼーションが好ましい結果を導くと主張されてきた一方で,全ての消費者に対して変わらない一般的なオススメという従業員サービスに限ったとき,その提供は一部の消費者にとって好ましくないと主張されてきた。Goodman et al.(2013)は,専門性に類似した嗜好構築度という消費者の特性に着目した。嗜好構築度とは,消費者がこれまでの消費経験に基づいて自身の正確な嗜好を把握している程度である。彼らによれば,嗜好構築度の高い消費者は,オススメの存在によって財の選択時間が長くなるという。実験において,多数の財の中に「ベストセラー」(他の消費者による高評価),「受賞商品」(専門家による高評価),あるいは「最高評価」(小売店舗による高評価)といったオススメが存在する場合と存在しない場合の間の選択時間の差を比較した。
分析の結果,消費者の嗜好構築度が低いとき,オススメが存在する場合の選択時間と存在しない場合の選択時間の間に,有意差は見られず,他方,消費者の嗜好構築度が高いとき,オススメが存在する場合の選択時間は,オススメが存在しない場合の選択時間に比して,有意に長かった。この結果を踏まえてGoodman et al.(2013)は,オススメが専門的な消費者の選択困難性を助長したと結論づけた。他方,事後研究において彼らは,選択可能な製品が1つであったそれまでの実験とは異なって,2つ以上の製品の選択を許容して分析を行った。その結果,オススメが専門的な消費者の購買量を増加させるという結果が得られた。この結果から,彼らは,オススメによる考慮集合の拡大が生じるための条件を精緻に特定化する研究が今後必要であると主張した。
3. 専門性の効果オススメ研究の領域において専門性の調整効果に着目したGoodman et al.(2013)と同じく,広告研究の領域において,Clarkson et al.(2013)もまた,専門性の調整効果に着目した。彼らは,消費者が過去に使用したことのある製品から遠い製品を求めるのか,あるいは,近い製品を求めるのかは,消費者の専門性による影響を受けると主張した。ある単一の製品カテゴリーにおいて競争関係にある代替的な製品群は,互いに類似した属性を多かれ少なかれ有していると考えられる。それらの類似した属性こそ,消費者がその製品カテゴリーからひとつの製品を選択する際において重要な判断基準となりうる製品特性であろう。Clarkson et al.(2013)が言うところの専門性の低い消費者とは,ある製品カテゴリーの中で使用した経験のある製品が少ないために,その製品カテゴリーからの製品選択にあたって重要な判断基準となる属性を言い表すことができない消費者であるという。専門性の低い消費者は,そうした属性を知識として得ることを求めるので,過去の使用製品との違いを見つけやすい品揃え,すなわち幅のある品揃えから製品を選択する傾向にあるという。
他方,専門性の高い消費者は,ある製品カテゴリーの中で使用した経験のある製品が多いために,その製品カテゴリーからの製品選択にあたって重要な判断基準となる属性を言い表すことができる。こうした専門性の高い消費者は,自身の嗜好を知っているので,最適な製品あるいはそれに類似した製品を使用した経験を持っているであろう。よって彼らは,過去の使用製品と類似した品揃え,すなわち深さのある品揃えから製品を選択する傾向にあるという。実際,Clarkson et al.(2013)は,ドレッシング,音楽,およびビールを対象とした実験を通じて,消費経験を豊かにしたいという動機のもとで,専門性の低い消費者は幅のある品揃えを求め,専門性の高い消費者は深さのある品揃えを求めるということを示した。
Clarkson et al.(2013)も前項のGoodman et al.(2013)も,消費者がどれほど専門的であるかが,オススメが消費者行動に及ぼす影響の重要な調整効果であるということを示してきた。パーソナライゼーション研究の領域においてShen(2014)もまた,Goodman et al.(2013)と同様,専門性に類似した嗜好構築度を,オススメのパーソナライゼーションへの評価に影響を及ぼす重要な変数として挙げた。加えて彼は,消費者の嗜好洞察が高いとき,すなわち,従業員のオススメが消費者の嗜好に基づいていると消費者が感じたとき,オススメのパーソナライゼーションに対して高いベネフィットを知覚すると主張した。
Clarkson et al.(2013)は,売手が提示する財が,消費者が経験したことのある財から離れた財であったとき,専門性の低い消費者の場合には,それを高く評価するものの,他方,専門性の高い消費者の場合には,それを低くしか評価しないと主張した。この主張に基づいて,本論は,オススメのパーソナライゼーションに対する消費者の評価が決定される条件を特定化することを試みる。それに際して,単一のカテゴリー内で消費者が経験したことのある財から離れた財であるかどうかというClarkson et al.(2013)の変数を,本論は,パーソナライズされたオススメを構成する財の種類という変数として仮説化する。
パーソナライズされたオススメを構成する財の間で共有属性が少ないとき,そのオススメは,Clarkson et al.(2013)が述べた幅のある品揃えを有しているために,専門性の低い消費者に好まれるであろう。他方,パーソナライズされたオススメを構成する財の間で共有属性が多いとき,そのオススメは,深さのある品揃えを有しているために,専門性の高い消費者に好まれるであろう。したがって,仮説1および仮説2を提唱する。
仮説1 パーソナライズされたオススメを構成する財の間で共有属性が少ないとき,専門性の低い消費者のパーソナライゼーションに対する評価は,専門性の高い消費者のそれに比べて高い。
仮説2 パーソナライズされたオススメを構成する財の間で共有属性が多いとき,専門性の高い消費者のパーソナライゼーションに対する評価は,専門性の低い消費者のそれに比べて高い。
Shen(2014)は,消費者が,従業員によってパーソナライズされたオススメが自身の嗜好に基づいていると感じたとき,それに対して高いベネフィットを知覚すると主張した。この主張に基づくと,専門性の低い消費者は,共有属性が多い財で構成されるオススメよりも,共有属性が少ない財で構成されるそれを,自分が消費したことのある財から遠い財を含んでいるだろうと感じて,高く評価するであろう。それに対して,専門性の高い消費者は,共有属性が少ない財で構成されるオススメよりも,共有属性が多い財で構成されるそれを,自分が消費したことのある財から近い財を含んでいるだろうと感じて高く評価するであろう。したがって,仮説3および仮説4を提唱する。
仮説3 消費者の専門性が低いとき,パーソナライズされたオススメを構成する財の間で共有属性が少ない場合,共有属性が多い場合に比べて,パーソナライゼーションに対する評価は高い。
仮説4 消費者の専門性が高いとき,パーソナライズされたオススメを構成する財の間で共有属性が多い場合,共有属性が少ない場合に比べて,パーソナライゼーションに対する評価は高い。
2. パーソナライズされたオススメを構成する財の属するカテゴリーここまでは,パーソナライズされたオススメを構成する複数の財が単一のカテゴリーに属しているということを想定してきた。他方,パーソナライズされたオススメが,複数のカテゴリーに属する財を含むこともあるであろう。
複数のカテゴリーに属する財で構成されるオススメは,定義により,単一のカテゴリーに属する財で構成されるオススメに比べて,そのオススメを構成する財どうしが離れている。このとき,専門性の低い消費者は,オススメのパーソナライゼーションに対して高い評価を下すだろうと考えられる。それに対して,専門性の高い消費者は,オススメのパーソナライゼーションに対して低い評価を下すだろうと考えられる。というのも,彼らは,自身の消費してきた財に近い財を求めるためである。したがって,仮説5および仮説6を提唱する。
仮説5 消費者の専門性が低いとき,パーソナライズされたオススメを構成する財が複数のカテゴリーに属する場合,それらが単一のカテゴリーに属する場合に比べて,パーソナライゼーションに対する評価は高い。
仮説6 消費者の専門性が高いとき,パーソナライズされたオススメを構成する財が単一のカテゴリーに属する場合,それらが複数のカテゴリーに属する場合に比べて,パーソナライゼーションに対する評価は高い。
実証分析1では,仮説1から仮説4を経験的に吟味すべく,オンライン調査によって消費者データを収集した。参加者は男女120名であり,女性の比率は52.5%であった。
サービスには,金銭との交換を通じて得られる有償のサービス,および,製品購買に伴う,金銭との交換が行われない無償のサービスがある。本論は,これらをともに分析の対象として扱った。それに伴い,本論のデザインは,被験者内要因のサービス種類で2水準(有償サービス/製品購買に伴う無償サービス)×被験者内要因のパーソナライゼーション種類で3水準(共有属性が少ない/多い/パーソナライゼーションなし)×被験者間要因の専門性で2水準(専門性高/専門性低)の混合デザインとなった。有償サービスについては,医療サービス(手技療法におけるコース提案)を(Berry & Bendapudi, 2007),製品購買に伴う無償サービスについては,アパレル・サービス(小売店舗における洋服提案)を参加者に想定させた(Cox, Cox, & Anderson, 2005)。
2. 手続き第1に,参加者に,医療サービスに対する専門性についての質問に回答してもらった(Clarkson et al., 2013)。第2に,パーソナライゼーションが行われ,かつ,オススメを構成する財の間で共有属性が少ない条件のシナリオ(「SP有∧共有少」)を読んでもらった。第3に,パーソナライゼーションに対する評価についての質問に回答してもらった(Raney, Arpan, Pashupati, & Brill, 2003)。その後,残りの2つのシナリオ,すなわち,パーソナライゼーションが行われ,かつ,オススメを構成する財の間で共有属性が多い条件のシナリオ(「SP有∧共有多」),および,パーソナライゼーションが行われない条件のシナリオ(「SP無」)について,第2ステップと第3ステップを繰り返した。さらに,以上の全てのステップを,アパレル・サービスの調査についても繰り返した。実証分析1における質問項目およびシナリオは,表1に示されているとおりである。
質問項目およびシナリオ(実証分析1)
パーソナライゼーションが行われているかどうか,および,オススメを構成する財の間で共有属性があるかどうかについて,操作チェックの質問を実施した(表1「操作チェック」)。多重比較分析の結果,パーソナライゼーションの知覚について,「SP有∧共有多」の場合の平均値(4.31)および「SP有∧共有少」の場合の平均値(3.97)は,「SP無」の場合の平均値(3.67)に比して,有意に高かった(いずれもp<0.01)。また,オススメを構成する財の間の共有属性の知覚について,「SP有∧共有多」の場合の平均値(4.42)は,「SP有∧共有少」の場合の平均値(3.80)に比して,有意に高かった(p<0.01)。よって,本論の操作は適切に行われたと判断できる。
4. 分析結果信頼性分析および確認的因子分析によって従属変数の信頼性および妥当性を確認したのち(表1「パーソナライゼーションに対する評価」),まず,医療サービスについて,「SP有∧共有少」のシナリオ,すなわち,パーソナライゼーションが行われ,かつ,オススメを構成する財の間で共有属性が少ないシナリオを読んだ参加者を,専門性の中央値を基準にして,専門性の低い参加者と高い参加者に分類した。データの正規性が確認されなかったためWilcoxonの順位和検定を行った結果,専門性の低い参加者群のパーソナライゼーションに対する評価の平均ランク(67.92)は,専門性の高い参加者群の平均ランク(53.33)に比べて有意に高かった(Mann-WhitneyのU=1,362.00,p<0.05)。よって,医療サービスについて,仮説1は支持されたと言いうるであろう。他方,アパレル・サービスのデータに対しても参加者を分類したのちに,Wilcoxonの順位和検定を行った結果,専門性の低い参加者群のパーソナライゼーションに対する評価の平均ランク(55.41)は,専門性の高い参加者群の平均ランク(71.46)に比べて有意に低かった(Mann-WhitneyのU=1,499.00,p<0.05)。よって,アパレル・サービスについては,興味深いことに,仮説1は反駁されたと言いうるであろう。以上,仮説1は,医療サービスについては支持され,アパレル・サービスについては支持されなかったと判断できる。
次に,医療サービスについて,「SP有∧共有多」のシナリオ,すなわち,パーソナライゼーションが行われ,かつ,オススメを構成する財の間で共有属性が多いシナリオを読んだ参加者を,専門性の中央値を基準にして,専門性の低い参加者と高い参加者に分類した。Wilcoxonの順位和検定を行った結果,専門性の高い参加者群のパーソナライゼーションに対する評価の平均ランク(65.02)と,専門性の低い参加者群の平均ランク(55.82)との間には,有意差がなかった(Mann-WhitneyのU=1,523.50,p>0.10)。よって,医療サービスについて,仮説2は支持されなかったと言いうるであろう。他方,アパレル・サービスのデータに対しても参加者を分類したのちに,Wilcoxonの順位和検定を行った結果,専門性の高い参加者群のパーソナライゼーションに対する評価の平均ランク(72.57)は,専門性の低い消費者の平均ランク(54.13)に比べて有意に高かった(Mann-WhitneyのU=1,423.50,p<0.01)。よって,アパレル・サービスについては,仮説2は支持されたと言いうるであろう。以上,仮説2は,医療サービスについては支持されず,アパレル・サービスについては支持されたと判断できる。
仮説3のテストのために,専門性の低い参加者群内でのパーソナライゼーションに対する評価を比較した。医療サービスについて,Friedman検定による全体的妥当性のチェックの後(χ2=37.76,p<0.01),多重比較分析を行った。その結果は,図1aの左側に示されるとおりである。「パーソナライゼーション有∧共有少」の平均値(4.77)は,「パーソナライゼーション有∧共有多」の平均値(4.30)に比べて,有意に高く(p<0.10),「パーソナライゼーション無」の平均値(4.04)に比べて,有意に高かった(p<0.01)。よって,医療サービスでは仮説3は支持されたと言いうるであろう。他方,アパレル・サービスについて,Friedman検定の後(χ2=21.56,p<0.01),多重比較分析を行った(図1b左)。「パーソナライゼーション有∧共有少」の平均値(3.75)は,「パーソナライゼーション有∧共有多」の平均値(4.21)に比べて,有意に低かった(p<0.10)。よって,アパレル・サービスでは,興味深いことに,仮説3は反駁されたと言いうるであろう。以上,仮説3は,医療サービスについては支持され,アパレル・サービスについては支持されなかったと判断できる。
パーソナライゼーションに対する評価(仮説3および仮説4)
また,仮説4のテストのために,専門性の高い参加者群内でのパーソナライゼーションに対する評価を比較した。医療サービスについて,Friedman検定による全体的妥当性のチェックの後(χ2=19.51,p<0.01),多重比較分析を行った(図1a右)。その結果,いずれの平均値の間にも有意差がなかった。よって,医療サービスでは仮説4は支持されなかったと言いうるであろう。他方,アパレル・サービスについて,Friedman検定の後(χ2=33.41,p<0.01),多重比較分析を行った(図1b右)。「パーソナライゼーション有∧共有多」の平均値(4.78)は,「パーソナライゼーション有∧共有少」の平均値(4.34)に比べて,有意に高く(p<0.10),「パーソナライゼーション無」の平均値(4.34)に比べて,有意に高かった(p<0.10)。よって,アパレル・サービスでは仮説4は支持されたと言いうるであろう。以上,仮説4は,医療サービスについては支持されず,アパレル・サービスについては支持されたと判断できる。
実証分析2では,仮説5および仮説6を経験的に吟味すべく,オンライン調査によって消費者データを収集した。参加者は男女163名であり,男性の比率は51.5%であった。
本論のデザインは,被験者内要因のサービス種類で2水準(有償サービス/製品購買に伴う無償サービス)×被験者内要因のパーソナライゼーション種類で3水準(単一カテゴリーで共有属性が少ない/多い/複数カテゴリー)×被験者間要因の専門性で2水準(専門性高/専門性低)の混合デザインとなった。有償サービスについては,教育サービス(社会人向けのビジネス講座提案)を(Laing, Lewis, Foxall, & Hogg, 2002),製品購買を伴う無償サービスについては,アパレル・サービス(小売店舗における洋服提案)を参加者に想定させた。
2. 手続き実証分析1と同様,第1に,参加者に,教育サービスに対する専門性についての質問に回答してもらった。第2に,オススメを構成する財の間で共有属性が少ない条件のシナリオ(「単一∧共有少」)を読んでもらった。第3に,パーソナライゼーションに対する評価についての質問に回答してもらった。その後,残りの2つのシナリオ,すなわち,オススメを構成する財の間で共有属性が多い条件のシナリオ(「単一∧共有多」),および,オススメを構成する財が複数のカテゴリーに属する条件のシナリオ(「複数」)について,第2ステップと第3ステップを繰り返した。さらに,以上の全てのステップを,アパレル・サービスの調査についても繰り返した。実証分析2における質問項目およびシナリオは,表2に示されているとおりである。
質問項目およびシナリオ(実証分析2)
オススメを構成する財の間で共有属性があるか,および,オススメを構成する財が複数のカテゴリーに属しているかどうかについて,操作チェックの質問を実施した(表2「操作チェック」)。多重比較分析の結果,オススメを構成する財の間の共有属性の知覚について,「単一∧共有多」の場合の平均値(4.24)は,「単一∧共有少」の場合の平均値(3.83)および「複数」の場合の平均値(3.51)に比べて,有意に高かった(いずれもp<0.01)。また,オススメを構成する財が複数のカテゴリーに属しているかどうかの知覚について,「複数」の場合の平均値(4.40)は,「単一∧共有多」の場合の平均値(3.99)および「単一∧共有少」の場合の平均値(4.12)に比べて,有意に高かった(p<0.01およびp<0.05)。よって,本論の操作は適切に行われたと判断できる。
4. 分析結果信頼性分析および確認的因子分析によって従属変数の信頼性および妥当性を確認したのち(表2「パーソナライゼーションに対する評価」),仮説5のテストのために,専門性の低い参加者群内でのパーソナライゼーションに対する評価を比較した。教育サービスについて,Friedman検定による全体的妥当性のチェックの後(χ2=39.64,p<0.01),多重比較分析を行った。その結果は,図2aの左側に示されるとおりである。「複数カテゴリー」の平均値(3.47)は,「単一カテゴリー∧共有少」の平均値(4.00)に比べて,有意に低く(p<0.05),「単一カテゴリー∧共有多」の平均値(4.39)に比べても,有意に低かった(p<0.01)。よって,教育サービスでは,興味深いことに,仮説5は反駁されたと言いうるであろう。同様に,アパレル・サービスのデータについて,Friedman検定の後(χ2=35.41,p<0.01),多重比較分析を行った(図2b左)。「複数カテゴリー」の平均値(3.57)は,「単一カテゴリー∧共有少」の平均値(4.07)に比べて,有意に低く(p<0.10),「単一カテゴリー∧共有多」の平均値(4.31)に比べても,有意に低かった(p<0.01)。よって,アパレル・サービスでも,興味深いことに,仮説5は反駁されたと言いうるであろう。以上,仮説5は,医療サービスについてもアパレル・サービスについても支持されなかったと判断できる。
パーソナライゼーションに対する評価(仮説5および仮説6)
また,仮説6のテストのために,専門性の高い参加者群内でのパーソナライゼーションに対する評価を比較した。教育サービスについて,Friedman検定による全体的妥当性のチェックの後(χ2=10.03,p<0.01),多重比較分析を行った(図2a右)。「複数カテゴリー」の平均値(4.15)は,「単一カテゴリー∧共有多」の平均値(4.54)に比べて,有意に低かったものの(p<0.05),「単一カテゴリー∧共有少」の平均値(4.40)と有意差はなかった(p>0.10)。ただし,「単一カテゴリー∧共有多」および「単一カテゴリー∧共有少」をまとめたときの平均値(4.47)に比べると,「複数カテゴリー」の平均値(4.15)は,有意に低かった(p<0.05)。よって,教育サービスでは仮説6は支持されたと言いうるであろう。同様に,アパレル・サービスについて,Friedman検定の後(χ2=7.36,p<0.05),多重比較分析を行った(図2b右)。「複数カテゴリー」の平均値(4.12)は,「単一カテゴリー∧共有少」の平均値(4.53)に比べて,有意に低く(p<0.10),「単一カテゴリー∧共有多」の平均値(4.67)に比べても,有意に低かった(p<0.05)。よって,アパレル・サービスでも仮説6は支持されたと言いうるであろう。以上,仮説6は,医療サービスについてもアパレル・サービスについても支持されたと判断できる。
本論の知見は,表3に示されているとおりである。既存研究は,オススメが存在するかどうか,あるいは,売手が提示する財と消費者が経験した財が離れているかどうかといった変数に焦点を合わせ,それらの変動に応じて専門性の高い消費者の場合と低い消費者の場合で彼らの反応がどのように異なるのかをテストしてきた。それを踏まえて,本論は,消費者の専門性,パーソナライズされたオススメを構成する財の間の共有属性の多少,および,パーソナライズされたオススメを構成する財の属するカテゴリーを考慮することによって,オススメのパーソナライゼーションに対する消費者の評価が決定される条件を特定化した。
本論の知見
まず,有償サービスおよび無償サービスの両方において,本論は,パーソナライズされたオススメが,全ての消費者に対して変わらない一般的なオススメに比べて,高く評価されるということを見いだした(表3「H3」「H4」)。また,複数のカテゴリーに属する財で構成されるオススメをパーソナライズすることが消費者にとって望ましくなく,単一のカテゴリーに属する財で構成されるオススメをパーソナライズするほうが望ましいということを見いだした(表3「H5」「H6」)。
次に,有償サービスにおいて,表3の各仮説の上段に示されているように,専門性の低い消費者は,共有属性の少ない財で構成されるオススメを,要求するカテゴリーから逸脱しない範囲でパーソナライズされることを望む一方(表3「H1」「H3」「H5」),専門性の高い消費者は,共有属性の多い財で構成されるオススメをパーソナライズされることを望むということを見いだした(表3「H6」)。
最後に,無償サービスにおいて,表3の各仮説の下段に示されているように,専門性の低い消費者は,共有属性の少ない財で構成されるオススメをパーソナライズされることに対して低い評価を下すということを見いだした(表3「H1」「H2」「H3」)。また,専門性の高い消費者も低い消費者も,共有属性の多い財で構成されるオススメをパーソナライズされることに対して高い評価を下すということを見いだした(表3「H1」「H2」「H3」「H4」)。
後述する幾つかの課題を指摘できるものの,以上のような知見を導いた本論は,サービス研究およびオススメ研究に対して学術的に有意義な貢献をなしたと言いうるであろう。
2. 実務的貢献本論の知見に基づけば,企業は,以下のような戦略あるいは戦術を採用することができるであろう。まず,サービス店舗あるいは小売店舗を展開する企業は,サービス・エンカウンターにおいて,パーソナライゼーションを伴ってオススメを行うことが求められる。さらに,そのとき,異なるカテゴリーに属すると消費者に知覚される複数の製品やサービスを提案することを避けるべきであり,単一のカテゴリーに属すると消費者に知覚される複数の製品やサービスを提案するべきであろう。
サービス企業と小売企業のそれぞれについて,以下のような実務的示唆を提供することができるであろう。サービス企業は,自社サービスに詳しくない消費者に対しては,バラツキのある類似しないサービスで構成されるオススメを,彼が要求するカテゴリーを逸脱しない範囲でニーズに合わせて提案することが求められる。他方,自社サービスに詳しい消費者に対しては,逆に,バラツキのない類似したサービスで構成されるオススメをニーズに合わせて提案する必要があるであろう。それに対して,小売企業は,製品に詳しくない消費者に対して,バラツキのある類似しない製品で構成されるオススメを提案することを避ける必要がある。ただし,消費者が製品に詳しいかどうかを識別できない場合には,バラツキのない類似した製品で構成されるオススメをニーズに合わせて提案するべきであろう。
3. 本論の課題と今後の方向性本論には,以下のような課題が挙げられるであろう。仮説1および仮説3は,アパレル・サービスを対象とした分析において反駁された。これは,参加者の洋服小売店舗での購買経験が豊富であり,相対的に専門性が低い参加者が少数になってしまったためかもしれない。今後は,異なる業種を対象とした調査あるいは実験が必要となろう。仮説5は,医療サービスおよびアパレル・サービスを対象とした分析の両方において反駁された。操作が適切であると確認されたものの,パーソナライズされたオススメを構成する財のバラツキを知覚するのが専門性の低い参加者にとって困難であった可能性があり,この点も,今後の課題として指摘しうる。
今後の研究として,以下のような方向性が考えられるであろう。まず,消費者の分類の方法についてさらなる検討が必要となろう。専門性だけでなく,嗜好構築度もまた,有効な分類基準となるかもしれない(Goodman et al., 2013)。また,制御焦点(促進焦点か予防焦点か)によって消費者を分類するというアイディアも考えられる(Ghiassaleh, Kocher, & Czellar, 2018)。次に,事前の消費者選好とパーソナライズされたオススメが異なるという葛藤状態(Goodman et al., 2013)が生じたならば,一般には,パーソナライゼーションの消費者評価は低調に終わると考えられるわけであるが,ある一定の条件を満たしたならば,かえって高評価を獲得することができるかもしれない。そのような条件を特定化することによって,企業は,消費者の葛藤状態が生じたとしても,パーソナライゼーションの評価を高めることができるだろう。
以上のような諸点を解決していくことで,オススメのパーソナライゼーションについて,より深い理解と洞察が得られるであろう。
本稿の執筆から刊行に至るまで,編集委員である小野晃典先生(慶應義塾大学)には,大変多くのご意見と示唆を賜った。この場を借りて,心からの感謝の意を表したい。
千葉 貴宏(ちば たかひろ)
関西大学商学部准教授。2009年 慶應義塾大学商学部卒業,2014年 同大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。東洋大学経営学部助教,関西大学商学部助教を経て,2017年より現職。専門は,サービス・マーケティング論,消費者行動論。