Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
Review Article / Invited Peer-Reviewed Article
Perspectives Required for Customer Engagement Marketing:
Customer-Owned Resources and the Object of Engagement
Tetsuya Aoki
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2020 Volume 40 Issue 1 Pages 79-84

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Abstract

口コミや新規顧客紹介,開発支援,他の顧客支援といった購買以外の部分で行われる顧客の企業に対する貢献行動である顧客エンゲージメントを管理する方法についての関心は,実務的にも理論的にも高まっている。しかし先行研究において,顧客エンゲージメントの定義や,その管理法については統一的な知見が示されていない。本研究では第一に,行動側面から顧客エンゲージメントを定義することが理論的にも実務的にも有効であることを示唆する。第二に,(1)顧客がエンゲージメントする際に活用する資源と,(2)顧客がエンゲージメントする対象という視座を導入することによって,先行研究で複数指摘されている顧客エンゲージメントの最適な管理法の整理を試みる。

Translated Abstract

Interest in how to manage customer engagement is growing, from both the practical and theoretical perspectives. Despite this high interest, previous studies have not provided a unified view of how customer engagement is defined. Therefore, first of all, this study clarifies the definition of customer engagement. Because the distinction from other concepts becomes clear and management becomes easier, it is effective to define customer engagement from a behavioral perspective. Thus, this study defines customer engagement as the customer’s contribution to the firm, going beyond purchase, i.e., word-of-mouth, new customer referrals, product innovation, and customer support. Just as the definition of customer engagement is not clear, previous studies have suggested various ways to manage customer engagement. Therefore, in order to organize knowledge regarding managing customer engagement, this study introduces two new perspectives. One perspective is what kind of resources are used when customers engage. The other perspective is who is the object of engagement.

I. はじめに

情報通信技術とソーシャル・ネットワーキング・サービスの発展により,顧客の企業に及ぼす影響が増大している。口コミやブログでの情報発信,オンライン上で企業や製品に評価を与える行為が代表例である。近年では企業が,これらの顧客行動をもとに製品開発や顧客獲得に取り組んでいる。これまで企業内のマーケターが担ってきた役割を顧客が代替し,いわば疑似マーケターとして機能しているのである(Kozinets, de Valck, Wojnicki, & Wilner, 2010)。こうした購買以外の部分で行われる顧客の企業に対する貢献行動は,顧客エンゲージメント(CE)と呼ばれる(Harmeling, Moffett, Arnold, & Carlson, 2017; van Doorn et al., 2010)。

CEの重要性が実務の現場で高まることと同時に,アカデミアでもCEに対する関心は高まっている。たとえば2007年以降,ジャーナルでCEが取り上げられる回数が急増している(Harmeling et al., 2017)。しかし,CEの定義やCEを有効に管理する方法については研究によって様々であり,統一見解が存在していない。

本研究では,これまでの研究を概観し,CEを特に行動の側面から定義することで,有効な管理方法についての包括的な命題導出を試みる。この取り組みを通して,CEと類似概念の関係性,将来の研究方向性を示唆することが本研究の目的である。

II. 顧客エンゲージメント研究

CEの定義は大別すると三種類に分けられる。(1)顧客の心理プロセスに注目したもの,(2)顧客の心理状態に注目したもの,(3)顧客の行動に注目したものの三つである。一つ目の心理プロセスに注目した研究は,それまで別々に議論されてきた概念の因果関係を議論し,製品やサービスに満足した顧客が企業にコミットメント・関与するようになり,ロイヤリティを高めるという一連のプロセスをCEと定義した(Bowden, 2009)。プロセスに注目する研究は,企業と繰り返し相互作用することによって顧客が抱く心理状態にまでCEの定義が拡張されると,操作性や測定可能性の問題から減少した。

顧客の心理状態に注目した研究は,CEが,認知・感情・行動の三要素から構成されるものだと定義した(Brodie, Hollebeek, Jurić, & Ilić, 2011)。相互作用の結果生じた顧客の心理状態をCEと定義すると,CEの操作化や測定が容易になるという利点がある。こうした利点を鑑みて,多数の研究がCEを三要素から定義し,議論している(Hollebeek, 2011; Kumar & Pansari, 2016; Vivek, Beatty, & Morgan, 2012)。

三要素の中でも,企業に直接的に与える影響を議論するという意味で,顧客の認知や感情は考慮せず,顕在化した顧客行動に注目してCEを定義する研究がある(van Doorn et al., 2010; Verhoef, Reinartz, & Krafft, 2010)。測定や操作化の容易さ,実務的便益から,この研究群がCE研究において現在主流である。本研究でも,購買以外の部分で行われる顧客の企業に対する貢献行動をCEと定義して議論することとする1)。CEに相当する顧客の貢献行動とは,(1)開発支援,(2)口コミ,(3)新規顧客紹介,(4)他の顧客支援が挙げられる。開発支援とは,既存製品の使い心地やニーズといった情報を企業に提供し,新製品開発や製品改善に貢献する顧客行動のことである。他の顧客支援とは,製品の使い方を他の顧客に指導する行動等が相当する。

測定や操作化が容易になること以外にも,行動に注目してCEを定義することによってCEと,他の概念との区別が明確化するという利点もある。たとえば企業と顧客の関係性に注目する顧客関与(Consumer involvement)との区別を考えてみよう。顧客関与は,顧客個人が価値観や自己概念を基にして,特定企業やブランドに対して抱く関心の強さと定義される(Zaichkowsky, 1994)。CEを心理状態として定義すると顧客関与はCEに包含されることとなる。しかし,行動によってCEを定義すれば,顧客関与はCEの先行要因として解釈可能である。

顧客の心理状態に注目する他の近接概念として顧客コミットメントがある。顧客コミットメントは,顧客が特定企業やブランドとの関係性を維持するために支払ってもよいと考える努力量,関係維持に対する欲求の強さと定義される(Moorman, Deshpande, & Zaltman, 1993)。こちらもCEを行動によって定義すると,CEの先行要因と解釈可能である。

心理状態というよりも,行動に注目した近接概念としては,顧客ロイヤリティがある。顧客ロイヤリティは,顧客が長期に渡って継続購買する程度として定義される(Guest, 1944)。CEを購買以外の企業に対する貢献行動として定義すれば,顧客ロイヤリティはCEと独立の概念として解釈できる。ただし条件によってはCEが,顧客ロイヤリティの先行要因となる場合もある。口コミや他の顧客による支援行動が,ある顧客の再購買を促進する可能性が考えられるためである。

行動側面からCEを定義することで,概念的整理が進むと同時に,有効な管理方法についての研究も進展した。たとえばKumar(2018)は,CEの行動側面に注目することによって,新規顧客紹介能力を示す顧客紹介価値,顧客の口コミの影響力を示す顧客影響価値,顧客のフィードバック力を示す顧客知識価値を算出し,管理することを提唱した。以下では,顧客エンゲージメント・マーケティングとして議論されるCEの管理に関する研究を概観する。

III. 顧客エンゲージメント・マーケティング研究

顧客エンゲージメント・マーケティング(CEM)とは,CEを動機付け,必要な権限を与え,貢献量を測定する企業の意図的な努力である(Harmeling et al., 2017)。CEMは,顧客との関係づくり・維持を扱うリレーションシップ・マーケティング(RM)や,特定の製品を顧客に訴求するプロモーション・マーケティング(PM)の言い換えに過ぎない(Brodie et al., 2011)との批判もある。しかし,(1)最大化を試みる対象,(2)管理する範囲の二点から異なる概念と考えられる。PMが最大化を試みる対象は,個別顧客のある特定製品に対する購買意図である。RMが最大化を試みる対象は,PMに時間軸を加えたもので,個別顧客が将来にわたって特定企業の製品を購買する量である。これに対してCEMが最大化を試みる対象は,購買を超えた部分も含め,将来にわたり企業に対して特定顧客が貢献する分量である(Chung, Wedel, & Rust, 2016)。

管理する範囲についてもCEMは特徴がある。PMとRMは考慮する時間軸が異なるとはいえ,ある特定顧客と企業の関係性に注目して管理を議論している。これに対してCEMは,企業と特定顧客,これに加えて他の顧客の相互作用まで含めた関係の管理を議論している(Brodie, Fehrer, Jaakkola, & Conduit, 2019)。

このようなCEMが持つ特徴を踏まえると,CEMはPMやRMと類似の概念とは捉えにくい。むしろ,Co-creation(共創)研究や,レファレル研究,WOM研究,顧客相互支援研究といった個別に議論されてきたCEを管理する手法についての知見を統合した結果,議論する必要のある概念である。たとえば,CEとして挙げられる顧客による開発支援は,企業と顧客の共創と解釈可能である。これと同様に,新規顧客紹介はレファレルであるし,口コミはWOM,他顧客支援は,顧客相互支援研究が議論する内容である。以下では各研究を簡単に概観し,その後,それぞれの知見の統合を図り,CEを管理する上で一般化可能な命題の導出を試みる。

1. Co-creation研究

顧客が積極的に新製品開発に関与し,どのような要素を製品として提供すべきか企業に対して示唆を与えることを共創と呼ぶ(O’Hern & Rindfleisch, 2010)。企業は共創を通して顧客ニーズにあった製品を安価で開発することが可能となるとともに,開発に参画した顧客の購買意欲を高めることができる(Fuchs, Prandelli, & Schreier, 2010)。

共創に顧客を従事させるため,企業は二つの手法を活用できる。一つ目は,金銭によって動機付ける方法である。企業の新製品開発に協力した顧客に対して報酬支払いすることにより,顧客の貢献意欲が高まると考えられる(Hoyer, Chandy, Dorotic, Krafft, & Singh, 2010)。二つ目は,企業に対して貢献した顧客に対し,社会的な報酬支払いをすることによって動機付ける方法である(Nambisan & Baron, 2007)。有益な改善提案や新製品のアイデアを提供した顧客をWebページ上で顕彰することが具体例である。

2. レファレル研究

レファレル(referral)とは,新規顧客が既存顧客によって動機付けられ結果,取引を開始した事象のことを指す(Kumar, 2018)。レファレルによって獲得された顧客は,貢献利益が大きく長期にわたって顧客であり続ける可能性が高いことから(Schmitt, Skiera, & Van den Bulte, 2011),企業にとって効果的な管理方法を検討すべき対象だといえる。

Biyalogorsky, Gerstner, and Libai(2001)は,新規顧客紹介した既存顧客に対して,高品質の製品を提供するか,値引きをする,あるいは報奨金を与えることがレファレル意欲向上に有効であると指摘している。これに対して,紹介者にのみ報酬を与えるより被紹介者にも報酬を支払うことで,より紹介意欲を高めることができ,金銭的な報酬よりも,非金銭的な報酬の方が有効だと指摘する研究もある(Verlegh, Ryu, Tuk, & Feick, 2013)。

3. WOM研究

消費者間で共有される,ある製品やサービスについての意見や,利用経験の表明が口コミ(WOM)であり,特にこれがインターネット上で行われた場合には,eWOMと呼ばれる(Hennig-Thurau, Gwinner, Walsh, & Gremler, 2004)。企業が発信した情報よりも信頼されやすいことから,WOMの内容は顧客に受容されやすい(De Vries, Gensler, & Leeflang, 2012)。これを踏まえると,企業にとってWOMを効果的に管理することは重要である。Hennig-Thurau et al.(2004)によれば,顧客がWOMに従事する動機は,社会的相互作用・経済的誘因・利他精神・自尊心の向上の四つに分類できる。したがって企業は,顧客をWOMする動機ごとに切り分け,それぞれにあった誘因を提供することが求められる。

4. 顧客相互支援研究

顧客は顧客コミュニティにおいて,技術的,あるいは感情的な支援を他の顧客に提供することが可能であり,この支援行動は,支援を受けた顧客の購買や,口コミ,別の顧客に対する支援行動を促進する(Rosenbaum & Massiah, 2007)。

Verleye, Gemmel, and Rangarajan(2014)の老人ホーム利用者同士の相互扶助を対象とした研究によれば,顧客の企業サービスについての知識・コミュニティに対する愛着の有無,顧客が企業が自身の要望に応えてくれるかの期待,企業が別の顧客に対して配慮しているかが支援行動を規定する要因である。したがって企業は顧客間の支援行動を活発化させるため,顧客を教育し,顧客同士がサポートしあえる場を設けることが必要である。

IV. 命題導出と今後の研究方向性

前節で概観したように,企業がCEを管理する方法は多様であり,示唆される有効な管理方法も必ずしも一致しない。しかし大別すると,企業が獲得可能なCEを最大化するためには,CEに対して金銭的な報酬を与える方法と,社会的な報酬を与える方法があるといえよう。異なる二種類の報酬をどのように使い分けることが望ましいのだろうか。企業の顧客対応が可視化されやすいオンライン環境においては,(1)CEする際に活用する資源と,(2)CEする対象によって有効な報酬種別が規定されると予想される。

顧客は,CEに際して自身の保有する資源を活用することとなり,その多寡によってCEが企業業績に及ぼす影響も変動する(Harmeling et al., 2017)。この資源とは,(1)ネットワーク資源,(2)説得資源,(3)知識蓄積,(4)創造性の四つである。この活用する資源の種類に応じて適切な報酬も変化すると考えられる。

ネットワーク資源及び説得資源は,当該顧客と他の顧客との関係性や信頼によって価値が生まれる資源である。したがって,当該顧客のCEが企業からの金銭的報酬に動機付けられたものであると他の顧客が知覚した場合,資源価値が低減する可能性がある。これに加えて,他の顧客から金銭的報酬に基づいて行動したと知覚されることを予期した当該顧客が,CE意欲を低下させる恐れもある。したがって,WOMやレファレルといったネットワーク資源と信頼資源がCEに際して機能する場合には,社会的報酬の提示が有効だと予想される。これに対して,顧客相互支援や共創といった他者との関係によって価値が変動しない知識蓄積や創造性を活用したCEの場合には,金銭的な報酬が誘因として,より有効に機能すると考えられる。

P1:ネットワーク資源・説得資源を活用するCEの場合には,社会的な報酬を用いることが獲得CE増大に寄与する。

P2:知識蓄積・創造性を活用するCEの場合には,金銭的な報酬を用いることが獲得CE増大に寄与する。

CEの対象も有効な報酬種別に影響を及ぼす要因だと考えられる。CEの対象は,企業と他の顧客の二つが挙げられる。

企業を対象としたCEに企業が金銭的報酬を支払うことは,CEの受益者と報酬支払い者が一致することから,相互作用を観察した第三者の認知に悪影響を及ぼさないと考えられる。しかし他の顧客にCEした顧客に対して企業が金銭的報酬支払いする状況は,受益者と報酬支払い者が不一致となるため,CEを受けた顧客もCEした顧客も貢献意欲を低下させる可能性がある。したがって,CE対象と報酬支払い者が一致する共創やレファレルの場合には,金銭的報酬がより有効に,他の顧客がCE対象となる顧客相互支援やWOMにおいては社会的報酬がより有効に機能すると考えられる。

P3:企業を対象としたCEの場合には,金銭的な報酬を用いることが獲得CE増大に寄与する。

P4:他の顧客を対象としたCEの場合には,社会的な報酬を用いることが獲得CE増大に寄与する。

CE研究に対する関心が高まるにつれて,どのようにCEを管理するかについての関心も高まりつつある。しかし現状では,CEの管理法を研究すると標榜しつつも,実際には,各研究がある特定のCE行動にのみ着目して個別に議論を進めている。今後のCE管理研究においては,CEに必要な資源やCEの対象といった軸によってCEを分類すること,その上で,ある企業の特定施策がそれぞれのCEにどのような影響を及ぼすか,包括的に議論する必要があると思われる。

1)  顧客の貢献が自発的であるかどうかをCEの定義に含めるかについても議論の余地がある。貢献行動そのものに注目する研究では(Harmeling et al., 2017; Jaakkola & Alexander, 2014),行動の自発性も議論の焦点の一つであったと考えられる。しかし,貢献行動をマーケティングの対象として捉える研究では(Kumar & Pansari, 2016; van Doorn et al., 2010),経済的な動機づけを活用し,行動を促すことも正当化されるため,行動の自発性は議論の焦点から外れたと考えられる。本研究は,貢献行動の管理に注目することから自発性を定義に含めることはしなかった。

ただし,エンゲージメント行動をマネジメントの対象として捉える場合であっても行動の自発性については注意を払う必要がある。顧客の自発的なエンゲージメント行動と,企業のはたらきかけを受けて生じたエンゲージメント行動を比較すると,前者のほうが企業に高い利益をもたらす(Matos & Rossi, 2008)ためである。

青木 哲也(あおき てつや)

一橋大学商学部卒業,一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。

現在,一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程在籍。

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© 2020 The Author(s).
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