Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Effects of Customization via Starting Solutions on Customer Values:
Focusing on the Structure of Customization Values and the Heterogeneity of Customer Design Skills
Kosaku Morioka
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2020 Volume 40 Issue 1 Pages 31-42

Details
Abstract

異質な顧客ニーズに対応できる有効な製品戦略であるマス・カスタマイゼーション(MC)の中でも,顧客の構成負担を軽減しうるソリューション提示型カスタマイゼーション(CvSS)が注目を集めており,その有効性が吟味されている。しかしながら,このCvSSに関する既存研究は,第一に,MCについて顧客が知覚する価値のうち限られた種類の価値にしか注目しておらず,第二に,そのシステムを利用する顧客のデザイン・スキルにおける異質性を考慮していない,という問題を抱えている。そこで本論は,第一に,顧客が知覚するMC価値の構造を特定化し,第二に,その価値構造を前提に,CvSSの効果を吟味しようと試みた。サーベイ・データを利用して行った分析(分析1)の結果,享楽性と過程努力とによって構成されるMC過程価値が,選好合致と自己表現性とによって構成されるMC製品価値を高めるということを見出した。そして,実験データを利用して行った分析(分析2)の結果,デザイン・スキルの低い顧客より,デザイン・スキルの高い顧客の方が,MC過程においてソリューションが提示された時に知覚する享楽性が低いということを見出した。

Translated Abstract

Mass customization (MC) is a product strategy that can meet heterogeneous customer needs. Among various kinds of MC systems, customization via starting solutions (CvSS) has attracted academic attention as a method of reducing configuration costs, and its effectiveness has been examined. However, existing studies examining the effectiveness of CvSS have limitations in two respects; 1) focusing only on limited MC values, and 2) ignoring the heterogeneity of customer design skills. The purposes of this paper are 1) to specify the structure of MC values perceived by customers, and 2) to examine the effects of CvSS based on the structure of MC values. The results of Study 1 show that the MC process value, consisting of enjoyment and process effort, enhances the MC product value, which consists of preference fit and self-expressiveness. The results of Study 2 show that customers with high design skills perceive less enjoyment in the CvSS process than those with lower design skills.

I. 導入

マス・カスタマイゼーション(MC)は,多様な顧客ニーズに対応するために,個人化された製品・サービスを提供する製品戦略の1つである。これまでに展開されてきたMC研究は,そのようなMCが顧客にもたらす種々の価値(MC価値)を特定化してきた。具体的には,MCにおいて顧客によって構成された製品を意味するMC製品に着目すると,顧客は自身のニーズや欲求に合致させて製品を構成できるために,そうして構成された製品は既製の標準品に比して,高い選好合致を実現したり(e.g., Dellaert & Stremersch, 2005; Randall, Terwiesch, & Ulrich, 2007),高い自己表現性をもたらしたりする(e.g., Kaiser, Schreier, & Janiszewski, 2017; Merle, Chandon, & Roux, 2008)。他方,MCにおける顧客による製品構成過程を意味するMC過程に着目すると,顧客は既に企業によって構成された標準品とは異なって,自らその構成に従事できるために,そこに享楽性を知覚するであろう(e.g., Dellaert & Dabholkar, 2009; Franke & Schreier, 2010)。しかしながら,顧客自身が製品構成に従事するということは,標準品であれば企業によって負担されるべきコストがその顧客に転嫁されることを意味する。つまり,MCにおいて顧客は,標準品の選択よりも大きな過程努力を投じなければならない(e.g., Dellaert & Stremersch, 2005; Franke & Schreier, 2010)。

これら多様なMC価値のうち,ネガティブな価値である過程努力について,それを軽減しうる新たなMCシステムも開発されている。その1つがソリューション提示型カスタマイゼーション(customization via starting solutions; CvSS)である(Hildebrand, Häubl, & Herrmann, 2014)。これは,既にデザインされた製品に修正を加えるMCシステムであり,製品を構成すべき諸属性をまっさらな状態から顧客が逐次選択する従来型MCシステム(attribute by attribute; AbA)とは,製品構成に先行してソリューションとしてのデザイン例が顧客に提示される点で異なっている。そして,このCvSSは,それを利用する顧客の過程努力を減らしつつ,同時に高い顧客満足を実現するという(Hildebrand et al., 2014)。

しかしながら,CvSSの効果を吟味してきた既存研究(e.g., Hildebrand et al., 2014; Valenzuela, Dhar, & Zettelmeyer, 2009)は,CvSSが過程努力をいかにして軽減するかということに焦点を合わせており,そのシステムがその他のMC価値にどのような影響を及ぼすのかということを吟味していない。さらに,既製品供給とは異なって,MCは顧客自身が製品構成に従事することのできるシステムであるということと,それを行う顧客のデザイン・スキルについて異質性が存在しうるということ(cf., Moreau, Bonney, & Herd, 2011)を併せて考慮すると,MCの1形態であるCvSSの効果は,必ずしも多様な顧客にとって一定であるとは言えないであろう。

そこで,本論は,上記の問題を解決するために,第一に,顧客が知覚するMC価値の構造を検討し,第二に,それを踏まえた上で,デザイン・スキルにおける顧客の異質性を考慮することによってCvSSの効果を吟味する。

II. 分析1:MC価値の構造

1. 分析の目的と仮説

本節は,顧客が知覚するMC価値について,その構造とそれらの間の関係を経験的に吟味することを目的とする。

既存研究が特定化してきた多様なMC価値を分類するために,Holbrook(1999)の価値類型の枠組を援用する。そうすると,それらのMC価値は,表1のようにまとめられる。しかしながら,大半の既存研究は,それら4つのMC価値を包括的に吟味してはいない。例えば,Dellaert and Stremersch(2005)は,MC価値の功利性,すなわち過程努力と選好合致にのみ焦点を合わせており,対照的に,Kaiser et al.(2017)は,MC価値の快楽性,すなわち享楽性と自己表現性にのみ焦点を合わせている。他方,Franke and Schreier(2010)は,MC価値の功利性と快楽性とを併せて考慮して,過程努力,享楽性,選好合致の3つのMC価値に焦点を合わせているものの,自己表現性を考慮していない。さらに,Merle et al.(2008)は,本論と同様にHolbrook(1999)の価値類型の枠組に基づいて,包括的にMC価値を把握しようと試みているものの,享楽性の一側面にすぎない創造的達成を享楽性とは別に考慮してしまっている点,および,それゆえに,過程努力を捨象している点において,問題を抱えている。

表1

MC価値の類型

そこで,既存研究が抱える上記の問題を解消すべく,本論は,次のようなMC価値の構造を想定する。MC過程価値とは,MCにおける顧客による製品構成過程すなわちMC過程がもたらす価値である。この価値は功利性に関連した過程努力と,快楽性に関連した享楽性とに区別される。製品構成の過程で投じられた時間と労力に関する顧客の知覚として定義される過程努力に関して,MCにおいて顧客は,時間と労力を投じて製品を構成する必要があるため,過程努力を高く知覚する(Dellaert & Stremersch, 2005; Franke & Schreier, 2010)。この種の価値は,顧客にとってコストと見なされて,MC過程価値に対してネガティブに寄与すると考えられる。また,顧客自らが製品構成に従事することによって生起するポジティブな情緒的反応として定義される享楽性に関して,MCにおいて顧客は,自らの属性選択によって製品を構成することに喜びを感じるため,享楽性を高く知覚する(Franke & Schreier, 2010)。この種の価値は,顧客にとって便益と見なされて,MC過程価値にポジティブに寄与すると考えられる。こうして,過程努力と享楽性とによって,MC過程価値は構成されるであろう。

他方,MC製品価値とは,カスタマイゼーションの結果として構成された製品がもたらす価値である。この価値は,功利性に関連した選好合致と,快楽性に関連した自己表現性とに区別される。構成された製品の特性と顧客自身の選好との一致度についての主観的評価として定義される選好合致に関して,顧客は,自らのニーズに基づいて製品を構成できるために,MC製品の選好合致を高く知覚する(Dellaert & Stremersch, 2005)。また,構成された製品がどの程度顧客の個性を表現できているのかについての主観的評価として定義される自己表現性に関して,顧客は,「自ら」が構成した製品であるために,MC製品の自己表現性を高く知覚する(Kaiser et al., 2017; Merle et al., 2008)。これら2つの価値は,顧客にとって便益と見なされて,MC製品価値にポジティブに寄与すると考えられる。こうして,選好合致と自己表現性とによって,MC製品価値は構成されるであろう。

以上のようなMC価値の構造を前提にすると,MC過程価値とMC製品価値との間には正の因果的関係があると考えられる。具体的には,顧客は,MC過程における構成努力を低く知覚することによって,MC製品の選好合致を高く知覚したり(Hildebrand et al., 2014),かつ/または,MC過程における享楽性を高く知覚することによって,MC製品の自己表現性も高く知覚したりするであろう(Kaiser et al., 2017)。逆に,顧客は,MC過程における構成努力を高く知覚することによって,MC製品の選好合致を低く知覚したり,かつ/または,MC過程における享楽性を低く知覚することによって,MC製品の自己表現性も低く知覚したりするであろう。こうして,顧客は,MC過程価値を高く知覚すると,MC製品価値も高く知覚し,逆に,MC過程価値を低く知覚すると,MC製品価値も低く知覚すると考えられる。したがって,以下の仮説を提唱する。

仮説1:MC過程価値はMC製品価値に正の影響を及ぼす。

さらに,MC製品価値とMC製品への満足との間には正の因果的関係があると考えられる。具体的には,顧客は,選好合致を高く知覚したり(Franke et al., 2008),かつ/または,自己表現性を高く知覚することによって(Kaiser et al., 2017),MC製品に対する満足を高く知覚するであろう。逆に,顧客は,選好合致を低く知覚したり,かつ/または,自己表現性を低く知覚することによって,MC製品に対する満足を低く知覚するであろう。こうして,顧客は,MC製品価値を高く知覚すると,MC製品に対する満足も高く知覚し,逆に,MC製品価値を低く知覚すると,MC製品に対する満足も低く知覚すると考えられる。したがって,以下の仮説を提唱する。

仮説2:MC製品価値はMC製品に対する満足に正の影響を及ぼす。

2. データ収集

マクロミル社の調査回答者パネルを利用して,ウェブ調査を実施した。調査に際して,分析者によって予め指定された9つの対象製品カテゴリ(食品,家具,家電,化粧品,アパレル品,服飾雑貨,オートバイ,自転車,写真)のいずれかについて,回答者にウェブ上における直近のMC製品の購買経験を想起するように求めた。その上で,既存研究に依拠して設定された各概念の諸項目に「非常にそう思う(7点)」~「全くそう思わない(1点)」までの7点リカート尺度で回答するよう依頼した。こうして916名からの回答が得られた。

3. 測定

既存研究から測定項目を引用して,過程努力(Franke & Schreier, 2010),享楽性(Franke & Schreier, 2010; Merle et al., 2008),選好合致(Franke & Schreier, 2010; Merle et al., 2008),自己表現性(Merle et al., 2008),およびMC製品に対する満足(Hildebrand et al., 2014; Valenzuela et al., 2009)を7点リカート尺度で測定した。なお,すべての項目について,天井効果と床効果は確認されなかった(表2)。

表2

測定項目(分析1)

各概念に対する測定項目について,Bagozzi and Yi(1988)Henseler, Ringle, and Sarstedt(2015)に従って,信頼性と妥当性を評価すべく確認的因子分析を行った(表3)。その結果,RMSEAが0.05であったということから,一次元性に関する信頼性が認められる。また,収束妥当性について,各概念のCRが0.65~0.89,AVEが0.51~0.74であったということから,項目はそれが測定しようとする各概念に首尾よく収束していると判断される。最後に,弁別妥当性について,概念間のHTMT比が0.72~0.84であったということから,対応する項目によって測定される概念は,それぞれ他の概念と弁別されるものであると判断される。

表3

信頼性と妥当性

注)CRとAVEを除く行列について,下三角行列は因子間相関係数,対角成分はAVEの平方根,および上三角行列はHTMT比をそれぞれ表している。

4. 分析結果と考察

共分散ベースの構造方程式モデリング(最尤推定)によって,本論のモデルを推定した(表4)。それと同時に,代替モデルとしてMerle et al.(2008)のモデルの推定を行った(表4)。本論のモデルのAICとBICがそれぞれ28,843.15と29,002.21であったのに対して,Merle et al.(2008)のモデルのAICとBICはそれぞれ36,828.81と36,992.69であった。このことから,モデルの複雑さを考慮しても,本論のモデルは,過程努力を捨象しているという問題を抱えていたMerle et al.(2008)のモデルに比して,データによく適合していると判断される。

表4

MC価値に関するモデルの比較

本論のモデルにおける概念間の関係に焦点を合わせると,図1に要約される結果が得られた。具体的には,MC過程価値が享楽性と過程努力によって構成される高次因子であるということ,同様に,MC製品価値が選好合致と自己表現性によって構成される高次因子であるということが,ともに見出された。しかしながら,MC過程価値に対する過程努力の因子負荷量は,正で有意であり(std.γ=0.57, z=13.52),想定とは逆の結果が得られた。この結果は,MCにおける過程努力を高く知覚する顧客は,製品構成に投じた多くの時間と労力をコストとしてではなく,むしろポジティブな経験として知覚しているということを示唆している。

図1

本論のモデルのパス図と係数推定値

注)***は1%水準で統計的に有意であるを示す。

他方,MC過程価値がMC製品価値に及ぼす影響を示すパス係数の標準化推定値は,正かつ1%水準で統計的に有意であった(std.γ=0.88, z=15.98)。この結果は,MC過程価値を高く知覚する顧客は,MC製品価値も高く知覚するということを示唆している。したがって,仮説1は経験的に支持されたと判断されるであろう。さらに,MC製品価値がMC製品に対する満足に及ぼす影響を示すパス係数の標準化推定値は,正かつ1%水準で統計的に有意であった(std.β=0.81, z=9.14)。この結果は,MC製品価値を高く知覚する顧客は,MC製品に対する満足も高く知覚するということを示唆している。したがって,仮説2は経験的に支持されたと判断されるであろう。

以上のことから,MCにおいて享楽性と過程努力によって構成されるMC過程価値を高く知覚する顧客は,選好合致と自己表現性によって構成されるMC製品価値を高く知覚し,結果として,MC製品に対する満足も高く知覚するという知見が得られた。

III. 分析2:CvSSの効果

1. 分析の目的と仮説

本節は,前節において得られた知見を踏まえて,CvSSがMC価値に及ぼす影響を経験的に吟味することを目的とする。

CvSSは,トップダウン型情報処理を促すシステムであるという(Hildebrand et al., 2014)。具体的には,CvSSは,企業が最初に既製品を提示することによって顧客のニーズを喚起させる一方,そうしてニーズを認識できるようになった彼らに,最初に提示された製品の修正のみを求めるシステムである。このような特徴を持つCvSSは,顧客の情報処理が容易になされる程度として定義される情報処理流暢性を向上させるという(de Bellis, Hildebrand, Ito, Herrmann, & Schmitt, 2019)。そうすると,顧客は,MC過程において製品構成の困難性を低く知覚し(Hildebrand et al., 2014),それゆえに,多くの努力を投じることなく製品構成を行うことができる。つまり,CvSSにおいて顧客は,過程努力を低く知覚すると考えられる。他方,ある活動において情報処理流暢性の高い顧客は,その活動に没頭でき,それゆえ,そこに高い享楽性を知覚するという(Im & Ha, 2011)。この知見を援用すると,CvSSにおいても顧客は,享楽性を高く知覚すると考えられる。

他方,AbAは,ボトムアップ型情報処理を顧客に求めるシステムであるという(Hildebrand et al., 2014)。具体的には,AbAは,自らのニーズ把握とそれを充足するための製品構成のいずれをも顧客に求めるシステムである。このような特徴を持つAbAは,CvSSとは対照的に,MC過程における顧客の情報処理を非流暢にしてしまうという(de Bellis et al., 2019)。そうすると,顧客は,MC過程において製品構成の困難性を高く知覚し(Hildebrand et al., 2014),それゆえに,多くの努力を投じて製品構成を行わなければならない。つまり,AbAにおいて顧客は,過程努力を高く知覚すると考えられる。他方,先述のとおり,ある活動において情報処理流暢性の低い顧客は,その活動に没頭できないがゆえに,そこに低い享楽性しか知覚しないという(Im & Ha, 2011)。この知見を援用すると,AbAにおいても顧客は,享楽性を低く知覚すると考えられる。

ここで,MCシステムを利用する顧客のデザイン・スキルにおける異質性を考慮する。デザイン・スキルとは構成すべき製品を適切に構成することのできる程度を意味し,そこには,問題定義と問題解決の2側面から捉えられる創造性が含まれる(Moreau & Dahl, 2009)。つまり,MCシステムを利用する際に,デザイン・スキルの高い顧客は,いかなる製品を構成すべきかを自ら認識しており,さらにそれに向けて確実に製品を構成できるということである。それにもかかわらず,デザイン・スキルの高い顧客がCvSSにおいて製品構成を行うとなると,彼らは製品構成による問題解決だけでなく,そもそも提示された既定の問題を定義し直し,さらに製品構成上の修正を施す必要が生じるであろう。その結果として,Hildebrand et al.(2014)の想定とは逆に,デザイン・スキルの高い顧客は,CvSSによって情報処理流暢性が低下するために,高い過程努力を知覚すると考えられる。同様に,彼らは,CvSSによって情報処理流暢性が低下するために,製品構成過程に没頭できず,そこに低い享楽性しか知覚しえないであろう。

対照的に,デザイン・スキルの低い顧客がCvSSにおいて製品構成を行うとなると,製品提示によって自らのニーズを認識できるようになった彼らは,提示された製品に修正を施すだけでよい。その結果として,デザイン・スキルの低い顧客は,CvSSによって情報処理流暢性が向上するために,過程努力を低く知覚すると考えられる。同様に,彼らは,CvSSによって情報処理流暢性が向上するために,製品構成過程に没頭でき,そこに高い享楽性を知覚するであろう。したがって,以下の仮説を提唱する。

仮説3:CvSSを利用する顧客が知覚するMC過程価値は,顧客のデザイン・スキルによって異なる。

仮説3a:デザイン・スキルの高い顧客は,デザイン・スキルの低い顧客に比して,CvSSを利用するときに過程努力を高く知覚する。

仮説3b:デザイン・スキルの高い顧客は,デザイン・スキルの低い顧客に比して,CvSSを利用するときに享楽性を低く知覚する。

上記のとおり,MCシステムを利用する顧客のデザイン・スキルの高低によって,CvSSにおけるMC過程価値に差異が生じる。さらに,前節の分析1のとおり,MC過程価値はMC製品価値に正の影響を及ぼす。これらのことを踏まえると,CvSSにおいて製品構成を行う場合,デザイン・スキルの高い顧客は過程努力を高く知覚したり,かつ/または,享楽性を低く知覚したりすることによって,MC過程価値を低く知覚する一方,デザイン・スキルの低い顧客は過程努力を低く知覚したり,かつ/または,享楽性を高く知覚したりすることによって,MC過程価値を高く知覚するであろう。さらに,そうして生じるMC過程価値の差異は,MC製品価値の差異をも生じさせる。具体的には,デザイン・スキルの高い顧客は,MC過程価値を低く知覚することによって,MC製品価値も低く知覚する一方で,デザイン・スキルの低い顧客は,MC過程価値を高く知覚することによって,MC製品価値も高く知覚するであろう。

CvSSにおける状況とは対照的に,AbAにおいて製品構成を行う場合,デザイン・スキルの高い顧客は過程努力を低く知覚したり,かつ/または,享楽性を高く知覚したりすることによって,MC過程価値を高く知覚する一方,デザイン・スキルの低い顧客は過程努力を高く知覚したり,かつ/または,享楽性を低く知覚したりすることによって,MC過程価値を低く知覚するであろう。さらに,先述のとおり,そうして生じるMC過程価値の差異は,MC製品価値の差異をも生じさせる。具体的には,デザイン・スキルの高い顧客は,MC過程価値を高く知覚することによって,MC製品価値も高く知覚する一方で,デザイン・スキルの低い顧客は,MC過程価値を低く知覚することによって,MC製品価値も低く知覚するであろう。

このように,MCシステムがCvSSであるかAbAであるかの差異は,顧客の知覚するMC過程価値の差異を介して,MC製品価値に影響すると考えられる。したがって,以下の仮説を提唱する。

仮説4:CvSSは,MC過程価値を介して,MC製品価値に影響を及ぼす。

2. 実験と手続き

仮説の経験的テストに利用するデータを収集するために,実験室実験を行った。実験参加者は,36名(男性20名・女性16名)の都内大学生であり,平均年齢21.36歳であった。

実験に際して,参加者がカスタマイズする製品として,Moreau and Herd(2010)に倣って,携帯電話ケースを選定した。また,カスタマイゼーションに際して,実際に存在するウェブ・プラットフォームを利用した。

実験は,1要因(CvSS/AbA)が操作された2つのグループのいずれかに無作為に割り当てられた各参加者が,携帯電話ケースのカスタマイゼーションを実行する被験者間計画であった。参加者に対して,まず,デザイン・スキル(Moreau et al., 2011)を測定するための項目に7点リカート尺度で回答するように指示し(表5),その後に携帯電話ケースのカスタマイズを行うウェブ・プラットフォームの基本的操作を説明した。そして,CvSSグループの参加者には,既にデザインされた携帯電話ケースを提示し,それに修正を加えてカスタマイズするよう求め,他方,AbAグループの参加者には,まっさらな状態の基本ケースを提示し,カスタマイズするよう求めた。こうして,それぞれの参加者は,15分の制限時間の中で携帯電話ケースを自由にカスタマイズした。最後に,カスタマイズ終了後すぐに,過程努力(Franke & Schreier, 2010),享楽性(Franke & Schreier, 2010; Merle et al., 2008),選好合致(Franke & Schreier, 2010; Merle et al., 2008),および自己表現性(Merle et al., 2008)に関する諸項目に,7点リカート尺度で回答するよう参加者に求めた(表5)。

表5

測定項目(分析2)

3. 分析結果と考察

仮説3を経験的にテストするために,CvSSダミー,デザイン・スキル,およびCvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項を独立変数として,他方,過程努力と享楽性をそれぞれ従属変数として設定した2つの回帰モデルをOLSによって推定した(表6)。また,仮説4を経験的にテストするために,CvSSダミー,デザイン・スキル,およびCvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項に加えて,MC過程価値を構成する過程努力と享楽性を独立変数として,他方,選好合致と自己表現性をそれぞれ従属変数として設定した2つの回帰モデルをOLSによって推定した(表6)。なお,すべての回帰モデルにおけるCvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項は,デザイン・スキルに−0.5(AbA)か0.5(CvSS)のいずれかを乗じて作成された。

表6

回帰モデルの分析結果

注)***は1%水準,**は5%水準でそれぞれ統計的に有意であることを示す。

まず,過程努力を従属変数とするモデルにおいて,CvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項は有意な影響を及ぼしてはいなかった(β=0.17, t=0.81)。このことは,利用されるMCシステムがCvSSとAbAのいずれの場合であっても,顧客のデザイン・スキルの高低によって,過程努力に差異は生じないということを示唆している。この結果から,仮説3aは経験的に支持されなかったと判断される。

次に,享楽性を従属変数とするモデルにおいて,CvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項は有意な負の影響を及ぼしていた(β=−0.59, t=−2.51)。すなわち,CvSSの場合,デザイン・スキルの高い顧客は,そうでない顧客と比べて,享楽性を低く知覚するということを示唆している。この結果から,仮説3bは経験的に支持されたと判断される。

仮説4に関して,まず,選好合致を従属変数とするモデルにおいて,CvSSの主効果(β=−0.31, t=−0.31)とデザイン・スキルとの交互作用効果(β=0.01, t=0.03)はいずれも有意ではなかったものの,過程努力が選好合致に有意な正の影響を及ぼしていた(β=0.41, t=2.04)。しかしながら,先述のとおり,そもそも過程努力を従属変数とするモデルにおいて,CvSSの効果は見出されてなかった。したがって,過程努力が,CvSSと選好合致との間の関係を媒介しているとは判断しえない。

次に,自己表現性を従属変数とするモデルにおいて,CvSSの主効果(β=1.04, t=0.88)とデザイン・スキルとの交互作用効果(β=−0.29, t=−0.95)はいずれも有意ではなかったものの,享楽性が自己表現性に有意な正の影響を及ぼしていた(β=0.48, t=2.26)。関連して,先述のとおり,享楽性を従属変数とするモデルにおいて,CvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項は享楽性に有意な負の影響を及ぼすということが見出されている。これらの結果は,享楽性がCvSSと自己表現性との間の関係を媒介しているということを示唆している。そこで,追加的に媒介分析によって享楽性の媒介効果を検討したところ(ブートストラップ法/リサンプリング数2,000),CvSSダミーとデザイン・スキルの交互作用項は享楽性を媒介して,自己表現性に有意な負の影響を及ぼしていた(β=−0.14, 95%CI: −0.26, −0.06)。このことは,デザイン・スキルの高い顧客がCvSSにおいて製品構成を行う場合,MC過程における享楽性を低く知覚し,結果として,構成された製品の自己表現性も低く知覚するということを示唆している。したがって,MC過程価値の一種である享楽性は,CvSSがMC製品価値の一種である自己表現性に及ぼす影響を媒介していると判断される。そして,このことと,過程努力がCvSSと選好合致との間の関係を媒介はいなかったということとを併せて考慮すると,仮説2は部分的にのみ支持されたと考えられる。

前段までの分析結果は図2に示されるように総合され,同図のとおり,デザイン・スキルの高い顧客がCvSSを利用すると,必ずしも過程努力を高く知覚するわけではないものの,一方,享楽性を低く知覚し,それゆえ,構成された製品の自己表現性を低く知覚するという知見が得られた。

図2

分析2における結果の総合

注)**は5%水準で統計的に有意であることを示す。また,破線のパスは,推定値が5%水準で統計的に非有意であることを示す。

IV. 結論

1. 学術的含意

本論は,CvSSに関する既存研究が,限られたMC価値にしか着目してこなかったことを問題視し,まず,MC価値をHolbrook(1999)の枠組に基づいて整序することによって包括的に吟味することを試みた。その過程において,それまでの既存研究によって特定化されてきた過程努力を捨象しているというMerle et al.(2008)の問題を解消した。そして,過程価値と享楽性とによって構成されるMC過程価値が,選好合致と自己表現性とによって構成されるMC製品価値を介して,MC製品満足に帰着するということを見出した。その上で,顧客のデザイン・スキルの異質性を考慮しないままに,過程努力にのみ焦点を合わせて,CvSSによるその軽減効果を主張してきた既存研究とは対照的に,本論は,顧客のデザイン・スキルの異質性を考慮して,CvSSがMC過程価値を構成する2つの価値に及ぼす影響を吟味した。その結果,享楽性に対するCvSSの有意な影響が見出された一方,過程努力に対するCvSSの有意な影響は見出されなかった。このことは,既存研究において主張されてきたCvSSと過程努力との間の負の関係が,顧客のデザイン・スキルの異質性を考慮してこなかったということに起因して生起したにすぎないという可能性を含意している。

2. 実務的含意

MCは多様な顧客ニーズに対応しうるシステムであり,したがって,多くの顧客を獲得しようとする企業が,積極的にそれを採用しようとするであろう。しかしながら,顧客が互いに異なるニーズだけでなく,それぞれ異なるデザイン・スキルを有していると,MCを展開する企業は,AbAかCvSSのいずれかのMCシステムしか用意していなければ,彼らすべてを満足させることはできないであろう。具体的には,AbAはデザイン・スキルの高い顧客を満足させる一方,デザイン・スキルの低い顧客の不満足を生じさせ,逆に,CvSSはデザイン・スキルの低い顧客を満足させる一方,デザイン・スキルの高い顧客の不満足を生じさせるであろう。したがって,MCによって高い顧客満足を獲得するために,企業は,高いデザイン・スキルを有する顧客に対応してAbAを,他方,低いデザイン・スキルしか持たない顧客に対応してCvSSを,それぞれ用意することが有効であると考えられる。

3. 本論の限界と今後の課題

本論において得られた知見は,次の点に関して,その一般化可能性が限られる。第一に,仮説とは逆に,過程努力とMC過程価値との間にポジティブな関係が見出されたことについて,その原因は,本論の調査が日本において実施されたということにあるのかもしれない。Park, Ono, and Endo(2005)は,米国における顧客データを利用して,MC過程における複雑性とMC製品への態度との間に負の関係を見出しているのに対して,日本における顧客データを利用して,両者の間に正の関係を見出している。これらの結果を踏まえると,調査を実施する地域を変更してもなお,本論と同様の知見が得られるとは限らない。第二に,既存研究に倣って,本論の実験において参加者に携帯電話ケースのカスタマイゼーションを課したことについて,それに一定の妥当性が認められるかもしれないが,異なる製品を対象として同様の実験を実施したときに,本論と同様の知見が得られるとは限らない。第三に,携帯電話ケースのカスタマイゼーションを課す実験のCvSSにおいて最初に提示されるデザインについて,それが本論の実験において提示されたものとは異なるとき,本論と同様の知見が得られるとは限らない。したがって,これらの限界を克服するための継続的な取り組みが必要であろう。

他方,本論の知見を拡大するために,次のような課題を挙げることができる。第一は,新たなMCシステムを想定して分析することである。例えば,Ono, Matsuura, Endo, and Nakagawa(2016)は,製品構成過程の開始時点でしか顧客への製品提示をしていないというCvSSの限界を指摘して,新たに,製品構成過程の中間時点でも顧客への製品提示をするMCシステム(customization via waypoint solutions; CvWS)を提唱している。この新たなMCシステムを考慮すると,高いデザイン・スキルを有する顧客にとってCvWSにおいて随時なされる製品提示は,CvSSと比べて,情報処理を非流暢にし,享楽性を低下させる一方,デザイン・スキルの低い顧客にとってCvWSにおける同様の製品提示は,情報処理を流暢にし,享楽性を向上させると考えられる。加えて,第二は,MC製品のパーソナリティと顧客自身のパーソナリティとの類似性を考慮して分析することである。例えば,Ono(2019)は顧客のパーソナリティとMC製品のパーソナリティとの類似性がその製品への評価を規定しうるということを示唆している。このことを踏まえると,AbA,CvSS,およびCvWSにおける享楽性の差異は,それぞれの状況で構成される製品の自己表現性の差異を生じさせるだけでなく,製品構成を行う顧客自身のパーソナリティによって,MC製品への評価の差異をも生じさせると考えられる。このように,本論は,いくつかの限界を抱えつつも,今後の研究展開を期しうると言えるであろう。

謝辞

本論の執筆段階においてご助言くださった小野晃典先生(慶應義塾大学)に感謝申し上げます。また,レビュワーにも併せて感謝申し上げます。

森岡 耕作(もりおか こうさく)

東京経済大学経営学部准教授。2005年慶應義塾大学商学部卒業。2007年同大学院商学研究科修士課程修了,2011年同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。東京経済大学経営学部専任講師を経て2014年より現職。

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