Japan Marketing Journal
Online ISSN : 2188-1669
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Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
The Effect of Secondary Market Options on Shopping Behavior in the Primary Market
Hikaru Yamamoto
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2020 Volume 40 Issue 2 Pages 29-41

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Abstract

フリマアプリなどの普及に伴い,一次流通の店頭でオンラインの二次流通市場の販売価格を調べてから購入する,二次流通市場での売却を念頭に置いて一次流通で購入する,といった新しい消費者の購買行動が広がりつつある。本研究では二次流通市場における売却価格や成約までの日数といった条件が,一次流通市場の購買にどのような影響を及ぼすか検討する。ジーンズとタブレットの二つの製品カテゴリに関する約1,600名の調査回答者に対してコンジョイント分析を行った結果,一次流通市場における選択においては一次流通価格や所有製品との適合の度合いが依然として重要ではあるものの,二次流通市場において価格が下落しないことは消費者の効用を高め, 当該商品が選択される可能性が高まることが明らかになった。また,フリマアプリの利用状況によって属性の部分効用値が異なり,フリマアプリの売り手は一次流通市場において価格感度が低く,二次流通市場における条件に相対的に強く反応することが明らかになった。本研究の結果は二次流通価格に占める一次流通価格の割合の上昇は,一次流通市場における支払意思額を押し上げる効果があることを示唆している。

Translated Abstract

Due to the emergence of online flea market apps, consumers have begun to shop in retail shops with the intention of reselling in the future. In this paper, the author examines the effect of secondary market options on the shopping behavior in the primary market. More specifically, the paper examined the attractiveness of resale conditions, such as resale price and duration until settlement, at the secondary market using conjoint analysis. The analysis results indicate that although price and product attributes are important in decision-making at the primary market, the conditions at the secondary market also have positive utility. Moreover, the sellers on the online flea market app have relatively low price sensitivity at the primary market, and marginal willingness-to-pay of the conditions in the secondary market is higher compared with other user segments. The presence of a secondary market has the potential to raise consumer’s willingness-to-pay at the primary market.

I. はじめに

フリマアプリやオークションサイトの成長により,消費者は一次流通市場で購入した商品を二次流通市場に出品することが容易になった。Euromonitor社の調査によると,米国の消費者の53%が年に1回以上中古品を購入し,43%が年に1回以上中古品を出品するという(Honma, 2019)。我が国に目を向けるとフリマアプリ市場は2012年に登場し,2018年現在で6,392億円(前年4,835億円,前年比32.2%増)の規模を誇るまでに成長した(METI, 2019)。フリマアプリの普及は消費者の中古品への抵抗を低減し,従来型の実店舗を含めた中古品市場全体を活性化している(Nikkei, 2019)。

フリマアプリやオークションサイトにおいて,消費者は売り手にも買い手にもなり得る。売り手としての消費者は,不要になったものを簡単に他者に売却することができる。また,買い手としての消費者は,欲しい商品がある場合,検索エンジンやフリマアプリ上で検索を行い,欲しいモノをもっとも有利な条件で,買いたい店や相手から購入することが可能となった。つまり,スマートフォンを用いて情報武装した消費者は,二次流通市場における価格や使用後の売却可能性を把握したうえで,一次流通市場での購入を検討するような行動を行うことが可能なのである。Nissanoff(2006)はtemporary ownership(一時的所有)という概念を提唱し,「情報武装した消費者は,次に買うハンドバッグを来年eBayにおいていくらで売れるかを基準に選ぶようになるだろう。それ(一次流通市場における商品の価格)は,売るまでの間の実質の費用としていくらかかるかということに対応する」と述べている。

こうした短期的な所有行動はBardhi and Eckhardt(2017)が「リキッド消費」と「ソリッド消費」という概念を用いて理論的に検討している。リキッド消費は儚く,アクセス・ベースであり,脱物質的である。ソリッド消費は永続的であり,所有権を前提とし,物質主義的である。オンラインの二次流通市場で売買を行う消費者は,一時的に使用や消費をした後は,その商品に価値を見出す別の消費者に売却する。こうした消費行動は,所有が一時的であり,所有期間が短い(Bardhiらの表現を借りると「儚い」)。また,アクセス・ベースとは,製品・サービスを必要な時に,必要な分だけアクセスする行動である。フリマアプリ上での消費者間の売買は所有権の移転を伴うものの,オンライン上の巨大なクローゼットや図書館に,人々がアクセスしていると考えることもできる。また,こうした消費者が多くのものを所有せず,所有よりも循環に意義を見出しているという意味では極めて「リキッド消費」的と位置付けることができる。

消費者の中古品売買の増加による二次流通市場の成長は,新品市場に影響を及ぼすと考えられる。そして,その影響は,負の影響と正の影響の両方が発生し得る。たとえば,ファッション業界の最大の脅威は,中古市場であるという指摘がある(O’Flaherty, 2019)。一方,METI(2019)ではメーカーやブランドレベルではフリマアプリから負の影響を受けている可能性があるとしながらも,フリマアプリは一次流通市場と競合するというよりも,刺激する存在であるとしている。もしある商品が本人の使用後に二次流通市場で売却できるのであれば,消費者が支払う事実上の価格は,一次流通の販売価格より低い可能性がある。もしそうであれば,二次流通市場の存在は一次流通市場における消費者の購買に正の影響を及ぼす。また,二次流通の価格は,一般的に一次流通市場の価格より低い。このため,試し買いの場として二次流通市場を活用し,気に入った場合に新品を一次流通市場で購入するという購買行動が出現する可能性もある。

二次流通市場の存在は,一次流通市場における購買に,実際にどのような影響を与えるのだろうか。本研究では成長する二次流通市場の中でもフリマアプリに焦点を当て,二次流通市場での売却条件が,一次流通市場の購買および支払意思額(willingness-to-pay,以下WTP)にどのような影響を及ぼすのかを検討する。具体的には約1,600名の回答者に対してコンジョイント分析を実施し,二次流通市場での売却価格や売却までの日数が,一次流通における商品選択や支払意思額にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。

II. 先行研究

1. 一次流通市場と二次流通市場の関係

二次流通市場の存在が一次流通市場に及ぼす影響を扱った研究は,住宅や自動車など,中古市場が存在し,成熟しているカテゴリを対象に蓄積されてきた(Chen, Esteban, & Shum, 2013; Desai & Purohit, 1998)。例えばChen et al.(2013)は,米国における中古自動車市場を分析し,中古市場の存在は新車を販売する自動車メーカーの利益を35%低下させるという結果となった。耐久消費財を対象とした先行研究の結論の多くは,中古品は新品と代替関係にあり,二次流通市場は一次流通市場にとって悪影響である,というものであった。

耐久消費財ではなく,デジタルコンテンツを対象に二次流通市場の影響を扱った研究としては,Hennig-Thurau, Henning, and Sattler(2007)がある。本研究では映画の違法コピーのファイル共有サービスを二次流通,劇場公開,DVD購入およびレンタルを一次流通として位置づけ,ReLogit回帰分析を行っている。ドイツ市場を対象にした彼らの分析結果によると,映画の違法コピーのファイル共有は,映画の一次流通市場である劇場公開,DVDレンタル,DVD購入と共食い関係にあり,年間3億ドルの損失が発生しているという。

一方,健全な二次流通市場は,一次流通市場に正の効果があることを示した研究がある。Lewis, Wang, and Wu(2019)は米国大リーグのシーズンチケットの購買データを用いて,二次流通市場の存在が一次流通市場に及ぼす影響を調べている。従来,シーズンチケットの購入者は,チケットを自ら利用して試合を観戦するか,チケットを無駄にするかのどちらかの選択を迫られていた。二次流通市場は,購入者に自らが使用できない場合に他者に売却するという新たな選択肢を提供し,シーズンチケットの購入を後押しすると考えられる。Lewisらの分析の結果,二次流通市場の存在は,シーズンチケットの購入確率を4.27%押し上げ,シーズンチケットの売上を1シーズンあたり100万ドル増加させることが明らかになった。また,個人レベルでは,顧客生涯価値が約1,300ドルから2,500ドル増加した。これは,二次流通市場の存在のためにチケットの機会損失が低下し,顧客の離脱を防止できるためと考えられる。チケットはシーズンチケットと1試合の単独チケットの二種類に大別される。二次流通市場の存在はシーズンチケットの購買には正の効果がある反面,1試合の単独チケットとは競合するため,単独チケットの売上には負の効果があることが確認された。こうした正負の効果を相殺した後の総合効果は6年間でプラス約600万ドルとなったという。

二次流通市場で販売される中古品が,一次流通市場で販売される新品とどれくらい競合するかは,価格の交叉弾力性によって確認することができる。Ishihara and Ching(2019)は日本のビデオゲーム市場のデータを用いて,消費者のゲームの売買意思決定を動的構造モデリングで推定した。推定結果を用いて新品と中古品の価格の交叉弾力性を計算した結果,新品のリリース直後で中古品の在庫レベルが低い場合,交叉弾力性は低いことが明らかになった。しかし,時間の経過に伴い製品ライフサイクルの後期にシフトして中古品の在庫が積み上がると,交叉弾力性は高くなる。すなわち,ゲームのように新品と中古品でコンテンツの品質に差がない場合,時間の経過とともに中古品と新品は競合するようになるのである。

以上みてきたように,二次流通市場が一次流通市場に及ぼす影響は,両者の間に代替効果が存在する場合は負であるが,正の影響を及ぼす製品カテゴリや販売方法,タイミングが明らかになってきている。

2. 中古市場で売買する消費者

これまでは市場レベルで二次流通市場が一次流通に与える影響を扱った研究を概観してきた。ここからは中古市場に出品する消費者の心理的要因を扱った研究を概観する。特に,オンラインの二次流通市場が成長するにつれて,売ることを前提に買うという購買行動が顕在化してきた。こうした行動の背景にどのような要因があり,そのことがどのような影響を及ぼすかについて,研究が生まれつつある。

Chu and Liao(2007)はC2Cオークションを分析対象として,25名の消費者の131件の中古品の出品行動を分析している。なお,彼らの研究対象は転売目的で購入する転売のプロではなく,主に自ら利用・所有するために購入し,のちに売却する消費者である。Chuらによると,売ることを前提に購入する消費者は,所有するモノを将来売却することによって可処分所得が増加することを期待できるため,一次流通市場において購買意欲が高いという。また,二次流通市場において売ることを前提に一次流通市場で購入する消費者は,再販価格が高い製品を好み,二次流通市場において売れやすいものを好む傾向にある。さらに,新しい製品の試用意図が高く,製品の状態をきれいに保ち,パッケージや保証書を保管するという。また,一次流通市場における購入後は,継続的に自己所有する価値と再販価格を比較する。二次流通市場における再販価格が高いという知識は,将来中古品として出品するかどうかに関係なく,一次流通市場においての知覚価値や好意的態度に直接的に影響を及ぼすという。

Chu and Liao(2010)は内的再販参照価格(internal resale reference price, IRRP)と外部再販参照価格(external resale reference price, ERRP)という概念を提唱し,二次流通市場での売却可能性が一次流通市場における購買に与える影響を検討している。なお,IRRPとは消費者の主観的な見積りによる消費者が受け入れ可能な売却価格であり,ERRPとは市場情報に基づいた潜在的な二次流通市場における市場価格である。この論文ではOkada(2001)の所有製品の買い替え行動のモデルに二次流通市場での売却可能性を含め,モデルを拡張している。Chu and Liao(2010)の実験からは,(1)二次流通市場での売却可能性は,購買意思決定に影響を与える,(2)ERRPは一次流通市場における購買意図を高める,(3)ERRPの購買意図への影響には,二次流通市場における売却可能性の調整効果が存在する,といった結果が明らかになった。

消費者が二次流通市場で自らが所有するものを手放す際には,売却時に得られる経済的な利得や断捨離の満足感以外に,愛着のあるモノを手放す心理的負担も存在するはずである。所有するモノを手放す際の感情に着目した研究としては,Brough and Isaac(2012)がある。本研究では,所有者の愛着や,二次流通市場における買い手の購入意図が,出品価格に及ぼす影響を実験によって検証している。実験の結果,愛着のあるモノを適切な意図で使用する買い手に対しては,むしろ売り手の出品価格が低下することを明らかになった。

これらの先行研究からも明らかなように,中古品市場で所有するものを売却する消費者は,所有の効用と所有以外の選択肢(前述の先行研究の場合は二次流通市場における出品)から得られる効用とその行為に関連する費用を比較する。所有の効用と所有以外の選択肢の効用を比較した研究としては,シェアリングエコノミーの研究がある。例えばLamberton and Rose(2012)消費者はどのような場合に購買・所有し,どのような場合に部分所有や共同消費を行うのかについての理論的検討を行っている。関連して,オンラインの二次流通で購入する買い手側の動機としては,経済性(低価格,価格交渉の可能性など),利便性(買い物の生産性,使いやすさなど),イデオロギー(個性の確立,ノスタルジーなど)が確認されている(Padmavathy, Swapana, & Paul, 2019)。

3. 先行研究のまとめ

これまで先行研究を概観してきた。まず,二次流通市場が一次流通市場に及ぼす影響を扱った研究については,主に経済学の分野で研究が蓄積されてきた。自動車などの耐久財の場合,二次流通市場は一次流通市場に負の影響を及ぼすことが明らかになっている。ゲームや映画など,新品と中古品で品質の差が小さいカテゴリにおいても,時間軸によって異なるなど条件次第ではあるが,同様の傾向が見受けられる。ただし,スポーツのシーズンチケットの場合は,二次流通市場の存在は一次流通市場に正の効果をもたらしていた。シーズンチケットは他の商品が単品で購入されるのと異なり,年間の定期チケットとしてバンドリングされている。また,他の二次流通市場における商品は中古品,場合によっては新古品であったが,チケットの場合は二次流通市場においても未使用の新品であり,代替の度合いが異なるといった特徴があることは留意が必要である。

二次流通市場で売買する消費者に関する消費者レベルの研究においては,二次流通市場の存在は一次流通市場における購買を後押しするというものであった。これは,次のように考えることができる。ここで,Xは製品Aの価値,Yが一流通市場における製品Aの価格とする。そして,v(X)は製品Aを所有することの価値,v(Y)は現金を使わないことの価値,すなわち製品Aを購入しないことの価値と置くと,v(X)−v(Y)<0の場合に消費者は製品Aを購入しない。ここで,二次流通市場が存在したとして,v(Z)を二次流通市場における売却価格とすると,価値関数はv(X)−v(Y)+v(Z)となり,二次流通市場がない場合と比較して,この値が負となる可能性は論理的に低い。つまり,二次流通市場の存在は,購買における消費者の損失の可能性を下げるため,一次流通市場における購買のハードルを低下させ,購買を後押しするのである。

消費者の二次流通市場への出品行動に関する先行研究は実験や質的インタビューが中心であり,二次流通市場が一次流通市場の購買行動に及ぼす影響を統計的に検証していない。本研究ではコンジョイント分析を行うことによって,二次流通における売却条件の魅力度を部分効用値として明らかにしたい。コンジョイント分析は分析者が属性とその水準を選んで組み合わせることで,プロファイルと呼ばれる仮想的な製品・サービスを構成し,回答者にこれらを評価してもらうことによって,消費者の製品・サービスに対する好みがどのように構成されているかを理解することができる手法である。本稿においては,売却価格や成約までの日数といった二次流通市場における売却条件を仮想的に提示することによって,一次流通の購買シーンにおけるその重要性と魅力度を探る。また,本研究では近年広がりつつある「売ることを前提に買う消費者」の購買行動を明らかにすることを目的としている。そのため先行研究と同様に,転売目的の消費者ではなく,自分で利用することを主目的として購入する消費者を前提としてこの先の分析をすすめる。

III. リサーチデザイン

1. 本研究のアプローチ

本節では,本研究のリサーチデザインと分析方法について記述する。本研究においては,一次流通市場の購買における二次流通市場の影響は,具体的には,一次流通におけるWTPが二次流通市場における売却条件によってどのように変動するかを分析することによって把握する。なお,WTPとは,製品やサービスに対して消費者が喜んで支払う最大の金額のことであり,その測定方法については様々な試みが行われている(例えばKalish & Nelson, 1991; Nishimoto & Katsumata, 2018)。

本研究においては,WTPはコンジョイントデザインを用いて確認する。この確認方法では価格以外の属性をWTPと同時に回答者に対して提示するため,回答者は他の属性とのトレードオフを考慮しながら,好みの製品を選択するため,自由回答方式でWTPのみを確認する方法と比較してより現実的にWTPが測定することができる。コンジョイント分析では製品を属性の束ととらえ,製品の全体効用が各属性の部分効用の和とみなされる。本研究においてはコンジョイントデザインでしばしば用いられる製品のスペックや品質といった製品属性ではなく,「二次流通市場における売却条件」を属性とみなし,回答者の評価から一次流通市場で購入する商品が二次流通市場で後に売却できることの魅力度を明らかにする。

二次流通市場における条件がWTPに影響を及ぼすという考え方は,Chan, Kadiyali, and Park(2007)のオークションにおけるWTP分析の研究に依拠した。ChanらはPCのオークション取引を対象に,スペック情報などの製品属性とオークション市場の競争環境などの二次流通市場における状況の二つの要因がオークション参加者のWTPに影響を与えるという仮説を設定しWTPのモデル化を行った。本研究においてもこの考え方を踏襲し,一次流通市場における購買およびWTPは製品を自分で利用することの効用と,二次流通市場での売却条件に依存すると仮定した。

2. 測定対象と被験者

本研究では,ジーンズとタブレットの二つの製品カテゴリに関し,一次流通における購買について,消費者に対して調査を実施した。この二つの製品カテゴリを選定した理由は,性別,年齢に関わらず購買するものであること,フリマアプリ事業者への事前インタビューの結果,フリマアプリにおける出品件数が多いこと,価格帯がいくつかのセグメントに分かれているため,ある程度一時流通における価格を想定することが可能である点である。

二つの製品に関し,属性は一次流通市場における価格,二次流通市場における売却条件(二次流通市場における価格および成約までの日数),所有する製品とのフィットを設定した。所有製品とのフィットは,前述の製品を自ら使用することの効用v(X)として位置づけている。所有製品とのフィットの具体例としては,ジーンズの場合は所有するトップスや靴などとのコーディネイトの可能性が,タブレットの場合は所有する他の端末との互換性が挙げられる。本研究においては,たとえばタブレットの重量やバッテリーの持続時間といった製品属性自体の効用値に主眼を置いているわけではなく,二次流通市場における売り手としての効用v(Z)と,一次流通市場における購入者兼使用者としての効用v(X)に関心がある。また,所有製品とのフィットは,質感,デザインなどの製品属性が本来的に含有されているものと考えられる。こうした理由から,自ら利用することの効用v(X)は回答者の所有製品とのフィットとして測定する。

各属性の水準は,フリマアプリ事業者へのインタビューならびに主要な製品比較サイトおよびECサイトの価格情報を参考に,現実的と考えられる水準に設定した。属性と水準は表1および表2に示す。

表1

ジーンズの属性と水準

表2

タブレットの属性と水準

なお,ここでいう二次流通価格とは,二次流通市場における成約価格が,一次流通市場価格に占める割合を指す。たとえば一次流通価格が10,000円で,水準が50%の場合は,二次流通市場において5,000円で成約するという意味である。この割合が高いほど一次流通における購買に正の影響を及ぼすと考えられる。また,出品後の成約までの日数とは,二次流通市場において出品したのち,何日で成約するかを指す。二次流通市場の売り手にとっては,出品後の成約までの日数が短ければ短いほど魅力度が高い。大手フリマアプリでは,売れた商品の約半数が24時間以内に売れるという(Nishimura, 2016)。その事実は同社のテレビ広告においても訴求がなされており,二次流通市場の利用および一次流通における購買を促進するものと考えられる。

これらの属性と水準を用いて直交配置によって合計16のプロファイルを用意し,この16プロファイルに関し,回答者に1位から16位まで望ましい順に順位をつけてもらった。すなわち,本研究では完全プロファイル評定型を用いたコンジョイント分析を行う。

調査方法は,インターネット調査を用いた。調査会社のモニターに登録している全国の会員から,20歳から39歳の男女をフリマアプリの利用状況に応じて均等に抽出した。より具体的には,「あなたは直近6か月の間で,「フリマアプリ」を利用しましたか?利用と合わせてお答えください(メルカリ,ラクマ,PayPayフリマなど)」という質問に対し,「購入のみで利用した(N=412)」,「販売(出品)のみで利用した(N=412)」,「購入・販売(出品)両方で利用した(N=412)」,「これまで一度もフリマアプリを利用したことがない(N=412)」の4つのセグメントの回答を収集し,それぞれの傾向を調べた。

IV. 分析結果

1. データと記述統計

ここからは,取得した回答者データの分析結果を報告する。有効回答数は1,648件であり,うち55.2%が未婚者であった。また,年収は400万円から600万円未満の回答者が最も多く20.4%を占め,続いて200万円から400万円未満の回答者が18.6%存在していた。WTPには回答者個人の当該製品に対する選好や需要レベルが影響を及ぼすことが明らかになっている。そのため,回答者の対象製品に関するベースラインとなる需要レベルを確認するため,回答者の対象製品の所有状況およびWTPを自由回答で測定した。WTPの測定項目はHennig-Thurau et al.(2007)およびLamberton and Rose(2012)に依拠し,あなたは「新品のジーンズ(タブレット)」に対し,どの程度の金額までならば支払いたいと思いますか?」という質問を提示した。設問の提示順序は自由回答の支払意思額を先に提示し,その後でコンジョイントデザインのプロファイルを提示した。

自由回答で確認したジーンズとタブレットのWTPと所有状況は表3のとおりである。回答者はジーンズを平均3.81本所有し,WTPは8,577円であった。また,タブレットは平均0.63個所有し,WTPは27,461円であった。なお,最大値の回答者を異常値として除外することも検討したが,最大値に近い価格帯で売買される商品の存在が確認できたため,分析データに含めた。

表3

製品の所有状況とWTP

2. コンジョイント分析の推定結果

ここからは,コンジョイント分析の各要因水準の効用値の推定結果を記述する。推定について被験者に対して調査したプロファイルの選好順位を全体効用の代理変数とし,属性水準の有無を表す複数の説明変数で説明する重回帰分析を行った。偏回帰係数の推定値は各属性水準の部分効用の値である。

説明変数は実数値ではなく,水準の違いを表すカテゴリ変数である。各属性の最低水準はすべてゼロと置いた。属性kの水準iの部分効用を平均からの偏差で定義し,属性内の各水準の部分効用の総和をゼロとして分析している。上記のように,部分効用値はベースの水準をゼロとした場合の水準間の相対的な差を表す。結果の解釈を容易にするために,部分効用値の平均偏差化を行った。具体的には属性内の平均を求め,各部分効用値の差を求めた。平均偏差化された各属性の部分効用値の平均はゼロとなる。

効用値の推定にあたっては,前述の直近6か月のフリマアプリの利用状況に関する質問項目を用いて,購入のみで利用,販売のみで利用,購入と販売の両方で利用,非ユーザーの回答者に対し,利用状況のセグメント毎に個別に推定値を計算した。ジーンズおよびタブレットの部分効用の推定値は表4および表5のとおりである。なお,Pearson’s Rはプロファイルに関する回答者の評価値と,推定して得られた部分効用値をもとに算出した全体効用値との相関関係である。同様に,Kendall’s tauはプロファイルに関する回答者の選好の順位と推定値から求めた全体効用値の順位の順位相関である。

表4

ジーンズの部分効用の推定値

表5

タブレットの部分効用の推定値

推定結果から,ふたつのカテゴリのすべてのセグメントにおいて低価格であることの効用値が高いことが明らかになった。低価格であることの部分効用が高く,高価格(たとえばジーンズの場合は20,000円)の部分効用は非常に低いという傾向は,フリマアプリの非ユーザーにおいて最も強い(−1.327)。一方,フリマアプリを出品のみで利用する売り手は価格が高水準であっても,部分効用の低下は相対的に顕著ではなかった(−0.870)。

二次流通市場における売却価格の割合は,ジーンズでは50%,タブレットでは60%を超えると部分効用の推定値が正となった。ただし,その効果の大きさは一次流通価格や所有製品とのフィットと比較すると相対的に小さい。セグメント別の傾向としては,フリマアプリを出品のみで利用するユーザーは他のセグメントと比較して,二次流通市場における販売価格の割合が高いこと(ジーンズで70%,タブレットで80%)の部分効用値が高かった。また,ジーンズに関して,フリマアプリの非ユーザーは販売価格の割合が30%から50%になると大きく上昇するが,50%から70%に上昇しても反応しないという結果となった。二次流通市場における成約までの日数の部分効用の推定値は非常に小さく,一次流通における購買への影響は限定的という結果となった。

これまでみてきたとおり,二次流通市場における購買条件が一次流通市場への購買に及ぼす影響は,ユーザーがどのようにフリマアプリを利用しているかによって異なる。しかし,所有製品とのフィットの高さは,すべてのセグメントで一様に重要であることが明らかになった(ジーンズの場合は0.51~0.58,タブレットの場合は0.30~0.44)。ただし,フリマアプリを出品のみで利用するユーザーは,他のセグメントと比較するとこの属性の部分効用値が相対的に低い結果となった。商品を自ら利用することから得られる価値の部分効用値が高いことは,本調査の調査対象が,転売目的ではなく自らの利用を想定して購入する消費者であることからも自明である。

コンジョイント分析で推定された効用値は,その和である全体効用を計算することによって,製品選択のシミュレーションに活用することが可能である。分析で用いた属性水準の組み合わせで全体効用を計算し,全体効用の値で降順に並べ替えると,価格水準の低い組合せが最も全体効用が高く,価格水準の高い組合せが最も全体効用が低い結果となった。このことは,各属性水準の部分効用値からも妥当である。しかし,フリマアプリの売り手に着目すると,全体効用の順位は逆転する現象が起きた。たとえば,一次流通価格において5,000円で販売され,二次流通価格が一次流通価格の30%で,出品後に5日で成約する,高程度のフィットのジーンズの全体効用値は10.58であった。一方,10,000円で,二次流通価格が一次流通価格の50%で,出品後に3日で成約する,高程度のフィットのジーンズの全体効用の値は10.60であり,後者の方が選択される。同条件で,二次流通価格の割合を70%の場合の全体効用はさらに高くなる。つまり,自ら使用した後に,二次流通市場で売却するという選択肢を持つ消費者は,中古品を売却することから得られる売却益を考慮して製品を選択することができるのである。

3. 各属性水準の限界支払意思額

前述の例では二次流通価格の割合が30%から50%に上昇し,成約までの日数が5日から3日に短縮することによって,一次流通価格が二倍のジーンズが選択される結果となった。では,二次流通市場の条件が変化することによって,一次流通におけるWTPはどれくらい向上するのだろうか。このことを分析するために,本稿においてはまず回帰係数を計算した。先述のとおり,コンジョイント分析では各属性は名義尺度として分析したため,属性の線形回帰係数は計算されない。本稿ではコンジョイント分析によって得られた部分効用の推定値のデータに,最小二乗法によって線形の回帰直線を当てはめることによって回帰係数を求めた。表6は線形回帰によって計算された回帰係数の値である。一次流通価格の回帰係数は,一次流通市場における需要の価格弾力性と位置付けることができる。各セグメントの回帰係数を比較すると,フリマアプリの非ユーザーがもっとも大きく,出品のみでフリマアプリを利用しているユーザーが最も小さい。売り手としてフリマアプリを活用するセグメントは製品が不要になれば二次流通市場において売却するという選択肢をもっているため,一次流通市場の価格に敏感に反応しないと考えられる。また,二次流通価格が一次流通価格に占める割合の回帰係数については,フリマアプリを出品のみで利用しているユーザーが最も大きいという結果となったこともこれまでの議論と合致する。

表6

各属性の回帰係数

次に,各属性の限界支払意思額(Marginal willingness-to-pay,以下MWTP)について検討する。MWTPとはある属性の水準が一単位増加した時,その商品が選択される確率を維持したうえで,支払価格をいくら増加できるかを示す。MWTPは各属性の回帰係数を価格(本稿においては一次流通価格)の回帰係数で除すことによって計算することができる。ジーンズおよびタブレットのMWTPの計算結果を表7および表8に示す。

表7

ジーンズのMWTP

表8

タブレットのMWTP

たとえば一次流通市場においてジーンズを購入し,のちに二次流通市場で売却する事例を考える。二次流通価格が一次流通価格に占める割合が10%上昇する場合,一次流通におけるWTPは1,445円上昇する。つまり,二次流通市場で10%高く売れるならば,一次流通市場において約1,500円高額な製品を選択されることを意味する。この傾向はフリマアプリを出品のみで利用するユーザーにおいて特に顕著であり,一次流通市場におけるWTPが約2,000円上昇する結果となった。一方,フリマアプリの非ユーザーについては,この属性のMWTPは小さい。それは,非ユーザーが二次流通市場において売却益を得るという経験がないためであると考えられる。また,二次流通市場における成約日数は,WTPの上昇にほぼ貢献しないことが明らかになった。全ユーザーの計算結果によると,成約までの日数が1日延長しても,WTPは約10円しか低下しない。

所有する製品とのフィットのMWTPはジーンズのほうがタブレットより高い傾向となり,このことは,コーディネイトが重要であるアパレルのカテゴリ特性によるものと考えられる。

タブレットの場合,二次流通価格が一次流通価格に占める割合のMWTPは全体で1,554円であり,フリマアプリを出品のみで利用するユーザーにおいては2,429円という結果になった。出品のみで利用するユーザーのMWTPが相対的に高く,非ユーザーのMWTPが低い傾向はジーンズと同様である。

V. 議論

1. 本研究の貢献

本研究は,フリマアプリなどの新しいC2C取引のプラットフォームの台頭により,誰もが簡単に中古品を出品できる新しい現実をとらえ,二次流通市場の存在が一次流通における購買行動にどのような影響を与えるかを,コンジョイント分析を用いて検討した。分析の結果,一次流通市場における選択においては一次流通価格や所有製品とのフィットが依然として重要ではあるものの,二次流通市場において価格が下落しないことは消費者の効用を高め, 当該商品が選択される可能性が高まることが明らかになった。また,フリマアプリの利用状況によって属性の部分効用値が異なり,とくにフリマアプリを出品のみで利用するユーザーは一次流通市場において価格感度が低く,二次流通市場における取引条件に相対的に強く反応することが明らかになった。

二次流通市場の取引条件は,一次流通市場における価格や所有製品とのフィットと比較すると,相対的に重要度は低い。この結果は,Chan et al.(2007)において,二次流通市場の取引条件の推定値よりも,製品属性の推定値の方が大きかったことと同様である。現時点では,一次流通の購買においては,一次流通価格や所有製品とのフィットが重要であることには変わりない。しかし,フリマアプリを売り手として利用する消費者の間で,二次流通価格での条件に反応する新しい購買行動の兆しをとらえたことは,本研究の貢献といえる。

全体傾向としては一次流通市場において低価格であることの部分効用が高く,高価格の部分効用は非常に低いことが確認されたものの,その傾向はフリマアプリの利用状況に応じて異なることが明らかになったことも本研究の発見事項である。部分効用の値および価格感度の分析の結果,フリマアプリの売り手は,他のセグメントと比較すると一次流通市場において価格志向ではないという結果になった。二次流通価格のMWTPの分析からは,二次流通価格に占める一次流通価格の割合が10%上昇することによって,ジーンズでは約1,400円,タブレットでは約1,500円WTPを押し上げることが明らかになった。このことは一次流通市場で販売する企業にとって価値のある発見であると考えられる。

スマートフォンを用いて情報武装した消費者は,二次流通市場における価格や使用後の売却可能性を把握したうえで,一次流通市場での購入を検討する。家電量販店ではインターネット上の価格情報と比較した最安値を訴求する店も現れた。また,クチコミサイトの存在感を認識した化粧品メーカーは,クチコミサイトや雑誌の賞の受賞歴を店頭POPとして用いるようにもなった。フリマアプリは中古品売買のプラットフォ―ムであるが,出品された商品の閲覧は会員登録を行わなくても可能であるため,価格の確認にも使用される。本研究では,二次流通価格が一次流通価格に占める割合のMWTPを確認した。分析結果は二次流通で値崩れしない製品は,一次流通市場における顧客単価が向上することを示している。こうした現状を踏まえると,今後は二次流通価格を積極的に店頭の販売促進に取り入れる企業が登場するかもしれない。

2. 今後の研究課題

今後の研究課題としては,以下の点が挙げられる。一点目は,WTPの検証方法のバイアス,二点目は一次流通市場と二次流通市場の選択行動と価格におけるブランドの効果,三点目は二次流通市場の潜在的ユーザーの発見と利活用についての検証である。

まずは一点目についてであるが,今回はコンジョイント分析を用いて多様な属性のひとつとしてWTPを検証している。直接的にWTPを確認するよりも,間接的に測定するこの手法の方が仮想バイアスは小さいが,依然として仮想バイアスの問題は残る。今後は,たとえば経済的なコミットメントを要求するようなリサーチデザインで,より精緻に二次流通市場の取引条件が一次流通市場の購買に及ぼす影響を検証するのが望ましい。

二点目は,ブランドの効果を踏まえた議論である。中古品市場において,人気度や価格の下落率はブランドによって異なる。本研究では二次流通価格が一次流通市場よりも低くなるという前提で水準を決定したが,実はブランドによっては,二次流通市場において一次流通価格よりも高い価格で取引されるものもある。こうした傾向は,生産量を絞ったアパレルのブランドや,入手困難な限定品において見受けられる。今回の調査では属性と水準の増加にともなう回答者の負担を考慮したためブランドを含めなかったが,今後はブランドの効果を含めた議論も必要となるであろう。二次流通市場が成長する中で,価格の下落率は一次流通で販売するブランドにとっては重要な課題になることが予想される。値崩れしないブランドとはどのようなものなのか,それはどのような要因によるのかについての議論は,今後の研究課題である。

三点目は,二次流通の潜在ユーザーの発見と利活用についてである。今回は1,648の回答者に対してコンジョイント調査を実施したが,各回答者に対して各水準の部分効用値が計算されている。今回はフリマアプリの利用状況に応じて買い手,売り手,両方,非ユーザーの4つのセグメントの違いに着目したが,各セグメント内にも消費者の異質性が存在する。フリマアプリの非ユーザーは全体傾向としては価格を重視し,二次流通市場における売却条件に対する反応は小さかったが,実は非ユーザーのなかでも二次流通市場の条件の効用値が高い回答者も存在する。彼らは二次流通市場の潜在的なターゲットであり,こうした消費者の動向を把握することは未来の消費行動の予測につながると考えられる。

山本 晶(やまもと ひかる)

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2001年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2004年同大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学大学院経済学研究科助手,成蹊大学経済学部専任講師および准教授を経て,2014年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。主にデジタル環境下における消費者行動の研究に従事。

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