Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Impact of Cultural Customization on the Ease of Use of Global Companies’ Web Sites
Mai KikumoriRyuta Ishii
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2020 Volume 40 Issue 1 Pages 56-67

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Abstract

本研究は,グローバル企業が自社Webサイトを現地の文化に適応化させる度合い,つまりWebサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いが現地消費者のWebサイト使用容易性にどのような影響を及ぼすのか,そして,その影響が制御焦点の違いによってどのように異なるのかを検討した。実証分析に際して,日本に進出するアメリカ企業のWebサイトを対象に内容分析を行い,その後,消費者調査を行うことによってデータを収集した。実証分析の結果,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションは情報取得の容易性およびナビゲーションの容易性という2種類のWebサイト使用容易性に正の影響を及ぼすということが示された。加えて,促進焦点はその正の効果を促進するということが示された。この知見から,本研究は,グローバル企業は自社のWebサイトに現地の文化的価値観を反映させる必要があり,そうするべきなのは,予防焦点型の消費者というより,促進焦点型の消費者に対してであるという含意を提供する。

Translated Abstract

The purpose of this research is to investigate the impact of the degree to which global companies’ web sites are adapted to local culture, i.e. cultural customization on web sites, on local consumers’ ease of use of the web sites. We also examine the moderating effect of regulatory focus on the impact of cultural customization on web sites. We perform a content analysis of Japanese websites for American companies and conduct a consumer survey. The results of the empirical analysis show that cultural customization has a positive impact on perceived presentation and navigation on the web sites, and that promotion focus enhances the positive impact of cultural customization. These results imply that global companies should reflect local cultural values on their websites and that cultural customization is more effective for promotion-focused, rather than prevention-focused consumers.

I. はじめに

Webサイトは,企業が消費者に対して情報を発信するための重要なコミュニケーションツールである。グローバル企業は,世界中の消費者に対して効果的に情報を発信することを目指して,世界各国の消費者が使用しやすいWebサイトを設計しようと試みている。そのようなWebサイトを設計するために,グローバル企業にとって必要不可欠なことは,文化的カスタマイゼーション,つまり自社のWebサイトを現地の文化に適応化させることである(Singh, Fassott, Chao, & Hoffmann, 2006; Singh & Matsuo, 2004)。

学術研究においては,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションに関する議論が活発に展開されており,その有効性が主張されてきた(e.g., Simon, 2001; Singh et al., 2006; Singh & Matsuo, 2004; Singh, Zhao, & Hu, 2003)。しかしながら,既存研究において,日本市場に進出する海外グローバル企業のWebサイトが,どの程度日本の文化に適応化しているのかは測定されていないし,文化的に適応化したWebサイトの使用容易性が日本の消費者によってどのように評価されるのかということは検討されていない。さらに重要なことに,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの効果が消費者の特性の違いによってどのように異なるのかということも検討されていない。消費者の中には,文化的に適応化したWebサイトを閲覧して,そのWebサイトの使用容易性を非常に高く評価する消費者もいれば,そうでない消費者もいると考えられるだろう。

こうした消費者間の差異を検討するアプローチの一つとして近年注目されているのが,制御焦点理論(Higgins, 1997, 1998)である。制御焦点は,消費者の情報処理の方法に影響を及ぼし(Förster, Higgins, & Bianco, 2003; Friedman & Förster, 2001),それゆえ,マーケティング・コミュニケーションに対する反応にも,大きな影響を及ぼすと主張されてきた(Pham & Higgins, 2005)。こうした主張を踏まえると,消費者の制御焦点によって,文化的に適応化したWebサイトに対する評価も異なると考えられるだろう。

本研究の第一の目的は,英語が母語である海外企業が日本の消費者を標的市場に設定した際,どのように自社のWebサイトを日本の文化に適応化すればよいのかを検討することである。加えて,第二の目的は,Webサイトを閲覧する消費者個人の特性の違いによって,海外企業によるWebサイトの文化的カスタマイゼーションの有効性がどのように異なるのかを吟味することである。具体的には,制御焦点の異なる消費者が,日本の文化に適応化したWebサイトの使用容易性をどのように評価するのかを吟味する。

II. 既存研究レビュー

1. Webサイトにおける文化的カスタマイゼーション

Webサイトの文化的カスタマイゼーションに関する既存研究は,文化的価値観に着目して展開されてきた。文化的価値観は,国家間で大きく異なると主張されている(Hofstede, 1980)。文化的価値観の国家間差異を捉える理論枠組として,既存研究の多くはHofstede(1980)を援用してきた。彼は,文化を分類するための4つの独立した次元,すなわち,個人主義,権力格差,不確実性回避,および男性性を提示した。そして,大規模な調査を行うことによって,各国の4つの次元のスコアを算出した。例えば日本は,他国と比較すると,個人主義のスコアと権力格差のスコアは中程度であった一方,不確実性回避のスコアと男性性のスコアは非常に高かった。なお,Hofstedeはその後,5つ目の次元として長期志向(Hofstede, 2001)を,6つ目の次元として放縦(Hofstede, Hofstede, & Minkov, 2010)を加えている。

Hofstede(1980, 2001)に依拠して,Webサイトにおける文化的価値観に着目した既存研究として,例えば,Tsikriktsis(2002)が挙げられる。彼によると,文化的価値観のうちの男性性はWebサイトのインタラクティビティについての期待と関連している一方,長期志向は視覚的な訴求と感情的な訴求についての期待と関連しているという。したがって,文化的価値観はWebサイトに対する消費者の期待に影響しており,それゆえWebサイトは現地の消費者の嗜好に適応化させるべきであると結論づけられた。この研究に追随する形で,Hofstedeによる文化次元をWebサイト・カスタマイゼーションの文脈に応用して実証分析を試みたのが,Singhらによる一連の研究群である。この研究群は,文化的カスタマイゼーションの測定方法の開発に注力した研究と,文化的カスタマイゼーションがWebサイトの評価に及ぼす影響を検討した研究に分類される。

前者の研究に分類されるSingh and Matsuo(2004)は,アメリカ企業と日本企業のWebサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合い,つまりそれぞれの国の文化的価値観がWebサイトにどの程度反映されているのかを測定した。内容分析によって,文化の次元に関する両国のWebサイトのスコアを算出し,そのスコアを用いて分散分析を行った結果,日本企業のWebサイトの方が,アメリカ企業のWebサイトに比して,集団主義,権力格差,および男性性を反映している度合いがより高かった。しかし,不確実性回避については,両国間に有意な差は認められなかった。

続いてSingh, Zhao, and Hu(2005)は,インド,中国,日本,およびアメリカのWebサイトにおける各国の文化的価値観を測定し,4か国間の比較を試みた。内容分析を行った結果,4か国の現地のWebサイトは,各国の文化的価値観を反映しているということが見出された。日本に関する分析結果として示されたのは,日本は集団主義的であり,集団内の他者の面倒を見ることに価値を置くため,日本のWebサイトには趣味やスポーツに関するコミュニティや他の企業のWebサイトのリンクが掲載される傾向が高いということであった。また,男性性に関するスコアも高いため,日本のWebサイトには性別による役割の違いが顕著に表れていた。例えば,企業の経営幹部の大半は男性が占めている一方,カスタマーサービスの大半は女性が占めていた。

文化的カスタマイゼーションがWebサイトの評価に及ぼす影響を検討した研究として,Singh, Furrer, and Ostinelli(2004)が挙げられる。彼らは,イタリア,インド,オランダ,スペイン,およびスイスの5か国を対象に,文化的に適応化したWebサイトを消費者がどのように評価するのかを検討した。実証分析の結果,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いは,Webサイトの使用容易性,具体的には,情報取得の容易性とナビゲーションの容易性に好ましい影響を及ぼすということが見出された。ただし,情報取得の容易性は,色,画像,サイトデザインの諸要素,および情報のまとまりが適切に用いられている度合いであり,ナビゲーションの容易性とは,サイト内のハイパーリンクの埋め込み,および,サイト内のレイアウトや構成が効果的である度合いであった。

続いてSingh, Fassott, Zhao, and Boughton(2006)は,ドイツ,中国,およびインドの3か国の消費者データを収集し,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションが,情報取得の容易性およびナビゲーションの容易性に及ぼす影響を検討した。実証分析の結果,ドイツおよびインドのデータにおいて,消費者は,標準化したWebサイトに比して,文化的に適応化したWebサイトの方が,情報取得の容易性とナビゲーションの容易性を高く知覚する傾向にあるということが見出された。加えて,情報取得の容易性およびナビゲーションの容易性は,Webサイトに対する態度に正の影響を及ぼすということも見出された。

このように,Singhらによる一連の研究は,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いが,Webサイトの使用容易性に好ましい影響を及ぼすと主張してきた。しかしながら,これらの研究は,消費者個人の特性を考慮していない。消費者の中には,文化的カスタマイゼーションの度合いが高いWebサイトを閲覧して,当該Webサイトの使用容易性を非常に高く評価する消費者もいれば,そうでない消費者もいると考えられるだろう。こうした消費者間の差異に影響を及ぼす特性として,本研究は,制御焦点に着目する。制御焦点は,消費者の情報処理の仕方に多大な影響を及ぼす(Pham & Higgins, 2005)。本研究の焦点であるWebサイトの使用容易性は,当該サイト上で消費者が容易に情報処理を行えるか否かに関係しているため,消費者の情報処理の仕方に影響を及ぼす制御焦点を,消費者特性として考慮に入れることは重要であろう。そこで,次節においては,制御焦点理論に関する研究を概観する。

2. 制御焦点理論

Higgins(1997)は,人は誰しも望ましい状態を得ようとしているものの,その望ましい状態を達成する方法は,人の制御焦点によって異なると主張した。彼によると,制御焦点は,促進焦点と予防焦点という2種類の動機づけに分類されるという。一方で,促進焦点は,成長欲求と養育欲求という生存欲求に基づく動機づけであり,促進焦点の人は,ポジティブな結果の有無に敏感で,ポジティブな結果に近づくことを志向し,そして,獲得や成長の機会を逃してしまう「オミッションエラー」を最小化しようとする。他方,予防焦点は,防衛欲求と安全欲求という生存欲求に基づく動機づけであり,予防焦点の人は,ネガティブな結果の有無に敏感で,ネガティブな結果を避けることを志向し,そして,必要以上の行動によって誤りを犯してしまう「コミッションエラー」を最小化しようとする。注目するべきことに,Higgins(1998)は「一人の個人について,強い促進焦点が獲得されることも,強い予防焦点が獲得されることも,あるいは,それらの両方が獲得されることもある」(p. 16,邦訳は著者)と指摘している。この指摘が意味するのは,制御焦点は,促進焦点か予防焦点かという2分法で捉えられる概念ではなく,促進焦点および予防焦点という2次元から構成される概念として捉えられるということである。

Higgins(1997, 1998)に続く既存研究は,制御焦点理論の精緻化を試みてきた。その1つの方向性として,制御焦点が目標の達成方法だけでなく,情報処理の仕方にも影響を及ぼすということが示されてきた(Friedman & Förster, 2001; Pham & Higgins, 2005)。例えば,Friedman and Förster(2001)によれば,促進焦点の人は,身の回りの環境における脅威ではなく機会に注目するため,リスク志向的かつ探索的な情報処理を行おうとするという。他方,予防焦点の人は,身の回りの環境における機会ではなく脅威に注目するため,リスク回避的かつ警戒的な情報処理を行おうとするという。加えて,Pham and Higgins(2005)によれば,促進焦点の人は,新しい機会を求めて,正確性よりも素早さを重視する。そのため,物事の判断や意思決定に直面すると,不正確であったとしても意思決定を素早く行おうとして,感情やヒューリスティクスに頼ろうとする傾向にあるという。他方,予防焦点の人は,失敗を警戒して,素早さよりも正確性を重視する。そのため,素早くなくても意思決定を正確に行おうとして,感情やヒューリスティクスには依拠せず,分析的な情報処理を行おうとする傾向にあるという。

III. 仮説

1. 文化的カスタマイゼーションの効果

消費者は,文化的に適応化したWebサイトの方が,そうでないWebサイトに比して,当該サイト内の情報をより容易に処理することができる(Luna, Peracchio, & de Juan, 2002)。文化的に適応化したWebサイトの場合,消費者は自分の価値観や嗜好と一致した情報を処理することが可能である。そのため,当該サイトにおける情報処理に際して,消費者の認知努力や情報処理能力はそれほど多く求められないだろう。一方,文化的に適応化していないWebサイト,つまり標準化したWebサイトの場合,消費者は自分の価値観や嗜好と一致しない情報を処理しなければならない。そのため,当該サイトにおける情報処理に際して,消費者は多大な認知努力を費やす,あるいは高水準の情報処理能力を有する必要があるだろう。したがって,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いが高ければ,当該Webサイトの使用容易性も高いと考えられる。以上より,次の仮説を提唱する。

仮説1 Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションは,情報取得の容易性に正の影響を及ぼす。

仮説2 Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションは,ナビゲーションの容易性に正の影響を及ぼす。

2. 文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交互効果

ある企業のWebサイトを閲覧する際,消費者は購買意思決定に資する,有用な情報を当該サイトから取得することを目標としていると想定される。予防焦点の消費者は,閲覧するWebサイトに有用な情報が掲載されているか否かをより正確に判断しようと試みる(Pham & Higgins, 2005)。すなわち,閲覧するWebサイトが文化的に適応化しているか否かに関係なく,多くの認知努力を費やして,当該サイト内に掲載されている情報を精緻に処理しようとするだろう。そのため,予防焦点の消費者の場合,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いは当該Webサイトの使用容易性に影響しないと考えられる1)

他方,促進焦点の消費者は,閲覧するWebサイトに有用な情報が掲載されているか否かを素早く判断しようと試みる(Pham & Higgins, 2005)。文化的に適応化したWebサイトであれば,消費者は多くの認知努力を費やす必要がなく,容易に情報処理を行えるため,当該サイトで有用な情報を取得できるのかを素早く判断することが可能である(Luna et al., 2002; Singh et al., 2005)。文化的に適応化していない,つまり標準化したWebサイトであれば,多くの認知努力を費やさなければ情報処理が困難であるため,当該サイトで有用な情報を取得できるのかを即座に判断しにくいだろう。したがって,促進焦点の消費者の場合,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いが高ければ,当該Webサイトの使用容易性も高いと知覚すると考えられる。以上より,次の仮説を提唱する。

仮説3 促進焦点は,文化的カスタマイゼーションが情報取得の容易性に及ぼす正の影響を促進する。

仮説4 促進焦点は,文化的カスタマイゼーションがナビゲーションの容易性に及ぼす正の影響を促進する。

IV. 調査方法

1. 内容分析

本研究は,独立変数である「Webサイトの文化的カスタマイゼーションの度合い」を測定するために,Singh, Toy, and Wright(2009)およびChao, Singh, and Chen(2012)の手続きに従って,Webサイトの内容分析を行った。内容分析は,マーケティング・コミュニケーションに関する既存研究において,Webサイトのデザインや構造を分析するために,幅広く用いられている手法である(e.g., Chao et al., 2012; Singh & Matsuo, 2004)。分析対象のWebサイトとして,Fortune 500に掲載されている上位企業のうち,日本市場に参入しており,かつ,日本語のWebサイトを持つ企業20社を選定した。消費者行動論を専攻する2名の学生をコーダーとして雇って,Webサイトを閲覧してもらい,文化的カスタマイゼーションの度合いを評価してもらった。

文化的カスタマイゼーションの度合いを評価するためには,日本の文化的特徴を同定する必要がある。Hofstede(1980)によると,文化を構成する4つの次元,すなわち,個人主義,権力格差,不確実性回避,および,男性性のうち,日本は,不確実性回避と男性性が高水準であるという。具体的には,最新の調査結果(Hofstede et al., 2010)において,調査対象である65か国中,日本の順位は,不確実性回避が11位(92点)であり,男性性が2位(95点)であった。Singh et al.(2005)によると,不確実性回避の価値観を反映したWebサイトは,社長や役員の写真が掲載されている,試供品や無料ダウンロードがある,製品の品質保証や受賞について言及されている,あるいは,お客様の声が書かれているといった要素で特徴づけられるという。また,男性性の価値観を反映したWebサイトは,クイズやゲームなどの楽しいコンテンツが含まれており,製品の耐久性,品質,属性などの製品の有効性に関する情報が提供されており,そして,男女の役割を明確化するような情報が提示されているといった要素で特徴づけられるという。コーダーには,以上の点を踏まえたうえで,「Webサイトには,日本の文化的価値観が,[1:見られない~5:非常に多く見られる]」という5点尺度の質問に回答することによって,Webサイトの文化的カスタマイゼーションの度合いをコード化してもらった。コーダー間の信頼性を調べるために,CohenのKを算出した。その結果,Kの値は0.72(p<0.01)であり,許容可能な0.70以上という規準を上回った(Lombard, Snyder-Duch, & Bracken, 2004)。このことは,コーダー間の信頼性を示唆している。

2. 消費者調査

従属変数である「情報取得の容易性」および「ナビゲーションの容易性」と,調整変数である「促進焦点」に関するデータを収集するために,消費者調査を実施した。調査協力者は,マーケティング・消費者行動論の科目を履修する30名の大学生であった(平均年齢20.8歳,男性53%,女性47%)。1日当たりの平均的なWebサイト閲覧時間について,これら30名の調査協力者の平均値は,1時間47分であった。このことから,調査協力者は,日頃から様々なWebサイトを閲覧しており,それゆえ,Webサイトを閲覧し評価することに慣れていると判断できるだろう。調査協力者には,先述の内容分析の対象となった20のWebサイトのうちの10サイトを閲覧しながら,調査票内の質問に回答してもらった。

各概念の記述統計量と相関係数は表1に,各概念の質問項目は表2に示されるとおりであった。「情報取得の容易性」および「ナビゲーションの容易性」を測定するために,Zhang, Keeling, and Pavur(2000)に基づいて,それぞれ6つの質問項目を用いた。

表1

記述統計量と相関係数

*p<0.05(両側検定)。

表2

構成概念と質問項目

a…7点リカート尺度(1:全くそう思わない~7:非常にそう思う)。b…分析から除外された質問項目。(R)…逆転項目。

既存研究は,消費者の制御焦点を測定するための方法をいくつか開発してきたが,本研究は,その中でも,2つの異なる方法を用いて制御焦点を測定した。1つ目は,Lockwood, Jordan, and Kunda(2002)の測定方法である。これは,既存研究において最も頻繁に用いられている測定方法であり,18個の質問項目を使用する。もう1つは,Haws, Dholakia, and Bearden(2010)の測定方法である。これは,最も新しく開発された測定方法であり,10個の質問項目を使用する。2つの異なる測定方法を用いて分析を行うことによって,制御焦点の測定方法の違いについて,分析結果が頑健であるか否かを検討することができるだろう。なお,表2に記載されているとおり,Lockwood et al.(2002)の18個の質問項目のうち,促進焦点を測定するための3個の質問項目,および,予防焦点を測定するための1個の質問項目は,他の質問項目との相関が低かったため分析から除外した。表2に示されるとおり,各概念のクロンバックα係数は,0.70~0.94であり,測定尺度の信頼性は充分に高いということが示された。

統制変数として,当該Webサイトの閲覧経験を設定した。当該Webサイトを閲覧した経験がある消費者は,当該Webサイトを使用しやすいと感じるであろう。この変数の影響を統制するために,「このWebサイトを見たことがある」という質問項目を設定した。この質問項目には,7点リカート尺度(1:全くそう思わない~7:非常にそう思う)を用いた。

V. 分析結果

最小二乗法(OLS)による回帰分析を行った結果は,表3に示されるとおりであった。Model 1およびModel 5は,独立変数として,文化的カスタマイゼーションの主効果,制御焦点の主効果,および,統制変数を設定したモデルであり,Model 2およびModel 6は,Model 1およびModel 5に文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交互効果を追加したモデルであり,Model 3およびModel 7は,Model 1およびModel 5に文化的カスタマイゼーションと予防焦点の交互効果を追加したモデルであり,Model 4およびModel 8は,Model 1およびModel 5に文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交互効果,および,文化的カスタマイゼーションと予防焦点の交互効果の双方を追加したモデルである。なお,制御焦点の測定方法として,Model 1a~Model 8aは,Lockwood et al.流の方法を用いたモデルである一方,Model 1b~Model 8bは,Haws et al.流の方法を用いたモデルである。

表3

分析の結果

ただし,非標準化係数を示している。***p<0.01, **p<0.05, *p<0.10(両側検定)。

まず,従属変数として「情報取得の容易性」を設定した場合の分析結果について確認したい。自由度調整済R2値は,Model 1aに比してModel 2aの方が有意に大きかった(Δ0.01; p<0.10)のに対して,Model 1aとModel 3aの間に有意な差は見出されなかった(p>0.10)。同様に,自由度調整済R2値は,Model 1bに比してModel 2bの値の方が有意に大きかった(Δ0.01; p<0.10)のに対して,Model 1bとModel 3bの間に有意な差は見出されなかった(p>0.10)。よって,文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交互効果は,モデル全体の説明力を高めることに寄与している一方,文化的カスタマイゼーションと予防焦点の交互効果は,それに寄与していないと結論づけられた。

Model 4aおよびModel 4bにおいて,文化的カスタマイゼーションの単項の係数は,正かつ有意であった(それぞれ,β=0.33, p<0.01; β=0.34, p<0.01)。したがって,仮説1は支持されたと結論づけられた。また,Model 4aおよびModel 4bにおいて,文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交差項の係数は,正かつ有意であった(それぞれ,β=0.14, p<0.10; β=0.23, p<0.05)。これらの交互効果について,下位検定として単純傾斜分析を行った結果は,図1の上部に示されるとおりであった。Lockwood et al.流の測定方法を用いても,Haws et al.流の測定方法を用いても,促進焦点度が高い場合,文化的カスタマイゼーションがナビゲーションの容易性に及ぼす影響は正かつ有意であった(それぞれ,β=0.50, p<0.01; β=0.56, p<0.01)一方,促進焦点度が低い場合,文化的カスタマイゼーションがナビゲーションの容易性に及ぼす影響は非有意であった(それぞれ,β=0.17, p>0.10; β=0.12, p>0.10)。以上より,仮説3は支持されたと結論づけられた。

図1

文化的カスタマイゼーション(CC)の単純傾斜分析の結果

次に,従属変数として「ナビゲーションの容易性」を設定した場合の分析結果について確認したい。自由度調整済R2値は,Model 5aに比してModel 6aの方が有意に大きかった(Δ0.01; p<0.05)のに対して,Model 5aとModel 7aの間に有意な差は見出されなかった(p>0.10)。同様に,自由度調整済R2値は,Model 5bの値に比して,Model 6bの値の方が大きかった(Δ0.01; p<0.10)のに対して,Model 5bの値とModel 7bの間に有意な差は見出されなかった(p>0.10)。よって,文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交互効果は,モデル全体の説明力を高めることに寄与している一方,文化的カスタマイゼーションと予防焦点の交互効果は,それに寄与していないと結論づけられた。

Model 8aおよびModel 8bにおいて,文化的カスタマイゼーションの単項の係数は,正かつ有意であった(いずれも,β=0.34, p<0.01)。したがって,仮説2は支持されたと結論づけられた。また,Model 8aおよびModel 8bにおいて,文化的カスタマイゼーションと促進焦点の交差項の係数は,正かつ有意であった(それぞれ,β=0.17, p<0.05; β=0.24, p<0.05)。これらの交互効果について,下位検定として単純傾斜分析を行った結果は,図1の下部に示されるとおりであった。Lockwood et al.流の測定方法を用いても,Haws et al.流の測定方法を用いても,促進焦点度が高い場合,文化的カスタマイゼーションがナビゲーションの容易性に及ぼす影響は正かつ有意であった(それぞれ,β=0.55, p<0.01; β=0.58, p<0.01)一方,促進焦点度が低い場合,文化的カスタマイゼーションがナビゲーションの容易性に及ぼす影響は非有意であった(それぞれ,β=0.14, p>0.10; β=0.11, p>0.10)。以上より,仮説4は支持されたと結論づけられた。

VI. 議論

1. 学術的貢献と実務的含意

分析の結果,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションは,情報取得の容易性およびナビゲーションの容易性に対して,正の影響を及ぼすということが示された。すなわち,日本の消費者は,不確実性回避や男性性の価値観が反映されたWebサイトにおいて,情報を容易に得ることができるし,目的のページを素早く見つけることができるということが示唆された。さらに,分析の結果,促進焦点は,文化的カスタマイゼーションの正の影響を促進するということが示された。すなわち,促進焦点型の消費者は,文化的カスタマイゼーションによる大きな便益を得ることができるということが示唆された。本研究は,促進焦点の調整効果を検討することによって,Webコミュニケーションに関する研究の進展に貢献を成したと言いうるだろう。

さらに,消費者特性としての制御焦点を測定する代表的な2つの方法,すなわち,Lockwood et al.流の方法とHaw et al.流の方法のいずれを用いても,同様の分析結果が見出された。このことから,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションの効果,および,促進焦点による調整効果が,制御焦点の測定方法について頑健であるということが示唆された。本研究は,2つの異なる方法を用いて制御焦点を測定したうえで分析を実行したことによって,制御焦点理論に関する研究の進展にも貢献を成したと言いうるだろう。

本研究は,Webサイトのデザインに携わるマーケターに対して,次のような実務的含意を提供しうるだろう。第1に,マーケターは,自社のWebサイトにおける文化的カスタマイゼーションが当該サイトの使用容易性に影響を及ぼすということを意識するべきである。具体的には,Webサイトにおいて,製品の試供品提供や製品の品質保証について言及することは,不確実性回避の価値観を反映させたWebサイトであると捉えられるし,製品の耐久性や男女の役割を明確化するような情報について言及することは,男性性の価値観を反映させたWebサイトであると捉えられる。日本は,不確実性回避と男性性の価値観を重要視する文化を持つということを踏まえると,日本進出を試みるマーケターは,日本語にて自社Webサイトを作成する際に,不確実性回避および男性性の価値観を強調するべきだろう。そうすることによって,当該Webサイトが,日本の消費者から,情報取得やナビゲーションが容易で使用しやすいサイトであると支持される可能性を高められるだろう。

第2に,マーケターは,そうした文化的カスタマイゼーションの効果が,消費者によって異なるということを意識するべきである。具体的には,促進焦点型の消費者にとっては,Webサイトが自身の文化に適応化しているということが極めて重要である。それゆえ,促進焦点型の消費者に対して製品やサービスを提供する場合,企業は,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションを特に積極的に行うべきである。例えば,消費者の促進焦点度が,快楽的価値の高い製品やサービスを選択する際に高くなるということを踏まえると(Das, 2015),そうした製品やサービスを国際市場で提供する企業は,自社Webサイトを現地の文化に適応させる努力を積極的に行うべきだろう。

2. 限界と課題

本研究は,次の3つの限界を抱えており,それゆえに,今後の研究に課題を残している。第1に,本研究は,内容分析を行う対象のWebサイトとして,企業紹介のWebサイトを選定した。しかしながら,本研究の仮説は,ショッピングサイトやクチコミサイトにも適用可能かもしれない。今後の研究には,そうしたサイトを分析対象として設定し,再分析を行うことによって,本研究の外部妥当性を高めることが望まれる。

第2に,本研究は,文化的カスタマイゼーションが,Webサイトの全体的な評価に及ぼす影響を検討しなかった。本研究が従属変数として設定したのは,情報取得の容易性およびナビゲーションの容易性であり,これら2つの変数は,Webサイトの使用感の優劣を判断するための重要な指標であると考えられてきた(Zhang et al., 2000)。しかしながら,その他の指標として,Webサイトに対する態度や,Webサイトを他者に推奨する意図などが挙げられるだろう。今後の研究には,そうした評価指標に対して,文化的カスタマイゼーションが及ぼす影響を分析することが望まれる。

第3に,本研究は,既存研究(e.g., Chao et al., 2012; Singh & Matsuo, 2004; Singh et al., 2009)に倣って,文化の次元として4つの次元,すなわち,個人主義,権力格差,不確実性回避,および男性性に着目した一方で,5つ目の次元である長期志向(Hofstede, 2001),および6つ目の次元である放縦(Hofstede et al., 2010)に着目しなかった。長期志向および放縦は,比較的新しく開発された次元であるため,これらの次元がWebサイトにおいて反映されている度合いを測定する方法は未だに開発されていない。今後の研究には,Webサイトにおける長期志向および放縦を測定する方法を開発したうえで,文化的カスタマイゼーションの有効性を検討することが望まれる。

謝辞

本稿の執筆にあたりまして,慶應義塾大学の小野晃典先生には,数多くの貴重なご助言を賜りました。ここに記して,心から感謝申し上げます。なお,本研究は,JSPS科研費JP18K12883の助成を受けた研究成果の一部である。

1)  したがって,本研究では,予防焦点とWebサイトにおける文化的カスタマイゼーションの交互効果について,仮説には含めないこととした。ただし,分析においては,予防焦点を統制変数として加えている。

菊盛 真衣(きくもり まい)

立命館大学経営学部准教授。2011年 慶應義塾大学商学部卒業。同大学商学研究科修士課程・博士課程修了。博士(商学)。東洋大学経営学部助教を経て,2017年より現職。専攻は,消費者行動論・マーケティング論。

石井 隆太(いしい りゅうた)

福井県立大学経済学部助教。2015年 慶應義塾大学商学部卒業。同大学商学研究科修士課程修了・博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て,2019年より現職。専攻は,流通論・国際マーケティング論。

References
 
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